ロクサーヌの想い   作:龍いち

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季節がわりの休日と新しいメンバー

わたしの名はロクサーヌ。

狼人族で16才の騎士、そしてご主人様(加賀道夫)の一番奴隷。

 

大好きなご主人様、かわいい後輩奴隷のセリーとミリアの4人で、

クーラタルの一軒屋でしあわせにくらしている。  

 

お仕事は迷宮探索。 

クーラタル、ベイル、ハルバー、ターレ、ボーデの5か所の迷宮を探索している。

 

ちなみにクーラタルは18階層、ベイルは11階層、ハルバーは18階層、ターレは13階層、ボーデは12階層を探索中。

 

 

「明日は休日だけどどうする? セリーはやっぱり図書館か? 図書館も休みだろうか」

夕食を食べ終わる頃、ご主人様が私たちに問いかけてきた。

 

「お休みをいただけるのですか?」

「休日じゃないのか?」

ご主人様の言う通り明日は夏から秋に変わる季節と季節の間の休日だ。

だけど、迷宮が閉まる訳ではないし私たち奴隷が休める日ではない。

ご主人様は何か勘違いをしているのかな?

私はそう思いながら返事した。

 

「暦の上ではそうですが」

「世間一般的に?」

私が返事をすると、ご主人様は被せるように再度聞いてきた。

ご主人様はどうしたのだろう?

私が困惑していると、代わりにセリーが答えた。

 

「お店なんかは普通にやっていると思います。図書館は年中無休です。迷宮にも休みなんてありませんし」

「それもそうか」

ご主人様が返事をしたが、セリーは説明を続けた。

「休みになるのは、騎士団ですね。ギルドもカウンター業務などは休みになります。農作業も休みにする人はいました」

 

セリーの説明を聞くと、ご主人様は「ふぅー」っと息を吐いて私たち3人を見回してから宣言した。

 

「明日はオークションがある。参加費がかかるので俺だけで行ってこようと思っている。

パーティーメンバーの充実を図るのは当然のことだからな」

 

ようするに、ご主人様は自分がオークションにいくので、私たちには休みを与えたいってことかな?

パーティーメンバーを増やすことには異論はないので、あとは前に話した条件を満たしてくれれば問題ない。

私はそう思いながらご主人様に要望してみた。

 

「かしこまりました。ご主人様、是非迷宮探索に前向きに取り組んでくれる女性にして頂けますか?」

「ああ。それは基本だな。ほかに何か希望はあるか?」

ご主人様。もう女性は基本なんですね。

まあ、私たちの希望だから文句は言いませんけど、少しムッとします。

私が余計なことを考えているうちに、セリーが返事をした。

「16階層から上は魔物が最大5体出ます。やはり前衛になれる人がいいですね」

「戦士や剣士ってことか?」

「そうですね。

ロクサーヌさんがブロック、ミリアが遊撃、私がブロックかサポート役が多いので、前衛でブロックか1段うしろから前衛のサポートが出来る人材が増えるとパーティーが安定すると思います」

 

「ご主人様。出来ることなら私のように魔物の攻撃をかわすか、盾で受けるタンクタイプの人がいいです。私はセリーを1段うしろに配置して前衛のサポートをさせるのが一番安定すると思います」

「そうだな。俺もロクサーヌと同じ意見だ。セリーはあたまが良い。全体を見て、瞬時に自分が何をすべきか判断出来る。前衛から1段さがった位置に司令塔がいることの意味は大きいと思う」

「わ、私が司令塔って...... ご主人様、冗談でも評価が過大すぎます」

 

「そんなことはない。セリーなら大丈夫だ。もっと自信をもってくれ」

「そうですよ。セリーなら大丈夫です。ご主人様がそう仰っているなら間違いありません」

「えぇぇ......」

ご主人様にあわせて私もセリーを応援したのだけど、なぜか二人から微妙な目で見られてしまった。

 

「えっと...... ?」

私が二人の反応に戸惑っていると、ご主人様が首を軽く振って話を続けた。

 

「ま、まあ。とにかくお前たちの希望はわかった。

軍資金には余裕があるし、なるべく希望に沿うメンバーを探してくる」

「ありがとうございます。ご主人様。宜しくお願い致します」

 

「あと、今回は俺基準となるが、3人と気の合いそうなメンバーを探すつもりだ」

「そうして頂けると助かります」

「ありがとうございます」

「ミリアがおねえちゃん。です」

若干ひとり変な返事を返したけど、全員一致でご主人様に任せることとなった。

 

因みにミリアは今の一言を言うまでは、残ったおかずをずっと食べていた。

 

「話しを戻すがみんな明日はどうする?」

「そうですね。お休みを頂けるのは嬉しいのですが迷宮探索の方はどうしますか?感覚を鈍らせたくはないので出来れば休みたくはないのですが」

「そうだな、早朝探索は日課になっているからな」

「はい」

「では、朝は迷宮に入って、その後は休みにしよう。小遣いも出すから好きに過ごしてくれ」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます。では、私は図書館でいいですか?」

「セリーは図書館だな」

「私は、買い物などをしてのんびりすごしたいと思います」

「ロクサーヌもいつもどおりと。ミリアはどうする。どっか行きたい所とかあるか」

ご主人様が質問すると、ミリアは勢い良く返事をした。

「海、です!」

「なっ!」

「えっ!」

「......」

ミリアが海と言った瞬間、いままで和やかに話していたご主人様とセリーの顔がこわばった。たぶん私もすごい顔をしているだろう。

まさか自分が奴隷になった理由を忘れたわけではないだろうが、勝手に魚を取ったりしないかとても心配だ。

 

「大丈夫か」

「大丈夫、です」

ご主人様にミリアが大丈夫だと言ってるけど、まったく信用できない。

 

「釣る以外で魚をとることは問題視される危険が大きいと思います」

セリーもミリアが魚をとるんじゃないか、不安にかんじているようだ。

 

「やっぱそうだよな。しかし、釣りがあるのか」

「はい。釣りは貴族や引退生活者の趣味として認知されています。貴族や有力者がやるため、釣りで魚を獲ることは漁業権の例外として認められています」

「海釣りもあるのだろうか」

「祖父が海に行くと言っていたので、あると思います。帝都に釣具屋があるはずです」

セリーの言葉を聞いて少し考えると、ご主人様はミリアに向き直った。

 

「じゃあ、ミリアは釣りでもやってみるか。

釣りだ。釣り」

ご主人様が話しながら身振りで両腕を上下させると、彼女はすぐに理解したようだ。

「はい、です。釣り、です」

ミリアはうれしそうに返事をしてるので、これならたぶん大丈夫ね。

 

◆ ◆ ◆

 

翌朝、日課の早朝探索のあとに朝食を取り、

そのあとご主人様のワープで帝都の図書館に来た。

話には聞いていたけど、すごく広い。

こんなに広い建物のなかには一体どれだけの本があるのでしょう。

私は本にはあまり興味がないけれど、本好きなセリーには夢のような所でしょうね。

 

セリーはご主人様に挨拶して図書館の受付に向かったけど、なぜかすぐにこちらに戻ってきた。

そして、受付で聞いてきてくれたらしく、私たちに釣具屋の場所を教えてくれた。

さすがセリー、気が利くわね。

ご主人様へのアピール成功ってところね。

私はご主人様に気づかれないよう小さくうなずきながら右手を少しあげて拳をグッと握ると、彼女もそれに気づいたのかニッコリと微笑んで一礼し、再び図書館の奥に向かっていった。

 

私たちは図書館を出て10分ほど歩くと、割りとあっさり釣具屋が見つかった。

店頭に釣竿が何本も置いてあるので、間違いないだろう。

「あそこのようですね」

「ああ。そのようだな」

私が指差すと、ご主人様は返事をしながらうなずいていた。

 

店に入ると「いらっしゃいませ」と元気よく店員が声をかけてきた。

ご主人様は早速その店員を捕まえて釣具の説明を聞きながら、楽しそうに道具を物色しだした。

ミリアも楽しそうに道具を選んで店員の説明を食い入るように聞いていたけど、ブラヒム語が分からないのにちゃんと理解出来ているのか心配になったので声をかけた。

『ミリア。店員さんの説明は理解出来ますか?』

『だいたいわかるけど...... 少しだけわからない所があるので聞いてもらってもいい?』

『わかったわ』

それからミリアがわからないことがあるたびに通訳して店員に確認し、

それを伝えると、彼女はコクコクとうなずいていた。

 

『もう大丈夫。夕食の魚は任せてください』

釣り道具を選び、ひと通り使い方を教えてもらうと、ミリアは自信満々に宣言して胸をはった。

 

『わかったわ。頑張ってね』

私の返事を聞くとミリアは「はい。です」とブラヒム語で返事し、グッっとこぶしを握った。

 

その後、ご主人様に釣り道具を一式購入して頂いてから3人で手分けして道具を抱え、図書館に向けてあるき出した。

途中、私はミリアに、釣れなくても海に入って魚を取らないよう少しだけキツく注意すると、彼女は顔を引きつらせながらもコクコクとうなずいた。

 

図書館に着くと、釣り道具を抱えた私たちは変に目立ってしまった。

場違い感がハンパない。

ご主人様も同じ思いだったのか、壁にワープゲートを開いてそそくさとくぐっていったので、私とミリアも慌ててあとを追った。

 

ワープゲートを抜けると潮の香りがした。

ハーフェンの港近くの大木に移動したようだ。

 

ご主人様は周りを見回して一人のエルフを見つけると、

近づいて話しかけた。

「この辺りで釣りをしても大丈夫か」

「はい。釣りはどこで行うことも認められております。この先にある磯などはなかなかよいポイントのようです。以前釣りに来た人がよく釣れたと言っておりました。岩場で網を入れにくいので魚も多くいるようです」

「この先か。行ってみよう」

私たちはご主人様に連れられて磯に移動すると、ミリアが真剣な表情で辺りをうかがいだした。

そして、海を覗き込みながら「魚がいる、です」と言って目を輝かせた。

「じゃあミリアはここで釣りをしているか」

「はい、です」

ご主人様はミリアに皮の帽子をかぶせると、小遣いの銀貨五枚を渡した。

そして、午後に迎えに来ることを伝えてから、私と家に戻った。

 

家に戻ると、ご主人様は今更ながらミリアを心配して、私に声をかけてきた。

 

「大丈夫だろうか」

「大丈夫でしょう。あの村なら言葉の通じる獣人もいます」

「確かにそうだな」

ご主人様はひとつうなずくと、改めて私に向き直った。

「ロクサーヌには銀貨十枚を渡しておこう」

「えっと。私だけ、よろしいのですか」

「ロクサーヌは一番奴隷だからな。特別だ」

「はい。ありがとうございます、ご主人様」

ご主人様は私に銀貨十枚と家の鍵を渡すと、不意に私を抱き寄せた。

そして、優しくキスをしてくれた。

「それでは行ってくる」

「はい。いってらっしゃいませ。いいパーティーメンバーがいたら、お願いしますね。

だ・ん・な・さ・ま♥」

私が返事をするとご主人様は頬を赤らめ、もう一度、今度は舌を絡めて熱くキスをしてくれた。

ご主人様は私を蕩けさせると、「ロクサーヌも楽しんでおいで」と耳もとで優しくささやいてからキビスを返し、ワープゲートを開いて出かけていった。

 

私はぽーっと呆けながらご主人様を見送ったあと、ハッと我に返って家の戸締まりを確認し、玄関から外に出て鍵をかけた。

 

今日は天気が良いが、ときより少し風が吹くせいか暑すぎなくてすがすがしい。

私は「んっ!」と背伸びをしてから深呼吸して、畑の手入れをするため庭にまわった。

 

庭にまわると、そこからハーブの良い香りが漂ってきた。

あまりこまめに手入れをしているわけではないけど、うちのハーブはみな青々として、元気に育っている。

 

私は畑の雑草を抜き、貯水槽から水を汲んで水遣りをした。

畑では数種類のハーブを育てているけど、まだ半分以上あいている畝がある。

この家を借りたあと、庭の3分の2を半日かけてご主人様と二人で耕した。

耕したあとご主人様は畝を作り、私は木の杭と縄で簡単な柵を作って畑にしたのだけど、いざ世話役のおばさんから頂いた種を植えると、半分以上の畝が余っていたのだ。

するとご主人様は、フゥーっと大きく息を吐いたあと、

「大き過ぎたな......」とつぶやいた。

そのあとは、なぜか可笑しくなって二人でクスクスと笑いあってしまったわね。

私はそのことを思い出し、一人でクスリと笑ってしまった。

 

このあいている場所で何を育てようか、良い種があったら買おうかな。

どうせ育てるなら野菜が良いと思うけど、野菜の種なら農家から譲ってもらったほうが確実ね。

売ってる所が見つからなかったら、世話役のおばさんに農家を知っていないか聞いてみよう。

 

私は色々考えながらも畑の手入れを終えて手を洗い、そのまま買い物にでかけた。

 

◆ ◆ ◆

 

休日のせいか意外と道に出ている人が多く、私は何度か近所の人に挨拶しながらクーラタルの町の中心に向かって歩いていた。

 

種も探したいけど、とりあえず最初にミリアの服を探してみようかな。

この前ドブ浚いで汚れた服は洗ったけど、ヘドロのにおいを取るためにゴシゴシ洗い過ぎてしまったから、生地をだいぶ傷めてしまっていた。

早目に買っておかなきゃって思ってたから、ちょうどいいわね。

あと、どんなメンバーが増えるのかわからないけど、食器や日用品は買っておいたほうがいいかな。

服は...... どんな娘か見てからか......

 

そんなことを考えながら歩いていると、急に私の前に二人の男が立ちはだかった。

私は二人を避けて進もうとすると、二人のうち一人が横にスライドして私の進路をふさいだ。

そして、その男が話しかけてきた。

 

「かわいいね。いまから俺たちに付き合わないか?」

顔をあげて見ると、私より少し背の高い人間族。

ご主人様よりも少し高いかな?

ぱっと見、20才くらいだろうか。

ねっとりとした気持ち悪い視線で私の胸を見ている。

 

「お断りします」

私が即答すると、もう一人の男も口を開いた。

 

「俺たちについてくればいい思いさせてやるぜ」

となりの男も同じくらいの歳に見える人間族。

ふたりともチンピラ風で下品に顔をニヤつかせており、言葉遣いも良くない。

この辺りでは見たことのない男たちだ。

 

6区は住宅街で比較的治安は良いはずなので、こんな人たちが住んでいるとは思えない。

おおかた他の地区に住んでる人で、仕事が休みでやることがなく適当にうろついていたところ、私を見かけて声をかけたってところかな......

