魔法科高校の劣等生・来訪者編クリアRTA   作:まみむ衛門

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(サブタイとか投稿順番のガバでは)ないです


14-2

「なんだか、やけに嬉しそうですね」

 

「そう? ふふふふ」

 

「嫌な前兆だな」

 

「間違いないね」

 

 12月の頭。迫る定期試験に備え、いつものお友達グループで勉強会をしていた。

 

 勉強会どころか、今日はずっと、親友の蘭が上機嫌だ。いつもは無表情ばかりで口から出る言葉だけはご機嫌なのだが、今日は、未だに不意に見ると心臓が痛む違和感を覚えるがよく見ると愛嬌のある笑みを、ずっと浮かべている。

 

「びなんびじょと、べんきょうかい、ですからね。りあじゅうですよりあじゅう」

 

「また訳の分からないこと言ってますよ……」

 

 達也と幹比古の反応も辛辣だったが、深雪の反応も辛辣だった。だが、当の本人は全く気にせずニマニマと笑いっぱなし。別に勉強に困ってはいないが、集中できないのは確かである。

 

 そんな中でぽつりと話された雫の交換留学の話題は、彼女自身にとってチャンスでもある一方で、しばらく会えないという寂しい話でもある。そんな衝撃的な話の中、時折蘭の口の端がピクついているのを、ここにいる全員が見逃していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試験が終わり、結果も発表され、そして冬休みも終わった。面白かったのは元旦の初詣だ。みんながそれなりに気合の入った和装をしてくる中、蘭だけは相変わらずいつも通りの上下真っ黒な簡素極まりない服であった。服の質の一つ一つは高級品らしいのは見ただけで分かるが、当人は全く無頓着である。普通に見れば浮いていないのだが、美男美女が集まって華やかな和装をしている中、一人だけこれでは、さぞ目立っただろう。

 

 さて、こうしてまたいつも通りの美月のスクールライフが始まるはずだったが……校内はと言うと、昼休みの時点で、アメリカから留学で来たとびっきりの美少女で話題騒然だった。

 

「そんなにすごい方なんですか?」

 

「すんごいかわいい」

 

 食堂で親友の蘭と向かい合っての雑談。美男も美女も好きな蘭の言うことなのでいまいち信用できないが、周囲の会話もおおむねそういった評価なので、それは正しいのだろう。

 

「まほうも、そうですねー、みゆきちゃんとおなじぐらい?」

 

「え!?」

 

「じつぎの、ちょっとしたあそびで、きそえてました。おっぱいも、おなじぐらいです」

 

 後に続いたどうでもいい情報は全く無視して、美月は声を出して驚いた。

 

 司波深雪の魔法力は、雲の上通り越して太陽系外と言っても過言ではない。もうすでに今の二年生は確実に全員越えて、三年生の真由美や克人も危ういかすでに抜かれているだろう。それ程のレベルなのだが、それと同じぐらいだという。

 

「じつぎが、ぼーるのおとしあいだったんですけど、わたし、まけましたからね」

 

「えっと、それって、移動・加速系の、金属の球を落とす奴ですか?」

 

「そう」

 

「うえええええ!?」

 

 これにはさらに驚きだ。

 

 雲の上通り越して太陽系外と深雪を表現したが、そんな彼女を、移動・加速系に限っては上回っているのが、この黒羽蘭だ。それに対して、その系統で正面から戦う実技で勝つだなんて、相当である。

 

 世界は広い。こんな高校生が、他にもいるなんて。

 

 美月は、太陽系外の戦いがどのようなものだったのか、想像することすら難しかった。

 

 

 

 

 

 

 目の前の少女に目的があり、そのために手加減していたとは、知る由もないことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1月16日。吸血鬼事件がついに表沙汰になった。当然校内はその話題で持ちきりであり、昼休みの達也を中心とするお友達グループでも、その話になった。

 

「まあ、まほうがかかわる、かのうせいが、たかいでしょうなあ」

 

 話が一通り進んだところで、蘭がそんなことをぽつりと呟いた。

 

「ほう、やっぱ蘭もそう思うか?」

 

「まほうなしでこれできるなら、わたしたちぜんいん、いっぱんじんですからね」

 

「違いねえや!」

 

 蘭の言い回しが珍しくツボだったのか、レオが快活に笑う。

 

 いくつもの変死体。状況的に殺人で確定。血が一割ほど抜かれているが、外傷どころか注射の痕すらない。どんなものかは分からないが、魔法であるのは確かだろう。達也とて、ただそれを証明できていないから、研究者肌で断定しないだけである。

