新劇場版 急・結   作:スターゲイザー

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本日三話目です


今話のタイトルは小説版タイトルより




第23話 ANIMA

 

 

 

 一つの世界が閉じられ、視点は観測者(ゲンドウ)の下へと戻る。

 

「第9の使徒の依り代は補完を受け入れ、ATフィールドを、心の壁を解き放ち、欠けた心の補完はなった」

 

 エヴァンゲリオンイマジナリーのいる場所で補完が為されて行く道程を見守ったゲンドウは己が計画の完遂を前にして、彼にしては珍しく口元が僅かに笑みの形に歪む。

 

「後はここでインパクトさえ起こせば」

「父さん、もう止めようよ」

「何故だ?なぜシンジがここにいる。全人類の補完は成ったというのに」

 

 補完がされていない例外はリリン以外の魂を持つたった二人だけ。全人類の心の補完は第9の使徒の依り代(式波・アスカ・ラングレー)の補完を以って完了したのは間違いなく、シンジがこの場所に現れた理由がゲンドウにも分からなかった。

 

「まだ補完は終わってないよ」

 

 学生服で対峙するシンジの手にはゲンドウが求めたもう一つの槍、ルクレティウスの槍がある。

 

「今回の補完の中心、円環の元は父さんだ。父さんは何を望むの?」

「何故、それを私に問う?」

「父さんのことが知りたいから、寂しくてもいつも父さんに近づかないようにしていた。嫌われているのが、はっきりするのが怖かったんだ。でも今は知りたい、父さんのことを」

 

 ゲンドウに近づこうと数歩前に出たシンジの前に広がる赤い壁。

 心の壁は相手を拒絶する時に現れる。心理的障壁が無意識に展開された意味をゲンドウは認められない。認められなくても、結果として現象が目の前にあったとしても。

 

「ATフィールド、人を捨てたこの私がシンジ相手に? まさかシンジを恐れているのか、この私が」

 

 赤い壁の前で足を止めたシンジが制服のポケットから古ぼけたSDATを取り出す。

 

「これは捨てるんじゃなくて、渡すものだったんだね。父さんも僕と同じだったんだ」

 

 ATフィールドに弾かれることなく、ゲンドウの前に差し出されるSDAT。

 

「ああそうだ、ヘッドホンが外界と私を断ち切ってくれる。無関心を装い、他人のノイズから私を守ってくれた。だが、ユイと出会い、私には必要がなくなった」

 

 SDATを受け取ってしまったゲンドウの補完が始まる。

 

「幼い頃から親に連れられて他の家に行くのが苦手だった。興味のないクラスメイトや親戚の家に連れて行かれて、その生活の情報や道理を押し付けられるのが嫌だった。他人といるのが苦痛だった。私は常にヒトリでいたかったのだ」

 

 ゲンドウは人との繋がりを恐れた、人で溢れる世界を嫌った。幼い頃から孤独が日常だった、。だから寂しいと感じることもない。だが、世間にはそれを良しとしない人間もいる。その筆頭がゲンドウの親であり、周りにも多くいた。

 

「一人が好きだった。私も他人も誰も傷付くことがない、一人が楽だった。だが、ユイと出会い、私は生きていることが楽しいと感じることを知った。ユイだけがありのままの私を受け入れてくれた」

 

 子どもの頃から一方的に得るだけの知識がゲンドウの心の飢えを満たしてくれた。知識に気遣いは不要だから、時間のある限り自分の中に好きなだけ与えることが出来たからだ。その考え方を碇ユイだけが肯定してくれた。

 

『セカンドインパクトの後に生きていくのか、この子は。この地獄に』

『あら、生きていこうと思えば、どこだって天国になるわよ。だって、生きているんですもの。幸せになるチャンスは、どこにでもあるわ」

『そうか、そうだったな』

『名前、決めてくれた?』

『男だったらシンジ、女だったらレイと名付ける」

『シンジ、レイ』

 

 在りし日の肖像、幸福な時間を今のゲンドウが見守る。

 

「親の愛情を知らない私が、親になる。やはりこの世界は、不安定で不完全で理不尽だ」

 

 幸せは突如として奪われたゲンドウは自らが堕ちていく様を嘲った。

 

「ユイを失った時、私は、私一人で生きる自信がなくなっていた、初めて孤独の苦しさを知った」

 

