新劇場版 急・結   作:スターゲイザー

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今話のタイトルはTV版最終話より




第18話 世界の中心でアイを叫んだけもの

 

 

 

 

 

 対艦戦に移行したヴンダーから射出された、デビルキャリアを搭載した2機のエヴァンゲリオン。

 2号機パイロットのアスカは機体を通して、出力状態のデビルキャリアに搭載されているN2リアクターのキーンという音を聞きながら、こちらを補足しようとして来る長いアラエルの光の歌の線の向こうにいる複数の敵を見据える。

 

「エヴァ擬きが、まとめて通せんぼとは邪魔くさい」

「やっほーい。エンジェルキャリヤー(幼生使徒搭載型エヴァンゲリオン)が選り取り見取り。嫌になるうぅ」

 

 目標となるカルヴァリーベースまでの間に幾つかの動体反応を検知しており、マギはネーメズィスシリーズとの相違点とアラエルを有する04ダッシュ擬きとの類似点があると示している。

 流石に遠すぎるので精神攻撃を仕掛けて来たアラエルは別として、それぞれが繭に内包している個体の区別はつかない。

 

「ゼルエル――――最強の拒絶タイプもいるなら何時かのリベンジマッチと行こうじゃない」

「姫、アイツにはアッシも恨みがあるんだがにゃ」

「死ねば何度も現れるんなら戦う機会は幾らでもあるわ。目的を忘れるんじゃないわよ」

「へいへい…………リベンジマッチ云々を言い出したのは姫なのに」

 

 エンジェルキャリヤーの中にゼルエルの幼生体を腹部の繭に抱いた個体がいるなら、他のキャリヤーの攻撃中でも先にゼルエルキャリヤーを叩くようにと命令文が来ていた。

 

「優先して注意を惹きつけるのは、ATフィールドを突破する強力な遠隔攻撃を持つゼルエルやラミエルといったタイプ。後は精神汚染のアラエルや浸食してくるアルミサエルか。機体を乗っ取ってくるバルディエルがいないことは救いか」

 

 アウトレンジ攻撃が基本の人類勢にとっては、強力な遠隔攻撃を連続できるゼルエルやアラエルといったタイプが最も脅威だ。他の使徒は拠点守備戦ではないのだから極論、逃げながら戦えばよい。

 

「バルディエルは既に存在している以上、重複することは無い。可能性としてこの世界では現れなかった使徒タイプにも気をつけてね、姫」

「分かってる」

 

 そうこうしている内にカルヴァリーベースを背にした04ダッシュの繭の口が開き、04ダッシュ本体より遥かに大きな膜状の何かが蝶の羽のように飛び出すとグングンと伸び始め、先端は手のように広がった。それは片翼1200mはある原生生物のような使徒の腕だった。

 

「サハクィエル」

 

 実際にその威容を間近で見たことのあるアスカもマギが第8の使徒だと断定する前に正体に辿り着いた。

 ズームしたとはいえ、驚いたことにこの距離でもはっきりと形が分かった。見えたのは奇怪な細胞生物が手を広げたような形は豪快な通せんぼをしているとも感じる。

 

「正しく通せんぼってか」

「なんだって良い。突破するだけよ!」

 

 アスカの意志に従い、デビルキャリアに搭載されているN2リアクターのパワーが上がる。

 落下エネルギーを追加したデビルキャリアが高速で移動して、一番近くにいたエンジェルキャリヤーに瞬く間に接近する。

 

「どけぇっ!!」

 

 2号機の接近に、無手だったエンジェルキャリヤーが腹に抱える繭、その表面が破れて腕が伸びた。突き出された細く長い腕が低く構えて迫り、開いた手から飛び出るパイルでデビルキャリアごと2号機を貫こうとする。

 手槍の様な光る突起を放ち、避けようもないタイミングであったが機体を捻りながら顔を庇った2号機の左腕装甲を掠る。

 キャリヤーの繭から伸びた使徒の腕の内部から肘まで長く突き抜けている鋭く尖った杭/パイルを掌から杭打ち器の様に放ってきたのだ。射抜かれるのは免れたが突き出されたパイルがデビルキャリアの端も抉り取り、搭載していた武装の一部を吹き飛ばす。

 

