新劇場版 急・結   作:スターゲイザー

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予定を変更して今日中に全て投稿します。


本日二話目です。



今話のタイトルはシン・エヴァンゲリオン劇場版のテーマソングより




第22話 One Last Kiss

 

「ユイ、ユイ、ユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイユイ――――――――ユイ、どこだ!」

 

 ゲンドウは最愛の人を探し続けた。

 

「どこだ、ユイ!」

 

 エヴァンゲリオンのごく初期型制御システムのダイレクトエントリー実験で、初号機のコアに消えた碇ユイは帰って来なかった。

 サルベージも失敗し、出て来たのはユイの体の情報を持つ複製体――――綾波シリーズだけ。

 

「ここにいるのは全てレイか…………どこなんだ、ユイ」

 

 どこかの施設で、何度サルベージを行っても碇ユイではなく後の綾波レイだけが現れた。

 魂のない器が散乱する中で、ゲンドウは妻を求め続けた。人から見れば狂気としか思えない惨状を作り上げながら。

 

「――――私はゲンドウ君に何も言えなかった」

 

 ユイを探し続けるゲンドウを見つめる真希波マリ。

 シンジの知る姿ではない。眼鏡もないし髪も縛らずに後ろに流した大人の姿。そんな彼女がユイを探し求めるゲンドウの背中を悲し気に見つめていた。

 

「ユイさんの誤算は自分に向けられるゲンドウ君の愛情の重さを見誤ったことかな? それとも私が意気地なしだったことかな?」

 

 狂気に蝕まれて行くゲンドウを見つめる大人の真希波マリは悲しみとも諦観ともいえる笑みを浮かべる。

 

「何もしなかった。協力も、止めることも、何も、何も」

 

 場面はゲンドウがゼーレの人類補完計画を乗っ取り、ユイに会う為だけの新たな計画を作り上げたところへと移った。

 

「今日から新たな計画を推奨する。キール議長には提唱済みだ」

「まさか、あれを!」

「そうだ。嘗て誰もが為し得なかった神への道、人類補完計画だよ」

 

 初号機にはユイはいないと認め、一週間も行方を晦ませていたゲンドウは冬月と真希波マリを呼び出して己が計画を語った。

 ゲンドウは知らない、ユイの遺志を。知っていた真希波マリが言わなかったから。

 

「私は逃げ出した。ゲンドウ君から――――ユイさんの遺志からも」

 

 ドイツの招聘を受け、ゲヒルンを辞めて逃げるように渡独した直後に体に異変が起きた。

 初号機に続くエヴァンゲリオン、2号機の開発中に倒れる真希波マリの姿。

 

「逃げ出した罰なのか、病魔に侵された私は余命いくばくもない状況になった」

 

 現代の医療では治療は間に合わない。追い詰められたマリは取ってはいけない方法に出た。

 

「ヒトのクローニング。綾波シリーズで既に確立されてしまった技術を使って私は私を作り出した」

 

 だが、それだけでは何の意味もない。真希波マリが求めたのは更にその先。

 

「同じ知識と思考を流し込めば、同じ人間ができると安直に考えて実行した。普通に考えれば成功するはずのない実験なのに」

 

 ゲンドウが使っていたプラントを利用して、綾波シリーズを作った技術を流用して自分の細胞を複製して子供の姿にまで培養。自身の脳をデータ化して培養したクローンに流し込んだ。

 

「結果として、成功はした。異物は混ざってはいたけど」

 

 目覚めたクローンは真希波マリの記憶と知識を有した、もう一人の真希波マリだった。ただ、別世界の記憶をも有していたことを除けば。

 

「いやまあ、アッシとして驚天動地の心境でしたわ。なんせ自分がもう一人いて、自分(真希波・マリ・イラストリアス)には自分(真希波マリ)じゃない自分(過去世界のマリ)の記憶があったんだから」

 

 大人のマリの隣に、子供のマリが現れた。

 

「過去世界の私のことは、大人の私のとは違って実体験の伴わない映画を見ているような感じかな」

 

 そもそも過去世界のマリは今も月でアルマロスや箱舟と共に眠っている。仮にマリの人間的な魂が巡ったのだとしても、魂は傷ついていて次世界への転生はないはずだった。

 

「アダムが重複したみたいに箱舟がバグっちゃって、特異な生まれ方をした(真希波・マリ・イラストリアス)(マリ)の情報が誤って混じっちゃたのか…………全部推測になっちゃうけど、それでもこの世界が所謂、ツミにあることは理解しちゃったんだよね。まあ、生まれてしまったんだからしゃあないってことで生きていくことにしたわけよ」

