英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『白銀』

「……………また、か」

 

気が付けば、俺はいつか来たような真っ白な空間に いた

 

…来た瞬間全部思い出すとか…とりあえずポチはぶ っ飛ばす

 

「………」

 

3…2…1…

 

『おっ久~~!!』

 

「おすわり」

 

『わん!』

 

「気をつけ」

 

『わん!………え?』

 

「おらぁっ!!」 『あがぺっ!?』

 

何か無駄に登場シーンでテンションが高くてイラッ としたので強めに殴ってしまった

 

……まぁいいか

 

『いきなり何するのさ!!酷いよ!!酷すぎるよ! !』

 

「黙ってろ犬畜生が」

 

『ご機嫌ななめ!?なんか扱いが前にも増して酷い !!』

 

前からお前の扱いはそんな感じだ。そして機嫌が悪 いのは当たり前だろうが

 

『そりゃそうだよね………あれだけ大口叩いて、左腕 を斬り飛ばして戦力半減した相手にやられたんだか ら』

 

急に真面目な顔で真面目に話し出すポチ

 

…というか

 

「…心が読めるなら初めからそう言え」

 

『初めから言っちゃったら君、無理やりにでも心閉 ざす方法作ろうとするでしょ?』

 

…まぁその通りなんだが

 

「………ポチ」

 

『このシリアスな時にポチって止めて欲しいんだけ ど… なんか雰囲気が…』

 

「……俺は…死んだのか…?」

 

アガレスの氷に包まれた所までしか覚えていない

 

……いや、奴の術中に嵌った時点で死んだんだろう がな…

 

『……仮死状態、って言うのが一番しっくりくるか な? より正確に言うなら永久凍結状態だね…時も含めて 、ね』

 

永久凍結…?

 

「という事は…俺はまだ生きてる?」

 

『一応。それに君が死んだら(わたし)も消えちゃうし』

 

あの話本当だったのか…

 

『ちょっと待って!?今の今まで信じてなかったの !?』

 

ポチが騒ぎ出すがそれどころじゃねぇ!!

 

さっさと戻って…

 

『…戻ってどうするの?』

 

「決まってるだろ!!アイツを『今さっき完敗した 相手に勝てるの?』!!」

 

『ましてや今君は永久凍結状態…戻ったところで何 も出来ないし、そもそも意識を保っているのかどう かもわからない。…そんな状態の君を送り出すなん て出来ないよ?』

 

「…なら、どうすればいい?俺が戻らなかったらア イツは次に間違いなくリーシャやクローゼ、シャル 、リクを狙う。その後はエステル達だ…それなのに …俺に黙ってここで寝てろって言うのか?」

 

『そうだね』

 

「……っ!!テメ『君のその考え方は確かに正しい けど…世界は君が思ってる以上に優しくないんだよ ? …人間にしろ悪魔にしろ…欲望なんて尽きる事は無 い あれが欲しいこれが欲しいアイツがいなくなって欲 しいアイツと一緒にいたい…そんな思いが叶ったら 叶ったで次はあれ、その次はこれ、それからあれ… 何度も何度も何度も何度もそんな欲望の連鎖を見て きたんだよ。(わたし)は』

 

ポチが請うように、縋るように言う

 

その言葉の一つ一つに、悲しみ、哀れみ、嘆き、諦 念…色んな感情が入り混じっていた

 

『君の考え方は確かに立派だよ?でも…その考え方 だと最後には絶対に壁にぶつかる。大切な人同士が 争ったり、大切な人が大切な人を殺したり… そんな状況、君は耐えきれるの?』

 

「………」

 

『もうたくさんだよ…人の想いを背負い続けるのは … (わたし)と君は一心同体…だから君の想いが(わたし)の中に流れ 込んでくる

 

…苦しいんだよ。何もかもを背負うのは!!』

 

何かに怯えるように、力無くその場に座り込んでし まうポチ

 

「………悪いな」

 

『………あ…』

 

座り込んでいるポチを優しく抱き締める

 

……いや、ポチじゃねぇか。今“気付いた”

 

「………お前、俺の聖痕だな?“虚ろなる神(デミウルゴス) ”」

 

『!!』

 

びくりと身体を跳ねさせるデミウルゴス…長ぇな。 ウルでいいか

 

『どうして…』

 

「お前の話聞いてりゃ教会関係者なら誰でも気付く だろうよ」

 

