恋愛感情が無くなった世界で恋愛の神様と暮らす話。 作:依知川咲也
奏さんが現れた。
ショートボブの黒髪で苗字とは反対に赤い眼を持っている彼女は、少し驚いた様子でこっちを見ている。
僕がアフロディーテと出会ってから、つまり恋愛感情が消えてからまだ一日しか経っていない。
「か…奏さん…どうしてここに…」
分かっていても気まずさは残る。
「それはこっちのセリフだよ…君って服の買い物とかあんまりするタイプじゃないでしょ…?」
「ま、まあ色々あってね…」
「(しかもなんでこんな日に限って…)」
「ん?な、なんて?」
奏さんが小さい声で何か言ったが聞き取ることは出来なかった。
「なんでもない。」
少し落ち着いてきて思ったけどなんかいつもよりよそよそしいような…?
「……………………」
「……………………」
どうして…?
「ゆ、優希くんは…誰か待ってるの?」
「え?あ、ま、まあ一応。」
「そうなんだー…」
「………………」
「………………」
また。
「も、もしかして彼女?」
「いや、違うよ。」
「へ、へえー…」
「………………」
「………………」
まただ。
さっきから奏さんと会話が全然続かない。
「…じゃ、じゃあね優希くん…また明日」
「う、うん…」
そして、奏さんが僕から離れようとした時、
「優希くんー!買い終わったよー!」
ちょうどアフィーが店から出てきた。
「あ…」
僕が何となく気まずくて何も言えずにいると
「どしたの?元気な…い?」
アフィーが奏さんに気づいたようだ。
しばらく奏さんと僕を交互に見たあと、
「ちょいちょいかもんかもん優希くん!!」
そう言って僕を近くに呼び寄せると、小さな声で話してきた。
「(まさかあの子って例の好きな人?)」
「(え、なんでわかったの)」
「(見たらわかるよこのぎこちない感じ!封印されても恋愛の神だよ!舐めないでよね!)」
いや舐めてはいないけど。
「(で、なんでその好きな人が今ここにいるの?)」
「(いや、待ってたら向こうが気づいたみたいで話しかけてきてくれた。)」
「(なんでこんな日に限っ…(「ねえ。その子誰?優希くん。」
アフィーと話していると、奏さんがそう言ってきた。
「優希くんたしか一人っ子だよね?」
「え、えーと…」
どうする。相手には弟妹がいないことはバレてる…となるとこう言うしかない!
「い、いとこだよ…叔母さんに頼まれて買い物に付き添ってるんだ。」
「いとこ…へぇーそうなんだー」
奏さんがアフィーに近づいていく。
「可愛いねぇー中学生くらい?名前はなんて言うの?」
「えー…」
どうしよう。アフロディーテはもちろんアフィーも明らか日本人じゃない…
ならいっその事ハーフってことにするか?
いやダメだ外国名で日本在住、日本語話者のハーフは流石に無理矢理すぎる。
うーん…
「
考えているとアフィーが奏さんに向かってそう言っていた。
「愛潤ちゃんかー良い名前だね!でも愛潤がどうなったらアフィーになるの?」
「それはあれだよ…あうる…あふる…あふぃーって感じだよ!」
いや流石にそれは無理があるだろ…
「どんな感じかわかんないしいきなり飛んだね!」
「正直私にも分からないんだー!でも何となく気に入ってるからいいかなーって!」
すごいなアフィー…
元から考えたりしてなかったはずなのに即興でちゃんとしっかりとした名前を言えるなんて…
「よく分からないけどまあいいか…じゃあアフィーちゃんって呼ぶね。あっ名前聞いたのにこっちが名乗ってなかった…私は結依、奏結依だよ。」
「いいよー!じゃあ私はゆいちゃんって呼ぶね!」
なんか2人ともコミュ力が高いのかあっさりとなかよくなっていっている。
「優希くんと何買いに来たの?」
「服とかだよ!で、ちょっとし、下着の追加が欲しかったから優希くんには待ってもらってたの…」
アフィーはちょっと恥ずかしそうにこっちを見てきた。
「あー確かにいとことはいえ下着を一緒に買うのはねー」
「うん…」
「アフィーちゃんはかわいいねー!」
「ありがと…//」
アフィーは少し照れているようだ。
「もう少しお話したいけどごめんね、私行くとこあるから。アフィーちゃんと、優希くんまたね。」
そういって奏さんは去っていった。
「またねー!ゆいちゃん!」
「ま、また。」
僕達は奏さんに手を振ると、
「さて、優希くん。口裏合わせといこうか!」
アフィーはノリノリで僕の近くに来た。
「わかった。」
「まずさっき言ってたみたいに私の外での名前は神野愛潤ね!」
「わかってる。その名前って前から考えてたの?」
「即興だよ?我ながら上手く考えたと思ったんだけど変だった?」
「いや、即興で良い名前思いつけるのすごいなって思っただけだよ。」
「やったー優希くんに褒められたー!」
アフィーは笑顔で喜び始めた。
「…話を戻すよ。君が神様だってことはもちろん秘密で、僕との関係性はいとこってことにする。それについて意見はある?」
「異議なし!」
「じゃあ、服類は買ったからあとは日用品だけだね。早く済ませて帰ろう。なんかどっと疲れた…」
「はーい!」
____
日用品などを買った後に2人で帰ろうとした時、
「お!あれってクレーンゲームってやつ!?」
突然アフィーが興奮した様子でクレーンゲームの筐体に近づいて行った。
「クレーンゲーム知ってるの?」
「知ってる知ってる!ずっとやってみたかったんだよねー」
「へぇーそうなのかー。少しプレイしていく?」
「え!いいの!?」
「少しならいいよ。」
「やったーー!!」
僕が百円玉を渡すと、近くにあった少し大きい熊のぬいぐるみが景品になっている所でプレイし始めた。
「まあ今までやったことないみたいだから1発で撮るのは難しいだろうけど頑張ってみて」
クレーンゲームには正直苦い思い出しかない。今までいくら入れたか考えたくもないがほとんど景品を取った覚えがない。
しかも今プレイし始めたのは大きいぬいぐるみだ。小さい物なら何とかなったかもしれないけど大きい物は到底無理だろう。
出口に近いぬいぐるみを掴みはしたけどアームが重さに耐えきれず穴の手前で落ちてしまった。
「あー!あとちょっとなのに!」
あるあるだ。あとちょっとだと思うけど全然取れない。
そして一気にお金が溶けて行く。
「あと200円あげるからこれで取れなかったら諦めなよ。」
「わかった!絶対取る!」
まあ難しいだろうけどこれも1つの経験になるだろう。
ぬいぐるみはアームに掴まれ、運ばれていく。
そしてそのまま綺麗に穴に落ちていった。
は?
「やったーー!取れたー!」
え?ま、マジ?は?
「取れたよ優希くーん!!」
アフィーは大喜びの様子で出てきたぬいぐるみを持って僕のところに来た。
「ま、まさか取れると思ってなかったんだけど…」
「そうだろうねー!でも取ったよ私は!!」
「おめでとう…」
「ありがとー!!」
「じゃ、じゃあそろそろ帰ろうか。」
「そうしよう!早く部屋に置きたいし!」
こうしてベッドや机などしか無かったアフィーの部屋に熊のぬいぐるみが増えた。