一寸の蟲にも五分の魂 作:転生待ちの名も無き魂
―貴方は死にました、転生先はあなた方が言うところのtype-moon世界、人理優位の世界線ですー
そう書かれた、目の前に浮かぶモニター画面に、俺はただ茫然としていた
……どうやら俺は死んだらしい。
その事実をゆっくりと飲み込みながら、周囲を見回すと……
何も無い
ボケでも何かの比喩でもなく、本当に何も無いのだ
物とか内装とかそういうレベルではなく、壁や天井はおろか地面すら存在しない
ただ、目の前にSFとかで見かける空間投影ディスプレイのような画面があるだけだ
―設定を入力してくださいー
画面にそう文字が浮かぶとキャラクターの設定画面のようなものが表示される
内容は多岐にわたるー身長、体重、特殊能力……、etc. とりあえず全部最低単位から設定してみるかと思い、最小単位である「1」を選択しようとした時、ふとある項目が目に入る
「性別」「種族」「容姿」の項目だ。
俺は悩んだ末、「性別:男」、「種族:人間(ヒト)」を選択してみた。
すると、そこには生前の俺の詳細な情報が表示された。
「えぇ……」
思わず声が出る そこに書かれていたのは、
名前、
年齢38歳、身長175㎝、体重100㎏、血液型A型、体脂肪率33%、等々の基本データに加え、趣味嗜好、特技まで記載されていたからだ。
プライバシーもクソもあったもんじゃない。
更に、自分のステータス欄を見てみると、生前の記憶や経験までもが反映されていた。
つまりこの設定画面とは、文字通り自身の全てを数値化して表示しているようだ。
……さすがにこれはやり過ぎではなかろうか? いやまぁ確かに、今までの人生を振り返ると、こんな感じの設定だったかもしれないけど……。
それにしてもここまで詳細に表示されるとは思っていなかった。というかこのまま決定ボタンを押したら、生前の俺がそのまま転生先に現れるということだろうか?
職場や人間関係もそのまま? それはそれで悪くは……いや、さすがに肥満傾向にある体脂肪率や、やや高めの尿酸値ぐらいは改善を……、などとのんきに思いかけて
ハッとする。
そうだ! そもそもなんで俺はここにいるんだっけ!? 俺は思い出した。
仕事帰りに駅のホームで電車を待っていて、スマホいじってたら誰かに押されて線路に落ちたんだった。
あーもう最悪だよ、せっかく会社辞めれたと思ったらこれだよ。俺はあの時、死んだはずなのにどうして今こうして生きてるのか分からないけど、 せめて、新しい人生では長生きしたいものだなぁ……って違う違う違う!!
転生先! type-moon世界、人理優位の世界線!?
「TYPE−MOONだと!!? 洒落になってないぞ!? 人理優位って事は……fate!? 月姫世界線よりはマシかもしれんけど、それでもヤバイ!」
生前そのままの俺なら、下手をすれば一年持たずに再死亡である。
そんなことには絶対なりたくない! 俺は必死で生き延びるために記憶の中のfate世界の原作知識を思い出し、転生先の状況をより良くするために思考を巡らせる
俺のやりたいことは何だ! 欲しいものは何だ! 生き延びることは勿論せっかく転生するんだからどんな存在なら第二の人生を楽しめる?
「……これだぁ!」
俺はそう叫ぶと設定画面にある項目を選択する
―入力内容を確認しました―
転生先はfate/zero時空、転生場所は間桐雁夜によるバーサーカー召喚直後の蟲蔵、転生対象は目、鼻、耳や五体はおろか、生命活動に必要な全ての臓器も無く現在社会に存在する全ての疫病に感染している体長3㎝寿命30秒の一匹の蟲、転生時に得る能力は、宿主の潜在能力を限界以上に引き出せる寄生融合能力、取り込んだものを基に霊的、肉体的に自分を更新できる自己改造能力、おまけにAランクの幸運!
いろいろと試してみたが、前世平凡な社会人だった俺の魂では、要求スペックを満たすためには、これぐらいのデメリットが必要であるらしい……まぁ仕方ないか。
とにかく、これで最低限の目標には達しているはずだ。
あとは第二の人生を楽しむだけだ。転生してから30秒が勝負だ、気を引き締めろ俺!
―転生を開始します―
目を覚ますと、俺は一匹の蟲になっていた──ー
と言っても自分の姿が見れるわけでもない、現状の俺には五感がないからだ。
だが、それでも俺は分かる。
俺は今、かつて無いほど充実している。
俺は今、自分の存在を誇らしく思っている。
俺は今、新たな生に感謝をしている──ー! 俺は今、生きているのだ──ー!!!
(うぉおおお! これが……! これが! 生きるということかぁあああ!!)
