魔法科高校の劣等生・来訪者編クリアRTA   作:まみむ衛門

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14ー5

 三人で川の字で寝て、すっきりした目覚めの朝。

 

 最初に起きた文弥は、枕元にある三人の端末に、着信が入っていることに気づいた。この三人全員が、となると、四葉か父親からの連絡と見るのが妥当だ。

 

(…………気づかないで二度寝した振り、と)

 

 とはいえ今は、貴重な大好きな姉との時間であり、二人を起こさないためにも動かないほうが良いのも確かであり、また仮に一人で寝ていたとしても真冬の朝は億劫だった。彼が二度寝の誘惑に逆らう気がさらさらないのも仕方のないことである。

 

 だが、それでも彼は真面目過ぎた。精巧な人形のような、眠り姫もかくやと言うほど静かで美しい寝顔だというのに、間抜けに涎を垂らしている姉の寝顔をちらりと見てから、そっと端末に手を伸ばす。

 

 案の定、四葉からの連絡だ。

 

 昨夜のパラサイトの「残骸」の身元が判明した。USNA軍に所属する魔法師だったらしい。こうなるといよいよ、USNA絡みなのは確定的だ。

 

 そしてそれに付随するように、四葉真夜の署名付きで、追加の命令が下されている。

 

 

 

 

 これをもって正式に、吸血鬼事件・パラサイトへの対応を、黒羽蘭・文弥・亜夜子に任せる。

 

 

 

 

 

 内容はこのような感じ。詳細は後から詰めてから知らせるので、それまでは自分たちの判断で動いていいらしい。

 

(お父様が働きかけてくださったんだ……)

 

 文弥は声を出してしまいそうになるのを我慢しながら、真冬の寝起き以外の要因で、鼻の奥がツンとなる。

 

 今回の件は、四葉本家からしたら面白くないだろう。

 

 自分勝手に一高に進学した黒羽家の長女が、これまた自分勝手に大きな事件に首を突っ込み、しかもそれに亜夜子と文弥が、つまり実質貢までもが、四葉本家の許可なしに動いたのである。しかもきっちり成果付だ。この仕事は三人に一番適性があることに疑いは全くないが、積極的に関わろうとする蘭への罰として、あえて役目から降ろさせることもしかねない。

 

 それでもこうして任されたということは……ここに来る際に、無理を言ってしまった貢が、なんとか手を回してくれたのだろう。

 

 いきなりのことで、本当に申し訳ないことをした。

 

 貢は貢なりに、黒羽家当主という難しい立場ながら、文弥と亜夜子を愛してくれている。蘭や達也への扱いがあまりにも酷いのは心底許せないが、成長するにつれて、それもまた仕方ないところもあるだろうとも思う。

 

 それでも、大好きな姉が頼ってくれた以上、断るという選択肢はあり得ない。

 

 だからこそ……この事件は、なんとしても解決しなければならないだろう。

 

 送り出してくれた父親のために。何とか認めてくれた四葉家のために。友を傷つけられて内心穏やかではないだろう達也のために。短い間ながらも良くしてくれたレオのために。

 

 そして何よりも――大好きな姉のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日はすまなかったわね」

 

「うん、僕らも頭が冷えた。あの時の蘭の動きは、君なりにベストだったんだと思う」

 

「いやーわたしも、ごめんなさい。どうしても、あせってしまって」

 

 エリカの提案で、幹比古とエリカは校門で蘭を待ち構えていた。

 

 あの独断専行を許すつもりはないが、認めざるを得ないのは確かだ。蘭の持っている知識や予想と言った情報では、あそこで取り逃すべきではなかったに違いない。さもなければ、被害が長引く。情報を隠していたのも、その内容や予想される立場から、仕方ない面もあるだろう。大事なことを隠して自分たちを利用した、という点に怒るつもりはない。魔法師界では、たとえ親友同士であろうと、それこそエリカと幹比古の間柄ですら、それが当たり前なのだ。

 

 だから、今後の禍根にならないためにも。謝れるときに、なるべく早く対面で謝るに限るのだ。

 