「ちッ!」

 

 バランスを崩したところをもう一本の腕のパイルに串刺しにされるかというところで、反転した2号機が保持していた武器を手放した両手で伸びた腕を掴むと木の根でも折るように関節を反対側に捻じ曲げる。バキバキと大きな破断音が響いて使徒幼生体の腕を折る。

 

「この腕、データで見たことがる。シンジが最初に倒した使徒サキエルの腕か……!」

 

 僅かに生身も傷つけ、アスカにフィードバックされる苦痛。それでもアスカはエンジェルキャリヤーの繭から現れた使徒の正体を特定する。

 どちらのアスカ・ラングレーも映像とはいえ、最初に見た使徒。間違うはずがない。

 

「このっ!」

 

 ほんの少しだけ削られた腕は暫くすると組織が内側からゴリゴリと膨らみ再生している。戦闘にはなんの支障もない。

 力任せに繭から引きずり出すとブチブチと千切れる手応えに続き、成体と変わらない腕とは裏腹にドロドロとした柔らかく小さな半分幼虫のようなボディが現れた。

 

「出来かけ……幼生体とはよく言ったものだわ。繭より節が長い腕がどうやって入ってるんだか、反則じゃないのそれ」

 

 例え倒してもどこからか現れるのはネーメズィスシリーズとマリの話は共通している。倒しても倒してもキリがないと思うと消耗が加速する。戦いの一局面で勝ってもトータルでは負けては何の意味もない。

 

「っ!?」

 

 幼生体を半分繭から引き出してエンジェルキャリヤー本体に蹴りを入れたところで、第六感で感じ取った盛大な嫌な予感に従い、瞬間的にN2リアクターのパワーを上げてその場から離脱する。

 ドンッと激しい上下動と衝撃波の圧力、そして熱量。あやうく先程までいた空間を何かが通過したと知れた。

 2号機が避けた先にある上空の結界壁に巨大な爆煙が生まれていた。もしも匂いが嗅げればオゾン臭を感じたことだろうし、チリチリする電荷偏りをデータが示している。この大火力のビームを放てるは使徒の候補は多くない。

 

「今度はラミエルか……!」

 

 データは第6の使徒であるラミエルの荷粒子ビームと示している。

 ラミエルの幼生体を腹の繭に収めたキャリヤーが光を纏う。繭部分の光がスウッと輝きを増した。

 

「エネルギー極大値……!」

 

 アラートが示すのは、撃って来るぞと同じ意味だ。

 2号機が不規則螺旋の高機動に入るのと、ラミエルキャリヤーの繭部分が一際輝いて加粒子砲を放つのはほぼ同時だった。

 辛うじて避けたが約コンマ6秒の間、スイープしながらこちらの機動を追いかけて来た加粒子ビームがATフィールド面に一瞬接触、あっという間に莫大な熱量に化けると大気は弾け、まるで何かが大爆発したように2号機は吹き飛ばされた。

 

「このパワーは厄介だけど射線は読みやすい」

 

 デビルキャリアという機動力があれば避けれない程ではない。

 跳ね飛ばされた2号機は高度を下げながら加速し、まだ遥か下方にあるカルヴァリーベースを目指す。

 ラミエルキャリヤーも後を追いながら加粒子ビームを放とうとしているが、細かくマニューバして狙いを定めさせない。本家と違って大出力砲には大きな再チャージのタイムラグがあり、発射の兆候が良く分かるのでゼルエルなどと違って距離が開けば避けるのは容易い。

 とはいえ、流れ弾といえども最大出力で直撃した場合は防ぎ切れる保証はない。

 

「ラミエルキャリヤーが次弾の発射体勢に入ってるよ!」

 

 マリの合図でアスカはラミエルキャリヤーと2号機の間に、遮二無二追いかけて来る繭に何が入っているか分からないエンジェルキャリヤーが入る位置に移動する。

 

「――今!」

 

 バッとディスプレイがホワイトアウトするほどの閃光。その輝きを2号機はエンジェルキャリヤーの影に隠れて受けた。

 アスカはラミエルキャリヤーに自分を狙わせることで、間に入れたエンジェルキャリヤーをラミエルに撃たせたのだ。アスカから見えたエンジェルキャリヤーの後背が眩しく光る。

