英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『白き翼にて』

『……なるほど、事情はわかった』

 

「まぁ、そういう訳なんで…とりあえず許可貰えま す?」

 

『いいだろう。任務として受け付けて置く。後アレ はシャルに預けてあるから好きな時に使うといい』

 

「うげ…ありがたいけどありがたくねぇな…」

 

『ホイホイ怪我をするお前が悪い』

 

「まぁそう言われると返す言葉も無いんですが…」

 

『…とにかく、無事で帰って来い。近頃は騎士団内 部の反乱分子も活発になっているからな…私だけで は抑えられんぞ』

 

「わかってますよ…」

 

――――――

 

「ケイジ……ちょっと来て」

 

浮遊都市突入は明日と言う事になり、アルセイユで 食事をし終わって寝ようとすると…

 

突然クローゼにそんな事を言われて手を引っ張られ た

 

「ちょ…どこにい「うるさい!!」

 

突然怒鳴るクローゼ……今までこんな状態のコイツ 見た事ねぇぞ

 

「………」

 

「…クローゼ?」

 

「黙ってついて来て!!」

 

冗談が通じそうな雰囲気では無かったので、大人し くクローゼについていく

 

そしてクローゼの部屋に入った瞬間、その場で抱き つかれた

 

「………」

 

「…おい、クローゼ」

 

「しばらく…このままでいて…」

 

「………」

 

「お願い…」

 

そのまま十分は経っただろうか

 

少しばかりクローゼの抱きつく力が弱くなったので 、距離を取る

 

「……あ…」

 

「……それで、一体私に何の御用ですか?クローデ ィア王太女殿下」

 

あえて今まで使った事の無い敬語を使って突き放す

 

「…っ…!!何時も通りに話して!!」

 

「…しかし「王太女命令!!」……わかった」

 

逆らったら泣きそうな勢いだったので断れ無かった

 

「……いい加減離してくれねぇか?」

 

「…絶対、ダメ」

 

部屋に入ってからずっとクローゼに手を握られてい る為、どこかに行くに行けない

 

しかも嫌じゃ無くてダメって…

 

「……離したら…また、勝手に行っちゃうでしょ…」

 

…何かデジャヴ

 

「行かねぇよ」

 

「行く!!ケイジが私との約束を守った覚えがない !!」

 

「…行かね「この前も!」

 

「その前も!!そのまた前も!!いつでもケイジは 私に何も言わないで!!」

 

「………」

 

何かに取り憑かれたかのように叫ぶクローゼ

 

「…ねぇ、ケイジにとって私って何?私との関係っ て何なの…?」

 

縋るように、何かを期待するように俺を見るクロー ゼ

 

………俺、は……

 

「…………」

 

「…答えて………答えてよ……!!」

 

「………ただの兵士と、その主だ」

 

……悪いな…クローゼ…俺は…

 

「………ッ!!」

 

パシッ

 

「………」

 

はたかれた……?

 

「馬鹿!!いつもいつも!!私の気持ちなんて二の 次にして!!」

 

パシッ

 

「いつもいつも私を置いて危ない事ばっかりして! !」

 

パシッ

 

「そんなに私は頼り無いの!?そんなに私は弱く見 えるの!?」

 

パシッ

 

「いつも側にいてくれたのはお祖母様の命令だった から!?ただの憐れみ!?」

 

パシン

 

「そんなに私は弱く無い!!いつもいつも守っても らわなきゃいけないほど、弱くなんてない!!」

 

パシン…

 

「もっとちゃんと私を見て!!王太女でも姫でもな い『ただのクローディア』を見てよ!!」

 

ペチッ

 

「護る対象じゃ無くて、ただ、あなたのクラスメイ トで……ただのクローディアを……私を見てよ……!! 」

 

ペチ……

 

とうとう力を失い、俺に倒れ込むように抱きつくク ローゼ

 

…少しずつ、俺の胸元が冷たくなっていく

 