 

「そういえば、雫にこんなことが日本であったってメールしたら、アメリカでも同じような事件が、知る人ぞ知るってレベルだけど最近あったらしいって、言ってたような……」

 

「ええええ!?」

 

 そんな時に、ぽつりと出たほのかの爆弾ニュースに、エリカが大声で反応する。彼女以外は声を出すようなことをしなかったが、一様に驚いていることは分かった。何せ達也自身が、驚きのあまり、カップからお茶を飲もうとしていた手を止めたほどである。

 

(USNAのニュースはチェックしていたはずなんだけどな……)

 

 四葉家当主であり叔母である四葉真夜からの特別メッセージめいた警告以来、ずっと気にしていた。そんな彼ですら知らないということは、この事件が報道規制されていることに他ならない。

 

「そりゃまた、きなくさいですねえ」

 

 黒羽家からも同じようなことを言われているのであろう蘭も、身を乗り出すような反応だ。

 

 そこから蘭は詳しい話を聞きたがったが、昼休みの時間も、ほのかが持っている情報も、そこが限界であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉さま、大丈夫かしら……」

 

「心配だよね。全く、七草と十文字は何やってるんだろ」

 

 ほぼ同時刻。大きく話題になった吸血鬼事件は、東京から離れた黒羽家でも話題になっていた。二人にはすでに、これが魔法関連の事件であることが予想済みである。そうなると、関東を管轄している七草家と十文字家に不満を覚えるのは、仕方のない話であった。

 

 そんな時、二人の携帯端末が同時に鳴る。他からの着信は鳴らないようになっているが、大好きな姉・蘭からの着信は、すぐに確認したいので、軽快な音楽が流れることになっている。蘭のお気に入りで、この曲は「バジリスクタイム」なるものらしい。二人には全然わからないが。

 

「「お姉さまからメッセージ!」」

 

 二人は即座に飛びついて、内容を確認する。

 

 

 

 

 やったぜ。投稿者:変態糞姉貴

 

 今日の1月16日にいつもの魔法師の妹ちゃん(15)と、先日お年玉をせびったら拳骨をくれた妹好きのIT土方の兄ちゃん(16)と、ワシ(16)の三人で、東京の学食の中で話し合ったぜ。

 

 今日は、昼が食堂なんで――

 

 

 

 

 二人ともすでに、姉が送り付けてくる怪文書の対応は慣れたもので、必要な情報だけをしっかり読み取った。

 

 東京では吸血鬼事件が起きている。達也との共通見解で、魔法が絶対関連している。アメリカでも同じことが起きているが情報規制されていて、交換留学との重なりが怪しい。調査したいから、うちに泊まり込みで手伝いに来てほしい。

 

 要約すればこんなところだ。それ以外はすべて無駄情報である。

 

「……お姉さまらしくないね」

 

 感情で受け取りがちな第一印象を乗り越え、理性で見た第二印象は、不審そのものだった。

 

 蘭は周りに気づかいをするようになった一方で、本質的に自分勝手でもある。興味のある事象や彼女なりに必要だと思った事象には首を突っ込むが、それ以外には一切関心を示さず、自分を高めることに集中している。

 

 そんな彼女が、まだ情報が全然出ていない事件に、自分たちを駆り出してまで、首を突っ込もうとしている。蘭をよく知る二人からすれば、怪しいことこの上なかった。

 

 そして、だからこそ。

 

 理性の第二印象が薪となり、一旦抑え込んだはずの、感情の第一印象の炎へとくべられ、その勢いを強くさせる。

 

 

 

 

 

 

 

「大事なところで、頼ってくださるんですねっ……!」

 

「お姉さま……精いっぱい、頑張りますから!」

 

 

 

 

 

 

 

 第一印象、「大好きな姉が頼ってくれて嬉しい」。

 

 きっと姉は、この吸血鬼事件に、並々ならぬ何かしらの考えを抱いているのだろう。そんな事件に立ち向かうにあたって頼ったのが、亜夜子と文弥だ。

 

 つまりそれほどに二人が、敬愛する姉に頼られているということである。

 

「早速お父様に報告ですわ!」

 

「何が何でも許可を取るよ!」

 

 平日ど真ん中だけど、蘭お姉さまに呼ばれたので、謎の吸血鬼事件に首突っ込むために東京に泊りがけで行ってきます!