 エンジェルキャリヤーのATフィールドと体を貫いて、ラミエルの荷粒子ビームが貫通、爆散する前に離れる。

 

「コネメガネ、そいつは任せた!」

「はいはい。足止めはお任せあれ!」

 

 エンジェルキャリヤーの消滅と同時に立ち上がる十字の位相差爆発を利用して更に距離を開け、アスカは一路カルヴァリーベースを目指す。マリもラミエルキャリヤーに時々攻撃を入れながら2号機の後を追う。

 

「くっ!」

 

 追いかけて来た光の歌が2号機を覆い隠す。

 アラエルキャリヤーは自分に接近してくる2号機の動きが鈍ると、いよいよ相手に向かって動き始めた。

 

「もう格付けはすんでるのよ! 地獄から舞い戻らずに死んどきなさいよ!」

「かといって殺すと復活するから8割殺しだけどね」

「うっさい、コネメガネ!」

 

 第三新東京市でリベンジは既に終わらせており、アスカ自身はトラウマを既に克服しているので、直接的な攻撃手段のないアラエルキャリヤーを無視して進む。

 

「はいはーい、ごめんなさいよ」

 

 8号機が持てるだけの武器を搭載したデビルキャリアから雨霰と遠距離攻撃を続ける。

 落下エネルギーは加速するにも攻撃するにも有利とはいえ、ATフィールドの効果は距離が開くほどに減衰していくので正しく足止め以上の効果はない。

 

「コネメガネ、次の獲物!」

「あいあいさ」

 

 サキエルキャリヤーのパイルで武装の一部を失っている2号機からの催促に、気軽に答えたマリは8号機を操作してポイッと武器の一つを投げ渡す。

 

「でぇいっ!!」

 

 何時の間にか再び現れたサキエルキャリヤーの放つ閃光の連続を縫うように2号機が吶喊する。

 サキエルキャリヤー本体の腕を叩き切り、殺すと復活するのでしこたま弾頭を浴びせて吹っ飛ばして先に進んで立ち塞がる別のエンジェルキャリヤーを補足する。

 

「次ッ!」

 

 言うが早いがエンジェルキャリヤーの繭から飛び出したのは二本の触腕。

 予想していなかった敵の行動。キャリヤーの繭から飛び出した触腕が絡み付こうとするので、機体を捻って躱した2号機だったが進行方向には触腕の主であるシャムシェルキャリヤーがいる。

 激しい火花、2号機はシャムシェルキャリヤーに乗り上げるようにフィールドに接触した。

 2号機はシャムシェルキャリヤーの上を飛び越えながら向こう側に降りる。

 振り返って左から回り込もうとするシャムシェルキャリヤーは逆から旋回して来た銃口が自分に向くより早く、触腕で横殴りに攻撃してきた。アスカは躱そうとしたが、身軽な時ならばともかくデビルキャリア装備時では小回りの利く機敏な動きを阻害されて完全にはスウェーしきれない。

 

「ガッーーは!」

 

 武器ごと吹き飛ばされて横倒しに飛ばされる。

 ドドンッと大音響だがインパクトは決まっていない。2号機のATフィールドで止められたのだ。ATフィールドを平面ではなく曲面に展開、シャムシェルの触腕は阻まれていた。

 

「こいつッ!」

 

 8号機が撃った砲弾は、触腕で殴打されて回転しながら弾け飛んで来た2号機のデビルキャリアを追い越し、シャムシェルの触手を繭から伸ばすキャリヤーのATフィールドに衝突、貫通出来なかったものの、本体ごと後方へ弾き飛ばす。

 そのボディが後方へと流れようとした時、激しい遠隔攻撃がシャムシェルキャリヤーのボディにゼロタイム着弾。

 何かが被弾したシャムシェルキャリヤーの向こうで影がゆらりと揺れる。

 その攻撃は過去の使徒戦のデータに該当した。予想通り薄く長いリボンが2号機が回避行動で避ける前にいた空間を突いて、巨大な剃刀のように偶々進路上にいたボロボロのシャムシェルキャリヤーを刻んでしまっていた。白い巨体をカミソリのように鋭いリボンが貫いて、綺麗に二つに切り分ける。2号機も避けてなければ同じように捌かれていただろう。

