新劇場版 急・結   作:スターゲイザー

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レイとシンジを取り込んだまま凍結されていたエヴァ初号機。
幽閉されたネルフ関係者。
廃棄された要塞都市。

行われるサルベージ。

胎動するエヴァ8号機とそのパイロット。
遂に集う、運命を仕組まれた子供達。

ドグマへと投下されるエヴァ6号機
最後のシ者が現れる時、果たして生きることを望む人々の物語は何処へ続くのか。







Qじゃないよ、急だよ!
第1話 たった一つの冴えたやり方


 

 

 暗い部屋であった。部屋を照らし出すほどの灯りがないからでもあるが、そこにいる者達が放つ陰惨な空気が室内を暗くさせているのかもしれない。

 

「使徒によるエヴァ(零号機)の捕食。予定にない初号機の覚醒とニア・サードインパクト…………我らゼーレのシナリオとは大きく違った出来事だよ」

 

 暗い室内に低い声が木霊する。その声がまた地の底から響いてくる怨霊のように思えた。

 

「この修正、容易ではないぞ」

「修正は可能の範囲と考える。初号機はMark.06によって抑えられた。問題は行方の知れない碇ゲンドウと残る使徒への対処だ」

 

 最初に放たれた声とはまた別の声が応え、更に別の声が応じる。

 最低でも三人以上の声がするにも関わらず、室内には驚くほどに人の気配がない。それも当然だ。この部屋はモノリスのアイコンであるホログラムだけを映すネットチャットでやり取りしており、ネットワーク上で構築されたルームには現実の人間は存在しない。人の気配などするはずがないのだ。

 

「Mark.06に使徒への対処を任せるには不安が残る。下手をすれば今度こそサードインパクトがおきかねない。それだけは絶対に避けなければならない」

 

 この声に直ぐに返答を返す者はいなかった。

 

「予定を早め、7号機以降のエヴァンゲリオンをネルフに送るしかあるまい」

「バチカン条約に抵触することになるが?」

 

 エヴァンゲリオンの国ごとの保有数の制限や関連技術の保護、軍事転用禁止などが定められたバチカン条約において、各国が保有できるのは三機までと規定されている。

 各国のエゴが絡んでいる条約を短時間で改正することはゼーレであっても不可能に近い。

 

「初号機によるニア・サードインパクトを観測していた国は多い。自国に置いておこうと思う者はおるまいよ」

 

 ここでようやく声が一巡して、最初のモノリスへと移った。まるで予め喋ることを決めて順番に話しているような奇妙さがあった。

 

「零号機は使徒に捕食されて消失、初号機は凍結処理、大破した2号機は破棄すればいい。それでMark.06と合わせて2機までネルフに送れる。この急激な動きに多少の反発はあろうが残る使徒は二体。無理は通せるだろう」

「機体があってもパイロットがいないのでは意味はない。アテはあるのかね?」

「足りない分はダミーシステムで賄える」

 

 疑問に対して、暗闇の中から放たれた対案が返される。

 

「理性の無い獣では、最強の拒絶タイプの後に来る使徒を倒すことは不可能だ。かといって渚カヲルを表には出せない。第四の少女を使うべきだろう」

「渚カヲルを碇ゲンドウの椅子に縛り付けておかねばならないとしても…………使えるのかね、アレ(・・)は?」

「有用だよ、今はまだ。こちらに従っている間は望む働きをしてくれる」

 

 また別の声が室内に響き渡った。だが、今度は気配が違う。暗い室内に浮かび上がった灯りが【01】と書かれたモノリスの存在を浮かび上がらせる。

 

「対案は用意しておかねばならん」

 

 モノリスと共に浮かび上がる遮光器(バイザー)

 情報端末であるがメモリーや送受信機、端子もアンテナもなく電源に当たる部分はなく出力部分のみ。それだけでは意味のはないはずの物は、【01】のモノリスの中身であるキール・ローレンツが肉体を持っていた時に身に着けていた物である。

 

「第二の少女を使えばいい。第九の使徒に汚染されているが封印柱を使えば問題はあるまい。万が一のスペアとしても使えるだろう。シキナミタイプは所詮、役割を終えつつある試作品同様に間に合わせに過ぎんのだからな」

 

 使えれば良し、使えなくともその時はその時と、割り切りというには非情な物言いだった。

 

