ロクサーヌの想い   作:龍いち

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新メンバー受け入れ準備

わたしの名はロクサーヌ。

狼人族で16才の戦士、そしてご主人様(加賀道夫)の一番奴隷。

 

大好きなご主人様、かわいい後輩奴隷のセリーとミリアの4人で、

クーラタルの一軒屋でしあわせにくらしている。  

 

お仕事は迷宮探索。 

クーラタル、ベイル、ハルバー、ターレ、ボーデの5か所の迷宮を探索している。

 

ちなみにクーラタルは16階層、ベイルは11階層、ハルバーは14階層、ターレは13階層、ボーデは10階層を探索中。

 

盗賊団を倒してから10日が過ぎた。

 

私たちはハルツ公爵との約束?に従って、ハルバー、ターレ、ボーデの3迷宮に行くことが多くなっていたが、盗賊騒ぎの合った間はクーラタルの迷宮にもいっていた。

しかし、ご主人様が退治した今となっては、本格的に3迷宮の探索を進めなくてはいけないようで、今日も朝からハルバー迷宮の14階層を探索している。

 

昼を少しすぎたころ、ご主人様が言いだした。

「ハルバーは比較的安全だが、ターレやボーデの探索も進めなくてはならない。

ボーデの探索が一番遅れているので、今日はいまからボーデの迷宮にいく」

「かしこまりました」

「ちゃんと迷宮に入っていることをハルツ公爵にアピールしておきたいので、ボーデの迷宮いりぐち近くのデカイ木にワープする」

 

ご主人様はそう言うと、ワープゲートを開いて入って行った。

そのあとを私たち3人もついて行く。

そして、ゲートを抜けると目の前に畦道が横切っていた。

迷宮入口の手前、20mくらいのところだった。

振り返ると、この当たりでは一番太い大木があった。

 

私たちが全員いることを確認すると、ご主人様は迷宮にむかってあるき出した。

 

ご主人様はボーデの迷宮いりぐちに立っている騎士に探索状況を確認すると、探索は11階層まで進んでいると言われていた。

4、5日前は10階だったので、探索が1階層進んだようだ。

 

私たちは会釈をしながら騎士の前を通り過ぎ、ボーデの迷宮一階層の入り口の小部屋にはいった。

小部屋にはいると、急にご主人様が言い出した。

「帰りにちょっと家具屋に寄っていこう」

「家具屋ですか」   

「さすがにベッドがちょっと狭いからな。いつまでも今のままというわけにも」

迷宮探索とは全く関係ない話を急にしだしたので一瞬おどろいてご主人様の顔を見ると、微妙な表情で私たち3人を窺っていた。

 

ご主人様...... 平静を装おうとしているようですが、こんなところで言う話ではないでしょう。

違和感がすごいです。

ご主人様は、この話をする機会を窺っていたみたい...... っていうことは...... 

なにか後ろめたいことでもあるのかしら......  

 

ベッドを大きくするということで、ご主人様が後ろめたいって思うということは......

メンバーを増やす準備って思われたくないのでしょうね。しかも女性の......  

 

ご主人様なんだから、奴隷の私たちに気を使うことなんかないはずなのに......

 

本当はメンバーを増やして欲しくはないって気持ちはあるけれど、

迷宮を探索するうえで5人まではしかたがない。

なら、どうせベッドは大きくしないとダメね......

 

そこまで考えて私は答えた。

「そうですね。それもいいでしょう。私たちのためにありがとうございます」

私がそう答えると、ご主人様は少しほっとした顔をした。

 

その後、ボーデの迷宮11階層で2時間ほど探索を行い、少し早めに切り上げた。

 

クーラタルの家具屋に着くと、ご主人様はベッドを物色しながら私に聞いてきた。

「あまり大きいサイズのはないな。いまと同じような大きさのベッドをもう一つ買って、横にして並べてみようと思うのだが、どうだろう」

 

今のベッドは結構大きい。いわゆるキングサイズというベッドだ。

3人までなら十分だけど、ミリアも加わって4人で寝るようになってからは

からだがピッタリくっついた状態となり、少し暑い。

 

一人分なら小さなベッドを買えばよいはずだけど...... 

どうやらご主人様は将来的に6人で寝ることを考えているようね。

 

しかたがないとは思うけど、私はちょっとだけ意地悪を言ってみた。

「大きすぎるかもしれません」

「パーティーメンバーは、いずれ増やしていくからな」

ぐ...... ご主人様に即答されてしまった。

なんだかいつになく強気な気がする。

 

っていうか奴隷の私がこんなことを考えるなんて......