 

「2時方向、ゼルエルが現れた……!」

 

 大なり小なり動きを見せていたエンジェルキャリヤーの中で、そのキャリヤーは立ちはだかるように空に浮かんでいるだけだった。シャムシェルキャリヤーを捌いたリボンの持ち主は最強の拒絶タイプであるゼルエルで間違いない。

 手強い敵、それ以上にゼルエルには因縁がある。式波ではないアスカ・ラングレーが敗北した戦い。

 アスカの顔がみるみる凄みのある笑顔に変わっていた。

 

「あの時はよくも私に恥をかかせてくれたわね! でもいいの、だってまた私の前に出て来てくれたんだもの、いいヤツだわアナタ。そして今度こそ私に殺されなさい!」

 

 まるでアスカの告白に応えるようにゼルエルの幼生体を抱えたキャリヤーが動く。リボンが飛んできた方向で閃光が瞬くと、ゴゴンッと同時に2号機に近くで裁かれたばかりのシャムシェルキャリヤーの残骸に着弾して爆発が起こった。

 

「うわッ!?」

 

 ATフィールドで全て受け切ったが機体が切り揉むほどに衝撃は大きい。

 ゼルエルの放つ閃光は発光とほぼ同時に着弾する。ラミエルキャリヤーの加粒子砲と同じく威力が高いが、増幅するエネルギーのピークが電界観測できるラミエルと違って解り辛い。

 

「ちっ コネ眼鏡手を貸せ」

「心得た!」

 

 まともに遣り合うには面倒な相手と自覚してマリに援護を任せる。

 

「不意を突ければ――」

 

 見たところエンジェルキャリヤーは共通して、こちらの攻撃に対して手を翳すなどして意識してATフィールドを発生させている。

 なんてことをアスカが考えていると、キャリヤーの繭からゼルエルの二枚のリボンが飛び出してきて2号機は両手の武器でそれを逸らす。猛烈な火花を上げて進路を逸らされたリボンはその速度のまま暴れるように跳ね上がる。

 成体ならば両腕の位置にぶら下がるゼルエルの二枚のリボン。今キャリヤーの腹の繭から出ているそれらがどこまでも伸びて、2号機の下方に先回りする。

 体を捻ってリボンを躱すと、結果的に背中を向ける形になったゼルエルの閃光が着弾する。激しい衝撃だが、予想していたので背部に集中させたATフィールドで何とか凌ぎ切れた。

 

「こいつだけ他と次元が違う……っ!」

 

 鋭いカミソリのようなリボンが再び現れ、辛うじて構えた武器と接触、火花を散らす。どうにかクロスさせた武器で受けたが、デビルキャリア込みで数千トンオーバーの巨体が軽々と突き飛ばされる。

 たった二度攻撃を逸らしただけで既にボロボロな武器を取り換えている間に、ゼルエルのリボンがあっという間に引き戻される。

 更にゼルエルの遠隔攻撃の連続音が響く。

 ATフィールド面に激しく無数の衝突閃光。ATフィールドは磁力線に似て、フィールドで受けた抵抗感は弾性減衰され、フィールド発生源である2号機のボディに伝わる。

 

「こんのっ!!」

 

 集中砲火を浴びる2号機を救う為に8号機が弾幕の雨を降らすが、オリジナルよりも劣化しているとはとても思えないATフィールドの硬さに堰き止められてしまう。

 再びキャリヤーの繭から超硬質のリボンが飛び出て、ATフィールドの突破に意識を裂き過ぎた所為で近づき過ぎた8号機の直前で2号機が割り込んでマゴロク・カウンターソードが火花を上げて防いだ。

 

「マリ、下がって!」

 

 マゴロク・カウンターソードを一回転させると腰だめに構え、未だリボンを戻していないゼルエルキャリヤーに向けて2号機が突進。ATフィールドを切っ先に乗せて鋭い突きでATフィールドごとゼルエルキャリヤーを弾き飛ばした。

 2号機は更にもう一回転、風を巻いた切っ先を下に指差し念を込める。

 

「はあっ!」

 