「最強の拒絶タイプである第十の使徒で敵わなかった以上、続く使徒は違う方法で挑んで来るだろう。第二の少女、第四の少女の二人…………今までが三機で対処していたことを考えると一抹の不安が残る」

 

 予定外のことが重なり過ぎており、慎重を期しておきたい一人が心情を吐露する。

 

「何も問題はない。先程、ゴルゴダベースにある第一の少女の依り代の一つが目覚めた」

「第一の少女は初号機に取り込まれたのではないのか?」

「魂の観測は我らには出来ない。現段階では事実を並べることしか出来ぬ」

 

 ゴルゴダベースで作成されたダミーシステムの基となる大量のアヤナミレイ。アヤナミタイプはそのたった一人にしか魂の定着連鎖は発生しなかった。次の依り代が目覚めたということは初号機が取り込んだ第一の少女の魂が移動したことを示しているが。

 

「…………渚カヲルが初号機パイロットのサルベージ計画を求めている。第一の少女のサルベージも合わせて行い、その結果にて判断すべきか」

 

 サルベージが成功すれば第一の少女の依り代が目覚めたのは偶然に過ぎず、失敗すれば魂の移動の証明の材料となる。

 

「今の初号機に手を出すことは、あまりにも危険だ。手を出すのではなく利用することに注視すべきである」

 

 初号機の覚醒はゼーレの計画にない特大のイレギュラーであった。今はエヴァンゲリオンMark06が放ったカシウスの槍に貫かれ、凍結中であるとはいえ下手な手出しは藪を突くだけとモノリスの一つが告げた。

 

「初号機の覚醒…………これが碇の計画であったのか、偶然の産物に過ぎないのか」

 

 七つのモノリスのホログラムの中央に使徒封印呪詛柱に囲まれ、カシウスの槍に貫かれたまま微動だにしないエヴァンゲリオン初号機の映像が映し出される。 

 

「碇ゲンドウ、あの男にネルフを与えたのがそもそもの間違いではないのかね?」

「だがあの男でなければ、全ての計画の遂行はできなかった。が、今回の件はあまりにも目に余る」

「冬月教授と共に行方はようと知れない。ニア・サードインパクトの混乱があったにせよ、あの男らしい用意周到さだと言えよう」

 

 答えを知っているであろう碇ゲンドウは冬月コウゾウと共にネルフ本部から姿を消している。 

 推論に推論を重ねたところで憶測の域を出ないが、ゼーレに忠実でありながら決して腹の底を一度たりとも見せようとしなかった碇ゲンドウならばあり得るとゼーレの誰もが思う。

 

「幽閉したネルフ関係者への聴取を行っても得られたものは何もない」

 

 初号機の映像から、空から取られたUNの空母へと切り替わる。

 その後、順次ニア・サードインパクトの目撃者達の聴取と言う名目で行われた取り調べの際の映像が流れていく。

 取り調べ映像は特に幹部級の者の比率が多い。

 

「有用な人材は有限である。今更、替えは用意できない。その時間もない」

 

 流れていく映像の中で、赤城リツコの姿がクローズアップされる。

 

「ネルフ関係者は監視の下で元の仕事に戻らせる」

「合わせて初号機のサルベージを進める。どのような結果が出るにせよ、今後の判断の一助にはなろう」

 

 議論はここまで、と雰囲気が言っていた。

 

「NHGの完成も急がねばならん」

「完成までには今暫くかかろう。主機たるMark.9以降も同様だ」

「新たなるエヴァの建造費に7号機以降の移送と維持費、露呈したドグマ、半壊した本部施設、大破した2号機らの修復…………被害が甚大なだけに金だけは湯水のように消えていく」

 

 損害に頭を悩ませているのか、暫し無言の時が流れた。

 静寂の時を破ったのは、重苦しい声だった。

 

「崩壊した第三新東京市は諦めるしかあるまい」

 

 映像が夜に撮影した為か、薄暗い地表が大きく盛り上がった第三新東京市へと切り替わる。

 

「修復している時間も、金の余裕も最早ない。どれほど注ぎ込んだか、見当も付かん」

 