私より強い感じはしないから、多少痛い思いをさせて追っぱらってもいいのだけど......

あとでご主人様に迷惑がかかったら申しわけない。

ムッとするけどなるべく穏便に済ませたほうがいいわね。

私はそう考えてもう一度丁寧に断ることにした。

 

「もう一度言いますが、お断りします。

申しわけありません。急いでいますので失礼します」

私はきっぱり断わったのだけど、男たちは引き下がらなかった。

 

「つれないこと言うなよ。ちょっとぐらいいいだろ」

「いえ。まったくつきあう気はありません」

私が完全拒否をすると目の前の男の顔つきが一瞬変わった。

しかし、男の視線が少しさがると、勝ち誇ったように再び顔をニヤつかせた。

 

「フンッ!生意気な女だな。だがなあ......ククククッ。

首輪なんかつけて...... おまえ、奴隷だろ」

何を勘違いしているのか、私が奴隷と気づいて態度が大きくなったようだ。

「そうですがなにか?」

「奴隷のくせに一般人に逆らっていいと思ってるのか?躾がなってねえな」

ああ。やはり勘違いしているのね。

奴隷は身分が低いから一般人には逆らえないものだって。

 

「奴隷は身請けして頂いた主人に尽くすものです。どこの馬の骨ともわからない人の言うことは聞きませんよ」

私が引かずに言い返すと、男はニヤケ顔をこわばらせた。

そして、今度は威圧的な態度で私を脅してきた。

 

「はあっ?ほんとに生意気だなっ!

どうせ年寄りの軟弱ジジイに飼われてんだろ」

「違います。私のご主人様は年寄りでも軟弱でもありません」

「フンッ!どうだかな。あやしいもんだぜ。

それより奴隷が揉め事を起こしてもいいのか?

ご主人様ってやつに迷惑をかけたら、あんたが困るんじゃないのか?

俺はここで騒いだっていいんだぜ」

男はそう言うと薄ら笑いを浮かべ、私に向かって一歩踏み出した。

私は距離を取るため一歩あとずさりながら、警告した。

 

「なんと言われてもあなたのような人と付き合う気はありません。これ以上私の行く手を遮るなら許しませんよ」

私の言葉を聞くと、男は再び顔を引きつらせた。

「ああっ?どう許さないってんだ?

奴隷のくせに、俺に何か出来るとでも思っているのか?

ちょっと可愛いと思って優しくしてりゃあつけあがりやがって」

「つけあがってません。警告しただけです」

「ああっ?警告だぁ?

ふざけるな!いたいめ見ねえとわからねぇみてぇだな。

俺がてめえの種無し主人にかわって気持ちよくしてやろうって言ってん...... グヘッ!」

男は激昂して叫びながら掴みかかってきたので、私はその手を躱しながら一歩踏み込み、最後までしゃべらせずに男の腹を殴った。

 

さっきは[ちょっと痛い目に合わせれば]なんて、手加減することを考えていたけど、男の吐いた言葉に一瞬殺意が湧いてしまい、気づいたら拳を振り抜いていた。

男はからだをくの字に曲げて2メートルほど吹っ飛び、そこからさらに3メートルほど地面に転がった。

そして嘔吐しながらその場で腹を押さえてうずくまっている。

ここ数ヶ月、迷宮でご主人様に鍛えて頂いたかいもあり、力が強くなっているようだ。

あ、セリーがメンバーにいるのも効いているのかな?

 

それはともかく少しマズいかな。

ご主人様の悪口を言われてあたまに血がのぼってしまい、思わずやり過ぎてしまったわ。

でも、全力ではなかったつもりだし、ご主人様の悪口を言ったのだから、まあいいわね。

死ななかっただけありがたいと思ってほしいわ。

下手にしたてにでて付け込まれても面倒だから、このまま押し切るしかないわね。

私は一瞬考えてそう結論づけ、言葉で追撃した。

 

「ずいぶん軟弱ですね。ハッキリ言って拍子抜けです。

痛い目ですか?

そのような口は、一撃で魔物を倒せるくらい強くなってから言ってください」

私はそう言いながらもう一人の男をキッと睨むと、さっきまでの態度とはうってかわり、あきらかに動揺していた。

 

「なっ、なっ......」

「今すぐそこの男を連れて私の前から消えなさい。

でなければ本気で殴りますよ。

それと、あなたたちの顔は覚えました。

次にご主人様を見くだすような言葉を吐いたら......

首と胴体にお別れしてもらいますからね」

私はそう言いながら自分の首に手刀を当てて横に引き、ニッコリと微笑むと、もう一人の男は「ひっ!」っと短い悲鳴をあげてきびすを返した。

そしてうずくまっていた男にかけ寄り、小声で「あの女、笑ってるけど目がやべえ。逃げねえとマジでやられるぞ」って言いながら、肩を貸して助け起こした。

殴られた男は何か言いたそうにこちらを睨んできたけど、私と目が合うとサッと視線をそらし、「チッ!」と舌打ちしてそそくさと逃げていった。

 

私はふぅっとひと息整えると、周りから拍手が起こった。

一部始終を何人かの人が見ていたのだ。

「よくやった」とか、「いやー、お嬢ちゃん強いね」とか、「あのお姉ちゃんカッコいい」とかいう声も聞こえてきたので私は急に恥ずかしくなり、

「お騒がせしました」と言って一礼し、その場を去ろうとすると、不意に名前を呼ばれた。

 

「ロクちゃんだっけ。ケガはないかい?」

呼ばれたほうを向くと、そこには世話役のおばさんの旦那さんがいた。

「あ、はい。大丈夫です。ご無沙汰しております」

「ご無沙汰?アハハハ。妻からよく話を聞くから、ご無沙汰なんて感覚はなかったなぁ」

「そうですか。奥様とは仲良くさせて頂いております」

「毎日迷宮に入っているだけあって、やっぱり強いんだね。でも、ああいうときは、最初に周りに助けを呼ばなくちゃだめだよ」

「周りにですか?」

「そうそう。ここは町中にも魔物が出るんで、鍛えてるヤツが多いからね。

特に6区の住民はみんなロクちゃんたちの味方になると思うよ」

「そうですか?」

「ああ。間違いないよ。

君たちは近所付き合いがいいし、皆んな礼儀正しいって妻が褒めてたからね」

「ありがとうございます」

「途中からしか見てないけど、さっきのヤツらは君を誘おうとして拒否されてもめたってとこじゃないの?

休日になると、他の町からやってきて悪さをする若いヤツがたまにいるんだよね」

「はい。そのとおりです」

「やっぱそうだったか。

なら、そういうヤツらは意外と周りを気にするから、囲まれたら捨て台詞を吐いて逃げてたと思うよ」

「そうなんですか?」

「まあ、変にもめたりケガしても損だから、次からは無茶はしないようにね」

「わかりました。次からは頼らせて頂きます」

「おう。

じゃ、俺は仕事に戻るから気をつけてな」

そう言うと、世話役のおばさんの旦那さんは道端に置いてあった薪の束を抱え込んで鍛冶工房の方に歩き去った。

たぶんいつでも助けられるように、荷物を置いて見守っていてくれたのだろう。

そう思うと、何だか少し嬉しくなり、気づくといま懲らしめた男たちから受けた嫌な気持ちは消えていた。

ただ、時間を無駄にしたのは残念なので、私は気をとりなおして洋服屋に向かって歩き出した。

 

数日後、クーラタルのまちなかを歩いていると、世話役のおばさんに呼び止められた。

そのとき、「ちょっとロクちゃん。こんどはゴロツキ2人をボコボコにしたんだって?殴られた男が5mくらい吹っ飛んだって聞いたわよ!」って楽しそうに大きな声で言うもんだから、周りの人たちにすごい目で見られてしまった。

そして、何より隣りにいたご主人様に、「えっ!」と驚かれて身を引かれてしまい、一瞬悪魔でも見たような視線を向けられてしまったことがショックだった。

 

私はご主人様と世話役のおばさんに、そのときの状況を詳しく説明して頑張って誤解をといたのだけど、気づいたら周りからヒソヒソと話す声が聞こえ、私たちをチラチラ見ているひとたちがいた。

 

そして......

 

後日、クーラタルの町に新しい噂が広まった。

なんでも「トロールなみの豪腕美人奴隷がいて、絡んだ男は5mもぶっ飛ばされて憤死したらしい」とのこと。

 

“トロールってなによっ!あと、殺してないからっ!”

その噂を聞くたびに、私が心のなかで盛大に突っ込むようになったことは言うまでもないだろう。

 

◆ ◆ ◆

 

クーラタルの中心まで来ると思った以上に人が多く、凄く活気付いていた。

すっかり馴染みになった店でミリアの服を選んでいると、いつもの店員さんが忙しそうに客の相手をしていた。

私は選んだ服を買うため店員を呼び、服を渡しながら「お疲れ様です。今日は混んでいて大変そうですね」とねぎらいの言葉をかけると、「季節がわりの休日は近くの村や他の町からも人がやって来るんで、いつも混んで忙しくなるんだよ」と言っていた。

私はクーラタルでの休日は初めてだったので、少しびっくりしたけれど、店員は「今日はかきいれどきだから気合が入るぜ」と言って、フンッ!と気合を入れなおしていた。

 

服屋での買い物を済ませて次に雑貨屋に寄ったら、この店も混んでいた。

どこの店も今日は忙しそうだ。

雑貨屋でも種は売ってたけど、あまり良い物がなかったので、小物をちょっとだけ買ってすぐに店を出た。

 

それからいつもは行かない通りの店も見てまわった。

何軒か店をまわったあと、商業ギルドの近くを歩いていると、突然うしろから声を掛けられた。

 

「ロクサーヌ?」

振り返るとそこにはベイルの商館でお世話になったおばさんが立っていた。

私はなんで彼女がこんな所にいるのか疑問を持ちつつも、「ご無沙汰してます」と挨拶した。

 

「あなた、こんな所で何してるの?

あっ、もしかしてオークション?」

オークション? そうか、おばさんは私がご主人様と一緒に商業ギルドに来ていると思っているのか。

以前ご主人様はアラン様もオークションに出品すると言っていたので、たぶんおばさんは世話係としてついてきてたのね。

おばさんに会えたのはうれしいけど、ご主人様の秘密は漏らさないように話さないといけないわね。

 

「いえ。今日はご主人様だけオークションに参加しているので、私は日中はお休みを頂いてます」

「えっ!お休み?」

「はい。お休みです」

「で、こんな所で何してたの?」

「買い物してました」

「買い物ってお金は?」

「ご主人様からお小遣いを頂きました」

「お小遣いって...... 

あなた、どうしてお小遣いなんてもらえるの?

アラン様から一番奴隷になったって聞いてはいたけど、

だからって、身請けされてから半年やそこらでお休みやお小遣いなんて......」

「そうですね。聞いていた奴隷像からは、かけ離れた生活をさせて頂いております。

それもこれもご主人様が強くて賢くて、そしてとってもお優しいかただからです。

私は奴隷ですが、毎日幸せに暮らしています」

「優しいって...... 

あなたの主人は確か若い冒険者のはずだったわね。

もしかしてお金持ちの家のご子息だったの?」

「済みません。ご主人様のことはお答え出来ません」

「はぁ〜。それもそうね。

ところでセリーはどうしているの?」

「元気に一緒に暮らしてますよ」

「そう。なら良かったわ。

あなたと一緒なら大丈夫だとは思うけど、あの子はじゅうぶんな教育が出来ていないうちに身請けされたし......

それに、なんていうか後ろ向きで、自分に自信が持てていなかったから、ちょっと心配だったのよ」

「そうですか?セリーはとても優秀ですよ。

彼女は家でも迷宮でも大活躍ですし、家ではみんな仲が良いです。

何も心配いらないと思います」

「そうなの。わかったわ。これからもみんな仲良くね。

私はそろそろアラン様の所に戻らなければならないから、元気でね」

「はい。おばさんもお元気で」

サヨナラの挨拶をかわすと、商館のおばさんは商業ギルドに入っていった。

 

あそこには今、ご主人様がいるはず。

パーティーを組んだままだから、どこにいるか分かるんじゃないかな?

そう思って商業ギルドを眺めると、ギルドの2階からご主人様の気配がした。

あ、いた♥

私はうれしくなってそのまま気配を感じていると、しばらく動かなかった気配が急に移動しはじめた。

もしかして、そろそろ家に帰るのかな?

 

私はなんとなくそんな気がして、すぐに家に帰ることにした。

 

あとで聞いたところ、ご主人様はちょうどこのときベスタを競り落としたので、契約するため奴隷商の控室に移動したとのことだった。

 

◆ ◆ ◆

 

足早に帰宅して家の鍵を開けると、リビングのほうからご主人様ともう一人誰かの匂いがした。

 

「ただいま帰りました」

「おかえり」

「あ。よかったです。

ご主人様がいるような気がしたので、急いで帰ってきました」

そう言いながら小走りでご主人様に近づくと、

となりに立っていた女性を紹介された。

 

「紹介しよう。彼女はベスタ。今日から仲間になる」

 

大きい......

私よりあたま2つ分は背が高いから、2メートル以上はあるんじゃないだろうか。

近づくと、ちょっと見上げるようになってしまう。

褐色肌で燃えるような赤い髪をしており、とても強そうな女性だ。

それにしても胸が凄く大きい。

またセリーが呪いの言葉を吐き出しそうね。

 

「背が高いですね。頼りになりそうです」

「はい。戦闘でも役に立ちたいと思います。

よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いしますね」

ベスタに挨拶すると、今度はご主人様がベスタに私を紹介してくれた。

「ベスタ、彼女はロクサーヌ。一番奴隷だ」

「一番奴隷ですか。すごいです」

ベスタは一番奴隷の意味がちゃんとわかるようね。

ご主人様はベスタの反応にちょっと微妙な顔してるけど、とりあえず流すようね。

 

「俺の言うことは聞かなくてもいいけど、ロクサーヌの言うことはちゃんと聞くようにな」

「ええっと。はい」

ご主人様の言うことを聞かなくていいなんて普通は許されないことだから、ベスタはだいぶ混乱してるみたい。

でも、ご主人様の優しさに慣れたときに変に調子に乗らないよう、私がしっかり指導しないといけないわね。

とりあえず一言釘を刺しておきましょう。

 

「優しいご主人様ですので、誰も手を上げられたりしたことはありませんが、だからといって増長しては駄目ですよ」

私はベスタの目を見ながら軽く注意すると、彼女は神妙な面持ちで「はい。大丈夫です」と返事をした。

大柄なのでぱっと見は落ち着いて見えたけど、実際はかなり緊張してるみたいね。

「まあ仲よくやってくれ」

「はい、ご主人様」

「かしこまりました、ご主人様」

 

私は返事をしてから改めてベスタを見た。

大柄で胸が大きく赤い髪が特徴的だけど、体格の割に顔は小さく容姿も整っている。

そして、髪色と同じ光彩をはなつ瞳がとても綺麗だ。

「すごく大きくて綺麗ですね。さすがはご主人様が選んだ人ですね」

「ロクサーヌさんもすごく素敵です」

私がベスタをほめると、彼女は私をほめ返した。

たぶん真面目な性格なんだろう。

 

「ありがとうございます」

彼女に褒められたお礼を言うと、彼女はキョトンとした顔になった。

その後、彼女に家の中を案内してひと通り覚えさせ、キッチンでハーブティーをいれた。

それからダイニングテーブルの座る場所を教えて着席させて一息つくと、彼女は少しためらいながら小声で私に質問してきた。

 

「あの、ご主人様って探索者ですよね」

「そうです」

「フィールドウォークを使ったみたいなのですが」

私はなんと答えて良いか迷ったので目の前にいるご主人様のほうを見ると、ご主人様は興味深そうに私を見ていた。

 

ご主人様のイジワル..... 

