ロクサーヌの想い   作:龍いち

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迷宮探索の闇 ~ロクサーヌの過去~(前編)

わたしの名はロクサーヌ。

狼人族で16才の巫女、そしてご主人様(加賀道夫)の一番奴隷。

 

愛するご主人様、かわいい後輩奴隷のセリー、ミリア、ベスタの5人で、クーラタルの一軒屋でしあわせにくらしている。  

 

お仕事は迷宮探索。

5人で毎日迷宮に潜り、魔物を倒してドロップアイテムを拾い、それを売って生活している。

 

因みに私たちはクーラタル、ベイル、ハルバー、ターレ、ボーデ、ザビルの6箇所の迷宮に入ったことがあり、一番探索を進めているクーラタルとハルバーは、どちらも26階層を攻略中だ。

 

 

帝都でドレスを買ってから2日経った。

 

あのドレスを着てご主人様と食事会に行けるなんて夢のようだし、今からその日が待ち遠しい。

だけど、ハルツ公爵の招待だと思うと、少し複雑な気分になる。

 

前回は色々あったけど、帰るときにご主人様が釘を刺してくれたので、今度の食事会でハルツ公爵が無茶な要求をすることは無いと思う。

でも、相手は貴族だから失礼がないようにしないといけないし......

 

そう、それにハルツ公爵だけでなく、あの公爵夫人も問題だ。

いや、むしろあの夫人の方が問題なはず。

 

彼女はご主人様には色目を使うし、私たちには不協和音をもたらそうとする。

それなのに、全く悪びれる様子がない。

 

前回の食事会のあとに忠告は差し上げたけど、ご主人様は女性の機微に疎いので、公爵夫人への警戒が今ひとつ足りないと思う。

だから、余計な言質を取られないよう、私たちが目を光らせておかないといけない。

予定通りだと食事会は7日後だから、セリーと対策を練っておいた方が良いわね。

 

夕食を食べながらそんなことを考えていると、いつの間にか話題が昔のパーティーのことになっていた。

 

「そう言えば、ロクサーヌとセリー、あとミリアも昔は他のパーティーで迷宮探索してたんだよな。

確かみんな低層階しか入れてないって聞いてたけど、実際はどんな感じだったんだ?」

どうやらご主人様は私たちとしかパーティーを組んだことが無いので、他のパーティーについて興味があるようだ。

 

私は昔のパーティーに良い想い出は無いけれど、メンバーの誰かと何処かで鉢合わせしたら、ろくな事にはならないと思う。

あのメンバーのことだから、バラダム家の女と同じように嘘をついて、私を貶めようとする可能性が高い気がする。

そんなことをされてもご主人様なら信じないとは思うけど、良い気持ちはしないはず。

 

出来れば思い出したくはないけれど、鉢合わせしたときに慌てないよう、今のうちに当時のことを伝えておいたほうが良いかも知れない......

 

私はそう考えて、当時のことをご主人様に話すことにした。

 

「では、ご主人様。私から話しても宜しいですか?」

「ああ。頼む」

 

「えっと、最初に言っておきますが、思い出したくないくらい酷いパーティーでした。

ですが、何処かで昔のメンバーに鉢合わせしたらろくな事にならないと思うので、皆さんにも当時のことを伝えておきます。

申しわけありませんが、そのつもりで聞いてください」

「そ、そうか...... すまない。軽い気持ちで聞いてしまった」

「いえ。ちょうど良い機会ですので、話させてください」

「分かった。話してくれ」

ご主人様がうなずいたので、話を続けた。

 

「私が育ったのは帝国の中央より少し南にあるエステル男爵領のアイエナという町です」

「む、会長の領地か。それにアイエナって確か...」

「はい。ペルマスクから帰るときに一度中継したところで、奥で飲んだくれていた男たちが、私たちがワープゲートを抜けるときに叫びながら迫ってきたところです」

「ああ、そうだ。そういえばそんなことがあったな」

「そうです。ですので、あのときの男たちは、ほんとに私のことを知っていたのかもしれません」

 

「ふーん。血の気が多いヤツが多いのか?」

「そうですね。狼人族の多い町ですので、気の短い人は多いと思います」

「じゃあ、あまり近づかない方が良いな」

「そうしてください。

それで、話がそれてしまいましたけど、私が最初に探索 パーティーに参加したのは13歳の時でした......」

 

それから、私は初めて迷宮探索に参加した頃のことを思い出しながら、昔いたパーティーでの出来事を話しはじめた。

 

◆ ◆ ◆

 

当時、私は獣戦士ギルドで試験を受け、苦労の末にギルド神殿に力量を認められて獣戦士になることが出来た。

その後、獣戦士ギルドの受付で迷宮探索のパーティーに加わりたい旨を相談すると、受付の女性は獣戦士募集中パーティーの掲示板の前に案内してくれた。

 

掲示板には獣戦士募集の貼紙がたくさんあり、どの貼紙にもパーティーのメンバー構成と探索中の階層、そして待遇が書かれていた。

 

はじめは探索中の階層が高いパーティーの貼紙を探して内容を確認していたけど、しばらくすると先ほど掲示板の前に案内してくれた女性が通りかかり、『自分の力量に合うパーティーの方がお荷物扱いされないわよ。それと、メンバーに女性がいた方が良いわね』と言ってパーティー選びのコツを教えてくれた。

 

それなら....

『攻略階層は3階層以下。そして、女性がいるパーティーに絞ってみるかな......』

私は考えを改めて、もう一度掲示板を確認すると、左の一番上にある貼紙の条件が合致していることに気がついた。

 

[待遇は応相談]って書いてあるのは気になるけど、メンバーは5人で男性4、女性1。

構成は戦士2、剣士1、探索者1、僧侶1......

『うん。ちゃんと回復役もいる』

 

攻略階層は3階層だから、獣戦士になったばかりの私でも問題ないはず。

“獣戦士の方なら探索初心者でも大歓迎”って書いてあるし、このパーティーなら私が考えている条件とピッタリかも。

 

他にも条件が合いそうなパーティーがあるかも知れないけど、とりあえずこのパーティーと連絡をとって話しを聞いてみようかな?

 

私はそう考えて、一番上に貼ってあった獣戦士募集の貼紙を掲示板から剥がし、ギルドカウンターに持っていった。

そして、ギルドカウンターでこのパーティーとの連絡方法を相談しようとしたところ、カウンターの手前で後ろから声がかかった。

 

『おい。そのパーティーに加入希望か?』

『えっ? あ、はい。話を聞いてみようと思いまして』

返事をしながら振り返ると、身長180cmくらいの狼人族の男が立っていた。

 

20歳くらいだろうか?間違いなく私よりは年上だ。

革の鎧、革の靴、革のグローブ。そして腰には両手剣をさげているので、たぶん戦士職なんだろう。

しかし、防具の隙間から見える腕や脚は狼人族の戦士にしては引き締まってはいないので、強さは微塵も感じられない。

身長150cmの私からしたら少し見上げる感じになるけれど......

 

“気圧される感じは全くしないわね”

 

そんなことを考えながら話を聞くと、なんとその男は私が剥がした貼紙の、探索パーティーのリーダーだった。

たまたま獣戦士ギルドに来ていたらしく、私が貼紙を剥がしていたところを見ていたので声をかけたとのことだった。

 

リーダーはその場で私が獣戦士であることを確認すると、決まりを守るならパーティー加入を了承すると言い出して、指折り数えながら説明しはじめた。

 

そのときに言われたパーティーの決まりは以下の4つ。

①迷宮内ではリーダーの指示に従うこと

②パーティー収益の分配はリーダーが決めること

③装備品は自前で揃えること

④パーティーからの脱退はリーダーと本人の双方が承諾した場合のみ認められること

 

最後にリーダーから『それ以外のことは、メンバー同士で話し合って決めれば問題ないだろう。最初は戦闘では役にたたなくても、獣戦士というだけでパーティーには恩恵がある。お前なら戦闘以外でも役に立ちそうだから、新人でも歓迎してやる』と言われた。

 

“戦闘では役に立たない”と言われたことは少し不快だったし、“戦闘以外でも役に立つ”と言われたことの意味がよくわからなかったけど、迷宮探索出来るなら問題ない。

私はそう考えて、条件については深く掘り下げて聞くこともせずにパーティーへの加入を了承してしまった。

 

