今話のタイトルはシン・エヴァンゲリオン劇場版 の挿入歌より
擬似シン化第1覚醒形態の天使の輪のような光のリングを頭上に浮かべて第13号機を追う初号機。
「いた!」
先を進んでいた第13号機を時間停滞スフィアの直上で発見する。
巨大な黒い球体の上に立っていた第13号機が、シンジ達が見ている中でロンギヌスの槍の穂先を球体に突き立てる。
二重の波長の違うATフィールドを纏わせたロンギヌスの槍の穂先が時間停滞スフィアに突き刺さり、まるでハンマーを打ち付けたように周辺部位まで含めて崩壊を始めた。
エヴァンゲリオンが通れるほどの隙間が開き、第13号機が時間停滞スフィアに突入する。
『穴が再生している。塞がる前に』
「分かってる。飛び込むよ」
姿は見えないが心に聞こえる渚カヲルの声に応えて、シンジは第13号機の後を追って空けられた穴から時間停滞スフィアの中に入る。
『あまりその力は使わない方が良い。ヒトの器に戻れなくなる。大地の束縛は安全装置でもあるんだ』
飛び込んだところで擬似シン化第1覚醒形態を解除すると同時に機体は自由落下を始めた。
地面までの間に周囲の光景が目に入る。
「ここは……あの時の。でもこんな髑髏は」
セントラルドグマを物理的に切り取った空間はサードインパクト前に入った時とは様変わりしていた。夥しい数の髑髏が地面を埋め尽くしていて、場所によっては山を形成している。まるで地獄にいるかのような光景だった。
高すぎるシンクロ率が着地した際の髑髏を踏み潰す感触を足裏に伝えて来て、嫌な感覚にシンジが顔を顰める。
『全てインフィニティのなりそこない達だ。君は気にしなくていい。今は他に注視すべきことがあるだろう』
カヲルの意志が指し示す先に、Mark06によって首を落とされたリリスが四つん這いになって硬直していた。その背にはカシウスの槍が刺さっている。
『リリスの目覚めは近い。カシウスの槍が遅らせているが、そう長い時間は持たないよ』
サードインパクト前、Mark06がセントラルドグマに持ち込んだまま行方知れずになっていた槍に意識が集中していたところに、背後から骨が踏み砕かれる乾いた音が聞こえて振り返った。
「良く来た、シンジ」
腕を組んで髑髏の小山の上に立つ第13号機。そのエントリープラグからゲンドウの声が届いた。
「父さん、アスカを返してもらう」
「お前に出来るのか? 何も為せず、逃げ出したお前に」
第13号機を見上げる形の初号機の中でシンジは胸が膨らんで肺一杯にLCLを吸い込み、ゆっくり吐く。
「もう、逃げないよ。決めたんだ。全てに向き合うって」
「言葉では、幾らでも言える」
「行動で示すよ!」
先手必勝。大きく踏み込んで髑髏を砕きながら飛んだ初号機が第13号機に挑みかかる。
しかし、次の瞬間には初号機が無防備に突っ込んでいったただの子供のように宙が回って引き倒されていた。
「――ぐっ!」
髑髏を撒き散らしながら転倒した初号機の中で、シンジは今の第13号機の動きに覚えがあった。
「この動きはアスカの――」
飛び上がり、既に拳を振り上げて攻撃モーションに入っている第13号機を前にして悠長に考えている暇はない。初号機を起き上がらせる間もないと判断したシンジは機体を転がせて避けた。左右どちらでもなく着地する第13号機の懐へ。
第13号機は振り下ろした拳の勢いを殺せない。初号機が避けた骸骨の地表に第13号機の攻撃がヒット、砕けた髑髏の破片が噴き上がる。
ゴオッと頭上を抜けていく巨体を初号機は下から突き上げるようにして肩で担ぎ上げた。
「このっ!」
柔道技で言えば肩車の形で力任せに第13号機は大地に背中から叩きつけんとした。
「甘い」
第13号機は2対目の腕の展開して、地面に手を付いて側転の要領で初号機の拘束を振り解く。
「もう止めてよ、父さん」
「駄目だ。私には、為すべきことがある」
「世界をメチャクチャにして、アスカを利用して、そこまでして父さんは何がしたいの? 為すべきことって何?」
「子供は何時もそうだ。問えば、必ず答えが返ってくると思っている!」
