ザコ魔物を引いちまったら、色仕掛けで契約させられた件   作:胡椒こしょこしょ

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召喚したらスライムだった件

家の中、現在の時刻は深夜の3時。

暗い工房の中、地面に怪しく輝く魔法陣。

敷き詰められたトルコ石に、七面鳥の血だまりと羽で飾られた祭壇。

 

儀式の準備は十分だ。

後は強力な精霊を呼び込むだけ。

 

「マジで頼むぞ本当....。」

 

懇願するように呟くと、地面に手を置く。

後は魔力を流し込めば、起動して晴れて自分の使い魔となる精霊を呼び出せるというわけだ。

 

俺は、追い詰められていた。

原因は今日の昼に遡る....。

 

 

【回想】

 

 

それは、俺が魔術を志す者が在籍するアレイスター附属二律公魔法学園でいつものように憩いの日々を友人と送っていたのだった。

俺は召喚士としての適性があるとして召喚士コースに通っているのだが、ある日不意に友人の一人とこういう話になったのだ。

 

ただ魔術師としてのクラス対抗戦。

代々魔法学校という物は<チーム>なる者を組んで校内1位になったチームが学校の代表として選抜に出て他校の生徒とも戦うって言うことが行われているのだ。

そのチームを組むための指標としてクラス対抗戦という物が行われる。

 

まぁ、これによって今後の自分がどのくらいチームに入れれば価値があるかっていうのを同学年に示すことになるので俺はそこそこに気合が入っていた。

入っていたんだが....。

 

トーナメント表に俺の隣で燦然と輝く名前。

日本人名が多い中で、異彩を放っていた。

 

『アルミラ・アーベンルージュ』

 

そして、それを一緒に見ていた友人は俺を見た。

それはあたかもお肉にされる前の家畜を見るような目だった。

 

「確か...この子ってこの前イングランドから留学してきて魔導科に入った子だよな。なんか地元ではインフェルノって呼ばれてて試験も主席だったとか。...悠真、お前と友達で良かったよ....。骨は拾ってやるからな。」

 

そう言われて、調べると彼女の試合の映像が出てきた。

なんかでっかい炎の剣をぶんぶん振り回して、大体7秒で試合終わってた。

それを見て、俺は心から震えたのだ....。

トーナメントの相手を変えることは出来ない。

つまりは、俺がこの規格外の赤髪少女と戦うのはまるで人が必ず死ぬかのように避けようもない運命であるともいえるのだった。

 

 

【回想終了】

 

 

というわけで、少なくともあの炎の剣戟を代わりに食らってくれる使い魔くらいは用意しとかないと話にならないのだ。

正直、初めての実践であんなレベルの差のある奴ぶつけてくるなんて頭がおかしいとしか言いようがない。

 

しかし、これは今後のチームを作る上での指標。

つまりは同学年に自分がどのくらいやれるかってことを示すことになるのだ。

ということはここでしくじると、チーム組む相手が居ないどころか舐められることになるってわけだ。

つまり、敗けたとしても食らいつく程度はしないとマジで噛ませになるってわけだ。

 

映像を見た限り、炎の剣での一閃くらいしか情報はない。

だからこそ、あれさえ俺自身が受けずに近づくことが出来たらあの子もあの刃渡りに剣を伸ばす暇もなくなるだろう。

そうなれば、もしかするかもしれない。

つーか、もしかしてくれ!

少なくとも10秒は生き残って他の奴らよりも違うって所は見せなくちゃ!!

ということで強い精霊呼び出して、それにワンチャン賭けるって方針を取らざるを得ないのだった。

 

それに、転校初日から一目置かれてるとかなんか気に食わないしよぉ!

 

「頼むぜ...少なくとも無様に負けない程度には使い物になる奴でぇ!!召喚陣起動!触媒共振確認、ヨシ!!なんか強いの来ぉぉぉぉい!!!」

 

そう言いながら、地面に魔力を流し込む。

その度に魔法陣が段々と光を放っていく。

トルコ石がプルプルと震える。

 

光は段々と強くなっていく。

これは、実家で見た物とは違った強い光の柱。

すっげぇ風圧が無風のはずの工房を吹き荒ぶ。

吹き飛ばされないように踏ん張りながらも、確かな手ごたえを覚える。

 

これは....イケる!

