ロクサーヌの想い   作:龍いち

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私の中の獣戦士

わたしの名はロクサーヌ。

狼人族で16才の巫女、そしてご主人様(加賀道夫)の一番奴隷。

 

大好きなご主人様、かわいい後輩奴隷のセリー、ミリア、ベスタの5人で、クーラタルの一軒屋でしあわせにくらしている。  

 

お仕事は迷宮探索。

5人で毎日迷宮に潜り、魔物を倒してドロップアイテムを拾い、それを売って生活している。

 

 

私が巫女のジョブになってから6日が過ぎた。

巫女というジョブは私ととても相性が良いようで、転職してからまだたったの6日なんだけど、迷宮24階層でも余裕を持って戦えるくらい強くなっている。

 

こんなに短期間で成長出来ている理由は、私たちのパーティーが普通のパーティーと比べると、同じ時間で10倍以上もの魔物を倒しているからだ。

その1番の要因は、ご主人様が短時間で魔物を殲滅してくれることなんだけど、私の魔物を探せる鼻の良さも、2番目の要因になっている。

つまり、私とご主人様の相性が抜群なので、成長する速度が尋常ではないということだ。

 

 

「私、憧れのジョブに就けて、いまはとっても充実してるんですよ」

「はははは。そうか。やっぱロクサーヌ的には騎士より巫女のほうが良かったのか? あ、どちらでもって答えは無しだぞ。正直どうなんだ?」

「そうですね。正直に言って...... 巫女です!」

「はははは。溜めて言わなくても」

「済みません。嬉しくてちょっと浮かれてるかも知れません」

 

「いや、まあ、油断は禁物だが。さすがに半年以上もロクサーヌと一緒にいるからな。

迷宮内を歩いていても、全く緊張しないんだよ」

「ふふっ。それはいけませんね。セリーに聞かれたら怒られそうです。

ですけど、ご主人様にそう言って頂けるのはとっても嬉しいです」

「ロクサーヌが喜んでくれるのは俺も嬉しいが、まあ、セリーには内密にしておこう」

 

「かしこまりました。あと...... 

そこの分岐を右に曲がると、すぐ先に3匹います。スローラビットが2匹とチープシープが1匹です」

「分かった。左から倒すから、ロクサーヌは真ん中と右を抑えてくれ」

「お任せください」

 

私は剣を構えて戦闘態勢を整え、フッと息を吐いて集中した。そして、ご主人様に目で合図を送り、2人で分岐の手前までそっと近づく。

そして、ご主人様のハンドサイン。3、2、1、GO!

 

ご主人様が手を振ったので、私は無言で駆け出した。

私は真ん中にいたチープシープに鋼鉄の盾を打ち付けながらスローラビットにレイピアを突き込んで2匹を引きつけた。

 

同時にご主人様はデュランダルで左のスローラビットを斬り伏せ、そして、その剣を振りあげながら、真ん中のチープシープを斬りあげた。

すると、次の瞬間2匹は煙に変わった。

 

2匹が煙になると、ご主人様はその煙をすり抜けて右のスローラビットの後ろに回り込み、デュランダルを構えたので、私はスローラビットにもう一度レイピアを突き入れて、再度魔物の注意を引きつけた。

 

ご主人様は右のスローラビットの意識が完全に自分から逸れていることを確認すると、後ろからデュランダルを突き入れた。

すると、最後の1匹も煙に変わり、ドロップアイテムが床に残った。

 

「どうだった?」

「11秒。さすがご主人様。新記録です」

「そうか。まあ、いまのは状況が良かったから、当然の結果だな。魔物からしたら突然目の前に戦闘態勢の敵が出現したってことだから、恐怖でしかないだろう」

 

「そうですか? はじめの2匹は戦闘態勢を取る前に倒されたから、恐怖を感じる暇も無かったと思いますよ?

でも... そうですね。

最後の1匹は、気づいたら仲間2匹が殺されていて、自分は前後を挟まれた状態になっていたのですから... ご主人様が言われた通り恐怖を感じていたのかも知れませんね」

 

「まあ、恐怖うんぬんは別にして、奇襲が成功したんだ。記録が出てもおかしくはないだろう」

「そうかも知れませんが、やはり、ご主人様が強いから出せた記録です。おめでとうございます」

私は話しながら拾い集めたドロップアイテムをご主人様に渡した。

 

「ロクサーヌ。ありがとう。では次を探してくれ」

「かしこまりました。次はこのまま真っ直ぐです」

 

いま、私はクーラタルの迷宮7階層にいる。

ご主人様のMP回復のため、2人で魔物を狩って回っているところだ。

“迷宮では何が起こるかわからないから決して油断するな” とは言われているけれど、いまの私たちにクーラタルの迷宮7階層は余裕過ぎる。

だから、思わずデート気分になってしまうことは仕方がないことなんだろう。

 

「ところでさっきの続きだけど、巫女と獣戦士ならどっちが良いんだ?」

「そうですね。今は巫女です」

「今は? 昔は違ったのか?」

ご主人様に質問されて、私は昔のことを思い出した。

 

「そうですね...... 子供の頃は獣戦士に憧れていました。父が獣戦士でしたので」

「すまん。聞かないほうが良かったか」

私が少し考えてから話し始めると、ご主人様は死んでしまった父のことを思い出させてしまったことを申し訳なく思ったようで、すぐに謝ってきた。

でも、両親が死んだことは心の中でけりをつけたことなので、私はそのまま話を続けた。

 

「いえ。大丈夫です。それで、巫女にも憧れはあったのですが、いつの間にか獣戦士一択になっていました」

「そうなんだ。でも、いまは巫女のほうが良いのか?」

「そうですね。今となっては獣戦士というジョブではなく、父への憧れで獣戦士になりたいって考えていた気がします」

「そうか......」

「ご主人様 。本当に気にしないでください。両親が死んだことは、私の中でもう済んだことなのですから」

「分かった。ところでロクサーヌはどうやって獣戦士になったんだ?」

「えっと......」

 

ご主人様は軽い気持ちで聞いたみたいだけど、私はかなり大変な思いをして獣戦士になった。

短時間で話すことは難しいし、どう伝えればいいのか...... しばらく迷ったあげく、シンプルに「獣戦士ギルドで試験を受けてなりました」と答えた。

 

私が説明しづらそうにしたことが悪かったのか、ご主人様は少し首をひねると、再度私に質問してきた。

「どんな試験だったんだ?」

「えっと...... 簡単に言えば魔物と一定時間戦い続ける試験ですけど、済みません。詳しく話しをするには時間が必要です。その...... かなり大変だったので」

「分かった。じゃあ夕食のときに教えてくれ」

「えっと、済みません。夕食のときには話しづらいので、ベッドで眠りにつきながら話すのではダメでしょうか」

「寝物語として語るというヤツか? まあ、それでも構わないが...... その......」

ご主人様が言いづらそうにしていることが何かは分かっているので、私から続きを話した。

 

「気を失っていたら叩いて起こしてくださっても結構ですので、ご主人様はいつもと同じように可愛がってください」

「あ、いや、叩くわけには......」

「では、気を失わないように頑張ります。ですから...」

「分かった。いつも通りな」

「はい♥いつも通りたっぷりお願いします♥」

私は返事をしながらご主人様に飛びつき、唇を重ねた。

 

その後、3回魔物の群れと戦い、先の2回と合わせて魔物を12匹倒してから帰宅した。

そして、ご主人様は風呂場、私はキッチンに戻ってそれぞれの作業に取りかかったのだった。

 

 

そしてその夜、私たちはいつも通り2回ずつ可愛がって頂いた。

私以外は2回目のときに気を失ってしまい裸で寝ているので、私はみんなに肌がけをかけてあげた。

そして、ご主人様の隣に寝転び、腕にあたまを乗せた。

 

「ご主人様。今日もとても気持ち良かったです。ありがとうございました」

「ロクサーヌ。俺も気持ち良かった」

ご主人様は返事をしながら横向きになり、私のあたまを優しく撫でてくれた。

 

「ご主人様。私が獣戦士になったときのことをお話ししますね」

私はそう切り出して、昔の出来事を思い出しながら獣戦士になった経緯や当時の状況をご主人様に話しはじめた。

 

◆ ◆ ◆

 

子供の頃、わたしは両親と自分の3人で、帝国の南方にある狼人族が多く住む町で暮していた。

両親はともに探索者で、昔は稼げる迷宮を求めて色々な町を渡り歩いていたらしいけど、私が生まれたので狼人族が多いこの町に住み着いたらしい。

 

この町は外壁のすぐ外に迷宮があり、家から通いで探索が行えるので、子供を育てるには条件が良かったそうだ。

それに叔母も近くに住んでいたので、私の面倒をよく見てもらえて助かったとのこと。

 

