英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『こころのせかい』

気がつくと、俺は一面真っ白な空間に倒れていた

 

「ここは…どこだ…?」

 

というか出来るだけ早く出たい。何時までもこんな 何もない白一色の空間に居ようもんなら間違いなく 気が狂う

 

『あ、気がついた?』

 

「ん?…のわっ!?」

 

声が聞こえたのでその方を見ると、すぐ側に俺とよ く似た女の人が立っていた

 

…近かった。驚いた

 

『のわって…反応がちょっと失礼じゃない?こんな 美女を前にして』

 

「うん、自分で自分のこと美女って言う馬鹿初めて 見た」

 

いるんだな~こういう馬鹿

 

『ヒドいよ~…』

 

わざとらしく地面に手をついてシクシクと泣き出す 馬鹿

 

「で?お前は誰でここはどこだ?俺はミストヴァル トにいたはずなんだが…」

 

(わたし)が泣いてるのはスルーなんだね…』

 

当たり前だ。その程度も見抜けないんじゃ一々任務 で騙されるし

 

『まぁいいか。ここは…説明難しいなぁ、簡単に言 うならキミの心の中だよ』

 

「………」

 

その説明を聞いた俺は、その女に哀れみの視線を向 けた

 

『ちょ!?何その視線!?すんごい不本意なんだけ ど!?』

 

可哀想に…その年で精神を病むとはな…

 

『止めてぇぇ!そんな哀れんだ目で(わたし)を見ないでぇ ぇぇぇぇ!!』

 

そう言って床をゴロゴロして悶える馬鹿。本当に哀 れな奴だ…

 

――――――

 

『ゼェ…ゼェ…』

 

ひとしきり悶絶した後、気を取り直したようで、息 を切らしながら立ち上がった

 

「大丈夫か?」

 

『何とか…というか大半はキミのせいなんだけど? 』

 

そう言ってジト目でこっちを見る

 

「そうだな…悪かった。初対面の人を勝手に可哀想 な人と決めつけるのはダメだったな…」

 

『何か急に優しくなった!?』

 

「本当にすまない。許してくれ」

 

そう言って俺は頭を下げる

 

『ちょっと止めて!?なんかわかんないけど泣きそ うになるから!ちょっとウルっときてるから!』

 

「いや、今回は本当に俺の過失だ。本当にすまなか った」 『だから止めて!?何で急にそんな優しくなるの! ?』

 

そんなの決まってる

 

俺が本当に悪いと思っているから

 

…ではなく、

 

「だってこういう時って優しくされた方が辛いだろ ?」

 

『やっぱりかァァァ!!』

 

当たり前だ。それ以外で俺がお前に優しくする理由 なんて無い

 

「ほら、よく言うだろ?アメとムチって」

 

『その優しさアメじゃないから!結果だけ言うとム チとムチだから!!』

 

「それに、謝ってるのこっちだから怒る方法も思い つかないだろうし」

 

そう言って顔だけあげてニヤリと笑みを浮かべる

 

『鬼だ!この人生粋のドSだ!!』

 

「人聞きの悪い。俺はただ、誰かを弄ってその反応 を見て楽しむのが大好きなだけのノーマルだ」

 

『それを世間ではドSって言うんだよ!!』

 

そう言ってちょっと涙目でこっちを見る馬鹿……う ん、ごちそうさまです

 

「…で?結局何の用?」

 

『ここで話元にもどすの!?』

 

だって話進まねーし。それに何よりそろそろ飽きて きたし…

 

それに、こっからは割と真面目な話だ

 

「わからない事が多すぎるんだよ。何故俺がここに いるのか、ここはどこなのか、お前は誰なのか」

 

そして…何故俺が死んでいないのか

 

「そんな状況でのんびりする程、俺は馬鹿じゃねぇ よ」

 

嘘は言っていない。現に気が付いて以来一度として 気は抜いていない

 

『それでも人は弄るんだね…』

 

それはそれ、これはこれ

 

それに、空気を俺主導にするっていう便利な役割も あるし……十中九は俺の個人的な楽しみだけど

 

『まぁいいや。とりあえず説明はするよ

 

まずさっきも言ったけど、此処はキミの心の中。キ ミがわかりやすいように言うと…心象世界ってやつ だね』

 

「心象世界?」

 

『そ。キミの心をキミ自身が現した世界。此処では 全ての支配権がキミにある』

 

「じゃあお前も俺が創り出したっていうのか?」

 

そうだったら嫌すぎる。心の中で女の子を創るとか どんだけ飢えてんだよ俺

 

『あはは、残念だけど違うよ。(わたし)(わたし)で確固とし た存在だから。…キミが死ぬと消えちゃうけどね』

 

「俺が死ぬと死ぬ?何その面倒くさい設定」

 

『設定じゃないよ!本当に消えちゃうから!

