英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『幸せの価値』

パキパキパキパキ…

 

「「…………散れ!!」」

 

あれから二分。クローゼとリクとシャルとで合流し てリーシャの護衛をしている

 

…その分、影が全部こっちに集まってキツくなった が…来ちまったもんは仕方ない

 

「………」

 

「リーシャ!!まだわからないのか!?」

 

「あまり焦らせるな…焦って気配を読み違えたら本 末転倒だ」

 

流石にキツくなって来たのか、リクが余裕を無くし てきた

 

……クローゼに関してはもう喋る余裕すら無いみた いだ。必死で防いでいるが…限界だな

 

……………まだか…リーシャ…!!

 

「…………ケイジさん!!」

 

「見つかったのか!?」

 

「はい!!」

 

返事をしながらも、リーシャはある一点を見つめて いる

 

そこか……

 

『……やれやれ、バレたみたいだね。

 

…でも、そう簡単には抜けさせ無いよ』

 

すると、影の数がさっきの十倍にまで増える

 

……部屋中が影で埋まっている感覚だな…

 

「リク!」

 

「わかってる…!」

 

リクはすでに宝具発動のために集中し始めている

 

…俺も、やるか

 

「…『我が身に宿りし蒼き羽』…」

 

今まで何度か使った詠唱…しかし、これは言うなら ば序文

 

本当の詠唱は他に続く…!

 

「『其は不解の絶氷、蒼海にて煌めく天の鎖』…」

 

影……いや、俺達を除く部屋の全てが凍りついてい く

 

影達も全身までは凍っていないものの、足が完全に 凍りついているので動かない

 

……影奏のリアクションが無いのが気になるが…

 

「『我が手に来たれ凍結の魔剣。彼の者達に終焉の 安らぎを』………」

 

影が全て、全身凍り付くと同時に俺の手に刀身が氷 のように透明で、それ以外は全て純白の壮麗な西洋 剣が出現する

 

そしてそれを逆手に持ち直して…思いっきり床に突 き刺す!!

 

「……『デュランダル』!!!」

 

突き刺した剣が辺り一面を白く染め上げ、光が晴れ た時には、室内であるにも関わらず氷の塵がまるで 雪のように舞う

 

「…………そこ!!」

 

リーシャが針のようなものを投げる

 

そしてそこに向かって……

 

「…『天地乖離す(エヌマ)…………………開闢の星(エリシュ) !!!』」

 

リクの『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ) 』が針を呑み込 む勢いで放たれる

 

そして、しばらくして土煙が晴れてくる…

 

「……終わったか?」

 

「………気配はしませんが…」

 

…確かに、気配はしない

 

「………」

 

シャルは油断なく銃を構えて警戒を解かない

 

そのシャルの勘を信じて剣を構えていると…

 

『………アハハハハ……ザッ……本…に君…ちは楽しま… …ザザッってく……ね…』

 

ボロボロになった人形のような機械が土煙の中から 現れた

 

『なっ!?』

 

『驚い…ザッ…かい?』

 

イタズラが成功した子供のような笑い声をだす機械

 

土煙が完全に晴れて、その機械の近くに昔見た影奏 の髪の色と同じカツラや、機械の義手、義足などが 転がっていた

 

……まさか

 

「お前……まさか……………

 

……全身、機械か?」

 

遠くで操作しているなら、リーシャが符を見つける はずだし、影奏の能力をあんなリアルタイムで使う 事などできるはずが無い

 

ならば…後は発想を転換すればいい

 

リーシャが符を見つけられなかった理由は?リアル タイムで能力を行使できた理由は?

 

その結果、辿り着いた答えが……影奏そのものが機 械であったという事だった

 

『……流石だね。この僅かなヒントで答えに辿り着 くなんて』

 

「……声がクリアになってるが?」

 

『ああ、気にしなくていい。本当に最期が近いって だけさ』

 

…なるほど。死に際くらいは言葉を遺させてやろう ってか

 

『それに…これで君に恨み事を言えるしね』

 

皮肉気にそう言う影奏。だが……機械音声に近いは ずであるのに、はっきりわかるほど…声が震えてい た

 

「…一つ、聞きたい事がある」

 

『何だい?』

 

「お前は…“被害者”か?それとも“志願者”か?」

 

……もし、この答えが“被害者”だった場合、俺は結 社を決して許さない

 

元医療関係者として、そして何より、命を追った者 として

 

『…“志願者”だよ。 ……僕は幼い時に帝国で誘拐に遭ってね

 

その後、どこかの帝国貴族に奴隷として売られた。 そこから僕の地獄が始まったのさ…

 

