ロクサーヌの想い   作:龍いち

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秘密組織。その名は帝国開放会!

わたしの名はロクサーヌ。

狼人族で16才の巫女、そしてご主人様(加賀道夫)の一番奴隷。

 

愛するご主人様、かわいい後輩奴隷のセリー、ミリア、ベスタの5人で、クーラタルの一軒屋でしあわせにくらしている。  

 

お仕事は迷宮探索。

5人で毎日迷宮に潜り、魔物を倒してドロップアイテムを拾い、それを売って生活している。

 

因みに私たちはクーラタル、ベイル、ハルバー、ターレ、ボーデ、ザビルの6箇所の迷宮に入ったことがあり、一番探索を進めているクーラタルとハルバーは、どちらも25階層を攻略中だ。

 

 

ハルツ公爵との食事会から10日が過ぎた。

 

ご主人様は魔道士のジョブを獲得して、火・風・水・土の4つの属性の中級魔法が使えるようになっている。

さらに雷魔法と氷魔法という新しい魔法が使えるようになったおかげで、迷宮探索時の戦闘力が大幅に高くなり、普段の生活も大きく変化している。

 

 

先ず迷宮探索についてだけど、ご主人様は魔法を3連続で撃てるようになっている。

特に雷魔法は強力で、純粋な魔法によるダメージに加えて麻痺効果もある。

氷魔法にも魔物の動きを鈍らせる効果があるけれど、麻痺させたほうが安全に戦えるので、ご主人様は好んで雷魔法を多様しているみたいだ。

 

更にミリアの暗殺者の経験が上がってきていることもあり、いざ戦闘が始まると麻痺と石化で魔物はろくな攻撃が出来ない状態になっている。

実際、今日はハルバーの迷宮25階層の探索を進めたのだけど、朝一でグミスライム3匹とサイクロプス2匹の群れと戦ったときも短時間で戦闘が終了していた。

 

そのときは、魔物を視認して私たち4人が駆け出すと、次の瞬間に魔物の群れはご主人様の魔法に包まれた。そして、魔法の効果が切れると前列のグミスライム1匹と後列のサイクロプス1匹が麻痺していた。

その後接敵して戦いはじめると、すぐに2度目の魔法で後列のもう1匹のサイクロプスも麻痺してしまった。

 

前列のグミスライム3匹のうち2匹はご主人様の魔法では麻痺しなかったけど、1匹は私が引きつけ、もう1匹はベスタが引きつけると、フリーになったミリアが私が引きつけているグミスライムに側面から斬りかかり、あっと言う間に石化させた。

そのあと彼女はベスタが引きつけていたグミスライムに攻撃をはじめたので、私とセリーは最初に麻痺して動きを止めているグミスライムに駆け寄り攻撃をはじめた。

 

グミスライムをしばらく攻撃していると、魔物が再起動する前にミリアとベスタが追いついてきて囲みに加わった。

どうやらベスタが引きつけていたグミスライムもミリアが石化させたようだ。

この間もご主人様の魔法が繰り返し撃ち込まれ、石化していない魔物は全て麻痺しているようで1匹も動かなくなっている。

 

「セリー。前にいきましょう」

「はい」

「ミリア、ベスタ。ここは任せます」

「はい。です」

「わかりました」

追いついた2人に魔物を任せ、私はセリーを引き連れてサイクロプスに向けて走り出した。

すると、直後に後ろから「やった。です」という声が聞こえた。

 

さすがミリア。

朝一で力が有り余っているのか、今日は絶好調のようだ。

これでグミスライムは3匹とも石化した。残りはいまだ麻痺から回復しないサイクロプス2匹だけ。

 

すぐにミリアとベスタが来るはずなので、私は右のサイクロプスに攻撃をはじめると、セリーも2人が追いついてくることを考えたようで、左後方で止まって2匹の魔法に備えはじめた。

そして、思った通りすぐに2人が追いついてきて、ベスタが左のサイクロプスの前に陣取り、ミリアは後ろに回り込んでサイクロプスを斬りつけはじめた。

これでもう万全の態勢だ。

 

そう思った次の瞬間、ご主人様の魔法でサイクロプスは2匹とも煙になった。

そして、振り返ると石化していた3匹のグミスライムも全滅していた。

結局、ご主人様の魔法とミリアのエストックにより、麻痺と石化で魔物は殆ど何も出来ず、3分足らずで戦闘が終了したのだ。

 

こんな感じで、いま探索中の25階層では魔物との戦闘が大幅に楽になっており、あとはボスを見つけて倒すだけとなっている。

 

◆ ◆ ◆

 

次に生活面では氷魔法が大活躍している。

 

先ずは料理への利用についてだけど、ご主人様は4日前に氷魔法が使えるようになると、その日の夕方に「涼をおすそ分けだ。全員、風呂場へ来い」と言って、私たちを風呂場に呼び出した。

そして、お風呂に浮かんでいた透明な板をデュランダルでザクザクと突き崩し、手桶ですくった。

どうやら私たちを呼ぶ前にアイスウォールで作った氷壁を風呂桶に浮かべておいたようだ。

 

「これが涼だ。手を出してみろ」

私は戸惑いながらも手を出すと、ご主人様は手桶の中の透明な欠片を摘まんで私たちの掌に乗せた。

 

「ヒャッ!ご主人様。冷たいです」

「これって、ひょっとして氷ですか?」

『ヒャーッ!冷たい!です!』

「つ、冷たいです。確かに涼だと思います」

私たちが驚くと、ご主人様はもう一度透明な欠片を摘まんだ。

「ロクサーヌ。あーん」

「えっ?」

私は戸惑いながらも口をあけると、ご主人様は氷の欠片を私の口に運んだ。

 

「んっ!冷たいっ!」

私が口内に伝わる冷たさに両肩をすくめると、ご主人様はニッコリと微笑みもう一つ欠片を摘まんだ。そして、セリーの口元にもっていき、「セリー。あーん」と言って口を開かせた。

口に氷を入れられて、セリーが私と同じような反応をすると、ご主人様はミリアとベスタの口にも氷を放り込んだ。

私たちが氷の冷たさを喜んでいると、ご主人様は「次は氷を使ったデザートを作るから、楽しみにしておけ」と言ってもう一度微笑んだ。

 

 

翌日の夕方。

 

迷宮探索を終えて家に帰ると、私たちが夕食を作っている隣でご主人様が料理をしはじめた。

 

横目で見ていると、小鍋に牛乳、卵、砂糖を入れて火にかけながら混ぜ合わせている。

そして、火からおろすと氷を入れた桶に小鍋を突っ込んで冷やしはじめた。

すぐに氷が溶けてしまったけど、ご主人様は桶の水を捨てて別に用意してあった氷を入れると、その氷にコボルトソルトをふりかけた。

そしてもう一度小鍋を突っ込んで、中身が固まるまでベスタにかき混ぜるよう指示した。

 

ベスタはしばらくかき混ぜた後でうまく固まらないと訴えていたけど、ご主人様は中身を確認して、「おお。これでいいんだ。うまくできたな。成功だ」と言って喜んでいた。

ご主人様は彼女にもう少しかき混ぜさせると、その後は桶の氷を入れ替えた。そして、小鍋に蓋をして桶の真ん中に置き、細かい氷で埋めて、更にコボルトソルトを振りかけた。

「えっと、ご主人様。これで完成ですか?」

「いや、まだだ。このまま冷やせばもっと固まる。それで完成だ」

 

「これは何という料理ですか?」

「アイスクリームだ。冷たくて美味いはずだから、夕食の後でな」

「はい。楽しみにしています」

 

そして、夕食の後、ご主人様はしっかりと固まったアイスクリームを持ってきた。

彼は木の匙ですくって口の中に入れると、少し驚いたような顔をしたけど、私たちにも食べるように促した。

 

後で教えてくれたのだけど、ご主人様はアイスクリームが自分の想像以上に濃厚で美味しかったので、ちょっと驚いたとのことだった。

 

私も匙ですくって口の中に入れると、冷たい塊が舌の上でなめらかにひろがりゆっくりと融けていく。

そして、口の中に濃厚な甘みがひろがった。

美味しい。こんなの初めて!

