わたしの名はロクサーヌ。
狼人族でこの春に16才になった。
秋の終わりに奴隷としてこの商館に売られ、そろそろ3か月がたつ。
自分で言うのは少し恥ずかしいけど、美人で胸も大きく少しはモテるほうだと思っている。
しかし訳あって、いまだ売れずにここで暮らしている。
わたしの両親は探索者で、狼人族が多く住む町の、町はずれにある迷宮を探索してお金を稼いでいたけれど、わたしが10才の時に迷宮内で死んでしまった。
その後、農家であった叔母のいえにお世話になり、しばらくは畑仕事の手伝いをしていたけど、13才からは迷宮探索のパーティーに参加して、少しずつだけどおかねを稼げるようになった。
探索パーティーの中では一番したっぱだったので、意見は聞いてもらえないし魔物にも後ろからこっそり攻撃しろなどと言われさんざんな扱いだったけど、それなりに頑張っていたし多少は強くなったと思っていた。
しかし、加入から2年を過ぎたある日、突然パーティーをクビにされてしまった。
居心地が悪かったし、私もあのパーティーは抜けたいと思っていたからクビにされたことにはショックは無い。
それこそ何度頼んでも、このパーティーには獣戦士が私だけしかいなかったからか、色々難癖つけてずっと抜けさせてくれなかったのだ。
それなのに、その日は探索を終えて冒険者ギルドに行くと、いきなりリーダーから「お前は今日でクビだ」って言われたので、そのことにはちょっと驚いた。
何か私をクビにしてもいい理由が出来たのか... 新しくパーティーに入る獣戦士が見つかった?
それとも色々と反抗的な態度をとっていたから、ついに堪忍袋の緒が切れたのか......
はて?と、クビになった理由を考えると、いくつか思いうかぶことはあった。
まず......
パーティーの男性メンバーたちから、なんども自分の女になるよう迫られたのを、断り続けたのが悪かったのか......
でも、好きでもない人の恋人になるなんて嫌だから仕方がないわね。
特に、いつも気持ち悪いニヤけ顔で私を見ていたあのボンボンはありえないわ。
魔物との戦闘に関して、何度か口出ししたのが悪かったのか......
でも、あのパーティーは魔物との戦い方が効率的じゃなかった。
魔物が2匹なら誰かが1匹を抑えている間に他のメンバーがまず1匹を囲んで倒すのが常識なのに、二手に分かれて戦うし、回復役は全く戦いには参加しない。
そもそも魔物を分断して1匹をより多くの人で攻撃したほうがいいのに、前に4人並んで2匹を迎え撃つから、私が入り込む隙間がない。
だから、常識を説明しただけなのに、「うしろからこっそり攻撃しろって言ってるだろ、素人が口を出すな!」とか、「そうだ!お前は黙って従ってればいいんだ!」とかは無いと思う。
それに、うしろで見ていただけの回復役が、「痛いなら手当てしてやってもいいがどうする?」って、戦闘が終わるとニヤニヤしながら近づいてくるのが本当に気持ち悪かった。
あのボンボンだけは生理的に受けつけない!
だから、これも仕方がない。
迷宮で魔物を探せないリーダーに、陰で愚痴を言ったのを聞かれていた。
そのあとすごい剣幕で怒鳴られたけど、あれがいけなかったのか......
でも、あのリーダー。狼人族なのに鼻があまり利かなくて魔物とエンカウントすることが少なかったし、魔物のいる方向を教えても「余計なことは言うな!」って怒鳴るし。
それに方向音痴のせいで、無駄に迷宮内をいったりきたりして探索が進まない。
はじめは我慢していたけど、全く悪いと思っていないようだから、「はぁ、また迷子か」とか、「はぁ、また魔物から遠ざかるし」とか、ついついグチが出るようになってしまった。
だから、これも仕方がない。
報酬の分配についてモメたのが悪かったのか......
でも、これも仕方がないと思う。
だって2年もパーティーにいたのにドロップアイテム売却金額の1割も分けてもらえないし、少し文句を言ったら「後方から参加してるだけのくせに文句を言うな!」とか、「分けまえを増やしてほしかったら、ちゃんと働くんだな。まあ、戦闘では役に立たないから、夜にからだで奉仕するのがいいと思うぞ」なんて言う人のほうが悪いと思う。
それに、「金が欲しいなら俺が個人的に恵んでやってもいいぜ」って言いながら触ろうとしてくるヤツなんてありえない。ほんと、あの僧侶は気持ち悪い!