第13号機の脚が髑髏の大地を蹴り飛ばす。数千トン近いボディが、初号機に向かって猛烈な加速で突進する。対する初号機は右肩のパイロンから取り出したプログレッシブ・ナイフを左手に握って迎え撃つように構えた。
瞬く間に彼我の距離を縮めた第13号機はロンギヌスの槍を地面に突き刺し、棒高跳びの要領で初号機が振り抜いたプログレッシブ・ナイフを飛び越して躱すと、そのまま右膝のニ―ストライカーで初号機の後頭部に膝蹴りを入れた。
「あぐっ!?」
機体からのフィードバックでシンジの脳が揺れる。
SFでよくある脳波を読み取る思考制御を実装しているエヴァンゲリオンにとって、パイロットの思考途絶は次への行動を遅らせる致命的な隙を作ってしまう。
「エヴァンゲリオンが何故巨大なのか、考えたことはあるか? ああ、使徒と戦う為だという陳腐な返答はしてくれるなよ」
着地した第13号機がフラついている初号機に向けて右拳を突き出す。その拳から発生したATフィールドに突き飛ばされた初号機が更によろけた。そこに向かってロンギヌスの槍の穂先を向けて突進してきた。
「人類補完計画において、エヴァンゲリオンは祭儀の器なのだ」
ロンギヌスの槍がATフィールドを貫くことは2号機の実例を目にしたシンジも知っている。ATフィールドに頼るのではなく、穂先の先端を右手に持ち替えたブログナイフで危うく逸らせる。
ギィイイイーーーーーンと貨物列車が急ブレーキをかけるような不快な大音響を立ててナイフの上を滑っていく。大質量の突進はそれでは止まらず、火花を上げて通り過ぎたそれに続いて、第13号機の右肩が突っ込んできた。
「津々浦々あまねく人々の注目を集める為。その注目の数だけ意識を束ねられる。ヒトの向こう、丘の向こう、山の向こう、隠れることなく衆人は注目する。故に巨大なのだ」
初号機は相手のフィールドを左肩で真っ向から受け止めた。
互いのフィールドがぶつかって激しく反応し、何が酸化するのか火花が飛んだ。
「そんなことを聞きたいんじゃない!」
弾かれるように距離が開き、初号機がプログレッシブ・ナイフで斬りかかった一撃を、第13号機はロンギヌスの槍で受けた。そのまま力押しに移行、二体の巨人の影が髑髏の上でギリギリと固まる。
「はぁああああああああ!!」
同条件の第13号機のA.T.フィールドは、如何な覚醒した初号機といえども容易には破れない。シンジはただ勢いに任せて第13号機をシールドごと押し込み、髑髏が積み重なった山を横に砕いて沈める。
津波のように崩れ落ちる髑髏。砕かれた破片の粉が辺りに立ち込める。
先にそこから弾き飛ばされ出て来たのは初号機の方で、背中から叩きつけられた別の髑髏の山をATフィールドで轟々と崩す。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオ!!」
髑髏の隙間からゴッと光が噴き出した。一気に崩れる髑髏の山の中、天使の光輪を頭上に浮かべた初号機が歩み出す時、向かいの髑髏の山がドッと割れて第13号機も姿を現した。
「では、お前を信頼している。お前を愛している。そう言えば満足か、シンジ。だが、生憎だな。生まれたその瞬間から母親の、ユイの愛情を一身に受けるお前を妬ましいとすら感じていた」
「父さん……」
「シンジ、お前なら私の気持ちが分かるだろう。全てを消し去るのだ、苦しみしかないこの世界を。絶望に満ちたこの世界を、一つに」
愛することも、愛されることも、与えられることも、失うこともなく、何も考えなくても済むように、もう誰も苦しまないように、誰も苦しまないように、誰も悲しまないように全てを終わらせる。
「させない。僕が父さんを止めてみせる!」
「お前のひ弱な力では、私を止めることは出来ない」
「やってみなくちゃ分からない!」
初号機が突進して第13号機とぶつかり合う。
「まだ分からないか? 力では敵わない。我々の決着の基準ではないからだ。そうだ、これは力で決することではない」
初号機が、第13号機が、互いを攻める度に大音響が響き、突風が逆巻いて喚声のような唸りが上空に上がる。