 

「ご主人様、これはすごく美味しいです」

私が感動すると、セリー、ミリア、ベスタの3人も次々にアイスクリームを匙ですくい、口に入れて目を輝かせた。

 

「甘くて、冷たくて、口の中で融けていきます。すごいです」

「すごい、です」

「柔らかくて本当にすごいと思います」

みんなが喜ぶと、ご主人様は美味しく出来たのはベスタが頑張ってかき混ぜたからだと言って彼女を褒めていた。

 

 

更にその翌日。

 

早朝探索を終えて家に帰ると、ご主人様は昨日とは別のデザートを作ると言って、再び料理をはじめた。

アイスクリームが好評だったので、もう一つ知っているものを作ってみたくなったそうだ。

 

彼は鍋に水をはり、今朝八百屋で買ってきたイチジクを刻んで入れた。そこに、コボルトスクロース、コーラルゼラチンを入れて火にかけて混ぜ合わせ、桶の中に氷を敷いて、その上で冷やしはじめた。

今回はかき混ぜる必要はなく、時間はかかるけどこのまま冷やすだけで出来上がるとのこと。

ただし、昨日のアイスクリームよりも量が多いので、食べられるのは夕食の後になるとのことだった。

 

ご主人様は昼と夕方に氷を取り替えて鍋を冷やし続けると、夕食のときには中身がスライムのようなブヨブヨした感じに固まっていた。

これで完成のようだ。

「えっと、ご主人様。これは何という料理ですか?」

「これはゼリーだ」

「ゼ、ゼリーですか?! あの...スライムのような感じに見えますが......」

私はゼリースライムを思い浮かべてゾッとしていると、ご主人様は「はははは。ちゃんと美味いはずだから大丈夫だ」と言って、安心させるように私の耳を撫でた。

 

夕食の後、ご主人様はゼリーを持ってきた。

鍋で作った為、昨日のアイスクリームの3倍は量がある。

ご主人様は私たちに食べるよう促したけど、スライムっぽい質感のデザートに手を出せないでいると、彼は肩をすくめて自ら木の匙ですくってひと口食べた。

 

「うむ。ちゃんと美味いぞ」

「そ、そうですか」

私は意を決して匙ですくい、口の中に放り込んだ。

すると、ゼリーはひんやりしていて舌の上でプルプル震えている。

アイスクリームみたいに溶けなかったので仕方なく咀嚼すると、口の中に爽やかで仄かな甘みがひろがった。

 

何これ、美味しい!

私が目を丸くして驚くと、私の様子を見ていた3人もゼリーを食べはじめた。

 

「驚きました。

昨日のも美味しかったですが、こちらもすごいです」

「そうですね。昨日のよりあっさりしていて、のど越しもすっきりしています」

「おいしい、です」

「こんなお料理を毎日いただいていいのでしょうか」

私たちが喜んでゼリーを食べはじめると、ご主人様は嬉しそうに微笑んだ。

 

その後もご主人様は冷たいスープを作ったり、新鮮な生魚の切り身を数日氷漬けにしてから、オリーブオイルをかけたカルパッチョという料理を作ったりして、しばらくは氷を使った料理に嵌まっていた。

 

それ以降もご主人様は、氷を使った調理により、私たちに色々な冷たい料理を作ってくれている。

 

◆ ◆ ◆

 

また、ご主人様は料理以外にも氷の冷たさを色々と利用するようになっている。

 

先ずご主人様は雑貨屋で桶を買い足すと、部屋を冷やすために氷を砕いて桶にはり、寝室に設置した。

まだ残暑が続いていて寝苦しい季節だったけど、ここ数日は氷のおかげで夜の寝苦しさから解消されている。

それと、料理をするときにはキッチンに、食事をするときにはダイニングに桶を設置して、暑さの緩和に努めるようになった。

 

また、家具屋で大き目のクローゼットを買ってきてキッチンの隅に設置すると、世話役の旦那さんに頼んで金属の薄い板を作ってもらい、中に貼り付けた。

そして、最上段に設置した桶に氷を敷きつめた。

ご主人様曰く冷蔵箱という家具で、2段目から下においた食材を冷やして保存するものとのこと。

ご主人様は「作っておいてなんだけど、毎日氷を入れ替えるのが少し面倒だな」と愚痴を言っていたけど、この家具のおかげで食材が長持ちするようになり、毎日の食事が更に豊かになっている。

 

因みにセリーはこの家具を知っていたようで、「冷蔵庫ですか...」とつぶやいたあと、“貴族や高級旅亭が使う家具で、北の地方や一部の洞窟にある氷室の代わりに厨房に設置されている物だ”と説明してくれた。

 

 

あと、ちょっと恥ずかしい話だけど、ご主人様は私たちを可愛がるときにも氷を使い出した。

 

はじめて使ったとき、ご主人様はオヤスミのキスをするときに、口に氷の欠片を含んで唇を重ねた。そして、舌を絡めたときに私の口内に氷を差し入れてきた。

私は一瞬驚いたけど、すぐにお互いの口内で氷を行き来させ、最後は小さくなった氷を私がコクッと飲み込んだ。

 

その後ベッドに押し倒されてからだを愛撫されていたのだけど、私のからだが火照りだして汗ばむと、彼は氷の欠片を口に含んだ。

そして、愛撫されてすっかり硬くなっている乳首に吸い付き、そのまま氷を使ってからだじゅうを舐りはじめた。

 

「ヒャッ! んっ! んんっ! あっ!」

氷が触れた瞬間、冷たさで乳首がキュッと縮む感覚を覚えたけど、すぐに火照ったからだに氷が伝わる刺激が気持ち良くなって声が漏れた。

 

ご主人様はしばらく私のからだを堪能すると、もう一度氷の欠片を口に含んで今度は私の秘部に吸い付いた。

そして、舌先で氷を私の中に押し込んだ。

 

「あっ! ダメッ!」

私のからだはご主人様を受けいれる準備が出来ていたけど、あまりの冷たさに一気にからだが冷めてしまい、反射的にご主人様のあたまを押しのけてしまった。

ご主人様は驚いていたけど、私が「ご主人様。中は冷た過ぎます」と言うと、「すまん。刺激が強すぎたか」と言って素直に反省してくれた。

 

私はご主人様を引き寄せて、耳元で「罰として今日は私が満足するまで温めてくださいね♥」と言いながら秘部にアレを招き入れた.....

 

ご主人様は私をたっぷりと可愛がってくれたあと、セリー、ミリア、ベスタの3人も氷を使って可愛がり、その日はもう一回ずつ私たちを可愛がってくれた。

 

因みにセリーはご主人様にお願いして、準備が出来たときに秘部に氷を突っ込んでもらったようだ。

彼女はからだがをビクンと跳ねさせながらも刺激を堪能していたみたいだったけど、私には耐えられなかったので少し驚いた。

なので、ご主人様が眠ったあとに久しぶりに彼女に話しかけてみた。

 

「セリー。まだ起きてますか?」

「は、はい。どうかしましたか?」

「あの、さきほど氷を突っ込んでもらってましたけど、大丈夫だったのですか?」

「えっと... 実は大丈夫じゃなかったです。

その... ロクサーヌさんの反応がすごかったので、どれくらい刺激があるのか興味が出てしまって。

それでご主人様にお願いしたのですけど、入れられた次の瞬間には後悔していました」

 

「そうでしたか。

刺激が強すぎたので、私は瞬間的に素に戻ってしまいました。

あなたは刺激を堪能していたのかと思いましたけど、違っていたのですね」

「そこまで見られていたのですか。うぅ... 恥ずかしいです。

氷が奥まで入ってしまい、からだが芯から冷えてしまいました。

それで、集中仕切れなくて... 