 

 真希波・マリ・イラストリアスはその後、直ぐに死んだ真希波マリのしていたことを引き継ぎ、2号機の開発に携わった。

 

「第3使徒のサンプルがあったから埋め込んで、開発者権限でビーストモードを作ったりしてたらゼーレに見つかっちゃってね。何事もやり過ぎは良くないにゃあ」

 

 今までの世界には、この時点では決して存在しない少女の正体にゼーレは直ぐに辿り着いた。

 何しろ彼らは時の輪を超えても消えることなく受け継がれる知識を有する者達。前回世界に現れた特異存在を知悉していたのだから。

 

「でもでも、悪いことばっかじゃないんだよ? ほら、このオリジナルにはないたゆんとしたオッパイ! 日本の環境よりも海外の方がアッシには合ってたことだね」

 

 体は脳は入れ物で、大人の記憶を入れれば大人のように考えて行動するなんてことは無かった。記憶と知識を有していようとも、脳年齢が若いと思考に大きく差が出た。体内年齢から生じる好奇心や集中力の差異が生まれる。

 境遇も育つ状況も違えば同一人物でも思考や性格がオリジナルとは少しずつズレていく。食事や普段の生活からして代われば、体型が変わることは寧ろ当然のこと。

 

「捕まったアッシはベタニアベースで5号機の開発とテストパイロットをしながら、第3の使徒の研究に協力させられる日々が待っていたのだった、ちゃんちゃん」

 

 結果として真希波・マリ・イラストリアスの存在が使途研究を進める大きな一助となり、MHGシリーズやエヴァオップファータイプの開発に繋がっていくことになるのは余談に過ぎない。

 

「コネメガネがゼーレに捕まった暫く経った後、死んだママを追って(惣流・アスカ・ラングレー)がいなくなった」

 

 ベタニアベースでの実験風景が、雨の中で葬式が行われる中で父と手を繋いで立っていた少女がどこかへ走る姿へと移る。

 

「2号機パイロットの喪失は我々(ゼーレ)にとっても想定外だった」

 

 小さなアスカが消えて、ゼーレの知識を有するゲンドウが話す。

 

「如何なる世界であっても、リリンによる補完計画を発動するには全ての使徒に勝利しなければならない。だが、その為には初号機と零号機だけでは難しいと言わざるをえない。補完計画の遂行には2号機の、そのパイロットの存在は必要不可欠だったがサルベージは失敗した。戻らないのならば作るしかない」

 

 そしてゼーレはまた禁忌を破った。

 

「真希波・マリ・イラストリアスに行われたように脳のデータを流し込んでも、そこにいたのはオリジナルとは遠く離れた不完全なクローンにしかならない。綾波レイのような運命の必然はなかった。だからこそ、ゼーレは複数のクローンを作成して、そこからオリジナルに近い者を2番目の少女として選抜することにした」

 

 そうして生み出されたのが惣流・アスカ・ラングレーのクローン、後にシキナミタイプと呼ばれるクローン体の数々だった。

 

「アタシに名前は無かった。他にもアタシがいて、みんな番号で呼ばれてた」

 

 そのアスカの原初の記憶は、数多ある培養層の一つのいる自分を実験動物を観察するような目で見る科学者たちの顔のない顔。

 

「実験を重ねる度にアタシ(・・・)が減っていった。誰も気にしないし、最初からいなかったかのように扱われる。アタシにも気にしていられる余裕なんてなかった。次にいなくなるのはアタシかもしれないから」

 

 張り出されていた一覧から写真が消えて『TERMINATED(抹消)』と書かれた張り紙に変わる。ヒトのエゴによって生み出され、能力が基準を満たさないと判断されればどこかに連れて行かれて二度と姿を見ることは無かった。

 

「最後の二人になって、勝ち残ったのはアタシ」

 

 候補者のパフォーマンスが基準に満たず、対処のコンディションと状況を精査した結果、回復もしくは必須水準まで戻る可能性は極めて低いと結論付けられて、研究リソースは割り当て直された。

 

「そこで初めて名前を与えられた、式波・アスカ・ラングレーと」

 

 もう一人がどうなかったか知らないし、知る必要もなかった。オリジナルが消えたコアは上位機関によってどこかに運び出され、新たなコアが持ち込まれた直ぐ後にアスカに成れなかったもう一人がいなくなったことも、式波・アスカ・ラングレーには関係のないことだった。

 一人残ったアスカは自分を証明し続けるしかない。証明できなければ、自分も名前を得られなかった自分と同じように消されて新たなクローンが生み出されるだけと知っていたから。

 