 さっぱりしているように見えてかなり陰湿に引っ張る面もあるエリカだが、それでも、わだかまりが長引くのは嫌だ。二度と背中を預け合えなくなる。それを誤魔化してなんとなく寄せ集まった状態で戦った場合、待ち受けるのは全滅だ。

 

 それに、こうしてお互いに謝ったことで、蘭がある程度腹を割って話してくれた。

 

 彼女の仮説によると、パラサイトは複数体、この世にいる。それらは、元々は大きな一つの存在だった。精神的な情報世界からこの物質世界になんらかの理由で迷い込んで、その「なんらかの理由」で分裂してしまった、と見ているそうだ。

 

「なんでそんなことまで、予想できるのよ」

 

「せいしんは、あんなちっぽけな、じょうほうりょうでは、ありませんから」

 

 根拠不明の仮説にしては、やけに確信を持って動いているように見えた。そんな違和感から質問に対する蘭の説明は、抽象的で、正直言って答えていないも同然だ。だが、妙に迫力と説得力があった。

 

 精神。

 

 そんな分野に、蘭は思ったよりも長く浸っていたらしい。

 

 蘭が付け加えた説明によると、レオを単独で倒し、あの大規模な自爆を一瞬で引き起こすほどの力を持ったパラサイトだが、それでも、彼女が思う「精神の情報体」としては小さすぎるという。曰く、本物は、物質的肉体に頼る所が多い自分たちの精神に対する魔法的防御では、およそ太刀打ちできないとのこと。

 

 そして、パラサイト達は、元の大きな一個に戻るべく、お互いに思念波のようなものを飛ばして連絡を何とか取り合いながら、少しずつ集まろうとしているとのこと。この吸血鬼事件は、そうして複数現れたパラサイトが集まろうとして、その活動のエネルギー源として「食事」をしているにすぎないらしい。

 

「きょだいないっこになったら、おとなしくかえってくれれば、いいんですが。かえるあてがないようなら……いっぱい、たべられちゃうでしょうね」

 

 蘭が焦っていたのは、そういうことだったらしい。

 

 もしあの場面で逃げられたら、吸血鬼は活動拠点を関東から動かし、日本のどこか予測不能な場所で被害者を増やす。そして蘭たちの手が出せない場所でいつしか合流し、手が付けられない存在になる。

 

 だからこそ、あの場面でなんとか戦うことが重要だった。

 

 人体を破壊できない程度では、彼らは「邪魔なものがいて鬱陶しいから動くか」ぐらいの気持ちにしかならない。人体状態を突破しただけでも同じ。

 

 倒しきるまではいかずとも、パラサイト本体に手傷を与えるぐらいまでいけば、彼らの警戒心は強くなる。なにせ、人間に自分たちの本体が傷つけられるなんて、微塵も思ってないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうなれば、パラサイト達は……「黒羽蘭の排除」を選択する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 蘭が酷く危険にさらされる代わりに、向こうは逃げないどころか、こちらに向かってくる。そうやって倒すつもりだったらしい。

 

「無茶苦茶ね」

 

 エリカは嘆息する。

 

 まさか自分を「餌」にして、迎え撃とうだなんて。一対一ではレオがほぼ一方的に負かされ、昨夜だって文弥の追撃が無ければ倒せなかった。そんな危険な相手が、数も分からない状態で、しかも複数いるのは確定的。なんという無茶な計画だ。

 

「全く、一人で丸ごと背負い込もうとしやがって」

 

「あう!」

 

 エリカは渾身のデコピンを蘭に叩き込む。昨夜殴れなかった分だ。近接ファイターとして超一流の領域にいる彼女のそれは、蘭の華奢な体が傾くほどの威力である。

 

「そんなのだからこそ、もっと僕らを頼って欲しかったな」

 

「これでも、アタシたちは二科生屈指の腕自慢よ」

 

 おでこを抑えて悶絶する――なんか血が流れているように見えるがきっと気のせいだ――蘭に対して、二人は、決意を新たにする。

 

 レオの報復のためだけではない。

 

 パラサイトを放置するのは、想像よりもはるかに危険であることがわかった。

 

 ならば、この日本のために。

 

 

 

 

 