この瞬間、俺は確かに第二の人生を送っていた。
と、浸っている場合では無い、このままではせっかくの第二の人生、いや蟲生もあと30秒でありとあらゆる疫病をばら撒く『汚い爆弾』と化すという結末で終了である。
──どうやら、サーヴァントはちゃんと呼び出せた様じゃのぅ、雁夜──
すぐ近くで声がしたのが聴覚に頼らずとも判る。
つまり、狙い通りの時間、タイミングで転生完了したという事! 今ならさしもの臓硯も俺と他の蟲の区別など付くまい……!
チャンスだ
狙うは疲労困憊のはずの間桐雁夜、どこだ、どこに居る……!? 見つけた! バーサーカー召喚後、魔力を使い果たしたのか間桐雁夜は虫の息だ。
俺が半死半生の雁夜を見つけたと同時に間桐雁夜の命運も尽きる。
何故なら俺の目的は間桐臓硯の殺害とその知識と経験の習得、間桐雁夜の肉体はその為の大事な最初の欠片だからだ。
俺は雁夜の耳朶から頭蓋内部に侵入して脳幹に辿り着くと、蟲として持つ転生して得た特性にして最大の武器である『寄生融合能力』を用いて雁夜の脳髄を喰らい俺自身と融合強化する──ー!
よし第一段階はクリア!『俺』となった脳髄の演算能力は飛躍的に向上した、これによってこれから先の作業速度はさらに加速していく。
次に脳髄と繋がっている脊髄、そして神経へと『俺』を広げていく──!
クリア!『俺自身』として張り直された神経系の情報伝達速度は、以前と比べアナログ回線と光ファイバー回線ほどに格差がある。
次に神経系と融合することで有効範囲の広がった寄生融合機能を活用することで可能になった体内に巣食う刻印蟲との融合強化とそれを基にした自己改造で全身を魔術回路と化し、さらに免疫機能を強化して転生時に得た疫病をすべて完治させる。
クリア!これでこの肉体はあらゆる疫病に対する耐性を備え、自己改造の応用により新たな病原体を作成、他者に感染させることすら可能だ
肉体面が終われば、次は霊的強化だ、どれほど強靭高性能な肉体を持とうが、今の俺は一般人レベルの魂でしかない、5百年を生きた怪物、間桐臓硯を相手するにはあまりにも心許無い
俺は肉体を掌握して得たマキリとしての特性を、全身の魔力回路をフル稼働させた膨大な魔力による力業で発動させ、肉体に残留している間桐雁夜の魂を俺に吸収同化させていく────―!
エラー!間桐雁夜の魂の抵抗が激しい、抗うか、死にぞこないが……!
──があああぁッ!
雁夜の魂が苦痛に悶える、だが俺は手を止めない。
──……ぐぅっ!!
雁夜の魂が苦鳴を上げる、だが俺は手を緩めない。
──がっ、がああっ、がああァアアッ!!!
雁夜の魂が絶叫を上げながら暴れるが、俺は雁夜を逃がさない。
──うおおおぉォオオオッ!!
俺は雁夜を逃がしたくない。素直に認めよう、俺は間桐雁夜という存在を、今の今まで侮っていた。
魔術師としての資質も、根性も、覚悟も……何もかもが足りない。
俺に喰われるだけの哀れな餌でしかないと思っていた。
その餌としても大事な最初の餌でこそあるが、言ってしまえばこの後に控える間桐臓硯という本命の前の前菜、チュートリアルエネミーに過ぎないと思っていたのだ、俺は。
だがこの土壇場の状況で見せるこいつの姿はどうだ!? 脳髄から始まり、肉体の全てが『俺』になっているというのに、この男は、残された魂一つで全力で抗っている!
蟲となった俺の、自分の体を掴み、俺の魂を逆に喰い殺そうと必死にもがくその姿に、俺は思わず戦慄を覚えるほどに気圧されていた。
俺は間桐雁夜という魂を心の底から尊敬した、尊敬するが故に敬意をもって魂と魂で語り合い、お互いを理解し合い、そして一つのより高い存在として昇華するのだと決意した。
──お前は凄いな、間桐雁夜
俺は雁夜に話しかける。
──そんな状態でもなお、己を保ち、自我を保っているなんて……正直驚いたよ。
俺は雁夜を褒め称えた。
──お前の勝ち目はもう無いに等しい、それでもお前は最後まで諦めないだろう。だが、気が付いているか? 俺はお前の今までの全ての人生を共有した、その上で断言するが……お前がやろうとしていることは代償行為だ。
俺は雁夜を諭すように、しかしはっきりと言葉にして告げる。
──お前は桜ちゃんを助けようとしているんじゃなくて、自分が助けられたかっただけなんだ。
俺は雁夜の精神世界、深層心理の奥底に眠っている彼の願望、無意識に蓋をしている願いを引き摺り出すために問いかけ続ける。
──俺は知っているぞ、お前がどんな気持ちで桜ちゃんを見ているのか。だから俺は、お前に教えてやる 俺は雁夜に対して、容赦なく事実を突きつける。
──お前の本当の望みを教えてくれ
俺は雁夜の心の中から見つけ出した、彼が最も望んでいるものを彼に教える。それは
──お前は間桐桜に救われたかったんだろ?