なんて説明すれば良いのですか......

私はちょっとだけ考え、

まあ、この件に関しては悩んでも仕方がないわね。っと結論づけた。

 

「ああ。……えっと。ご主人様はご主人様というジョブだと思ってください」

「そうなのですか」

私の答えにベスタは混乱しているようなので、「この程度で驚いていてはやっていけません。あと、これらのことは他言無用です。内密にお願いしますね」と、少し強めに彼女に伝え、覚悟を促すよう指導した。

ベスタは私とご主人様を交互に見て狼狽していたけど、ご主人様がうなずくと「は、はい」と返事をした。

 

「それでは、必要なものをそろえた方がいいでしょうから、三人で買い物に行きませんか」

「そうだな」

「えっ?」

「ん?」

「あ、いえ。なんでもありません」

ベスタへの指導が終わったので買い物に行くことを提案すると、ご主人様はあっさり了承した。

ご主人様のことだから「このままベッドに直行」なんて言うんじゃないかと

ほんの少しだけ期待してたので、あっさり了承したことに動揺してしまった。

「まあ買い物にはいくけど、その前にもう少しだけベスタと話しておこう」

「分かりました」

ご主人様は少しだけ訝しそうな顔をしたけど、気を取り直したのか何もなかったかのように会話を続けた。

 

「ベスタは、武器は何を使う」

「器用な方ではありませんので、得意とする武器はありません。竜人族の人はたいていどんな武器でも力任せに振り回すだけだそうです」

竜人族?!

どうりで大きいと思ったら、そういうことだったのか。

 

私が何年か前に見た竜人族は男性で、確か身長は私の倍以上だったはず。

その頃の私は今よりも少し背が低かったけど、大木を見上げるくらい大きい人だったって記憶がある。

ベスタは確かに大きいけど、たぶん竜人族にしては小柄なほうなんじゃないのかな?

そんなことを考えていると、唐突にご主人様から話を振られた。

 

「大盾というのは見たことがないな。ロクサーヌはあるか」

えっ!大盾?

私は先ほど思い出した竜人族の男性をもう一度思い出した。

確か大きな剣と特別大きな盾を持っていた。

 

「えっと、何年か前に竜人族のかたが特別大きな盾を持っているところなら見たことがあります。

きっとあれが大盾だったのでしょう」

「大盾は竜人族以外の人はあまり使いませんので、広く出回ってはいないと思います」

 

私の答えにベスタが補足すると、ご主人様は大盾の入手方法を模索しだした。

しかし、話をしているうちにベスタの両親がともに奴隷だったことを知ると、なぜか視線が泳ぎ救いを求めるように私を見てきた。

別に両親が奴隷なんて珍しくもないので私は平然としていたけど、ご主人様は申しわけなさそうな顔になってしまった。

優しいご主人様のことだから、きっと生まれたときから奴隷だったベスタの境遇に同情しているのだろう。

 

その後、ベスタが「種族固有ジョブである竜騎士になると、片手に両手剣、片手に大盾を持つことができるそうです。両手剣を二本持つ竜騎士もいるみたいです」と言うと、ご主人様は目を輝かせて「二刀流か!」と言いながらグッと身を乗り出した。

どうやらご主人様のなかでベスタは二刀流でいくことが決まったようだ。

 

「装備に関してはセリーに聞いてみる必要もあるから、しばらくはあるものでいいだろう」

ご主人様の考えに私が「はい」と同意すると、ベスタはうなずきながらもちょっと首をかしげていた。

ベスタはパーティーメンバーのことは知らないので、セリーと言われてもわからないのだろう。

 

「セリーはとても物知りなドワーフです。装備品のこともよく知っています。パーティーの戦い方や作戦のことなどについては、セリーにまかせておけば間違いありません」

「そうなのですか」

私が簡単に説明するとベスタは納得したようだ。

 

「じゃあ次は、こっちのイスに座って、足首を出せ」

「足ですか?」

ご主人様はベスタを手招きし、彼女がおとなしくイスに座ると身代わりのミサンガを足首に巻いた。

ご主人様はミサンガを巻きながら「セリーが作ってくれた装備品だ」と告げ、セリーが鍛冶師であることを伝えると、

「か、鍛冶師……様なのですか」と動揺し、私に対してもロクサーヌ様と[様]をつけだしたので、私もセリーもご主人様の奴隷なので[様]は必要ないと諭してあげた。

すると今度は、ご主人様が鍛冶師の奴隷を所持していた事に大変驚き、改めてご主人様の凄さに気づいたようだった。

 

そのあと「まあそんなに堅苦しく考えるな」と、ご主人様が優しくベスタの肩をたたくと、少し緊張がほぐれたようだったけど、

たったいま足首に巻かれたミサンガが身代わりのミサンガであることを教えると、再び驚愕の表情に変わった。

 

「すごく貴重な装備品だと聞いたことがあるのですが。以前の主人がなんとか手に入れようと必死になっていたのを覚えています」

「貴重といえば貴重なの、か?」

ご主人様が小首をかしげながら私に聞いてきた。

ご主人様のこういうちょっと世間の常識とズレている所も好きだなぁ......

なんて思いながら、この国では常識となっている内容の返事をした。

 

「はい。私もご主人様の所に来るまでは見たことがありませんでした。普通は奴隷が着けるような装備品ではないと思います」

ご主人様は私の返事を聞いてひとつうなずくと、「だそうだ」とベスタに答えた。

すると、彼女はご主人様と私を交互に見て、ひどく混乱しており、「そんな貴重なものを着けていただいてもよろしいのでしょうか」と困惑しながらも確認してきた。

 

「大丈夫だ」

ご主人様が答えると、彼女は「大丈夫......ですか......」とつぶやきながら私を見たので、「大丈夫です。ご主人様ですから」と答えると「はぁ......」と間の抜けた声を漏らした。

 

しかし、次の瞬間ハッと目を見開いて、「ではロクサーヌさんも?」と聞いてきたので、「はい。つけていただきました」と返事をした。

そして、ズボンの裾をまくって身代わりのミサンガを見せてあげると、彼女は少し安心したようでハァーっと大きく息を吐き出した。

 

ご主人様はベスタが少し落ち着いたことを確認すると、「じゃあちょっと待ってろ」と言いながら席を立った。

そしてダイニングを出て行こうとしたので、彼女は慌てて立ち上がり、「はい。あの、ありがとうございます」と言いながら勢い良く頭を下げた。

 

ご主人様がダイニングを出て行ってもベスタは頭をあげなかったので、「ベスタ、頭をあげなさい。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」と声をかけた。

 

「ロクサーヌさん。私、ご主人様にどう接していいかわかりません。前の主人とあまりにも違い過ぎます」

「あなたの前の主人がどのような方かは知りませんが、ここでは普通のことです」

「ですが、あまりにも大事にされ過ぎています。

普通、こんなことはありえませんので、なにかひとつでも対応を間違えるとどうなってしまうのか......とても怖いです」

ベスタは少し涙目になっている。相当混乱してるわね。

でも、はじめが肝心だから、いまここでしっかり言っておく必要があるわね。

 

「ベスタ。まずはじめに言っておきます。

ご主人様は私も含めて奴隷を3人所持しており、あなたが4人目になります。

ご主人様は奴隷として私たちを購入しましたが、私たちのことは世間一般的にいう奴隷とは考えておらず、家族と考えておいでです。

ですから、ご主人様の第一優先は私たちの命なのです。

信じられないかも知れませんが、自分の命をかけてでも私たちを守ってくれます。

ご主人様は私たちを奴隷として見くだしたりせず、人として対等に接してくれる素晴らしいかたなのです。

ですが、私たちはそれに甘えてはいけません。

いざというときはご主人様の盾となり、守らなくてはなりません。

なぜなら、私たちにとってご主人様を失うことは、すべてを失うことなのですから。

ですから、これから迷宮探索でしっかりと実力をつけ、ご主人様をしっかり守れるように、そして、みんなからも信頼されるメンバーになってください」

「はい。わかりました。精一杯頑張らせて頂きます」

 

「よろしくお願いしますね。

あと、ご主人様はとても強く、私たちの常識では計り知れない能力をいくつも持っています。

ですので、あなたはこれからたくさん驚かされることになるでしょう。

ですが、それらについてはいっさい他言無用です。

全て内密にしなければなりません。

なぜだかわかりますか?」

「......申しわけありません。わかりません」

 

「ご主人様の能力を知れば、それを利用したり、逆におとしいれようとしたり、悪意を持って近づいてくる人がいるからです。

そして、そのような人はどこにいるかわかりません。

どこで話を聞いているのかもわかりません。

ですから、たとえ知りあいであっても、ご主人様のことは話してはいけません」

「はい」

「もちろん、パーティーメンバーのことも同様です。

私たちの情報は、いっさい漏らしてはならないのです。

ですから、メンバー同士であっても、外で不用意に内密にしなくてはならないことを話してはいけません。

よろしいですね」

「はい。わかりました」

ひと通り教育すると、ベスタの表情が引き締まった。

 

ベスタとの話が終わると、見計らったかのようにご主人様が鉄の剣を持って戻ってきた。

「ご主人様。ベスタにはご主人様やパーティーメンバーのことで驚いたことがあっても、全て内密にするよう言い聞かせておきました」

「そ、そうか。ロクサーヌ、ありがとう」

「いえ」

 

私が短く返事をすると、ご主人様はベスタに向き直った。

そして、「一応これでも下げておけ」と言ってベスタに剣を渡すと、彼女はまた驚いて「はい。あの……」と口籠りながら不安そうに私のほうに顔を向けた。

 

「大丈夫ですよ。ご主人様ですから」と答えてあげると、彼女は「ありがとうございます」と言ってご主人様にあたまをさげた。

 

「じゃあ行くか」

ご主人様がリビングの壁にワープゲートを開いて中に入っていったので、私はベスタに「では、私たちも行きましょう」と声をかけて彼女の手を引きながらゲートをくぐった。

 

◆ ◆ ◆

 

ご主人様、私、ベスタの3人は家からワープゲートをくぐりクーラタルの冒険者ギルドに出た。

ご主人様は私のあとから私に手を引かれてベスタがゲートから出てきたのを見ると、少しホッとした顔をした。

そして、私に話しかけてきた。

 

「どこから行く?」

「武器屋と防具屋に行かないのでしたら、雑貨屋から先に回って、後で服屋へ行けばいいと思います」

この順番なら服屋でたっぷり時間が取れるので良いと思っていると、ベスタが「服ならこれがありますが」と服の購入を辞退しようとした。

しかし、ご主人様がすかさず「替えの服もいるだろう」と説得するとオロオロして私を見てきたので、「大丈夫です。ご主人様ですから」と言ってあげるとホッとして「ありがとうございます」とご主人様にお礼を言った。

 

冒険者ギルドからクーラタルの街中に出ると、先ほどと変わらず人で混み合っていた。

するとご主人様の驚く声が聞こえた。

「うおっ!なんだ、今日は人が多いな」

そういえばご主人様は家からワープで商業ギルドに往復しただけなので、まちなかがこんなに混み合っていることには気づかなかったのだろう。

 

「ご主人様。季節がわりの休日は、近くの村や他の町からクーラタルに訪れる人がたくさんいて、まちなかは混み合うそうです」

「そうなのか。初めてなんで驚いたよ」

「私もクーラタルでの季節がわりの休日は初めてだったので、先ほど来たときは驚きました」

「そうか。そういうことならロクサーヌは先輩だな。はぐれないように先導してくれ」

ご主人様はそう言うと、右手で私の手を掴んだ。

そして、左手でベスタの右手を握ると彼女は驚愕の表情になって固まった。

こんな混み合うまちなかで主人から手をつながれることなど理解の範疇から外れているのだろう。

彼女はとても混乱しているようだけど、今日はまちなかが混んでて雑貨屋まで時間がかかりそうだから、さっさと移動しはじめよう。

 

私は「では、私についてきてください。ベスタあなたもご主人様の手を離してはいけませんよ」と声をかけて店を出た。

店を出てからちらっと振り返ると、ご主人様の後からちゃんとベスタがついてきていたので、私は安心して人混みをすり抜け、一気に雑貨屋まで移動した。

 

雑貨屋に着くと、

ご主人様が「ロクサーヌ、俺はリュックを見てるから、他に必要なものをみつくろってくれるか」と言ってきたので、「お任せください」と返事をしていったん分かれた。

私は買い物カゴをベスタに持たせて店内を連れ回し、食器やコップ、シュクレの枝、手ぬぐいなど、こまごましたものを選んだ。

そして、リュックサックの売り場に着くと、ご主人様がいくつかの候補に絞って悩んでいた。

 

「ご主人様。お待たせしました」

「いや、たいして待ってない。それより必要な物は揃ったか?」

「はい。あとはリュックサックだけです」

「そうか。リュックサックは......やはりこれでは小さいか?」

「そうですね。このサイズでは厳しいかと」

「そうですか?」

私はベスタの体格では、私たちが使っているサイズのリュックサックでは小さいと思ったけど、ベスタが疑問に思っているようだったので、一応彼女に背負わせてみた。

すると、思った通りパツパツで、からだを動かすとベルトが切れそうだった。

「やはりこのサイズは無理があるな。こっちの大きいのにしておくか」

「それがいいですね」

ご主人様が大きいサイズのリュックサックをベスタに渡し、背負わせてみるとちょうど良い感じだった。

「ベスタ、迷宮ではリュックサックを背負ったまま戦うこともありますので、ちょっとからだを動かして、ベルトが突っ張ったりしないか確かめてみてください」

「は、はい」

私が指示すると彼女は両手をあげたり身体を捻ったり、屈伸したりして、フィット感を確かめた。

「どうですか?」

「はい。大丈夫だと思います」

ベスタが了承したので、他の雑貨と合わせてご主人様に渡した。

「ご主人様、よろしくお願いします」

「うむ」

 

ご主人様に会計して頂いている間に、私は ベスタに指示した。

「ベスタ。会計が終わったら、いま買ったリュックサックに他の買った物を入れてください。あと、リュックサックはあなたが背負うこと」

「わ、わかりました」

その後、彼女がリュックサックに購入した物を詰め込んでいるあいだに、私は彼女に気づかれないように店員にこっそりとブラシを渡し、「これもお願いします」と頼んだ。

 

しかし......