「大人しく私に従え。そうすれば、お前も再び、母に会える」
「母さんだって!?」
巨大な物体はどれほど軽かろうがクイックに動くことは元来あり得ない。振り子運動の周期は質量ではなく長さが決定し、ヒト型はその集合体。その機動性の行使にはリアリティがない。
過去、神話的黙示録のような巨人同士の戦いは本当にあったのだろう。異常な戦いはその再現のようだった。
「まさか…………母さんに会いたいが為にここまでのことを?」
「お前の母親は私の救いであり、支えであり、希望だった」
シンジが驚愕で初号機の動きを止めたのに合わせて第13号機のゲンドウも静止する。
「愛する術も、愛される術も知らず、深く暗い地を這うような私の人生に唯一、神が与えた光がユイだった……」
今まで聞いたことのないゲンドウのたった一つを希求する声が真実だとシンジに悟らせる。
「だが、与えられた光は一瞬にして奪われた。私は神を呪い、そして問うた。奪うのなら何故与えのかと」
ねっとりとした空気が絡みつくような感情の重さ。
「与えるのなら何故奪うのか、何故それを繰り返すのか。罪深い人類に科せられた罰なのか――――シンジ、この世の全てのモノは奪われる為に存在するのだ」
初めてゲンドウは本音を語っていた。
「今のお前なら私の気持ちが分かるだろう、シンジ。この世界にもう希望などない。お前が私と同じように世を憎むなら、私と共に来い」
北上ミドリの復讐 トロワの死に際、鈴原サクラの願いがシンジの脳裏を駆け巡る。
答えはもう決まっていた。
「初めて父さんの心に触れた気がする。でも、僕の答えはもう決まっているよ」
シンジはゲンドウと違って世界を、神を憎まなかった。憎んだのはたった一つ、己自身。
「僕は父さんと同じ道を行けない。みんなの為に、世界の為に、この命を使い尽くすと決めているから」
「これだから子どもは苦手だ。何時までも無駄な抵抗を試みる」
再度の激突が始まった。
衝突する度にズゥンと鈍い音が響き、瞬間の光を目撃した後に遅れて来る音を聞く。
エヴァンゲリオンの、巨人の戦いは万事がこうだった。人の知覚では全てがワンテンポ遅れ、全てがスローモーションのように見える。実際遅いのではない。航空機がゆっくり飛んで見える理屈だが、巨人がヒトのカタチであるが故に、ヒトの視覚は無意識に人間の縮尺を当てはめようとして感覚の差異が生まれる。だから巨人たちはまるで重い水中でもがくように動く。それが感覚と不快にズレる。
「なんだ?」
戦いの最中、第13号機の動きにシンジは強い違和感を覚えた。
違和感は徐々に大きくなり、答えに辿り着くのにそう時間はかからなかった。
「僕と同じ動きだ」
「13番目のエヴァは希望の初号機と対を為す絶望の機体だ。互いに同調し調律をしている。これも私に必要な儀式だ」
まるで鏡移しのように全く同じ動きをする第13号機に、初号機に乗るシンジは戸惑うように攻撃を止める。
しかし、そこで背後から髑髏を幾つも砕く音が起きた。第13号機から距離を取ってシンジが音の方向を振り返ると、視界一杯に埋め尽くすように白い体が動き出していた。
「目覚めたか、リリス。ここに全ての駒が揃い、準備は整った」
更に初号機から大きく距離を取った第13号機が一振りした槍に、セントラルドグマ内の空気が不気味に唸る。
腹部から胸、胸から腕へと力を流し込むATフィールド生成のイメージ。ロンギヌスの螺旋部グッと膨れ、二本の穂先の間が輝いて内部に光点が生まれた。
「人類の生命の源たるリリス、MHGシリーズが作り出した槍、重複したアダムの生き残りであるエヴァンゲリオンMark06を素体とした第13号機、第9の使徒の魂、そしてヒトの持つ知恵の実、
インパクトを起こす媒体は最終的に槍で制御される。
それは生命樹式の抜けている段階を飛び越し、見えていない上の式、補完に至る橋をかける作業で槍を介在させないということは、もうそこで放射されるエネルギーとして消えることを意味する。
「四度の報いの時が今」
輝く光を穂先に挟んだロンギヌス。その輝きが全てを飲み込んで満たそうとする。
