「………ここは?」
気が付くと、一面真っ黒だった
…あれ?何かつい最近同じような状況にあったよう な…デジャブ?
どうやらずっと寝ていたらしく、身体が重い…なん とか身体を起こしたが、依然として目の前は真っ暗 だ
さっき身体起こした時に下がベッドってことは確認 したから現実には違いないはずだが…
新月の深夜か?だったらこんなに暗いのも説明がつ く
俺はそう結論づけてゆっくりと伸びをする
ガチャ……パリン
ちょうどその時に、扉の開く音と、何かが割れる音 がした
勿論、光が無いのでそれが誰かわからない
「誰だ?」
「………」
返事なし。…困ったな…敵意も殺気も全く無いから 敵じゃねぇのはわかるんだが…いかんせん誰だかわ からない
「………」
「本当に誰「ケイジ……?」
「…クローゼ?」
「ケイジ……っ!!」
軽い衝撃とその反対側に何かが巻きついた感触…多 分、抱きつかれたんだろう
…よく寸分違わず俺の所まで来れたな。真っ暗だっ てのに
………抱きつかれた!?WHY!?←今更になって事 の重大さに気付いた人
落ち着け、俺。びぃくーるだ。
…よし、とりあえず状況を整理してみよう
俺、起きる→クローゼに見つかる→抱きつかれる
………何故に?関連性は何処?
つーかとにかく
「離せ」
「…嫌」
「…痛い」
「嫌」
「……クローゼ」
「嫌!!」
駄々っ子かお前は
「クローゼ…あまり我が儘言うな」
「嫌…」
俺の身体に負担がかからない程度に、かつ俺が引き 剥がせないくらいの絶妙な力で抱きつかれているの で、俺からはどうしようもない
「離したら、またどこかに行っちゃうでしょ…?」
「………」
「また、私を置いて、一人で危ない事して…今回み たいに大怪我して…」
…否定…出来ないな
「わかってるの!?ケイジ死にかけたのよ!?ロレ ントの教区長様がいなかったら死んでたんだよ!?
……お願いだから…お願いだから……もう、行かない で…
……私を、置いて行かないでよ……!!」
左の肩が冷たくなる
物音一つしない部屋に、ただ、クローゼの嗚咽が響 く
「………」
俺は、クローゼの言葉に答える事が出来なかった
――――――
「…落ち着いたか?」
「…うん」
そう言うものの、クローゼは一向に離れようとしな い。どんだけ俺信用無いんだ
「…少し、痩せたね」
「そうか?」
「うん…前はもうちょっとガッシリしてた気がする 」
「そうか…」
会話が続かない
……そういえば…
「お前こんな時間に何で俺の所に?」
「…………え?」
物凄い『何言ってんの』的な声音のクローゼ
「いや、今真っ暗だから深夜だろ?こんな時間に何 しに来たんだ?流石に寝ないと「ちょっと待って」 ……?」
やけに真剣に俺の言葉を遮る
そして…
「今……朝だよ…?」
クローゼの言葉に、俺がイザナギを重ねがけした事 を思い出した
…なるほど、そりゃ暗いはずだ。見えてないんだか ら
「……まさか…見えないの…?」
「大丈夫だ」
「嘘!見えてたら朝と夜を間違えるわけないもの! !」
「大丈夫だ」
「だったら私を見て!私の顔を見てよ!」
そう言われて、(多分)クローゼのいる方向に顔を 向ける
…が
「やっぱり見えてない…」
「………」
「やっぱり見えてないじゃない!見えてたら今のに 『見てる』って言い返したはずだもの!!」
ハメられた、気付いた時には、もう遅い
*ケイジは相当パニクってます
「何で…何で私の知らない所でいっつも無茶するの !?私はそんなに頼りない!?私はそんなに信用出 来ないの!?」
「…違ぇよ」
「ならどうして頼ってくれないの!?…もう、嫌… 勝手に私の側からいなくならないで…お願いだから …側にいてよ…
もう、ひとりは…いや…!!」
そう言って、力無く俺をすがりつくように抱き締め てくるクローゼ
…クローゼの本音を初めて聞いた気がするな
俺の脳裏に、何故かクローゼの両親の事故を聞いた 瞬間が蘇っていた
俺は、クローゼを引き離す事が出来なかった
――――――
「………」
リーシャはケイジの部屋の前で静かに立っていた
「…あれ?リーシャ?」
「エステルさん」
「何かあったの?さっきケイジの部屋から何か割れ る音が聞こえたけど…」
「ああ、ケイジさんの目が覚めたみたいです」
「ホント!?」
つい大きな声をあげてしまうエステルだが…
「しー……」
「あ…」
慌てて口を塞ぐエステル。なんとか間に合ったよう だ
「…クローゼ?」
「はい」
それでエステルは中に誰がいるのか理解したらしく 、リーシャに聞くと、そうだと答えが返ってきた
「…リーシャは入らなくていいの?ずっと心配して たんでしょ?」
「………」
そう、リーシャもクローゼと同じ、いや、もしかす るとクローゼ以上にケイジの側に付きっきりだった
「…今は、いいです」
「……本音は?」
「今すぐに部屋に入って飛びつきたいです」
「やっぱりね…」
今や自覚し、リーシャやクローゼと同じく恋する乙 女……(笑)のエステルには、リーシャの気持ちが よくわかった
だからこそ…何故部屋に入らないのかが疑問に思っ た
「だったら行ったらいいじゃない?うかうかしてる とクローゼにケイジ取られちゃうわよ?」
「それは…困りますけど…」
「だったら…」
「でも…」
そこでリーシャは、エステルの方を向いて微笑む
「私がクローゼさんと同じ立場だったら…きっと、 二人だけにしてほしいと思いますから…」
「(………乙女っ!!)」
エステルは、そんなリーシャにキュンときていた…
――――――
「ティータちゃん」
「?どうしたんですか?」
その日の朝食後、不意にクローゼがティータに話し かけた
「あ…そのトレー…」
「ええ、ケイジにね…それより、一つお願いしても いいかな?」
「あ、はい!いいですよ?」
ティータの了承を得ると、クローゼはティータの耳 元に近づいて…
「―――って…作れる?」
「?それってどんなのなんですか?」
「ええっと…―――――――って機能みたいだけど…」
そう言うと、ティータの目はキラキラ光り…
「面白そう!やります!いえ、やらせて下さい!! 」
「じゃあお願いね?」
「はい!任せて下さい!」