両親の迷宮探索は順調だったけど、ある日突然不幸な出来事が起こってしまった。

私が10才の時、迷宮内で2人共死んでしまったのだ。

 

当時、両親は狼人族5人でパーティーを組んでいて、父は30才、獣戦士で前衛。母は29才、探索者で後衛。他のメンバーは前衛で50才くらいの男性戦士。確かパーティーリーダーだったはずで、父はジジイって呼んでいた。

あとは、同じく前衛で20代後半の女性戦士と、後衛で20代前半の女性僧侶だったはずだけど、2人の名前は覚えていない。

因みに母と女性僧侶は後衛だったけど槍を装備していて、戦闘時は前衛の隙間から魔物を突いて攻撃していたそうだ。

 

父はあまり喋らない人だったけど、休みの日には私の剣の練習に付き合ってくれた。

父はとても強くて動きも素早いので、私の攻撃はすべてかわされてしまうし、私では父の攻撃は受け止められなかった。

そのため私の戦闘スタイルは、いつの間にか攻撃をかわすか受け流して、一撃を突き入れるというものになっていた。

 

父が自分のパーティーメンバーのことを話すことはほとんどなかったけど、一度だけ酔っぱらったときに「魔物の群れが5匹のときはジジイと2人で2匹ずつ引き付けて、その隙に母さんたちが残りの1匹を倒すんだ。父さんも強いけど、母さんもすごく強いんだぞ」と上機嫌で語っていた。

父にしては饒舌だったので、私はそのときのことは良く覚えている。

 

両親がいつも何階層を探索していたのか聞いたことは無かったけど、魔物5匹と戦っているということは、16階層よりも上の階層で戦っていたということ。

つまり、それなりに強いパーティーだったことは間違いないだろう。

 

母は物腰が柔らかい人で探索者にはあまり向いていなかった。

だけど、父のパーティーには探索者がいなかったので、私が5、6才くらいで一人で留守番が出来るようになったころに、探索者に転職して迷宮に入るようになったそうだ。

でも、あまり迷宮に入ることは好きではないようで、「本当は探索者は早く辞めて叔母と一緒に畑を耕して暮らしたいけど、代わりの人が見つかるまで辞められないのよ」って言ってよく溜息をついていた。

だけど、迷宮ではかなり活躍しているらしく、「代わりになる探索者なんてそうそう見つからないから引退は諦めて」なんて、他のメンバーから言われていた。

 

私はそんな母でも活躍できると聞いていたので、当時迷宮が怖い所だなんて微塵も思っていなかったし、当然両親は毎日帰ってくるもんだと思っていた。

 

でも、その日は突然やって来た。

夜遅くなっても両親が帰ってこなかったのだ。

 

私はどんどん不安になり探しに行こうと思って玄関ドアを開けたけど、真っ暗でどこを探せば良いのかも分からなかった。

それでもじっとしてられなくて外に飛び出したけど、家の周りを探しても2人は見つからず、匂いもしなかったので、諦めて家の中に戻った。

 

そして、食卓に座って、朝になっても両親が帰ってこなかったら、どこを探せば良いのか......

近所の誰かに助けを求めたほうが良いのか......

それとも先に、叔母に話しに行ったほうが良いのか......

 

私は次の行動を考えていて、ふと叔母のことを思い浮かべた。

両親を除くと、私にとっては唯一の肉親だ。

 

叔母は母の妹で、当時はまだ22才だった。

私からすると、叔母というよりは少し年の離れたお姉さんと言ったほうがしっくりするくらいだ。

 

叔母は母とはとても仲がよく、大きな農家に嫁いでいるはずだったけど、月に一度は私の家に遊びに来ていた。

姉妹だけあって、叔母は母とは容姿がよく似ているし、一見おっとりしているようにも見えるけど、実は必ずしもそうではないことを、私はよく知っている。

 

私は小さいときに両親に黙って森に入り、魔物を狩っていたことがあったのだけど、それがバレたときに両親以上のすごい剣幕で彼女に怒られたことを今でも覚えているのだ。

小さいときはそれがトラウマになっていて、叔母が来ると彼女の機嫌を損ねないよういつも緊張していた。

でも、いつも私のことをすごく可愛がってくれる人だし、激しく怒られたのはその1回だけだったので、今では彼女が家に来ると、私のほうから抱きつくほど好きになっている。

 

きっと叔母なら力になってくれるはずだ。

少なくとも、いつも猫撫で声で近づいてきて、やたら私に触ろうとする近所のおじさんたちよりは頼りになるだろう。

 

ただ、叔母の家はそんなに離れていないって聞いたことはあったけど、行ったことが無いから場所が分からない。

どうやって探せばいいのか......

 

などと考えているうちに、私はいつの間にか食卓に突っ伏して眠ってしまった。

そして翌日。私はからだを揺すられて目が覚め、顔をあげると、そこには叔母がいた。

 

私は叔母に両親が帰ってこなかったことを伝えると、彼女は私を強く抱きしめて「ロクサーヌ。もう大丈夫だからね」と言って涙を流した。

 

私は叔母の雰囲気から、両親に何か悪いことが起こったこと。そしてたぶんもう帰ってこないということがわかった。

つまり...... 

たぶん2人は死んでしまったということだ......

 

でも、あまりにも突然過ぎて、まるで実感がない。

私は自分でも驚くほど自然な感じで、叔母に状況を確認した。

 

「叔母さん。どうしたの?」

私が質問すると叔母は一瞬キョトンとしたけど、そのあと真剣な顔つきになって私としっかり目を合わせた。

 

「ロクサーヌ。落ち着いて聞いてね」

「はい」

「あなたのお父さんとお母さんが、昨日の夕方迷宮で亡くなったの」

「はい......」

 

私は両親が死んだことは予測していたので取り乱したりはしなかったけど、その通りだったことで少しだけ気分がさがった。

叔母は私の目を見定めて、私が取り乱していないか確認してから話を続けた。

 

「あのね。昨日の夜遅く、19階層の入口で女性の僧侶が見つかったのだけど、その人は......」

「お父さんとお母さんのパーティーの人だったんですね」

「そうよ...... そして、他のメンバーはみんな死んだって......」

「そう...... ですか.....」

私が返事をしながら少しうつむくと、叔母はもう一度私を抱きしめた。

そして、叔母は食卓にそっと何かを置いた。

 

「ロクサーヌ。これを」

叔母が置いた物を見て、私は愕然とした。

食卓に置かれていたのは、母がいつも着けていた髪留めだった。

間違いない。昨日の朝、両親を見送ったときに母が着けていたものだ。

 

血がついて黒ずみ、ひしゃげていたけど、私がお小遣いを貯めてプレゼントしたものだから、見間違えるはずがない。

母はこの髪留めをすごく気に入っていて、毎日使ってくれていたのだ。

 

それを見た瞬間、私ははじめて両親がもうこの世の何処にもいないということを実感した。

私の目からは止めどなく涙が溢れだし、胸が締め付けられるように苦しくなり、うまく呼吸が出来なくなった。

 

私は口を大きく開けて頑張って息を吸おうとしているのに、いっこうに苦しさが取れない。

そして、両親との思い出が次々にあたまに浮かんでは消え、悲しくて、苦しくて、寂しくて、不安で......

色々な感情がごちゃまぜになって、どうしたら良いか分からなくなった。

 

勝手にからだが震えだし、「ううっ... グスッ...」と嗚咽が漏れ出した。

すると、叔母の私を抱く力が強くなった。

次の瞬間、私は叔母にしがみつき、声をあげて泣いてしまった。

 

それからどれくらい泣いていたのか......