 放たれたATフィールドはこちらに向かって来ていたラミエルキャリヤーへと飛んだが、再度現れたシャムエルの鞭が飛び込み、その射線を逸らしてしまう。

 直後に激しい衝撃と閃光。

 体勢を整えたゼルエルキャリヤーが放った到達ゼロ時間の光弾を8号機が展開したATフィールドで受けて、辺りに目もくらむ光が散乱。

 

「――がッ……!」

 

 フィールドの隙間から殺しきれない威力が飛び込んだ。2号機の前面が薄く焼かれ、崩れかかる。

 マリが2号機に一瞬気を取られたのを隙と見たのか、ゼルエルキャリヤーは輝いた瞬間に焦点が吹き飛ぶ極めつけに強力なビームを幾度も連続で放つ。

 援護とばかりにラミエルキャリヤーの強力な加粒子ビームが近づき過ぎた別のエンジェルキャリヤーを巻き込み、十字の光柱が天に駆け上がった。

 8号機と2号機はラミエルキャリヤーの加粒子ビームをATフィールドで耐えたが、横合いに回り込んで2号機に向けて放たれたゼルエルキャリヤーのゼロタイム光撃に吹き飛ばされて宙を飛ぶ。

 

「ふぐっ!?」

 

 LCLが充満した液体コックピットでなかったら、機体が無事でも中のパイロットは今の衝撃で潰れていただろう。

 アスカは頭を振って意識をはっきりさせて、ゼルエルキャリヤーだけでなく他のエンジェルキャリヤー達も続々と集結しつつあるのを見る。

 

「まずはこいつを」

 

 やはりゼルエルキャリヤーは野放しにしていると、こちらがやられかねないと認識を改める。

 ラミエルキャリヤーの加粒子ビームを耐えきった8号機を標的にしたのか、攻撃を仕掛けようとしているゼルエルキャリヤーに近接戦を挑む為にデビルキャリアのN2リアクターのパワーを上げる。

 腹部の繭から出られないゼルエルの攻撃範囲は限られる。

 右側から回り込んでいる最中に抉り込んで来るリボンを紙一重で躱したところで、鋼鉄のように平らで薄く直線的だったそれがクニャリと紙のように形を変えると、武器を掴んでいる右手ごとリボンに巻かれた。

 

「しまっ――」

 

 途端にリボンは凄い力でキャリヤー本体の方向にドッと引っ張られる。

 引かれて伸び切った右腕を力任せに胸元に引き戻すと、武器でリボンの切断に掛かる。

 

「この!この!この!」

 

 三撃加えてようやくリボンは切れたが、その時は既にゼルエルキャリヤーの真正面で、キャリヤー本体の白い手が視界一杯に広がると2号機は頭を掴まれていた。

 掴まれた頭部装甲がメキメキ嫌な音を立て、頭に激痛が走る。

 

「ぐぅ……っ!? でも相手フィールドの中なら」

 

 塞がれた頭部視界は他の部位のカメラから、直接視界の角度で再構築される。痛みに呻きながら、危機をチャンスとして利用する。すかさず武器で切りつけた。

 迎撃するように薄い刃のような単分子膜の腕が打ち込んで来る。その腕は鋭くしなやかで、かつ頑丈。

 刃の腕の上を滑って長い火花を空に引く。

 待ち受ける2号機の表面でゼルエルのゼロタイム光撃の閃光が煌めいて、次の瞬間大爆発するそのエフェクトが両者の巨体を押し退ける。

 

「ウザ過ぎ。それ止めなさいよ!」

 

 閃いた瞬間にビーム着弾するゼロタイム光撃が面倒すぎる。全力で防御せねば突破されるし、意識を持っていかれるので他のキャリヤーの接近に気づくのが遅れた。

 別のエンジェルキャリヤーが腹部に抱える繭から鎖のようなものが飛び出し、2号機を襲う。見れば二重螺旋、使徒アルミサエルだ。その一撃目は頭部を狙ったものだったので2号機は首を傾けて躱すと、二撃目をマゴロク・カウンターソードで受け止めた。

 そのままマゴロク・カウンターソードを捻って暴れる二重螺旋を絡み取る。

 

「切れなくてもやりようはある!」

 