 孤独を望んでいたはずなのに、他人を受け入れて喪失した時に訪れた苦しみは望んでいた心地良さは欠片もない。まるで嘗て望んだことが遅れて実現したことを喜べとばかりに地獄の苦しみだけが手元に残った。

 

「ユイを失うことに耐えることが出来なかった。ただユイの胸で泣きたかった。ただユイの傍にいることで、自分を変えたかった。ただその願いを叶えたかった。私は私の弱さ故に、ユイに会えないのか、シンジよ」

「その弱さを認めないからだと思うよ。ずっと分かっていたんだろ、父さん」

 

 蹲るゲンドウを憐憫の眼差しで見下ろすシンジ。

 

「願いを叶えるには報いが伴う。子どもは私への罰だと感じていた。子どもに会わない、関わらないことが、私の贖罪だと思い込んでいた。その方が子どもの――――シンジの為にもなると信じていた」

 

 場面がどこかの駅のホームに移る。

 いるのはゲンドウと幼いシンジ、そしてユイに似た雰囲気のシンジにとって叔父夫婦の4人。

 

『どうかよろしくお願いします』

 

 叔父夫婦に深々と頭を下げたゲンドウが幼いシンジを残して止まっている電車へと踵を返した。

 

『父さん、待って。どこに行くの?』

『仕事だ。しばらく会えない』

『いやだ、行かないで。置いて行かないでよ』

『我儘を言うな。伯父さんのところで良い子にしてろ』

『母さんはどこ? 母さんはどこに行ったの?』

『母さんは死んだ』

『嘘だ』

 

 追いかけて来るシンジ。振り払うように言葉を投げかけるゲンドウ。

 

『いやだ、いやだよ父さん。父さん!』

 

 ゲンドウは逃げ出した。耳には何時までも幼いシンジの甲高い泣き声が残っていた。

 

「私がシンジに与えられたのは苦しみだけだ」

 

 親の愛情を知らなかったゲンドウはシンジにどう接したらいいのか分からなかった。だから、突き放すことしか出来ない。

 

「人類補完計画を進めるにはエヴァ初号機のパイロットとして、第三の少年として、シンジの存在は必要不可欠だった。真なるエヴァンゲリオンであるMark06の存在によって前提が代わってしまったが、ユイを再構成する為のマテリアルとしてシンジが必要か否なのか、最後まで分からなかった」

 

 それでもゲンドウは止まるわけにはいかなかった。

 

「ゼーレの知識でシンジの槍があればユイを見つけられる可能性は高くなると知った。私にとってユイこそが世界の果てであり、中心であったからだ」

 

 新たな槍の存在は有用でもあったが、同時に新たな問題が生まれた瞬間でもあった。

 

「インパクトを制御するにはロンギヌスの槍は絶対に外せない。二本の槍を扱うには魂が二つ必要というゼーレの知識を元に、第13号機をダブルエントリーシステムとすることで、不足していた使徒の魂を2番目の少女ごと取り込む計画に切り替えた。結果として、初号機とシンジ達がいなくても私は計画を進めることが出来てしまった」

 

 また一つ必ずしもシンジが必要ではないファクターを見つけてしまったゲンドウは自らの意志で計画を進め、未だに探し求めている(ユイ)を見つけられていない。

 

「ユイ、ユイはどこにいるんだシンジ」

 

 マイナス宇宙にまで来て世界の果てまで探し尽くし、この世界のどこにもユイがいないという、今まで目を逸らして可能性が顔を擡げたゲンドウにはそうなるかもしれない理由があった。

 ユイはシンジを愛していた、ゲンドウが嫉妬してしまうほどに。

 

子供(シンジ)を捨てた私には会う資格が無いというのか?」

 

 蹲るゲンドウの周囲の風景が替わる。

 ユイが初号機のコアにダイレクトエントリーした実験室に、ゲヒルンの所長室に、ゴルゴダベースにある培養槽に、セントラルドグマにあるレイの調整槽に…………世界が次々と切り替わる。

 調整層に浮かんでいた綾波レイが瞼を開き、彼女を見上げるシンジと目が合う。

 

「ここでしか私は生きられない」

 

 純粋な人間ではない綾波レイの体は定期的に体を調整(・・)しなければ母なる水(LCL)へと還る。

 

「そんなことないよ、綾波」

「私はここでいい。碇君と一緒にいる」

 

 調整槽越しに手を伸ばしたレイがギュッと手を握る。

 