私は泣き疲れて眠ってしまったようで、気がついたら夕方になっていた。

そして、自分が知らない部屋にいることに気がついた。

 

ここはどこ?一瞬疑問に思ったけど、すぐに自分がどこにいるのかわかった。

すぐ隣から叔母の声が聞こえたのだ。

 

「ロクサーヌ。目が覚めた?」

私はからだを起こすとベッドの隣には叔母がいて、優しい目でこちらを見ていた。

 

「おはようございます」

「ロクサーヌ......」

私は挨拶したけど、叔母は私にどう話しかければ良いのか分からず困っているようだったので、私から色々聞いてみた。

 

「叔母さん...... ここはどこですか?」

これは薄々分かっていることだったけど、話のきっかけに聞いてみた。

「ここは私の家よ。あなたが寝ているあいだに運んだの。あなたの家は借りている物だったから、すぐに出なくちゃいけないの。

だから、今日からあなたはここに住むのよ」

「私......」

「ロクサーヌ。あなたは何も心配しなくていいのよ。あなたは姉さんの忘れ形見なんだから。私じゃ姉さんの代わりにはなれないけど、あなたは私が守るから。大丈夫だからね」

叔母さんはそう言うと、また私を抱きしめた。

 

 

翌日。私は荷物を整理するために叔母に連れられて家に帰った。

私の家は探索者用の賃貸で、衣服や多少の私物はあったけど、運搬用の木箱に詰めると1箱で収まるくらいだった。

思い出の品も多かったので、箱に仕舞いながら一つ一つ両親との出来事を思い出していたけれど、それでも1時間足らずで全て終わってしまった。

食卓や棚など多少の家具もあったけど、私の服を仕舞っていた小さな棚以外はいつの間にか来ていた雑貨屋に引き取られていった。

 

そうして片付けが終わると、家の中は生活感が一気に無くなり、ガランとした空間が広がっていた。

そして、私に残ったのは、小さな棚と木箱がひとつずつ。木箱に入らなかった片手剣が1本、木の盾が1個、訓練用の木剣が2本。

それと、家具の引取り代金としていま受け取った銀貨10枚と銅貨30枚が入った小銭袋がひとつ。

それだけだった。

 

私は何も無くなった家の中を見回して、両親のことを思い出した。

そして、ひとしきり思い出に浸り、最後に“今までありがとう。いつまでも大好き!”と心のなかで叫んで、自分のなかで両親とお別れをした。

 

お別れを済ませて叔母にそのことを話すと、彼女は家の中に向かって、「姉さん。ロクサーヌのことは私に任せて、安らかに眠ってください」と言って、深々とあたまをさげた。

叔母の目には光るものがあったので、これが彼女なりの母との別れの挨拶だったのだろう。

 

その日から私は叔母夫婦の家にお世話になり、代わりに畑仕事の手伝いをするようになった。

叔母夫婦は無理に畑仕事をしなくても良いと言ってくれたけど、私はただでお世話になることが申し訳なくて、自分に出来ることを見つけては、積極的に手伝っていた。

 

私はそんな感じで常に少し引け目を感じていたのだけど、叔母にはそんなよそよそしさは全くなかった。

子供がいなかったせいか、私を本当の子供のように可愛がり、ときには愛情を持って叱りつけ、しっかりと育ててくれたのだ。

叔父は父に少し似ていて無口な人だったけど、叔母と同様に可愛がってくれていたので、私は何不自由なく暮らすことが出きたのだった。

 

 

数日後、両親のパーティーメンバーだった僧侶が亡くなったことを聞かされた。

 

彼女が19階層の入口で発見された時はすでに虫の息で、その後2日間治療を続けたけど結局なくなってしまったらしい。そして、女性は亡くなる前に、治癒師に当時の状況を語ったとのこと。

 

当時、両親のパーティーは19階層の探索を進めていて、ボス部屋も発見していた。

だけど、実力不足を感じていたので、もう少しこの階層で経験を積んでから、ボスに挑戦するつもりでいた。

 

その日は夕方ボスの待機部屋で休憩したあと、少し戻ってまっすぐな通路の突き当たりに湧いていた魔物5匹の群れを倒しにかかった。

はじめはいつも通り戦っていたけど、3分くらいしたときに異変が起こった。

 

別のパーティーが魔物を引き連れて、両親のパーティーが戦っていた通路に逃げ込んできたのだ。

いわゆるモンスタートレインというやつだ。

 

そのパーティーはすでにメンバーが3人になっており魔物を5匹引き連れていた。

逃げてきたパーティーの人は「不意打ちを食らったんだ。すまない助けてくれ」と言ったらしいけど、両親たちは5匹を相手にするので手一杯だったので、リーダーは即座に「無理だ!こっちは行き止まりだ!それ以上近づくな!」と怒鳴ったらしい。

 

でも、そのパーティーの人たちは既に自分たちだけでは対応することが叶わないと判断していたらしく、両親のパーティーに無理やり合流してきた。

結果。両親たちは前後を10匹の魔物に囲まれてしまったとのこと。

 

その時点でリーダーは瞬時に全員助かることは無理だと判断したらしく、彼と父が目の前の魔物5匹を抑えているうちに、残りの6人で後ろの魔物の間をこじ開けて、抜けたヤツは振り返らずに逃げろという指示をだしたらしい。

 

そこから、リーダーと父がどうなったのかは分からないけど、後で父たちが対応していた魔物に後ろから襲われたので、たぶん2人は倒されたとのこと。

 

後ろの魔物には6人での対応となったけど、逃げてきた3人に力で魔物を抑えるタイプの探索者はいなかった。

知らない人たちだったのでまともに連携することもできず、すぐには誰も魔物の群れを突破出来なかった。

 

そのうちに父たちが抑えていた魔物も流れてきて後ろから攻撃されてしまったので、母と僧侶の2人は無理矢理魔物どうしの隙間に突っ込んで、攻撃されながらも間を抜けたそうだ。

 

でも、抜けた瞬間に母は背中を攻撃されて吹き飛ばされ、壁に激突してすぐにこと切れたとのこと。

そのとき母は最後の力を振り絞って髪留めを僧侶に渡したらしい。

 

その後、僧侶はなんとか魔物を振り切って19階層の入口まで逃げたけど、入口についた時点で意識を失ったらしく、そこまでしか覚えていなかったとのこと。

 

その後、僧侶は発見されて迷宮から助け出されたけど、左手は肘から先が欠損していた。全身を魔物に殴打されたらしく、からだ中がアザだらけになっており、肩やアバラは骨折していた。

内臓も傷つけられていたようで、腹がどす黒く変色していて、口から血を吐いていた。

 

とても助かるような状態ではなかったらしく、治癒師や自身の回復魔法でなんとか延命していたけど状態は上向かず、ついには限界を迎えてしまい亡くなったとのことだった。

 

◆ ◆ ◆

 

それから3年の月日が経ち、私は13才になった。

 

私は両親と同じように迷宮で活躍したくて、今日は朝から獣戦士になるために獣戦士ギルドにやって来た。

ここで試験を受けて技量を認められ、ギルド神殿で適性と判断されれば獣戦士にジョブチェンジしてもらえるからだ。

 

昨日、探索者になりたいことを叔母夫婦に打ち明けたときはすごく反対されたけど、最終的に「いつかこうなるような気がしていたわ」と言われ、私が探索者になることを了承してくれた。

 

了承してくれた後で教えてくれたのだけど、叔母は私が時間を見つけては木剣を振ったり、片手剣と木の盾を持ち出してこっそり森に行っていたことを知っていた。

そして、私が獣戦士の父や探索者の母に憧れていて、小さいときから訓練をしていたことや、いつかは2人と一緒に迷宮探索で活躍したいという思いを強く抱いていたことも知っていたそうだ。

 

そのため少し前に、私が探索者になりたいと言い出して、その意志が堅かったら、そのときは本人の想いを尊重してあげようと叔父と話し合って決めていたとのことだった。

 

私は叔母にお礼を言い、必ず立派な探索者になると約束してきたので、絶対に獣戦士になってやるって強く思いながら、ギルドの受付で受験を申し込んだ。

 

受験費用は2000ナールで決して安い金額ではなかったけど、以前家具を売って得たお金を大切にとっておいたのと、森で魔物を倒して得たドロップアイテムを売って稼いだお金を合わせれば、なんとか支払うことが出来るので問題はなかった。

 

因みに売ったアイテムは毒針で、森の中に湧くニートアントを狩って得た物だ。

本当はその毒針を使ってノンレムゴーレムを狩りたかったのだけど、小さいときにそれがバレて両親と叔母に激しく怒られたことがあったので、今回はやめておいた。

おかけでお金が貯まるまで半年もかかったけど、その苦労ももうすぐ報われるはずだ。

 

 

私が獣戦士になる試験について受付の女性に尋ねると、彼女は親切に詳しく教えてくれた。

 

獣戦士になる試験は、大きな檻のなかで複数の魔物と一定時間戦い抜くというものだそうだ。

そこで、獣戦士としてふさわしい強さや素早さがあるのか審査されるとのこと。

 

試験用の魔物はその日によって違い、2匹の場合もあるけど、弱い魔物の場合は3、4匹の場合もある。

倒してしまっても良いのだけど、なるべく規定時間、これも魔物によって違うのだけど、長いときは20分間ずっと戦い抜いたほうがギルド神殿で適性と判断され易いらしい。

 

因みに試験を通過するのは3割。通過してもギルド神殿で適性と判断されるのは、そのうちの半分とのこと。

なので、何度も試験を受けて、やっとの思いで獣戦士になる人も珍しくはないということだった。

 