 

後で分かったのだけど、パーティーメンバー募集の貼紙が一番上にあったということは、ずっと募集中だったということ。

つまり、そのパーティーはみんなが避けていたということだ。

 

それと、リーダーが“戦闘以外でも役に立つ”と言ったのは、私をひと目見たときに、“もう少し成長したら性的に奉仕させよう”という考えが浮かんだためだったらしく、自分を抑えられずに思わず言葉が漏れてしまったということだった。

 

あと、リーダーが獣戦士ギルドにいたのは実は偶然ではなかったらしく、冒険者ギルド併設のバーにいたところ、“獣戦士ギルドで若い女が試験を受けている”という噂を聞いたので見にきたとのこと。

 

彼は可能なら獣戦士になったばかりの新人をパーティーに引き込もうと考えていたようで、試験を終えた私にどう声をかけるか考えていたら、パーティー募集の掲示板から自分のパーティーの貼紙を剥がしたので、受付で余計なことを言われる前に声をかけたらしい。

 

しかし、このときの私は早く迷宮探索で活躍して、叔母たちに一人前になったと認められたかったという想いが強く、リーダーが何を考えているのかなんて考えもしなかった。

少し焦りがあったのかも知れないけど、深く考えずにこのパーティーを選んでしまったことを、後で後悔することになったのは、言うまでもないだろう。

 

◆ ◆ ◆

 

翌朝。

待ち合わせ場所に指定された冒険者ギルドに行ったけど、なかなかリーダーが来なかった。

他のパーティーはメンバーが揃いどんどん出発しているのに、一向にリーダーが現れる気配がない。

 

私はギルドの受付けカウンターの横に立ってずっと待っていると、このギルドに併設されているバーのテーブルから舐めるような視線を送ってきている男がいることに気がついた。

同じテーブルにもう2人男がいて、朝から酒を飲んでいるのか、大声で言い合いをしている。

もしかしてこの3人はパーティーメンバーなのかな?

 

言い合いしている男たちは2人とも鼻が真っ赤で目の下にくまがあり、目が据わっている。

朝から酔っぱらっているようで、少し離れているのに酒臭い。

 

粗野な感じの大男で、身長は190cm以上か。

2人とも似たような顔をしてるから兄弟のような気がする。

ガッチリした身体つきだし、皮の鎧と皮の靴。腰には両手剣を装備している。

たぶん2人とも戦士なんだろう。

 

気持ち悪い視線を送っている男は、硬革のジャケットに硬革のグローブ、硬革の帽子に硬革の靴。

腰にさげているのは鉄のフレイルみたい。

酒を飲んでいる2人よりも、明らかにワンランク上の装備だ。

 

フレイルは何故かピカピカなので、もしかして新品なのかな?

まさか、使ってないなんてことは無いわよね?

 

身長は160cmくらいで、私よりは少し年上に見える。

17か18歳という感じか......

装備品は良さそうだけど貧相な身体つきだから、この男は間違いなく前衛ではないだろう。

 

と、いうことは......

もしこの男がメンバーなら、彼が僧侶ということ。

 

それにしても気持ち悪い視線。

なんか舌なめずりしているし、ほんとにこの人がメンバーだったら嫌だな。

 

私は不快な視線を我慢しつつ待ち続けると、ギルド内に人が殆どいなくなった頃にやっとリーダーがやってきた。

 

リーダーと一緒にキツイ目をした狼人族の女性がいる。

もしかして、あの人がパーティーの女性メンバーなのかな?

女性は20歳くらい?

身長は160cmくらいで狼人族にしては細身なので、素早く動けそうに見える。

 

革のジャケットに皮のグローブ、革の靴。

それと片手剣に鉄の盾。

装備からすると前衛のようだから、たぶんこの人が探索者なんだろう。

 

私が女性を観察していると、リーダーは遅くなったことを気にする様子もなく、バーにいた3人に『待たせたな』と声をかけた。

そして、受付けカウンターの横に立っている私に気づき、『おう。こっちだ』と言って、片手をあげて私を呼んだ。

残念ながら、あの3人はパーティーメンバーだったようだ。

 

彼らの近くに行くと、朝から酒を飲んでいた大男のひとりがリーダーに『このガキは何だ?』と質問した。

 

『昨日パーティーに入れた獣戦士だ』

『は? ガキじゃねえか』

『ああっ? 文句あんのか?』

『こんなガキじゃ役に立たねえだろ』

 

『まあ、戦闘では役に立たないが、これでも獣戦士だから、コイツが入れば恩恵がある。

それに、今はガキだが女だから、そのうち色々と役に立つだろう』

リーダーはそう言うと、ニヤニヤしながらいやらしい目で私を見た。

 

私は背筋がゾッとして、このパーティーに入ったのは失敗だったと思ったけど、口を挟める雰囲気ではなかったので、とりあえず話の成り行きを見守った。

 

『ケッ!俺はロリコンじゃねえんだよ』

『ああっ、文句あんのか!

あんならお前が獣戦士見つけてこいや』

文句を言っていた大男とリーダーは睨み合ったけど、すぐに大男のほうが折れて、『チッ!分かったよ』と言って私の加入を承諾した。

他のメンバーは誰も文句を言わなかったので、承諾ということだろう。

 

『おう、自己紹介しな』

『は、はい。ロクサーヌ、13歳です。昨日獣戦士になりました。

迷宮探索の経験はありませんが、森で魔物と戦ったことはあります。

精一杯頑張りますので、宜しくお願いします』

 

私が自己紹介してペコリとお辞儀をすると、リーダーは簡単にこのパーティーのメンバーを紹介した。

 

先ず、リーダーは23才。戦士で前衛。

思ったよりも年上だった。

 

リーダーに文句を言っていた大男は22才。戦士で前衛。

その男と言い合いしていた男は21才。剣士で前衛だった。

思った通りリーダーに文句を言っていた男の弟だった。

因みにこの2人はお酒の飲み過ぎのせいか、2人とも鼻が真っ赤だったので、私は密かに赤鼻兄弟と呼ぶことにした。

 

リーダーと一緒に来た女性は自分の番になると、『私は探索者で21才。魔物と戦うときは一番前で戦ってる。以上!』と名前も告げずに短く挨拶を終わらせた。

名前も教えてもらえなかったことに呆気に取られていると、彼女はキッ!と私を睨んだ。

そして、『あんた。獣戦士になれたからっていい気になるんじゃないわよ!』と言って、フンッ!と鼻を鳴らして私から顔をそむけた。

どうやら彼女は、リーダーが私を勝手にパーティーに加えたことが気に入らないみたいだ。

 

私は同じパーティーのメンバーとして、そして女性探索者の後輩として仲良くしたかったけど、残念ながら彼女の態度をみる限りしばらく時間がかかりそうだ。

 

最後は、舐めるような視線を送ってきている男だ。

彼は18才。僧侶で後衛。

かなり裕福な商家の子息らしく、基本戦闘には参加しないらしい。

 

本人曰く、自分の家にも迷宮探索しているパーティーがあるらしく、「このパーティーには回復役がいないので、一時的に参加してやっているけど、いずれは家のパーティーに戻って迷宮討伐することになる」とのことだ。

 

5人とも狼人族で、全員この町か近くの村の出身だった。

 

お互いの紹介が終わると、リーダーは私に「お前は迷宮探索は素人だから、コイツの横に並んでついてこい」と言って、僧侶の男を指差した。

 

私はこの僧侶の隣は嫌だったけど、新人のくせにゴネても相手にしてもらえないと思ったので、「はい」と答えてリーダーの後ろについて、迷宮に向かって歩き出した。

 

◆ ◆ ◆

 

アイエナの迷宮はこの町の東門から歩いて5分の所にあり、入口の前には探索者ギルド所属の探索者が立っていた。

何か言われるのかと思ったけど、近づいても彼は一瞥しただけで、私たちが迷宮に入っていくのを黙って見送っていた。

 

ただ、通り過ぎるときに『チッ』と舌打ちされたので、彼からはこのパーティーが好かれていないことに気がついて、少し気分が重くなった。

 

真っ暗な入口を通って迷宮に入ると、中は床や壁、そして天井がうっすらと発光していて20mくらい先まではよく見えた。

 

リーダーは一度後ろを向いて全員いることを確認すると、「じゃあ行くぞ」と言って先頭を歩き出した。

その後ろをみんなでゾロゾロと歩いてついていく。

途中の分かれ道を何度か曲がりながら20分ほど歩くと、前方に見たことがない魔物が見えてきた。

 

その魔物は丸いあたまの下に細いからだが伸びており、一番下が3つに分かれて足のようになっている。

その足がうねって少しずつ、こちらに近づいてきていた。

そのときは初めて見たのでわからなかったけど、魔物はコラーゲンコーラルだ。

その魔物が目の前に2匹いた。

 

えっ?2匹?!

