英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『銀』

「カルバードで人喰い教団一斉逮捕…ですか?」

 

「うん。さっき家から連絡が入って来たんだけどさ 。な~んか妙だったらしいんだよね」

 

クローゼとシャルロットはあの一件以来学園で情報 収集に勤しんでいた

 

後々わかったことなのだが、リベールは西ゼムリア 大陸において有数の独立中立国家であり、そのせい かジェニス王立学園には目的が何であれ様々な国か ら生徒が集まってくる

 

しかも一部を除いて生徒は良いとこの坊ちゃんやお 嬢

 

…まさに、情報収集にうってつけの場所であった

 

「…妙、ですか?」

 

「うん。主導者らしき人の部屋に踏み入ったら何故 か“溶けない”氷しか無かったらしいし、協力してた 猟兵団は全員裏庭で縛られてたらしいんだけど…股 間を押さえて苦悶の表情で気絶してるか、全身トマ トまみれになって気絶してるかだったんだって。… 一部は幸せそうな顔してたらしいけど」

 

「あ、あはは… (シャルちゃん…?)」

 

「変な事もあるものなんだね… (多分…いや、絶対ケイジ達だと思う…)」

 

目と目で会話をすませる二人。いくらなんでもこの 短期間で息が合いすぎではなかろうか…?

 

「教えてくださってありがとうございます」

 

「いやいや~。役に立ったかな?」

 

「十分だよ~!ありがと~!」

 

「どう致しまして。じゃあまた何かあったら教える ね?」 そう言って女学生は去って行った

 

「にしても『溶けない氷』ね…」

 

氷は溶けて水になる。これは自然の摂理であって覆 しようの無い事実

 

アーツで作った氷だって、作って数十秒もすれば完 全に消えて無くなってしまう。だから氷系のアーツ は作ってすぐ敵にぶつけるか、相手を閉じ込めてす ぐに砕くしかできない

 

『溶けない氷』なんてあるわけが無い…自身もオー ブメントが水の固定スロットを持つためずっとそう だと確信していた

 

「そういう風にできるんだよ。ケイジは」

 

「…?どういうこと?」

 

「…ゴメン。こればっかりは詳しい事は言えないん だ」

 

「そう…」 めちゃくちゃ残念そうなクローゼを前に『ティアと か総長とかリースとかが後で怖いから』とは言えな くなったシャルロット

 

「で、でもね!?ケイジは『自然の摂理?んなもん 知ったこっちゃねぇよ。俺は俺の考え通りに動かす だけだ』って言ってたよ?」

 

「…?」

 

「大丈夫だよ。僕もワケわかんないから」

 

真っ赤なウソである。星杯騎士団であり、更にケイ ジ直属の従騎士のシャルロットが知らないはずがな い

 

「…まぁ、とにかくケイジが今までカルバードにい たってことはわかったし…カルバード以外の場所を 探せばよくなったわね」

 

「そだね~…カルバードにはしばらくは近寄らない と思うから…クロスベルも外していいね」

 

というかケイジは元々クロスベルには入りにくい。 某頑固爺によって

 

「じゃあ後は…レミフェリア公国か帝国…」

 

「後アルテリアとリベールだね…後帝国は外してい いと思うよ?」

 

「どうして?」

 

「『何っか…堅苦しい』って愚痴ってたから。そっ から『なるべく帝国で仕事受けないようにしよ…』 って言ってたし」

 

「………」

 

クローゼ、絶句。 それでいいのか星杯騎士団

 

「イインダヨ~!!」

 

「急にどうしたのシャルちゃん?」

 

「いや…何かやらなきゃいけない気がして…」

 

「まぁいいけど…一回ジル達のところに行って休憩 しようか」

 

「わ~い!!おやつおやつ~!!」

 

――――――

 

「ふぇ~…やっぱり飛行船だと鉄道とは速さが違い ますね~」

 

「まぁな…この技術があるから今のリベールがある ようなもんなんだ」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ」

 

飛行船の上ではしゃぐリーシャ

 

…こうして見ると本当に身長と性格・体型が合って ねぇな

 

「…何か失礼なコト考えてません?」

 

「ハッハッハ。ソンナアホナ」

 

やべぇ。本気で鋭い。流石は伝説の凶手(?)