受付の女性はそこまで教えてくれたあと、さらに言葉を付け加えた。

「探索者や兵士みたいに、戦闘経験が十分ある大人でもそれくらいしか獣戦士にはなれないわ。

子供や女性の受験者もいるけれど、ほとんど試験すら通過出来ないの。

あなたには悪いけど、もう少し鍛えてから受験したほうが良いと思うわ」

 

そこまで話を聞いて、私は気がついた。

彼女は私に受験しないよう諭しているのだ。

でも、私はどんなに困難でも絶対に獣戦士になると誓ってここに来ている。

だから、「どうしても獣戦士になりたいので試験を受けたいです。もっと詳しく教えてください」と頼むと、彼女は一瞬考えてから「フゥ」と溜息をつき、それから詳しいことを教えてくれた。

 

どうも私が今回がはじめての受験だったのと、まだ13才と若かったこと、そして何より女性だったので、ギルドの受付としては本当はダメなんだけど、心配して受験しないよう諭していたらしい。

 

 

「試験用の魔物はその日によって違うのだけど、怪我をしたり、女性の場合は魔物に酷いことをされてしまってもギルドは補償しないの。その試験申込書は、事故が起きても全て自己責任ということの誓約書でもあるのよ」

「そうなんですか」

「もちろんちゃんと合格することもあるけど、特に女性の場合は試験を受けた結果、からだだけでなく精神的に病んでしまう場合もあるのよ」

「精神的に?」

私が疑問に思うと、受付の女性は少し話すのを躊躇ってから、話を続けた。

 

「そう、精神的にね。

あなたはコボルトっていう魔物を知ってる?」

「はい。すごく弱い魔物ですよね」

「そうね。1匹ならね。でも、数が増えると怖いのよ」

「そうなんですか?」

「コボルトは集団で一人を襲うの。そして、それが女性なら裸に剥いて犯すのよ。

自分たちの子供を作るためにね」

「えっ......」

受付の女性は私の反応を見て、続きを話しだした。

 

「気づいたかも知れないけど、試験用の魔物はコボルトの場合もあるの。というか、いま試験を受けたらコボルトになるのよ」

「そうなんですか」

「そう。そして、コボルトは弱いから、ギルドの規定では4匹を相手にすることになる。それに、試験時間も最大の20分になるの」

「でも、倒してもいいのですよね」

「そうだけど、試験はギルドの用意した武器で受けることになっているから、倒すことは難しいと思うわ。

それに、試験を審査している職員がいるけど、檻の外にいるし、受験者が倒されて意識を失うか、審査員にはっきりと分かるように助けを求めるまではどんな状況になっても試験は止めないの。

こちらの勝手な判断で試験を中止したら、ギルドが責められる可能性があるからね。

だから、大怪我する人も珍しくないし、女性の場合は犯されて孕まされてしまうこともあるのよ」

「でも、審査員に助けを求めれば大丈夫なんですよね?」

「ちゃんと求められればね」

「それはどういうことですか?」

「それは......」

私が質問を重ねると、受付の女性は口ごもった。

そして、私の顔を見つめて、小さく溜息を吐いてから話を続けた。

 

◆ ◆ ◆

 

「少し前のことだけど、一度、酷い事故があったの。

試験を受けたのは貴方より少しうえ、当時15才の女の子だったわ。

その子はとても勝ち気で子供のころから大人に混じって迷宮に入っていたらしく、一端の探索者として上手に剣も扱えていたわ。

そして、かなり自信もあったみたい。

実際その子を試験会場に案内したときに素振りしてるところを見たけど、そのとき私は彼女なら間違いなく合格すると思ったわね。

でもね、そうはならなかったの」

彼女はそこまで話すともう一度私の顔を見て、一呼吸おいてまた話を続けた。

 

「私が受付に戻ったあとに試験が行われたのでここからは後で聞いた話になるわ。かなり酷い話になるけど、どうしても聞きたい?」

「お願いします」

「そう......」

 

彼女はそう言うと、それから何があったのか教えてくれた。

 

女の子が檻のなかに入ると、すぐにギルド職員がコボルト4匹を連行してきて檻のなかに追い込んだ。

そして試験が始まると、最初の5分は彼女がコボルトを圧倒したそうだ。

 

剣で打ち据えて、薙ぎ払って、突き飛ばした。

そして、コボルトたちが警戒して距離を取り出すと、一気に踏み込んで接近し、大上段から渾身の一撃を叩き込んで1匹を斬り伏せた。

斬り伏せられたコボルトは大きく地面でバウンドすると、そのまま倒れて痙攣し、すぐに動かなくなったらしい。

 

すると彼女は圧倒的だったことに気が緩んだのか、残り3匹のコボルトたちを追い回しはじめた。

彼女は逃げるコボルトを背中から蹴り飛ばしたり、わざと剣の腹側でコボルトの尻を叩いたり、素手でコボルトに往復ビンタを喰らわせたりと、檻のなかで好き放題暴れだしたらしい。

 

でも、開始から5分経ったとき、異変が起こった。

彼女に斬り伏せられて真っ先に死んだと思っていたコボルトが、彼女が横を走り抜けようとした瞬間に足首を掴んだのだ。

どうやら死んだフリをしていたようだ。

 

そのせいで彼女はうつ伏せに倒れてしまった。

そして、彼女にとって不幸だったのは、倒れたときに、剣を握っていた手を別のコボルトに棍棒で叩かれて、剣を手放してしまったことだ。

 

彼女はからだを回転して仰向けになり、足首を掴んでいるコボルトをもう片方の足で蹴り飛ばした。

そして、さらにからだを回転させて、手を攻撃したコボルトから距離を取ろうとしたけれど、次の瞬間に他の2匹のコボルトから同時に棍棒を投げつけられたので、彼女は座ったまま咄嗟に腕を交差して守りを固め、衝撃に耐えた。

 

でも、それは致命的な隙となった。

衝撃を耐えきると、そのときには縮めたからだめがけて3方向からコボルトが飛びかかっていたのだ。

 

剣があれば左右のどちらかのコボルトを突き飛ばしながら転がって回避することも出来たかも知れないけど、武器が無いので彼女は仕方なく右に転がった勢いで飛びついてきたコボルト1匹に体当たりして弾き飛ばした。

しかし、右のコボルトは弾いたけど、からだの勢いが止まってしまい、彼女は正面と左から飛びかかっていたコボルトに背中に貼りつかれてしまった。

 

彼女はコボルトを引き剥がそうとしたけれど、すぐに体当たりして弾いたコボルトにも飛びつかれてしまい、地面に引きずり倒された。そして、うつ伏せ状態で大の字に貼り付けられてしまったのだ。

 

彼女はコボルトから逃げようとしてかなりもがいたけど、3匹に覆いかぶさられて身動きを封じられ、どうしても動けなかった。

彼女はコボルトに「クソッ!離せ!」とか、「どけっ!」とか怒鳴っていたけど、首を締められたのか、急に「ウグッ!グガッ!」と喉を詰まらせたような声をあげた。すると、それからは「ンンッ!」とか「ングッ!」という声を押し殺したような小さな呻き声しか出さなくなってしまったらしい。

 

さらに、先ほど蹴り飛ばされたコボルトが戻ってきて、腕や足を棍棒で叩き出した。

彼女は「ンンンンンンンンッ!」と呻き声をあげながらもからだをよじって逃れようとしていたけど、両手両足を棍棒で打ちつけられるとまともに動けなくなった。

 

その時点で審査員に助けを求められれば良かったのだけど、彼女は呻いているだけで決して“助けて”とは言わなかった。

実はコボルトの1匹が覆いかぶさっているうちに口に指を突っ込んで喉を傷つけたらしく、彼女は声を出せなくされていたのだけど、審査員はそれに気がつかなかったらしい。

 

 

それからは悲惨だった。

彼女は仰向けにされて裸に剥かれ、次々にコボルトたちに犯されはじめたのだ。

しかし、審査員には彼女が抵抗出来なくて蹂躙されているだけなのか、それとも犯されながらも規定時間耐え抜こうと我慢しているのか判断がつかなかった。

 

コボルトは奇声をあげながら彼女の両胸を掴み、秘部にアレを打ちつける。

するとすぐにビクビクと痙攣して射精し、出し終わると次に交代した。

1、2分で射精するらしく、次々に出しては交代する。

そして、何回か出し終わると今度は1匹が彼女の顔のうえに立ち、あたまを抱えあげてアレを口に突っ込んだ。

彼女はあたまを振って逃れようとしたけれど、そいつはそのまま強引に腰を振り、すぐにビクビクと痙攣した。

コボルトが口からアレを引き抜くと、彼女は咳き込みながら精液を吐き出した。しかし、すぐに次のコボルトにアレを突っ込まれ、ゴホゴホ咳き込みながらも喉を犯され続けた。

 