と、いうことは...... ここは迷宮の2階層よりも上ということ?

 

初めて迷宮に入ったけど、1階層なら魔物は必ず1匹でしか出ないことは知っている。

と、いうことは、探索者の女性は入口で行き先を2階層から上にしたということだ。

確かこのパーティーは探索中の階層が3階層だったから、ここは2階層か3階層のどちらかということだ。

 

私は少し考え込んでしまったけど、すぐに気を取り直して剣を構えた。

前の4人が斬りかかったら、私も斬りかかろうと思っていたけど、リーダーが「いつも通りやるぞ!」と叫ぶと前の4人が横並びになって通路を塞いでしまった。

そして、そのまま魔物に向かっていき、魔物1匹に対して2人ずつ並んで接敵した。

 

『えっ!』

これでは私が攻撃する隙間がない。これがこのパーティーの戦い方なの?

 

私は攻撃出来ずに4人の後ろをウロウロしていたけど、右側の魔物が少し下がったので左の魔物の右側が少し開いた。

私は強引にそこに突っ込んで左の魔物を攻撃しはじめたけど、すぐに左にいたリーダーが私の方に回り込んできた。

 

『どけ!邪魔だ!』

『えっ!?』

私はリーダーの怒号に驚いて、バックステップして場所を譲ると、彼は私がいた場所に陣取って魔物を攻撃し始めた。

私は彼の後ろを回って魔物の正面に移動し、魔物の正面に陣取ると、今度は一番左にいた女性探索者が私の方に回り込んできた。

 

『どいてっ!』

『......』

彼女の怒号を受けて一瞬“またか”って思ったけど、黙ってバックステップで場所を空けた。

すると、彼女は当たり前のように私のいた場所に陣取って、魔物を攻撃し始めた。

 

私は彼女の後ろを回って魔物の左に回り込もうとしたけれど、そう思った瞬間にリーダーが『やるぞっ!』と叫んだ。

次の瞬間、リーダーと女性探索者は同時に突っ込み、攻撃する圧力で魔物を壁際まで追い込んだ。

 

私はまた攻撃するスペースが無くなってしまったので、赤鼻の兄弟が対応している右側の魔物を攻撃しようと思ってそちらに視線を向けると、リーダーたちと同じように魔物を壁際に追い込んでいた。

 

うーん。こっちも私が攻撃するスペースが無いわね。

そう思いながらもウロウロしながらスペースを見つけては剣をチョコチョコと突き入れた。

そうして20分ほど戦うと左側の魔物が煙になり、その後すぐに右側の魔物も煙になった。

 

戦闘が終わると、兄弟の兄の方がリーダーに話しかけた。

『へへっ! 今回は俺たちの勝ちだな』

『チッ! 途中で邪魔が入らなきゃコッチの勝ちだったんだよっ!』

いつの間にかどちらのペアが早く魔物を倒すか競っていたようで、リーダーは負けた言い訳をしながら私を睨んだ。

どうやら彼の中では、自分が負けた理由は私が邪魔だったことになっているらしい。

 

『ガハハハ。負けたからって言い訳すんな』

『あー!うるせぇ!うるせぇ!まだ1戦目だろ! 

次は負けねー。勝ってタイにすっからな!

おいボンボン仕事だ。左腕がイテーから回復しろ』

リーダーは悪態をつきながら、僧侶に腕を突き出した。

僧侶は『はぁ』とため息をつくと、リーダーの腕に手を翳して回復呪文を唱えた。

 

僧侶の呪文が終わるとリーダーは腕をぐるぐる回して感触を確かめた。

そして、『よし。じゃあ、次だ』と言って再び迷宮内を歩きだそうとしたけど、兄弟の兄から背中をバシッと叩かれて『悪いなぁ。新入りの前で恥かかせちまって』と言われると、再び機嫌が悪くなった。

 

すると彼は、私に向かって『何黙って突っ立ってんだ。

お前は戦闘が終わったらドロップアイテムを拾ってこい。あと、戦闘の邪魔はすんな』と吐き捨てるように言って、歩き出した。

完全に八つ当たりだ。

 

私は慌ててドロップアイテムを拾い、パーティーを追いかけた。

そして、女性探索者に追いついてアイテムを渡すと、彼女はアイテムボックスを開きながら不機嫌そうに私を睨んだ。

 

『あんた、新入りのクセに出しゃばるんじゃないわよ。

魔物に攻撃したかったら、後ろからこっそりと攻撃して。次にアタシの邪魔したら、承知しないからね』

『は、はい。すみませんでした』

私が謝ると、彼女は『フンッ』と鼻を鳴らして視線を外した。

私と普通に会話する気はないようだ。

 

瞬間的にこの女の人と仲良くするのは無理だと思ってしまい、気分が落ち込んだ。

そして、一瞬足が止まってしまったけど、次の瞬間には迷宮にいることを思い出し、気を取り直して歩き出した。

 

その後もリーダーの指示に従って迷宮内を行ったり来たりし、4時間で7度魔物と接敵した。

そこで分かったことだけど、このパーティーは魔物が2匹の時は2人ずつで討伐時間を競っているようで、魔物が1匹の時は4人で取り囲んでタコ殴りにするというのが基本的な戦闘スタイルのようだ。

 

私は父から、『魔物の群れと対峙したときは、誰かが魔物を抑えているうちに残りの全員でまず1匹を倒し、それからも1匹ずつ倒していくのが最も早く戦闘が終了する』と聞いていた。

 

なので、4時間経って休憩しているときに、私は思い切ってリーダーに戦闘方法を変えるよう進言してみた。

しかし、魔物2匹の戦いで3連負だった彼は機嫌が悪かったようで『新入りのくせに生意気な口をきくな!』と一喝されてしまった。

 

『すみませんでした』

怒鳴ったリーダーの顔が怖かったので、私は反射的に謝ってしまった。

だけど、意見しただけなのに何で怒鳴られないといけないの?

気持ちが落ち着いてくると、怒りが沸々と湧いてきた。

そして、しばらくの間は、私は怒りが治まらずにリーダーの背中を睨み続けていた。

 

それから少し経つと、私は先導しているリーダーが不自然な動きをしていることに気がついた。

彼は魔物に近づいても気が付かないのか、そこから遠ざかったりしている。

それなのに、このパーティーのメンバーは誰も文句も言わずについていっている。

 

誰も魔物の匂いがわかっていないの?

それとも戦う魔物を選んでる?

私はリーダーが無駄に歩き回っている意味がわからなかったけど、つい先程リーダーに怒られたので、しばらくは声をかけられずにいた。

 

でも、あまりにも無駄に行ったり来たりしている。

せっかく迷宮探索しているのに、時間が勿体ない!