その... ご主人様がイッても私はイケなかったのです」

 

「そうだったのですか。私はご主人様のあたまを押しのけたときに氷が出たようなので、そのあとは集中出来たのですが」

「そうだったのですか。気がつきませんでした...

終わったあと、しばらく悶々としていたのですけど、自分がいけないので我慢していました。

今日はご主人様が2周目をしてくれたので、そのときイけたのでよかったです.....」

 

「ふふっ。貴方が研究熱心なことは否定しませんけど、ほどほどにね」

「はい...... 今回は反省してます」

その後、会話が途切れると、ほどなくして私は意識を手放した。

 

 

話が少し脱線したけれど、以上のようにご主人様が魔道士のジョブを獲得してから、私たちは迷宮探索と普段の生活がともに大きく変化した。

そして、それと時を同じくして、私たちを取り巻く状況も大きく変化しはじめたのだ。

 

◆ ◆ ◆

 

ハルツ公爵との食事会から12日目。

 

朝食を食べ終わると、ご主人様はハルツ公爵の所に出かけた。

そして、小一時間ほどで帰宅すると、家事をしている私たちをダイニングに集合させた。

 

「帝国解放会なるものにハルツ公爵が推薦してくれるそうだ。迷宮で戦う人の相互扶助を目的とした団体らしい」

「えっ?帝国解放会ですか?」

帝国解放会って、確か食事会から帰宅したときにご主人様が言っていた秘密組織だったはず。

 

「実力者のみが入会を許される団体ですよね。すごいことです」

「そうなのですか?確か秘密組織だったのではありませんか?」

「普通は一般人が入会できるような団体ではないはずです。誰が会員なのか明らかになってはいませんが、これはとても名誉なことだと思います」

私が怪訝そうな顔をしていたせいか、セリーが悪いことではないと教えてくれた。

 

「そうらしいな」

「さすがご主人様です」

 

「帝国解放会では守秘義務が課せられるそうだ。会内部で知りえたこと、誰が会員か、また俺が会員となることなども一切秘密となる。無用な情報を出して狙われることを避ける意味合いがあるらしいが」

「そういうことですか。それで秘密組織なのですね。

用意周到ですばらしいことです」

「いまさら内密にすることが一つや二つ増えたところで問題ありません」

「ひみつ、です」

「大丈夫だと思います」

私たちが全員同意すると、ご主人様は頷いて話を続けた。

 

「これからクーラタルの23階層へ行って、戦いぶりを見てもらう。会員としてやっていけるだけの実力があるかどうか、判断するそうだ」

「入会試験ということですか?」

「ああ、そういうことだ。

魔法は使わないので、魔法なしでの戦いになる。剣はベスタに渡す」

「えっ?ご主人様はどうするのですか?」

「俺は後列から聖槍で戦う。魔物の魔法はセリーとベスタが止めてくれ」

「分かりました」

「頑張ります」

 

「23階層はすでに突破しているのだから神経質になることはない。いつもやっていることだし、問題はないだろう」

「もちろんです」

私が胸を張って答えると、他のみんなも頷いて同意した。

何故かご主人様は微妙な顔をしていたけど、みんながやる気なんだから問題はないだろう。

 

「今回は入場料を払って入る。まずは冒険者ギルドに行くぞ」

ご主人様は宣言するとワープゲートを開いてくぐっていったので、私たちもあとに続いた。

 

私たちは冒険者ギルドに出て、そこから歩いて迷宮の入り口に向かった。

迷宮からの帰りにいつも歩いている道だけど、迷宮に向かって歩くことは殆ど無いので何だか新鮮だ。

ご主人様の腕につかまりそんなことを考えていると、すぐに騎士団の詰め所に着いた。

クーラタルはここで入場料として1人1枚ずつ銀貨を支払ってチケットを買い、迷宮に入る列に並んで入口手前で騎士にチケットを渡すのだ。

 

私たちが入場料を支払う列に大人しく並んでいると、ご主人様は騎士団が販売している地図を見てソワソワしだした。そして、私のことをじっと見てきた。

 

「ご主人様。如何されました?」

「いや... ロクサーヌ。23階層のルートを覚えているか?」

あ、そうか。それでソワソワしてたのですね。

 

ご主人様はハルツ公爵の所から戻ると、帝国開放会のことを話してすぐにワープゲートを開いて移動したから、迷宮の地図は持ってこなかった。

ご主人様は勇んで来たのでちょっとバツが悪そうだったけど、私が小声で「はい。大丈夫です」と答えると、あからさまにホッとしたようだ。

 

詰所の窓口でご主人様は小銭袋を取り出すと、「では入場料を5人分」と言って窓口の女性に銀貨を5枚差し出した。

そしてチケットを5枚受け取ると、今度は迷宮に入る列に並んで、入口の脇にいる騎士に「5人分だ」と言ってチケットを渡した。

その後、入り口から入って23階層に行くと、私たちを6人パーティーが待ち受けていた。

 

◆ ◆ ◆

 

23階層入口の小部屋にいた6人パーティーは、3人は女性で3人は男性だった。

狼人族、人間族、ドワーフ、奥の女性はローブをすっぽり被っているからよくわからないけど、私たちと同じように色々な種族の人でパーティーを組んでいるみたい。

 

みんな高そうな装備を付けているし、とても強そうだ。とてもこの階層で戦っているようなパーティーには見えない。

特に中央の男性は狼人族のようだけど、装備を見る限りどことなくハルツ公爵と似た雰囲気を感じる。

貴族なのだろうか?

 

戦闘態勢ではないけど6人全員がこちらを見ていたので少し警戒すると、ご主人様が1歩踏み出して向こうのリーダーらしい狼人族の男性に話しかけた。

 

「お待たせしました」

「お、ミチオか。よろしく頼む」

「こちらこそ」

「そちらがミチオのパーティーか」

「はい」

「そうか。ふむ......」

ご主人様が答えると、向こうのリーダーは私たちを1人ずつ確認した。そして少し考えてから話を続けた。

 

「我も長い間上の階層で戦ってきているので、ミチオたちに何かアドバイスできることもあるかもしれない。それを望むなら、ここからボス部屋まで何度も魔物と戦いながらゆっくりと進む。あるいは望まないなら、我らはこの先のボス部屋に一番近い小部屋で待っておく。どっちがよい」

向こうのリーダーはご主人様に試験方法について提案してきた。

どうやら向こうのパーティーは、この入会試験の試験官だったようだ。

 

ご主人様は少し考えると、「どうせ装備に依存した戦いをしているし、先に行って待っててもらえるか」と答えた。

 

「装備か。分かった」

「頼む」

「手の内を明かしたくないというのは誰でも考えることだ。遠慮はいらない」

 

ご主人様が同行を断ると、向こうのパーティーリーダーはあっさりと了承した。

秘密組織というだけあって、手の内を隠すことには理解があるようだ。

向こうのリーダーは仲間の男性に小声で指示すると、指示された人は壁に向かって呪文を唱え始めた。

「入り組み惑う迷宮の、勇士導く糸玉の......」

 

あ!あの呪文はダンジョンウォーク。

ということは、指示を受けた人は探索者ということか。

探索者の男性が呪文を唱え終わると、迷宮の壁にゲートが開いた。

そして、向こうのパーティーはリーダーの男を先頭に、6人全員がゲートをくぐっていった。

 

「行ったな」

「行きましたね」

向こうのパーティーが居なくなると、ご主人様は私たちに話しかけてきた。

 