 そして――それを成し遂げようと無茶をしようとした、あまりにも自分勝手な、目の前でおでこを抑えて転がっている正義のヒロインのために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、おっはー、深雪ちゃん」

 

「おはようございます、蘭さん」

 

「さくや、きゅうけつきを、ほんたいまで、いっぴきぶっころしたんだけどさー」

 

「っ!? げほげほっ!」

 

「ブー!!!」

 

 朝の1年A組。蘭がいつも通り――そういえば最初は司波兄妹に干渉するなみたいな条件があった気がするが――深雪に話しかけると同時、クラスどころかこの学校の二大美人が、無様な姿をさらした。

 

 深雪は驚きで唾が気管支に入って咳き込み、リーナは優雅に飲んでいた紅茶を噴き出す。紅茶をぶっかけられた女子がなぜか嬉しそうなのが気になる所だが、リーナとしてはそれどころではない。

 

(吸血鬼を、倒した!?!? ていうか本体って何!?!?)

 

 吸血鬼。USNAを、そして本来別の任務で来ていたUSNA軍を騒がす大事件。なにせその正体は、スターズ隊員だからだ。リーナもその粛清と尋問に苦労しており、成果は出ていない。死体の脳に明らかな異常があること、裏切った隊員たちは皆CADが必要なく一流魔法師と遜色なく戦えること、彼らが同じ目的を持っていそうなこと、吸血鬼事件の犯人であること、ぐらいしかしらない。

 

 そんな相手を、このいくら変人で実力が飛びぬけていようが一介の高校生でしかない蘭が、「ぶっ殺した」と言った。しかも、「本体」などという不穏なキーワード付で。

 

 

 

 

 

 

 

 気になる。

 

 

 

 

 

 

 

 リーナは全力で聞き耳を立て、チラチラとばれないように様子をうかがうことにした。深雪の反応からして、彼女も吸血鬼事件について、何か他の生徒よりも訳知りの様子。何せ、聴いていた周囲の生徒は「また黒羽さんが変なこと言ってるー」ぐらいの反応しかしていないのに、深雪は明らかに動揺した。何か特別なのは確定である。

 

 だが、この距離からでは聞こえない。蘭は背を向けて、深雪はその向こうにいるせいで、口の動きも追えない。しかたなくリーナは、トイレに行く振りや、その近くにいる生徒に声をかける振りや、掲示物を確認する振りなどをして、怪しまれないように気を付けつつ、その近くで聞き耳を立てる。

 

(ああもう、大事なところが聞こえないわ!)

 

 曰く、昨夜、蘭と、二科生のエリカと幹比古と、それに蘭の助っ人と一緒に、レオの報復をするべく、夜中に出歩いていたらしい。そしてそこで吸血鬼と遭遇したという。同じく任務として短時間ながらも出歩き、何の成果も得られずいじけて帰ってきたリーナがバカみたいだ。

 

 いや、自分がどうとかはどうでもいい。吸血鬼の活動が夜で、蘭たちがレオのお友達グループで、そしてエリカがいかにも血の気が多そうなのも考えたら、そんなの大体予想はつく。

 

 重要なのは、いかに吸血鬼を探し、いかに倒し、「本体」とは何か、そしてスターズ隊員であることがばれてないか……たくさんある。

 

「とりあえず、詳しいことは、お兄様も交えてお昼休みにお話ししましょう。もう時間ですよ」

 

 だが、深雪が話を中断させてしまった。

 

(参加したい! 参加したい!)

 

 ああ、そのお昼休みの、おそらく食事をとりながらの話し合い。USNA軍として、喉から両手が出てきてゴマすりをしそうなほどに欲しい情報だ。

 

 それにしても、過去の自分をほめてあげたい。全く別口の任務のためとはいえ、しっかりお友達グループの中心人物であろう深雪と達也と親交を築き、そこに参加したこともあるため、混ざっても違和感はない。有益な情報を持ち帰って、少しだけ汚名返上できるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それと、こういうのは、あまり大声で話してはいけませんよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダメそうだ。

 

 蘭に話しかけているように見えて、深雪の鋭い目線は、そばでフラフラしているリーナを捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大体話は幹比古と深雪から聞いているよ」

