「…………!!」
「やぁ、起きたかい?」
「ここは…?」
クローゼが辺りを見渡すが、オリビエ以外誰もいな い
「ケイジ君の部屋だよ。いや、部屋だったと言うべ きかな」
「ケイジ……そうだ!?」
気絶する前の事を思い出し、飛び起きるクローゼだ が、オリビエに手を掴まれて止められる
「どこに行くつもりだい?もう深夜だ。不用意に外 に出るのは感心しないね」
「でも!」
「落ち着きたまえ」
いつになく真面目なオリビエに渋々従い、近くにあ った椅子に腰掛ける
「…どうして止めるんですか?こうしている内にも ケイジは…」
「…今からボースに行ってまだ間に合うと?ケイジ 君があの慢心君にそれほど時間を取られるとでも思 っているのかい?」
「………」
確かに、ケイジがその気であればそれこそ瞬殺でき るだろう
「…ケイジは、私の事が嫌いなのでしょうか…?」
「………」
「今思えば、ケイジはいつも私から一歩距離を置い ていた気がするんです… 城にいた時も、学園にいた時も…側にはいてくれた けどそれだけでした…」
ただ、目を閉じてクローゼの独白を聞くオリビエ。 そこに普段のようなおちゃらけた感じは無かった
「やっぱり…お祖母様に頼まれていたんですかね… ?
…そんな、形だけの優しさなら…初めから、私の側 にいなかったら良かったのに……!!」
クローゼの独白。今までの旅の中で一度も吐き出さ なかったその弱音が、ここに来てとうとう爆発した
「…それで、君はどうするんだい?」
「………」
「君がそう思うならケイジ君を諦めて別の人を探す のもいい。今まで通りケイジ君を追いかけるのもい い
……全てを踏まえて、君は今何をしたい?君の求め るものは何なんだい?」
涙を流すクローゼを真っ直ぐに見つけて問う
「…わたし、は…私は……
それでも、ケイジを追います…!!」
かすれた、けれど力強い声
「拒絶されるかもしれないのにかい?」
「それでも、私の心は変わりません。拒絶されるな ら、拒絶されなくなるまで側にいるだけです!」
それはそれで何か危ない感じのしたオリビエだが、 空気を読んだのか何も言わなかった
「フッ…なら、思う存分彼を追いかけるといい。生 半可な気持ちでは捕まらないと思うけどね?」
いつものように茶化し始めたオリビエ
「生半可だなんて誰にも言わせません。 …もう私の世界にはケイジがいないなんて考えられ ないんです…そんな事になった分の責任は取っても らいますよ」
そう言うと、涙を拭って決意の表情を見せるクロー ゼ
「(フッ…余計なお世話だったようだね…しかしケ イジ君、残念ながら彼女は君の思っていた以上に心 が強かったらしい。…覚悟しておいた方がいいかも しれないね?)」
「……だから今から行った所で間に合わないよ」
「………あう」
変な所でアホの子なクローゼであった…
――――――
「………」
リクは今“川蝉亭”の屋根の上で横になっていた
本来なら結社の拠点に自分も踏み込むつもりだった が、どうもそんな気にはなれず、結局エステルとケ ビン、シェラ、アガットに任せることになった
リクは起き上がって目を閉じ、昼間のケイジとの闘 い…いや、一方的な敗戦を思い出す
…投影した宝具は、ことごとく破壊された
…神に頼み込んでつけてもらった切り札のエアすら も、軽く返された
…自前の剣術―剣術と言っていいのかはわからない が―は勿論通じる所か防がせることすら叶わなかっ た
ケイジに負けた その事実だけはリクに重くのしかかる
体調が悪かった、油断した、たまたま運が良かった 、たまたま運が悪かった…
言い訳はいくらでもできるが、1対1で負けた挙げ 句、そんな言い訳で事実から逃れようとするほど、 リクは腐ってはいないし、弱くも無かった
「……『今のお前に力を力として奮う権利は無い』… 」
ケイジに言われた言葉。それこそが今リクの頭を悩 ませている最大の原因であり、頭痛の種であった
確かに、自分の弱さには腹が立ったが…
「(力を奮う権利…?何だ?何をすれば力って奮っ ていいことになるんだ?そもそも力って奮うのに権 利か何かが必要なのか?)」
考えれば考えるほどわからなくなる
ただ、負けた。その事実だけがリクの頭を駆け巡り 、力を奮う権利という問いの答えをわからなくして いた
「…あ~!!もう!!頭使うのは俺のキャラじゃね ーんだよ!!」
全てを投げ出して、再び屋根の上で横になるリク
「……その内、絶対にリベンジして俺の方が上だっ てことをわからせてやる…!」
リクの辞書に、“撤退”の二文字は存在しなかった
――――――
~メルカバ弐号機・後部テラス~
「…………」
カシュ
「……シャルか」
「どうしたの?作戦会議だってみんな待ってるよ? 」
「いや…」
言葉を濁すケイジを置いといてシャルがケイジの見 ていた方向を見る
それは…やはりというかリベールの方向だった
「…やっぱり心残り?」
「……んなもんねぇよ。自ら望んで、自分の意志で
後悔も迷いも……全部振り切ったさ」
嘘だ
シャルは直感的にそう感じた
「振り切ったなら…何でそんなに悲しそうなの?」
「何のことだ?」
シャルはそう言うが、ケイジは完璧なポーカーフェ イスである
「わかんないけど…そんな気はするよ。それに振り 切ったならタルブさんにあんな条件ださないよね? 」
「タルブ?」
「封聖省のお偉いさん。あの太ってる人。総長がタ ルブ・タブーヒって名前だって教えてくれたんだ~ 」
「アイツの名前タルブって言うのか………と言うかそ の名前を付けた親の顔を見てみたい」
全くである
「話逸らさないでよ~…リベールに未練が無いなら 何であんな条件だしたのさ」
「………」
あんな条件……それはリベールに何かあれば逐一ケ イジに報告すると言う条件
「……いや、リベールと言うか……クローゼが気にか かってるよね?」
「………」
目を閉じて口を開かない。聞いてはいるようだが、 答えようとはしない
「…クローゼ、泣いてたよ。最近は数は減ってたけ ど…それでも三日に一回は夜に一人で泣いてた」
「………」
「…ねぇ、僕はよくわかんないけど立場ってそんな に大事なの?」
「…先に行くぞ。お前も早く来いよ」
逃げるように機内に戻るケイジ
「…全く、クローゼもケイジも意地っ張りで……
その分じゃ今はリーシャがクローゼよりリードして るのかな?」
そう呟いた後に、シャルはケイジを呼びに来た理由 を思い出して、慌ててケイジの後を追って行った
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