「今の男は帝国解放会の者だ。今回の入会試験の試験官になる」

「そうでしたか。確かに強そうなパーティーでした」

「ああ。今の俺たちでは勝てないだろうな。まぁ、争うつもりはないが」

「ご主人様でも勝てないのですか?」

「個人では負けるつもりはないが、パーティーの総合力では向こうのほうが上ということだ。

ロクサーヌ。世の中上には上がいる。過信は禁物というものだ」

「常に謙虚であれ、ということですね。さすがはご主人様です」

「まぁ、そこまでは言わないが、積極的に敵を作ることはない。迷宮で鍛えていれば、そのうち追い越せるだろう」

「分かりました。私たちも頑張りましょう」

私はセリー、ミリア、ベスタの3人に視線を送ると、彼女たちも力強くうなずいた。

 

「では俺たちも行くか。魔法なしで戦ってみよう。ロクサーヌ、案内してくれ」

「分かりました」

「ベスタはこれを」

「はい」

ご主人様は予定通りデュランダルをベスタに渡すと、自分は聖槍を持って私に向かってうなずいた。

 

◆ ◆ ◆

 

私が先導して途中の小部屋を目指して歩き出すと、すぐに前方から魔物の匂いがしてきた。

「ご主人様。この先に魔物がいます。グミスライムが3匹とクラムシェルが1匹ですね」

「分かった。監視はされていないようだが念のため魔法は使わない。いつもより時間がかかると思うが根気よく戦おう」

「かしこまりました」

「分かりました」

「はい。です」

「頑張ります」

 

ここ数日、1度の戦闘で1匹以上ミリアが魔物を石化させている。なので、ご主人様は魔法を使っても石化した魔物を倒してMPを回復させていた。

だからご主人様が魔法を全く使わない戦闘は、久しぶりだ。

ご主人様は戦闘が長引いて私たちが攻撃を受けることが心配みたいだけど、私は戦闘が長引いてくれたほうが良い鍛錬になるので、実は楽しみだ。

 

それから3分ほど歩くと魔物が見えてきたので、5人全員で魔物に向かって走り出した。

そして接敵すると、左のグミスライムをベスタが抑え、真ん中のグミスライムを私が抑えた。

右のグミスライムはご主人様、セリー、ミリアの3人で囲み、先ずは右のグミスライムから倒す作戦だ。

後ろのクラムシェルから水弾やウォーターボールを撃たれてしまうだろうけど、避けてしまえば問題ないだろう。

 

私がグミスライムを抑えはじめると、2分も経たずにミリアの「やった、です」という声が聞こえた。

ご主人様が正面を取っていたようなので、どうやらミリアは楽に戦えたようだ。

直後、右にいた3人が奥に向かって走り出したので、次は後ろのクラムシェルを囲んで攻撃するのだろう。

 

それから3分ほどグミスライムと戦っていると、再びミリアの「やった、です」という声が聞こえた。

今度は奥のクラムシェルも石化させたようだ。

 

ほどなくして私が戦っていたグミスライムに、背後からミリア、右側面からセリーが攻撃をはじめた。

どうやらご主人様はベスタのサポートにまわったようだ。

 

すると次の瞬間、グミスライムの動きが止まった。しかし、ミリアが何も言わずに攻撃し続けているので、麻痺しているだけのようだ。

とはいえチャンスなので、防御は考えずに攻撃し続けると、それから2分くらいでグミスライムが煙になった。

 

最後にベスタが抑えていたグミスライムに一斉に襲いかかると、その1分後には魔物は煙になった。

これで実質の戦闘は終了だ。

 

「誰か攻撃を受けた人はいますか?」

私が問いかけると、ご主人様とミリア、そしてベスタが手をあげたので、私は全体回復魔法を唱えた。

するとその間にご主人様は聖槍をセリーに預けてベスタからデュランダルを受け取り、石化した2匹を倒して回った。

同時にミリアとベスタがドロップアイテムを回収し、戦闘が終了した。

 

「結構時間がかかったな」

「そうですね。いつもの3倍はかかってますね」

「ふたりとも。魔法使いのいないパーティーが魔物を倒すのに時間がかかるのは当たり前のことです。

試験中ですので、余計なことは考えず、さっさと先に進みましょう」

「そ、そうだな」

私とご主人様が戦闘時間について考えていると、セリーに先に進むよう促されてしまった。

 

その後、先に進みながらセリーに言われたことを考えた。

確かに彼女の言う通りだ。

いつもはご主人様の全体攻撃魔法で一斉にダメージを与えている。

それがなければその分を剣で与えなくてはいけない。

だから必然的に時間がかかるということ......

そう、当たり前のことなんだ。

 

実際今の戦闘は、接敵からドロップアイテムの回収まで10分以上かかっている。

それでも全体回復魔法1回でみんなのダメージは回復したし、他のパーティーと比べれば戦闘時間は短いはず。

 

いつもの3倍も時間がかかったので、ご主人様は浮かない顔をしているけど、当たり前のことなんだから、気持ちを切り替えないといけないわね。

 

そんなことを考えながらしばらく進むと、また魔物の匂いがしてきた。

 

「ご主人様。もう少し進むとまた魔物の群れがいます。グミスライムが2匹、クラムシェル1匹、ケトルマーメイド1匹です」

「分かった。みんな、気を引き締めて進むぞ」

 

私から魔物がいることを聞くと、ご主人様も気持ちを切り替えたようだ。

その後、魔物の群れを4回倒し、2時間以上かけて何とか待ち合わせ場所の小部屋に到着した。

 

◆ ◆ ◆

 

私たちが小部屋に入ると、23階層の入口で分かれたパーティーが座って休憩していた。

そして、ご主人様が「お待たせした」と声をかけると、向こうのパーティーリーダーが立ちあがった。

 

「来たか。さっき確認したが、この先、ボス部屋までの間に魔物がいるようだ。我もすぐ後ろから見させてもらう。グミスライムでなかった場合にはもう一度戦ってもらうかもしれないが、行ってくれ」

「分かった」

向こうのパーティーリーダーはご主人様に魔物との戦闘を指示すると、ボス部屋に続く通路に進むよう促した。そして、私たちが歩き始めると、10mほどあいだを空けて後ろについてきた。

 

私は歩きながら目立たないように匂いを嗅いで魔物を探した。そして、後ろのパーティーには聞こえないよう、声をひそめてご主人様に報告した。

 

「ご主人様。このまま真っ直ぐ進むと魔物がいます。

魔物はグミスライムとクラムシェルですね。多分一匹ずつだと思います」

「ありがとう。さすがだな。グミスライムの方をロクサーヌとミリアで頼む」

「分かりました。あと2分ほどで見えると思いますので、ご主人様はこのまま進んでください。私は、みんなに指示を伝えてきます」

「分かった」

 

私は少しだけぺースを落としてセリー、ミリア、ベスタの順に横に並び、歩きながら指示を伝えた。

そして、ベスタまで伝え終わったので、足を速めてもう一度ご主人様に並んだ。

 

「伝えてきました」

「うむ」

ご主人様に小声で話すと、すぐに魔物が見えてきた。

 

私は右手をあげてサインを出し、次の瞬間にレイピアを抜きながら走り出した。

そのすぐあとを3人がついてきて、ワンテンポ遅れてご主人様も追従した。

 

すぐに魔物まで辿り着き、私はグミスライムの正面、ベスタがクラムシェルの正面に立って引きつけた。

そして、指示した通りミリアは魔物のあいだを抜けてグミスライムの後ろに回り込んで攻撃をはじめ、ご主人様とセリーはクラムシェルの囲みに加わった。

後ろのパーティーは私たちから10mほど離れた所まで近づくと そこで立ち止まったので、どうやらそこからこちらの戦闘を確認するようだ。

 