「……俺はもう、リベールの軍人じゃ無い。アルテ リア法国封聖省、星杯騎士団守護騎士第二位……ケ イジ・ルーンヴァルトだ」

 

「………」

 

「…俺は、俺らは所詮教会の狗だ。命令されりゃそ れがどんな奴だろうと食いちぎりに行く、正真正銘 の狗なんだよ」

 

「………」

 

それがどうした、と言わんばかりに抱きつく力を強 めるクローゼ

 

…わかって無い。お前は何もわかって無いんだよ

 

「当然そんな事してりゃ恨みなんざ吐いて捨てるほ ど買う。それこそキリがねぇんだよ」

 

今までに滅した奴らの親族なり関係の深かった奴ら が復讐しに来た事なんて数え切れないほどある

 

……ソイツらを倒せば倒すほど、また俺は誰かの恨 みを買う

 

死ぬ前に恨み事を言われるだけならまだマシだ…恨 みが恨みを呼び、怒りが怒りを飲み込む。 それこそまるで無限地獄のように…

 

……そんな中に、クローゼを……まだ綺麗なままのコ イツを巻き込むわけにはいかない。巻き込みたくな い

 

「……俺の存在自体が疫病神みたいな物だ。だから… 」

 

「離れない」

 

もう俺に関わるな

 

そう言おうとしたその瞬間にクローゼに先手を取ら れて俺は言葉を飲んだ

 

「誰が何と言おうと…私はもう、絶対にケイジから 離れない。離れたくない」

 

「………」

 

「恨み事?それが何なの?ケイジが全部悪いわけじ ゃない 復讐?それこそケイジには何の関係も無い。ただの 逆恨みじゃない

 

それが私に影響を及ぼすならそんなもの、全部はね のけて見せる。……王太女の立場が邪魔だって言う なら、私はそんなもの喜んで捨てる」

 

「!?」

 

「……まぁ、流石にそんな簡単に放り出せるような ものじゃ無いけど……

 

ケイジの側にいれるなら、私は何もいらない。それ だけで私は幸せになれるから」

 

「…クローゼ、我が儘言うな。俺とお前は住む世界 が違う。…お前まで(こっち)に来ることはない」

 

(そっち)とは違って(こっち)は入ってしまえば二度と戻ること など出来ない。ヨシュアの件なんざ特殊も特殊だ

 

「………お前はただ勘違いしてるだけだ。お前の側に は俺くらいしか親しくて年の近い男がいなかった… …その所為で親愛に近い思いを恋愛だと勘違いして るだけだ」

 

「………」

 

「だからクローゼ…………

 

もう、俺の後を追うな。それがお前の為に「……違 うよ」…?」

 

違う?何が?

 

「この気持ちは勘違いなんかじゃ無い……初めはケ イジの言う通り、もしかしたら親愛を勘違いしただ けなのかもしれない。でも……今は自信を持ってあ なたを愛してるって言える」

 

「………っ!」

 

何だ……何でこんなに締め付けられるような感覚が くる……?

 

「この気持ちはきっと変わらない。例え何度生まれ 変わっても……私は絶対にあなたを選ぶ。そう思え るから…」

 

「………」

 

「……だから、ケイジ。私の気持ちは、永遠に変わ らない」

 

「………!?」

 

「………んっ」

 

突然クローゼが顔を上げたかと思えば、背伸びして 、キス…された

 

「……これが、私の気持ち。返事は今すぐに何て言 わないから…」

 

顔を赤くしながら、駆け足で部屋を出て行くクロー ゼ

 

「…………」

 

全く…どうしろってんだ…

 

こうならない為に何度も見つかる度にアイツの側か ら消えてたはずなのに…何でアイツは…

 

「……全く、本当に人生ままならないもんだな…」

 

エステルといい…クローゼといい……全く、女っての はつくづく強い生き物だよ

 

「……強すぎるっての」

 

窓の外を見ると、満月が白く白く輝いていた

 

 


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