英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

73 / 161
『理の万華鏡』

「…………え……?」

 

「リ…………………………

 

リーシャぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

リーシャの胸に、氷の槍が突き刺さっていた

 

リーシャはそのまま、重力に逆らわず、その場に崩 れ落ちて行く…

 

「リーシャ!?リーシャ!!」

 

「しっかりして!!」

 

「オイ!!しっかりしろ!!お前はこんな所で死ぬ 奴じゃ無いだろ!!?」

 

リクが必死に倒れたリーシャを揺するが…今はそれ はしてはいけない!

 

「退けリク!!」

 

リクを引き剥がしてそのままリーシャを槍が抜けた り動いたりしないように横向きに寝かせる

 

「……はっ…はっ…はっ…はっ……」

 

呼吸が浅い…!!肺は間違いなくやられてやがる… !

 

そのまま一気に槍を引き抜き、抜いたそばから傷口 を凍らせて一時的な応急処置をするが、無情にも足 元にはかなり量のの血溜まりが出来ていた

 

「………ケイジ……はっ…さん……」

 

「喋んな!!後でいくらでも聞いてやるから!!」

 

「オイケイジ!!リーシャは助かるんだよな!?助 かるんだろ!!」

 

「黙ってろ!!今そのための方法を考えてんだ!! 」

 

焦るな……落ち着け……考えろ……!!

 

だが、そんな間にも、リーシャの出血は増えていく

 

…出血の所為で凍らせた所がすぐに溶けてやがる… !

 

『フハハハハハ!!足掻け足掻け!!実に滑稽な人 形劇よ!!』

 

リーブの……いや、リーブの皮を被った『ナニカ』 の声が聞こえる

 

……仕方ない。出来る事ならやりたくはなかったが…

 

「……シャル、クローゼ。出来るのならリク。今か ら俺に一瞬も隙間無く回復のアーツをかけ続けろ」

 

「こんな時に何を…!!」

 

リクは怒りの表情で俺を見るが、俺は真剣にリクの 目を見続ける

 

「…リク」

 

「……チッ、やればリーシャは助かるんだな!?」

 

「命に替えても」

 

「なら、この際何だっていい!!その代わりに絶対 にリーシャは助けろ!!」

 

そう言ってアーツの準備を始めるリク

 

………当たり前だ。もう二度と…俺の前で人を殺させ やしねぇ…

 

「………ケイジ、まさか……」

 

シャルが恐る恐る聞いて来る

 

「……そのまさかだ」

 

「じゃあ…リーシャは……」

 

「…それはリーシャの意志次第だ」

 

「でも…」

 

「大丈夫だ。もしリーシャが拒否した時には……俺 が何とかする」

 

「………わかったよ」

 

俺がそう言うのを聞くと、再びアーツに集中する

 

……ここまでやってんだ。

 

絶対に、死なせない…

 

俺は、そう決意して、力が全く入っていないリーシ ャを抱える

 

「『我が身に宿りし蒼き羽』…」

 

第一段階…聖痕の発動

 

だが、本番はこれから

 

「『汝、我と相容れず 汝は我の器に入らず 我は汝を受け入れず』」

 

少しずつ、俺の羽が蒼い光に変わっていく

 

「『我は汝を拒絶す 汝を受け入れし者は他にあり』…!!」

 

羽が完全に光に変わる

 

…それと同時に、物凄い虚脱感が襲ってくるが…ア ーツのおかげか、まだなんとか耐えられる

 

……アーツがかかってなかったら今頃血達磨だしな

 

「『汝を受けし者は我が眼前にあり

 

…蒼氷を司りし絶海の剣!! その威光を以ちて彼の者の深遠に刻まれよ!!』」

 

俺の言葉に反応するように、聖痕の光がリーシャの 中に入って行く…!

 

「……あ……あああ………あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ ぁぁぁぁ!!!」

 

「っ!!」

 

リーシャが俺の首筋を抱きつくように掴む

 

苦しいのだろう、俺の首筋から血が流れる。それほ どまで強い力でしがみつかれていた

 

「リーシャ!?」

 

リクがとっさにこちらに駆け寄ろうとするが…

 

「来るな!!今異物をこの中に入れると聖痕が暴走 する!!」

 

「ッ…!!」

 

俺の言葉に足を止めるリク

 

…まだだ。まだなんだ…何もしなくても、このまま ならリーシャは聖痕の暴走に身体が耐えられなくな って死ぬ

 

もう時間が無い…現に、今すでにリーシャの背中に 聖痕の羽が展開している…後数分もすれば、間違い なく暴走する

 

…だからこそ、ここに俺がいる

 

写輪眼を発動し、すぐに万華鏡写輪眼まで発動させ る

 

……これは、誰かの模倣じゃない。誰かの能力を使 うためじゃない

 

これから発動させるのは…俺の、俺自身の万華鏡

 

「………『宮比神』(アメノウズメ)!!!」

 

日本神話において、八百万の神々を大笑いさせ、天 照大神を引きずり出した女神

 

その名を冠する俺だけの万華鏡

 

……ただ皆で笑っていられるように

 

……それを妨げるものを、障害を打ち砕くために

 

ただ、“護る”…その願いだけを込めた。その到達し た先が…この力

 

因果も時間も運命も何もかも無視して、一人につき 一度だけ、全ての悪影響を完全に取り除く奇跡の瞳 術

 

…それは、例え“死”であろうと関係ない

 

全ての悪影響を無視して最善の状態を導くのだから

 

そして…リーシャが光に包まれた…

 

――――――

 

暖かい

 

私がまず感じた感覚はそれだった

 

まるで、遠い昔の記憶に残っている、お母さんに抱 かれた時のような感覚…

 

そんな感覚に、全てを任せようとした時だった

 

『死なれては困る。 ようやくリーブ以来の私の使い手に巡り会えたのだ

 

…何が何でも、此方側に戻って来てもらう』

 

そんな、凛々しい女性の声が聞こえたかと思うと、 私は光に包まれた

 

―――――――

 

「…………」

 

そっと、リーシャを地面に寝かせて、俺は前へと歩 き出した

 

シャルとクローゼはすでにリーシャの側についてい る…リーシャはアイツ等に任せれば大丈夫だろう

 

「……待てよ」

 

「…何だ?」

 

「……俺が行く。流石に今回のは許せねぇ」

 

「………知るか」

 

リクの言葉を根本から斬り捨てて階段に向かう

 

「てめ…………ッ!?」

 

それに怒ったのか、リクが俺の胸倉を掴んで俺の目 を見る

 

そして……何故か驚いた顔をした

 

「……離せ。今はお前に構ってる暇はねぇんだよ」

 

「………」

 

唖然とするリクを放っておいて、俺は一人で階段を 上って行った

 

―――――――

 

「……ケイジ!?」

 

クローゼは、一人で先に進もうとするケイジを見て 、後を追いかけようとする

 

…が

 

「…………止めとけ」

 

「!?」

 

突然、リクに止められ、不満を露わにするが、リク の信じられないものを見たような顔に言葉が止まっ た

 

「…………何があったんですか?」

 

「………初めて見た。アイツが本気でキレた顔を

 

…正直、アイツの目を見ただけで自分が死ぬ姿が見 えた」

 

「………!」

 

「何を言っても何をしても……今のアイツは止まら ない。止められない。

 

理性じゃなく本能的に直感で…心の底からそう思っ た」

 

クローゼは、ケイジの進んで言って階段を、ただず っと見つめていた


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。