 

 こんなようなことを言われ、さらに異常なまでに押しが強い可愛い双子と向かい合うことになった貢は、根負けして許可を出した後、あの灼熱のハロウィン以来濫用しがちになってしまった胃薬をがぶ飲みした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーいらっしゃい」

 

「「お姉さま!」」

 

 下北沢の、姉が一人暮らししている、一人で住むにはどころか一般的な核家族が住むにも大きすぎる一軒家。二人はウキウキ気分で尋ね、姉がドアから姿を現すと同時に、喜びに任せて飛びついた。

 

 姉と一緒の三人だけの生活。二人のテンションは、過去最高レベルにまで達していた。

 

 思えば、姉と離れて以来、ホテルや実家で一緒に過ごしたことがあっても、姉が一人で過ごすこの家に行ったことは一度もなかった。一人暮らしとは、その人間の個性が暮らしに一番現れることが多い。そんな空間で一緒にしばらく過ごすのが、二人はたまらなく楽しみだったのだ。

 

「いやー、めんどうかけて、ごめんね」

 

「そんなことはありませんわ!」

 

「お姉さまが頼ってくださって、嬉しいです!」

 

 両腕で一人ずつ抱き返され、器用に頭を撫でられる。それだけで、天にも昇る心地だった。これだけ間近で、慣れれば愛嬌がある笑顔を見るのも、久しぶりの事であった。

 

「きょうは、おねえちゃん、ふんぱつしちゃったぞー!」

 

 リビングに通されると、そこには、豪勢な料理が並んでいた。

 

 いや、それは一見すると豪勢ではない。三人とも小食なので、それに合わせた量しか用意されてないため、ファミリー向けテーブルに並べられた料理は、むしろ小さくすら見える。

 

 だが、その生まれと将来期待される役割故に、高級なモノへの審美眼も育っている二人にはわかる。この料理は、東京の一流レストランから取り寄せたものだ。この一人前にしては少ない料理でも、何万もするだろう。

 

 昼に連絡を受けてから押っ取り刀で準備して駆けつけた二人は、確かに空腹であった。姉の気づかいと歓迎に、二人は余計に感激する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜三人は、一人で眠るには広すぎ、二人で眠るには狭く、三人で寝るにはすしづめも同然のベッドで、川の字になって、真ん中の蘭に二人が抱き着く形で、安らかに眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな、レオが……」

 

 翌日の休み時間。昨日話した時は、噂話に対する野次馬根性めいた気持ちだったのに、今日は当事者性のある深刻な気持ちで、吸血鬼について話すことになった。

 

 昨夜、夜中に出歩いていたレオが、吸血鬼らしき者と遭遇。戦闘になり敗北して、病院に担ぎ込まれた。

 

 そんな話を聞いた幹比古は、ひどく顔を青ざめさせた。

 

「にゅういんとのことですが、いのちにべつじょうは?」

 

「ないそうだ。ただ、頑丈が人の形をしたレオが、ベッドから動けないほどらしい」

 

「しなないなら、よかったですね」

 

 蘭と達也の会話も、どこか遠い世界のものに聞こえるほどに、幹比古は動揺していた。

 

「れおくんから、なんかしょうげん、ありました?」

 

「えーっと、看病に行ってるエリカによると……こんな感じらしい」

 

「ほほー、どれどれ、ちょっとあにちゃまのけーたい、かりますね」

 

「壊すなよ」

 

「えっちなさいと、みてないかかくにんするだけです」

 

「返しなさい」

 

 質の悪い冗談になぜか深雪の方が強く反応したが、蘭が余計な操作をする様子はない。

 

「なになに、こぶしでなぐられるとどうじ、からだからげんきがぬけた。どれいんぱんちですか」

 

「なんか知ってるのか?」

 

「ぽけもんのわざ」

 

「やっぱ端末返せ」

 

 明らかに何か期待した風の達也が蘭の返事に苛立ち、無理やり端末を奪取する。蘭も抵抗するそぶりは見せない。それなりに長い文章だっただろうに、一瞬で読んだのだろう。

 

「おにいちゃんてきには、どんなまほうが、かんがえられますか?」

 

「そうだな……気力を萎えさせる精神干渉系、体温を奪う振動系、筋肉を弛緩させる神経操作の魔法、あたりが考え付くな。毒だって考えられる。いずれにせよ、気力を奪うか、体調不良を起こさせる魔法だろう。殴った瞬間に行使と言うのも、相手との接触点を自動的に座標として魔法を行使する白兵魔法戦闘の基本技術だしな。別に殴らなくてもいいかもしれないが、もしかしたらそうしないと魔法が使えない可能性も考えられる。まあそこまで行くと、決めつけすぎだけどな」