「オリジナルのアタシと違って、アタシにはパパどころかママもいない。認めてくれる人も誰もいない。だから誰もいらないのよ、アスカ」

 

 ネルフドイツはオリジナル(真希波マリ)を凌駕するほどの実績を出したクローン(真希波・マリ・イラストリアス)を知っていた。オリジナルを超える明確な実績を出せないクローン(式波・アスカ・ラングレー)のことを奇異な目で見るのは当たり前のことだった。

 

「誰もいなくていいようにする、そうしないと辛いから。生きているのが苦しいから、エヴァに乗る。人に嫌われても、悪口を言われても、エヴァに乗れれば関係ない。他に私の価値なんてないもの」

 

 式波・アスカ・ラングレーに求められたのはエヴァンゲリオンを動かす能力だけ。

 大学に通うなどした過去世界の惣流・アスカ・ラングレーと違い、自分の足場すら保証されていない式波・アスカ・ラングレーは訓練で強靭な心と体を作り上げようとした。誰もただのアスカを必要としてくれないのなら、一人でも生きて行けるように。

 

「誰も必要としない、強い体と心を持つの。だから私を褒めて、私を認めて、私に居場所を与えて」

 

 場面は移り、オリジナルのアスカがまだ健在だった頃、日本のゲヒルンから視察に訪れた碇一家の姿を映し出す。

 車から降りた時、息子を抱えていては大変だろうと妻を気遣った旦那が子を受け取った瞬間、息子は安住の地から放り出されたかのように泣きだした。

 宥める母親と暴れる息子に困った顔の父親。

 やがて母の胸の中に戻った息子は安心したように笑う。

 アスカが求めてやまない当たり前だが当たり前ではない家族の風景を、小さなアスカは憧憬の眼差しで見る。

 

「でも、本当は寂しい。本当はただ誰かにここにいてもいいって言ってほしかっただけなの」

 

 小さなアスカの言葉が聞こえたわけではないだろうに、母に抱かれていたシンジがこちらを見た。

 母の腕から下りたシンジが真っ直ぐにアスカに向かって走り出す。

 

「アスカ!」

 

 気が付いた時には、赤い海と崩れたビルが乱立する真っ暗な世界にアスカは横たわっていた。

 左目は包帯で覆われていて、動かした左手にはプラグスーツのあちこちが破れている感覚。

 そして隣には学生服を着たシンジが三角座りをして、遠くで石像のようになって赤い海に立っているエヴァンゲリオン量産型を見つめている。その向こうには巨大な綾波レイの崩れた顔もあった。

 

「満足したからしら、人の過去を勝手に見て」

「ごめん」

「謝れば済むと思っているわけ?」

「そういうわけじゃないけど、謝らなくちゃ何も始まらないと思ったんだ」

 

 アスカの知らないシンジの反応。

 彫像にしては趣味が悪すぎる巨大な綾波レイの顔を見るシンジの目に浮かぶ光はアスカの知らないものだった。そのことがかなり腹立たしくて背を向ける。

 

「僕もアスカと一緒だよ。いや、もっと酷い。みんなに認められたかった。誰かと一緒にいたかった。誰かに傍にいてほしかった。誰かに触れてほしかった。誰かに手を繋いでほしかった――――ここは、そんな僕達が行き着いた一つの世界」

 

 この行き着いた世界は、一つの失敗がやがて取り返しのつかない事態へと繋がって、息をすることすら辛くなって身動き一つ取ろうとしなくなったシンジの選択が遅れに遅れてしまった所為で、どうしようもない終末に至ってしまった。

 

「何時だって僕は遅すぎる。遅すぎて、こうなる」

 

 物事を大きく考えると必ず他者を巻き込む。その侵入と接触がイヤで全てを小さく纏めようとしていたシンジが何も決断できなかった世界はそうして行き詰まった。

 

「ごめん、アスカ」

「謝っても、何も戻らないわ。あの世界は、もう終わったのだから」

「うん」

 

 過去へは戻れないのだから謝罪に意味はない、この世界の記憶を有する例外を除いて。

 ならば、謝罪に意味はあるのだろうかとアスカは考えて、謝罪を口に出来ること自体が既にシンジがこの世界の出来事を乗り越えている証明なのだと気づいた。

 

「気持ち悪い。蹲ってないアンタなんて」

 

 アスカの知るシンジは何時もウジウジとしていて、辛いからと泣いて、自分を見てほしいと蹲る姿ばかりだ。顔を上げて前を見ている姿なんてアスカは知らない。

 

「流石は無敵のシンジ様ってことかしら」

「まさか」

 