 

更に1時間も経つと、私は我慢仕切れなくなってリーダーに『右の方から魔物の匂いがします』と伝えてしまった。

すると彼は片眉をヒクつかせて、『迷宮内では俺の判断が絶対だ。だから余計なことは言うな! まさか、迷宮内では俺の指示に従うって約束。忘れたわけじゃないよな?』と言って私を睨みつけた。

 

納得いかなかったけど、パーティー加入の条件として、リーダーの指示に従うことを約束したことは間違いない。

それにこれ以上怒られて殴られでもしたら嫌だから、とりあえず彼の前では口を噤むことにした。

 

それからしばらくは黙っていたけど、無駄に歩き回らせるリーダーに腹が立つことは抑えられず、1時間も経つと、私は小声で愚痴を言うようになっていた。

 

『あーあ。すぐ先に魔物がいたのに』

『はぁ。また引き返すのか』

『何で魔物を避けるのか...』

など、ボソボソと呟きながら歩いていると、ピタッとリーダーが立ち止まった。

 

私はリーダーが何で立ち止まったのか疑問に思ったけど、振り向いた彼の顔が茹でダコのように真っ赤になっているのを見て、一瞬で理解した。

どうやら彼には私の愚痴が聞こえていたようだ。

 

私は“しまった”と思ったけど、今さら後悔しても遅かった。

リーダーはズンズンと私の前まで歩いてくると、グッと顔を近づけて大声で怒鳴った。

 

『いい加減にしろ!魔物なんか近づけば誰でもわかるんだよ!お前は黙ってろ!』

『ヒッ!ご、ごめんなさい!』

あまりの迫力に思わず目を瞑って全力で謝った。

私は殴られると思って身を縮こまらせたけど、彼は『チッ!』と舌打ちすると、吐き捨てるように『行くぞ!』と言って、探索を再開した。

 

私は殴られなかったことにホッとしたけど、初日にこんなに怒られてしまい、これからどうしたらいいか考えがまとまらない。

でも、迷宮内でパーティーからはぐれるわけにはいかないので、呆然としながらも私はメンバーの後ろをついていった。

いつの間にか私と並ぶようにボンボン僧侶が歩いていたようだけど、しばらく気づかないくらい動揺していた。

 

少し歩くと、前の方で他のメンバーが話している声が聞こえた。

『早速リーダーの洗礼を受けたか。まあ、自業自得だな』

『そうだな。切り替えできねえガキが悪い。あんな調子じゃいつまで持つかわからんな』

『新入りのくせに生意気なのよ。いい気味だわ』

 

『まあ、これで静かになんだろ』

『ガハハハそうだな。そんで見た目はいいからそのうちリーダーに食われるかもなwww』

『あんなしょぼいガキ、彼の趣味じゃないわよ。私で満足してるしね。ふふっ♥』

『おー、大した自信だなwww』

『年季が違うのよ♪』

 

『ま、リーダーはともかくボンボンはヤベーかもw』

『言えてるw アイツ目つきヤバイし』

『迷宮探索してなかったら、ぜってぇ性犯罪者になるな』

『チゲ〜ねぇ。早めに女を充てがわねーと、ほんとにヤベーかも』

『ならちょうどいいじゃん。新入りでw』

 

『いや、さすがにまだ早いだろ。あと2、3年ってとこじゃねえか?』

『それまでボンボンが待てると思うか?』

『いや、ムリね。 これから新入りは後ろにも気をつけないとwww』

 

『違いねえ。だが、ボンボンには勿体ねえな』

『おいおい。まさかてめえ狙ってんのか?』

『そうじゃねえよ。ただ、ボンボンは鼻につくんだよ。だから、ババアかブスで十分だろw』

『ギャハハハハ。そりゃいい』

 

『あんたたち。気持ちはわかるけど一応スポンサー様よ...... 親がだけどw』

赤鼻兄弟と女性探索者は言いたい放題だったけど、よくよく聞くと、私よりボンボン僧侶に対する不満が多いようだった。

 

その声はボンボン僧侶にも聞こえていたみたいで、私の横で何やらブツブツと呟き出した。

『て、てめえらはいつか殺す...... ろ、ロクサーヌは俺がもらう』

その声を聞いて、私は隣にボンボン僧侶がいたことに気がついた。

 

『えっ?!いつの間に?!』

私は驚いて慌てて飛び退き、ボンボン僧侶から離れた。

そして彼を凝視すると、『に、逃げるなんて酷いじゃないか』と言いながら笑っていた。

私は背筋が寒くなり、思わず身震いした。

いまさっき女性探索者が言っていたけど、ほんとにこれからは後ろにも気をつけないといけないかも......

 

私はこのパーティーに入ったことを後悔したけど、探索初日に辞めるなんて言ったら後で何を言われるか......

色々考えながら迷宮内を歩いているうちに、ふと先ほどの赤鼻兄弟と女性探索者の会話を思い出した。

 

確か、“新入りのくせに”って言ってたわね。

私って、パーティーメンバーの人たちからどう思われてるんだろう......

 

メンバーからすると、私は“新入りでまだ迷宮探索1日目の初心者。当然迷宮のことや、このパーティーのルールもよくわかっていない”と思われているだろう。

そんな新入りが何か意見を言ったらそれを聞いてくれるだろうか?

いや、普通は彼らが言っていたように“生意気なヤツ”と思われて、まともに聞いてはくれないはず。

 

はぁ。私は何を焦っていたんだろう。

自分ならやれるから、早く認めてもらって頼られる存在になりたかった?

それとも... 無意識のうちに早く有用性を示さないと、パーティーから追放されると思っていたの?

それとも探索者になることを許してくれた伯母夫婦に間違いなかったと、早く認めてもらいたかった?

 

私は何で焦っていたのか答えは出せなかったけど、“まずはしっかりと経験を積んで、メンバーから信用されないといけない”という考えに行きついた。

なのでそれ以降は探索が終了するまで、黙ってリーダーの指示に従った。

 

冒険者ギルドに戻ると、メンバーはギルド併設のバーに向かい、探索者の女性はカウンターに向かった。

私は一瞬迷ったけど、リーダーについていくと、すぐに探索者が戻ってきた。

そしてテーブルに『今日の儲けだ』と言ってお金を置いた。

するとリーダーはお金を分け始め、『新入り。今日の取り分だ』と言って銅貨20枚を私に渡した。

 

『えっ!これだけ?』

『はあっ!文句あんの?

あんたはまだ見習いで役にたたないんだから金がもらえるだけ有り難いと思いな!』

 

今日はパーティーで魔物を32匹倒している。

ちょっと少ない気はするけれど、それでもドロップアイテムの売却額は450ナールくらいはあるはず。

それなのに、たった20ナールだなんて少な過ぎる。

そう考えて思わず言葉が出てしまうと、即座に女性探索者に窘められてしまった。

 

『......』

収益の分配はリーダーが決めることになっているので彼の方を向くと、女性探索者と同じ形相で睨まれてしまった。

これ以上何か言ったら、間違いなく怒鳴られるだろう。

 

今日はパーティーで450ナールくらいしか稼げていないから、一人当たりの金額はかなり少ないだろう。

私は新入りだから50ナールとか、最悪40ナールと言われても仕方がないと思っていた。

でも、現実はさらに低い金額だったので、正直驚いている。

 

森で湧いたニートアントでも1日狩れば200ナールくらいは稼げるはずなので、今後も報酬金が上がらないようなら、なにか考えないといけないわね。

 

その後、女性探索者がパーティーを解散したので、私は帰宅するため冒険者ギルドをあとにした。

 

冒険者ギルドから出ると、不意に後ろから『お、送っていってやる』と声をかけられた。

私は背中に悪寒が走り慌てて振り返ると、そこには顔をニヤつかせた僧侶の男が立っていた。

そして彼は『もう暗くなるし、女の子のひとり歩きは危険だから』と言いながら、私に近づいてきた。

 

私はこの男に嫌悪感があったので、『大丈夫です。一人で帰ります』と言いながら一歩下がると、サッと振り返って逃げるように駆け出して、振り返らずにその場をあとにした。

 

◆ ◆ ◆

 

翌日。

朝イチで冒険者ギルドに行ってパーティーメンバーを待っていると、少ししてボンボン僧侶がやってきた。

彼はギルドカウンターの前を抜けて奥のバーまで行くと、昨日と同じ場所に座って休憩しはじめた。

 

どうやらあの席がパーティーの待ち合わせ場所なんだろうけど、私はあの男には近づきたくないので、昨日と同じく少し離れた壁際に立ち、他のメンバーが来るのを待つことにした。

 

少しするとボンボン僧侶は私に気付き、ニヤニヤしながら手招きしはじめた。

私は彼に近づくのが嫌だったので、気付かないふりをしてそのまま離れた壁際に立っていたけれど、30分くらいして他の探索者たちがあらかた居なくなると、ボンボンが立ち上がった。

そして、私に向かって歩きだした。

 

うわっ!こっちに来る!

近づいてくるボンボンから逃げたかったけど、一応パーティーメンバーだから、そうも出来ずに立ち尽くしていると、彼はニヤニヤしながら私の前までやってきた。

そして私の前まで来ると、彼は私の肩に手をのばした。

 

ヒッ!