それから1分ほど戦うと、突然グミスライムの動きが止まった。

ミリアが無言で攻撃し続けているので、魔物は麻痺しているということだ。

私は全力で攻撃をはじめると、それから1分後にミリアが「やった、です」と叫んだ。

 

私とミリアは石化したグミスライムを放置して、クラムシェルの囲みに加わった。

それから1分後、クラムシェルが水弾を放つためにあけた口にベスタがデュランダルを叩き込んだ。

すると次の瞬間に魔物は煙に変わった。

 

私たちは「ふぅっ」とひと息ついて、それからみんなで石化したグミスライムを片づけた。

その後、ドロップアイテムを拾っていると、後ろで見ていたパーティーが近づいてきた。

そして、向こうのパーティーリーダーが今の戦いについての評価を言いはじめた。

 

「実質3分か。それに見ていた限り誰も攻撃を受けていないように見えたが、間違いないな」

「はい」

「うむ。やはりそうか。

魔物を殲滅するスピードも悪くない。文句のつけようがない戦闘だ」

 

よかった。

これだけ褒めてくれたということは、今の戦いは合格ということね。

 

かなりの高評価を頂いたので私が安堵していると、思わず、という感じでご主人様が「よかった」とつぶやいた。

どうやらご主人様も緊張していたようだ。

 

◆ ◆ ◆

 

「後はボス戦だな。ボス部屋までに魔物がいれば戦ってもらうが」

「分かった」

向こうのパーティーリーダーはご主人様にボス部屋に向かうよう促し、ご主人様が了承すると自分のパーティーに戻った。

そしてメンバーの1人から羊皮紙を受け取り、何やら確認しはじめた。

 

私は向こうのパーティーを気にしながらボス部屋の方向の匂いを嗅いで魔物がいるか確認した。だけど、全く匂いがしないので、すぐに魔物がいないことに気がついた。

 

あの人は狼人族だけど、あまり鼻がきかないのかな?

それともいないことが分かったうえで、敢えて“魔物がいれば”なんて言い方をしたのか......

緊張感をもたせる為?それとも他の狙いがある?

向こうのリーダーが何を考えているのかイマイチわからない。

本当はセリーに相談したいところだけど、ゆっくり考えている時間はないだろう。

取り敢えず魔物がいないことは、ご主人様に伝えておいたほうが良いわね。

 

私はそう考えて、ご主人様の耳元に口を寄せた。

そして、「ボス部屋まで魔物はいないようです」と小声で伝えると、彼は向こうのパーティーリーダーに視線を送った。

そして何故か肩をすくめると、私に振り向いて小さくうなずいた。

 

あれ?何で肩をすくめたの?

ご主人様が肩をすくめた理由は分からなかったけど、向こうのパーティーリーダーから、「では、行ってくれ」と声がかかったので、余計な思考は中断して移動に集中した。

 

因みに後でご主人様に教えて頂いたのだけど、このときは私が“同じ狼人族でも私は魔物が索敵できていますよ”と言っているように感じられてしまい、向こうのリーダーが気の毒になって思わず肩をすくめてしまったとのことだった。

“私、そんなに嫌味な女じゃないのに!”

 

 

「では、ボス部屋に向かおう」

「かしこまりました」

私がみんなを先導してボス部屋に向かうと、先ほどと同じように向こうのパーティーがついてきた。

そして、待機部屋に入ると、向こうのパーティーリーダーが話しかけてきた。

 

「待っている間に小部屋を通ったパーティーは一つだけだ。だから扉はすぐに開くだろう。ミチオたちが中に入ったら、我らは上で待つ」

「分かった」

 

えっ?私たちがボス部屋に入ったら上で待つの?

一瞬驚いたけど、良く考えたらボス部屋で戦えるのは一つのパーティーだけだから、向こうのパーティーリーダーは私たちが戦うところを見ることは出来ない。

だから私たちがボス部屋に入るのを確認したあとは、24階層の入口で待ってるのね。

ということは、ボスを倒して24階層にあがってくれば、合格ということになるのかな?

向こうのパーティーが見ていないなら、ご主人様は魔法が使えるってことだし、いつも通り戦えば問題ないわね。

 

それから5分ほど待つと、ゴゴゴゴッという音を鳴らしながらボス部屋への扉が開いた。

すると向こうのパーティーリーダーは一度部屋の中を見て、魔物がいないことを確認した。

 

「大丈夫だ。行ってくれ」

向こうのパーティーリーダーにボス部屋に入るよう促されると、ご主人様は「では」とひと声かけて軽く目を閉じた。

そして、ボス部屋に向かって歩きだしたので、私たちもあとに続いた。

 

ボス部屋の扉が閉まると部屋の中心に煙が集まり、魔物が3体現れた。

中央がゼリースライム、右がグミスライム、左がクラムシェルだ。

 

私たちが魔物に向かって走り出すと、キラキラと輝きを伴う砂塵が魔物を包んだ。

ご主人様がサンドストームとサンダーストームを連続で放ったようだ。

 

私がゼリースライム、ミリアがグミスライム、ベスタがクラムシェルの前に陣取り攻撃をはじめると、すぐに魔法の効果が切れた。

次の瞬間、ゼリースライムの触手が飛び出したので、私はバックステップで距離を取りながら半身になり、触手をかわして切り飛ばした。

 

ゼリースライムは斬られた触手を引っ込めたので、そのあいだに素早く左右を確認すると、ベスタはクラムシェルの体当たりを剣をクロスしてブロックし、そのまま押し込んでいた。

そしてミリアはグミスライムの目の前に立って、防御姿勢はいっさい見せずに全力で斬り刻んでいた。

ご主人様の魔法か、それともエストックによるものかは分からないけど、どうやらグミスライムは麻痺して動けなくなっているようだ。

 

私はゼリースライムの触手攻撃を避けながら少しずつ斬り刻んでいると、隣から「やった。です」というミリアの言葉が響いた。

さすがはミリア。接敵からわずか2分でグミスライムを石化したようだ。

 

彼女は石化した魔物は放置して私が戦っている魔物の後ろに回り込むと、私と同じように少し離れたところに位置取った。

そして、ゼリースライムから飛び出す触手をかわしながら斬りつけはじめ、ご主人様の魔法でボスが動けなくなると、一気に接近して斬りつけた。

 

それからは、ゼリースライムが魔法を受けて動けなくなっているあいだは近づいて本体を斬りつけ、魔法の効果が切れて魔物が動けるあいだは距離を取って攻撃をかわしながら少しずつ触手を斬り飛ばした。

 

そのまま3分ほどご主人様の魔法に合わせて攻撃していると、魔法の効果が切れた瞬間にバッ!と音をたてて突然ボスのからだが広がった。

私は全力で後方に跳ぶと、次の瞬間に私が居た場所はゼリースライムに包まれた。

 

ふぅ。少し焦ったわ。

ゼリースライムもグミスライムと一緒で、取りつく攻撃があったことを忘れていたわね。

 

気を取り直してレイピアを構え直し、触手攻撃に備えていると、ふいに魔物の動きが止まった。

そして次の瞬間、「やった。です」というミリアの声が響いた。

 

これで2匹目。ミリアは今日も絶好調ね。

 

私とミリアはベスタが攻撃しているクラムシェルに駆け寄り、私たちの後ろでサポートしていたセリーも囲みに加わると、直後のベスタの一撃で魔物は煙に変わった。

 

「みんな。お疲れ様。ベスタ、デュランダルをかしてくれ」

ご主人様はベスタからデュランダルを受け取ると、いつも通り石化した魔物を倒して回った。

 

「ロクサーヌ。ボス部屋に入ってから、何分経った?」

「えっと、ちょうど7分経ったところです」

魔物を全て倒し終わると、ご主人様はミリアから受け取ったドロップアイテムをアイテムボックスに仕舞いながら私に話しかけてきた。

 

