英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『夢幻の如く』

「…ぐっ」

 

「…その技?も相当の負担がかかるみたいだな。満 身創痍のお前に勝ち目があるとは思わねーが…」

 

「うるさい…来ないならこっちから行くぞ!!」

 

「おっと」

 

須佐能乎の右手でリーブを潰すように攻撃するが、 あっさり避けられる

 

…今の俺に、アイツの挑発に乗れる余裕なんて無い

 

ただひたすら攻撃する。それ以外に俺に勝ち目は… ない

 

俺が須佐能乎の左手で薙払うと、周りの木々は吹き 飛んでいくものの、肝心のリーブには当たらない

 

「オイオイ…自然は大切にしろっての」

 

「うる…さい…!」

 

正拳、避けられる

 

手刀、避けられる

 

天照を込めた薙払い、氷で周りへの被害を防がれつ つ避けられる

 

そして…そんなことを繰り返して、三分が過ぎた頃 だった

 

フォッ…

 

「…!?」

 

突然、須佐能乎が消えた

 

いや、それだけじゃない。俺の両目から光が消えた

 

「!?…やっと気力が尽きたか!」

 

そこで恐らくリーブが好機と見たのだろう。気配が こっちに猛スピードで向かって来る

 

「ケイジさん!!」

 

同じように、リーシャらしき気配も俺の方に来るが 、いかんせんリーブよりも遅い

 

「終わりだぁぁぁぁ!!」

 

「イヤァァァァァァァ!!」

 

リーシャ…泣くなよ

 

…結局、シャルとはリベールで会わなかったな…テ ィアにも最後まで迷惑かけっぱなしだったし

 

……悪いな、クローゼ

 

そして抵抗する術の無い俺に、リーブが接触し、死 を覚悟したその瞬間

 

『仕方ないなぁ…今回だけは(わたし)がやってあげるよ』

 

そんな声が聞こえて、俺の意識は遠のいていった

 

――――――

 

sideリーブ

 

勝った

 

ケイジの周りにあった邪魔な骸骨が消えたと思った 瞬間に俺はそう直感した

 

骸骨が消えた瞬間、何故かケイジは目を閉じ、アイ ツ自身その事に動揺しているのが伝わってきた

 

それを見て、俺の全力で奴に接近する。奴に引っ付 いていた娘が慌ててこっちに向かってくるが、明ら かに俺の方が早い

 

…ようやく、ようやく俺の力がこの手に戻ってくる 。奴が勝手に(・・・・・)ケイジに与えた俺の力 が今、ようやく俺の手に…!

 

「終わりだぁぁぁぁ!!」

 

「イヤァァァァァァァ!!」

 

今までの思いを全てナイフに込めて、奴の首に突き 立てようとする

 

娘の悲鳴をBGMに、ケイジは血飛沫をあげて地面 に倒れ伏す

 

………はずだった

 

『祓ひ、清めよ』

 

俺がナイフを突き立てる寸前にそんな声がしたかと 思うと、いつの間にか俺の手からナイフが弾かれ、 俺自身は見えない何かに弾き飛ばされた

 

「…やれやれ、まさかまた逢うとは思いませんでし たよ。…リーブさん」

 

俺の目の前には、相も変わらずうっすら笑みを浮か べてアイツが立っていた

 

sideリーブ? end

 

――――――

 

「…ケイジ……さん?」

 

リーシャはかなり困惑していた

 

一時は、ケイジがリーブに殺されたように見え、大 粒の涙がリーシャの頬を流れたが、それも一瞬のこ と

 

ケイジのいた場所から透き通るような声が聞こえた かと思うと、リーブがナイフを弾かれ、更にリーブ 自身が吹き飛んでいた

 

そしてケイジが無事だと、安堵に包まれてケイジの 方を見たのだが…

 

「ん~…あはは、そりゃそうか。びっくりするよね ~」

 

「貴女誰ですか!?」

 

言っておくが誤字ではない。『貴方』ではなく『貴 女』だったのだ

 

ケイジのいた場所には、ケイジの背を縮めて髪を腰 より長いくらいまで伸ばし、スタイルと雰囲気を女 らしくしたような銀髪の美女が立っていた

 

「て言うかケイジさんは!?何で貴女こんな所にい るんですか!?て言うかケイジさんは!!?」

 

「ちょっと落ち着きなさい」

 

「ひゃわっ!?………~♪」

 

容姿がケイジに似ている所為か、頭を撫でるだけで リーシャに癒やしを与えてしまう…日頃の扱いとの アメとムチと言うのもあるだろうが

 

「~~~♪…っは!!にゃ、にゃにするんですか! ?」

 

「噛んだわね♪」

 

「うぐっ!…」

 

正論を言われて黙り込むリーシャ。結構自業自得で ある

 

「これだから胸のある女は……!」

 

「あら、胸なら簡単に大きくする方法がある「教え て下さいマイマスター!!」早っ!?」

 

瞬時に土下座の体勢をとるリーシャ…なんか泣けて くる光景である

 