私は心の中で悲鳴をあげながら、彼の手が触れる瞬間に半歩スライドして躱した。

彼は伸ばした手が空振りすると、『チッ!』と舌打ちした。

 

『何ですか?』

『今日は探索は無しだ』

『えっ?』

私は彼の言っている意味がよくわからなくて、一瞬呆けてしまったけど、すぐに気を取り直して質問した。

 

『どういうことですか?』

『あいつら、昨日バーに残ってただろ。4人とも酒ぐせが悪くて飲むとたいてい次の日は来ない』

『じゃあ迷宮は......』

『は?行くわけないだろ。今日は休みだ』

『そんな......』

 

私がショックを受けていると、僧侶の男はニヤニヤしだした。

『なぁ、そんなに迷宮に行きたいなら、俺が付き合ってやってもいいぞ』

彼はそう言いながら私の手を掴もうとしたので、咄嗟にからだを捻って彼の手を躱した。

 

『お、お断りします』

『何だよ!俺は親切心で付き合うって言ってるのに』

『付き合うって、貴方は戦わないじゃないですか』

『はあ?俺は回復専門だぞ?戦わないのは当たり前だろ?』

 

『意味がわかりません』

『やれやれ、これだから素人は... 怪我したら手当てしてやるって言ってんだよ』

私は本気で困惑しているのに、目の前の男はニヤニヤしながら胸を張っている。

 

この人は何でこんなドヤ顔してるの?

確かに回復職がいれば助かるけど、それはパーティーの人数が多いか、回復職自身も戦える場合に限る。

それなのにこの人は、自分なら戦わなくても同行させてもらえると思っているようで、それを疑っていないみたい。

ほんと、頭おかしいんじゃないの?

 

私はそんなことを考えていると、僧侶は『まあ、タダってわけじゃないけどな。フヒッ......』とボソッと呟いて、舐めるような視線で私のからだを見回した。

態度があからさま過ぎるので、さすがに私でも彼が考えていることくらい分かる。

 

何もしないのに迷宮探索に同行させてもらえると思っているだけでなく、回復呪文を使う見返りに私のからだを要求するつもりだなんて、呆れてものも言えない。

私はこれ以上この男と話しても時間の無駄だと思い、『はぁー』とひとつため息をついてから、ハッキリと拒絶する言葉をぶつけた。

 

『戦う気のない足手まといはいりません。一人で大丈夫です。』

『何だと!クソッ生意気な!

ああ、そうか。それなら一人で迷宮に行って、痛い目に合えばいい!』

私にきっぱりと断られると、僧侶は明らかに不機嫌そうな顔をして悪態をついた。

しかし、何かを思いついたようで、すぐにまたニヤニヤし始めた。

 

『そうそう。もし迷宮で怪我したら、パーティーメンバーのよしみで治してやる。その時はそうだな...... 何で支払ってもらうかな......』

『結構です!』

彼は舌なめずりしながら気持ち悪い視線を向けてきたので、私は会話を打ち切って踵を返し、迷宮に向かった。

 

◆ ◆ ◆

 

迷宮に向かって歩いていると、不意に不快な匂いがした。

どうやら近くに同行を断ったはずの僧侶がいるようだ。

 

普段、外では特定の人が近づいてきても気がつくことなんて無いのだけど、今しがた風向きが変わって追い風になったのと直前まで話しをしていて匂いを覚えていたので、偶然気がつけた。

 

私は立ち止まって振り返ると、少し後ろの物影に誰かが慌てて隠れたのが見えた。

顔はよく見えなかったけど、服装から考えると僧侶が私を付けてきていることに間違いないだろう。

 

もしかして迷宮の中までついてきて、私が怪我するまで付き纏うつもりなの?

何なのあの人!ほんとに気持ち悪い!

 

私は早足で迷宮に向かい、逃げるように中に飛び込んだ。

そして1階層の入口小部屋に出ると、すぐに匂いを嗅いで魔物のいない方向に向かって駆け出した。

それから魔物を避けて3分ほど走り、再度匂いを嗅いでみた。

すると入口小部屋の方から、微かに僧侶の匂いがした。

たぶん私が何処に行ったのかわからずに、小部屋の回りをウロウロしているのだろう。

 

私は僧侶をまけたことにホッとしてひと息つくと、彼のことはあたまの隅に追いやって迷宮探索に集中した。

 

私は匂いを嗅いで魔物を探すと、いまいる通路の先から魔物の匂いがした。

魔物はチープシープのはず。昨日の探索で何度か遭遇しているので、私一人でも十分戦えるはずだ。

そう思いながら1分ほど歩くと、20mくらい先に白い毛玉の魔物が見えてきた。

 

間違いない。あれはチープシープだ。

しかも向こうを向いていて、こちらには気づいていないみたい。

私は一気に駆け寄って、その勢いのまま魔物に斬りかかった。

 

1撃、2撃、3撃、4撃。

魔物が私に気づいてこちらを向くまでに、4撃も力の乗った斬撃を加えることが出来た。

それからは、チープシープの体当たりを躱しながら攻撃を突き入れてダメージを重ねた。

そのまま20分ほど戦うと、私の攻撃を受けた魔物がガクリと膝をついた。

そして、からだがボフッと煙に変わり、それが晴れるとドロップアイテムが落ちていた。

 

『よしっ!』

私は初めて迷宮の魔物を倒したことが嬉しくて、思わず拳を握って叫んでしまった。

 

私は家の近くの森では何度も魔物を狩ったことがあるので、迷宮と言っても普通に戦えるし、倒しても特に何も思わないだろうと思っていた。

だけど、さすがに20分も戦ってやっと倒せたのと、迷宮で魔物を倒したのが初めてだったことが考えていたよりも嬉しくて、思わず声が出てしまったのだ。

 

“ふふっ。誰も居ないから良かったけど、誰かに聞かれてたらちょっと恥ずかしかったわね”

そんなことを考えながらドロップアイテムを拾って、私はすぐに次の魔物を探した。

 

そうして何度目かの魔物を倒し、次の魔物を探していると、他の探索者が近づいてきていることに気がついた。

どうやら探索者は3人パーティーのようで、たぶん5分くらいでここまで来そう。

 

次の魔物はここから2分程度の所にいるけれど、間違いなく戦っているうちに、探索者たちに追いつかれるわね。

かと言って、戻ると探索者と鉢合わせすることになる。

どうしようか......

 

少し迷ったけど、私は覚悟を決めて魔物に向かうことにした。

それから魔物に向かい、戦闘開始から10分すると、探索者たちが追いついてきた。

しかし、彼らは私から10mくらいの所で立ち止まって、私の戦いを見ているみたいだ。

 

取り急ぎ邪魔されないことにホッとして、魔物に集中して戦い続けていると、いつの間にか彼らは私から5mくらいの所まで近づいていた。

そして、なんと戦闘中の私に話しかけてきた。

 

『なぁ。助けはいらないか?』

『えっ! ふ、不要です』

私は“戦闘中の人に話しかけるなんて、なんて非常識な人たちなの?!”と思いながら手短に答えると、男は『ふーん』と曖昧に返事をした。

 

それ以降、彼らは黙って私の戦いを見ていたけど、5分ほど経つと急に動き出した。

彼らは私の後方で左右に分かれると、いよいよ魔物が倒れると思ったようで、左右から回り込んで剣を構えた。

しかし次の瞬間、彼らが斬りかかる前に、私の攻撃で魔物は煙に変わった。

 

『どういうつもり?』

私はドロップアイテムを拾いながら彼らを睨むと、気まずそうに目をそらされた。

 

魔物は倒したパーティーに経験値を与え、倒した個人の魔結晶に魔力を蓄えるので、どうやら彼らはトドメだけ刺して魔物の横取りをしようとしていたみたいだ。

だけど、失敗したためかなり動揺しているみたい。

 

彼らは3人とも狼人族の男性で、私と同じ13歳か、ひとつ上の14歳くらいだろう。

防具は皮の鎧と皮の靴。武器はダガーで盾は持ってない。

どうやら私と同じで駆け出しの探索者みたいだ。

 

だからと言って魔物の横取りが許されるわけではない。

私は彼らにひとこと『最低』とつぶやいて、次の魔物に向けて歩き出した。

 

3分ほど歩いてから匂いを嗅ぐと、先ほどの探索者たちは1階層の入口に向かって進んでいることに気がついた。

このまま反省して真面目な探索者になれば良いのだけど......

