sideクローゼ
とりあえず、ケイジに連絡はしたから、クラムが捕 まるのは時間の問題なので、私は孤児院に帰ってき ました
「ただいま戻りました~」
「あら、おかえりクローゼ。…クラムは見つかりま した?」
「あ、いえ…まだですけど、ケイジに連絡を入れ た ので多分昼頃には捕まって連れてこられると思い ます」
「そうですか…良かった…」
あ、因みにこの人はこの孤児院の院長先生のテレサ さんです
数年前まではテレサさんの夫さんが院長をしていた のですが…亡くなられたらしいです
私もおじさんにはお世話になったので、それを聞い た時は本当に悲しかったです…
「まあ、ケイジ君に任せたのなら安心ですね。ハ ーブティーでも飲みますか?」
「あ、ならアップルパイを作りますから、みんな でお茶にしませんか?」
「いいのですか?ならお願いします」
「はい♪」
そう笑って準備をし始めた時…
――ピューイ
「あ…ジーク!」
私が名前を呼ぶと、すぐに場所がわかったのか、キ ッチンの窓のへりにとまる
「どうだった?」
「ピュイ」
「そう…昼過ぎ位までには戻ってくるのね?」
「ピュイ!」
「ふふふ…だったらアップルパイはたくさん用意 し なくちゃ♪」
「ピュイ?」
「わかってるよ。ジークの分もあるからね。…後 は 焼くだけっと…」
と、ジークとお話していると…
――や、やめろよ!―――だろ!――!乱暴―!
と外から聞こえてきました
あれはクラムの声…?…………まさか強盗!?
そうだったらクラムが危ない!!
そう思った私は慌てて外に出ました
すると、クラムを持ち上げている人の姿が…!
「ジーク!」
「ピュイ!」
ジークが強盗(仮)の前を通り過ぎましたが、クラ ムはまだ持ち上げられたままです
とりあえずクラムを離させないと!
「その子から離れて下さい!それ以上乱暴をする のなら私が相手になりま……………………………あら?」
…何か見覚えがありますね…ええと…
「あ、さっきの…」
「マノリアでお会いした…」
私とクラムを掴んでいる女の子が同時に気付く
何故こんな所にいるんでしょうか?
「ピュイ?」
ジークも私の知り合いだと気付いたようで、敵なの ?みたいな視線を送ってきます
「助けて!クローゼお姉ちゃん!オイラ何もし て ないのにこの姉ちゃんがいじめてくるんだ!」
クラム…あなたに限って“何もしてない”は絶対あり えないよ…
「な、何が何もしてないよ!あたしの紋章を取った くせに!」
「へん!だったら証拠を見せてみろよ!」
…完璧に悪役の台詞よね
女の子はまたクラムを捕まえようとしたけど…
「あ、くすぐるのは無しだかんな!」
「ぐぬぬぬ…」
どうやらさっきはくすぐって自供させようとしてた みたいです
そんな漫才みたいな会話を見て半ば呆れていると
「やあ、また会ったね」
と、黒髪の少年が挨拶してきてくれました
「あ、その節はどうも…すみません、私てっきり 強 盗が入ったのかと思って… …あの、それでどういっ た事情なんでしょうか?」
と、男の子に聞くと、男の子が答える前に
「クローゼお姉ちゃん、そんなの決まってるわよ 。どうせクラムがまた悪さでもしたんでしょ」
と、マリィが言い切った
まあ、十中八九その通りでしょうけど
「ねーお姉ちゃん、もうアップルパイできたのー ?」
この子はどこからその情報を仕入れてきたのかな?