「碇君と出会えたことが嬉しい。何者でもなく、空っぽだった私が今は碇君が教えてくれたもので満たされている。それが、とても嬉しい」

「もう一人の君は、何も知らなかった頃に戻してと言っていた。君にそう言ってもらえるなら少し救われたような気がする」

 

 ゆっくりと花が咲くように笑ったシンジも調整槽に手を伸ばし、レイの手と重ねる。

 

「ありがとう。僕のことを想ってくれて」

「エヴァに乗らない幸せ、碇君にそうして欲しかった」

 

 ガラスに遮られて何も伝わるはずなどないはずなのに、確かなシンジの熱と想いを感じてレイは一度瞼を閉じた。

 

「綾波もエヴァに乗らない生き方を探してほしい。僕の、勝手なお願いだ」

「出来るかな、私に?」

「綾波なら大丈夫。みんなもいてくれる」

 

 シンジの手が調整槽から離れる。追うように伸ばしたレイの手は何も掴めず、気が付けば制服を着て調整槽の外に立っていた。

 

「碇君はどうするの?」

「みんながエヴァに乗らないで良い世界にする。時間も世界も戻さない。補完計画(円環)を終わらせるよ」

 

 シンジは第10の使徒に取り込まれたレイに『来い』と叫んだ時と同じ目で、だけどどこか違う不思議な光を宿していた。

 

「お別れ、なのね」

 

 理由もなく悟ったレイは最後にシンジに見せるべき顔、覚えていてほしい表情へと動かす。

 

「こういう時の顔、これで合ってる?」

「ああ、とても綺麗だ」

 

 その時のレイの表情を見たシンジは穏やかに笑う。

 

「さよなら、綾波」

 

 世界が切り替わる。次はネルフの司令室だった。

 司令席に座っていた渚カヲルは立ち上がり、机の前に立って腰を乗せて部屋の中央に立つシンジを見る。

 

「みんな行っちゃったね、シンジ君。寂しくないかい?」

「寂しい。寂しいけど、必要なことだから」

「自分のすべきことを見つけたんだね」

「そうだね。縁が僕を導いてくれたよ」

 

 一度沈黙が流れ、大きく息を吐いたカヲルが前髪を掻き上げる。

 

「君はオトウサンに何を望むんだい?」

「カヲル君、僕は父さんに救われてほしいと思ってる」

 

 シンジの望みにカヲルは彼らしくもなく眉を顰めた。

 

「今まで散々シンジ君の人生と、この世界をメチャクチャにした張本人なのに?」

「今なら父さんのことが分かったような気がする。とても弱い人なんだと知った……」

「人と人が完全に理解し合うことは決して出来ない。人とは、そういう悲しい生き物だ。君が理解したと思っている碇ゲンドウも、一面でしかない」

「そうだとしても」

 

 本来ならばカヲルが何時も浮かべていたアルカイックスマイルをシンジがして、強い目でゲンドウと同じ司令服を纏ったカヲルに向けて告げる。

 

「僕はいいんだ、辛くても大丈夫だと思う。父さんのやったこと、世界のことは、僕が責任を果たす」

「そうだった。君はイマジナリーではなく、リアリティの中で既に立ち直っていたんだね。なんだかいつもと違うね、少し寂しいけど」

 

 シンジはこう在っていると思い込んでいた己の見誤りを苦笑と共に認めたカヲル。

 

「インパクトの力を手中にして箱舟すら手に入れた君は、その気になれば万物を生み出す創造神にも、遍く全てを壊す破壊神にもなれるというのに、何時だって君は……」

 

 そこから先はカヲルも言葉に出来ず、そうしている間にシンジが距離を縮めて接触まで後一歩のところで足を止める。

 

「今までありがとう、カヲル君」

 

 カヲルに向けて手を差し伸べるシンジ。

 求められたのが握手だと気づいたカヲルは戸惑うようにシンジの手を見下ろす。

 

「もしも、次会えた時に仲良くなれるようにおまじない」

「ああ」

 

 感動に打ち震えるカヲル。

 シンジが為すべきことを為せば、カヲルに課せられた役割も終わり、もう二度と再会することは出来ない。それでも次への約束をする意味をカヲルは正確に受け取っていた。

 

「さよなら、シンジ君。また会おう」

「さよなら、カヲル君」

 

