英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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閑話『異世界リリカル滞在記』はちっ!

~なのは達の突入から少し前~

 

「ボス!!」

 

クライフの部屋に黒服の男が慌てて入ってくる

 

「…どうした。ノックも無しに」

 

「も、申し訳ない。ですが管理局の執務官と捜査官 がまた……」

 

「そうか…“また”か…」

 

心底面倒だと言う様子でため息をつくクライフ

 

また、という事はこれまでも何度か来たのだろう

 

…だが、そうであるにも関わらず、現在管理局には クライフの名前以外のデータが一切無い

 

それが意味する所は…

 

「丁重にお帰り願え

 

…ああ、永遠の沈黙を約束させた上でな」

 

「イエス・ボス」

 

――――――

 

「ふぅ…」

 

黒服が部屋を出て行った後、クライフは深い溜め息 を吐いてソファに座った

 

…前世…と言っていいのだろうか。訳のわからない 内に生意気な青年に殺され、気付けばこの世界に立 っていた

 

初めこそ戸惑っていたが、慣れてしまえば問題ない 。むしろ、ここはクライフにとっては好都合であっ た

 

――女神の信仰がない。それどころか、まず信仰と 言うものが特にない

 

それすなわち――クライフの理想が実現できる可能 性があること

 

…信仰の内容が内容故、余り大きく広めることは出 来ないが、同志さえいれば簡単に実現できる

 

この世界に来たばかりのクライフはそう思っていた のだが…

 

やはり、何事もそう甘くはない。クライフのいた世 界…スペルビアは管理世界だった。

 

…あったのだ。七耀教会と同じような教会組織が。 聖王教会と言う凄まじく大きな宗教組織が

 

…これまでの努力は実を結び、ようやく組織と言え る程の大きさにはなった

 

…今度は、この組織を守りながら大きくしなければ ならない…!

 

「全く…人生そう簡単にはいかないものだな…」

 

そう呟いてより深くソファに身を委ねた時だった

 

「全くだな」

 

「!?」

 

パキパキパキパキ!

 

突然、聞いた事のある声が聞こえたかと思えば、即 座にクライフの足元が凍りつく

 

「……これは…」

 

忘れるはずもない。この能力、あの声、いるはずの ない場所に現れる手口…!

 

「……よォ、久しぶりだな。クライフ・ロス・ルイ クローム」

 

「“氷華……白刃”……!!」

 

忘れるはずもない。自分を殺した相手…

 

アルテリア法国星杯騎士団、守護騎士第二位…“氷華 白刃”がそこにいた

 

「何故…貴様がここに…」

 

「俺が聞きてぇよ…お前、どうやってここに来た? 何故生きている?」

 

「……知らぬ」

 

わかるはずがない。自分とて気付いた時にはこの地 に立っていたのだから

 

「ふ~ん…素直に吐いてもらったとこ悪いんだが… 俺はお前の事これっぽっちも信じてないんだわ

 

……だから“視せてもらうぞ”」

 

そして、“氷華白刃”の瞳を見せられた瞬間、クライ フの意識は闇に沈んでいった

 

――――――

 

「………………手がかりはなし、か…」

 

ケイジは、クライフの眼から彼の記憶を覗いた後、 そう呟いた

 

…結局、ケイジがわかったのはクライフの腐りきっ た思考だけ。ゼムリアに帰る方法は解らず終い

 

「………う…うぁ…」

 

「……ようやく目が覚めたか」

 

どうやらクライフも目が覚めたようで、微かだがケ イジに視線を向ける

 

…しかし、首から下が氷に包まれているため、磔に された死刑囚のようになってはいたが

 

「………貴様、貴様ァァァァァァァ!!」

 

自分が今どうなっているかに気付いたのか、クライ フが激昂する

 

「今度こそサヨナラだ…いい“悪夢”(ユメ)見れた だろ?」

 

「クソがァァァァァァ!!」

 

パキィン

 

そして今度こそクライフはその命を閉ざした

 

そして…その一部始終がフェイトに見られていた…

 

――――――

 

「ケイジ、美味しい…?」

 

「……ああ」

 