私は不公平を訴えただけで、お金をくれって言ってる訳ではなかったのに。
実際このパーティーはとても真面目に迷宮探索しているとは思えない。
普通のパーティーは毎日朝から夕方まで迷宮探索しているのに、このパーティーは朝の集まりが遅いうえに、リーダーたちが二日酔いで急に休みにしたり、探索中に気に食わないことがあると、途中で探索をきりあげたりする。
それに、2年も探索しているのに4階層にはあがったことがない。
だからパーティーの収入が少ないし、少ないからこそ私への分配を渋っている節がある。
でも、私は空いた時間にこっそり一人で迷宮1階層や、近所の森で魔物を狩っているので、パーティーでの報酬が少なくてもお金に困ることはなかった。
もちろん贅沢出来るほどではなかったし、税金のことまで考えると、かなり厳しい状況だった。
だけど、少なくても普段の生活では、パーティーメンバーのボンボン僧侶に頼る必要は微塵もなかったのだ。
そう言えば、リーダーの知り合いらしい豪商の娘に言いがかりをつけられて、訓練試合というなの決闘を申し込まれたこともあったわね。
あのときは、相手の攻撃をさんざんかわしまくったあげくに引き分けにしたのだったけど、それが悪かったのか......
確かあのとき、相手はスピードが遅くて余裕でかわすことができたわね 。
でも、いい装備品をつけていたのか、何度攻撃を当ててもまったくダメージを与えることが出来なかった。
相手がへばって動けなくなった後に、ちゃんととどめを刺すことはできたかも知れないけど、言いがかりをつけられたことに怒っていたので、最後は相手をバカにして、決着を付けずに試合を終わりにしてしまったわね。
確か……「ほんと残念。大口叩くからどれだけ強いのか期待してたのに、全く時間の無駄。付き合って損した」って言ったのだったかな。
そのあと“勝負を投げ出すなら引き分けだ”とか何とか相手が叫んでいたような気がしたけど、私は無視して立ち去ったわね。
これは……私のほうも少しは悪かったのかな?
まあ、
いまさら理由なんてかんがえてもしかたがないから、これからどうするか考えないと。
このままソロの探索者として迷宮探索を続けるっていう手もあるけれど、上の階層にあがって強い魔物と戦わないと強くなれない。
だから、しばらくは叔母さんを手伝いながら、他のパーティーにいれてもらえないか探さなくちゃ。
私がそんなことを考えていると、リーダーは他のパーティーメンバーたちとコソコソ話し、「今日でクビなのは決定だが、お前もいきなりじゃあキツイだろう。だから明日、最後に1回だけ探索に連れてってやる」などとニヤニヤしながら言い出した。
私が驚いたあとに考え込んだことを困り果てていると勘違いしたのか。
彼らはそれにつけ込むつもりなんだ。
最近は探索中にやたら魔物や他のパーティーが居ない場所を探していたり、ボスと戦うつもりもないのに待機部屋にとどまろうとしたり、何よりメンバーたちからイヤらしい視線を向けられることが増えていた。
それに、魔物と戦っているときに僧侶が私の後ろに回り込んで、“はぁ、はぁ”と息を荒らげながらゴソゴソと何かをしていたこともあった。
さすがにそのときは魔物に集中出来ず、気持ちが悪くて振り向くことは出来なかったけど、ずっと後ろの僧侶の動きに警戒していた。
そんなことがあり私は身の危険を感じていたので、リーダーや他のパーティーメンバーの顔を見たら何を考えているのかは丸わかりだった。
コイツラの慰み物になんて絶対になりたくない!
なので私は、「いえ、結構です! 私は今日でクビですね! じゃあ私は次の仕事を探すので帰ります!