「まだなんかあったのか」

こっそり買ってあとで彼女にプレゼントしようと思ってたけど、ご主人様に目ざとく見つけられてしまった。

ベスタもご主人様の声で、私が追加で何か買おうとしていることに気づいたようだ。

まあ、見つかってしまったらしかたないわね。

 

「いえ。これは私が」

「そうか?」

ご主人様は疑問顔だったけど、私が会計を済ませて「このブラシは私からのプレゼントです」と言ってベスタに見せるとハッと気づいて、小声で「すまなかった」と謝ってくれた。

ご主人様に謝ってもらったとき、イタズラごころが浮かんでしまった。

私は小声で「では、責任をとって、あとでいっぱい可愛がってください」とご主人様の耳もとでささやいたけど、ご主人様に小声で「それは基本だな」と返された。

私は驚いてご主人様の顔を見ると真顔だった。

少し頬が赤かったけど、それでも真顔だった。

「うぅ...... もう。ご主人様ったら......」

可愛がることが基本と言われ、私は恥ずかしすぎて一瞬で顔が熱くなり、思わず下を向いてしまった。

 

ベスタはブラシをプレゼントされることに凄く驚いたようで「わ。ありがとうございます。私...... 誰かから物をもらったことなんてなくって...... うぅ......」と話しながら目尻に涙を浮かべていた。

彼女はすごく感激していたようだったけど、私はご主人様に私を可愛がることは[基本]になっているって言われたことで恥ずかしさが振り切れてしまい、彼女の話が半分もあたまに入らなかった。

 

その後気持ちを落ち着かせてから、ベスタに後ろを向かせ、リュックサックにブラシをしまった。

その際、私はご主人様に「お金を残しておいてよかったです。今日セリーとミリアの分も買いました」と伝えると、ご主人様は「さすがロクサーヌは優しいな。だけど、自分のためには何も買わなかったのか?」と聞いてきた。

「えっと。肌着を少し......」

私が答えると、ご主人様は眉をハの字にした。

「それは必要なものだろう。小遣いは自分のために使ってほしいのだけど」

ご主人様はちょっとあきれているようだ。

 

「ご主人様。私はみんなのプレゼントを選ぶのが楽しいですし、プレゼントしたときにみんなが喜んでくれることがうれしいのです。

ですから、お小遣いは自分のために使っております。

それに...... 必要な物はほとんどご主人様が買ってくださいますので」

私がそう言いながらちょっとだけ上目遣いで見ると、ご主人様は頬を赤らめながら、返事をした。

「そ、そうか...... まあ、ロクサーヌがそれで良いなら」

「はい♥」

私がニッコリ微笑むと、ご主人様はフッと柔らかい顔になった。

「では、服屋に行こうか。ロクサーヌ、また先導を頼めるか?」

「はい。お任せください」

私は返事をしながら左手を差し出してご主人様と手をつなぐと、ご主人様も左手をベスタに差し出した。

するとベスタは少しためらいながらも、今度は自分からご主人様と手をつないだ。

私はベスタが手をつないだことを確認したので、服屋に向けて人混みのなかを歩き出した。

 

服屋に着くと、いつもの店員はまだ忙しそうに接客していたが、ご主人様を見つけると小走りでやってきた。

クーラタルに来てそろそろ4ヶ月、すっかり常連になっているので、店のほうも大事な客と思ってくれているようだ。

「いらっしゃいませ。本日はどのような服をお探しですか?」

「彼女が着るようなサイズの服があるか」

ご主人様がベスタを指差すと店員は一瞬考えてから返事をした。

「はい、ございます」

店員はそう答えると、私たちを店の奥に案内した。

 

「こっちか」

「こちらの服なら、かなり大きいサイズになっておりますので着られると思います」

「あるのか」

「竜人族のお客様などもおられないではありませんので。どうしても数は少なくなってしまいますが」

 

そうなんだ。でも、少ない......?

いや、店全体からすると少ないけど、棚2つ分はある。

これだけあれば...... 

ふふっ。ちょっと気合が入るわね。

 

「これだけあれば悪くないですね」

私はご主人様にそう告げて、服選びにとりかかった。

とりあえずサイズと色で絞り込もうか......

私が服を選びはじめると、ご主人様に「上下二、三着ずつくらいで頼む」と言われた。

 

「分かりました。ほら、ベスタも」

「そ、そんなによろしいのですか」

「大丈夫だ」

ご主人様は遠慮しているベスタの肩を押して、私の隣にたたせた。

「え......その......」

隣には立っているが、彼女は顔をこわばらせたまま固まっている。

 

私は小さくため息をついてから、ベスタが積極的に服を選ぶよう、彼女を諭した。

「ベスタ。

ご主人様は私たちがなるべくきれいな格好でいることを好みますので、ちゃんと服を選んでください。

遠慮する姿勢は悪くはありませんが、みすぼらしい格好をしていたら、ご主人様に嫌われてしまいますよ」

「は、はい!」

 

私は棚にある服をひとつずつ彼女の胸元に当て、サイズと色見、生地や縫製の状態、そしてデザインが似合う、似合わないかと、なによりベスタ自身が気に入るか、気に入らないかで候補を絞った。

「これなんかはどうでしょう」

「はい。いいですね」

「こっちもなかなかですか」

「わ。素敵です」

「あ、これもいいですね」

「えっ、これですか?これでは胸が見えてしまいそうで、恥ずかしいです」

「そうですか?似合うと思うのですけど。うーん......

では、こちらのは?」

 

ベスタは最初こそ恐縮していたけど、私が積極的に話しかけているためか、少しずつだけど自分の意見を言うようになってきた。

私はベスタの意見を聞きつつしばらく二人で服を選んだあと、彼女が気にいったデザインで色違いの物があったので、ご主人様にも意見を聞いてみた。

「ご主人様。この服、白と灰色があるのですが、どちらが似合うと思いますか?」

「んー......そうだな。ベスタは肌が小麦色だから、白のほうが清潔感があっていいかな」

「確かにそうですね。さすがはご主人様です。

では、こっちとこっちは決定として......

ベスタ。後は、これなんかどうでしょう」

「そうですね。私としてはもう少し袖が短いほうが」

「では、こちらのほうがいいですか?」

「はい。これがいいです」

「これでは胸がキツくありませんか?」

「大丈夫だと思います」

「では、これも。これで3着ずつかな?」

私は選んだ服を数えて上下3着ずつあることを確認し、ご主人様に選び終えたことを伝えた。

 

「ご主人様、選び終わりました」

「うむ」

「では、これをお願いできますか」

「わかった」

「あと、肌着も3枚ほど買って頂いてもよろしいですか?」

私がご主人様にベスタの肌着を頼むと、彼女はブンブンと手を振って全力で遠慮した。

「いえ、いえ、いえ、いえ。

肌着はまだ汚れていませんし、服を何着も買って頂けるのに。

も、申しわけないです」

「問題ない。いずれ必要になるものなら今買っておけ」

「あ、ありがとうございます」

 

ご主人様がぶっきらぼうに返事をすると、ベスタは勢いよくあたまをさげた。

すぐ横でブンッ!って音が出るぐらい勢いよくあたまをさげられた為、ご主人様は「うおっ!」っと言って少しからだを引き、一歩あとずさってしまっていた。

私はその姿が可笑しくてクスクスと笑うと、ご主人様はちょっと恥ずかしかったのか、その場をごまかすようにひとつ咳払いをした。

 

「ろ、ロクサーヌ、この服を先に持っていっとくから、肌着を選んでカウンターまで持ってきてくれ」

「かしこまりました。ベスタ、あなたはこの服をカウンターまで運んでください」

「わ、わかりました」

私はベスタに服を渡すと、肌着の棚に移動して大きいサイズの物を3枚選び、カウンターに持って行った。

 

服と肌着をご主人様に購入して頂き、ベスタのリュックサックに詰めて店の外に出ると、もう一度ベスタがあたまを下げてご主人様にお礼を言った。

「ありがとうございます」

「いや、必要なものだから気にするな」

ベスタが何度もお礼を言うので、ご主人様は苦笑ぎみに返事をしている。

まだ緊張しているせいだと思うけど、このままだとみんなとの仲がギクシャクしそうだから、ベスタはもう少し私たちに慣れてもらったほうがいいわね。

ミリアと違ってルールを守ることに関しては問題なさそうだけど、私たちと打ち解けさせるほうは少し大変かも知れないわね。

 

◆ ◆ ◆

 

服選びに小一時間ほどかけたせいか、まちなかはだいぶ人が減っていた。

それでも普段の日よりは人が多いけど、手をつながなければはぐれてしまいそうなほどの人混みではなくなっていた。

 

「あとは夕食の食材を買って帰ろう」

「かしこまりました」

「かしこまりました」

私たちが返事をすると、ご主人様は八百屋に向かって歩き出した。

ベスタを見ると、とてもうれしいのか涙を拭き拭きしながら歩いていた。

「よかったですね」

「はい。あの。この服って新品ですよね」

「そうですよ。さっきも言いましたが、ご主人様は私たちがなるべくきれいな格好をしていることを好んでいますので、基本的に服は新品の物を買ってくれます。

それどころか、私たちのからだに合わせた服を作ってくれることもありますよ」

「ええっ!そんなことが...... 奴隷が服を作ってもらえるなんて、普通はありえないです」

「そうみたいですね」

「私、新品の服なんて着せてもらったことがありません」

「大丈夫です。ご主人様ですから」

私の言葉に彼女は「はい」と返事をしながら、また涙を流した。

 

私とベスタが歩きながら会話してると、ご主人様が彼女に質問した。

「恥ずかしいから泣くな。それよりベスタは、料理はできるか」

ベスタは涙を手で拭って返事をした。

 

「自分が食べる分くらいの簡単な煮炊きなら大丈夫です」

「簡単な煮炊きか......」

ご主人様がちょっと残念そうな顔をしたので、私はベスタにうちのルールを説明した。

 

「うちでは全員の食べる分をみんなで作ります」

「全員の分をですか。習ったわけではないのでそれほど上手ではないと思いますが」

「まあ一品作ってもらうか」

ご主人様に料理を一品作るよう言われると、ベスタの表情が明らかに曇った。

 

「ええっと...... すみません。

ご主人様が口になされるようなものは作れません。

私が作れるのは、芋とくず野菜のスープとか......

パンの耳の煮込みとか」

 

ベスタは奴隷が食べるような料理しか作ったことがないので、自信がないようね。

確かに彼女が作れると言っている料理は粗末なものだけど、それは食材そのものの影響が大きいような気がする。

たぶん食材や調味料が良ければちゃんと美味しい物になるはずだし、料理の心得はあるのだから、ちょっとコツを教えればじゅうぶん戦力になるわね。

 

「では...... 料理のとき、ベスタは俺や他の誰かを手伝ってくれ」

「はい。それなら大丈夫だと思います」

「今日の夕食のスープはロクサーヌが頼む」

「かしこまりました」

私がスープってことは、メインはご主人様が作るってことかな?

ミリアの釣果次第だけど、今日の夕食は楽しみね。

 

その後、八百屋で根野菜と葉野菜を3種類ずつ、あと、トマトとキノコを買って、パン屋に移動した。

パン屋のカウンターでいつも買う1個8ナールの高級パンと1個4ナールの三角パンを人数ぶん買おうと考えていると、ご主人様がベスタに話しかける声が聞こえた。

 

「ベスタはやっぱりたくさん食べる方か?」

「ごくつぶしとは私は言われたことがないので、大丈夫だと思います」

「そ、そうか」

「......」

ごくつぶしって、それに大丈夫...... ね。

うん、間違いなく遠慮しているわね。

これだけ大きいのだから、たくさん食べるはずだわ。

私はそう思い、黙ってパンを人数ぶんより少し多めに選んだ。

 

「このくらいあればいいでしょう」

私が選んだパンをご主人様に渡すと、ひとつうなずいてから購入するためにカウンターに持っていった。

ご主人様が精算していると、ベスタが話しかけてきた。

 

「すごく柔らかくて美味しそうなパンです。あまったらいただけるのでしょうか」

「食事はみんなで一緒に取ります。遠慮せず食べてくださいね」

「わ。いいのですか」

ベスタはまた驚いている。

私やセリー、ミリアと違い、彼女は奴隷として別の主人につかえていた。

そのときと比べて待遇が違い過ぎるから、すごく驚くのだろう。

それにしても、これだけ何度も何度も驚くってことは、やはり奴隷の待遇は、ベイルの商館で聞いていた過酷な状態が普通なんだろう。

「大丈夫です。ご主人様ですから」

私はベスタに返事をしながら、改めて私たちが良くして頂いていることを実感し、ご主人様に感謝した。

 

「迷宮に入ってもらう以上、体が資本だからな」

「ありがとうございます」

ご主人様がベスタを諭すと、彼女はまた勢いよくあたまをさげた。

ご主人様は苦笑いしながら私に小さく肩をすくめてみせ、「じゃあ、帰って夕食の支度をしよう」と言って、冒険者ギルドに向かって歩き出した。

 

◆ ◆ ◆

 

冒険者ギルドの壁からワープで家に帰ると、ご主人様は私に夕食の準備を申しつけた。

そして、「では、俺は風呂を入れてくるから、ベスタのことは頼むな」と言って風呂場に向かった。

 

ご主人様が風呂場に向かうと、ベスタが「あの、ロクサーヌさん。風呂ってなんですか?」と言いながら首をかしげた。

「聞いたことはありませんか?

買い物に行く前、家の中を説明したときに風呂場の場所を教えましたよね?」

「はい。あの...... えっと。すみません。

その、先ほど2階の広い部屋が風呂場だとは聞いたのですが......

その、風呂場がなにをする部屋なのか聞いたら怒られると思って......」

怒られるって...... 私に?

私、そんなに怖そうな態度だったのかな......?

 

一瞬考えたけど、思いだせなかったので、そのまま話を続けた。

「そうですか...... えっと...... 