かなり強力な精霊を呼び出せる気がする!!

ガッツポーズしそうなほどにワクワクが心を揺らした。

 

そして、光の柱が収まる。

魔法陣の真ん中に何かの影が見える。

 

「マスター...マスター....?」

 

女の子の声が聞こえてくる。

おっ、人の言葉を解するタイプか!?

それならかなり格の高い精霊かもしれない!!

そう期待を抱く。

 

しかし、その全容を把握すると俺の期待は儚くも打ち砕かれた。

そこには水色のジェル状の身体をした丸。

まるでバランスボールでも置いたっけってなるほどの者には目や鼻などの器官はなく、ただただゲル状のまん丸身体が続いていた。

その姿は、まさしく....。

 

「スラ...イム...。」

 

スライム。

そうスライム。

ゴブリンやコボルト、自然霊と比類するほどに霊格の低い所謂ザコ魔物。

それを、精霊として引いちまうなんて....。

 

「マジかよ.....終わった....。」

 

よりにもよって、こんな雑魚魔物を....。

地面突っ伏した腕は、召喚陣を起動するものから受け入れがたい現実から目を逸らすための物へと意味合いを変える。

こんな使い魔でどうやって戦えば良いんだ....。

 

「マスター、マスター...スキ!ケーヤクしよ...!ケーヤク!ケーヤク!!」

 

すると、耳に頻りに契約を促すスライムの声がする。

こっちの気も知らずに、お気楽に契約ねだりやがって...ザコ精霊の分際でぇ....!!

どん底まで落ち込んだ気分は、無邪気にも契約を強請るまん丸ゼリー野郎のことを考えると怒りへと傾いていく。

 

「ケーヤク!スキ!ケーヤク....」

 

「契約なんか、するわけないだろ!!俺は....お前みたいなザコ精霊じゃなくて、もっと強い精霊じゃないと困るんだよ!!!人型ですらないテメェには分からないだろうけどなっ!!」

 

耐えられなくなって顔を上げて、叫ぶ。

するとまん丸ゼリーがびくりと震えた。

 

「エ....、ケーヤク..しないの?なんで....?ケーヤクしよ!マスターのこと、スキ!魔力、スキ!!」

 

「俺は嫌いだよ畜生!!....はぁ、もう良いよ。一回失敗しても良いように捧げものとかトルコ石はちゃんと予備がある。もう一度挑戦してみればいい。....帰還術式書いてやるから、そこから動くんじゃねぇぞ。」

 

材料を親指で指した後に、肩を落としてスライムへと近づいていく。

自信なくなるな...かなりの完成度と手ごたえを感じていたんだけど。

 

「キカン...オワカレ....?」

 

「おう。こっちは儀式の捧げものの内の一つにしてやっても良いんだ。ちゃんと返してやるんだからありがたく思えよ。」

 

「イヤ...イヤッ!!」

 

俺の言葉を聞いた瞬間、スライムがぶわっと逆立つ。

そして体の一部を凄まじい速さで伸ばした。

 

「おわっ!!?テメェ、なにやって.....。」

 

慌てて避けると、殴りかかってきたのかと思って怒鳴りつける。

しかし、追撃が来ないのでそういうわけでもないっぽい。

なんだ....?

触手の方へと目を向ける。

すると、何が起きているのか一瞬で理解した。

 

俺が指さした儀式の道具である七面鳥の亡骸とトルコ石。

それがアイツのゲル状の体に取り込まれていく。

透明な身体の中で溶けていっているのか段々と消えていく。

 

背筋が寒くなった。

そうか...ザコとはいえ魔物は魔物。

危険な生き物であることに違いはなかった。

...いや、それよりもまず問題なのは!!

