英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

64 / 161
『三者三様』

「…………!!」

 

「やぁ、起きたかい?」

 

「ここは…?」

 

クローゼが辺りを見渡すが、オリビエ以外誰もいな い

 

「ケイジ君の部屋だよ。いや、部屋だったと言うべ きかな」

 

「ケイジ……そうだ!?」

 

気絶する前の事を思い出し、飛び起きるクローゼだ が、オリビエに手を掴まれて止められる

 

「どこに行くつもりだい?もう深夜だ。不用意に外 に出るのは感心しないね」

 

「でも!」

 

「落ち着きたまえ」

 

いつになく真面目なオリビエに渋々従い、近くにあ った椅子に腰掛ける

 

「…どうして止めるんですか?こうしている内にも ケイジは…」

 

「…今からボースに行ってまだ間に合うと?ケイジ 君があの慢心君にそれほど時間を取られるとでも思 っているのかい?」

 

「………」

 

確かに、ケイジがその気であればそれこそ瞬殺でき るだろう

 

「…ケイジは、私の事が嫌いなのでしょうか…?」

 

「………」

 

「今思えば、ケイジはいつも私から一歩距離を置い ていた気がするんです… 城にいた時も、学園にいた時も…側にはいてくれた けどそれだけでした…」

 

ただ、目を閉じてクローゼの独白を聞くオリビエ。 そこに普段のようなおちゃらけた感じは無かった

 

「やっぱり…お祖母様に頼まれていたんですかね… ?

 

…そんな、形だけの優しさなら…初めから、私の側 にいなかったら良かったのに……!!」

 

クローゼの独白。今までの旅の中で一度も吐き出さ なかったその弱音が、ここに来てとうとう爆発した

 

「…それで、君はどうするんだい?」

 

「………」

 

「君がそう思うならケイジ君を諦めて別の人を探す のもいい。今まで通りケイジ君を追いかけるのもい い

 

……全てを踏まえて、君は今何をしたい?君の求め るものは何なんだい?」

 

涙を流すクローゼを真っ直ぐに見つけて問う

 

「…わたし、は…私は……

 

それでも、ケイジを追います…!!」

 

かすれた、けれど力強い声

 

「拒絶されるかもしれないのにかい?」

 

「それでも、私の心は変わりません。拒絶されるな ら、拒絶されなくなるまで側にいるだけです!」

 

それはそれで何か危ない感じのしたオリビエだが、 空気を読んだのか何も言わなかった

 

「フッ…なら、思う存分彼を追いかけるといい。生 半可な気持ちでは捕まらないと思うけどね?」

 

いつものように茶化し始めたオリビエ

 

「生半可だなんて誰にも言わせません。 …もう私の世界にはケイジがいないなんて考えられ ないんです…そんな事になった分の責任は取っても らいますよ」

 

そう言うと、涙を拭って決意の表情を見せるクロー ゼ

 

「(フッ…余計なお世話だったようだね…しかしケ イジ君、残念ながら彼女は君の思っていた以上に心 が強かったらしい。…覚悟しておいた方がいいかも しれないね?)」

 

「……だから今から行った所で間に合わないよ」

 

「………あう」

 

変な所でアホの子なクローゼであった…

 

――――――

 

「………」

 

リクは今“川蝉亭”の屋根の上で横になっていた

 

本来なら結社の拠点に自分も踏み込むつもりだった が、どうもそんな気にはなれず、結局エステルとケ ビン、シェラ、アガットに任せることになった

 

リクは起き上がって目を閉じ、昼間のケイジとの闘 い…いや、一方的な敗戦を思い出す

 

…投影した宝具は、ことごとく破壊された

 

…神に頼み込んでつけてもらった切り札のエアすら も、軽く返された

 

…自前の剣術―剣術と言っていいのかはわからない が―は勿論通じる所か防がせることすら叶わなかっ た

 

ケイジに負けた その事実だけはリクに重くのしかかる

 

体調が悪かった、油断した、たまたま運が良かった 、たまたま運が悪かった…

 

言い訳はいくらでもできるが、1対1で負けた挙げ 句、そんな言い訳で事実から逃れようとするほど、 リクは腐ってはいないし、弱くも無かった

 

「……『今のお前に力を力として奮う権利は無い』… 」

 

ケイジに言われた言葉。それこそが今リクの頭を悩 ませている最大の原因であり、頭痛の種であった

 

確かに、自分の弱さには腹が立ったが…

 

「(力を奮う権利…?何だ?何をすれば力って奮っ ていいことになるんだ?そもそも力って奮うのに権 利か何かが必要なのか?)」

 

考えれば考えるほどわからなくなる

 

ただ、負けた。その事実だけがリクの頭を駆け巡り 、力を奮う権利という問いの答えをわからなくして いた

 

「…あ~!!もう!!頭使うのは俺のキャラじゃね ーんだよ!!」

 

全てを投げ出して、再び屋根の上で横になるリク

 

「……その内、絶対にリベンジして俺の方が上だっ てことをわからせてやる…!」

 

リクの辞書に、“撤退”の二文字は存在しなかった

 

――――――

 

~メルカバ弐号機・後部テラス~

 

「…………」

 

カシュ

 

「……シャルか」

 

「どうしたの?作戦会議だってみんな待ってるよ? 」

 

「いや…」

 

言葉を濁すケイジを置いといてシャルがケイジの見 ていた方向を見る

 

それは…やはりというかリベールの方向だった

 

「…やっぱり心残り?」

 

「……んなもんねぇよ。自ら望んで、自分の意志で 騎士団(こっち)に来たんだ。

 

後悔も迷いも……全部振り切ったさ」

 

嘘だ

 

シャルは直感的にそう感じた

 

「振り切ったなら…何でそんなに悲しそうなの?」

 

「何のことだ?」

 

シャルはそう言うが、ケイジは完璧なポーカーフェ イスである

 

「わかんないけど…そんな気はするよ。それに振り 切ったならタルブさんにあんな条件ださないよね? 」

 

「タルブ?」

 

「封聖省のお偉いさん。あの太ってる人。総長がタ ルブ・タブーヒって名前だって教えてくれたんだ~ 」

 

「アイツの名前タルブって言うのか………と言うかそ の名前を付けた親の顔を見てみたい」

 

全くである

 

「話逸らさないでよ~…リベールに未練が無いなら 何であんな条件だしたのさ」

 

「………」

 

あんな条件……それはリベールに何かあれば逐一ケ イジに報告すると言う条件

 

「……いや、リベールと言うか……クローゼが気にか かってるよね?」

 

「………」

 

目を閉じて口を開かない。聞いてはいるようだが、 答えようとはしない

 

「…クローゼ、泣いてたよ。最近は数は減ってたけ ど…それでも三日に一回は夜に一人で泣いてた」

 

「………」

 

「…ねぇ、僕はよくわかんないけど立場ってそんな に大事なの?」

 

「…先に行くぞ。お前も早く来いよ」

 

逃げるように機内に戻るケイジ

 

「…全く、クローゼもケイジも意地っ張りで……

 

その分じゃ今はリーシャがクローゼよりリードして るのかな?」

 

そう呟いた後に、シャルはケイジを呼びに来た理由 を思い出して、慌ててケイジの後を追って行った

 

▲ページの上部へ

 

ホーム | ログアウト

 

小説


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。