 否定したシンジは、この世界では宇宙へと飛び立った自分の専用機(初号機)を探すように赤い雲に覆われた空を見上げる。

 

「特別なのは初号機の方だよ。僕自身の力で為せたことなんて数えるほどもない」

「本当に特別な奴はそう言うのよ」

「僕は凡庸な人間だよ。ただ、特別な親から生まれて、特別な物に乗る羽目になっただけの、人の言葉を借りるなら、そう――――『運命を仕組まれた子供』に過ぎない」

「はっ、気取った言い方しちゃって」

「そうかな」

「そうよ」

「…………何か言うことはないわけ?」

「別に何も」

 

 ここは心が補完された世界。

 シンジは知った、アスカの特異な生まれも、何を思い何を考えて生きて来たのかを。

 

「生まれ方とか、名前とか、本物だと、偽物だとか――――何も関係ない。僕にとってアスカはアスカだ」

 

 それだけで十分なんだ、と甘えて依存するだけでアスカが弱っていた時に何も出来なかった後悔を胸にしまい込んで、今だからこそ伝えられる言葉を口にする。

 

「これだけは、伝えておきたかったんだ。僕にはない色んな物を持っていたアスカだからこそ好きだったって」

「なっ!?」

 

 背を向けていたアスカはシンジの発言に思わず起き上がって振り向いた。

 

「ば、バカじゃないの!? こんな左眼の欠けた重い女に好きだなんて」

「左眼? 僕には何も欠けているようには見えないけど」

「え?」

 

 シンジの手がアスカの左目付近に伸ばされる。すると、何か光が奔ったような気がした。

 

「欠けていた部分は箱舟の力で補っておいたよ。今の僕ならこれぐらいのことなら出来る」

 

 左目を覆っていた包帯を外してみると、視界が広がる。

 瞬きをして、右目だけを閉じても左目に映る世界は消えてなくならない。

 

「呆れた。まるで神様みたい」

「精々が真似事だよ。完全にいなくなった人は戻せない」

 

 寂寥に満ちた顔でシンジが立ち上がり、まだ座ったままのアスカへと手を差し伸べる。

 

「もう、立てるかい?」

「立ったところで、どうするのよ。ここに行き着いたら、もうどこにも行けないのに」

「どこへでも行けるさ。自分の歩く道は自分の足で探すんだ」

 

 補完が行われてしまったら自分達に出来ることは状況を受け入れるしかないと知っていたアスカと違って、シンジは手を伸ばし続ける。

 

「道は平坦ではなく曲がりくねっているかもしれない。雨に打たれ、風に巻かれ、凍える日もあるかもしれない。けれど、縁がきっと行き先を照らしてくれる。君の未来は無限に広がっている」

 

 なんてクサいかな、と自分で口にしたことに苦笑したシンジがアスカの背後を見て手を引っ込める。

 

「縁なんて私には」

「アスカを好きだと言ってくれる人はいるよ。ねえ、マリさん」

「あいあいさー」

「コネメガネ……」

 

 蹲ったままのアスカはシンジの呼びかけに、突如として現れた真希波・マリ・イラストリアスを見る。

 

「ありがとう、マリさん。箱舟のことも」

「いやいや、礼を言われることじゃないって。雇われ管理人の別存在が頼んだだけで制御権が移るぐらいガバガバだったんだもん」

 

 大口を開けて笑って大したことではないと言い切ったマリが呆然としているアスカに向かい合う。

 

「アッシはさ、外面と内面のギャップに弱いんだよね。外見は弱そうなのに内面は強い人(ユイさん)外見は強そうなのに内面は弱い人(ゲンドウ君)的な感じ? ああ、好きになる相手の性別なんて無問題(モーマンタイ)。両方いけるよ」

「えぇ……」

 

 急に現れたと思ったら恋愛観をカミングアウトしたマリにドン引きするアスカ。

 勢いと流れには乗るものと勝手に自負しているマリが蹲ったままのアスカの手を取って立たせる。

 

「前の世界と今世でかけた迷惑の詫びってわけじゃないけどさ。好きな人には幸せになってほしいんだ、アスカ」

 

 マリの隠しもしない好意にアスカが付いていけていない間にシンジは歩きだしていた、二人から離れていく方向に。

 

「シンジはどこへ行くの?」

「まだやらなくちゃいけないことがある」

 

 顔だけ振り返ったシンジはアスカが見たことないほど穏やかに笑って小さく手を振る。

 

「さよなら、アスカ――――みんなによろしく」

 

 

 

 

 





マリ関連のあれこれと、アスカ関連のあれこれは全て本作設定です。

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