「させない!」
インパクト発動前に止めようと動こうとした初号機に向かってロンギヌスの槍が投げられた。その速度は2号機に投げられた時の比ではなかった。物理法則を無視して、一瞬で秒速90㎞に到達。人の認識上では、接近されてからではもう何も対処の暇がない速度。
進路上にプログレッシブ・ナイフがあったが何の意味もなかった。一瞬で砕かれ、槍の穂先が初号機のコアを貫く。
「ッァアアア―――ッ?!?!?!」
遅れて来る現実感のない激痛と浮遊感。
ロンギヌスの槍ごと背中から何かに激突した。まるで自分の心臓を貫かれたかのような感覚に胸に手を当てていたシンジは、フワリと柔らかい物に受け止められた背中の方を咄嗟の反応で見た。
「リリス!?」
首を生やしたリリスがロンギヌスの槍に貫かれた初号機を取り込みにかかる。
瞬く間に白く膨張していく生命根源の裡に取り込まれたシンジは、まるで母の胎内に帰ったかのような感覚に陥った。
「うわぁあああああああっ!!」
以前であれば耽溺したであろう感覚に必死に抗い、シンジが叫ぶと共に初号機が光り輝く。
光は同化しようとしてくるリリスの白い肉を弾き返し、コアに刺さっていたロンギヌスの槍をも吹き飛ばす。
初号機の裡から決壊しそうなほど溢れて暴れるパワーがニュートン物理のそれを超えさせる。全てを飲み尽くそうとするその力は、インパクトを起こし得る絶大なもの。拒絶されたことに戸惑うように震えるリリスから吐き出された初号機が髑髏の山に頭から突っ込んだ。
『良いのかい、シンジ君? ヒトの器から外へ出てしまったら、君はヒトへ戻れなるよ』
と、シンジの脳内にカヲルの声が響く
「構わない。僕は――」
髑髏の山から身を起こした光り輝く初号機の威容に反し、シンジは返事も辛そうだった。
個人で制御出来るはずもない力を持たされたシンジは拡散しそうな自分の思考をギリギリで保っていたが、続く言葉を呑み込んだのは手が何かを掴んだからだった。
「これは、カシウスの槍? なんだろう、不思議と手に馴染む」
リリスの目覚めによって抜け落ちたカシウスの槍を握っていると、無理に抑え込んでいる力による苦しさが緩和されるような気がする。
『本来の主の下へ戻って来たんだ。馴染んで当たり前だよ』
「遂に始まる。神が自ら時を選んだのではない。この私が決めたのだ」
カヲルが気になることを言っている間に、弾き飛ばされたロンギヌスの槍を掴んだ第13号機が空中に浮かび、膨張を続けるリリスを見下ろしながら初号機同様に光り輝き始めた。
「最早引き返すことは出来ない。これはゼーレの意志ではない。古より定められた死海文書の先へ。不要な体を捨て、欠けた心の補完を。全ての命を今一つに。等しき死と祈りをもって、人々を真の姿に」
第13号機は振り上げたロンギヌスの槍を己のコアに突き刺す。
「アダムとリリスの禁じられた融合を以て、ガフの扉の向こう側へ」
膨張を続けるリリスが第13号機を取り込み、大きく仰け反った。第13号機を取り込んだリリスが体を起こした時、それはもう輪郭の無い光の巨人となっていた。
「もうすぐ会えるな、ユイ」
光の巨人は爆発的な光の津波となって周囲を飲み込み始めた。
「うわぁああああああああああああああっ!?」
突如として太陽が生まれたような巨大な閃光。そこにあった全てを衝撃波で叩き、光に呑みこまれた初号機を巻き込んで空気分子を焼いて広範な空を赤く燃やした。熱、光、風、波、衝撃波、電界騒乱、そこで発生したあらゆる波動は、外へ外へ伝播していく。
空をみっしり埋めた雲が凄い早さで押し流され、稲妻が横に走る。カラフルな光は電界異常で雲の上にオーロラでもたなびいているのだろう。
Mark09に制御を奪われたヴンダーの艦首上に集まった船員達。その中でマギの端末PCを手にした伊吹マヤの横から赤木リツコがとあるデータを目にしていた。
「エヴァ初号機の再起動の秘密。まさかシンジ君の本当のシンクロ率は0ではなく、それに最も近い数字」
「はい、シンクロ率、無限大です」