「もうちょっと待っててね。焼き上がるまで時間 がかかるの(主にケイジのせいで)」
ケイジがかなり食べるからどうしても大きくなっち ゃうしね…
「この悪ガキ!」
「乱暴オンナ!」
ああ、まだやってたんですか…
「全く、いつまで経ってもクラムはガキなんだか ら」
「アップルパイまだかな~」
…何だろう。このカオスな状況
「…何だかややこしい事態になってるね」
「あ、あはは…私もそんな気がします…」
と、私達は苦笑いするしかなかった
「ピュイ」
ジークが急にテレサ先生だ、と言ったと思ったら
「あらあら、何ですか?この騒ぎは…」
「テレサ先生!」
本当にテレサ先生が出てきました
「詳しい事情はわかりませんが…どうやらまたク ラ ムが何かしでかしたようですね…」
困った様子で言うテレサ先生
全くもってその通りです。流石院長先生ですね
「し、失礼だなぁ。オイラ何もやってないよ。 こ の乱暴な姉ちゃんが言いがかりをつけてきたんだ !」
「だ、誰が乱暴な姉ちゃんよ!」
…さっきと全く変わりませんね
「あらあら、困りましたね。…クラム、本当にや っ てないのですか?」
「うん!当たり前じゃん!」
毎度の事ですが、返事だけはいいんですよね
というかまだこの期に及んでやってないと言い切る のがすごい…
「女神様にも誓えますか?」
「ち、誓えるよっ!」
…今完璧に噛みましたね。テンパってるし
「そう…さっき子供部屋にバッジみたいな物が落 ち ていたけど…あなたの物じゃありませんね?」
「え?だってオイラズボンのポケットに入れて …… はっ!?」
「や、やっぱり~!!」
「まあ………」
「見事な誘導ですね…」
ゆ、誘導尋問(違)とは…流石です!テレサ先生!
私もアレが出来るようになれば…
………はっ!?私は何を!?
「クラム…もう言い逃れは出来ませんよ。取って し まった物をそちらの方にお返ししなさい」
先生が諭すように言うと
「うぅぅぅ~~~!わかったよ!返せばいいん だ ろ!?返せば!」
そう言って悔しそうにバッジみたいな物を女の子に 投げた
「わっと…」
「フンだ!あばよっ!」
と、その場から逃げようとしたけど…
「へぇ…どこに行くんだ?」
クラムにとっての魔王に防がれました
side out
俺が孤児院に戻って来たら、何か地味に修羅場だっ た
まあ明らかにクラムが悪いって事はわかったがな
それでクラムはイタズラがバレたらバレたで、謝ろ うともしないで逃げようとしたので…
「へぇ…どこに行くんだ?」
とりあえず謝らせる方向でいきますか
「け、ケイジ兄ちゃん!?」
「他人様の物を取った挙げ句、バレたら逆ギレし て逃げようたぁいい度胸じゃねぇか…」
…何か横で見慣れない奴らが震えてるけど…まあい いか
「え、あ、あのな、ケイジ兄ちゃん?これには 深 ~い理由が…」
まだ言い訳をするか…これは仕置き決定だな
俺は両拳をクラムのこめかみにセットする
「ケイジ兄ちゃん!?」
「理由があるなら遠慮無く言っていいぞ?…まあ 嘘 だってわかった瞬間にいつもの二倍の力と長さで お前のこめかみが抉れるけどな…」
「ひいっ!?嘘です!理由はイタズラでやっち ゃ いました!ごめんなさい!」
「よし!じゃあ…せいやァァ!」
「ギャアァァァァァァァァ!!!」
~しばらくお待ち下さい~
「反省したな?」
「サー!イエッサー!めちゃくちゃ反省しまし た !」
「じゃあ誰かに何か言うことあるよな?」
「………はい」
そう言ってクラムはオレンジ髪の女の子の所に行っ て
「………………………ごめんなさい…」 と、謝った
「…まあ、反省してるならそれでいいわよ」
「本当にすまんかったな。うちのバカが迷惑かけ た」
と、俺は女の子の連れであろう男の子の方に謝る
「別にいいよ。あの子も反省してるみたいだし。そ れにこっちの注意力不足って言うのもあるしね」
「そう言ってもらえると助かる」
そんな感じでちょっとしんみりした空気になってい た時…
「まあ…こんな所で立ち話するのもなんですし… 家 に入りましょうか。お茶でも飲んで行って下さい 。そのついでに詳しい話を教えてもらえますか?」
と言うテレサ先生の一言でお茶をする事になった
家に入る途中に
「クローゼ。貸し一つな~」
「わかってるよ。今度は何がいいの?」
「ん~…じゃあスイートポテトパイで。」
「了解♪近いうちに作って寮に持って行くね」
「まあ、ほどほどに楽しみにしとくわ」
「何それ~!」
貸しを作るのは忘れない、それがケイジクオリティ !