いけないわね。

ご主人様の優しさに慣れてしまっていたみたいね。

 

私は少し反省して、ご主人様に従うことにした。

「そうですか」

「そ、それに、今のベッドが無駄になるのももったいない」

ふふ、それはとってつけた理由ね。ご主人様ったら...... なんだかカワイイ。

「分かりました。そのようにしましょう」

 

「あとは、棚も一つ買っておくか」

「棚ですか?」

「ああ、そのうちみんなの服が増えるだろうし、パーティーメンバーも増やすつもりだからな」

「はい...... ありがとうございます」

私が少し沈んだ声色でお礼を言うと、ご主人様は少し焦りだした。

 

「た、棚はロクサーヌたちが使う機会が多いだろうから、三人で選んでくれ」

「いいんですか?」

「ああ、好きなものを選んでいいぞ」

「かしこまりました」

 

私はセリーとミリアを引き連れて、店の奥にある棚が置いてあるエリアに移動した。

視界の端でご主人様は店員にベッドについてなにやら聞いているようだったが、

場所が離れて聞き取れそうになかったので、私は棚選びに集中することにした。

 

「セリーはどれがいいと思いますか?」

「そうですね。先ずは何人で使うか考える必要があると思います」

「何人?」

「はい。ご主人様は今後もメンバーは増やすつもりと言っていました」

「そうですね。迷宮探索をしているのだから、5人までは仕方がないですね」

「そうです。そしてご主人様はみんなの服も増えるだろうとも言っていました。つまり、なるべく大きな物を買うか、今後も都度都度買い足すことを考える必要があると思います」

「そうですか......」

 

「あと、棚を置く場所は、いま使っている棚のとなりですよね?」

「そうですね。並べて置くほうがいいと思います」

「並べて置くなら...... 形の違う物ではなく、今の棚と同じ物にするのはどうですか?

今後もメンバーが増えて棚を買い足すなら、同じ物を並べていくほうが良い気がします」

「確かにそうですね。さすがですね」

「いえ、それほどでも。それよりミリアの意見も聞いたほうがいいと思います」

「そうですね。あまり興味がないような感じですけど一応聞いてみますね」

私がクスリと笑って答えると、セリーもクスリと笑った。

 

私はキョロキョロ周りを見回しながらウロウロしているミリアに声をかけた。

『ミリア、ちょっとこっちに来て』

『はい、おねえちゃん』

ミリアはすぐに駆け寄ってきた。

 

『今後メンバーが増えても大丈夫なように棚を買い足すのだけれど、何か希望はありますか?』

ミリアは首をかしげ、逆に私に聞いてきた。

なんで私に聞くの?って顔をしている。

『セリーおねえちゃんはなんて言ってるの?』

『セリーはいま使っている棚と同じ物を買って、並べて置く。それで足りなくなったら同じ物を買い足していくのがいいと言ってます』

『それでいいです』

やっぱりミリアは興味ないみたいね。

 

『では、私とセリーで決めますね』

『はい』

私はセリーに向き直る。

「ミリアはセリーの意見に従うって言ってます。やはり興味はないようですね」

「そうですか、ではいまウチにある物と同じ棚を探しましょう」

『ミリア、いまウチにある物と同じ棚を探して下さい』

『おねえちゃん、それならあっちにあったよ』

『えっ?』

『おねえちゃんとセリーおねえちゃんが話してたとき、色々見てたらウチのと同じのがあったの』

『偉いわ、ミリア。セリーに伝えるから案内してね』

『はい』

ミリアは自分が役に立てたことがうれしかったのか、にっこり笑った。

「セリー、ミリアが見つけているようですので案内してもらいます」

「本当ですか、無駄にウロウロしてた訳じゃなかったんですね」

私はクスリと笑ってセリーに答えた。

「偶然ですよ」

 

その後、私たちはミリアの案内で棚を見つけて家具にいたみがないか確認し、ご主人様のもとに戻った。

そしてご主人様に説明し、ベッドと棚を購入して頂いた。

ちなみにベッドもいまウチにある物と同じキングサイズのものがあった。

あまり売れるサイズではないので展示されていなかったが、裏の倉庫に在庫があったとのこと。

 

家具はすぐにいえまで運んでくれるとのことなので、私たちは家具屋の店先からご主人様のワープで帰った。

 