「うむ......」

「24階層にあがらないのですか?」

ご主人様は戦闘時間を確認すると、次の階層には進まずに何かを考えだした。

 

「そうだな... セリー。クーラタル23階層のボスって、普通どれくらいで倒せるんだ?」

「クーラタルの探索者ギルドの記録では、23階層のボス討伐目安は50分です。確か最短記録は14分だったと思います」

「そうか。なら、少し休憩してから24階層にあがるか」

「ご主人様。最短記録とは、あくまで報告上の記録です。強いパーティーならもっと早く討伐出来るはずです」

「そうなのか?」

「はい。高層階を探索出来るようなパーティーが、適正階層よりも低い階層の討伐時間を報告することは、普通はありませんので」

「ああ...そういうことか」

ご主人様はセリーの考えに納得すると、24階層にあがることを決心したようだ。

 

「では24階層にあがるぞ」

「かしこまりました」

「わかりました」

「はい。です」

「私もわかりました」

 

結局入室からきっかり15分後、私たちは24階層にあがる扉をくぐった。

そして、24階層の入口小部屋に行くと、試験官のパーティーが待機していた。

 

◆ ◆ ◆

 

「お待たせした」

「ん!もう来たか... いや、やはり早いな」

ご主人様が声をかけると、向こうのパーティーリーダーは少し驚いた。

怪しまれないようボス部屋で少し時間を潰してきたつもりだったけど、それでもまだ早過ぎたみたいだ。

 

向こうのリーダーは咳払いして居住まいを正すと、私たちに帝都にあるロッジへ向かうよう指示した。

彼の雰囲気から、私たちが入会試験に合格したことは間違いないようだけど、迷宮の中では話せないことがあるようだ。

 

私たちが迷宮から出ると、試験官のパーティーから1人がこちらに歩いてきた。

そして、「私が案内します」と言ってご主人様に会釈した。

案内するということは、この人は冒険者ということだ。

 

「うむ。宜しく頼む。では、友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成」

ご主人様は返事をして、それからパーティー編成の呪文を唱えて彼をパーティーに加えた。

 

向こうのパーティーリーダーはご主人様が冒険者をパーティーに加えたことを確認すると、クルッと踵を返して騎士団の詰め所に入っていった。

 

私たちが詰め所に入ると、向こうのパーティーリーダーが詰所の騎士に何かのエンブレムを見せていた。

すると、騎士は恭しい態度でリーダーにあたまを下げ、“閣下”という敬称を付けて返事をした。

そして、「こちらです」と言って案内をはじめた。

 

ご主人様の態度から、向こうのパーティーリーダーは多少地位が高い人のような気はしていたけど、閣下と呼ばれるということは、どうやらハルツ公爵と同じ貴族だったようだ。

 

騎士は詰所の奥まで案内し、「この壁をお使いください」と言って壁を指差した。

すると、ご主人様がパーティーに加えた冒険者がフィールドウォークの呪文を唱えた。

そして、ゲートが開くと自らが先頭になってくぐっていったので、私たちはあとに続いた。

 

ゲートを抜けるとどこかの建物の広いロビーに出た。

そして、すぐに執事風の老紳士が飛び出して来た。

老紳士は冒険者に気づくと、「これはラルフ様、ようこそお越しくださいました」と言ってお辞儀をした。

 

「世話になります」

「お役目ご苦労様でございます」

冒険者が挨拶すると老紳士は丁寧に返事をし、それからひと言ふた言話をすると、一瞬私たちを見まわした。

 

「私は他のメンバーを迎えに行ってきます。しばし彼らのことを頼みます」

「承りました」

冒険者は老紳士に私たちを任せると、「では」とお辞儀をしてご主人様の方を向いた。

そして、ご主人様がパーティーから冒険者を外すと、彼はこのロビーに入ってきた壁に向かってフィールドウォークを唱え、ゲートを開いた。

 

冒険者がゲートをくぐっていくと、老紳士が話しかけてきた。

「ようこそいらっしゃいました。まずはお名前をお聞かせ願えますか。苗字をお持ちの場合は苗字まで。爵位と継嫡家名は結構でございます」

老紳士はそう言うと、からだを直角に曲げてご主人様に深々と頭を下げた。

 

「あー。ミチオ・カガだ」

「ミチオ様でございますね」

老紳士はご主人様の名前を確認すると、私に向き直った。そして、「それでは、そちらのお嬢様も」と言って私に名乗るよう促した。

 

「ろ、ロクサーヌです」

「ロクサーヌ様でございますね」

さ、様?!

「えっと……。あの、私は」

「当会では世俗の役職や身分などは何の影響も持ちません。くれぐれもそのおつもりでお願いいたします」

 

老紳士は奴隷の私に敬称を付けて、さもそれが当たり前という態度を取っている。

私はどうしたら良いのか分からずご主人様に視線を向けると、彼は黙って軽くうなずいた。

 

「は、はい」

私が返事をすると、老紳士はうなずいてからセリーに向き直り、私と同じように名乗るよう促した。

 

「セ、セリーです」

「セリー様でございますね」

老紳士はセリーにも敬称を付けて名前を確認すると、ミリアとベスタにも同じようにして名前を確認した。

私が名前を確認されていたことを先に見ていたので取り乱したりはしていないけど、それでも老紳士の態度に3人とも恐縮していた。

 

それにしても、この老紳士はご主人様のあと、私、セリー、ミリア、ベスタの順に名前を確認した。

私はご主人様の隣にいるので2番目に聞かれたのは問題ないけれど、次にセリーの名前を確認したことは不自然だ。

今は右からミリア、私、ご主人様、ベスタ、セリーの順に並んでいるし、セリーは最後にゲートをくぐってきたはずだ。

 

敵意や猜疑の目で見られてはいないようだけど、どう考えてもこの老紳士は帝国解放会の関係者だし、ここは帝国解放会に関連する場所だろう。

良く考えたら彼が何者なのかは聞いていないし、入会試験に合格しているとしても、今の段階で気を抜いてはいけないわね。

 

そう考えながらふとご主人様を見ると、彼は老紳士に目を向けながらも何か考えごとをしているみたいだった。

たぶんご主人様も、私と同じようにこの老紳士を見定めているのだろう。

 

それにしても、ここは何処かの城だろうか?

さっきは「帝都にあるロッジに向かってくれ」って言われていた気がしたけれど、壁や床は石造りだし、柱は神殿のように溝や模様が彫られている。

灯りもふんだんに設置されているし、調度品も見るからに高そうだ。

 

“ロッジ”って聞いたときは、郊外の別荘のような場所を想像したけれど、どう考えてもそんな小さな建物ではないし、どことなく先日行ったハルツ公爵の城のロビーに似ている。

 

確かセリーが“帝国解放会は実力者のみが入会できる、帝国で一番権威のある団体”だと言っていたはずだけど、まさしくその権威に相応しい建物のようだ。

 

そんなことを考えていると私たちが入ってきた壁にゲートが開き、先ほどの冒険者が入会試験を審査したパーティーを連れてきた。

 

「エステル様、お待ちしておりました」

「うむ。ご苦労」

向こうのパーティーがゲートから出ると、老紳士は滑るように素早く移動してリーダーの狼人族の男性に声をかけ、腰を直角に曲げてお辞儀した。

 

エステル? エステル...... 

何処かで聞いたことがある気がする。

狼人族でエステル... 

この人が貴族だとすると、もしかしてこの人はエステル男爵?!