 

それと、(わたし)の名前は…言えないんだ。ゴメンね?』

 

そう言って本当に済まなさそうに謝る馬鹿

 

「そうか。じゃあ“ポチ”で」

 

『止めて!?』

 

割と必死に俺の手を握ってくる馬鹿…もといポチ

 

「仕方ねぇだろ。お前名前言わないんだから」

 

『それでもポチはヒドいよ!?というか言わないん じゃなくて言えないんだって!!』

 

「んな事ぁどうでもいい。次は何で俺が此処にいる かだ」

 

俺が次の説明を求めると、ポチは『理不尽だ…』と ぼやきながら説明を始める

 

『…何でキミは此処にいるのかだけど…キミは今た だ単に寝てるだけなんだよ』

 

「…ようするに、此処は夢の世界って訳か?」

 

『ちょっと違うよ。夢は見た瞬間に世界が固定され てるけど、此処はキミの心象世界。世界観を決める のもキミ自身だから』

 

へぇ~……………

 

『?急に黙ってどうしたの?』

 

不思議そうに俺を覗き込むポチ

 

「……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お手」

 

『わんっ♪…………って何すんのさーーーーーー!! ?』

 

おお、これは面白いな。本当に俺がルールらしい

 

「おかわり」

 

『ちょっ!?』

 

「伏せ」

 

『きゃうっ!?』

 

「ほれ捕ってこ~い」

 

『もう止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

それから数十分、俺はポチで遊んでいた

 

――――――

 

『うぅ…もうお嫁に行けない…汚された…』

 

「そうか。まぁそれはどうでもいいからさっさと続 きを話せ」

 

『キミホントにドSだね!?』

 

ポチが割とガチ泣きしてるが、その顔でそこらの男 引っ掛けてみろ。多分嫁入り先は引く手数多だ

 

『うぅ…だからキミは眠ってるだけなの。イザナギ だっけ?それで左目開かない状況で無理やり開けて あの黒い雷使ったでしょ?それとあの骸骨みたいな のも。それにキミの身体が耐えられなかったんだ。 (我がその状態で無理やり動かしたのもあるけど) 』

 

…なるほどな。ダメージがでかすぎて昏睡状態と

 

……ヤバくね?

 

「俺って無事なの?」

 

『今はロレントのホテルにいるけど?』

 

「いや、そうじゃなく」

 

『…ああ、大丈夫。もうすぐ目は覚める。此処での 事は覚えてるかどうかはわからないけどね…むしろ 忘れて欲しい』

 

「そうなのか?」

 

せっかくリーシャに匹敵するツッコミを見つけたと 思ったのに

 

『そろそろ時間だね…とにかく、出来るだけ早く(わたし) に気付いてね?』

 

「は?気付くも何も今目の前にいるだろうが」

 

そうじゃなくて、とポチは首を横に振る

 

(わたし)の名前。キミに気付いてもらわないと意味が無 いんだ』

 

気付く…?どういう事だ?普通名前って教えてもら って初めてわかるもんじゃないのか?

 

俺がしきりに首を捻っていると…

 

『その様子じゃまた暫く逢えないみたいだね…

 

忘れないで。(わたし)はいつもキミの中にいる。キミの側 にいる。それを受け入れるか拒絶するかはキミ次第 だよ』

 

…よくわからん

 

「…早い話、お前の名前を思い出せばいいんだな? 」

 

『思い出すんじゃなくて気付くんだよ?それがキミ 自身の力になるから…

 

早く気付いて。(わたし)の名前は―――』

 

そう言いかけた時に、俺は白の世界から弾き出され た

 

 


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