 

「…全く」

 

リーシャは一度ため息をつく。心の中での考え事く らい自由にさせろよ…

 

…まだ心読まれないだけマシか

 

「…リベールってどんな国なんですか?」

 

「…リベールか?」

 

唐突にそう聞かれた

 

「はい」

 

「そうだな…簡単にいえば『調和の国』だな」

 

「調和?」

 

「ああ…女王は国民を愛し、国民は女王を敬愛して いる。軍は仕官制で強制なんざ一切していないのに 国の為にとどんどん集まってくる」

 

「へぇ…共和国とは真逆です…」

 

少し俯いて悲しそうな表情になるリーシャ

 

「…まぁな。あそこはお世辞にも一枚岩とは言えな いからな…汚職、裏工作、賄賂――

 

――暗殺」

 

「!!」

 

急にビクついて震え出す

 

「…私、いつも思ってたんです。何で“銀”なんか生 まれたのかって」

 

「………」

 

「“銀”なんて無ければもっとお父さんは長生き出来 たんじゃないか、“銀”なんて無ければもっとお父さ んは私に優しくしてくれたんじゃないか、“銀”なん て無ければ…って」

 

「…そうか」

 

「…でも、私は“銀”を継ぐ事を決めました。修行の 時だけ。その時だけでも父が一緒にいてくれたから

 

…でも、最期の時…父が死ぬ間際…私に言ったんです

 

『私を殺して“銀”を継げ』って」

 

「………」

 

驚きはしない。一度全てを視ているから

 

…視てしまったから

 

「…出来ませんでした。それまで父の言うことには 逆らったことがありませんでしたが…それだけは、 出来ませんでした…」

 

涙がリーシャの目から溢れ出す

 

「…泣き出す私を見て父はこう言ったんです

 

『それもまた、お前だ。

 

――お前の“銀”はお前が決めるがいい』

 

そして父が亡…くなり、私、は“銀”を継ぎ…まじだ… 」

 

とうとう本格的に泣き出してしまったリーシャ

 

…俺は視てしまった

 

だからこそ

 

「……あ…」

 

コイツの傷は、俺が癒やそう

 

俺はリーシャの頭を優しく撫でた

 

「全くよ…お前は“銀”に縛られすぎだ」

 

「………」

 

「…俺もさー、昔似たような事言われたことあるん だよ」

 

「!」

 

「…俺は百日戦没の時に少年看護兵として参加して てな…」

 

まぁ、アリシアさんに黙って行ったもんだから後で しこたま説教くらったけど

 

「…とは言っても兵と言うよりはただの医者みたい なもんだったけどな。 そこであるオッサンにこう言われた」

 

『運命が決まってる?もう命運は尽きた?コイツの 死は免れない? …馬鹿言っちゃいけねーよ。そんなもん誰が決めた 信じてたら女神が絶対に助けてくれんのか?ちげー だろ。んなもん待ってる暇があったらテメーで追い かけろや …別にどうしようと文句は言わねーよ。テメーの人 生だ。テメーの好きにすればいい

 

――テメーの運命はテメーで決めろ』」

 

「!!!」

 

一字一句残さずそのまま覚えてる

 

「多分だが…お前の親父さんが言いたかったのはそ ういうことじゃねぇのか?」

 

「……」

 

「だからよ…お前はお前でいいんだ。親父さんの幻影(あと)を追うのはやめろ。お前はお前のやりたいよう にやればいい」

 

「……いいんですか?」

 

「何がだ?」

 

「もう……人を殺さなくてもいいんですか?」

 

「!…何でそんな事を俺に聞く?」

 

「え?」

 

「言っただろ?…お前の好きにすればいい」

 

「………っ!」

 

それからしばらく、リーシャは静かに涙を流し続け た

 

その日、少女は『銀』から『リーシャ』になった

 

~おまけ~

 

「………むむっ!?」

 

突然シャルロットのアホ毛がピンと立った

 

「どうしたのシャルちゃん?」

 

「ん~…何かケイジが近くに来た気がする」

 

「………え?」

 

「あ、勘だからね?」

 

「わかってるけど…確かに何かこう…言い表せない 不快な感じはあるし」

 

「(ただ…シャルちゃんのアホ毛がどうやって直立 してるのかが…すごく気になる…)」

 

ちなみに、シャルロットのアホ毛が立った時は、ち ょうどケイジがグランセル空港に降り立った瞬間だ ったそうな…


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