 

私が育った町はエステル男爵領内の町で、顔を見たことはなかったけれど、確か領主様は30代後半だったはず。

向こうのリーダーは見た感じ30代後半から40代前半くらいの歳に見えるし、ご主人様への態度からしてもこの人は間違いなく貴族だ。

つまりこの人はエステル男爵。

若しくはその兄弟で間違いないのだろう。

 

私は1年前まではただの領民で、その頃は領主様なんて雲の上の人だった。

その後、私は奴隷になってエステル領民ではなくなったけど、ご主人様に購入して頂いたおかげでいま目の前にはかつての領主様がいる。

 

今は愛するご主人様に仕えているし、特に領主様に興味を持っていたわけではない。それに自分が偉くなったわけではないけれど、何とも言えない不思議な感じだ。

 

そんなことを考えながらエステル男爵と老紳士の会話を聞いていると、男爵が「ミチオは第一位階の会員になる」と、老紳士に伝えた。

私たちにハッキリと宣言はしていなかったけど、今の言葉で入会試験に合格したことが確定した。

 

◆ ◆ ◆

 

その後、私たちは老紳士に、広くて豪華な会議室に案内された。

そして、エステル男爵が細長いテーブルの真ん中に着席したので、私たちは男爵の向かい側に着席した。

 

私たちが全員着席するとエステル男爵はご主人様に視線を合わせ、おもむろに話しはじめた。

「察しはついていると思うが、試験については合格だ。ブロッケンの推薦どおり、申し分のない実力と認める。現状ではやや武器に頼っている面もあるが、ミチオならば近い将来迷宮を倒すほどの者になろう。問題はあるまい」

「はい」

 

ご主人様が軽く頭を下げて短く返事をしたけど、少しだけ苦笑いしていた。

半分流されるように帝解放放会に入会することになってしまっているけど、貴族になるつもりのないご主人様からしたら迷宮討伐は避けたいはずだ。

こんなところで“討伐は考えておりません”なんて言えるわけないだろうから、何とか苦笑いするだけにとどめたみたいだ。

ご主人様の表情を見てエステル男爵が気分を害すると面倒なことになるという考えが一瞬あたまをよぎったけど、苦笑いをご主人様の自重と捉えたのか、男爵の表情を見る限りでは特に気にした様子はないようだ。

 

エステル男爵はご主人様の返事を聞いて一つ頷くと、急にミリアに視線を合わせた。

そして、彼女のジョブが暗殺者かどうか私たちに聞いてきた。

 

ご主人様は一瞬躊躇したみたいだけど、入会試験でミリアが魔物を石化させているところを見られているためか、すぐに諦めて肯定した。

すると男爵は、「素晴らしい働きだった」とミリアを褒めた。そして、素早く状態異常にしていたことから暗殺者になってからも相当鍛えていることを見抜き、彼女を高く評価した。

 

ミリアについて評価し終わると、エステル男爵は私に視線を合わせた。

そして、ミリアが魔物を石化するあいだの私の戦闘について、「魔物の攻撃を寄せつけなかったそちらの彼女の動きもよかった」と言ってミリアと同様に高く評価してくれた。

 

ご主人様は男爵の私への評価を聞くと、「彼女のことは得がたいパーティーメンバーだと思っている」と言って少し自慢気に返事をした。

ご主人様が私のことを“得がたい”と言ってくれたことが嬉しくて幸せな気分になっていると、男爵はご主人様に重要事項を話しはじめた。

 

「会員以外にはあまり知られていないことだが、迷宮の最後のボスはこちらの装備品を破壊する能力を持っている。攻撃を盾で受けたり剣で弾いたりしただけでも、盾や剣が壊れてしまうことがある。魔物の攻撃を回避する利は極めて大きい」

「そ、装備品を破壊するのか」

ご主人様が驚いていると、男爵はもう一度私を見ながら「ブロッケンがミチオを推薦してきたのも道理だ」と言ってうなずいた。

 

さっきからエステル男爵の視線を何度も感じたので不快に思っていたけれど、どうやら私のからだが目的というわけではなくて、戦闘スタイルが迷宮の最上階のボスと相性がよかったから気にしていたということらしい。

 

みんなから色々言われていたとはいえ、私... ちょっと自意識過剰だったかも。

私は急に恥ずかしくなり、少しだけ視線を下げてしまった。

 

ところでさっきから男爵が口にしている“ブロッケン”って、一体誰なんだろう?

確かご主人様はハルツ公爵の推薦で帝国開放会の入会試験を受けたはず... つまり、ブロッケンとはハルツ公爵のことかな?

 

そう言えば一般人の名前は一つだけだけど、商家とか富豪とかはご主人様のように名前と名字の2つ。そして貴族の家人は名前と名字、それともう一つの3つだったはず。

貴族の当主だと、さらに領地名と爵位がつく。

私たちは公爵の名前は“ハルツ公爵”としか聞いていないから知らなかったけれど、公爵のフルネームにはブロッケンという名前が入っているのだろう。

 

私が余計なことを考えていると、不意にセリーとエステル男爵が話している声が聞こえた。

セリーは剣が壊れるのに攻撃しても大丈夫なのかエステル男爵に確認し、対応方法を聞いていたようだ。

 

それからしばらく雑談していると、老紳士がメイドを連れてティーセットを持ってきた。

そして、老紳士が自らカップにハーブティーを注ぎ、私たちの前に配った。

 

全員の前にカップが配られると、エステル男爵は目の前のカップを持ち上げ、おもむろに「では」と声をかけて、ハーブティーに口をつけた。

 

私もカップを持ち上げると、甘い香りがひろがった。

そしてひと口すすると、少し甘酸っぱくてさわやかな味が口の中にひろがった。

 

「ん。美味しい」

「本当ですね。これは美味しいですね」

「ありがとうございます」

私とセリーが感想を言うと、老紳士は微笑みながら頭を下げてお礼を言った。

 

その後、しばらくハーブティーの味を楽しみながら話を聞いていると、ご主人様は5日後に入会式を行なうので昼ごろにここに来るよう言われていた。

そして、パーティーメンバーは一緒に来ても儀式?には立ち会えないとのことなので、残念だけど私たちは留守番になりそうだ。

 

エステル男爵は帝国解放会ではかなり上の立場なのか、「ロッジでは会員同士、世俗の役職や身分にとらわれることなく振舞う」とか、「皇帝陛下が解放会の会員でも、ロッジではあくまで対等だ」とか、「皇帝が会員になろうとしても、実力がなければ断る」などと、奴隷の私からは考えられないようなことを言い出した。

 

私はエステル男爵の言葉に驚いて、どう受け答えすれば良いのか分からず救いを求めてご主人様のほうを見ると、彼もかなり驚いたようで、口を半開きにしたまま呆けていた。

そして、次の瞬間には真顔になり「な、なるほど」と答えていたけど、どうやらご主人様も驚いたようだ。

 

それにしてもエステル男爵は皇帝陛下が怖くはないのだろうか?

言っていることが本当なら大丈夫だろうけど、男爵が勝手に言っているだけだったら不敬罪で処罰されてしまう。

ご主人様は自由民だから、最悪逃げれば何とかなるだろうけど......