 アルミサエルを物理的には切断できないことは聞いており、逆に切れないそれをキャリヤー本体の首に巻きつけると力任せに引っ張る。

 頑丈すぎる二重螺旋を首を起点に引っ張られ、繭から完全に引きずり出されてしまうと幼生体のアルミサエルは独力では生存できない。裂かれる如きの悲鳴を上げて幼生体の使徒は絶命した。

 キャリヤー本体自体はまだ死んでいなかったが、腹部からの螺旋を引っ張られても為すがまま。

 

「しつこい!」

 

 ゼルエルキャリヤーが打ち込んで来るゼロタイム光撃の前に、2号機は元アルミサエルキャリヤーの死体を盾にして前に翳すと、ゼルエルの間合いに飛び込む頃にはビームを受け続けた死体は奇妙な塊と化していた。

 何度も着弾して立ち込める煙の中を二枚のゼルエルの腕がクロスして出現、それが左右にサッと開いた。

 その刃の軌道に倒れ込んだ元アルミサエルキャリヤーが不自然に真っ二つに離れる。x字を逆さに走った斬撃。

 攻撃の瞬間に上空に飛び上がって躱した2号機は、鋭い帯状腕によって大きな死肉の断片のように開かれた元アルミサエルキャリヤーの残骸を蹴りつけてゼルエルキャリヤーのATフィールドにぶつけた。

 ビシャリと残骸から漏れた体液がATフィールドに叩きつけられ、ゼルエルキャリヤーの視界を奪う。

 2号機の姿を見失ったゼルエルキャリヤーが一瞬硬直した隙にATフィールドを中和して突破。懐に潜り込んでマゴロク・カウンターソードを片手で保持して取り出した銃のグリップエンドを幼生ゼルエルの顔面に叩きつける。

 大したダメージはないが怯ませることには成功した。

 

「もう一丁!」

 

 銃を旋回させて開いている口に銃口を突っ込んで火を吹かせる。

 

「ギョオオアアアアアアアアアア!!」

 

 不快な大音響は幼生体ゼルエルの断末魔の悲鳴。

 弾体がキャリヤー本体を突き抜けて背中側からと抜けていくと、生命の鼓動を失った幼生体ゼルエルの体が朽ちていく。

 2号機は力が抜けて靡くばかりのセルエルキャリヤーの手を手綱のように握ると、落ちていくキャリヤーを持ったまま落下を加速。

 

「デビルキャリアも限界か。なら、最後まで利用し尽くさないとね!」

 

 再三の攻撃の影響を受けたデビルキャリアのN2リアクターに幾つものエラー表示が浮かぶ。緊急停止寸前。

 デビルキャリアの分離シークエンスの手順は丸々カット。それどころかN2リアクターのリミッターを解除して意図的にオーバーロードさせる。

 

「行きなさい!」

 

 ゼルエルキャリヤーを蹴って下方にしてから、オーバーロードを始めたN2リアクターを抱えるデビルキャリアを強制分離。

 オーバーロードによって推進力を増したデビルキャリアは進路上にあったゼルエルキャリヤーに激突。アスカの計算通りに鼻先にゼルエルキャリヤーを携えたまま、デビルキャリアは落ちていく――――通せんぼをしているサハクイェルキャリヤーの下へと。

 

「――っ!?」

 

 味方のATフィールドは反発しないのか、デビルキャリア諸共にサハクイェルキャリヤーと接触するかというところで、N2リアクターが臨界して爆発。片翼千メートルを超える使徒の腕を伸ばした中心に新たな太陽を作った。

 太陽から突然大火山が噴火したかのように天に向かって火を噴く。

 

「!」

 

 その一際、大きな爆発は黒々とした爆煙を神々しい柱のように立ち上げた。

 N2爆発で莫大な熱量を得た大気の上昇は、むくむくと湧き上がり形成されていく崩れた形の巨大なキノコ雲が、ヴンダーが開けたL結界の穴から外界にまで伸びていく。

 爆発から何テンポか遅れて、音響が衝撃波と共に遠く離れた8号機も叩く。

 

「ぁチッ!」

 

