英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

27 / 161
『死を奏でし者』

「すごいわね…」

 

何の気なしにエステルが呟く

 

そして全力で走っている彼女達の脇には、気絶しな がらも外傷のない情報部の兵士達が倒れていた

 

「…見た感じ、全員一撃で気絶させられてるね。そ れも、極力後遺症とかがないように」

 

「今はとにかく姫様を助けだすのが先決だ」

 

「それもそうね!」

 

エステル達は、より一層走るペースを上げた

 

――――――

 

「………」

 

「おらぁぁぁ!」

 

「…!!」

 

トン…

 

「……チッ、キリがないな」

 

「当たり前よ。国を相手してるようなものなんだか ら」

 

背中合わせになりながらティアが冷静に答える

 

「じゃあ何ですか?この国の兵士はゾンビかなんか ですか?」

 

「……どっちかと言うとキョンシーね。動き方とか そのものだもの」

 

そう。さっきから気絶させたはずの兵士が起き上が ってくるのだ

 

…しかもたまに白目むいて起き上がってくるのがい る。なんたるホラー映像

 

「こんな時シャルがいたら楽なんだがな…」

 

「あら、私じゃ不満?」

 

「ああ」

 

「………」

 

「ごめんなさい自分調子乗ってました。だから俺に 向かってホーリーランスだけは勘弁して下さい」

 

まぁふざける余裕があるだけマシだと思っておこう

 

「…それで、どうするの?

 

これは確実に“アイツ”の仕業よ?」

 

「わかってる」

 

だからこうやって話して時間稼ぎしてんじゃねぇか

 

…ただ、このままだと本当にマズい。“アイツ”がそ う簡単に姿を現すはずがないし、俺のフルパフォー マンスを出すのは…無理だ

 

「…とにかく、一点突破で離宮に入り込むしかない な。離宮に入れば目立つのを嫌うだろうから追って こないはずだ…多分」

 

「そこは言い切って欲しかったわ…」

 

うるせい

 

「さて…じゃあ、もう一踏ん張り?」

 

「行きますか!」

 

――――――

 

「それでエルベ離宮に着いた訳だけど…」

 

「敵が…一人もいない…」

 

エステル達が離宮に辿り着いた頃には、離宮はがら んどうになっており、人の気配すらなかった

 

「そりゃあ“白烏”が相手だからな。敵さんも必死な んだろうよ」

 

「ジンさんケイジの事知ってるの?」

 

「いんや、直接は知らんが、百日戦没の時に一緒に 人民避難誘導の依頼を受けた同僚が言ってたんだ。 何でも最初はただの少年救護兵だったんだとよ」

 

「へぇ~…でも何で“白烏”なのかな?」

 

「リベールの国鳥のシロハヤブサから来たんだと思 うよ…それより、そろそろ突入しよう。時間が無限 にある訳じゃないからね」

 

「そうね」

 

そうしてエステル達はエルベ離宮に突入していった

 

――――――

 

「ノクターナルライトッ!」

 

「――閃華!」

 

ケイジとティアが兵士に技を当てる。もちろんケイ ジは峰打ちだし、ティアも投げナイフではなく十字 架(相手は一応操られた魔の類のため)だ

 

「ティア!」

 

「わかってる!

 

――堅固たる護り手の調べ――!」

 

ティアの歌が辺りに響き渡る

 

「(…名前からもしかしたら、とは思ってたけど、 始めはまさか譜歌まで使えるとは思わなかったな… )」

 

「――フォースフィールド!!」

 

操られた兵士ごと周囲がガラスのような膜に覆われ る

 

すると、兵士達の影が生き物のように蠢き、兵士達 と同じ形をとった

 

「やっぱり“アイツ”か…」

 

「ええ、間違いないわ。…“影奏”よ」

 

「まぁいい。とにかく終わらせよう」

 

そうしてケイジは縮地で加速を始める

 

「――黄泉路に惑う罪人、我が剣を標にし、神の御 下へ還らん。彼岸の淵に散れ!」

 

次々と影のみを切り裂き、次第に立っている兵士が 少なくなってゆく

 

そして…

 

パキィィィン

 

「…曼珠沙華」

 

フォースフィールドの砕ける音と共に、ケイジとテ ィア以外の兵士は全て地に伏せた

 

…が

 

「…やっぱり囲まれますよね~」

 

「言ってる場合!?」

 

そこはしっかりと周囲を囲まれていた

 

「そろそろ観念したらどうだ?いくら白烏と言えど 、消耗した状態でこの数にはかなうまい」

 

自分達の絶対有利を確信したのか、輪から一人――おそらく隊長――が出てきて、降伏勧告をしてくる

 

「お前らさっきから数数言ってっけどよ…それしか 長所ないのか?」

 

「なんだと!?」

 

「火に油注いでどうするのよ!?」

 

「いや、すんげぇ単純に気になっただけなんだが… 」

 

天然の空気の読めなさの極致である

 

「もういい!やってしまえ!」

 

なんだかんだで兵士達が向かってくる

 

「……ティア?」

 

「無理」

 

「早くね?もうちょっと考えようぜ?」

 

「じっくり考えてたら死ぬわよ!!あなたこそ何か 無いの!?」

 

「え?無理無理。脚撃たれてから治ってないのに縮 地なんか使ったんだぜ?治療しなきゃもう微塵も動 かないって」

 

「もうなんか言いたいことは色々あるけど何でそん なに冷静なのよ!?」

 

そして二人に兵士の剣が襲いかかった瞬間

 

突然銃声が鳴り響き、兵士の剣が弾き飛ばされた

 

「「…は?」」

 

「はぁぁぁ!!」

 

と、思ったら鞭を持ったおば「(ギロッ)」…オネ エサンが兵士を吹き飛ばしていた

 

「…あんた達が親衛隊の人?」

 

「んあ?…ああ、そうッスけど。アンタは?」

 

「私はシェラザード・ハーヴェイ。遊撃士よ」

 

「あ~協力者…なら、しばらくここ任せてもいいッ スか?多分三分位したら殲滅しますんで」

 

そうケイジが頼むと、シェラは不思議そうな顔で頷 き、再び兵士達に向き合った

 

「ケイジ…三分ってまさか…」

 

「そ♪という訳で治療よろしく~」

 

「はぁ…わかったわ」

 

そしてその後、三分たつと、遊歩道に突如雷が落ち たという…


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。