“虚ろなる神”…デミウルゴス

 

『七の至宝』(セプト・テリオン)の一つであり、 幻属性を司る古に喪われた筈の銀の至宝

 

…そして、人と同じ心を持ってしまったばっかりに 自らの手で自らの存在を消してしまった、いや、消 さなければならなかった悲しい存在

 

消えたはずの伝説の存在が何故俺に宿ったかは知ら ないが…

 

「確かにお前の言う通りだ。俺の信念が危ないなん てのは前から知ってる」

 

『なら…』

 

今なら何でコイツがあんなに縋るように言っていた のかよくわかる…コイツはただ、俺に自分と同じよ うになって欲しく無かっただけなんだ

 

「それでも…俺の心は変わらない。変えられない」

 

今までこの考え方で走って来た

 

…当然、その道中で見捨てた奴、障害としてこの手 で殺めた奴…それこそ数え切れない程いる

 

今まで俺の身近な奴以外はきっぱり切り捨てて来た …今更生き方を変えるのはそいつらに対する侮辱だ

 

…少なくとも、俺はそう思う

 

「誰かに言われてはいそうですか、って簡単に変わ れる程安い人生は送ってねぇんだよ」

 

『………』

 

「俺と同じような人生送ったお前ならわかるだろ? お前はその時、誰かに言われて変われるような軽い 思いで生きてたのか?」

 

『……そう…だね』

 

そう小さな声で答えると、ウルは俺の手に自分の手 を重ねる

 

『けど一つだけ約束して…絶対に、(わたし)と同じように はならないって…』

 

「…わかった。だから…」

 

『わかってる…言ったでしょ?(わたし)と君は一心同体だ って』

 

「…そうだな」

 

いつもの調子に戻り始めるウル

 

「…さて、さっさと戻って奴をぶっ飛ばすぞポチ」

 

『あれ?さっき(わたし)の名前完全に判明したよね!?な のに何で結局ポチ!?』

 

「うるせぇな…色々考えたんだよ俺も。ミルとかウ ルとか……んで最終的にやっぱりポチがしっくりく るかなって」

 

『何でさ!?(わたし)の名前の一文字も入って無いよ!? 訂正を要求します!!』

 

「だが断る」

 

『何で!?』

 

あ~もう、全く…

 

「じゃあウルで」

 

『女神様…割と本気で初めて貴女に感謝します…』

 

オイ、お前仮にも女神の至宝だろ。それでいいのか

 

……まぁ、ともかくだ

 

「行くぞウル……力、貸してくれるな?」

 

俺がウルに手を差し出すと…

 

『…(わたし)は常に貴方と共に。マイマスター』

 

ニヤリと笑って、迷う事無くその手を取った

 

そして、目の前が光に包まれる…

 

――――――

 

「ふぅ…全く、人間風情が(おれ)の手をここまで煩わせ るとは…」

 

アガレスは、溜め息をついて自身の“左腕”に触れる

 

…悪魔とは言え、今は人の身を仮の宿としている。 回復に時間が掛かるのは仕方のない事だった

 

しかし、その腕もようやく完全に修復し、最大の障 害であったケイジも、今や二度と溶けない氷の中

 

――今度こそ、完全なる時の氷が(おれ)のものになる

 

アガレスの頭の中はそんな想像で一杯になっていた

 

そしていざ足を進めようとした、その時…

 

ピシピシピシ…

 

背後から何かにヒビが入るような音がする

 

まさかと思い、振り返ると……

 

「『時は流れ、氷は流れる。因果変わらず、我縛ら れず』」

 

パキィィィィィン…

 

「ふぅ……」

 

『脱出成功♪』

 

「き、貴様……どうやって(おれ)の氷を…」

 

「あ?簡単な話だ。時と氷の因果を軽く“弄った”」

 

「なっ!?……」

 

(わたし)がサポートしてその程度の事が出来ない訳無い でしょ?』

 

「…“虚ろなる神(デミウルゴス) ”………!!!」

 

まるで仇を見るかのように、ケイジ……いや、ケイ ジの内に在るウルを睨むアガレス

 

しかし、当の本人達は全く動じない

 

「さて…」

 

『それじゃあ…』

 

「『第二ラウンドを始めようか…!!』」

 

氷から出て来たケイジの髪は、ウルと同じように白 銀に輝いていた


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