いえに着くとご主人様がベイルの商館に行くと言い出した。

ただし今回はメンバーを増やしに行くわけではなく、情報収集と帝都の商人を紹介してもらったお礼を言いにいくということだったので、私たちはご主人様を見送り、夕食の支度をはじめた。

 

夕食の支度を始めて少しすると、家具屋がベッドと棚を荷車に載せて運んできた。

私とセリーはミリアに料理の下ごしらえを任せ、玄関でベッドと棚を受けとった。

 

ベッドと棚を軽く拭き、その後ミリアを呼んで、棚は衣装部屋、ベッドは寝室まで運んだ。

 

2階に上げるのに苦労すると思っていたけれど、そこはセリーが大活躍。

ベッドも棚も、階段はほとんど一人で持ちあげて登った。

迷宮で重たい棍棒を振り回しているので力が強いことは知っていたけど、まさかキングサイズのベッドを一人で持ち上げられるとは思っていなかったので、すごくおどろいた。

セリーいわく、重さは大したことないけど、大きいので壁にぶつけないように振り回すのがたいへんとのこと。

なので、私とミリアが左右に着いて先導した。

 

新しく買ったベットを今のベッドに並べて置き、ベッドマットもピッタリ並べて置く。

そして、シーツ用に用意しておいた大きな布をベッドマット2枚を包むサイズにカットし、布がほつれないよう4辺を少しだけ折り返して縫う。

私は商館で裁縫を習ってはいたが、あまり得意ではなかったので苦労していると、ミリアが「私がやる」と、言い出した。

ミリアはなかなか手際がよく、あっという間にできあがった。

後で聞いた話だが、ミリアは小さいときから家で裁縫することが多く、刺繍や服を作ることもあったとのことだった。

 

私たちは家具の配置を終えると、夕飯の支度に戻った。

その後、夕飯を作り終わりダイニングテーブルに配膳していると、ベイルの商館に出掛けていたご主人様が帰ってきた。

 

「おかえりなさいませ、ご主人様」

「ただいま、ロクサーヌ」

「いかがでした?」

「ああ、アラン殿から良い情報を聞いた。夕食を食べてからみんなに相談しようと思う」

「かしこまりました。食事の準備はすぐに出来ますので、お席についてお待ち下さい」

「わかった」

私はご主人様を席に案内し、セリー、ミリアと一緒に残りの準備をおこなった。

 

◆ ◆ ◆

 

夕食を食べ終えると、ご主人様はベイルの商館で聞いてきた情報について話し始めた。

「みんな、ちょっと聞いてくれるか?」

「「「はい」」」

 

「今度の休日にオークションがあるそうだ。次のパーティーメンバーはそこで探してみようと思う。

戦力の拡充は必要だからな」

 

「分かりました」

「オークションでなら確かにいいメンバーが選べるかもしれません」

私とセリーが返事をすると、ミリアが少し考えてから「ミリアがお姉ちゃん、です」と言った。

 

「セリーはオークションのことを知っているのですか?」

「はい、知識として知っているだけですが。 

奴隷のオークションは年4回、季節の間の休日に開催されます。

各商館のメンツがかかっていますので、出品される奴隷はみな一級品だと言われています。

また、事前に出品する奴隷を確認出来ますが、その後オークション会場に入るためには高額な供託金を支払う必要があります。

ですので、入札の意思がない人が参加することは少ないと言われています。

あと、一般的に落札金額は高額になると言われています」

私がセリーに聞くと、セリーはオークションについて説明してくれた。

 

「こ、高額になるのか?」

ご主人様は少し焦りながらセリーに問いかけた。

 

「はい。オークション参加者はみな入札の意思がありますので、落札するには競り合いに勝つ必要があります。必然的に価格は上がるのです」

「そうか、つまりオークションで欲しい奴隷を買うためには、資金にいとめをつけてはダメということだな」

「そうです。商館での購入のように価格交渉は出来ませんので、資金に余裕がないと厳しいと思います」

「わかった。まあ、資金については鏡で儲けた分とこのまえ倒した盗賊の賞金でなんとかなると考えている」

「そうなんですか?」

「ああ、大丈夫だ。あとは、どういったメンバーを加えるべきかだが...... みんなから意見はあるか?」

「ご主人様のよろしいように」

私が反射的に答えると、ご主人様は微妙な顔になった。

「ロクサーヌ。俺は完璧な人間じゃない。見落としもあるから意見を聞かせてくれないか?」

「は、はい。失礼しました。少し考えさせてください」

「ああ、よろしく頼む」

 