 リリスの魂とアダムの魂も補完を受け入れて去って行った。

 大切な二人を見送ったシンジの背中を、ゲンドウが眩しいものを見るように見つめていた。

 

「他人の思いを受け取れるとは――――大人になったな、シンジ」

 

 世界は最後にゲンドウが幼いシンジを置き去りにしたあの駅のホームへと戻った。

 

『父さん!』

 

 背中を向けたゲンドウ、父を求める幼いシンジ。

 

『父さん!』

 

 いなくなったユイ、ユイを求めるゲンドウの姿が重なった。

 

『父さん!』

 

 ゲンドウの脳裏を過るのは、他人の思いを受け取れるほど大人になったシンジの姿。その姿にユイが重なり、気が付けば着けていたバイザーを捨てたゲンドウは振り返って幼いシンジの下へ駆け寄っていた。

 理由は本人も分からない。そうしなければならないと思ったから。

 

「シンジ!」

 

 膝を付いて泣いていたシンジを抱き締めると、その小さな手がゲンドウの肩に触れた。

 

「父さんはずっと母さんを求めて来た。それって、他人を、相補性のある世界を求めてるってこと。全てが一つになることを否定しているんだよ」

 

 幼いシンジがユイへと切り替わる。

 

「ゲンドウ君、私のかわいいヒト……」

 

 ハッとゲンドウが顔を上げると、そこには探し求めていた愛しいヒトが立っていた。

 

「ユイ!」

 

 ゲンドウがあらん限りの声で呼ぶ。

 呼びかけられた彼女は、愛しいヒトへ向ける眼差しを注いで微笑んだ。

 

「ずっとお前に会うことだけを考えていた。この時をただひたすら待ち続けていた」

「バカね。私はずっとあなたの傍にいたのに」

 

 ようやく泣くことが出来たゲンドウの背を擦りつつ、ユイは少し離れた所に立つ学生服を着たシンジを目を細めて見る。

 

「大きくなったわね、シンジ。すっかり大人びて」

「母さんは、最初からここにいたんだね」

 

 シンジもまた全てを理解して母と話す。

 

「ええ、ずっといたわ。ここであなた達を待ってたの」

「急にいなくなって悲しかったよ。父さんも」

「コアに取り込まれて、世界の成り立ちと世界が繰り返していることを知ったわ。他の世界ならもう少し初号機の表層に出ることも出来たのだろうけど、この世界では使徒に類するもの、エヴァの力が強すぎてそれも出来なかった。あなたがここへ来るのは分かっていたから、待つことにしたのよ」

「僕がほぼ全ての世界で補完計画の発動に関わるから……」

「ええ」

 

 頷いたユイは両親の下へ来ようとはしないシンジに向かって手を差し伸べる。

 

「シンジ、いいのよ、こちらに来ても」

「駄目だよ。僕にはやることがある」

 

 シンジは手を胸元近くにまで上げて強く握る。

 

「進む道を自分で決めたんだ。母さんとの約束を果たしに行って来る」

 

 世界がまた切り替わる。

 

『忘れないでね、シンジ。母さんと約束しましょう』

 

 ユイがコアに消える前の最後の休日、プールに行った帰りの出来事。二人の指切り。

 

『この先、何が起こっても――――世界中の人達の幸せをあなたが守るのよ』

 

 ずっと忘れていた約束を果たす為に、シンジは最後まで歩み続けると決めたのだ。

 

「ありがとう、シンジ。約束を思い出してくれて。あなたがどこに行こうと私達は何時もあなたを見てるわ」

 

 ゲンドウの補完が終わり、世界が駅のホームからエヴァンゲリオンイマジナリーのいる空間へと戻った。

 そこには先客がいた。

 

「みんな行ってしまったな」

「加持さんはどこまで理解してるんですか?」

「理解はしてない。俺もまた前回世界でゼーレの記憶を継承した一人に過ぎない。多少、上手く立ち回れただけで、最後は一人で死んだ馬鹿な男さ」

 

 現れた加持リョウジはゲンドウが捨てたバイザーを拾い上げて装着し、ニヒルに笑ってシンジの問いに答える。

 

「最後に残ったシンジ君はこれからどうするんだい?」

「槍を、槍を一つにします」

 

 シンジの前にロンギヌスの槍とルクレティウスの槍が浮かび、その距離を縮めていく。

 