彼女は喉と秘部を同時に犯されて苦しそうに呻き、涙を流していたけど、コボルトが口からアレを引き抜いても肝心の“助けて”という言葉は吐かなかった。

 

審査員は彼女の声を聞き逃さないよう、フェンスに張りついて凝視していたけど、規定時間が過ぎるまで、コボルトたちが奇声をあげながら彼女をもて遊ぶことを止めることが出来なかったとのこと。

 

途中で見かねたギルド職員が、試験を中止するように意見したらしいけど、審査員はフェンスをかたく握り、「勝手に止めていいならとっくに止めてる!助けてと言うまでは、彼女の頑張りを黙って見てろ!」と怒鳴ったそうだ。

 

結局彼女は10分以上も審査員やギルド職員の前で犯され続け、試験が終わって助け出されたときは、手足は折られて動けなくなっており、口と秘部からはコボルトの精液を垂らしていた。

そして、精神が崩壊してしまったようで、虚ろな表情になって心を閉ざし、まったく受け答えしなくなっていた。

 

その後、彼女は家に帰り、怪我の治療に専念していたそうだけど、3日後の朝に自殺していたとのこと。

 

発見されたとき、彼女は短剣で腹と喉を刺して亡くなっており、その腹は膨らんでいたそうだ。

 

◆ ◆ ◆

 

受付の女性はひとしきり過去に起きた酷い事故のことを話すと、「コボルトは繁殖力が非常に強くて種族に関係なく妊娠させられるの。それに女性を孕ませ袋として認識していて、女性なら容姿や年齢などは考慮せずに見境なく種付けしようとするの。そして、妊娠期間がとても短くて種付けから4、5日で産ませるらしいわ。

野生のコボルトが女性を攫って巣に囲いこみ、何度も孕ませて子供を沢山産ませていたという話も珍しくないの。

コボルトって、女性にとっては本当に怖い魔物なのよ」と最後に付け加えた。

その後でもう一度、私に試験を受ける意思があるか確認してきた。

 

「獣戦士ギルドとしては試験を受けてほしいけど、私個人としては貴方のような女の子に不幸な目にあって欲しくはないわ。

今ならまだ受付が完了してないから止めることも出来るけど、本当に試験を受ける?」

「そう...ですね... でも、油断せずに20分間、戦い抜けばいいのですよね?」

「そうだけど。20分ってキツイわよ」

「大丈夫です。もっと長い時間魔物と戦ったこともありますので」

「そう。せっかく高い受験料を払ったのに、泣いて帰ることになるかも知れないけど、それでも受験したいのね。それに、戦い抜いても最終的にギルド神殿で適性と判断されなければ獣戦士にはなれないけど、それでもいいのね」

「はい」

「そう...... わかった。もう止めないわ。

でも、自分が不利になったと思ったら、躊躇せずに「助けて」って叫びなさい。戦士には戦う勇気が大切だけど、戦いを止める勇気も大切なんだからね」

「はい」

 

後で知ったのだけど、この受付の女性は試験を受けても獣戦士になれる可能性が低いような子供や女性が試験を受けにきたときは、十分な戦闘経験が必要なことや魔物の怖さを伝えて受験することを諦めさせるようにしているらしい。

 

でも、私は彼女の言うことを聞かないほうの人だったようで、話を聞いたうえでも受験の意思があることが伝わると、彼女は残念そうな顔をしながらも、最後はちゃんと受付してくれた。

 

 

受付の女性に引率してもらいギルドの中庭に出ると、そこには円状の大きな檻があった。

これが試験会場か。思ったより大きい。反対側まで20mはありそう。

それにフェンスも高い。5mくらいあるし、一番上は内側に反り返って1mぐらい突き出ている。

これではフェンスを越えて逃げることは不可能ね。

 

私がフェンスを見上げていると、ひとりのギルド職員が近づいてきた。

私はそのギルド職員に自分の装備品を預けると、試験用の装備品を選ぶよう促されたので、片手用の木剣と木の盾を受け取った。

 

確かにこれではコボルトといえど倒すのは難しいわね。

両手用なら重さがあるから木剣でもコボルトを斬り伏せたり、薙ぎ払うことも出来るかも知れないけど、片手用ではそうもいかない。これでは急所を突くのが精一杯だと思う。

でも、私は両手剣は使ったことがないから仕方がない。

 

私は先ほど受付の女性に言われた言葉を思い出し、とにかく20分間油断せずにコボルトたちの攻撃を避け続けようと気を引き締めた。

 

すると、私の気合が伝わったのか、受付の女性は私の両肩を掴んで、「私の付き添いはここまで。いい、少しでも自分が不利になったと思ったら、躊躇せずに「助けて」って叫ぶのよ」ともう一度私に忠告して、名残惜しそうに受付に戻っていった。

 

受付の女性がいなくなると、入れ替わるように少しガラの悪そうな男がやってきた。

その男は私を一瞥すると、装備品を預けたギルド職員に何やら小声で話をして、「いいからさっさと行ってこい」と言ってギルド職員をこの場からたち去らせた。

 

それから私の所までやってくると、ニヤニヤしながら「ほぅーっ、まだ青いがなかなか上玉だな」と言って、私のことを上から下までなめるように見回した。

そして、「試験のことは聞いたのか?」と少しバカにするように私に聞いてきた。

 

すごく不快だったけど、私が「はい」と答えると、男は「俺が今日の審査員だ。合否は俺が判断する。今日の魔物はコボルトなんでちょっと弱いから、数は多いのは勘弁してくれ。まあ、試験を受けにくるんだから強いんだろう?なら大丈夫だ」と言った。

そして、「仮に魔物に倒されて裸に剥かれても、最後まで耐え抜けば合格にしてやるから、ちょっとぐらいヤバいと思ってもギブアップはしてくれるなよ」と言いながらもう一度私をなめるように見回して、最後に「期待してるぜ」と付け加えた。

 

この人...何? 私がコボルトに犯されるのを期待しているの?

この人、ほんとに審査員?

 

私が訝しんでいると、審査員は「じゃあ、檻に入れ」と言って檻の入口を指さした。

そして、私が檻に入ると、扉を閉めて鍵をかけた。

 

えっ!鍵?!

私は驚いて審査員に「鍵をかけるの?」と聞くと、ニヤニヤしながら「魔物が逃げ出したら困るだろう。試験が終わったら開けるから、それまでちゃんと耐え抜けよ」と言って、ヒヒッと笑った。

私は「あの、受付で「助けて」って言ったら試験を中止してくれるって聞いたけど」と言うと、審査員は下卑た笑いを浮かべながら、「ああ。ちゃんと聞こえたらな」と言って審査員用の椅子に向かっていった。

 

すると、さっき立ち去った人を含め、6人のギルド職員が試験会場に入ってきた。

4人はそれぞれ1匹ずつ縄で縛った子供サイズの魔物を連れており、2人は少し小さめの棍棒を2本ずつ持っていた。

間違いない。あれがコボルトだ。

 

コボルトという魔物は有名なので、姿かたちや最弱モンスターということは知っていたけど、私は迷宮には入ったことがないのではじめて見た。

野生のコボルトもいるらしいけど、見つかればすぐに騎士団が駆除しているので、一般人が見る機会はほとんどないモンスターだ。

 

私が森のなかで戦ったことがある魔物と比べると、小さいし、貧相だし、とても強そうには見えない。

これなら...... と思いかけて、先ほど受付の女性から聞いた話を思い出した。

 

いけない。見た目に騙されるところだった。

私は深呼吸して、目の前の魔物たちに集中した。

 

◆ ◆ ◆

 

ギルド職員は私が入った反対側の入口からコボルトを押し込んで縄を外すと、棍棒を投げ込んで入口扉を閉めて鍵をかけた。

すると、コボルトたちは各々棍棒を拾いあげ、私を見つけると奇声をあげて飛びかかってきた。

 

私が盾や剣で棍棒の一撃をいなしたり、コボルトを突き飛ばしたりして戦い始めると、遅ればせながら審査員が「今から試験を始める。試験時間は20分間だ」と言って、自分の横に置いてあった砂時計をひっくり返した。

私はわざと開始の合図を遅らせたことにムッときたけど、すぐに魔物に集中し直した。

 

コボルトは、はじめは連携などせずに各々が勝手に突撃してきた。

私がたいした攻撃が出来なくて、かわすのが精一杯だと思っているようで、闇雲に棍棒を振り回せば、なんとかなると思っているようだ。

 