私が次のメンバーの条件を考えていると、セリーから意見が出た。

「やはり、前衛を張れるようなメンバーが良いのではないでしょうか」

「理由は?」

「私たちのパーティーは、前衛が魔物の攻撃を抑えている間に、ご主人様に魔法で殲滅して頂くというスタイルです。16階層からは魔物が最大5匹出るようになりますので、前衛を増やしてご主人様が確実に魔法を使える環境を整えるほうが良いと思います」

「ふむ。確かにな」

 

パーティー編成はセリーの言う通りで問題ないとして、あとは本人のやる気と...... 出来れば女性ってことね。

私はそう思いご主人様に意見を言うことにした。

「ご主人様。迷宮に入って戦うことを厭わない人にして頂ければ......」

「ああ、それは大前提だな」

「あと、出来れば女性にしてください」

「え、女性? 嫌じゃないのか?」

ご主人様は私が女性を希望したことにおどろいたようで、聞き返してきた。

 

「はい...... 本当は嫌です」

私がキッパリ答えると、ご主人様はポリポリと頬をかいた。

私はご主人様の反応を見ながら言葉を続けた。

「ですが、パーティーメンバーはあと2人増やしますよね。でしたら女性のほうがいいです。

このいえのなかに...... その...... ご主人様以外の男性には、入ってきてほしくはありませんので」

「そ、そうか。セリーとミリアもそれでいいのか?」

「はい。私もこのいえにご主人様以外の男性は必要ないと思います」

「はい、です」

「わかった。では男は選ばないようにする」

 

じつはご主人様以外のパーティーメンバーを全員女性とすることについては、セリーとは合意が取れている。

ミリアが加入する少し前、ご主人様が寝てしまったあとに話をしていたのだ。

だけど、今の今までご主人様に言ったことはなかった。

なぜならメンバーが増えれば増えるほど、ご主人様に可愛がって頂くことが減ると思っていたからだ。 

だから自分からは言いたくなかったのだ。

 

でも、今回はオークションなので、私は連れて行ってもらえない。

ほうっておいてもご主人様は女性にするとは思うけど、

ここで本心を言っておかないと後悔する気がしたので、私は隠さずにご主人様に伝えた。

そして、言ってしまうと胸のつかえが取れた気がして、なんだかスッキリしてしまった。

 

ご主人様は女性のメンバーを増やすことにお墨付きを貰えたことがうれしかったのか、

顔がニヤけないよう必死に平静を装おうとして、口角があがるのを引きつりながら耐えていた。

ちょっとムッとする気持ちはあるけれど、それ以上にご主人様のことを可愛いって思ってしまった。

 

そして、ミリアは...... ぜったい雰囲気で答えただけね。

返事をしてからちょっと挙動不審になってるので、私に通訳してほしそうね。

私はどこから伝えようか迷っていると、先にご主人様からミリアに要望を言われてしまった。

「お姉ちゃんになるから頼むな」

「はい、です」

 

ミリアは即答していたが、またしても返事をしてからちょっと挙動不審になっている。

はぁ...... ぜったい雰囲気で答えただけね。

 

『ミリア、こんど奴隷のオークションがあるから、ご主人様が新しいパーティーメンバーがいないか

探しに行くことになったわ。』

『オークションに行くのですか。ご主人様はすごいです』

『そうですね。オークションは基本誰でも参加できるけど、高額な供託金が必要になります。

ですので、ご主人様が一人で行くことになります。

私とセリーは新しいメンバーに関して、ご主人様に意見を言っていたのです』

『わかりました。それに関してはおねえちゃんたちに任せます』

 

私は新しいメンバーに関してあまり興味がないミリアに対してヤレヤレと肩をすくめながら話をつづけた。

『そうですか。わかりました。

もしメンバーが増えた場合、あなたはお姉ちゃんになるから、しっかりしなさいね』

『わかりました』

 

その夜、お風呂場でからだを洗ったあと、

いままでの倍の広さとなったベッドでご主人様に可愛がって頂いた。

お情けを頂くとき、「新しいメンバーが増えるまで、たっぷり可愛がってください」というと、ご主人様は「ロクサーヌ。メンバーが何人増えても寂しい思いはさせないから、信じてくれ」と耳もとでささやいた。

そして、そのあとはイキ続けて意識が飛んでしまうまで、激しく可愛がってくれました。

 

◆ ◆ ◆

 