「神が与えたロンギヌスの槍と、(シンジ君)が作り出したカシウス(ルクレティウス)の槍。司令に代わってインパクターとなったことで為せる、二本を融合させることで生まれる世界を書き換える新たなる槍」

 

 やがて二つの槍は一つとなり、シンジの手に収まった。

 

「世界をありのままに戻したいという意志の力で作り上げた槍、ガイウス。いや、ヴィレ(意思)の槍。知恵と意志を持つ人類は神の手助けなしに、ここまで来たか」

 

 ゼーレの知識を有している加持ですら知らない槍を造り上げたシンジに感嘆の息を漏らす。

 

「世界の新たな創生、ネオンジェネシスは果たされるだろう。だが、シンジ君。女を泣かせる奴はイイ男ではないぞ」

「ミサトさんを泣かした加持さんにだけは言われたくないです」

「おっと、一本取られたな」

 

 タバコがあったら吸いたそうな顔をして自身の額をピシャリと叩く。

 

「彼女というのは遥か彼方の女と書く。逆に言えば、女性にとっても男は向こう岸の存在となる。永遠に理解しえないのかもしれない」

「だからこそ、面白いんでしょ、人は」

「ああ、そうさ」

 

 彼らしい笑みの表情を浮かべて続ける。

 

「大人の男には、誰に迷惑をかけても死んでも為さなければならないことがある――――大人になったな、シンジ君」

 

 同じように笑ったシンジの姿は初号機のエントリープラグの中にあった。

 

「進み続けるんだ。そこに僕の未来が無いのだとしても」

 

 呼び寄せた箱舟をエヴァンゲリオンイマジナリーの前に移動させる。

 全地球生命情報。人類補完計画を手っ取り早く再開する為の四角いセーブデータは、ガラス細工のように艶やかな巨大立方体集合体である箱舟はゆっくりと回っていた。

 

「さよなら、そしてありがとう。全てのエヴァンゲリオン達!」

 

 インパクトパワーを解放して、ヴィレの槍を箱舟ごとエヴァンゲリオンイマジナリーに突き立てた。

 突き抜けた槍は第13号機を、Mark12を、Mark11、Mark10、Mark09、8号機を、7号機を、Mark06を、仮設五号機を、Mark04を、3号機を、2号機を、零号機を、量産機を、ウルフパックを、ウルトビーズを、その他にも様々なエヴァンゲリオンを次々に貫いていく。

 

「ううううううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 次の瞬間、マイナス宇宙全体に力の波動が突風のように逆巻いた。

 今のシンジは数多の世界の記憶を有している。それらの世界の中にはそもそもセカンドインパクトが起きなかった世界もあった。この赤に染まった世界も、シンジの記憶とエヴァンゲリオンイマジナリーを使えばセカンドインパクト前の環境に戻せる。

 そして全ての生命には復元しようとする力がある。生きて行こうとする力がある。ヒトの心がその人の形を作っている。自らの力で自分自身をイメージ出来れば、LCL化したヒト達もヒトの形に戻れる。シンジがするのは、そのほんの少しの後押し。認識が足りない分は箱舟で補えば良い。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 ヴィレの槍が世界改変を行うシンジから底なしに力を吸い込んでいく。あっという間に意識が遠のき始めた。シンジそのものまで、エヴァンゲリオンの存在までエネルギーの流れに変えて持って行かれようとしている。

 生きることに未練があるか。

 シンジはまだ10代、可能性は全方位に広がっていたろう。だが翻せば可能性の幅とは何も搾り切れていないことの裏返しでもある。それが生む不安と、死への恐怖はあっても未練などは持ちようがなかった。嫌になる。結局自分と言う存在は勇者に選ばれ強くなるのではなく、追い込まれ、追い込まれて叫びもがく生き物なのだ。

 

「ァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 最後にヴィレの槍が初号機を貫き、シンジも貫かんとした時だった。

 槍に貫かれる直前、現れたゲンドウによって弾き飛ばされたシンジはマイナス宇宙に放り出された。

 

「すまなかった、シンジ」

 

 振り返ると、初号機と共にユイを後ろから抱き締めたゲンドウが槍に諸共に貫かれている。

 

「さよなら、父さん、母さん。僕も直ぐに行くよ」

 

 二人を見送るシンジの耳に、加持の声が聞こえた。

 

「彼女達を舐めない方がい。女性は君が思うほど諦めが良くないぞ」

 

 少年は、神話になった。

 

 

 

 

 

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