確かに片手用の木剣には刃が無く斬ることができないから、コボルトにはほとんどダメージを与えられない。

正面から突き飛ばせばダメージを与えることはできるけど、何度か繰り出すとコボルトたちも覚えたようで、正面からは突撃してこなくなった。

そのため、私は盾や剣で攻撃をそらすか、からだを捻ってかわすことが徐々に増えだした。

 

でも、だからと言って厳しい状況というわけではない。

むしろ、コボルトたちの攻撃が単調なので、楽に回避出来ている。

攻撃は出来ていないけど、余裕があるくらいだ。

 

しかし、さすがに10分過ぎると、コボルトたちも自分たちの攻撃が全く当たらない違和感に気づいたようだ。

 

私が攻撃をかわし続けていると、戦いながら何やらコボルトどうしでギャアギャアと相談し始めた。

そして、リーダーらしき1匹が「グギャッ」と叫ぶと、私から少し離れて私を中心に四方に散らばり、次に「グギャー!」と叫ぶと一斉にかかってきた。

 

コボルトは子供くらいの知恵があることは知っていたけど、ついさっきまでの戦いかたとはまるで違うので、少し驚いた。

だけど、所詮はコボルトなんだろう。

 

私は瞬時に目の前のコボルトに駆け寄って剣で突き飛ばし、それから左回りに走って私の左から駆け寄ろうとしたコボルトを蹴り飛ばした。

残りの2匹は同時に飛びかかってきたけど、私は半身になって1匹の棍棒をかわし、もう1匹はかわしながら足を払って転倒させた。

そして、転倒したコボルトを蹴り飛ばしてから、バックステップでコボルトたちから距離を取った。

 

私は一度深呼吸して、チラッと審査員を見ると、忌々しそうにこちらを見ていた。

私の感覚ではそろそろ15分だ。審査員の脇の砂時計を見ると、7割以上砂が落ちていたので、間違いないだろう。

 

コボルトたちはもう一度ギャアギャアと何かを話し合い、また私を中心にして四方に散らばった。

そして今度はリーダーの「ギャッ」という合図で、4匹とも正面に棍棒を構えて同時にゆっくりと私に近づき出した。

 

えっと、これはゆっくり近づくなら4匹で私を囲めると思っているの?

コボルトたちの意図は分からなかったけど、私はさっきと同じように正面のコボルトに向けて駆け出し、直前で半歩右にステップして棍棒を避けながら木剣でコボルトを突き飛ばした。

そして、先ほどと同じように走り、左のコボルト、正面のコボルトの順にと突き飛ばし、最後の右のコボルトは棍棒の振り降ろしをかわしながら、後頭部に剣を打ち付けた。

すると、そのコボルトは地面に倒れてピクピクと痙攣し、そのまま動かなくなった。

口から泡を吹いているので、死んだか気絶したようだ。

 

コボルトたちの足が遅かったので、いまの攻撃は先ほどよりも楽だった。1匹倒したしまだまだ余裕もある。

だけど、コボルトたちが何を考えていたのか分からなかったので、私は油断せずに少し下がって息を整えた。

 

私は再び砂時計を見ると、もう砂がほとんど残っていなかった。

あと1分もないだろう。

そう思った瞬間、審査員はニヤッと笑い、砂時計をひっくり返した。

 

「えっ!」

私は一瞬呆然としたけど、すぐに審査員の意図に気がついた。

あの男は何としてもコボルトに私を犯させるつもりだ。

ここに来て、私ははじめて身の危険を感じ、悪寒が走ってからだが震えた。

 

そして、理解した。

受付の女性から聞いた女の子の話は、きっとあの男のしわざだ。だから、私が“助けて”と叫んでも、きっと無視される。

私が生き残るためには、コボルトを全て倒すしかないのだろう。

 

私はフツフツと怒りがこみあげてきて、審査員に抗議しようと思ったけど、コボルトたちが動き出したのでその時間は無くなってしまった。

私は審査員への怒りはひとまず放置して、コボルトに集中し直した。

 

◆ ◆ ◆

 

3匹のコボルトは今度は横並びで向かってきた。1匹減ってしまったからか、やっとお互いにカバー出来るような態勢で戦おうとしているようだ。

 

私は3匹に囲まれないように左に回り込むと、左のコボルトが止まって向きを変え、2匹が回り込んでまたお互いにカバー出来る態勢をとった。

 

私は囲まれないように左に左にと回り込んで、相手にするのは2匹までに抑えていたけれど、ジリジリとフェンスに追い込まれだした。

 

私は回り込む方向を右に変えたりして事態を打開しようとしたけれど、結局10分ほどでフェンス際まで追い込まれた。

すると、後方フェンスの外から審査員の「やれっ!やっちまえ!」という興奮した声が聞こえた。

この男は審査員用の椅子から立ち上がって、私がよく見えるフェンスのすぐ外までやって来たようだ。

 

私がフェンスを背に構えると、コボルトたちは私から3mくらいの所で左右に広がり、半円形に私を囲んだ。

私は最初に飛びかかったコボルトを突き飛ばし、そこをすり抜けてこの囲みから脱出しようと考え、3匹の動きに集中した。

 

次の瞬間、真ん中のコボルトが「グギャッ!」と叫ぶと、3匹は一斉に棍棒を投げようと大きく振りかぶった。

私は咄嗟に右のコボルトに飛び込んで剣で突き飛ばしたけど、背中に左のコボルトが投げた棍棒が直撃してバランスを崩し、前のめりに倒れてしまった。

そのせいで木の盾を放りだしてしまい、四つん這いになってしまった。

“しまった”そう思った瞬間、奇声をあげながら私めがけて2匹のコボルトが飛びかかって来た。

 

私は恐怖を押し殺して左回りに回転し、仰向けになった勢いで、上半身に飛びかかってきていたコボルトを木剣で薙ぎ払った。

しかし、次の瞬間に下腹部にドスンと衝撃を受けた。

もう1匹のコボルトに下半身に飛びつかれ、ちょうど下腹部に顔が乗っていたのだ。

 

直後、コボルトは両太腿を掴んで股間に顔を擦り付けようとしたので、私は「嫌ぁぁぁぁぁぁっ!」と叫びながら剣の柄をガンガン脳天に叩き付けた。

そして、コボルトが怯んだ隙に、右にからだを回転させてコボルトを引き離し、すぐにそこから駆け出して距離を取った。

 

危なかった。一瞬ダメかと思った。

私は目尻に涙が浮かび、全身から冷たい汗が吹き出している。

今の攻防でコボルトに引っ掻かれたようで、上着の端が切り裂かれて臍が見えてしまっている。

さいわい怪我はしていないようだけど、下腹部に受けた衝撃に恐怖してしまい、足がすくんでしまっている。

 

このままではダメだ。

私は一度大きく深呼吸して気を落ち着かせ、それからパシッと太腿を叩いて自分を叱咤した。

そして、少し冷静になって檻のなかを見回し、コボルトたちの動きを確認した。

すると、違和感に気がついた。

 

あれ?最初に倒したコボルトが転がったままだ。しかも手が届く所に不自然に棍棒が転がっている。

魔物は死んだら消えてドロップアイテムを残すはずなのに、どうして消えていないのか......

 

そうだ。受付の女性は、事故があったときコボルトが死んだフリをしていたって言ってた。

つまりあの魔物は...... 

 

先ほど私を追い詰めたコボルトたちは、離れた所で棍棒を拾いながら何やらギャアギャア話している。

私は3匹のコボルトに警戒しつつ、倒れているコボルトに狙いを定めた。

先ず1匹確実に殺す!