家ではわからないことはちゃんと聞いてくださいね。

内密にしなくてはならないことがあるので外では気をつけてほしいですけど」

「わ、わかりました」

 

「では、話を戻します。

お風呂とは、お湯を張った大きな桶のことです。

からだを洗ったあとに、そこにつかってあたたまります。お風呂場とは、お風呂があってからだを洗う部屋のことを言います」

「からだを洗う...... 部屋ですか?」

「そうです。

あなたは今までからだをどうやってきれいにしていました?」

「からだですか?雨水や川の水で濡らした布で拭いてました。

あと、暖かい日は、川に直接入って洗っていました」

「まあ、それが普通ですよね。

では、石鹸は知ってますか?」

「石鹸という物があることは知っていますが、見たことはありません」

「そうですか。まず、うちではお湯でからだを濡らしてから、石鹸を泡だててその泡でからだを洗います。

そして、洗い終わったらお湯でからだに付いた泡を流します。その後にお風呂につかるのです。

もちろん忙しいときは濡らした手ぬぐいでからだを拭くだけのときもありますが......

まあ、見ながら話したほうがいいですね。

ベスタ、ついてきてください」

私は口で教えるよりも見せたほうが早いと思い、彼女を風呂場に連れていった。

 

風呂場に行くとご主人様がシャツを脱ぎ、ズボンの裾をまくってお湯を作る準備をしていたので、ベスタが風呂を知らないことを伝えてご主人様の作業を見学させてもらった。

私はベスタに普通お風呂は王侯貴族が入るものだと伝え、次に、ご主人様がベスタも一緒に入ることを伝えた。

すると、ベスタはお約束のように驚いて、私たちの前で固まってしまった。

 

その後の説得で、彼女が一緒にお風呂に入ることに同意すると、ご主人様は明らかに顔がニヤけた。

私はちょっとムッとしたので、ベスタに見えないようにご主人様を肘でつつくと、ご主人様は小さく咳払いして作業を再開した。

 

「では今からお湯を入れるから、少し見ていけ」

ご主人様はそう言ってウォーターウォールを出すと、ベスタは「わっ」と声をあげた。

「どうだ」

「すごいです」

ベスタがお約束のように驚くと、ご主人様は「そうだろうそうだろう」と言ってよろこんだ。

なんだか私もうれしくなって「ご主人様ですから」と言うと、ベスタは予想外の言葉を吐いた。

 

「初めて見ました。水を出せる種族の人もいるのですね」

「えっ?種族ですか?」

「種族、なのか?」

「違うのですか?」

私とご主人様は予想外の言葉だったのでベスタに聞き返したつもりだったけど、逆に彼女に首をかしげられてしまった。

水を出す種族って、ご主人様のことをクラムシェルとでも思っているのだろうか?

私が考えているうちに、ご主人様は魔法で水をだしたことを伝えていた。

するとベスタは「ご主人様は魔法使いではなく探索者......」と言って一瞬考えたあと、「あ。ご主人様というジョブですか?」と正解を言い当てた。

言ったあと、彼女は少し不安そうな顔をしたので、「そうです。ご主人様ですから」と言って肯定しておいた。

「そうなのですか。すごいです」

ベスタは正解してホッとしているようだ。

 

すると、ご主人様がベスタに質問した。

「水を出せる種族がいるのか?」

私と同じでご主人様も気になっていたのね。

 

「水を出す種族は知りませんが、竜人族は火を出せます」

「え。そうなのか?」

「えっ?火を出せるのですか?」

「はい」

ベスタの言葉に私たちはすごく驚いたけど、彼女はさも当たり前のように肯定した。

むしろ、なんで驚いているのか不思議?という感じに首をかしげている。

私はただ驚いただけだったけど、ご主人様はあごに手を当てて一瞬考え、何かを思いついたように顔をあげた。

 

「見せてもらってもいいか」

「もちろんです。あまりたいしたことはありませんが」

「火を出して、この水瓶の水を温めることはできるか?」

ご主人様が水瓶を指すと、ベスタは自信なさそうな顔になった。

 

「温まるほどは無理だと思います」

「そうなのか」

「一応、やってみます」

ベスタはそう言うと、水瓶に顔を近づけて口から火を吹いた。

ご主人様はそれを見て「おおっ」と驚いたけど、火は水面を一瞬なめただけですぐに消えてしまった。

すぐさまご主人様は水瓶の水に触れたけど、次の瞬間には残念そうな顔になった。

 

「残念。無理だったか。ああ、手間かけさせて悪かったな」

「お役に立てず、申しわけございません」

ベスタはそう言いながら、深々とあたまをさげた。

彼女曰く、竜人族なら誰でも使えるけど、魔物や敵の注意を一瞬だけそらす技で、魔法のような威力はないとのことだった。

でも、薪に火をつけるくらいなら出来そうね。

彼女にはなるべく料理を手伝わせようかしら。

私がそんなことを考えていると、ご主人様は水がめにファイヤーボールを撃ち込んでお湯を作り始めた。

 

「わ。本当にすごいです」

ベスタはご主人様の魔法を見てまた驚き、目をキラキラさせていたので、少しのあいだ風呂場にとどまり、彼女にご主人様の作業を見せた。

そして、ご主人様がファイヤーボールを2度撃ち込んだところで彼女に声をかけた。

 

「ベスタ、そろそろ良いですか?」

「はい」

「では、料理をしに戻りますよ」

私はそう言ってきびすを返し、ベスタを連れてキッチンに移動した。

 

キッチンに入り、壁にかけてあるエプロンをベスタに着けてあげると、彼女は驚いて「こんなかわいいエプロンは見たことがありません」と言ってよろこんだ。

彼女のものはなかったのでミリアのエプロン(もちろん料理用)をつけてあげたのだけれど、腰の紐は結ぶのがギリギリで、エプロンの布からからだがはみでてしまっていた。

エプロンの紐は私たちがうしろ手でゆったり結べるくらいの長さなのでとどいたけど、彼女が自分で結ぶのは長さが足りないわね。

服もカバーしきれないし、彼女にはもっと大きなサイズのエプロンじゃないと駄目ね。

 

「ちょっと小さいですね」

「はい。あの...... からだが大きくてすみません」

「別に責めているわけではありません。

あとでご主人様に言って、明日にでも貴方に合うサイズのエプロンを作りに行きましょう」

「えっ?作るのですか?」

「はい。作るのです」

「......あの、よろしくお願いします」

ベスタはそう言うとペコリとお辞儀をしたが、その後に何をすれば良いか戸惑っていたので、鍋に水を汲んでかまどに置き、それからかまどに火をつけるよう指示した。

私は彼女がかまどの準備をしているあいだに自分のエプロンを付け、丸イモと葉野菜を洗った。

 

作業をしながらベスタの様子を見ていると、彼女はかまどの上に鍋を置き、片手で水瓶を掴みあげるとそのまま水を注いだ。

それからかまどのなかに薪をくみ、薪を1本手に持つと火を吐いて先端を燃やし、それを焚べて他の薪に燃え移ることを確認した。

「ベスタ。次はこっちを手伝ってくれる?」

「はい」

「そこの包丁で丸イモの皮をむいて、ひとくち大に切ってください」

「わかりました」

ベスタは包丁を右手に持ち、洗い終わった丸イモを左手で掴むと、左手のなかでイモをクルクルと回しながら包丁を当てて皮をむいた。

そして、皮をむき終わったイモをまな板の上に並べると、包丁でひとくち大に切って鍋に入れていった。

特に指示しなくても、根野菜から煮込むことはわかっているようだ。

 

「イモが終わったら、この葉野菜をお願い」

「はい」

私が洗い終わった葉野菜をしめすと、彼女はそれを包丁で切り、イモと同様に鍋に放り込んだ。

思った通りかなり手際が良い。

力もありそうだし火もつけられる。

料理づくりではかなり役に立つわね。

 

ベスタが野菜類を全て鍋に放り込んだあと、私はトマトを細かく切って鍋に入れ、塩と胡椒で味付けした。

そのまましばらくスープを煮込んでいると、ご主人様がキッチンにやって来た。

私は迷宮に行くと思いご主人様にたずねると、少しの沈黙のあとに「……いや、ちょっと休憩」と言われた。

私はご主人様がなにを考えていたのか気になったけど、とりあえずは「そうですか」と返事をしておいた。

 

ご主人様は更にしばらく考えてから、余っていた野菜をベスタに渡し、おもむろに指示をだした。

どうやら考えていたのは、夕食の献立だったようだ。

 

「ベスタ、これを洗って食べやすい大きさに切ってもらえるか」

「かしこまりました」

「こっちのキノコは半分にしてくれ。夕食はそれを揚げる。楽しみにしておけよ」

「すごそうです」

すごそう......ね。......天ぷらのこと、ホントにわかっているのかな?

私は驚いているベスタはひとまず放置して、ご主人様に向き直った。

「ご主人様、エプロンのことなんですが」

「ああ。わかった。明日な」

「ありがとうございます」

「いや。俺のほうこそ、気づいてくれて助かる。

さすがはロクサーヌだ。いつもありがとうな」

ご主人様はそう言うと、私を抱き寄せてキスをしてくれた。

私もご主人様の背中に手を回して抱きつき、積極的に舌を絡めてしまった。

ベスタはキスしている私たちをじっと見ていたようだったけど、その時は何も言わなかった。

 

「ご主人様、私は天ぷらの準備を進めておきますね♥」

「ああ。頼む」

「お任せください」

ご主人様は小さくうなずくと、「じゃあ、続き、やってくる」と言って私から離れ、風呂場に戻っていった。

 

ご主人様がいなくなると、ベスタは恐る恐る私に話しかけてきた。

「あの、聞いてもよろしいでしょうか」

「どうしました?」

「ロクサーヌさんは、その......

ご主人様のことが好きなんですか?」

「はい。大好きですよ」

「そうですか......」

「おかしいですか?」

「いえ。その......」

ベスタはくちごもってうつむいたので、私は強い口調で彼女に話すよう促した。

「ベスタ、なにか思うことがあるならハッキリ言いなさい。溜め込んで、内心で反抗するなんて許しませんよ!」

「は、はい。えっと...... 私は奴隷商に売られたあと、先輩がたに奴隷というものがどういう存在なのか、さんざん聞かされました。

その時は、奴隷からするとご主人様は絶対で、逆らうことは許されない存在で、当然求められれば奉仕しなくてはいけない存在だと聞いていました。逆らえばひどい目に合わされたり、処分されてしまうこともあるし、なかには奴隷を性的や肉体的に虐待する主人もいるということも。

先輩がたには、前の主人はそこまでひどい人ではなく、私も両親も虐待されるようなことはなかったと言いましたが、それは運がよかっただけだと言われてしまいました。

なので、ご主人様とロクサーヌさんがお互いに信頼していて、まるで恋人のように見えることが信じられなくて......」

「恋人だなんて...... そう見えます?」

「その...... はい」

「ふふっ。ベスタ、ありがとね。

私も商館にいたときは、あなたと同じようなことを聞かされたわ。

だから、私もご主人様に買われたばかりのときは、すごく不安だったの。

でもね、さっきも言ったけど、私たちのご主人様は本当に素晴らしい人なのよ。

あとで他の二人に会うことになるけど、そのときに二人の様子を見れば、安心出来ると思うわ」

「そうですか」

「ええ。間違いありません。

とりあえずいまは、私を信じてください。

それと、いま私から言ってあげられることは...... 

私たちはとても幸運で、今日あなたもその仲間になった。ということです」

「わかりました」

「では、そろそろ料理を再開しましょう」

 

ベスタはご主人様に指示された通り野菜とキノコを洗い始めたので、私は食材を切ったら種類別にわけてザルに入れておくよう彼女に指示した。

私はベスタが野菜を切っているあいだに小さな器に小麦粉、卵の黄身、少量の水を入れてかき混ぜ、天ぷら用のころもを作った。

そして、ご主人様が天ぷら用に使っている小さな寸胴鍋を用意して、オリーブオイルをたっぷりと入れた。

ベスタは切った食材をザルに移し終わると、寸胴鍋を見て「えっ?」と小さく声をあげた。

彼女は目を見開いて口をぽかんとあけたまま、まるで石化でもしたようにその場で固まっている。

驚き過ぎて声も出なくなったようだ。

 

「どうかしました?」

「あ、あの...... こんなにたくさん......」

小さい鍋とはいえ、オリーブオイルをこんなに使うなんて普通は考えられないから、彼女が驚くのも無理はないわね。

 

「驚きましたか?」

「は、はい。 あの...... 大丈夫なんですか?

こんなに使ったら...... その...... 

ご主人様に怒られたりしませんか?」

「ふふっ。大丈夫ですよ。ご主人様ですから」

「そうですか......」

私はニッコリと微笑みながら答えたけど、ベスタはどこか不安げな顔をしながらボソリとつぶやいた。

するとその時、ご主人様が2階から降りてきた。

「ご主人様、お疲れ様です」

「ああ、ロクサーヌもお疲れ。どんな感じだ?」

「スープはあと少しで出来あがります。

天ぷらの準備もほぼ完了しています。

あとはミリアが魚を釣ってくれば、というところです」

「そうか、じゃあ、スープができたら一度火を落としてセリーとミリアを迎えに行くか」

「はい。スープはあとは余熱で出来上がりますので、すぐに準備します」

私はベスタにミトンを渡してスープの鍋をかまどからずらすよう指示した。

そして、火かき棒で薪を散らしてからかまどに蓋をして、火が消えるようにした。

それからスープ鍋と天ぷら用の鍋に蓋をして、天ぷら用のころもと食材に布巾を被せた。

 

「ご主人様。準備が出来ました」

「うむ、では迎えに行こうか」

「かしこまりました」

「わかりました」

ご主人様は、私とベスタが返事をしたことを確認すると、リビングの壁にワープゲートを開いた。

 

◆ ◆ ◆

 

ワープゲートを抜けると図書館のロビーだった。

そのまま受付のほうに進むと、セリーが駆け寄ってくるのが見えた。

彼女は私たちの近くまで駆け寄ってきたが、急に立ち止まって一瞬ベスタのほうに視線を向けた。

そのあとにご主人様を見てからうつむき、「滅びればいいのです」と、呪いの言葉を吐いた。

ご主人様は一瞬で固まり、額に冷や汗を浮かべる。

そして、「いや、き、気のせいだな」と、心の声が漏れだした。

聞こえなかったことにしたいのだろう。

 

「セ、セリー。彼女はベスタだ。今日から仲間になる」

「滅びれば……あ。竜人族のかたですか?」

セリーはご主人様の様子を見て、もう一度呪いの言葉を吐こうとしたが、なぜか途中で言葉を切って彼女の種族を質問した。

セリーは竜人族になにか思い入れがあるのかな?