どちらにしても、少し注意したほうが良いでしょうね。

 

そう思いながら男爵の話を聞いていると、彼はご主人様に入会式まではハルツ公爵に会わないように注意した。

理由はよく分からないけど、入会試験の合格直後に推薦者に会うことは、エステル男爵の言い方から察する限り、ご主人様の不利益につながるようだ。

 

ご主人様が少し考えてからうなずくと、エステル男爵は席を立った。

そして、私たちに老紳士が帝国解放会の総書記でセバスチャンという名前だと説明すると、細かい話は彼に聞くようにと言い残して会議室を出ていった。

 

エステル男爵が居なくなると、セバスチャンさんが説明をはじめた。

「それではミチオ様、よろしければ当ロッジの説明をさせていただきます」

「頼む」

「こちらへお越しくださいますか」

セバスチャンさんはそう言うと、ハーブティーを飲み干した私たちを案内しはじめた。

 

豪華な会議室を出ると、先ず私たちは先ほどの会議室よりは少し小さ目の会議室に案内された。

扉を開けて中を覗くと、20人くらいで使えそうな丸テーブルとその周りをぐるっと椅子が取り囲んでいた。

セバスチャンさんの説明ではパーティー同士の親睦などに使う部屋らしく、同じような部屋は2階にもあるとのこと。

先ほどの部屋よりは簡素だけれど、それでも十分豪華な部屋だ。

利用したい場合はセバスチャンさんか案内係の女性に依頼すれば良いようで、部屋の利用は無料だけど代わりに飲食物を注文しなければいけないとのこと。

 

次にセバスチャンさんは、私たちが最初にここに来たときにゲートを抜けてきたロビーに案内した。

ロビーの正面にはひときわ大きな扉があるが、この場所は非公開となっているので、基本的には開かない。

部屋の隅にも出入口があるけど、業者や職員専用の通用口なので緊急の場合を除いて会員はフィールドウォークでロビーの壁から入館してほしいとのこと。

 

ロビーは20m四方くらいの広さで、大扉の正面に受付けカウンター。受付けカウンターの左右に奥に続く通路がある。

右側にはカフェが併設されていて、飲み物と軽食が頂けるとのこと。左側はソファーとテーブルがいくつかあり、待ち合わせなどに自由に使ってくださいとのことだ。

 

それからセバスチャンさんはカウンターの右側の通路に私たちを案内した。

因みに私たちが最初に連れて行かれた会議室は左側の通路の奥だ。

 

セバスチャンさんに連れられて通路を進むと、すぐに右手に2階に上がる階段があった。

その階段の前まで進むと、彼は「この階段をあがると2階には大会議場と先ほどお話しした中規模の会議室。3階には資料室などがございます」と説明してくれた。

ただ、ここで教えてくれたということは、今日は案内はしてくれないのだろう。

 

そう思っていると、セリーがセバスチャンさんに資料室のことを質問した。

メモ書きのような資料もあるけど、迷宮の攻略方法なども収集されているらしい。

セリーは是が非でも見せてほしいようで、ご主人様の委任があれば閲覧可能だと聞くと、目を輝かせて喜んだ。

そして、セリーから期待を込められた目を向けられると微笑みながら小さくうなずいたので、ご主人様も彼女に資料室に行かせようと考えているようだ。

 

◆ ◆ ◆

 

階段の前を通り抜けると、通路の奥に扉があった。

すると、セバスチャンさんはその部屋は解放会の店舗だと説明し、私たちを中に入れてくれた。

 

部屋に入ると、そこは迷宮探索に必要な装備品が展示してあった。

セバスチャンさんは店舗と言っているけど、武器屋や防具屋のように棚や剣たてに武器や防具がたくさん置いてあり自由に手に取れるように売っているわけではなく、ひとつひとつ展示するように並べられていた。

 

部屋の右側に武器類、左側に防具類、奥のカウンターの周りに小物類が展示してあるようで、カウンターの後ろの壁にも装飾の派手な盾や鞘に宝石が散りばめられた見るからに豪華な剣が飾ってある。

どうやらここにある装備品はクーラタルや帝都の武器屋や防具屋では売っていないオリハルコン製やスキルのついた装備品で、通常はオークションでないと手に入らない物ばかりのようだ。

 

ご主人様はかなり真剣に装備品を見出したけど、ここでの装備品の売買にはお金の他にポイントが必要で、そのポイントは強力な装備やスキルのついた装備品を売らないと貯まらないことを説明されると難しい顔になった。

そして、売れ行き状況や売れ筋商品を確認し、身代わりのミサンガの買取り金額やもらえるポイント数を聞いていた。

聞いたあとにチラッとセリーに視線を向けたので、どうやら身代わりのミサンガを売ってポイントを稼ごうと考えているみたいだ。

ただ、装備品はかなり安く買い叩かれるみたいで、緊急でなければオークションで売ったほうが良いと諭されて少し困った顔をしていた。

 

セバスチャンさんは私たちが損しないよう善意で言ってくれているのだろうけど、セリーがモンスターカードの融合を失敗したことがないことを知っているご主人様からすると、余計なお世話なんだろう。

 

そんなことを考えながら話を聞いていると、不意に視界の端に大きな盾が映った。

あれは、昔見たことがある竜騎士用の大盾だ。確かご主人様が興味を示していたはずだ。

ちょうどセバスチャンさんとご主人様の会話が一段落したので、私は大盾があることを報告した。

 

「大盾があるようですね」

「あれが大盾か?」

「大盾ですか」

私が盾を指差すと、ご主人様とベスタが返事をした。

ご主人様はともかくやはりベスタは大盾に興味があるようだ。

 

「前に竜人族の人が同じような大きさの盾を持っているのを見たことがあります。あれが多分大盾でしょう」

「頑強のダマスカス鋼大盾でございます」

ご主人様の疑問に答えると、セバスチャンさんが補足してくれた。

 

ご主人様は大盾に近づいてじっくり観察をはじめ、「ダマスカス鋼の大盾か......」とつぶやいて思案をはじめると、セバスチャンさんは「会員様や会員のパーティーメンバーに竜人族のかたも多くおられます。そのため当店舗でも大盾を扱うことが結構ございます。ミチオ様のパーティーにも竜人族のベスタ様がおられますので、是非ご検討ください」と言ってニッコリと微笑んだ。

 

ご主人様は「うむ」と返事をすると、一度ベスタを見てからセバスチャンさんのほうを向き、「まあそうだな。その際は宜しく頼む」と言って大盾の購入をやんわりと断った。

つまり今まで通り、ベスタは両手剣二本のままということになるようだ。

 

店舗の説明が終わると、セバスチャンさんは私たちを宴会場に案内した。

宴会場には円卓がいくつもあり、バーカウンターが併設されている。

酒宴の際に使われる部屋らしいけど、宴会の予定がなくてもバーの利用は可能とのこと。

また、料理の注文も可能で、食事だけの利用でも問題ないそうだ。

但し貴族の方の利用が標準となっているので、一般的には高級料理と言われるものしか無く、それなりの値段とのことだった。

 

宴会場の説明が終わると、セバスチャンさんは再びロビーまで私たちを案内した。

 

「当ロッジについて、一通りご案内差し上げました。何か質問はございますか?」

「いや、特に質問はない」

「ではミチオ様。5日後の入会式は昼過ぎからですので、少し前にお越しください」

「分かった」

 

ご主人様が返事をすると、セバスチャンさんは「またのお越しをお待ちしております」と言いながら腰を直角に折り曲げて礼をした。

私たちも「本日はありがとうございました」と言って一礼し、その後、ご主人様がロビーの壁にワープゲートを開いたので、ゲートをくぐって帰宅した。

 

ゲートをくぐり抜けてダイニングに入ると、ご主人様が「はぁー、疲れたー!」と言いながら大きく息を吐いた。

殆ど表情には出していなかったけど、だいぶ緊張していたようだ。

 

「お疲れ様でした。無事合格出来てよかったですね」

「ああ。入会式はまだだから安心は出来ないが、取り敢えず一段落だな」

私が労うと、ご主人様はホッとした表情になった。

 

「入会式は5日後とのことですが、それまでに何か準備することはありますか?」

「いや。特にないな。取り敢えず入会式までは今まで通り迷宮探索を続けよう」

「かしこまりました」

 

はたして5日後はどうなるか。

すんなり入会出来るのか。

 

入会式はご主人様しか出席出来ないので私たちは家で留守番することになるだろうけど、秘密組織への入会後、迷宮探索にどんな変化が起こるのか。

実は少しだけ楽しみにしていることは、みんなには内緒にしておこう。

 

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