 第三新東京市は第10の使徒の侵攻によって打撃を受けていたとはいえ、それだけならば復旧は可能だったはずだった。

 初号機の覚醒によるニア・サードインパクトの余波によって地表が押し上げられ、その修復には莫大な時間と手間と資金が必要になる。優先順位の低い第三新東京市の再建をしている余裕は既にない。

 

「これも、碇の首に鈴を付けておかないからだ」

「鈴は付いている。ただ、鳴らなかっただけだ」

「鳴らない鈴に意味はない。首輪は代わるが今度こそ鈴に動いてもらおう」

 

 次はないと、嘗てキール・ローレンツと呼ばれたモノリスは冷たい声で言い放ち、会議を終わらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第10の使徒による直接侵攻によってジオフロントにあるネルフ本部は壊滅的損害を被った。それでもこの場所を守り続けなければならない人は修復作業に追われている。

 あちこちで鳴り響く工事の音は、本部深部にある司令室に続く廊下を歩く加持リョウジの耳にすら届いていた。

 

「健気なものだねぇ」

 

 書類を挟んだバインダーを彼らしくもなく大事に抱え、SPによって守られている司令室へと辿り着く。

 

「ボディーチェックを」

「はいはい、どうぞ」

 

 主が代わろうとも変わらずに職務を全うするSPの一人に手持ちのバインダーを渡し、両手を上げて触られるがままに任せる。

 金属検知器まで使って銃器物などの危険物がないことを確認して、チェックを通った加持はバインダーを返してもらって先へと進む。

 

「失礼します、渚司令。ご報告に参りました」

 

 扉を潜った先、司令室の新しい主へと恭しく挨拶する。

 

「カヲルで良いよ、リョウちゃん」

 

 失踪した前司令の代理として、人類補完委員会を経由して国連から派遣された形の渚カヲルが似合わない司令服に身を包んで加持を迎え入れる。

 

「お戯れを」

 

 フランクな態度で接することを求めるカヲルとは裏腹に、加持は敬う態度を崩さない。

 態度を変える気のない加持に、カヲルは重い息を吐いて座り心地の良い椅子に身を委ねる。

 

「みんなが厳しくてね。一人ぐらいはフランクに接してほしいんだよ」

「あなたはゼーレから送り込まれた司令代理ですから…………皆の目が厳しいのも無理はないかと」

「ゼーレから送り込まれているのはリョウちゃんも同じじゃないか」

 

 聴取という取り調べが終わった職員の一部は既に元の業務に戻されている。

 カヲルの司令代理の就任は前任者が行方不明なことと合わせて既に知られており、明らかにエヴァンゲリオンパイロットと同年代にしか見えない年若さに不審を抱き、裏があると考えるのは無理はなかった。

 

「私は元々、ネルフの人間ですから。何よりエヴァのパイロットではありませんからね」

 

 加持は元々、ユーロにいたが少し前に本部付きに移動になっている。反対にカヲルは初号機を止めたエヴァンゲリオンMark06のパイロット。どこから来たかなんてことよりも、前提が違い過ぎる。

 着慣れていない感満載の司令服の襟元を引っ張ったカヲルには加持の言葉を否定できる論拠がなかった。なにせ自分でさえ無理があると思っているのだから。

 

「はぁ、分かったよ。で、報告の内容は?」

 

 少なくとも今は加持の態度を変えることは出来ないと判断し、来訪の目的を問う。

 加持は持っているバインダーを持ち直して口を開く。

 

「ゼーレが初号機のサルベージ計画を承認しました」

 

 その報告に流石のカヲルも呆気に取られたように目を丸くする。

 

「…………へぇ、まさか認めてくれるとはね。なんだかんだ理由をつけて認めないと思ったのに」

 

 カヲルをして拒否されるだろうと駄目元だった提案を承認されて驚いていた。やがて面白そうだと見て分かるほどに彼が良く浮かべる笑みを浮かべる。

 

「ゴルゴダベースで第一の少女の器が目覚めたことが理由の一つのようです」

 

 綾波レイの特性を知る者ならば、この報告を受けただけで推測が成り立つ。カヲルは綾波レイの特性を良く知る人間であるからゼーレが初号機のサルベージを認めた理由にも思い至る。

 

「綾波レイが自我を持って現れれば良し、そうでなかったとしても、か――――器が目覚めた時間は?」

「初号機がカシウスの槍に貫かれて少ししてからだと」

 