俺は今、この上なく戸惑っていた

 

…フェイトは、つい数時間前に俺が“人を殺した”瞬 間を目撃した…なのに、まるでそんな事など無かっ たかのように普通に俺に接している

 

…こう言ってはなんだが、正気とは思えない

 

俺はてっきり、すぐにでもここを追い出されるもの だと思って服を元々着ていたローブに着替え、部屋 を出ようとした

 

…その時に、玄関でバッタリ出くわしたフェイトの 第一声が「もうご飯だよ?」だった

 

…それから普通に夕飯を出され、特に会話も無く今 に至る

 

てっきり「出て行ってくれ」的な何かがあると思っ たんだが…

 

「……いいのか?」

 

「?何が?」

 

「俺を追い出さないで」

 

そう言うと、何がおかしいのかフェイトはクスリと 笑った

 

「ケイジは私に何か危害を加えるの?」

 

「……さぁ、どうだかわからないぞ?何せ“人殺し” だからな」

 

更にフェイトが笑う

 

「ケイジは大丈夫だよ」

 

「…何を根拠に」

 

「女の勘…かな?」

 

「いや、かな?って聞かれても…」

 

俺女じゃねぇし

 

「……ねぇ、ケイジ。クローンって…どう思う?」

 

「?クローンか?」

 

クローンなぁ…

 

………少し考えていたが、ふとフェイトを見ると、何 故が震えていた。それも、何かを怖がるように

 

…クローン、ねぇ…

 

「要するに、一卵性の双子だろ?」

 

「………え?」

 

「オリジナルとクローン……性格以外は何も変わら ないんだから一卵性の双子とか三つ子みたいなもん だろ。倫理云々言う奴もいるが…オリジナルがいな かったり、認めてたりしたら何ら問題ないと思うぞ ?」

 

「………オリジナルの、代わりに…なれなくても…? 」

 

「代わり?無理に決まってんだろ。性格から何から 完全に同じ人間なんて存在しねぇよ。バカかお前は 」

 

「うん…そうだね……………私は………バカだ……!!」

 

「っ!?ちょっ、フェイト!?」

 

何故か突然号泣しだしたフェイトが俺に抱きついて くる

 

一瞬テンパったが、すぐに引き剥がしにかかる

 

…しかし……

 

「……お願い、お願いだから………もう少し、このま まで……!!」

 

…そう言って泣き続けるフェイトを、俺は無理やり 離す事は出来なかった

 

――――――

 

「「…………む!!」」

 

「?どうしたですか?はやてちゃんにリーシャさん 」

 

「いや、何か不愉快な電波を…」

 

「いや、何かラブコメな雰囲気をやな…」

 

「?二人共何言ってるんですか?」

 

「「そうですよね~~」」

 

八神家に居候する事になったリーシャの方はこの上 なく平和だったそうな…

 

――――――

 

「すぅ………すぅ………」

 

「ガキかコイツは…」

 

あの後、泣き疲れたのか俺に抱きついたままフェイ トは眠ってしまった

 

「ホラ起きろ…風邪引くぞ…」

 

「んぅ~………うにゅう……」

 

ダメだこりゃ。全く起きる気配がない

 

「仕方ねぇなぁ…………って何かこんな役回りばっか りな気がする…」

 

いや、ホントに

 

そうしてフェイトをおぶってフェイトの寝室に運ん でいる最中…

 

「………ケイジ………大好きぃ……」

 

「…………」

 

そして俺はフェイトをベッドに寝かせ、そっと部屋 を出る

 

「……全く…クローゼといい、フェイトといい……俺 みたいな“ロクデナシ”の何がいいのやら…」

 

…守護騎士を受けた瞬間から、まともな死に方がで きるとは思っていない

 

……誰に知られる事も無くくたばって、誰に気付か れる事も無くひっそりと戦場で死んでいく…

 

あの時…守護騎士を拝命した瞬間、俺はそう決めた はずだ

 

「……参ったな…全く…気付いたら雁字搦めにされて る気分だ…」

 

俺はフェイトの寝言を聞かなかった事にして、寝床 のソファに戻った


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