 

私は探索を再開し、魔物を探しながら今さっきのことを考えた。

さっきの探索者たちは魔物を横取りするつもりだったので、魔物と戦うこと自体は問題なかったし、私自身も大丈夫だった。

 

でも、もしも私自身を目的にしていたら、逃げられたとしても魔物は横取りされていただろう。

もし逃げられなかったら......

私はそう考えると、背筋に悪寒が走った。

 

そのとき不意に、むかし父が『迷宮では魔物だけではなく、他のパーティーにも気をつけないといけない』と言っていたことを思い出した。

その時は何で他のパーティーに気をつける必要があるのかわからなかったけど、今ならわかる気がする。

 

私が考えていること以外にも、危ないことはあるだろう。

だから迷宮内では他の探索者とは会わないようにする。

私はそう考えながら魔物を探し、夕方近くまで探索を続けた。

 

夕方が近づくと、ドロップアイテムの羊毛がリュックに入らなくなったので、私は探索を終えて1階層入口の小部屋に向かった。

途中、他の探索者パーティーがいたけど、魔物と戦っていた。

そのとき、そのパーティーの1人に凝視されたけど、気づかないふりをしてサッと横をすり抜けた。

 

迷宮を出て冒険者ギルドに行くと、併設のバーには人が大勢いた。

昨日よりも少し遅い時間のため、多くのパーティーが今日の探索を終えて帰ってきているようだった。

サッと周りを見回したけど、ボンボン僧侶はいなかったのでホッとした。

 

ギルドカウンターの列に並ぶと10分で私の番になった。

私はリュックからドロップアイテムを全て出すと、カウンターの女性はアイテムをトレーに乗せて『しばらくお待ち下さい』と言ってカウンターの奥に持っていった。

そして3分後。今度はトレーにお金を乗せて戻ってきた。

 

『買取り金です』

『ありがとうございます』

私はお礼を言ってトレーを確認すると、銀貨2枚と銅貨が21枚。合計で221ナールだった。

 

昨日20ナールしか渡されなかったときはこれからどうしようかと思ったけど、これならパーティーを辞めてソロ探索者になっても金銭的には何とかやっていけそうだ。

 

ただ、今日は危うく魔物を横取りされそうになったし、帰るときに戦闘中の探索者から睨まれたことも怖かった。

それに、迷宮内には盗賊がいる可能性もある。

だから、ソロで探索を続けるのなら、もっと強くならないと厳しいわね。

 

あと、今日は運よくたくさん魔物と接敵出来たけど、明日からも同じだけ接敵出来るとは限らない。

それなら2階層にあがって一度に2体の魔物を相手にすればいいか......

 

いやダメね。2体と戦うことは出来ると思うけど、倒すまでの時間はかなりかかる。

そうなると、当然戦闘中に他の探索者と出会う可能性も高くなる。

 

うーん...... 

結局いまの私では、ソロで探索するとすると、1階層を回るのも厳しいのかも......

 

あれこれ考えてみたけれど、私自身が強くなるまではパーティーに入っていないと厳しいわね。

私はそう考えて、明日も冒険者ギルドに行くことにした。

 

◆ ◆ ◆

 

翌日。

昨日と同じ時間に冒険者ギルドに行って、昨日と同じくバーから少し離れた壁際に立っていると、少ししてから僧侶の男がやってきた。

彼はギルドカウンターの前を抜けて奥のバーまで行くと、昨日と同じ席に座って休憩しはじめた。

 

彼はこちらに気づいてニヤニヤしながら手招きしたけど、私が無視していると『チッ』と舌打ちしてテーブルに突っ伏した。

 

そのまま壁に背を持たれて待ち、10分くらいすると赤鼻の兄弟がやってきた。

彼らは冒険者ギルドに入ってくると、バーカウンターに寄ってジョッキを受け取り、それから席に着いた。

そして乾杯して酒盛りをはじめた。

 

それから更に10分くらいすると、やっとリーダーと探索者の女性がやってきた。

 

彼らが冒険者ギルドに入ってきたことに気づいたので集合場所に行くと、リーダーは『待たせたな』とみんなに声をかけた。

そして、みんなが立ち上がると、『じゃあ行くぞ』と言って迷宮に向かって歩き始めた。

 

2日ぶりの探索なので、今日こそは魔物に攻撃してパーティーに貢献する。

迷宮に入ったときはそう意気込んでいたけれど、今日も前に出ようとしたらリーダーから『邪魔だ!前に来るな!』などと怒鳴られてしまい、戦闘には参加させてもらえなかった。

 

それでも魔物と対峙したときは、前衛4人の後ろでいつでも戦えるように身構えていたのだけど、昼過ぎにとんでもないことが起こった。

魔物との戦闘中に、私の更に後ろにいて戦闘には参加しないボンボン僧侶が、私に抱きつこうとしてきたのだ。

 

昨日は付け回されたし今日もずっといやらしい視線を向けて来ていたので警戒していたけど、まさか魔物との戦闘中に何かするとは考えていなかった。

なので、そのときも剣を構えて前方の魔物に集中していた。

 

すると、不意に後ろから人の気配が迫ってきた気がしたので、反射的に横に飛び退いた。

そして着地しながらからだを捻って元居た場所を確認すると、そこには両腕を前に突き出して交差させ、私に抱きつこうとして空振りした格好のボンボン僧侶がいた。

本当に間一髪だったようで、僧侶は驚愕の表情を浮かべていた。

 

『なにするの!』

『い、いや。俺は何も...』

『は?いま抱きつこうとしたじゃない!』

『ご、誤解だ』

『は?誤解?そんな格好で?』

『こ、これは... そ、そう。

俺は転びそうになっただけだ』

 

『信じられない』

『ほんとに転びそうになっただけだ』

『じゃあ何で近づいたの』

『ち、近づいてない』

『嘘つかないで!』

『う、嘘はついてない』

 

私は問い詰めたけど彼は明らかに動揺しながらも否定するだけなので、段々あたまに血がのぼってしまい、『気持ち悪いから近づかないで!』って怒鳴ってしまった。

すると彼は私の迫力に押されたのか、『わ、わかったよ』と言って後ろにさがった。

 

戦闘終了後、私がドロップアイテムを回収しているときにボンボン僧侶がリーダーに近づき、私に聞こえないよう何か訴えた。

するとリーダーは私を一瞥したけど、すぐに僧侶に視線を戻し、『女と仲良くなりたいなら、自分で何とかするんだな』と言って、彼との会話を打ち切った。

 

リーダーは魔物と戦っていたので後ろで私とボンボン僧侶の間に何があったのか見てはいないはずだけど、どうやら僧侶の主張は認めなかったみたいだ。

 

するとボンボン僧侶は『チッ!』と舌打ちしてリーダーから少し離れ、小声で『調子に乗りやがって。俺の言うことが聞けないなら、父さんに言ってクビにしてやるぞ』とボソボソとつぶやいていた。

 

後でわかったことだけど、このパーティーは元々ボンボン僧侶抜きの4人だったらしく、私が加入する半年前に僧侶の実家と[毎月2万ナールで、少なくても3年間は息子を迷宮探索に同行させて経験を積ませる]という契約をしていたらしい。

 

そのためボンボン僧侶は“自分は雇い主だから、自分の言うことを聞くのは当たり前”と思っていたようで、このときはリーダーに『俺に対するロクサーヌの態度が良くない。改めるよう言い聞かせておいてくれ』と訴えたけど、取り合ってもらえなかったので腹を立てたようだ。

 

因みにリーダーたちの契約に対する解釈は以下の2点。

①ボンボン僧侶はパーティーに入れて迷宮探索には同行させるけど、それ以外の面倒はみない。

②戦闘終了後に回復魔法を唱えてもらう代わりに、ドロップアイテムの売却額は彼にも分配する。

 

つまりリーダーたちは、ボンボン僧侶は契約だからパーティーに加えているだけで、契約以外の協力をするつもりはないらしい。

 

僧侶は自分の主張が通らなかったことが応えたためか、それ以降、戦闘中に私に近づいてくることはなかった。

 