 

「はい。そうです。よろしくお願いします」

「そうなのですか。大丈夫です。

こちらこそよろしくお願いします」

ベスタが返事をすると、セリーは丁寧に対応した。

ご主人様はそんなセリーを見て面白くなかったのか、ベスタに向かって「ベスタ。この酒の匂いをさせているのがセリーな」と少し悪意がある紹介をした。

「......はい」

ベスタは気まずそうに返事をした。

 

ご主人様の紹介のしかたが気に入らなかったのだろうか、セリーはムスッとして右手を突き出した。

「預託金です」

セリーはご主人様に金貨を渡すと、ジト目でご主人様を見つめた。

するとご主人様はその目に耐えかねたのか、言葉をひねり出した。

「な、仲よく頼むな」

「もちろんです。竜人族で胸の大きい女性に悪い人はいません」

「そうなのか?」

「はい。それを見る者は滅びてしまえばいいですが、竜人族の女性に罪はありません。竜人族は子どもを母乳で育てたりはしない種族です。竜人族の女性の胸には空気が詰まっています。気嚢といいます」

「へえ」

「胸の大きい竜人族の女性は不当な扱いをされるのです」

「そうなんだ」

「あの、竜人族の女で胸が大きいと、無駄に空気が入っているだけだと馬鹿にされます。

わ、私なら大丈夫です」

セリーの説明にご主人様が気のなさそうな返事をすると、ベスタが補足した。

 

「いいえ。ベスタには何の問題もありません。

胸のことを気にするやつらなど滅びてしまえばいいのです」

セリーはそう言うと、ベスタの手をとった。

そして、みずからもう一度名乗った。

「ベスタ、私はセリー。ドワーフで16才です。詳しいことは帰ってから話しますが、取り敢えずよろしくお願いします」

「ベスタです。竜人族で15才です。こちらこそ、よろしくお願い致します」

彼女は返事をすると、セリーに向かって勢いよくあたまをさげた。

 

セリーが私に目を向けたので小さくうなずくと、彼女も小さくうなずいた。

ベスタにはお話しが終わっていることが伝わったようだ。

「では、ミリアを迎えにハーフェンに飛ぶ」

「はい」

ご主人様はそう言うと、図書館の壁にワープゲートを開いた。

 

◆ ◆ ◆

 

ゲートをくぐるとハーフェンの海近くの大木に出た。

海のほうを見ると、岩礁の上に人だかりが出来ており、その中にミリアがいた。

よく見ると周りにいる人はみんな猫人族で、小さな子が多いことに気づいた。

ミリアはかなり自信があるようだったし、もしかしていっぱい釣れてるから、みんな気になって見てるのかな?

歩いて近づくと、ミリアがこちらに気づき、「ご主人様ー!」と叫んで手を振ってきた。

 

「どうだ、ミリア。釣れたか」

「ミリア。今晩のおかずは釣れましたか?」

「はい、です」

ミリアが嬉しそうに答える。

「おお、そうか。じゃあそろそろいいか?」

「はい、です。あの……」

ミリアはブラヒム語で説明しきれず、バーナ語で私に話しかけてきた。

 

『お姉ちゃん。この子たちに魚を分けてあげてもいい?』

『なんで分けたいのですか?』

『昼に大きな魚がかかって、ひとりでは釣りあげられなかったの。そのときこの子たちが手伝ってくれたの。それからずっと、魚を取り込むのを手伝ってくれてるの』

『だから分けてあげたいと』

『うん。駄目かな?』

『あなたが釣ったのだから大丈夫よ。一応ご主人様に確認するわね』

私はミリアから事情を聞いたので、ご主人様に説明した。

 

「ご主人様。ミリアは彼女たちに魚を分けてもいいかと言っています。取り入れるのを手伝ってもらったようです」

「ミリアが釣ったのだから、もちろんかまわない」

「はい、です」

ミリアはご主人様の言葉を聞くと、嬉しそうに返事をした。

彼女はブラヒム語を聞くほうはだいぶ出来るようになってきたけど、話すほうはまだまだ苦手ね。

それに、読み書きは全然だから、どこかで集中的に教えないと駄目ね。

 

そんなことを考えていると、ミリアは猫人族の小さな娘たちを手招きしてバーナ語で話しかけた。

『みんな、ご主人様から魚を分ける許可をもらったから、カゴの所に行くよ』

ミリアが説明すると、子供たちから歓声があがった。

みんな顔がニコニコだ。

そして、ご主人様から夕飯は天ぷらにするから合わなそうな魚は分けてあげるよう言われると、「そうする、です」と言ってミリアの顔もニコニコになった。

 

籠のところまで移動してなかを見ると、かなりたくさん魚がいた。

「ミリア、随分たくさん釣ったわね」

「はい。です」

ミリアは胸を張って、誇らしそうに返事をした。

 

私が驚いていると、猫人族のひとりがバーナ語で話しかけてきた。

『このお姉ちゃんすごいんだよ。お魚がどう動くのかわかるんだよ』

『そう。それはすごいわね』

私がバーナ語で返事をすると、今度は別の子が話しかけてきた。

『このお姉ちゃんはすごい漁師さんなんだって。さっき私のお母さんが言ってた』

『それ、タルケおじさんとエク爺ちゃんも言ってた。あんだけ釣る人は見たことねえって』

『そうなんだ。すごいねー』

私は子どもたちの話をひと通り聞き、ご主人様に通訳した。

 

「ミリアには魚の動きが分かるようです。

すごい漁師だとこの子たちも言っています」

「そうなんだ。確かにかなり釣ってるな。

ロクサーヌ、すごい大きな魚もいるぞ」

ご主人様と私がカゴのなかを覗いていると、

「魚の気持ちになって釣る、です」と言ってミリアがまた誇らしそうに胸を張った。

 

その後、周りの子たちにミリアが魚を分けてあげると、みんな口々にお礼を言って去っていった。

子どもたちが全員いなくなると、ご主人様はミリアの前にベスタを立たせた。

ミリアはベスタを見上げ、「大きい......です」とつぶやいて、そのまま口が半開きになっている。

魚に夢中だったせいか、今の今までベスタの存在に気づいていなかったようだ。

 

「ミリア、彼女はベスタ。今日から仲間になる」

「よろしくお願いします」

ベスタがあたまをさげると、ミリアも「ミリア、です」と言ってあたまをさげた。

私は苦笑しながらバーナ語でミリアに『あら、あなたがお姉ちゃんじゃなかったの?』と言うと、彼女はハッとして顔をあげた。

 

ご主人様は雰囲気で察したのか、苦笑しながら今度はベスタにミリアを紹介した。

どうやらミリアがあたまをさげたことは、なかったことにしてくれるようだ。

 

「ベスタ、彼女がミリアだ」

「お姉ちゃん、です」

今度はミリアは胸を張って、ベスタを見上げた。

「はい」

「お姉ちゃんと呼ぶ、です」

「お姉ちゃん」

「ベスタ、です」

ミリアはベスタにお姉ちゃんと呼ばれると、背伸びして手を伸ばし、ベスタの頭をなでた。

 

なんだか微笑ましい光景で場がなごんだけど、ご主人様は何故か二人とセリーを交互に見て、ククッと小さく笑った。

そして、それをセリーに気づかれた。

ご主人様は何も言ってないけれど、セリーと目が合うと視線を逸らせた。

すると次の瞬間、セリーのからだがプルプルと震え、黒いオーラが立ち昇った気がした。

 

いったい何?ご主人様はなんで笑ったの?

私は何がなんだかわからなかったけど、とりあえずセリーを抱き寄せて、無言であたまを撫でた。

彼女は私の胸に半分顔を埋め、涙目になりながらプルプル震えている。

私はセリーのあたまを撫でながらご主人様に視線を向けると、ご主人様は済まなそうにしていた。

 

えっと......どうしよう......

理由はわからないけど、とりあえずご主人様が謝る必要がありそうね。

私はそう思い、ご主人様に向けている視線をグッと強くした。

そして、心のなかで謝ってくださいと強く思いながら、「ご主人様」と声音をさげて言うと、観念したのかセリーの背中側から抱きついて謝罪した。

 

「セリー、変なことを想像して悪かった。

だけど、決してお前を嫌ってとか、蔑むような気持ちはないんだ。

ただ、お前は小さくて可愛いから、ついつい色々想像してしまうんだ...... セリーだったらどんな感じかなって......

その、本当に済まなかった」

 

「ご主人様は、私のことを可愛いって言いますけど、本当にそう思ってるんですか?」

「当たり前のように思っているが」

「私なんて背も低いし胸も小さいのに?」

「なにを言ってるんだ?背が低いのは種族特性だろ?

俺だってそんなに背は高くないから、全く気にならないぞ。

それに、はじめに言ったと思うけど、セリーはスタイルが良いし胸の形も綺麗だから、俺は十分満足してる。

セリーは胸の大きさにこだわっているようだけど、

お前の華奢なからだつきにロクサーヌくらいの胸があったら、バランスが悪くて気持ち悪い。

セリーは今のスタイルがベストなんだ。

そして、なによりセリーは美人だしな。

俺からしたら、容姿については文句のつけようは無いと思っているぞ」

「はうぅぅぅ...... ご主人様が私のことをそんなふうに思っていてくれたなんて...... すごくうれしいです......」

セリーは顔が真っ赤になって、からだが熱くなってきた。ご主人様にべた褒めされて、相当恥ずかしいんだろう。

もう大丈夫そうなので、私はご主人様に小さくうなずくと、ご主人様も小さくうなずいてセリーから離れた。

セリーは一瞬寂しそうな顔をしたけど、私と目が合うとハッとして私から離れた。

 

私は「ふふっ」と微笑んで「よかったですね」と言いながらセリーの頬を撫でると、彼女は更に顔が赤くなった。

そして、恥ずかしさに耐えられなくなったようでうつむいてしまった。

そこで、私はミリアとベスタのことを忘れていたことに気づき、慌てて周りを見渡すと、私のすぐ後ろに立っていた。

ただし、二人は何が起こっていたのか理解ができず、目が点になって固まっているようだった。

 

これ、どうやって収拾すればいいの?

私がどうすれば良いか悩み、次の行動を考えていると、ご主人様がひとつ咳払いしてベスタに向き直った。

「ベスタ。今のところ、お前を含めてこの五人がパーティーメンバーだ。これからも仲間は増えていくこともあるだろうが」

と、まるでいま起こったことはなかったかのように、唐突に宣言した。

混沌としたこの場を強引に収めるつもりなのかな?

「えっ...... その......」

ベスタはどう返事をしたら良いか分からず、オロオロしている。

そして、彼女は救いを求めるような表情で、視線を私に向けてきた。

私はとりあえずうなずくと、彼女は「はい」と小さな声で返事をした。

 

「よ、よし。じゃあ家に帰って夕食にするか」

ご主人様はそう言って、そそくさと林の大木のほうに歩きだした。

正解...... だったのかな?

 

私は釈然としなかったけど、うつむいたままのセリーの手を引きながら、「ミリア、ベスタ、帰りますよ」と二人に声をかけた。

「はい、です」

「わかりました」

二人から返事があったので、私はご主人様のあとについていき、ワープゲートをくぐって家に帰った。

 

◆ ◆ ◆

 

家につくと、ミリアは物置部屋に釣り道具を片付けに行き、私たちはキッチンに移動した。

カゴとザルを置いてひと息つくと、ミリアがキッチンに入ってきた。

 

ご主人様がミリアに魚の下ごしらえを頼んだので、私はベスタにかまどの火起こしを頼み、セリーには天ぷら用の鍋と食材をダイニングテーブルに運ぶよう指示した。

私はスープの鍋をかまどに乗せ、オタマでスープをかき回した。

私たちが料理に取りかかると、ご主人様はみんなの作業を見ながらセリーに話しかけていた。

そして、しばらく話したのちに、セリーにダイニングテーブルで油を温めるよう指示した。

 

それからご主人様は小さめの器を5つ用意して、ベスタにレモンを搾るよう指示し、自分はナイフで兎の肉を一口サイズに切ると、塩とコショウで下ごしらえした。

ベスタはご主人様が料理するのを見てすごく驚いていたので、ご主人様は料理が得意でよく私たちに知らない料理を作ってくれること。どの料理もとても美味しいことを伝えると、それにもすごく驚いていた。

 

スープを温め終わったので、私は火かき棒で薪を散らしてかまどの火を落とした。

それからベスタと一緒に出来上がったスープをダイニングテーブルに運んで食器類を用意し、ご主人様とミリアが肉と魚を持ってきたので、全員で食卓についた。

 

ベスタは主人と食事をすることが初めてだったようで、

ご主人様がスープを配ると食べても良いか確認、ご主人様が天ぷらの食べたいネタを聞くと、食べても良いかまた確認と、最初のうちはおどおどしながら夕食を食べていた。

しかし次第に慣れてきたようで、途中からは美味しい、美味しいと食べ物を口に入れるたびに感激しはじめた。

 

そして

「こんな美味しいものは食べたことがありません」

と言って皆に感謝しだし、ついには

「食べるものを選べるなんてすごいことです。どれもこれも美味しいですし。確かに、私はすごい所に買っていただいたようです」

と言って泣き出した。

 

ご主人様はベスタに「泣くな。な」と優しく声をかけ、パンも食べるよう勧めたけど

彼女は「こんなに柔らかくて美味しいパンも、好きなだけ食べていいなんて」

と言って余計に泣き出した。

 

食事があらかた終わったので、私は皆にハーブティーを配り、ひとつ提案した。

「ご主人様。ベスタには、ご主人様やパーティーメンバーのことなどの情報はいっさい漏らさないよう注意してありますが、逆に私たちのことについては、あまり教えられておりません。

これから迷宮探索をするメンバーとなりますので、簡単に皆の紹介をしたいと思いますが、よろしいですか?」

「ああ。そうだな。ロクサーヌ、宜しく頼む」

「かしこまりました」

私は立ちあがり、まずは自分の自己紹介からはじめた。

 

「改めまして、私はロクサーヌ。一番奴隷です。

狼人族の16才で、ジョブは騎士。片手剣で戦います。

迷宮では前衛で、主に魔物の攻撃をかわしながら足止めする役です。あと、索敵も担当しています。よろしくお願いしますね」

「よろしくお願いします」

私が座ると、入れ替わりでセリーが立ちあがった。

「私はセリー。二番奴隷です。

ドワーフの16才で、ジョブは鍛冶師。槍で戦います。

迷宮では主に中衛で、ロクサーヌさんかミリアのサポート役です。

また、私の武器には詠唱中断のスキルがついていますので、魔物の魔法やスキルの発動をキャンセルします。

あと、魔物やアイテムの調査とメンバーへの伝達、迷宮内のマッピングも私の役目です。

それから、鍛冶師として、武器・防具の作成と、モンスターカードの融合も行います。

よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 

「セリーはとてもあたまが良く、咄嗟の判断も的確です。迷宮内ではセリーの話を聞き漏らさないようにして下さい」

私がセリーの自己紹介に補足すると、ベスタは「かしこまりました」と返事をした。

 