 なんとも微妙なタイミングだ、とカヲルは心の中で一人ごちる。

 

「カシウスの槍で綾波レイが死ぬことはあり得ない…………まあ、使徒に食われて初号機に取り込まれるなんて想定外のケースだ。ありえなくはない、か」

 

 繰り返してきた円環の輪の中でも初めての出来事だからこそ、綾波レイは死んでいないとカヲルも口には出来ない。

 

「ゼーレはリスクを取ることを選んだわけだね。初号機から綾波レイが出てくれば、覚醒の段階を下げられる。出て来なくてゴルゴダベースの方に魂が移動していればそれはそれで良し。どちらにしても悪いことじゃない」

「リリスの魂である綾波レイが初号機から離れることに勝るメリットはないと?」

「NHGとMark09以降のオップファータイプが完成していない中で、トリガーと成り得る初号機を堕とせる絶好の機会だ。老人達が見逃すはずがないよ」

 

 楽し気に目を細めたカヲルは前の主であるゲンドウがそうしていたように、机に両肘を立てて寄りかかり両手を口元に持ってくる。

 

「擬似シン化第1覚醒形態への条件は生命の実か知恵の実を持つ者の極限までの強い意志。今回ならばリリスのコピーたる初号機(生命の実もどき)シンジ君(知恵の実)の意志がトリガーとなった。しかし、それだけではニア・サードインパクトは起きなかった。綾波レイ(リリスの魂)と形状崩壊した第10使徒を取り込んだことで、完全なる生命の実と知恵の実を得た初号機は疑似シン化第2形態に至り、この段階になるとインパクトを起こせるようになる」

 

 ニア・サードインパクトへの道程を聞いた加持はイマイチしっくりと来ないことがある。

 

「日本では触らぬ神に祟りなしとも言いますが、初号機を凍結して手を出さない方が無難なのでは?」

「前司令がいないことが理由じゃないかな。彼はよほどゼーレに警戒されているらしい」

 

 手で隠れたカヲルの口元に苦笑が浮かぶ。

 

「初号機は簡単にインパクトのトリガーに成り得るんだ。未だゼーレの準備が整っていない中で、誰の手でもインパクトが起こせる状況にある」

「前司令が行方を晦ませているのも、その準備かもしれないとゼーレは見ているわけですか」

「大詰めを迎えている人類補完計画に大きな猶予はないから万全を期したいんだろうね」

 

 老人達の気苦労など知ったことではないカヲルや加持にとっては朗報なだけに気が軽くなる。

 組んでいた手を離して再び背凭れに身を預けたカヲルに加持がバインダーから外した書類を差し出す。

 

「報告を続けます。初号機のサルベージ承認の他には第二の少女の隔離を解除、第四の少女の受け入れ等、細かいことに関してはこちらに」

 

 書類を受け取ったカヲルはパラパラと捲り、あまりの分厚さに全部読むのを後回しにして概要だけを掴む。

 

「好都合なのは確かだ。初号機は凍結状態のままサルベージを行う。陣頭指揮は復帰する赤城博士に一任する。これは司令代理の正式な命令として発行する」

「承りました」

 

 概要を頭に叩き込んだ後、取り出した命令書に自身のサインを書き込む。

 命令書を加持に渡して横に置いておいた書類をもう一度手に取って難しい表情を浮かべた。

 

「2号機の修復に新しいエヴァの受け入れと調整、ゼーレも随分と無茶ぶりをしてくる。前任者の苦労が知れるよ」

 

 資金面に関してはゼーレが負担してくれるが、ネルフ内の諸々の調整は副官すらいないカヲルが一人で取り纏めなければならない。

 厳しい目が降り注がれている中で行わなければならない労苦に、さしものカヲルもげんなりとした表情を隠せなかった。ある意味で子供らしい表情を浮かべるカヲルに加持は同情の面持ちで口元を緩める。

 

「表情一つ変えたところも見たことはありませんがね。ところで、司令代理に葛城一佐より面会の申し入れがありましたが」

「また? 君から断っておいてよ」

 

 数日前に聴取から解放されて真っ先に司令室に突撃して来て以来、悪い意味で常連となっている扉越しでも聞こえて来た葛城ミサトの剣幕を思い出したカヲルは軽く手を振って加持に振る。

 