それから4時間後、リーダーが「今日はこれで切り上げる」と言い出した。

今日はまだ24匹しか魔物を倒していないし、夕方まで、まだ1時間ほどある。

でも、ここで“何で切り上げるのですか?”と聞いても怒鳴られるだけなので、私は黙ってリーダーに向かってうなずいた。

 

冒険者ギルドに帰ると、先日と同様で女性探索者が受付カウンターにドロップアイテムを売却しに行った。

そして、他のメンバーはバーのいつもの席に着き、リーダーと赤鼻兄弟は酒盛りをはじめた。

 

5分後、女性探索者がやってきて、今日の売却額は299ナールだったと告げ、全てをリーダーに渡した。

するとリーダーは私に19ナールを渡し、他のメンバーには50ナールずつ配った。

余った30ナールはパーティー資金?としてリーダーが預かっておくそうだ。

 

私は報酬を受け取ると、即行で迷宮に戻り1時間だけ1階層を探索した。

そして、チープシープを3匹倒し、冒険者ギルドに戻って羊毛を売却。

39ナールを受け取った。

 

翌朝。

なんとなく嫌な予感がしながらも、いつもの時間に冒険者ギルドに行っていつもの場所でパーティーメンバーを待っていた。

すると、10分くらいでボンボン僧侶はやってきたけど、他の探索者たちがあらかた居なくなるまで待っても、彼以外のメンバーは来なかった。

 

私は“やっぱり来ないか......”と少しだけ落胆しつつもボンボン僧侶を監視し続け、彼が席を立った瞬間にギルドの入口に向かって歩き始めた。

そして、そのまま冒険者ギルドを出てアイエナの迷宮に向かった。

 

私は寄り道せずに迷宮まで歩き、迷宮入口の前で一度振り返って、ボンボン僧侶に尾行されていないことを確認した。

 

どうやらアイツはついてきていないわね。

ふふっ。我ながら絶妙なタイミングってとこかしら?

ボンボン僧侶は私を見失って、さぞ焦ったことだろう。

 

私は彼がついてきていないことが確認出来たので、安心してソロ探索を開始した。

そして、他の探索者を避けながら夕方まで探索し、チープシープを16匹狩った。

その後、冒険者ギルドでドロップアイテムを売却し、208ナール受け取った。

 

翌日はメンバーが揃ったのでパーティーでの迷宮探索に参加し、その翌日はメンバーが揃わなかったのでソロで迷宮探索を行った。

 

 

こんな感じで、このパーティーでの迷宮探索は1日おきだった。

それと、迷宮探索はほぼ2階層で行なわれており、他の階層に行くことはほとんど無かった。

 

因みにアイエナの迷宮は3階層の魔物がニートアントで、1度だけ探索を行ったことはあったけど、戦闘中にリーダーが毒を受けてしまった。

そのときは女性探索者が素早く毒消し丸を飲ませたので大事には至らなかったけど、倒すまでかなり時間がかかってしまった。

以降、アイエナの迷宮3階層は、[割に合わない階層]として、このパーティーでは2度と挑戦することは無かった。

 

◆ ◆ ◆

 

このパーティーはアイエナの迷宮探索を生業にしているけど、アイエナ以外にも2箇所の迷宮探索に挑戦したことがある。

しかし、残念ながら、どちらも大した成果は挙げられていなかった。

 

1箇所はサボージャの南迷宮で、私がパーティーに参加して1年くらい経った頃に挑戦した。

場所はサボージャとアイエナを結ぶ街道沿いで、サボージャの町から歩いて半日の所だ。

 

ある朝パーティーメンバーが集合すると、リーダーが『稼げる迷宮があるから今日はそっちに行く』と言い出した。

なんでもリーダーが仕入れた情報では、サボージャの南迷宮は1階層がスローラビット。2階層がナイーブオリーブ。3階層がコラーゲンコーラルで、低階層にドロップアイテム買取り金額の高めな魔物が揃っているとのこと。

 

『おい!ちょっと待て。サボージャに行くのに金かかるだろ』

『それでも儲かんのか?』

『大丈夫だ。冒険者に運んでもらうと1人1000 ナール取られるが、サボージャの南迷宮は街道沿いにあるからわざわざサボージャに行かなくてもここから乗り合い馬車で行ける。

乗り合い馬車なら1人50ナールで移動出来るから、必ず儲かるはずだ』

 

赤鼻兄弟が懸念点を質問したけど、リーダーが自信満々で“儲かる”と言い切ったので、2人とも遠征することを了承した。

儲かると聞いた瞬間から、『久しぶりに女を抱ける』などと言い出してニヤニヤしている。

 

するとそれを見てボンボン僧侶も頷いたので、急遽遠征することが決定した。

因みにこの頃になると、迷宮探索に関して私はリーダーの指示に黙って従うことが当たり前となっていたので、意見を求められることはなかった。

 

冒険者ギルドを出て5分ほど歩き、乗り合い馬車の停留所に着くと、アイエナ方面に向かう馬車が1台だけ停まっていた。

リーダーが馬車の御者台に座っているお爺さんに乗車可能か確認すると、彼は『6人か。それならギリギリ乗れる。あと1分で出発じゃが、乗るか?』とこたえた。

 

『乗せてくれ』

『1人50ナールだ』

『わかった。いま払う』

リーダーは御者に6人分の乗車料金を支払うと、『ナイスタイミングだったろ。俺の判断に間違いがない証拠だ』と言って私たちに向かってドヤ顔した。

 

乗り合い馬車は思っていたより小さく、荷台は真ん中が通路で座席が左右にひとつずつ。4列なので8人しか座れない。

座席どうしは離れてるけど、ボンボン僧侶が近くにいるのは苦痛だ。

せめて離れた所に座りたい。

 

そう思っていると、御者が私たちに向かって『先客が3人いるから1人は御者台に乗ってくれ』と言ったので、すかさず『私が御者台で!』と言いながら手を挙げた。

誰か舌打ちしたような気がしたけど、私は無視してそそくさと御者の隣に座った。

 

発車後、しばらく御者と雑談していると、こっそり私たちが来てすぐに出発した理由を教えてくれた。

実は乗客が5人以上じゃないと採算が取れないらしく、出発時間は過ぎていたけど、出発を遅らせていたとのこと。

しかし、そろそろ限界なので出発しなければいけないと思っていたときに私たちが来たので、内心ではすごく嬉しかったとのこと。

 

リーダーはパーティーが停留所に着いたタイミングと乗り合い馬車が出発するタイミングがピッタリ合ったのは、如何にも自分の手柄のように言っていたけど、どうやら違ったようだった。

 

『ふふっ』

ドヤ顔していたリーダーが滑稽で思わず笑ってしまったけど、真実を話したら怒鳴られることは必須なので、私は1人でほくそ笑むだけにした。

 

そうして御者と雑談しながら乗車していると、2時間ほどでサボージャの南迷宮入口が見える乗り合い馬車の停留所に到着した。

 

リーダーは馬車を降りると日の高さを見て急に焦りだし、慌てて御者に『お、オヤジ。アイエナから何分かかった?』と確認した。

そして、2時間かかったことを告げられると、彼は顔を青くして女性探索者を呼び、すぐにパーティーを解散させて、彼女を迷宮入口に走らせた。

 

どうやらリーダーはフィールドウォークと比べて馬車は時間がかかることを失念していたようだ。

そして、馬車に乗っているあいだは眠っていたのでそのことに気づかず、たった今自分がやらかしたことに気づいた模様。

 

リーダーは自分のやらかしには言及せずに、『俺たちも行くぞ!』と言って、迷宮入口に歩きはじめた。

因みにこの時点では、赤鼻兄弟はリーダーのやらかしには気づいてないようで、機嫌よく雑談しながら歩いていた。

 

女性探索者は迷宮入口で案内の探索者に声をかけて迷宮に入ると、1分で戻ってきた。

そしてリーダーに『2階層に行けるわ』と言って、パーティー編成の呪文を唱えた。

パーティー編成が完了すると、『時間がもったいねえ。行くぞ!』とリーダーが号令し、彼が先頭になって迷宮に入った。

 

迷宮探索を開始すると、運良くすぐに魔物と接敵した。

ナイーブオリーブ1匹とスローラビット1匹の群れだ。

 