 

「てめぇ!!なにやってるの!?何てことしてくれてんのマジで!!?おま、ワンチャンスなくなったじゃねぇか!!!」

 

スライムの方へと視線を戻す。

するとスライムが不気味にボコボコと変形していく。

そして、形を変えていく。

 

それはあたかも幼い女児のような身体。

平らではあるものの、わずかな膨らみを見せる胸。

ゼリー状のまん丸はジェリー上の人の形へと変わる。

顔は端正で整った綺麗系の顔立ちに幼さをうかがわせる。

全裸のように見えるゼラチン質の身体が艶めかしく輝いていた。

 

「ほら...これで、人の形...お別れ、じゃない!」

 

まるで子供が100点の答案を親に見せるかのように手を広げて笑顔を見せて言ってくる。

さっきまでたどたどしかった言葉も少し流暢になっていて、知能のような者を感じさせた。

人の形...?

あぁ、人型でもないって俺が言ったことから形を変えたのか。

それにしたって、コイツなんでそう契約したがるのかねぇ?

まっ、なんにせよ。

 

「そうだな。でも関係ねぇよ。」

 

「え....?」

 

彼女の表情から笑顔が消える。

いや、だってそうだろ。

 

「そりゃ、弱いだけじゃなくって俺がせっかく用意していた儀式のようの触媒食って人型になったから契約してくださいっていうのはおかしな話だろ。そもそもお前に何が出来る?分かったら大人しく帰ってくれ。」

 

そう言うと、奴は笑顔を作る。

しかし、それもどこか無理してるようだった。

 

「わ、わからない...ますたーが何を言っているのか、わからないよ...。」

 

「そもそも契約術式交わしてないからマスターじゃないぞ。」

 

事実を口にすると、アイツは目を伏せる。

お、聞き入れてくれた?

 

「分からないよ,,,もっと食べて...もっとせいちょーしたら、わかるようになるのかな....。」

 

「はいはい、10年経ったらまた来てくださいっと。...はぁ、トルコ石はまだ良いけど、七面鳥通販しなきゃいけないのか...だるいな。....豚肉で代用とかできないかなぁ....。」

 

無理だよなぁ....晩飯じゃあるまいし。

そう考えながらも、空に帰還術式を描こうとする。

その瞬間、身体が地面に叩きつけられていた。

 

....は?

 

背中からぺたぺたとした物が這いあがってくる感覚が襲ってくる。

なんだよこれ....。

背中に指をやると、水色のネチョネチョが付く。

微かに動いている。

...これ、スライム!?

え、なんで!?

 

前には確かに奴が居て....。

いや、待てよ。

確か後ろの方にあった捧げものに触手を伸ばしていた。

まさか....。

 

「お前、捧げものを食う時に身体の一部を切り離して俺の後ろに待機させてたのか!?俺がお前を返そうとするか持って思って!?いや、なんで!?良いじゃん、なんで帰りたがらないんだよ!?家庭環境が複雑なのか!?」

 

声を張り上げるも、奴は答えることもなくこちらに近づく。

そして、俺の顔を手で包むこむ。

 

「だって...呼ばれた時から、スキだから。この魔力が....この声が良いって。」

 

笑顔でそう言うと、びしゃりと音を立てて液状化する。

そして俺の身体を包み込むように上ってきた。

 

「くそっ!意味わかんねぇ!!はなれ....手に付いた!!おわぁ、後ろ手に縛るとかスライムの癖に難しいことしてくんな!!ちょっ...ホント、言い方悪かったのは謝るから!!帰っていただいてもよろしいですか!!他の奴呼びたいんでぇ!!」

 

「....私じゃないとダメ。そう思ってくれるように今から頑張る、ますたー。」

 

手どころか、足までジェルで縛られる。

これ、すげぇ硬いんだが!!?

 

「こうなったら...<リインフォー...むぐっ!?」

 

「怖いの...しちゃダメ。」

 

詠唱で強化魔法を掛けようとするも、口をジェルで塞がられる。

ぐちゃ...ぴちゃっと水音を立てて身体を上っていく。

皮膚にヒヤッとした感覚を感じたかと思えば、耳元まで登っている。

 

「な...なんだよ、クソッ!まさか...さっきの七面鳥みたいに食べられるわけじゃないよな!?少なくともお前はマスターって思ってるもんな!?マスターじゃないけど!!」

 

「そんなこと..しないよ?私がやるのは.....。」

 

瞬間、ずぷりと耳にスライムが入りこむ。

そして、口元が解放された。

 

「おうっ!?...な、何のつもりだコレ!!おあっ、すっげぇ近くでぐちょぐちょって言って変な...気持ちわりぃ!!」

 

プニッとした感覚がぴっとりと肌に張り付く。

そしてくにくにと動きまわる。

 

「んっ..❤やめっ、なんか気持ち悪いから....やっ...っっ❤」

 

耳の壁をぞりぞりなぞられると、身体に電流でも走ったのかと思う程びくりと跳ねた。

認めたくないが、なんかいけない気がする。

このままじゃ...マズイ....!