今までありがとうございました」とギルド中に聞こえるくらい大きな声で宣言した。
パーティーメンバーたちは私が突然大声で宣言したことに驚いて、「へ?、あ、いや......」と、何か言おうとしていたようだけど咄嗟に言葉にはならなかった。
私はサッと踵を返して彼らに背を向け、「前のパーティーは抜けたので、良かったら誰か私をパーティーに入れてくださーい」と叫びながら、そのまま冒険者ギルドを飛び出した。
これで周りにいた他の探索者の人たちや、カウンターにいたギルド職員にも私がパーティーを抜けたことは聞こえたはずなので、後でクビにしたことを撤回することは出来ないだろう。
私は思いがけずパーティーを抜けることが出来たことに喜び、翌日からは意気揚々と仕事を探した。
冒険者ギルドに行くと、思ったより多くのひとが昨日の宣言を聞いていたのか、それともあのあとギルド内で何かあったのかは知らないけど、ことのほか私がパーティーを抜けたことは知れ渡っていた。
だけど、なかなか次の働き口は見つからなかった。
冒険者ギルドの掲示板にはパーティーメンバーの募集がいくつも出ていたので、私はすぐに次のパーティーに入れると思っていた。
だけど、いざ加入を申請すると“一足違いで決まった”とか、“悪いが女性を募集したつもりはなかった”とか、“低階層しか入ったことがない人はちょっと...”などと言われてしまい、どこのパーティーにも入れなかったのだ。
獣戦士ギルドに入会して、探索パーティーを斡旋してもらおうかとも思ったけど、入会費を支払う余裕がなかったので、なんとか自力でパーティーを探すしかなかった。
仕方がないのでそれからは、私はソロで迷宮探索を続けながら毎日掲示板に目を通す日々が続いた。
ちょうど同じ頃、なぜか突然叔父の農園の野菜がまったく売れなくなった。
よくわからないけど、今まで卸していた八百屋が一斉に仕入れ先を変え、叔父の農園からの買取りを拒否したらしい。
そのため、叔父は借金をするようになってしまい、生活が急激に苦しくなった。
私は探索で稼いだお金を渡していたけど、私の稼ぎ程度では焼け石に水だったようだ。
そして、私が15才の秋になると、とうとう叔父は税金を払うめどがたたなくなってしまった。
生活が苦しくなりはじめてからは、叔父と叔母は毎晩私が寝たあとに、どうやってお金を工面するか話し合いをしていた。
2人は私に聞こえないようにしていたつもりらしいけど、何度か扉のそばで話を聞いてしまった。
2人は、荷車に野菜を載せて他の町まで売りに行ったり、農具を売ったり、農場を切り売りした。
そして最後は、農場で下働きしていた人まで解雇してお金を工面しようとしていたけど、どうしても事態を打開することが出来なかった。
結局叔父は私を奴隷として商館に売ることで、一時的に苦境を凌ぐことに決めたようだ。
叔母は最後まで私を守ろうとしてくれていたみたいだったけど、最後は叔父から「あの子が奴隷になるのは運命だったんだ。私たちでは守れない。諦めろ」と言われて押し切られた。
その後、しばらく叔母がすすり泣く声を、私は扉越しに聞いていた。
翌日。私は叔父から商館に売られることを言い渡された。
そのときさらに、「ロクサーヌ。お前は美人でモテるから、きっと金持ちの良い主人に買ってもらえるだろう。商館の人には決して狼人族には売らないよう約束させるから、性奴隷になることは了承しなさい」と言われた。
性奴隷……それは衝撃的な言葉だった。
私は男の人と、そういうことはしたことがないしキスすらしたこともない。
女は15歳になれば結婚する人もいるけれど、私は付き合いたいと思えるような素敵な男性には出会ったことがなかったし、そもそも恋愛そのものにあまり興味がなかった。
なので、男の人とのそういうことも、まったく考えていなかった。
だけど、やはり好きになった人と結ばれたいという理想はある。
それなのに、性奴隷ということは私の意思には関係なく、私を買った人に初めてを奪われるということになる。そして、それを拒むことも出来ないのだ……
そんなの……ひど過ぎる……
その時は、叔父を恨めしく思ったけど、この町の誰かに買われて見せ物にされるのなんて嫌だし、もとパーティーメンバーの誰かに買われて慰みものにされるなんて、もっとイヤッ!