 

私は倒れているコボルトに駆け寄り、手前で思いっきり飛びあがると、全体重をかけてコボルトの右目に木剣を突き刺した。

するとコボルトは「ギャッ!」と短く叫ぶと、ビクビクと痙攣してからボフッと煙に変わった。

 

コボルトが消えると、そこには鈍く光る小さなナイフが落ちていた。

私がそれを拾うと、審査員がフェンスを揺すりながら何やら騒いでいたけど、私は無視して左手にナイフを持って二刀流の構えをとった。

 

◆ ◆ ◆

 

コボルトたちは仲間がやられて呆然としていたけど、私が構えるとハッとしてギャアギャアと喚きだし、私に向かって突っ込んできた。

 

コボルトたちはあたまに血が上ったようで、連携などせずに各々棍棒を振り回して向かってきたので、先ず正面から突撃してきたコボルトを木剣で突き飛ばし、次に右から突撃してきたコボルトを蹴り飛ばした。

そして、最後のコボルトは左側から棍棒を振り降ろしてきたので、私は半身になって攻撃をかわし、すれ違いざまにコボルトの脇腹をナイフで切り裂いた。

 

すると、脇腹を切り裂かれたコボルトは「ギャヒィッ!」と叫びながら棍棒を落として転げ回ったので、私は咄嗟に木剣を手放して棍棒を拾い、全体重をかけてあたまをぶっ叩いた。

 

コボルトは「プギャッ!」と叫んであたまを抱えてのたうち回ったけど、まだ生きていたので、私はそのコボルトに馬乗りになって、棍棒で叩きナイフで刺した。

交互に何度も攻撃するとコボルトが煙に変わったので、

立ち上がろうとすると、背中に強い衝撃を受けた。

どうやらまた棍棒を投げつけられたようだ。

 

私は右手に持っていた棍棒を放りだして前のめりに突っ伏してしまうと、背中にコボルトが飛び乗ってきた。

コボルトは奇声をあげながら私の尻尾とパンツを掴み、肌着ごとパンツをずりおろそうとしたので、咄嗟に左手に持っていたナイフを右逆手に持ち替えて、「嫌っ!嫌っ!嫌ぁぁぁぁぁぁっ!」と叫びながら腕を回して背中のコボルトを何度も斬りつけた。

 

それでもコボルトは私のパンツから手を離さずに、ずりおろそうとしていたけど、何度も斬りつけているとナイフを避けるためか尻尾を離したので、斬りつけるときに腕を回す勢いでからだを回転させて、コボルトを下敷きにした。

そして、怯んだ隙にもう一度からだを回転させて振り払い、すぐさま立ち上がってコボルトを蹴り飛ばした。

 

私はもう1匹のコボルトの位置を確認して、2匹から距離のある位置に移動した。

パンツをしっかりと履き直してからナイフを構え直すと、「チッ!もう少しだったのに」という言葉と、ガシャンとフェンスを殴る音が聞こえた。

 

コボルトを警戒しつつ横目で音がした方向を見ると、審査員が少し悔しそうにしながらも、愉悦に浸ったような表情で私を見ていた。

審査員席の砂時計を見ると、砂は全て落ちていたので、この男は最後まで試験を終わらせる気は無いのだろう。

 

そう思っていると、コボルト2匹は合流して奇声をあげ、武器を構えた。しかし、私を見ると指を指してゲラゲラ笑い、そのまま2匹並んでゆっくりと向かってきた。

私の武器が小さなナイフ1本だけになってしまったので、バカにしているようだ。

 

コボルト1匹は棍棒、もう1匹はいつの間にか私が手放した木剣を持っている。

木の盾やコボルトが使っていた棍棒は壁に近い場所に落ちているけど、私よりもコボルトのほうが近い場所にいる。

取りに走ったら拾いあげる前に確実に攻撃を受けてしまう。

だから、ヤツらに隙が出来るまではこのナイフで凌ぐしかないようだ。

 

でも、確かに武器だけ見れば私が圧倒的に不利だから笑われても仕方が無い状況だけど、このナイフでたったいま1匹にとどめをさしている。

 

ヤツらは仲間を殺されたことを、もう忘れたのか?

コボルトの学習能力は、きっとかなり低いのだろう。

 

そんなことを考えて自分自身を誤魔化そうとしているけど、実はそろそろ体力の限界で自分でも分かるくらい動きが鈍くなっている。

 

息もだいぶ上がってしまい、呼吸する度に肩が上下してしまう。

コボルトはあと2匹だけど、かなり厳しい状況だ。

 

あとどれくらい戦えるのか......

次に飛びかかられたら、逃げられないかもしれない......

もうダメかも......

そう思ったとき、目の前でコボルト2匹は立ち止まり、武器を構え直した。

そして、ジリジリと少しずつ左右に広がり始めている。

 

同時に飛びかかろうとしているのか?

 

私はハッと我にかえり、「私は獣戦士になるんだ!こんなヤツらには絶対に負けない!」と叫んで自分を叱咤し、込み上げてくる不安を無理矢理抑え込んだ。

 

そのとき、さっきからフェンスをガシガシ揺らして悔しがっている審査員の後方から、ギルド職員が何人も試験会場に入ってきた。

 

一瞬何ごとか気になったけど、コボルトが襲いかかってきたので私は集中して防御に徹した。

そして、それから3分ほどナイフと体捌きでなんとか攻撃をかわしていると、檻の入口扉を開けてギルド職員が何人もなかに入ってきて、2匹のコボルトを捕まえた。

 

その直後、受付の女性も入ってきて私に駆け寄ると、「もう、大丈夫だからね」と言いながら優しく私を抱き締めた。

私は意識が朦朧としていてそのとき何が起こっているのかよくわからなかったけど、試験は終了でこの檻から解放されるということは理解できた。

 

私はほっとしたようで、次の瞬間急に脚から力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。

すると受付の女性は私のことを抱え起こして、檻からだしてくれた。

 

檻を出ると入り口の横で審査員がギルド職員たちに取り押さえられていた。

おかしいとは思っていたけど、この男がやっていたことは本来の試験というわけではなかったのだろう。

 

こうして私の試験は終わったけど、このあと1時間ほどギルド職員から試験会場であったこと、特に審査員との会話や審査員の行動について事情聴取された。

そして、ギルドマスターから、「本日は大変申し訳無いことをした。本当に済まなかった。せめてものお詫びとして本日の試験費用は全額免除させてくれ」と言われたので、快く謝罪を受け取った。

 

後日教えてもらったのだけど、あの審査員は以前事故が起きたときも担当していたらしく、その時の試験は今回のようにやけに時間がかかっていたらしい。

当時、砂時計を管理していたことや試験中止を執拗に拒んだことから審査員の行動について不審に思う人がかなりいたらしいけど、証拠がなかったのでそれ以上ヤツを追及することができなかったとのこと。

 

さらに、そのときの状況については被害者から話が聞けなかったので、審査員の証言が一番信憑性が高いとされてしまい、不幸な事故として処理されてしまった。

 

今回試験中に砂時計をひっくり返して試験時間を延ばされたことを私が証言したけど、その行動はギルド職員の一人も見ていたらしい。

 

その行動に気づいたギルド職員は、そろそろ試験が終わると思った時に砂時計を確認すると、ほとんど砂が落ちていなかったことに気がついた。

不審に思ってそのまま砂時計に注意を払っていると、砂が7割くらい落ちたときに審査員がひっくり返すのを目撃した。

 

当然ギルド職員は審査員に詰め寄ったけど、そんなことはしていないと言われて試験が続行となったので、そのギルド職員は審査員に気づかれないように会場を離れ、ギルドマスターに報告しに行ったそうだ。

 

あの審査員はギルドの正式な職員で、一応獣戦士だったらしいけど、今回のことでギルドからは永久追放となった。

そして、今回の試験の不正だけでなく、他にも多くの余罪が発覚したため、ジョブを村人に変えられたうえで身分を奴隷に落とされたそうだ。

そして、今は犯罪奴隷として鉱山で重労働につかされているとのこと。

 

◆ ◆ ◆

 

事情聴取が終わると、私はギルド神殿のある部屋に連れてこられた。

そして、案内人の指示に従ってギルド神殿に手をかざすと、神殿が輝きだした。

そして、その輝きが治まると、私のからだに力が漲った気がした。

 

案内人は私に「おめでとう。きみは獣戦士になったよ」と言ってくれたけど、私自身はよく分からなかったので、「あの、本当になれたのですか?」と聞いてしまった。

 

すると彼は苦笑して、「じゃあ、確認してみよう。この人はギルド所属の騎士なので、この人の前に左手を出してみて」と言って神殿に控えていた甲冑姿の戦士を指し示した。

 

私が騎士の前に左手をかざすと彼は呪文を唱え、インテリジェンスカードを表示させた。

確認すると私のジョブは獣戦士になっていた。

 

私から「あ、なってる」という言葉が漏れると、案内人はまた苦笑した。

 

その後、獣戦士としての心得や、スキルの使い方を習い、獣戦士ギルドへの正式加入を促された。

 

年会費は3000ナールだけど、正式加入すれば探索パーティーへの加入斡旋やギルド指定商店での購入時割引サービス。特定アイテムの買い取り割増し制度や提携宿の宿泊割引サービスなど、様々な恩恵が受けられるそうだ。

 

是非正式加入して欲しいと言われたけど、年会費が払えないので本日の加入は辞退した。

すると、案内人から「迷宮探索で資金が貯まったら、是非お願いしますね」と言われたので、快く「はい」と返事をしておいた。

 

因みに獣戦士となった時点で1週間だけギルドに仮加入となっているらしく、獣戦士を募集している探索パーティーの紹介はしてもらった。

 

なんでも探索パーティーの募集は通常冒険者ギルドで行われているけれど、獣戦士ギルドと業務提携しているので、獣戦士を募集しているものはこちらに情報が回ってくるらしい。

なので、こちらのギルドで斡旋されたパーティーには、入れる可能性が非常に高いということだった。

 

このとき、メンバーを募集していたパーティーは複数あったのだけど、私は深く考えずにリストの一番上にあったパーティーに加入することを決め、加入申請してしまった。

すると、たまたまそのパーティーのリーダーが獣戦士ギルドに来ていたので、簡単な面談を受けてすんなり加入することが決まったのだ。

 

後でこのパーティーを選んだことを後悔することになるのだけど、それはまた別の機会に話そうと思う。

 

◆ ◆ ◆

 

獣戦士ギルドを出ると、既に夕方になっていた。

 

私は目標のひとつにしていた獣戦士になることが出来たので、歩きながら次の目標をどうするか考えた。

 

次の目標..... そう言えば、元々獣戦士を目指したのは...... そう、父が獣戦士だったからだ。

両親と一緒に迷宮探索したかったから、戦闘職に就こうと思って、それなら父のような獣戦士になりたいって思ったんじゃなかったか..... 