 

 流石達也だ。幹比古はまだ考えを言語化できるほどまとまっていないが、即座に色々な所へ推論が働き、理論的に言語化できている。

 

「みきひこくんてきには? ふれるとげんきがすいとられる、というぶぶんが、わたしきになります」

 

「それは蘭の決めつけだろ。ドレインじゃなくて、単にレオの体力を削いだだけかもしれない」

 

 蘭の言葉に、達也が横槍を入れる。確かに、レオは、「殴られたら力が抜けた」のようなことしか言っていない。蘭のようにゲームのイメージがあると、「ドレインパンチ」なる技のように、エネルギーを吸い取ったとすぐに連想するだろうが、実際のところは、達也の想定した魔法のように、単にレオの何かしらを削いだと見るほうが自然である。なにせ、現代魔法に、「体力を吸い取る」という魔法は存在しないのだ。

 

「うーん……達也と蘭で、蘭の肩を持つことになるから自信なくなってきたんだけど……」

 

「どういういみやねん」

 

「レオは、実際に、元気とか体力とかそういうのを吸い取られたんじゃないかと思う」

 

「ほう?」

 

 蘭のツッコミをガン無視して幹比古が一応の推測を述べると、達也が興味を示した。達也の説の方が、今のところ理に適っている。それをあえて、古式魔法の専門家である幹比古が否定し、おふざけしている蘭を支持したのだ。自分が否定されようと何ら気にしない彼は、知識欲が刺激された様子だった。

 

「多分、パラサイト、と呼ばれる存在の仕業だね。古式魔法業界は秘密主義が強い一方で、世界的に連携を取って概念や知識の共有化を図ったりもしているんだけど、その中で定義された存在だ」

 

 幹比古は自分の端末の自由メモ帳を起動し、専用のペンで色々と書き込んでいく。

 

「それぞれの文化圏で、お化け、鬼、妖怪、魔物、モンスター、悪魔、妖精、ジン、デーモン……こういう類のは、色々な呼ばれ方をしていたわけだけど」

 

 さらさらと書いているのに実に読みやすい整った文字でそうした呼び名を並べて、大きく丸で囲む。

 

「結局のところ、説明できない謎の存在をそれぞれの観念に照らし合わせてそう呼んでいたわけだ。それは科学で十分説明できる現象だったり、勘違いだったり、また魔法的現象だったりが大半なわけだけど……」

 

 そして大きな丸から矢印を伸ばし、その先に、中間的な結論となる言葉を書く。

 

「分析した結果、その中に、『本物』がいたのは確かだったんだ」

 

「実際にいた」と、科学どころか現代魔法の世界ですら衝撃的な事実を、さも当たり前のように書く。古式魔法界では実際の所常識なのだろう。現代魔法師ばかりであるこの場に合わせて、前提となる常識から説明をスタートしているのは、幹比古の性格の良さが現れていた。

 

「そこで、こういう異常な存在を、生物学的な分類ではよくわからないから、性質ごとに分類することにしたんだ」

 

 メモ帳の新たなページを開き、そこをいくつかに分けていく。そしてそれぞれに、分類の特徴と呼び名を書き込み、そしてある一か所の枠を太線でなぞって強調する。

 

「その中でも、パラサイト、と呼ばれるものがいるってことだね。その性質は、『人に憑りついて、人ならざるモノに作り替える魔性』だね」

 

「つまり、レオは人間に襲われたように見せかけて、パラサイトに憑りつかれて人ならざるモノに変えられた存在に襲われた、ということか」

 

「そういうこと」

 

 達也のまとめに、幹比古は頷く。分かりやすく、レオの被害と話を橋渡ししてくれた。自分が説明するだけでなく、他人の説明のサポートも得意らしい。

 

「ポイントなのが、パラサイトは『人に憑りつく』、つまり、物理的な実体はない。それでもある意味生物みたいなものだから、僕らみたいな生物学的な食事はしないけど、エネルギー源をどこかで補給しなければならない」

 

 もう図での説明は必要ないみたいで、端末とペンをしまいながら、幹比古は話を続ける。

 

「えねるぎーげんが、れおくんがうばわれた、げんき?」

 

「そういうことだね。僕らの世界では『精気』と呼ばれてるんだけど」

 

「なんかえっちですね」

 

「もう蘭は黙ってろ」

 

「……その精気が、パラサイトのエネルギーってことだね。だから、パラサイトに憑りつかれた人間は、化け物になって人間を襲うんだ。人食い鬼は人肉から、吸血鬼は血から、その人の精気を奪うんだね」