何度も言い寄ってきたあのボンボンに触れられるなんて、考えただけでも鳥肌がたつ。
だから、狼人族に売られないのは助かる。
でも、だからと言って性奴隷なんて怖すぎる。
狼人族じゃなくても、あのボンボンみたいな男に買われたら……
すごく悩んだけど、私には税金が払えるほどお金を稼ぐ手段がなかったし、同情してくれる人はいてもお金を援助してくれる人はいなかった。
逃亡して盗賊になり、あすをもしれない暮らしをする勇気もなかったので、結局私は性奴隷になることを断ることが出来なかった。
それ以降、私は叔父や叔母とは目を合わせて話せなくなった。
そうして、冬まであと3日となった日。
私はまだ夜が明けないうちに叔父に家から連れ出され、いくつかの冒険者ギルドを経由してベイルという町の商館まで連れてこられた。
そして、性奴隷として奴隷商に引き渡されたのであった。
◆ ◆ ◆
商館に売られた頃は将来を考えて不安になり、落ち込んで無気力になってたけど……
何日かしてアラン様という商館の主人から、
「ブラヒム語や礼儀作法をしっかり学べば、お前が望まない客には売らないことを約束する。
美人で器量もよければ奴隷からめかけになれることもあるから、この商館でしっかりまなび、自分を磨きなさい」と言われた。
望まない客には売らない?本当に?
そんなこと……信用出来ない。
だって商館は奴隷を売らないとお金が稼げないし。
だいたい奴隷が主人を選ぶなんてありえない。
私はアラン様の言葉は私にやる気を出させるためだけのウソだと思い、初めのうちは取り合わなかった。
だけど、数日経って自分の置かれた状況を客観的に見れるようになり、落ち着いてアラン様が言っていたことをもう一度考えてみた。
他の奴隷のひとたちはどんどん売れていくのに、私は奴隷としての教育を受けるだけの日々が続いている。
この商館は繁盛しているようで、毎日何人もお客様が来ているのに、私は顔合わせや面接など、お客様に紹介される事がまったく無い。
私の教育が不十分だから、という可能性もあるけれど、
私と同じ日にこの商館に来たのに、昨日売られていった人もいる。
全面的にアラン様を信じる訳ではないけれど、このまま無気力でいてはダメという気がする。
これからどうなるかはわからないけど、少しでも良い主人に選んでもらうために、いま出来ることを頑張らなくちゃいけないわね。
少しずつそう思うようになり、私は前向きに勉強するようになっていった。
商館には奴隷の世話や教育をする専門のひとがいて、奴隷としての心得や礼儀作法、炊事や洗濯などの家事全般、ブラヒム語や算術など、様々なことを学ばされた。
性奴隷になるために泣きたくなるようなことも学ばされたけど、我ながら一生懸命勉強したと思う。
そのかいあってか、ふたつきほどで何処に出しても恥ずかしくないと言われるくらい家事や礼儀作法は身につけられたし、奴隷としての心得も含めてひと通りのことはなんでも出来るようになった。
すると、アラン様から
「おまえほどの器量良しなら自信をもって送り出せる。
今後はおまえが気に入る良い主人を探すから、しばらくはメイドとしてこの商館で働きなさい。そして、主人が見つかるまでは、さらに自分を磨きなさい」と言われた。
私はひと通りのことは出来るようになっていたけど、ブラヒム語だけは十全とは行かなかった。
なぜならブラヒム語は難しく、一般的な会話の言葉とは別に"ことわざ"や古い言葉の言い回しなどがある。
私が今まで使っていたバーナ語とは違ってイントネーションによっても意味が変わる言葉もあるので、しょうじき覚えきれる自信がない。
それでもメイドの仕事の合間を見つけては、一生懸命ブラヒム語の勉強に取り組んだ。
さらに、戦闘奴隷としても活躍出来るよう、毎朝欠かさずに鍛錬することにした。
それからさらに1ヶ月が経った。
ブラヒム語は完璧に扱える域に達してはいないけど、一般会話や読み書きには支障がないくらいには覚えられた。
私は奴隷になってしまったけど、戦闘奴隷として活躍すれば購入先での待遇は良くなるし、主人に気に入られて運が良ければ、奴隷身分から解放してもらえることもあると教えられていた。
なので、メイドの仕事を続けながらも日々鍛錬に励み、勉強ももっと頑張ろうって思っていた。
そんな日々をすごし...... 春まであと少しとなった。
その日......
ついに私は生涯を捧げる事になるご主人様と出会ったのでした。