「渚司令に会える自分が詰問(きつもん)されるのですが」

 

 振られた加持は司令代理と直接会える数少ない人間であると知った途端に突撃して来たミサトの怖い顔を想起して、上司に見せるにはあるまじき心底からのげんなりとした表情が浮かべる。

 

「僕が彼女に話せることは何もないよ。出来れば近づくのも遠慮したいほどなんだから」

「葛城が南極の唯一の生き残りで、あなたは第一の使徒だった(・・・)モノ。何かに気づくかもしれないと?」

「ないとは思うけどね。今はゼーレに無用な疑いを抱かれるわけにはいかない」

 

 カヲルの立場だって盤石ではない。その証明が司令服の高い襟に隠れた首にある。

 ゼーレによって付けられた、起動すると装着者の首を爆破して殺害するチョーカーを触るカヲル。

 

「DSSチョーカー…………外しても構わないのでは?」

「今はその時ではないよ」

「出来る時にしないと、後で取り返しがつかなくなります」

「君の経験談かい? そうだ、リョウちゃんがカヲルと呼んでくれたら外すかもしれないね」

「渚司令」

 

 茶化すように提案するカヲルに加持は重い言葉で返す。

 

「分かったよ、融通が利かないな―――――――――ほら、これでいいんだろ」

 

 司令服の首元を開き、後ろ手に回した手でDSSチョーカーを外す。

 カヲルからDSSチョーカーを受け取った加持は懐から取り出した機械に繋く。

 

「ダミー情報を流しました。外していることを直に確認されない限りは大丈夫でしょう」

 

 と言いながら懐からDSSチョーカーに良く似た物を取り出してカヲルの前に置く。

 

「見た目を似せたこれを付けておけば、外していると断定されることはまずありえません」

「使徒封印用呪詛文様まで入っているのかい? 良くやるよ。というか、良くボディチェックをすり抜けられたね」

「そこは蛇の道はヘビというか…………我が家の家訓は、やるなら徹底的にをモットーにしようかと思っています」

 

 呆れればいいのか、用意周到さを笑えばいいのか。笑みと苦笑の中間の口の角度のまま加持の用意した、見た目だけはそのものな偽物のDSSチョーカーを填める。

 ファッション以上の価値はない偽DSSチョーカーを付けたカヲルは開いていた司令服の襟を戻す。

 

「リョウちゃんの頼みを聞いたんだ。勿論、僕のお願いも聞いてくれるよね?」

 

 襟で見えなくなった偽DSSチョーカーを指差しながら、今度ははっきりと笑みを浮かべるカヲルに加持は仕方なしと折れる。

 

「葛城の件は同じ旗の下にいる者として何とかしてみましょう」

「頼んだよ」

 

 これで貸し借りはなし。どちらの道、ミサトのことは自分の問題としていた加持は問題の一つを解消できて一安心と肩を撫で下ろした。ミサトを説得する方法は何も思いついていないが。

 

「しかし、初号機のサルベージ。本当に上手く行くんですかね」

 

 直近の問題から目を逸らしたくもあって、当面の懸念が口からついてでた。

 

「計画自体は十年前にもあった。赤城博士なら実用に持って行けるはずだよ」

 

 十年前という単語からネルフ創設前の頃の話だと加持にも見当がついた。

 

「十年前、と言いますと碇ユイ博士が初号機に取り込まれた時は確か」

「失敗している。あの時とは状況が違うとはいえ、僕としてはどちらにサイコロの目が転んでも構わないと思っている」

 

 ただ、カヲルとしては不思議と失敗しないという確信があった。

 積み上がった円環の輪から知る事実から来ているかもしれないしれないし、ただの直感からかもしれない。

 

「線路のポイントを切り替えるだけだと?」

 

 カヲルの過去を知るだけに加持の例えは的を射ていた。

 

「シンジ君に早く会えるならそれに越したことではないけれど、いずれは必ず会えるんだ。焦ることは無い」

 

 全ての円環の輪の中で必ず碇シンジと出会うと知っているからこそ、渚カヲルはその時が待ち遠しいと深めた笑みが口よりも雄弁に語っていた。

 

 

 

 

 






サブタイトルはTV版の企画書に書かれていた最終回のサブタイトルより


Qじゃないよ、急だよ編は毎日18時30分更新予定。

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