魔物の群れが目視出来る位置まで近づくと、前衛4人が一気に飛び出した。

そして、スローラビットにリーダーと女性探索者、ナイーブオリーブに赤鼻兄弟が飛びかかり、15分で2匹とも煙に変わった。

 

魔物の群れを倒すと、リーダーは『次、行くぞ!』と怒鳴って通路を進みはじめた。

馬車移動のロスタイムを取り返すべく、彼は必死になっているようだ。

私は慌ててドロップアイテムを回収し、リーダーたちを追いかけた。

 

何度目かの魔物の群れを倒した後、ドロップアイテムを拾って追いかけてきた私を見て、ボンボン僧侶が『疲れたなら手を引いてやろうか?』と言って手を差し出してきたけど、『結構です』と言って無視してやった。

すると、彼は『チッ!』と舌打ちしたけど、今日は回復魔法を使うことが多かったせいか、だんだん彼も余裕がなくなり、以降は 探索終了まで何も言ってこなかった。

 

その日、私たちは6時間ほど迷宮を探索し、スローラビット13匹とナイーブオリーブ21匹を狩って、夕方17時発の最終馬車に飛び乗った。

因みに私は当たり前のように御者台に座っている。

 

帰宅中。馬車の中はかなり重たい雰囲気だった。

朝リーダーが話していた通り、ドロップアイテムは兎の皮とオリーブオイルなので1つあたりはかなりの売却額が期待出来る。

しかし、移動時間を失念していたことが仇となり、かなり真面目に探索したけど、魔物を狩った数はいつもアイエナの迷宮で狩っている数と大差ない。

馬車の往復料金を考えると、きっといつもよりも収入が少ないだろう。

 

あえて誰も言及しないけど、今日の遠征が大失敗だったことは、みんな理解しているみたいだ。

 

2時間かけてアイエナに戻ると、日はとっぷりと沈んであたりはすっかり暗くなっていた。

乗り合い馬車の停留所から冒険者ギルドに直行し、すぐに精算を行ったけど、結局その日の報酬は銅貨15枚だけだった。

 

もう1年近くパーティーにいるのにいまだに見習い扱いされていて、戦闘中は何もさせてもらえないし、意見も聞いてもらえない。

自分が成長するためだと割り切って、このパーティーから抜けずにいるけれど、はっきり言って自分が成長出来てる気がしない。

 

しかも他のメンバーと比べて報酬が低く、このパーティーの報酬だけでは私は税金も払えない。

今日は遠征失敗のせいで他のメンバーも報酬が少ないため文句は言わないけど、このまま報酬の不公平を見直ししてくれないなら居続けることは難しいと思う。

 

私ははじめて遠征したこの日に、パーティーを抜ける決意を固めたのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

それから更に半年ほど経った。

 

私は何度かリーダーに『脱退させてください』って頼んだけど、認めてもらえずにまだパーティーに残っている。

というのも、パーティー加入時の条件に、“パーティーからの脱退はリーダーと本人の双方が承諾した場合のみ認められること”というものがあったからだ。

 

何度も承諾を求めたけど、その度にリーダーは色々と理由をつけて私の脱退を拒んでいる状況だ。

 

最初は『冒険者ギルドの手続きに手間がかかる』とか、『他のパーティーと合同で迷宮の上の方の階層を探索する計画があるから、いまパーティーメンバーが減るのは困る』とか、ありもしない嘘をついたりしていたけど、誤魔化しきれなくなると、『抜けられたら獣戦士の恩恵がなくなってパーティーが弱くなる』と言い出した。

そして、『代わりが見つかるまでは認めない』と言われてしまった。

 

ならばパーティーメンバーとして私に代わる獣戦士を募集するよう要請したけど、何度か頼んでいるうちに、『お前が代わりの獣戦士を見つけたら脱退を認めてやる』と言われてしまい、いつの間にか“私が代わりのメンバーを見つけるまで抜けられない”という雰囲気になってしまった。

 

勝手に抜けてしまおうと思ったこともあったけど、ちゃんと脱退を認めてもらわないと他のパーティーに加入することが出来ないため、結局ズルズルと在籍することになってしまった。

 

そうこうしているうちに、リーダーが2回目の遠征計画を決めてきた。

迷宮に入ろうとする探索者の多くが一度は訪れる、クーラタルの迷宮である。

 

その日、朝イチでギルドにやって来たリーダーは満面の笑みだった。

隣の探索者もなんだか嬉しそう。

そして、今日は何故かボンボンもリーダーと一緒にやって来ていた。

 

『今日は探索は中止だ。明日から3日間クーラタルの迷宮に遠征するから、準備しておけ』

『はあ? クーラタル? バカか?

移動するだけでいくらかかると思ってんだ?』

『そうだ。銀貨が...... た、たくさん必要だぞ』

リーダーの言葉を聞いて赤鼻兄弟がそれぞれ文句を言ったけど、彼は薄ら笑いを浮かべた。

すると、リーダーの後ろからボンボンが進み出た。

 

『だ、大丈夫だ。カネは心配するな。探索者なら、一度はクーラタルに行ってみないとダメだろう。

遠征資金は父さんに出してもらうから。ヘヘッ』

『そういうことだ』

ボンボンが自慢気に宣言すると、何故かその横でリーダーも胸を張っていた。

 

その日は程なく解散となり、私は市に寄って多少の消耗品を買うと、家に帰って遠征の準備をした。

 

 

翌日。

いつもより30分ほど早く冒険者ギルドに行くと、すぐにボンボンと赤鼻兄弟がやってきた。

そしてボンボンの後ろには、はじめて見る人間族の男が2人いた。

 

人間の男は2人とも50代後半か、1人は頭が真っ白で、もう1人は頭が禿げ上がっていた。

2人とも皮の鎧、皮の靴、皮のグローブ、両手剣を装備し、大きなリュックを背負っている。

見た目は探索者のようだけど、首輪を着けているのでどうやらボンボンの家の奴隷のようだ。

 

それから30分ほど冒険者ギルド内を行き交う探索者たちを見ていると、リーダーと女性探索者がやってきた。

 

『待たせた。揃ってるなら、早速行くぞ』

リーダーはそう言うと、ぐるっと見廻して全員いることを確認し、そしてボンボンに声をかけた。

 

『後ろの2人が運び屋か?』

『そ、そうだ。3日分の食料も持たせてるから、迷宮も後ろからついてくるよう言いつけてある』

『そうか。じゃあクーラタルまで運んでくれ』

『わかった』

 

ボンボンはリーダーと話し終わると、運び屋のおじさんたちに『じゃあ、やってくれ』と言ってうなずいた。

すると、彼らはパーティー編成の呪文を唱え、それぞれ3人ずつ私たちをパーティーに加えた。

最初おじさんたちは探索者かと思っていたけど、私たちを運ぶと言っているので、どうやら冒険者だったようだ。

 

因みに私と赤鼻兄弟は頭が禿げているおじさんのパーティーで、リーダーと女性探索者、そしてボンボンが白髪あたまのおじさんのパーティーだった。

ボンボンは白髪のおじさんとリーダーに私と探索者を入れ替えるよう訴えたようだけど、言い方が悪かったのか、いきなり胸ぐらを掴まれて怒鳴られた。

 

ボンボンが顔を真っ青にして、情けなくも『ヒイー』と悲鳴をあげると、リーダーはその顔がよっぽど気持ち悪かったようで、『ウゲッ!』と言って突き放した。

ボンボンは俯いて黙っていたけれど、リーダーが離れると彼の背中を睨みつけて、小声で『クソッ!いつか殺してやる』とつぶやいた。

 

私はボンボンとパーティーが分かれたことにホッとしていると、彼はこちらに歩いてきて、赤鼻弟に『パーティーを代わってくれ』と頼んだ。

しかし、『ああっ?バカか?!なんで戦えねえテメーが俺と代われると思ってんだ?』と小馬鹿にされると、ボンボンは顔を真っ赤にして拳を震わせ、ブツブツと何かつぶやきながらリーダーの方に戻っていった。

 

おじさんたちはパーティー編成し終わると、『では、ついてきて下さい』と私たちに告げて壁に向かってフィールドウォークの呪文を唱えた。

そして、壁に黒いゲートが浮かびあがると、躊躇なく入っていったので、私もあとをついてゲートに足を踏み入れた。

 

いざ、クーラタルの迷宮へ!

 

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