翌朝、ご主人様は「ウーン!」と大きくからだを伸ばしながら目を覚ました。

私はご主人様に覆いかぶさり、たっぷりキスをしてから話しかけた。

「おはようございます、ご主人様。寝不足ですか?」

「おはよう、ロクサーヌ。寝不足じゃあない。

ただ、ベッドが広くなったから、せっかくなんで伸びをしてみただけだ」

「そうでしたか」

 

するとご主人様は私をキュッと抱きしめて、耳もとでささやいた。

「ああ。だから今晩もたのむな」

「はい。たっぷり可愛がってください」

 

私が顔を赤らめながら、ご主人様のうえからどくと、

セリーが覆いかぶさって、やはりたっぷりキスをしてから話しかけた。

 

「おはようございます、ご主人様。お疲れではないですか?昨日は...... その...... 凄かったので......」

「おはよう、セリー。疲れてはいないぞ。色魔のレベルがあがったせいか、まだまだいけそうだ。それより、昨日は無理をさせたか?」

「いえ、何度も可愛がって頂き、うれしかったですし...... その...... 気持ちよかったです」

 

セリーは顔を赤くして、視線をそらしながら答えた。

いつも通り無自覚に可愛さを撒き散らしている。

ご主人様はセリーをキュッと抱きしめると、答えながらほそ耳に甘噛した。

「今晩もたっぷり可愛がるから、よろしくな」

「ひゃ、ひゃいっ!」

 

セリーがご主人様のうえからどくと、すぐにミリアが覆いかぶさってキスをした。

「おはようございます、ご主人様」

「ミリア、おはよう。昨日も可愛かったぞ」

ご主人様はミリアを抱きしめようとしたが、それはかなわなかった。

「ありがとうございます」って答えながら、ご主人様の手をすり抜けて離れてしまったからだ。

いつもの流れ、ご主人様いわくヨウシキビというものらしい。

 

私たちは着替えて、早朝の迷宮探索に出発した。

 

今朝はハルバーの14階層から探索を開始したが、何度か魔物と戦うと緊張感に欠けたのか、魔物が見えた瞬間、合図を待たずにミリアが駆け出してしまった。

すかさずご主人様はファイヤーストームをはなったが、ミリアは止まらずに真ん中のサラセニアにつっこんでしまった。

 

魔物の数は4匹。サラセニアが3匹とピッグホッグが1匹だ。

サラセニアが1匹遅れているので、少しすると魔法かスキル攻撃を仕掛けてくるはずだ。

私とセリーはあとを追って駆け出したけど、魔物たちはひとあし先に着いたミリアを囲んで攻撃し出した。

 

「セリー、右のピッグホッグを」

私は短く指示を出すと、セリーはピッグホッグとミリアのあいだにはいって攻撃し、自分に注意を向かせた。

それから少しずつ右に回り込み、ミリアから引き剥がした。

 

私は左のサラセニアを真横から攻撃したが、サラセニアはミリアへの攻撃をやめなかった。

私はミリアと左のサラセニアのあいだに強引にからだをねじ込んで、攻撃を盾でいなした。

セリーと同じように少しずつ右に回り込みながら引き剥がしにかかったが、すでにミリアは何発か攻撃を受けているようだった。

そして、前に出てこなかったサラセニアの足もとに魔法陣が浮かぶのが見えた。

 

これはマズい、この攻撃がミリアに向いたらよけられないだろう。

そう思った次の瞬間、後方から炎をまとった岩が飛んできて、全ての魔物をけむりに変えた。

ご主人様が私たちの状況を見て、メテオクラッシュを使ってくれたのだ。

 

ミリアはご主人様のメテオクラッシュを初めて見て興奮し『おねえちゃん、今のはご主人様の魔法ですか?一撃で魔物が全滅しました。凄いです』と、目をキラキラさせながら私に話しかけてきた。

私はセリーに目配せすると、彼女は小さく肩をすくめ、それからドロップアイテムの回収を始めてくれた。

 

私はミリアに向き直って一喝した。

『ミリア! 勝手に飛び出して! あなた、死にたいのですか!』

『えっ?』

『あなたが飛び出して陣形が崩れたから、ご主人様は仕方なくメテオクラッシュを使ってくれたのです。この魔法はMP消費が大きいので、ご主人様はあまり使わないようにしているのですよ。

だいいち、ご主人様にこの魔法がなかったら、あなた、本当に危なかったのですからね!』

『ご、ごめんなさい』

『私に謝っても仕方がありません。ご主人様に謝りますよ』

私はミリアを叱りつけてから、ご主人様のもとに連れて行った。

 