 

「じゃあ、さきゅばすも?」

 

「蘭さん、それ以上邪魔をすると、怪談ではなく実際に血が凍りますよ?」

 

 ついに我慢の限界になった深雪が、おしとやかな、しかし凄絶に見える笑みを向ける。蘭が小さく悲鳴を上げて、すっかり黙ってしまった。

 

 一方の幹比古も、蘭が余計なことをあれこれ言うせいで、純情少年であるために顔を赤くしてうろたえながら、一応この場の結論を出す。

 

「とりあえず、レオの精気を確かめてみないことには、断定はできないね」

 

 友達としてではなく、調査のためにも、この後お見舞いに行くのは必然であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お見舞いに行き、ベッドで体を起こしているレオから、直接もろもろ話を聞いた。

 

 メールで伝えられた通り、殴り合いの途中に身体の力が急激に抜けたこと、人型だったことは確かだ。それに加え、検査の結果で少なくとも毒の存在は確認できなかったこと、身体には殴り合いで生じた怪我以外の異常は医学的にはないこと、そしていざ殺されるとなった時に「鬼」と形容するべき存在の横やりが入って助かったこと、が話された。

 

 こうなると、いよいよ幹比古の推測が合っていることになりそうだ。幹比古がレオの幽体を調べる準備をしている間に、気になったことを掘り下げていく。

 

「横やりを入れた『鬼』っていうのは、吸血鬼以外にも化け物がいるってこと?」

 

「いや、どうだろうな。化け物って確信はねえけど……少なくとも見た目は恐ろしげだったぜ。十文字先輩がスタイルの良い女になった、みたいな感じだ」

 

「すみません、少々離席しますね」

 

 レオの変なたとえ話を聞いた深雪が、口元を抑えながら急いで離席した。恐らく想像してしまい、吐き気を覚えてトイレに駆け込んだのだろう。

 

「みゆきちゃんに、てをだしたおとこがいたとして、それをみたあにぎみさまと、どっちがこわそう?」

 

「それは流石に達也の圧勝だな」

 

「蘭、場合によってはお前も病院のお世話になってもらうぞ?」

 

「もともと頭の病気みたいなもんでしょ」

 

「かおとせいたいは、うまれつきびょうきだねえ」

 

「ねえ、集中できないから黙っててくれる?」

 

 ブラックジョークも飛び交う間柄になったというのは嬉しい証拠だが、幹比古はついに我慢できず苛立たし気に注意した。達也は「すまんな」と平然とした声で言い、蘭とエリカは口をそろえて「はーい」と生返事。お見舞いだというのに、誰かさんが中心となってずいぶん楽しげだった。

 

 ようやく準備が終わった幹比古は、さっそくレオの幽体を調べる。そして……すぐに目を丸くした。

 

「ねえ、レオ。君、本当に人間?」

 

「一応な」

 

「調べたところ、とんでもない量の精気が失われてるよ。これだけ無くなってたら……普通の術者なら昏睡は免れないな。少なくとも僕だったらほぼ植物人間だと思う。それなのに、寝たきりどころか、体を起こしてそんな元気に喋れるなんて……精神力と体力の両方が、人並外れてるとしか言えないや」

 

「褒められてるなら嬉しい限りだ」

 

「あのばに、『おに』がもうひとり、ってところですね」

 

 蘭のいつものキツめのジョークだが、幹比古はそれを内心で否定しきれなかった。常人を越えた頑丈な肉体を持っているとすれば、それこそプロレスとか格闘技の世界で「鬼」の異名を持っていても不思議ではないだろう。

 

「それで、せいきがへってるってことは」

 

「ああ、パラサイトで確定だ」

 

 蘭の問いに、幹比古は断定して頷く。もはやこれ以外に、答えはありそうにもなかった。

 

「ぱらさいと……ふしぎなんですけど、そういうおばけって、どういうそんざいなんですか?」

 

「それに関しては、古式魔法界でも見解は割れてるね……。ただ、物質的な存在ではないとなると、イデアとかみたいな情報次元の存在、と言うしかないんだけど……」

 

 話は、正体がパラサイトだと判明したところで、ではパラサイトとは何か、というところまで深く深く進んでいく。

 

「チョッと、難しくて長い話は、さすがにここではやめなさい」

 

「ただでさえ、オレは馬鹿なんだ。病み上がりの横でそんな話されたら、幽体が減るどころか離脱しちまう」

 

 そうした話は、一旦ここでは中断することになった。




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