間桐桜の救済という奇麗なお題目に隠された
──俺は知っている、お前が桜ちゃんを助けたいと思っていることを。だけど同時に思っているはずだ。自分には桜を救う資格が無いって
俺は間桐雁夜が隠していた本音を引き出す。雁夜は俺の言葉を否定しようとするが、俺の指摘通りなのか口籠ってしまう
──お前は桜ちゃんを救おうとしているのではなく、自分を救いたいだけだ。違うか?
──そうだ、お前は桜を救いたいという想いを利用して自分の罪悪感から目を逸らそうとしていたに過ぎない
俺は雁夜に真実を告げる。
──さらに言うならば、お前は本当は、遠坂時臣になりたかったんだ
──……な、何を言って
雁夜は俺の言った事が信じられず動揺するが、構わず俺は雁夜を追い詰めていく
──だってそうだろう? お前は遠坂時臣に嫉妬していたんじゃないのか? 自らを疑う事無く、家名に誇りを持ち、葵を娶り、凜や桜という二人の娘を設けることができた、全部お前が喉から手が出る程欲しがっていたものばかりだ
──そんな事は……無い
──嘘をつくなよ、雁夜
俺は雁夜の心の中を暴き立てる。雁夜がずっと押し殺してきた感情を解き放つ
──お前が本当になりたかったものは、遠坂でもなければ、間桐でもない。ましてや聖杯なんてどうでもいい!
──お前はただ、葵さんと凜ちゃんと桜ちゃんの家族になりたかったんだ──自分を信じてくれる家族が欲しかった、それだけだったんだ
俺は雁夜の心の中に巣食った闇を照らし出す。
──お前が欲しいと思った全てを持っている男、それが遠坂時臣さ。だからお前は彼を妬み、憧れた。
──ああそうだ、その通りだよ
雁夜がようやく認める
──だが、奴は俺が渇望していた宝物の一つである桜ちゃんを寄りにもよって臓硯に売り飛ばした! だから俺は、あいつが捨てたものを意地でも拾い上げたくて、桜ちゃんを助けるためにずっと忌避していた間桐に戻ってきたんだ
──そう、お前は桜ちゃんを救いたくて、助ける為なら何でもやった。蟲蔵に押し込められた彼女を救うために、臓硯に飼われる虫になった
──ああ、あの地獄のような日々を終わらせるためなら、何を犠牲にしても惜しくなかった
雁夜が吐露する。己の犯した罪を悔いるように
──だけど結局、蟲蔵から出て来たのは変わり果てた姿の桜ちゃんだけだった
──俺は、一体なんのために……
絶望に打ちひしがれる雁夜
──雁夜、もう一度言おう……お前は凄い奴だよ
──え……?
雁夜が呆然とする
──だってそうだろう、お前以外の誰が魂だけになってまで俺にここまで抗える?
──たとえ体が蟲になろうとも、人であろうとした意志は決して消えていない
──それは、誰にでも出来ることじゃない。お前は最後まで自分の願いを捨てずに戦い抜いたじゃないか
──俺はお前のその誇り高き魂に敬意を表すからこそお前を喰らう、だが、それはお前の意志の消滅を意味しない
俺は、蟲であることを受け入れた雁夜に告げる
──今こうして自我を保っているのも、お前が必死に足掻いた証だ……ならば、俺はそんなお前を喰らう事で更なる高みへ至ろう
──さあ、行こうか雁夜、俺たちは一つになるんだ、そして助けるんだ桜ちゃんを! 今度こそ! 一人と一匹が一つになった俺達で!!
──わかったよ、俺はもう逃げ出さない、俺のチンケなクソ度胸! 全部お前にくれてやる!
──応ッ!!!
俺は雁夜と共に駆け出す 光の向こうへと―――
そして、俺は目覚めた、半人半蟲の新たな存在として
「なんじゃと……!? 蟲が雁夜を完全に喰らった……いや、融合か!? 何なのだ!? それは!そんな存在になったマキリを儂は知らん!貴様が!雁夜ごときが儂とはまた違うマキリの新たな境地に至ったとでも言うのか!?」
半人半蟲に成り果てた俺≪雁夜≫を見た臓硯が驚愕の声を上げる。確かに、俺は今までの自分とは違う。これは、半人半蟲に成り果てたおかげなのか、それとも、元々あった魂の力のお陰だろうか? まあいい、俺はこの力で桜を救うのだ。そのためにはまず邪魔者を排除する必要がある 俺は蟲としての本能を完全開放し、眼前の新たなる『餌』を前に無機質な殺意を向けるのだった
雁夜の意識は完全に消えたわけではない、まだ残っている、完全に喰らい尽くす前に最後の挨拶をするべく
──雁夜……後は任せろ 俺は、心の中で呟くのであった
続編の予定はありません。
続けるならどっち?
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無印
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外道ばーじょん
-
両方書け