 

私は両親に憧れていた。そしていつかは一緒に迷宮探索をしたいと思っていた。

きっかけは思い出せないけど、物心がついたときには既に父のように獣戦士になりたいと思っていた。

 

母のような探索者でも良かったはずだけど、パーティーに探索者は2人も要らないという話を聞いたことがあったので、その選択肢は自分のなかからなくしていたんだと思う。

 

前衛で肩を並べて戦うなら、戦士や剣士でも良いけれど、いま考えると“種族固有ジョブ”という響きにも惹かれていたのだと思う。

 

因みに前衛で戦いながら仲間を癒やす巫女という女性特有のジョブを知ったときに、すごく憧れてなる方法を聞いて回っていたこともあったけど、両親のパーティーメンバーには回復役がいることを知ると、いつの間にかこの選択肢も自分の中からは除外していた。

 

両親は亡くなってしまったので、一緒に迷宮探索するという夢はもう叶わないものとなってしまっているけれど、せめて肩を並べられるくらいには強くなりたい。

 

だから...... 

次の目標は“迷宮の中層階で戦える探索者になる”ということにしよう。

 

探索パーティーも決まったので、明日からは迷宮探索に邁進することが出来るだろう。

次の目標を叶えるためにも頑張らなくっちゃ。

 

あとは......

今日あったことをどこまで叔母に話しても良いものか。

全部話したら心配されて、迷宮探索に行くことを反対されるかも知れないし......

 

でも、明日は初めての迷宮探索。

ふふっ。どうなるのかな?

 

叔母への対応を考えなくてはならないけど、私は明日からの探索のほうが楽しみで、ウキウキしながらその日は帰宅の途についた。

 

 

「それからは、私は獣戦士として迷宮探索をするようになったのです。今は憧れていた巫女になれて充実した毎日が送れていますけど、獣戦士というジョブも私の中では特別なので、大切にしたいと思っています」

 

私は両親が死んだときのことや獣戦士になった経緯をひと通り話し終わったので、そのまま黙っていたけれど、途中から目を瞑って黙って聞いていたはずのご主人様から何も反応がない。

 

「あの...... ご主人様?」

私はご主人様の反応を促すように呼びかけると、「......。 スゥ...... スゥ......」と微かに寝息が聞こえてきた。

「寝ちゃってるし...... もう」

 

私はご主人様に自分のことを聞いていただけることが嬉しくて、嫌だったことも一生懸命思いだしながら話したのに、途中から寝ていたかと思うと......

ちょっとムッとする。

 

長々と話してしまったし、ご主人様には伝える必要がないようなことまで話してしまったのは悪かったかも知れないけど...... 

でも......

 

“はぁ。もう遅いから眠らなくちゃね”

そうは思って目を瞑ったけど、何だかモヤモヤして眠れなかった。

そのまま10分ほど目を瞑っていたけど眠れそうになかったので、私はモヤモヤの原因となったご主人様のくちびるに吸い付いて、激しく舌を絡めた。

すると、すぐにご主人様が驚いて目を覚ましたので、耳元で「先に寝た罰です」と囁いてから上に跨った。

そして、そのまま美味しく頂いて、満足してから眠りについた。

 

ご主人様はしきりに「ロクサーヌ。こ、これは罰なのか!くっ!これは罰なのか!クハッ!」と連呼していて何だか嬉しそうだったので、最後に本当の罰を与えた。

でも、私がイクとあとを追うようにご主人様も登りつめたので問題ないと思う。

 

翌朝、あくびをして寝不足気味なご主人様に、私の話をどこまで聞いていたのか確認すると、「獣戦士ギルドを出て...... 帰宅しながら叔母さんへの説明をどうするか。って悩んでいたってところまでは起きてたんだけど...... それからの記憶はない。俺から聞いたことなのに、悪かったな」と言われた。

 

えっ?ほとんど最後まで聞いていたの?

じゃあ、私が一方的に勘違いして、ご主人様を襲ったってこと?

 

私は申し訳無い気持ちでいっぱいになり、「そ、その。ご主人様。済みませんでした。叔母への説明のくだりでほとんど最後でした。私、勘違いして...... その、本当に済みませんでした」と言ってあたまをさげた。

 

すると、ご主人様は私に手を差し伸べ、優しく抱き起こしてくれた。

そして、「ロクサーヌ。お前が謝る必要はない。今回は最後の一言まで聞いていなかった俺が悪いんだ。だから昨日の罰は問題ない」と言ってくれた。

 

でも、そのあと少し何かを考え、「いや、むしろ昨日の1回では償い足りない。うん。間違いなく、足りないな。ロクサーヌの気持ちを考えたら、これからもあの罰を受けないといけないと思う」と言葉を付け足した。

 

あの罰...... 私は昨日のことを思いだして“あの罰”が何を指しているのか考え、そして顔から火が出るくらい恥ずかしくなった。

昨日はご主人様が勝手にイカないように、罰と言ってセリーが調べてきた房中術を使ってみた。

終わったあとに恍惚な表情を浮かべていたので、きっとそれのことだろう。

 

ご主人様は自分が攻めているときは無類の強さを発揮するけど、攻められているときは結構脆い。

私がイク前にご主人様がイッてしまうこともたまにある。

 

なので、昨日は罰として先にイカせないよう、ご主人様がイキそうになったときに秘部の入口を意識して、アレの根元をキュッと締めあげた。そして、私がイクまで解放しなかったのだ。

 

これはセリーが図書館で調べてきた房中術のひとつ。

他にもいくつかあるけれど、話しを聞くだけでは実践することが難しそうなものばかりだった。

 

昨日使った房中術も実践することは難しいと思っていたけど、ぶっつけ本番でやってみたら出来てしまったので、実は自分でもびっくりしている。

 

根元を締めあげられたご主人様は、イキたいのに無理矢理押さえつけられて発射ができず、「くっ!」って声が漏れるほど苦しそうにしていたけど、私がイッた直後に秘部が緩むと、堰を切ったように勢いよく射精した。

 

「クハッ! ハッ! ハアッ! ハァ、 ハァ.....」

ご主人様は秘部から溢れるほど大量に射精すると、恍惚とした表情を浮かべ、「これが罰かぁ...」と言いながらしばらく放心していた。

私は満足したのでご主人様に「おやすみなさい」と挨拶してさっさと寝てしまったけど、今朝の様子だとご主人様はしばらくは眠れなかったのかも......

 

ただ、私は罰のつもりで房中術を使ったけど、ご主人様にはご褒美だったみたい。

だから、勘違いで襲ってしまったけど、ご主人様はまったく気にしてないようだ。

それどころかよっぽど気持ち良かったのか、なんとかまたあの術をしてもらおうと、無茶苦茶なことを言っている。

 

私は一瞬呆れてしまったけど、急にご主人様が可愛く見えて、クスリと笑ってしまった。

なので、私はご主人様の耳元に唇を寄せて、「ふふっ。ご主人様。今晩もちゃんと罪を償ってくださいね」と囁いた。

すると、私の後ろからちょっと呆れた感じのセリーの声が聞こえた。

 

「はぁ。ちょっと目を離すとこれなんだから。

ご主人様。ロクサーヌさん。いちゃいちゃしてないでそろそろ支度してもらってもいいですか」

「す、すまない。すぐに支度する」

「セリー。ごめんなさい」

 

私たちが謝ると、セリーに「まあ、仲がいいのは良いことですけど、夜はほどほどにしないとダメですよ」と言われてしまった。

 

でも、私が慌てて支度をしていると、セリーがボソッとつぶやく声が聞こえた。

「罰ですか...... ふふっ♥」

 

小さな声だったけど、私は聞き逃さなかった。

 

もう。セリーだって興味あるんじゃない!

 

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