セリーが座ると入れ替わりでミリアが立った。

「ミリア、です」

「ベスタ、ミリアはまだブラヒム語がカタコトしか話せないので、私が紹介しますね」

「はい」

「彼女はミリア。三番奴隷です。猫人族の15才で、ジョブは海女。片手剣で戦います。

迷宮では前衛で、主に遊撃。つまり、自由に闘っています。

あと、ミリアはとても目が良くて、暗がりでも見えるので、黒魔結晶を拾ったり、アイテムや宝箱を見つけたりしています。迷宮の異変にいち早く気づくのも彼女です」

「お姉ちゃん、です。よろしく、です」

「よろしくお願いします」

ベスタが返事をすると、ミリアは着席した。

 

「あとは、ご主人様です」

「わかった」

私が促すとご主人様は立ちあがり、何かを一瞬考えてから、おもむろに話し始めた。

「では改めて。ベスタ、俺はミチオ・カガ、自由民だ。

人間族の17才で、ジョブは探索者だが...... 実は複数のジョブを持っていて、いつでも自由に入れ替えることが出来る。

なので、ロクサーヌに言われた通り、ご主人様というジョブだと思っていてくれ。

あと迷宮では、通常は後衛で魔法で戦い、MPを増やしたいときは前衛で両手剣で戦う。

俺の剣にはMP吸収の他に詠唱中断のスキルもついているので、ボス戦などではスキルや魔法のキャンセルに回ることもある。

まあ、他にも色々できるが、それは追い追い教えるということで。

よろしくな」

「よろしくお願いします」

ご主人様は自分の紹介が終わり、ベスタが返事をすると着席した。

 

ご主人様が着席したので、私は補足した。

「ベスタ。ご主人様はとても強いです。

迷宮では、私たちが魔物を抑えているうちに、ご主人様の魔法で魔物を殲滅する戦い方を基本としています。

ご主人様が剣で戦うときもありますが、その時も前衛陣が魔物を抑えているうちに、ご主人様に攻撃して頂く場合が多いです。

ご主人様は剣で戦ってもとても強いですからね」

「えっと...... 魔法も剣も強いのですか?

えっと...... あ、ご主人様だからですか?」

「はい。ご主人様ですから」

「わかりました」

 

「では、ベスタ。あなたのことも教えてください」

私が促すと、ベスタが立ちあがった。

「ベスタです。竜人族の15才で、ジョブは村人です。

迷宮には入ったことはありませんが、村の近くに出た魔物はたおしたことがあります。

精一杯頑張りますので、これからよろしくお願いします」

ベスタは自己紹介が終わると、勢い良くあたまをさげた。

「ああ。よろしくな」

「よろしくお願いしますね」

「よろしくお願いします」

「よろしく。です」

 

皆んなの紹介が終わると、ご主人様が鼻息を荒くして号令をかけた。

「よし。風呂に入るか」

 

もう、ご主人様ったら。

しょうがない人ですね。

 

私たちとのお風呂を、どれだけ楽しみにしてるのですか?

 

◆ ◆ ◆

 

私たちは夕食の片付けを手早く終わらせ、脱衣室に移動した。

私はベスタに、「脱いだ服は明日洗うから、こちらのカゴに入れてください」と指示すると、彼女は「かしこまりました」と返事をした。

ご主人様、私、セリー、ミリアが服を脱ぎはじめると、ベスタはためらいながら私に「あの、本当に私も良いのでしょうか」と確認してきた。

「大丈夫ですよ」と優しく答えてあげると、彼女は恐る恐る服を脱ぎはじめた。

 

ご主人様は服を脱いで手ぬぐいを腰に巻きつけると、なぜかからだを捻ってストレッチのような運動をしながら、私たちが服を脱ぐところをチラチラとしばらく見ていたが、ひと通りみんなの裸を見ると「先に入って石鹸の準備をしておく」と言って先に風呂場に入っていった。

私は脱いだ服をカゴに入れてからみんなが準備出来たことを確認し、ベスタに手ぬぐいを渡した。

そして「じゃあ、入りましょう」と声をかけて、風呂場の扉を開いた。

 

風呂場に入ると、ご主人様は既に石鹸を泡立てて私たちを待ち受けていた。

私はタライで湯船からお湯をひとすくいしてからだにかけてご主人様の前に立つと、ベスタがご主人様の手の泡を指さして聞いてきた。

「ロクサーヌさん、それは何ですか」

「石鹸です。これでご主人様に洗っていただくととても気持ちいいですよ」

「洗っていただくのですか」

「そうですよ」

「そうだな。いまからロクサーヌを洗うから、興味があるなら見てるといい」

ご主人様はベスタに見ているように言うと、私の胸に泡を擦り付けた。

「あんっ!」

「ロクサーヌはいつ見ても美しいな」

「ありがとっ、うんっ! ござい、ます」

そして、からだの隅々まで洗い、最後に秘部を優しく洗い始めた。

「ご主人様。いつも、あっ! ありがとうございます。

あっ! とても、気持ちいい、です」

ご主人様は優しくもリズミカルに指を動かし、洗いながら愛撫する。

私は気持ちよすぎてまっすぐ立っていられなくなり、ご主人様にしなだれかかると、今度は指がなかに入ってきた。そして、激しく抜き差しされる。

「あっ! ああっ! ごしゅっ! んああああっ!」

私は快感に身をゆだねて軽くイッてしまうと、ご主人様は耳もとに顔を寄せて「続きはベッドでな」と言ってからだを離した。

「ロクサーヌは最後に髪を洗うから、あとでもう一度な」

「はぁ、はぁ、は、はい。 ご主人様」

私は息も絶え絶えでなんとか返事はしたが、その場にへたり込んでしまった。

ご主人様はそんな私のあたまを撫でると、セリーに声をかけた。

「次はセリーだな」

セリーはご主人様に呼ばれると、恥ずかしそうにご主人様の前に立った。

私は息を整えながらぼんやりご主人様を見あげると、セリーに話しかけながら彼女の全身を丁寧に洗っていた。

セリーはときおりからだをビクンッ!と震わせて小さく喘ぎながら、恍惚とした表情を浮かべている。

きっと彼女も気持ちいいんだろう。

私がそんなことを考えていると、不意にセリーがとなりにしゃがみ込み、はぁ、はぁ、と肩で息をしながら片手をついた。

ご主人様はセリーを洗い終わったようで、「次はミリアだ」と、ミリアを呼んでいた。

 

「セリー、気持ち良かったですか?」

「はぁ、はぁ、は、はい。き、気持ち良かった、です」

「ふふっ。少し休憩しましょう」

「はい。あの、ロクサーヌさん。

その...... 今日のご主人様、すごくないですか?」

「あなたもそう思いましたか?」

「はい。あの、指づかいが」

「もしかして、イキました?」

「えっと...... はい」

「ふふっ。私もですよ」

「やっぱりそうでしたか。へたり込んだのでもしかしてって思ってました。でも、アレは反則ですよね」

「しかたありませんよ。ご主人様ですから♥」

私が返事をすると、セリーはクスクスと笑った。

「ロクサーヌさん。それ、完全に口癖になってますね。ご主人様ですから〜って」

「ふふっ。そうですね。なぜだかわかりませんが、言いたくなってしまうのですよね。

それに、おこがましいですが、ご主人様ですからって言うと、誇らしくなります」

「あははは。わかります」

私とセリーが話していると、すぐ横にミリアがへたり込んだ。

彼女は肩で息をしながらも、恍惚とした表情でご主人様を見あげている。

セリーと話しながらぼんやり聞いていたけど、ご主人様に洗われながらずっと小さく喘いでいたので、たぶんイカされてしまったのだろう。

「ミリア。気持ち良かったですか?」

「はぁ。はぁ。 あの......。はい。です」

彼女は肩で息をしながらも、私の言葉を肯定した。

思った通りのようだ。

私とセリーがクスクスと笑うと、ミリアは顔が真っ赤になった。

そして、おもむろに深呼吸してから、顔をキリッとさせて言った。

「洗った、です」

ふふっ。誤魔化したつもりかな?

「ミリア、洗われた。ですよ」

「洗われた。です」

私が言い間違いを指摘すると、ミリアは胸を張って言い直した。

まったく......

言い直せば良いわけではないのだけど。

 

ご主人様はミリアを洗い終わると、ひと息ついてベスタのほうを向いた。

「よし。最後にベスタだ」

「はい」

ベスタは私たちが洗われているあいだ、所在なげに風呂場の角に立ってじっとこちらを見ていたが、ご主人様に呼ばれて近づいた。

私は下から見あげるようになったためか、彼女の胸の大きさに改めて驚いた。

 

「すごい。顔と同じくらい。それが2つって、重くないのかな......」

そう思って見ていると、ご主人様が胸を揉みだした。

いや、洗いだしたのか。

ご主人様は胸の感触を確かめるようにしばらく洗っていたけど、私たち...... というよりセリーのジト目に耐えられなかったようで、他の場所も洗いだした。

ご主人様はベスタの上半身から下に向かって洗っていき、私たちと同じように彼女の秘部も丁寧に洗いだした。

するとベスタは、「ああっ!」とか「んっ!」とか小さく喘ぎだしたけど、声とは裏腹に表情がどんどん曇りだした。

そして、ご主人様が秘部に指を出し入れしはじめると、ついにたまりかねて、「あの、ご主人様。そこを触られるとゾクゾクするのですが、私は初めてなので、その、このままでよろしいでしょうか?」と言った。

彼女の言葉にご主人様はハッとして秘部から指を引き抜き、抜いた指を見て少しホッとした顔になった。

そして、ベスタに「続きはあとでな」と言って残りの場所を洗いはじめた。

 

しばらくして、ご主人様はベスタをひと通り洗い終わると、彼女の胸を触りながら呼吸するよう指示した。

そして、何度か彼女に深呼吸させると、小首を傾げて何か考えはじめた。

それからご主人様は、胸の大きい竜人族が馬鹿にされていることは誤解で、胸が大きいほうが運動能力が高くて素晴らしいということを、気嚢と肺の仕組みの違いをまじえて説明してくれた。

セリーは自分の知識が間違っていたことに考えこんだけど、ベスタはコンプレックスが解消されて嬉しそうだった。

セリーは納得いかなかったようでご主人様にいくつも疑問をぶつけてたけれど、全て反論されて言い負かされてしまった。

さすがはご主人様。本当に私たちが知らないことを、よく知っている。

セリーもあたまが良くて頼りになるけれど、今回は完敗ね。

 

「さすがご主人様です。本当に色々なことを知っていて、なんだか誇らしいです。誰かに私のご主人様はすごいんですって言いたい気分です」

「誰かに言うのは勘弁だな。出来れば内密にな。

しかし、誇らしいか...... なんか照れるな。

まあ、たまたま聞いたことがあっただけだ。

大した事ではない。

それよりロクサーヌ。触ってみれば気嚢があることが実感できるぞ」

ご主人様は照れ隠しをするかのように、ベスタの胸を触るよう私に勧めてきた。

「えっと。ベスタ、いいですか?」

「はい、どうぞ」

ベスタが了承したので、私は立ちあがって彼女の胸に触った。

彼女の胸は大きさの割に張りがあり、指先を押し込むと力強く押し返してくる。すごい弾力だ。

そのまま触っていると、彼女の呼吸に合わせて胸の大きさが変わることに気がついた。

「あっ!ご主人様。ベスタの呼吸に合わせて胸の大きさが変わります」

「気づいたか」

私はもう一度確かめるため、両手で左右の乳房を触った。

「はい。ちょっと押していないとわかりにくいですけど...... あ、わかりました。

確かに、呼吸によって空気が出入りしているようです。

息を吸うと右が膨らみ、右が戻りながら左が膨らみ、息を吐くと左が元に戻ります。

ご主人様が先ほど言っていた通り、右の胸から左の胸に空気が流れていくのですね」

貴重な体験が出来たので、私は二人にも声をかけた。

「セリー、ミリア。あなたたちも触らせて頂いたらいかがですか?」

「いえ、私は大丈夫です」

「大丈夫。です」

私は良かれと思ってセリーとミリアにベスタの胸を触らせてもらうように薦めたけど、残念ながら二人に拒否されてしまった。

すると、ご主人様は私たちに声をかけた。

 

「で、ではロクサーヌの髪を洗う前に、俺の体も洗ってもらえるか」

「かしこまりました」

私が返事をすると、セリーとミリアが立ちあがった。

「はい。ご主人様をお洗いすればいいのですか」

ベスタが答えたので、私はからだにもう一度石鹸を泡だてて塗り、ご主人様のうしろから抱きついた。

セリーは右から、ミリアは左から同じように抱きつく。

「そうです。こうして全員でご主人様の体を洗います」

私たち3人がご主人様にからだをこすりつけて洗い出すと、ベスタは「かしこまりました」と返事をしてご主人様の正面にしゃがみこんだ。

そして、その大きな胸でご主人様の正面側を洗うと、最後の仕上げと言わんばかりに、ご主人様の顔を挟んでマッサージした。

「そ、それは...... ぱふぱふ……だと……」

「こうすると主人となるかたに喜んでいただけると、先輩の奴隷から聞きました」

 

ベスタはご主人様の顔をしばらくマッサージすると、次にしゃがみこんで少し大きくなりかけたアレを胸で挟み込み、上下にこすりだした。

すると、ご主人様のアレがみるみる大きく、硬くなっていく。

 

ベスタはご主人様のアレが完全に硬く、そそりたつと、胸で挟んだまま、先端を舌でチロチロと舐めだした。

「ううっ! スゴッ! クッ!」

ご主人様はそうとう気持ちいいのか、短く喘ぎながらからだをビクビクと震わせている。

ベスタは再び胸を上下させてアレをしごき始め、胸のあいだから顔をのぞかせる先端に長い舌を這わせている。

ベスタ、すごい。その方法は知らなかったわ。

ほんの1、2分で、ご主人様がイキそうになってる。

 

私はご主人様の様子を見て、ベスタに言葉をかけた瞬間、ご主人様が限界を迎えてしまった。

「ベスタ、ご主人様はもう限界です。ちゃんと受けとめて......」

「えっ?」

「クッ! ベスタ、駄目だ。我慢できん」

ご主人様はそう言うな否やベスタの顔に精液をぶちまけた。

ベスタは驚いて「ヒャッ!」と短く悲鳴をあげて、からだを離した。

しかし、ご主人様の射精は止まらずベスタの全身に降り注ぎ、彼女は精子まみれになってしまった。

「すまん。気持ちよすぎて、いっぱい出てしまった」

「いえ。大丈夫です」

「いえ、いけません。ベスタ、お口でご主人様をイかせてさしあげるときは、ちゃんとお口で受けとめてください」

「いや、無理じいしなくても。別に嫌な気持ちはしなかったから、問題ない」

私がベスタを指導すると、ご主人様が彼女をかばった。

「そんな、それでは......」

私はご主人様に否定されて悲しい気持ちになり、くちごもってしまった。

次の言葉が出てこない......