「まぁ、いいや。じゃあ頭こっちに出して」

 

「?何を………っ!?」

 

リーシャの頭に何かの知識が流れ込む

 

「…この通りにすればいいんです?」

 

「そ♪…ああ、(わたし)はケイジであってケイジじゃない よ。そうだね…ウル、とでも呼んでくれると嬉しい な♪」

 

そう言って微笑むウルは、同性のリーシャが顔を赤 くするほど綺麗だった

 

「それと…そろそろ避難してくれないかな?」

 

「へっ?」

 

リーシャがポカンとしていると、ウルは手をリーシ ャの後ろにかざして、

 

『崩き、滅せむ』

 

パリン

 

「なっ!?」

 

「こういうこと♪」

 

リーシャが後ろを向くと、既に形はとどめてはいな いが、ナイフの残骸があった

 

「さっきので祓ったと思ったのになぁ…」

 

「そう簡単に……やられて、たまるか……!!」

 

茂みから姿を現したリーブは特に外傷は無いのに、 何故か疲弊していた

 

それを見て、すぐにその場から飛び退くリーシャ

 

…残念だが、リーシャはリーブには今は絶対に勝て ない。それを勝てると思い込むほどリーシャは馬鹿 ではなかった

 

「……前から思ってたけど、貴方…何?」

 

「何って…俺はリーブだ」

 

「嘘だね。確かにリーブと全く同じ容姿だけど、中 身が全く違う。昔のリーブもリーブじゃない何かが いた感じはあったけど今ほど気配は強くなかった」

 

リーブ?の言葉に即答で嘘だと返すウル

 

そしてそれを見たリーブ?は…

 

「………ククク…」

 

「………」

 

「流石だな。まさかこんなに早くバレるとは思わな かった」

 

「前置きはどうでもいいの。さっさと正体と目的を 話しなさい」

 

先程のリーシャに対する態度とは180°違う、冷徹と も言えるような態度でリーブと対峙するウル

 

おかしな動きをすれば、消す…ウルの目は、言外に そう語っていた

 

「怖い怖い、流石に二回も殺されたくはないな」

 

「…消されたいの?」

 

「おっと…仕方ないな。今は大人しく答えようか… 俺はお前と同じような存在だと言っておくよ」

 

「……!!」

 

「ああ、違う違う。あくまでも『ような』だ。アン タみたいに高位な存在じゃない」

 

「何の目的で…?」

 

「そうだな…面白そうだから。誰だって退屈は嫌だ ろう?」

 

リーブ…いや、リーブの形をした何かは怖気のする ような笑みを浮かべてウル達を見た

 

「…名前は」

 

「…フン、アガレスだ」

 

「アガレスだって!?」

 

アガレス。農耕の神にして悪魔の第2柱。さらに時 の神とも言われる大悪魔

 

農耕、それが表すのは乃ち水と土

 

「なるほど…あの無限に出てくるナイフは…」

 

「錬成に決まってんだろ?」

 

そう言うと、ウルは納得したような表情でアガレス を見る

 

「それはとにかく…リーブさんをどこへやった?貴 方の容姿がリーブさんである限り、貴方が憑依した のはリーブさんで間違いないはず」

 

「ああ、野郎か…ちょっと眠ってもらってるよ。眠 らせる前に俺の力をお前の主に譲渡しやがったがな 」

 

「それでケイジを…」

 

「当たり前だろ?俺の力だ。俺の元に戻すのが道理 だろ?」

 

確かに正論だ。だが、もしアガレスに元の力が戻れ ば…

 

ウルの額に冷や汗が流れる

 

…コイツは、ここで始末しなければならない。世界 の為にも、何よりケイジの為にも

 

決意をするウル。だが…

 

「おっと、時間だな」

 

「なっ!?」

 

アガレスの足元が突然光り始め、彼の姿が少しずつ 薄れ始める

 

「全く…この(おれ)が何の思惑も無く貴様と話すと思う たか?実に浅はかなことよ」

 

「…それが本当の話し方か」

 

「ふっ…また逢うこともあるであろう。せいぜい(おれ) の暇つぶしになるがいい。さらばだ…かつて失せし 虚を統べる識の(みかど)よ」

 

そう言葉を残して、アガレスは完全にその場から消 え去った

 

「………」

 

これは…本格的に力を貸すしか無いみたいだね。で も…ケイジが気付いてくれるかどうか…

 

そんな事を考えていたウルだが…

 

「ウルさん?」

 

リーシャが呼びかけた事で、我に帰る

 

…今は時間が無い、か。とにかく…

 

「…リーシャ」

 

「はい?」

 

「…ケイジをよろしくね?後、この事はケイジに秘 密にしておいて」

 

「はい?…って、え!?」

 

突然ウルが倒れ始め、その身体が地面についた時に は、元のケイジの姿に戻っていた

 

リーシャは、暫く有り得ない光景にポカンとしてい たが、すぐに気を持ち直し、倒れているケイジをロ レントへと運ぶのであった

 

 


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