 

「私がやるのは...こんなことできるよってこと。お耳掃除も出来るし...。」

 

耳の奥まで行くと、ちゅ~と触手が耳壁を吸う。

びくつきは連鎖的に肢体を走る。

 

「あふっ..んぎっ❤吸うの...やめろっ!」

 

ジェル状の身体の内部に耳垢が浮いてるのが見える。

それは溶けて消えていった。

 

「ふふ..魔力、おいしい...。」

 

「耳垢たべる...にゃぁあああああ❤❤❤」

 

耳の奥をまるで蛇がのたうち回るかのように触手がぐりぐりぐりゅぐりゅと這いまわる。

やばいやばいやばい....こんな、ザコ魔物に、耳で感じさせられるとか....!!

 

「こんな風に、気持ちよく...出来るよ。私と契約したらこれが毎日続くんだって....。」

 

「だま...れっ❤こんな、こんなことで、お前と契約なん...かぁああ❤」

 

これじゃ、まるで色仕掛けだ。

ザコ魔物らしく姑息な手を使いやがって....

こんな手に負けるわけにはいかない。

ぜってぇ強制送還して、強い精霊と契約してやる...っ!!

 

 

 

 

 

 

「マスター.....契約から初めての朝。これから、よろしくね!」

 

「....あい。」

 

外では既に朝日が出て、小鳥がちゅんちゅんと囀っている。

絡みつかれた何時間経っただろうか?

俺から魔力を食ったからか、心なしか奴は幼児から小学生高学年くらいの体つきになっていて知能も高くなっていた。

 

床に寝そべりながらも、手の甲を見る。

手の甲には燦然と輝く契約印。

やっちまった....。

数時間単位で耳を嬲られたことで、判断能力を失ったのだろうか言われるままに契約していた。

そして気づいたら、この有様である。

耳かき耳舐めには勝てなかったよ.....。

どうやら俺は耳が弱いようであった。

 

横の変態スライムはニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべている。

対して俺は眺めていた手の甲を目の上に置いた。

そして、そのまま吐き捨てたのだった。

 

「...マジで、どうしよう....。」

 

よりにもよって契約精霊がスライム。

それも契約した以上は、俺はこのスライムと一生付き合っていかなければならない。

もう....終わりじゃね?

 

「マスター?」

 

「....わぁったよ。これからよろしくな。あー、えっと....。」

 

こちらを見て、憎たらしくも小首を傾げる。

...もう終わったことはしょうがない。

それに、もしかしたらこのスライムだって活用のしようによっては使い物になるのかもしれない。

ほら俺が無理やり契約結ばされたし....。

 

それに、勝負が始まる前から負けなんて決めつけるなんてことはしたくないしな。

そのためには、誠に遺憾だがこの姑息なエロスライムのことを知らなければいけないなって思ったのだ。

まずは名前だろう。

 

「ん?」

 

「...スライムだし、ライムで良いだろ。これから役に立てよ、ライム。いやマジで、頼むから。なんか一個だけでも特技あってくれ。」

 

「....?....!?ライム!名前!私の名前!ありがとう!!マスター!!頑張る!!!」

 

スライムでライムとかいう安直な名前なのに喜んでんな。

正直、無理やり契約させられたのでまともに名前考えてやるのが癪だっただけだけど。

 

「学校...行くか。」

 

いつまで経っても、凹んでいても何も始まらない。

そうと決まれば、俺は身体を起こした。




一緒に歩いて友達に(スライムとかいうザコと契約したって)噂とかされると恥ずかしいし.....
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