 8号機は爆心地から1㎞以上は余裕で離れていたが、拘束装甲複合材中の金属が、発生した爆発の余波を食らって全身にスパークが走る。

 デビルキャリアのN2リアクターのオーバーロードによる自爆は僅かにサハクイェルキャリヤーの中心をそれたが片翼の根元部分が蒸発した。

 両側に伸ばされていた腕はその付け根を失い、巨大でも非常に薄い構造の手はすっかり支える力を失って長辺が1000mを超える布状の幕となって崩れ落ち、爆発の衝撃に耐えきれなかったのか無事だった方の腕も根元からボロボロと朽ちていく。

 2号機も爆風によって上昇に押し上げられてたが、やがて物理法則に従って落下を始める。

 デビルキャリアを失って内臓電源に切り替わったが道を阻むエンジェルキャリヤーは視界内にはいない。カルヴァリーベースに隕石のように落ちていく。

 

「くっ」

 

 秒速5㎞で2号機はカルヴァリーベースに接触した。

 着地の衝撃によって大きな土煙がドッと上がり、カルヴァリーベースが鳴動した。2号機の足が立てるズガーッという接触音は、アスカの耳には拘束装甲内で反響しゴオーッという音で届く。

 アスカは液体コクピットが、2号機はATフィールドがなければ大きく損傷しただろう。

 

「ふぅ」

 

 ようやく止まり、強い負荷がかかった機体の状態にアラートが鳴り響く中でアスカは顔を上げる

 

「最終目標を光学で確認。予想通り起動前だわ。まだ動けない」

 

 視線の先、カルヴァリーベースで目立つ地の十字架に拘束されたような形の紫のエヴァンゲリオン。

 2号狗は軋む体を無理やりに動かして、目標に向かって歩み出す。 

 

「この新型、細部は違うけど初号機に似てる。それだけ思い入れがあるんだろうけど、こちらの方が早かったようね」

 

 障害物はない。真っ直ぐに向かいながらこれだけは手放さなかったマゴロク・カウンターソードを強く握る。

 アスカが目的を達成するまでエンジェルキャリヤー達をカルヴァリーベースに近づかないように立ち回っていたマリは動かないエヴァンゲリオンに眉を顰める。

 

「何かおかしい。ネーメズィスシリーズやエンジェルキャリヤーは補完計画の代行者であって、ネルフの尖兵じゃない。こんな無防備に13番目のエヴァを晒しているなんて、ゲンドウ君は何を企んでいる?」

 

 エンジェルキャリヤーの相手をしなければならず、マリが思考に集中できない間に2号機は新型エヴァンゲリオンの直ぐ近くに到達して、マゴロク・カウンターソードを逆手に持って切っ先を向ける。

 

「神に似せたところで所詮は人の作り出した汎用人型決戦兵器。完膚なきまでに破壊すれば後顧の憂いは無くなる。これで、お終い!」

 

 第13号機に向けて振り下ろされたマゴロク・カウンターソードが直前で赤い波紋の壁に阻まれた。

 

「これって、この新型のATフィールド? 違う。これは2号機のだ! 2号機が新型に怯えているっていうの?」

 

 マゴロク・カウンターソードを止めたATフィールドの発生源が自身が乗っている2号機から発せられていると感じ取ったアスカ。

 

「仕上げのインパクトには、どのみちこいつが必要になる。確実に今、始末しておくしかない。獲物が目の前にいてままならないなんて…………最後の手段ね。ごめん、2号機。また無理をさせるわ」

 

 キッと眦を決してモニター内に映る第13号機を睨み付けたアスカの文字通り最後の手。

 

「モード反転! 裏コード999発動!」

 

 アスカが左目を覆う使徒封印呪詛柱と同じ刻印が刻まれた眼帯を外して、眼孔に埋め込まれた小型の呪詛柱を物理的に引き抜いて叫ぶと音声入力を認識した2号機に変化が現れる。

 

「パターン青、第9使徒の反応? 姫、人を捨てる気!?」

 

 エントリープラグ内に鳴り響く新たな敵性存在のアラートに、再び現れたゼルエルキャリヤーとの間に常に別のエンジェルキャリヤーが入るように立ち回っていたマリはアスカが何をしようとしているのかを察して目を剥く。

 

「エンジェルブラッド全量注入! 人を捨ててでもやらなくちゃならないことがある!」

 

 唯一生きたまま捕獲・研究されていた第3使徒から抽出された体液が入ったシリンダーが2号機には搭載されている。通称・エンジェルブラッドと呼称されているそれらがアダムスのコピーである2号機に注入されると同時に呪詛柱が抜かれた第9の使徒がアスカの体で覚醒を始めた。