~説明中~
「そうですか…そんな事を。あの子も悪気は無い の ですが…イタズラ好きに加えて無鉄砲で…本当に す みませんでした。保護者としてお詫び申し上げま す」
「もう1~2回お仕置きしてからよ~く言い聞か せ るんで…」
「「いや、お仕置きはいいです」」
何故かお仕置きはWで遠慮された
「あはは、お仕置きはともかく、もういいですよ 。紋章もちゃんと戻ってきたし、美味しいハーブテ ィーとアップルパイでチャラって事で」
「ふふ、ありがとう、エステルさん、ヨシュアさ ん」
女の子と男の子…エステルとヨシュアとはあの後自 己紹介をした
どうやら二人共準遊撃士で、正遊撃士になるために 王国を歩いて回っているんだとか
「でも本当に美味しいお茶ですね。街の酒場で淹 れてもらったのと同じような味がしますけど…ひょ っとして表で栽培されているものですか?」
「ええ、ハーブの栽培は私の趣味のようなもので してね。それを宿酒場のご主人がご好意で仕入れて 下さるんです」
「そうなんだ…さっき食べたアップルパイもすっ ご く美味しかったんですけど」
「ふふ…それは私でなくこの子が作ったものなん で すよ」
「え?クローゼさんが?」
エステルが驚いてクローゼを見る
「はははっ!意外だとよ」
「ちょっと黙ってて」
「ぐはっ!?」
冗談のつもりで言ったのに鳩尾に肘入れられた…理 不尽な…
「い、いや、そういう意味でビックリしたんじゃ ないの! ただ本当に美味しかったから…」
「ふふ…ありがとうございます。 あの…先ほどは本 当に失礼しました。私とんでもな い勘違いをして しまって…」
「気にしなくていいってば。私もあの子を捕まえ る時に荒っぽくしちゃったし。でも流石にあの白い 鷹には驚いたけどね。」
「鷹?ジークはシロハヤブサだぞ?」
いつの間に復活したのかって?…ついさっきだよ
結構ダメージがでかかったぜ…
「シロハヤブサ…確かリベールの国鳥だったね。 よ く訓練されてるみたいだけど君のペットなの?」
「いえ、私が飼っている訳じゃありません。仲の 良いお友達なんです」
…仲良いのはわかるけど…言葉までわかるもんか?
「は~、すごい友達もいたもんね。そういえばク ローゼさんってジェニス王立学園の生徒よね?なの に、ここに住んでるの?」
「いえ…私は学園の寮に住んでいます。あまり遠 く ないので、休日などについケイジと遊びにきてし まうんです。ご迷惑かとは思うんですけど…」
少しだけすまなそうな表情になるクローゼ
「あらあら、迷惑だなんてとんでもない。色々と 助かっていますよ」
「テレサ先生…」
流石先生、ナイスフォローです
「でもこちらに構いすぎて学業を疎かにしないよ うにね?まあ、“クローゼに限って”そんな事は無い と思いますけど」
「はい。肝に命じておきます」
「…先生、クローゼに限っての所に悪意を感じた ん ですけど?」
「気のせいです」
…チクショウ、何も言えねぇ
「学園生活かぁ…そういうのも一度経験してみた か ったわね」
「教会の日曜学校は週に一度しかなかったからね 。でも、王立学園の入学試験はかなり難しいって聞 くよ?」
「あう…私には逆立ちしたって無理か…」
「ふふ…そんな事無いです。遊撃士になる方がは る かに難しいと思いますよ。しかもその若さで…私 の 方こそ憧れてしまいます」
おーいクローゼ~?ここに同い年で王室親衛隊大隊 長+αの肩書きを持ってる人がここにいるんだけど ?
その後アップルパイ(エステル達が食べた三倍の大 きさ)を食べ終えた後、もう一度クラムに釘を刺し てから戻って来たら、どうやらエステル達をルーア ンのギルドまで送って行くらしい
…まあ色々世話になったみたいだし、少しくらい恩 返ししときますか