 

「セリー。ミリア。悪いがベスタをきれいにして、先に湯船につかっててくれ」

「かしこまりました」

「はい。です。お姉ちゃんがきれいにする。です」

ご主人様はセリーとミリアに指示を出すと、私に向きなおって抱き寄せた。

「ロクサーヌ。お前を否定したわけではない。

その、男には、きれいなものを汚したくなるような衝動もあるのだ」

「それって......」

「まあ、その...... 顔にかけてみたい...... とか」

「そうだったのですか? でも、ご主人様は私には一度もかけてはくださりませんでした」

「ロクサーヌ。顔にかけるってことは、見くだしてるようにもなりうる。尊厳を踏みにじるようなものだしな。だから、ガンシャはお互いの合意がなければやってはいけないと思ってるんだ」

「そうだったのですか。ご主人様の配慮に気づかず申しわけありませんでした。

ですが、その、ガンシャは...... 最初は私にしてほしかったです」

「いや、ロクサーヌ。さっきのは事故みたいなものだ。決してベスタの同意を得たわけではないし、俺だって望んでしたわけではない。だから、あれはガンシャではない。ノーカウントだ」

「では、私が望んだら、ご主人様は私にガンシャしていただけますか?」

「もちろんだ...... って、ロクサーヌ、いいのか?」

「はい。ご主人様が望むなら、初めては、私でして欲しいです」

私はベスタの様子を確認すると、セリーとミリアにあたまを洗われていた。

飛び散った精子が髪のなかにも入りこんでしまったようで、石鹸で全身泡だらけだ。

少し時間がかかりそう。今なら、いいわね。

私はそう思い、ご主人様の前にしゃがみ込んでアレを咥えた。

私はさっきベスタがしてたように胸でご主人様のアレを挟み込んで上下にしごきながら先端をしゃぶると、すぐに大きく、硬くなった。

「ロクサーヌ。気持ちいいぞ」

ジュポッ、ジュポッ、ジュポッ、ジュポッ!

「ごひゅじんひゃま。きもちいいれすか?」

私はアレを咥えたまま聞くと、ご主人様はコクッとうなずいた。

私はうれしくなって、胸とお口でご奉仕を続けると、ご主人様はすぐに限界を向かえた。

「ロクサーヌ。出すぞ!」

「はい。ご主人様」

私がご主人様のアレから口を離すと、ご主人様は片手で竿を握り、先端を私の顔に向けた。

次の瞬間、ご主人様は勢い良く射精して、私の顔に精子をぶちまけた。

温かい。そして、むせ返るような青臭い匂い。

これがガンシャなのね♥

 

ご主人様は射精し終わると、私の口にアレの先端を押し付けてきたので、私は咥えて竿のなかに残った精子を吸いだした。

私はご主人様の竿を握ってしごき、すべてを吸いだしてからチュポンっと口を離した。

そして、口を開けてご主人様に精子を見せ、そしてゴクリッと飲み込んでから、再び口を開けてなかを見せた。

 

「ご主人様。ありがとうございました」

「いや、ロクサーヌ。お礼を言うのは俺のほうじゃないのか?」

「でも、私は嬉しかったです。ご主人様の初めてを頂けて」

「そうか。俺も初めてがロクサーヌでよかった。次も頼むな」

ご主人様がそう言うと、セリーが声をかけてきた。

「ご主人様ダメです。初めてはロクサーヌさんに譲りましたけど、次は私の番です」

ご主人様が次も私と言ったことに、セリーは少しだけ嫉妬しているようだ。

「ご主人様。何事も順番が大切です。次はセリーにしてあげてください」

「ロクサーヌ。いいのか?」

「はい。ご主人様への気持ちはセリーも同じですから」

私が胸を張って言うと、セリーは恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「そ、そうなのか。

わかった。セリーが望むなら、俺は問題ない」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます。次は、是非」

私がご主人様にお礼を言うと、セリーも顔を真っ赤にしながらあとに続いた。

 

「じゃあ、俺はロクサーヌのあたまを洗うから、3人は先に風呂につかっていてくれ。せっかくのお湯が冷めてしまってはもったいないからな」

ご主人様に促されて3人は湯船に向かうと思っていたら、不意にミリアが近寄ってきて、私の顔についた精子を舐め取った。

「おいしい。です」

「あ、ずるい」

セリーはそう言うと、ミリアと同じように私の顔についた精子を舐め取った。

すると、今度はベスタが近寄って来た。

「ロクサーヌさん。私もよろしいですか?」

「えっと、私はかまいませんよ」

「失礼します」

彼女はそう言って私の顔についた精子を舐め取り、コクッと飲み込んだ。

そして、「不思議な味がします」と言うと、セリーとミリアに手を引かれて湯船に入っていった。

 

「みんな仲が良いと安心するな」

「ふふっ。それはご主人様がいるからですよ」

「そうなのか?」

「はい。間違いありません」

「俺はみんながいるから幸せだな」

「それは私たちもです」

「これからも宜しくな」

「はい。これからも、ずっと♥」

 

その後、私はご主人様にあたまと顔を洗って頂き、それから5人で湯船につかった。

 

◆ ◆ ◆

 

湯船のなかではご主人様の右が私、左がセリー、足元にミリアが浮いているというのが今までの定位置だったけど、今日からはベスタが入るので配置が変わった。

と言ってもベスタがご主人様の向かいでつかったのと、ミリアの浮かぶ場所が足元からヒザうえあたりにズレただけだけど。

さすがにベスタの足はご主人様の足のあいだまで伸びてきてたけど、膝のあたりまでだったので圧迫されるような感じではなかったようだ。

 

ご主人様はお湯につかってハァーっと大きく息を吐くと、「このサイズにしておいてよかった」としみじみと語った。

「さすがはご主人様です。先見の明があったということですね」

「たまたまだ」 

ご主人様は言葉では突き放すような口ぶりだけど、顔はニヤケテいるので、嬉しそうだ。

 

私たちは、そのまましばらくお風呂につかると、のぼせないうちにあがった。

このあとは、いよいよお情けを頂く時間だ。

 

「お待たせしました。ご主人様」

「いや。たいして待ってない。気にするな。

それより......」

「大丈夫です。ベスタには我が家のルールを教えてあります」

「そうか。ありがとう。ではベスタ」

「はい」

ご主人様が声をかけると、ベスタは返事をしてご主人様の前に立った。

そして、ご主人様を抱きしめておやすみのキスをした。

それからはいつも通り、ミリア、セリー、私の順番でおやすみのキスをした。

 

今日からはベスタも加わり、ご主人様は4人を相手にしなくてはならない。

私は少し心配していたのだけど、いざ始まったら凄かった。

 

ご主人様は、私をたっぷり愛撫したあと、四つん這いにさせた。

そして、犬のようにうしろから、私の秘部にアレを突きたてた。

「ロクサーヌ。入れるぞ」

「はい、ご主人様...... あっ! ああああっ!」

ご主人様のアレが、私の秘部を押し分けて入ってくる。

そして、秘部の一番奥まで入りアレの先が子宮の入口に当たると、ヌチュ!ヌチュ!っと注送を繰り返した。

 

「あっ! ああっ! んんっ! ああっ!」

ご主人様が腰を打ち付けるたびにアレが子宮に当たり、あたまのなかが痺れるように気持ちいい。

ご主人様はしばらくゆっくり注送を繰り返すと、私の腰を両手でグッとつかんだ。

そして、いままでよりも速く、パンパンとリズミカルに腰を打ち付けだした。

 

ご主人様が突くたびに、どんどん気持ち良さが増していき、アレ以外のことが考えられなくなる。

私はすぐに限界までのぼり詰め、絶頂に達してしまった。

 

しかし、ご主人様は私がイッてもアレを抜かずに腰を打ち付け続ける。

何度イッテも終わらせてくれない。

「ご主人様っ! イクッ! ああっ! ああああっ! はぁ、 はぁ。  

んっ! クッ! イクッ! またイクッ......  んっ!

イクッ!  んあっ! んあああああっ! はぁ、はぁ」

「ロクサーヌ、気持ちいいか。まだまだ攻めるぞ」

「はい! んんっ! あっ! ダメッ! また、イッちゃう ご主人様っ! イキます! またいっちゃいます! ああっ! んああああっ!

 はぁ...... はぁ......」

 

今日のご主人様は本当に凄い。

私が何度イッテも腰を振り続けてるし、気を失いそうになると微妙に動きが変わり正気に戻される。

何度イかされただろうか......

イク間隔がどんどん短くなり、ついに私はイキ続けるようになった。

すると、ご主人様のアレが私のなかで更に大きくなった気がして、「クッ! ウッ!」と、短く我慢する声が聞こえだした。

ようやくご主人様も限界をむかえるようだ。

 

「あっ! ああっ! またっ! ご主人様! イッテる イッてます! 

もう、ずっとイッてます! ああっ! おかしくなっちゃうっ!」

「クッ! ロクサーヌッ! ウッ! 俺もイクぞっ!」

ご主人様はひときわ強くアレを打ち付けると、一番奥に挿入した状態から、更にグググと腰を押し付けた。

ニュチュッ! 次の瞬間、ご主人様のアレが奥の奥、子宮のなかに入った感覚がした。

「あぅっ! ああああっ! ご主人様っ! すごっ! いっああああああああっ!」

「クッ! ウゥッ! クハッ! ハッ...... はぁっ! はぁ はぁ はぁ」

 

私とご主人様は同時に絶頂をむかえた。

私はガクガクと痙攣したあと腰くだけとなってしまい、そのまま突っ伏してしまった。

そして、ご主人様のアレがビクビクと痙攣しながら吐き出した熱い精液で、子宮のなかが満たされていくのを感じながら、ゆっくり意識を手放した。

 

しばらくして気がつくと、私の左右にセリーとミリアが裸のまま倒れていた。

ミリアは寝ているようだけど、セリーは耳を真っ赤にしながら私とは反対の方向を向いていた。

セリーの向いているほうに視線を送ると、ご主人様がベスタを可愛がっていた。

 

「ベスタ。どうだっ!」

「ごしゅじ、 んっ! さまっ! あっ! ああっ!

わたっ.... わたっ、しは... あぅっ!

はじめて、な...... なので...... あああっ!」

部屋にご主人様がパンパンと腰を打ち付ける音と、ベスタの喘ぎ声が響く。

ベスタは初めてと言っているけど、種族特性のせいなのか痛がる様子はまったくなく、なんだか戸惑っているように見える。

 

「気持ちいいのか」

「よく..... わかりまっ! あっ! せ...... んんっ!

こんなっ! ああっ! んんんんっ!

ごめんなさいっ! 何か変です......」

 

ベスタは気持ち良くてイキそうになっているみたい。

でも、初めてだからよくわからないようね。

ふふっ。あのようすだと、そろそろかな?

私はベスタがイクと思ってながめていると、ご主人様から切羽詰まった声が聞こえた。

どうやらご主人様も限界だったようだ。

 

「ベスタ、クッ! そろそろイクぞっ!」

「ああっ! 何かっ! んんっ! んあっ!

ごしゅ、 じん、 さ、さまっ! だめですっ! だめっ! 

んああああああああっ!」

ベスタがイッた瞬間、ご主人様も限界をむかえた。

「ウッ! クッ! クハッ! はぁ...... はぁ......」

「はぁ...... はぁ...... ありがとう... ござい... ました」

ベスタは自分がどうなったのかわからずに、息を整えながらも呆然としていたけど、ちゃんとお礼を言っていた。

そして、ご主人様が離れると目を閉じた。

すると、すぐにスゥスゥと寝息をたてはじめた。

 

ミリアもそうだけど、ベスタも一瞬で寝れるのね。

私はちょっと呆れながらも、ひとまずご主人様のとなりに移動して話しかけた。

「ご主人様。きれいにしますね」

私はご主人様のアレを咥えてお掃除すると、彼はあたまをそっと撫でてくれた。

そして、アレをきれいにし終わると、ご主人様は私に話しかけてきた。

 

「ロクサーヌ。済まない。悪いが今晩はこのまま寝たい」

「お疲れですか?」

「いや。俺はまだ大丈夫だが、ちょっと張り切ったからみんな疲れただろう」

「ふふっ。そうですね。ミリアとベスタはもう寝てしまいましたね。ですけど、私はまだ大丈夫ですよ。

それにセリーも」

「えっ?セリーも?」

ご主人様が驚いたので、私がセリーの腰をポンっとたたくと、彼女はビクッ!とからだを震わせた。

そして、観念したようにこちらに顔を向けて話しだした。

 

「ロクサーヌさん。気づいていたのですか?」

「ええ。目は瞑っていても耳が真っ赤になっていましたからね」

「そうだったのか。俺は全然気づかなかった」

「恥ずかしいです」

「ハハハハ。いまさらだな。

だが、やはり今夜は寝よう」

「そうですか......」

「いや、別にしたくないわけではないぞ。

ただ、今日はもう遅いから、いまからすると寝不足になるからだからな」

私が少し落ち込むとご主人様は急に慌てて言い訳した。

私はそんなご主人様が急に可愛く思えてしまい、思わず笑ってしまった。

セリーもクスクスと笑っている。

 

「ふふっ。かしこまりました。それなら仕方がないですね」

「わかりました。では、今夜はおとなしく寝ます」

私とセリーが返事をすると、ご主人様は私とセリーを抱き寄せた。

 

「明日また、色魔をつけて、たっぷり可愛がるからな。じゃ、今夜はおやすみ」

そうか、今日ご主人様が凄かったのは、色魔のせいだったのか。

でも、もう私はご主人様なしでは生きてはいけないからだにされてしまったと思う。

私のとなりでご主人様を見ているセリーもきっと同じなのだろう。

 

「おやすみなさいませ」

「おやすみなさい」

私とセリーはご主人様に軽くキスをして、左右に抱きついたまま、その日は眠りについた。

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