 新たな使徒へと変化を遂げようとしているかのように、2号機の左半身に埋め込まれたJA改の機械化パーツは内側から生えて来た肉によって押し出され、全身を光らせながら肥大化させていく。

 

「2号機のATフィールドを、アタシのATフィールドで中和する!」

 

 寄生型である第9の使徒による浸食を感じながら、アスカは人では成し得ない確信と共に2号機のATフィールドを中和しきった。

 障害の無くなったマゴロク・カウンターソードが振り下ろされるよりも早く、横合いから紫の手によって掴み取られる。

 

「なっ!?」

 

 コアがあると思われる胸の前で止められたマゴロク・カウンターソード。それを為したのは、近づいても動かないことから誰も乗っていないと思われた第13号機の両手。

 

「――――ご苦労だった、式波・アスカ・ラングレー大尉。これで全ての駒は揃った」

 

 使徒化によって電子機器が全て死んでいるはずの2号機のエントリープラグ内に男の声――――碇ゲンドウの声がアスカの耳に届く。

 

「だが、祭儀の器であるエヴァをヒト以外の姿に墜とした罪は大きい。ヒトの子は地の獣を支配せり。下がれ、獣よ。獣に堕ちた者に補完の詞は紡げない」

 

 マゴロク・カウンターソードを掴み止めたまま起き上がる第13号機。露わになったその右肩の装甲が開いたままになっているのを見たマリは全てを察した。

 

「しまった………ゲンドウ君の狙いは、使徒化した姫か!?」

 

 ゲンドウの声が耳に届いた瞬間、アスカの視界と聴覚が歪む。

 元より使徒化を始めた時点で尋常のものではなかったエントリープラグ内の前方から何かが這い出て来る。

 長い髪と鏡で見慣れた顔の主の正体にアスカは直ぐに気づいた。

 

「コアに消えたはずの私のオリジナル(惣流・アスカ・ラングレー)か!」

 

 コア方向から這い出たもう一人のアスカがプラグインテリアに足をかけ、式波・アスカ・ラングレーに手を伸ばす。

 

「最後のエヴァは神と同じ姿。あなたは愛と共に私を受け入れるだけ。さぁ、こちらへ」

「お生憎様ね、母親の後を追って消えた亡霊風情が! 私諸共に死になさい!」

 

 アスカは悪夢のような光景に、一瞬の躊躇いもなくDSSチョーカーに手をかける。

 2号機の使徒化に伴ってマギとのリンクは切れているが、DSSチョーカーは無理に外そうとすれば起爆するシステムになっている。使途化しているアスカの力ならばシステムは正常に作動するだろう。

 取り込まれるぐらいなら死を選ぶ。

 

「無駄よ、おバカさん」

 

 アスカがDSSチョーカーを引き千切るよりも早く、オリジナルアスカの手が頬に触れて体が硬直して一瞬で意識が遠ざかる。

 

「――――シンジ…………!」

 

 どこかスローモーションの中をもがくようにシンジの名を呼ぶことだけがアスカに出来る最後のことだった。

 

「アスカ――ッ!!」

 

 ゲンドウの目的を阻まんとしたマリが、デビルキャリアを犠牲にしてエンジェルキャリヤーを振り切ってカルヴァリーベースに降りて来たが、既にその時には形を失って崩れていく2号機からエントリープラグを奪い取った第13号機が装甲が開いたままの右肩の部位に挿入しているところだった。

 

「ゲンドウ君、君は!」

「真希波マリ。今は真希波・マリ・イラストリアスだったか」

 

 第13号機の左肩に埋め込まれているエントリープラグ内で、バイザーを着けているゲンドウが8号機を見る。

 

「丁度いい。全てを見届けるがいい、イスカリオテのマリア(真希波・マリ・イラストリアス)よ。この神への儚きレジスタンスの行く末を」

 

 完全起動を果たした第13号機が2号機だったモノの残骸を踏みしめて立つ。

 祝福するかのように飛来したロンギヌスの槍を左手に掴み、己が生誕を世界に示すかのように両手を広げた。

 

 

 

 

 

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