「ご主人様、申し訳ありませんでした」

「ご主人様、ごめんなさい、です」

「いや、ロクサーヌが謝ることはない。むしろ、セリーと連携してミリアをよく守ってくれた。ありがとうな」

ご主人様はそう言って、私の耳をなでてくれた。

 

「ミリアはロクサーヌに怒られてたから俺は怒らないけれど、おねえちゃんたちの指示はちゃんと聞くこと。それからメテオクラッシュはあてにするな。MPが足りなかったら出せないからな。あと、内密にな」

『ミリア、ご主人様の話は理解できましたか?』

『えっと、わたしがおねえちゃんに怒られたから、ご主人様は怒らない。おねえちゃんたちの言うことはちゃんと聞きなさい。メテオクラッシュは出せないから内密にする』

ミリアは指折り数えながら答えた。

『ミリア、メテオクラッシュはMPが足りないと出せないからあてにするな。あと、内密にしなさいって言ったのよ』

『わかりました』

 

「ご主人様。ミリアはご主人様のお話をおおむね理解しておりましたので、内密にすることだけ念を押しておきました」

「ロクサーヌ、ありがとう。ところでミリアはだいぶブラヒム語を覚えたようだな」

「いえ、聞くほうも話すほうもまだまだです。読み書きは全然ですし」

「えっ、いや、読み書きは俺も全然だから...... なんか済まん」

「い、いえ...... 私のほうこそ、申し訳ございません」

 

私が謝ると、ドロップアイテムを回収し終わったセリーがご主人様に話しかけた。

「そう言えば気になっていたのですが、ご主人様はとても流暢にブラヒム語が話せるのに、なぜ読み書きは出来ないのですか?」

 

「それは......」

ご主人様は一度言葉を切ると少し考えた。そして

「ここでは説明しづらいから、家に帰ってから話す」

そう言って優しい顔になり、セリーの頬をひとなでした。

セリーが真っ赤になったことは言うまでもない。

 

その後、2時間ほど探索を続けたが、ボス部屋は見つけられず打切り。

ご主人様のワープで家に帰った。

 

◆ ◆ ◆

 

朝食を食べ終わると、セリーの要望にこたえてご主人様は話しだした。

 

「俺の故郷の言葉はブラヒム語ではなく日本語と言う。その日本語だが、発音や言葉の意味は殆どブラヒム語と変わらないが、文字は全く違うのだ」

「どう違うのですか?」

私が聞くと、ご主人様はパピルスに何か文字を書き出した。少しカクカクしたカドばった文字で、なにかの記号にも見える。

 

「これは、加賀道夫と書いてある」

「ご主人様のお名前ですか?苗字が先なんですね」

「ああ、そうだ。ブラヒム語とは並びが反対だな」

ご主人様はそう言うと、さらにパピルスに文字を書き足した。

 

「これは、ロクサーヌ。これは、セリー、こっちはミリアだ」

ご主人様はさらに文字を書き足す。

「こっちから、1、2、3、4、5、6、7、8、9、0。

こっちは、魚、肉、オリーブオイル、おはよう、おやすみ......。

こんな感じだ」

「確かに違いますね。なぜなのでしょうか?」

「さあ、俺にはわからんな。だが、日本語にあってブラヒム語にない言葉がある。

探せばこの反対もあると思う。

だから、俺の祖先はブラヒム語を使う国から移り住み、長い年月で文字だけが変わったのではないか?

と考えている」

「なるほど。確かにそうかも知れませんね」

私はご主人様の説明に納得したけど、セリーはジト目でご主人様を見続けている。

「セリーは納得いきませんか?」

「いえ、文字は変わったのに意味や発音が変わらなかったのはなぜかな?って。

それと、日本語なんて聞いたことがありませんでしたので...... ちょっと考えていただけです」

「そうですか」

「セリー、悪いな。なんでそうなってるか、俺は知らないから説明出来ないのだ。

だから、理由はともかくそういうものだって思ってくれ」

「......わかりました」

セリーはわかりましたと返事をしたけど、小声でブツブツと独り言を漏らしながら考えごとをしている。

こうなると...... 