日々、過酷な労働に身を粉にし、それが終わった所 で得られる食事は腐りかけのパン一切れに冷めて油 分が浮いてる豆スープ一口。

 

…当然、そんな食事でそんな生活に耐えられるはず もない…貴族達にしてみれば僕達は使い捨ての機械 人形だったんだ』

 

「………そんな」

 

場を沈黙が支配する

 

ただ、呟いただけのクローゼの声が場に響き渡るほ どに

 

俺達は、ただ、過酷な影奏の半生を聞く事しか出来 なかった

 

「……逃げようとは、思わなかったんですか?」

 

『どこに逃げろって言うんだい?帝国人でもなく、 ましてや知り合いなんて一人もいない。戸籍も無け ればお金も無い。

 

…そんな状況で、どこに行けと?』

 

「………」

 

『…全ての国が君の国のように一枚岩じゃ無いんだ 。自分の利益だけを考えている者、他は完全に排さ ないと気が済まない者、領民を奴隷と考えている者 …そんな事しか考えていない人間は山ほどいる

 

……良かったね?姫君。君の周りには信頼できる味 方がいる。』

 

『話が逸れたね…

 

大人でも耐えられなかった労働に、当時子供だった 僕が耐えられるはずもなかった…

 

数ヶ月後には過労と栄養不足で動けなくなり、路地 裏にゴミみたいに捨てられたんだ』

 

「…それで、結社に拾われた」

 

『その通り。ただ、その時にはもう僕の体は限界だ った

 

動くどころか、話す、頷く…もっと言うと、まばた きすら出来ない状況だった

 

そんな時…あの人が現れた』

 

―――このまま死を待つのと、ほんの少しだが生き る可能性に縋るのと…どっちがいい?

 

『…耳を疑ったよ。もう死を変えようの無い運命だ と諦めていた僕にとって女神の言葉に等しい言葉だ った。諦めていた運命が少しでも変わる。変えてく れる。

 

当然、僕は力を振り絞って頷いた

 

…そして、目が覚めると、もう僕の体はこの身体( 機械)だった』

 

………第六柱か

 

確かに、奴らの技術力に第六柱の応用力があれば出 来ない事も無いだろうが…

 

「……影奏、いや、“ライ”」

 

『!!……フフフ、まさか再びその名前で呼ばれる なんてね……何だか、不思議な気分だよ』

 

「……お前は…幸せだったか?」

 

今のライに、俺が聞きたいのはこの事だけ

 

理不尽に両親と引き離され、生身の体を失い、恐ら くはほぼ全ての娯楽も楽しみも失って、執行者とし てただ人を殺し続けながら……それでも、幸せだっ たのか

 

『……フフフ、そんなの決まってるじゃないか』ラ イの答えは……………

 

『僕は幸せだったよ。他の誰が何と言おうとも、ね 』

 

“是”だった

 

『非人道的だとか、命の冒涜だとか…色々言う輩は いるだろうけど、それでも、僕の心は変わらない

 

……僕は、幸せだった。二度目の生を受ける事が出 来て 運命は、変えられると証明できて 自由に、自分の意志でこの世界を歩き回れて ……確かに、僕は幸せだった』

 

「…なら、俺が言える事は無いな」

 

『今更だね。今更君が僕の中に踏み込めるなんて思 っていたのかい?』

 

「違いない…つーかお前最期の最期に優しいな」

 

『人間最期くらいは善人ぶりたくなるものだよ?』

 

「そうかい」

 

まるで数年来の親友のように言葉を交わす俺とライ

 

『……気をつけなよ?次の相手は僕みたいに遊びは しない。きっと、全ての力をかけて君を“殺しに”く るよ?』

 

「ああ、わかってる」

 

…わかってる。次がアイツだって事くらい…

 

『……忠告はしておくよ。奴は……アガ『……貴様が死 ぬだけなら一向に構わぬが、(おれ)の情報を敵に漏らす のは感心せぬな』 パキィン…

 

「…!!」

 

そんな声が聞こえたかと思うと、突然目の前のライ が一瞬で凍り付き、砕け散った

 

………ら…い……?

 

俺を含めて、この場にいる全員が何が起きたのか理 解していない…それほどまでの速さで起きた出来事 だった

 

『ふむ……貴様等に(おれ)のヒントを与えてやった代償 だ…“一人”、貰っておくぞ」

 

パキィ…

 

俺の背後で、何かが凍る音がした

 

恐る恐る振り向いて見ると…

 

「………………え…?」

 

「リ………………………………

 

リーシャぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

胸から氷の槍が生えているかのように突き刺さっている、リーシャがいた


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