何時までも0が続く数値にリツコだけではなく、マヤもまた誤っていたことを気づかされる。
「完全なシンクロ、いえ同一化かしら」
「興味深い事柄ではありますけど」
「何時、インパクトが始まってもおかしくはない状態にある、か」
「私達の選択は正しかったんでしょうか」
「分からないわ、そんなこと」
科学者として大事なのは今を直視することであり、間違いを悔やむ段階は当に過ぎている。
いずれにせよ、様々な光る象形が乱舞するこの場所でこうなってしまってはヴィレには一人戦いに赴いたシンジを信じるしか出来ることは何もない。だからこそ、今も崩壊を続ける時間停滞スフィアをミサトは唇を噛んで見つめ続けていたが異変は起こった。
「光の巨人――」
「駄目だったの、シンジ君?」
ミサトは崩壊した時間停滞スフィアの中から光の巨人が起き上がっていく様を見て父親の形見であるクロスを思わず握る。
見れば誰もが平静ではいられないだろう。居合わせた全ての者達は目で追い、既に雲にまで達しそうなほど大きくなっていく光の巨人を見る為に顔を上げていく。
「神よ」
「くっそ……!」
長良スミレの祈りは足掻いた上の恭順か、高雄コウジが吐き捨てたのは無力の嘆きか。
「次元測定値が反転、マイナスを示しています。観測不能、数値化できません!」
「アンチA.T.フィールドか」
巨大化を続ける光の巨人から後方にむかって突如突き出した三翅の光の翼。光の翼の展開は衝撃波のような波動を伴って空間を突き飛ばして、この南極そのものを鳴動させた。
「全ての現象がセカンドインパクト、サードインパクトと酷似している。これがフォースインパクトの前兆なのか」
三翅の光の翼が突然、見渡す空一杯を横切って覆うと、三翅はそれぞれ分裂、六翅の翼となった。
翼は地平に沿って伸び続け、地上にいるミサト達の目ではその全容を伺い知ることは出来ない。
「シンジ君――」
混乱するヴンダーの艦首上で、セカンドインパクト唯一の生き残りは違和感を感じた。
「アンチA.T.フィールドが臨界点を突破! リリスよりのアンチA.T.フィールド、更に拡大。物質化されます」
「ガフの部屋が開く。世界の始まりと終わりの扉が遂に開いてしまう」
記録では、光の巨人が現れて暫くしてから圧力を伴う光が直径4000㎞ほどを飲み込み、地球は半壊滅的な被害を被った。それがセカンドインパクト。
セカンドインパクトで観測されたように、インパクトの最終局面は全てのエネルギーの大解放で終わる。
大部分が重力子とフォトン、その他あらゆる粒子全振幅の大津波。電磁波、放射線、重力波、あらゆる波動がヴンダーを容赦なく叩き始めていた。
「も、もうダメなんだ!?」
多摩ヒデキが取り乱して走り出し、8号機のATフィールドの範囲外に飛び出してしまったことで、アンチATフィールドをまともに受けてLCL化して個体としての姿を保てなくなった。
「ひ――」
一番近くにいた者が多摩の名か悲鳴を口に仕掛けたところで同じようにLCL化する。
LCLは艦首に落ちず、重力に逆らうように浮かび上がっていく。浮き上がった物はどこにも落下しなかった。あらゆる物が重力を失ったように空に浮いているのだ。
「アンチATフィールドが8号機のATフィールドを浸食! ダメですこのままでは」
アンチATフィールドによって次々と8号機から遠い順にLCL化していく。
「この星の古の生命のコモディティ化。全ての魂をコアに変え、エヴァインフィニティと同化させる、フォースインパクト…………私達の負けね」
「これが人類の終末……」
ミサトは呟く。思わず拳を血色が変わる程強く握る。
「人には常に希望という光が与えられている。だが、希望という病にすがり溺れるのも人の常、私も碇も希望という病にしがみつき過ぎているな」
エアレーズングにいた冬月コウゾウもLCL化して、8号機に乗っているマリを除いてたった一人の例外もなく全人類がLCL化してしまった。
「人類のフィジカルとメンタル、両方の補完を同時に発動させるとはなぁ。ゲンドウ君、君は」
最後にマリもアンチATフィールドに呑み込まれ、地球から人類はいなくなった。