しばらくセリーは駄目ね。

 

私がセリーから視線をはずしてご主人様のほうを向くと、ご主人様もこちらを向いていたので目が合った。

ご主人様は困ったような微妙な顔をしていたので、私はちょっとほほえみながら肩をすくめてみせた。

するとご主人様も少しほほえんで、私たちに声をかけた。

「さて、そろそろ探索を再開しよう」

「かしこまりました」

 

その後、私たちはボーデの迷宮に向かった。

ご主人様が入り口の探索者に聞くと、探索は十二階層まで進んでおり、

十二階層の魔物はマーブリームとのことだった。

 

「マーブリーム、です」

探索者が12階層の魔物の名前を言うと、急にミリアが復唱した。

そして、真剣な顔でご主人様を凝視している。

するとセリーがご主人様にミリアが真剣になった理由を話した。

「マーブリームは魚人の魔物です。白身を残します」

「で、では十二階層へ案内を頼めるか」

ご主人様は探索者にハルツ公のエンブレムが入ったワッペンを見せ、

パーティーに加入させた。

そして、12階層に移動すると、探索者はパーティーから抜けて戻って行った。

 

探索者がいなくなると、セリーのブリーフィングがはじまった。

マーブリームについてひと通り聞き、基本戦術を確認すると、ご主人様は私に魔物までの案内を依頼してきた。

「ロクサーヌ。まずは数の少ない所に案内してくれ」

「かしこまりました。右に行くとたぶん一匹の所があります。かなり近そうです」

「そうか、では頼む」

 

私たちが歩き始めて1分後、マーブリームが一匹だけいた。

私たちは左右の壁際に分かれて駆け出すと、ご主人様はマーブリームにサンドボールの魔法を撃ち込んだ。

3人で囲みマーブリームの気を引いているうちに、ご主人様はサンドボールを追加で撃ち込む。

そして、4発目を撃ち込むと、マーブリームはけむりになった。

 

マーブリームがけむりになると、ミリアがドロップアイテムに飛びついた。

ドロップアイテムは白身だったので、ミリアがそのままかじりつくのではないか不安がよぎったけど、

「はい、です」と言ってご主人様に渡したのでホッとした。

 

渡したが、ミリアはニコニコしながらご主人様を見つめ続けている。

すると、すぐにご主人様は根負けした。

「今夜の夕食だな」

「はい、です」

ご主人様から望む回答を引き出せたせいか、ミリアは嬉しそうに返事をしながら頭を下げた。

 

「ご主人様。よろしいのですか?」

「ああ。今から大量に白身を拾うのに、お預けするのはこくだろう」

私が聞くと、ご主人様は肩をすくめながら答えた。

 

「そうですね。では、ミリアがはりきり過ぎないよう、私とセリーでしっかり見張ります」

「ああ。ロクサーヌ、セリー、頼むな」

「お任せください」

「わかりました」

私、セリー、ご主人様は3人で顔を合わせ、クスリと笑った。

しかし、すぐに表情を引き締め、探索を再開する。

「マーブリームは土魔法4発で倒せる。

ロクサーヌ。次からは数は多くても良いので、なるべくマーブリームが多い所に案内してくれ。

ただし、ここはまだ探索がはじまったばかりなので、あまり入り口から離れないでくれ」

「かしこまりました。では、こちらに」

 

その後、何度か魔物を狩ると、ご主人様はメテオクラッシュを使った。

ご主人様は魔物が一発で倒せることを確認すると、私に話しかけてきた。

 

「メテオクラッシュが効くということは、奥に行っても大丈夫だということだよな」

「そうですね」

「問題ないと思います」

「魔物がいるところじゃなくて、探索をしてみるか」

「かしこまりました」

 

それから、何度か魔物を狩りながら探索を続けると、凄く強い魔物のにおいがする小部屋を発見した。

 

◆ ◆ ◆

 

「ご主人様、この部屋から凄く強い魔物のにおいがします。たぶんモンスターハウスです」

「わかった、行くぞ」

「えっ! 入るのですか?」

私が驚いているとご主人様は自信満々で返事をした。

「ロクサーヌ、大丈夫だ。ちょうどさっきデュランダルでMPを回復したから、部屋に入ったらメテオクラッシュで魔物を殲滅する。そのあとのドロップアイテム回収は任せる。みんな、いいな?」

「かしこまりました」

「わかりました」

「はい。です」

「では、行くぞ!」

 

小部屋に入ると、そこには数え切れないほど大量のマーブリームが湧いていた。

私は一瞬みがまえたけど、マーブリームが動き出す前に大量の炎をまとった岩が飛んで行き、すべてをけむりに変えた。

 

「さすがご主人様です」

「あれだけ大量にいた魔物が一撃です」

「すごい、です」

私たちはご主人様をたたえたけど、返事がなかった。

 

ご主人様を見ると青い顔をして苦しそうにしていたので、私はセリーとミリアにドロップアイテムの回収を頼み、ご主人様を抱きしめて支えた。

ご主人様はアイテムボックスから強壮丸を取り出して飲み込むと、すぐに立ち直った。

「ご主人様、大丈夫ですか?」

「ああ、もう大丈夫だ」

「どうされたのですか?」

「MPが枯渇したようだ。

全体攻撃魔法のMP消費が魔物の数によって変わるとは思わなかった」

「そうでしたか。

ご無理をさせてしまい、申し訳ありませんでした」

「いや、ロクサーヌは悪くない。

俺が安易に考えていたばちが当たっただけだ。

それに、いい経験になった。

知識は力だからな」

「さすがはご主人様です」

「いや、そんな褒められるようなことではないさ。

それよりロクサーヌ、そろそろ支えはいらないから、セリーとミリアを手伝ってはくれないか?」

私はその言葉を聞いて、自分がご主人様にべったり抱きついていることに気がついた。

 

「か、かしこまりました」

私がご主人様から離れると、ミリアが嬉しそうに何かを持ってきた。

すると、ひとあし先に戻って来ていたセリーが説明してくれた。

「尾頭付きですね」

「尾頭付き?」

「マーブリームがきわめてまれに残すアイテムです」

「じゃあこれも今夜の食材ということで」

「食べる、です」

ミリアが今にもかじりつきそうな顔で尾頭付きを見ていたけど、貴重な食材なので私とセリーはご主人様に忠告した。

 

「貴重な食材なので高く売れると思いますが、よろしいのですか」

「尾頭付きは貴重なので、特別な日などに使う食材です」

私とセリーの話を聞き、ご主人様は少し考えた。

すると、ミリアは不穏な空気を感じたようで、私に話しかけてきた。

『おねえちゃん、食べちゃだめなの?』

『高いものですよ。それに1匹しかないですよね』

『少しでもいいです。お願いします』

『私の話を聞いてました?高級品なんですよ?』

『わかってます。でも...... 食べたいです』

ミリアは涙目になりながら訴えてくる。

 

『はあー......。 わかったわ。ご主人様に頼んでみるわね』

『おねえちゃん、ありがとう』

私が折れるとミリアは満面の笑みになり、急に元気になった。

 

「ご主人様。その...... やはり食べさせて頂いても」

「はははは、ミリアの説得に失敗したか。

まあいいだろう。

結構でかいから一人一尾とはいかないが、4人で分けるとちょっと少ないかも」

「少しでいいです。ミリアも少しでいいと言っています」

「尾頭付きは、家長が最初にひときれ食べ、残りを少しずついただくものです」

「そうなのか、じゃあこの一尾を分けるから、少ないけど我慢してくれ」

「ご主人様、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「ありがとう。です」

 

その後はハルバーの迷宮14階層に移動して探索をおこない、夕方、家に帰った。

 

◆ ◆ ◆

 

家に帰り夕食の準備を始めると、尾頭付きをミリアが奪い取った。

「私が作る。です」

私とセリーはご主人様を見ると、ご主人様は小さくうなずいてミリアに「任せる。うまい料理を作ってくれ」と言って、肩をポンっと叩いた。

 

私が葉野菜のおひたし、セリーが根野菜の煮っころがしを作った。

そして、ミリアは尾頭付きのあたまを落として腹がわから身を開くと、ワインと魚醤で浅く煮つけた。

 

夕食では、尾頭付きの皿をご主人様、私、セリーの順で回してひとくちずつ食べ、最後にミリアの手元に収まった。

「おおっ。これは旨いな」

「とてもおいしいです。こんなにおいしい魚は初めて食べました」

「アブラが乗っていて、くちのなかで身がとろけました。本当においしいです」

「おいしい。です」

ミリアは嬉しそうに尾頭付きの煮つけをほおばっていた。

 

「ちょっとくれ」

「はい、です」

「ミリア、ひとくちちょうだい?」

「はい、おねえちゃん」

「ミリア、私もいい?」

「はい、セリーおねえちゃん」 

私たちが頼むとミリアは尾頭付きの皿をまわしてくれる。

 

「みんなで食べる。です」

「ありがとう」

「ミリア、ありがとう」

「ミリア、ありがとう」

私たちがお礼を言うと、ミリアはニッコリほほえんだ。

「はい。です」

 

私たちは食事のあいだ中、尾頭付きをミリアから少しずつ分けてもらったので、じゅうぶん堪能出来た。

 

ミリアは嫌な顔をせずに分けてくれたけど......

なにか違うような気がする。

 

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