 

 達也としては頭が痛い事案だ。

 

 エリカが私的な報復部隊を組むのは予想できたが、それが当日いきなりで、そこに蘭が黒羽の力を借りてまで参加し、そして実際にパラサイトを一体しとめたと言う。さらにさらに、そのパラサイトが取り付いていた人間の身元は、四葉調べによるとUSNA軍魔法師部隊・スターズの隊員らしい。そしてその実績により、蘭たちは独断専行を不問とされ、本人たちの希望通りに対パラサイト任務を今のところ自由に任された。

 

 朝の教室で幹比古から、それとほぼ同時刻にメールで深雪から、そしてもうすぐ昼休みと言うタイミングで深雪宛の連絡で四葉から、それぞれ聞いた内容を統合するとこんなところだ。

 

「それで、パラサイトの本体までしとめたのは素晴らしいが……どうやったんだ?」

 

「わたしとふみやくんで、せいしんかんしょうけい」

 

「まあそうなるよな」

 

 蘭が精神干渉系魔法を使ったと告白しても、達也は動揺しなかった。同席していた美月が椅子から転げ落ちそうになったのとは対照的である。

 

「ねえ達也、やっぱり親戚だから知ってたの?」

 

「それはまあな。深いわけは聞いてくれるなよ?」

 

「命が惜しいからそんなことしないよ」

 

 幹比古はあくまでも魔法師同士のマナーで聞かないのであって、命が惜しいとは思っていない。達也もそれは分かっているが、あいにくながら「四葉」が真実であり、場合によっては本当に命を失うため、幹比古が図らずしも正しいことを言ったのが少しだけ愉快だった。

 

「それで、パラサイトが精神現象の精霊だとしたら、目視できないはずだが?」

 

「みえませんでしたねえ」

 

「そう、それが疑問だったんだ」

 

「アンタ、あれどうやったの?」

 

 達也の疑問は、幹比古もエリカも感じていたことだった。

 

 蘭は自爆の直後、目視どころかそれ以外の知覚ですら認識不可能なはずのパラサイトに、プシオンを固めて作った釘のようなものを刺していた。それが不可視のパラサイトに刺さり、まるで透明人間に刺さったかのように空中で不規則な動きをしていたから、「そこにいる」ことが分かったにすぎない。追撃をした文弥も同じだろう。

 

「はんぶんが、なんとなく、はんぶんは、かん、です」

 

「それをどっちも勘っていうのよ? 一つ勉強になったわね?」

 

 エリカはこめかみに血管を浮かべ、口の端をひくつかせながら、渾身の皮肉を叩きつける。蘭の説明は分かりにくい。これでただ分かりにくいだけならいいが、普段は御ふざけだらけなので、それと区別がつかないのが厄介だ。

 

「いやいやちがいますよ。まず、ぱらさいとのばしょ、なんとなく、かんじます。もうひとつは、わたしがゆうれいだったら、こうにげるっていう、よそくです。こっちが、かん」

 

「…………感じるのか?」

 

「ほんと、うすぼんやりですよ、あにちゃま」

 

 達也は怪訝な顔をする。

 

 イデアに深くアクセスできる『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』を持つ達也ならまだしも、そんなスキルを持っているとは聞いたことない蘭が「感じる」のは、不自然だ。

 

 一応、精神干渉系に強い適性があるなら、プシオンに敏感と言う理屈は立つのだが……今はそこを突いても仕方ないだろう。

 

「だが、他の四人は見えないんだろう? そんな状態だと、不可視の相手から攻撃を仕掛けられ放題にならないか?」

 

 正直、これ以上場を荒らされたくない。真由美と克人ら十師族が動いている気配がするし、USNA軍も間違いなく本腰で動くだろう。そんな中に、この友人とおバカな親戚が関わるのは、危険すぎて心苦しかった。だからこそ、露骨ではないが、なんとなく止める方向に誘導しようとする。

 

「そこでみょうあんです。みづきちゃん、せいれいみえますよね?」

 

「ふわっ!? え、あ、はい」

 

「みづきちゃんに、わたしたちのめに、なってもらいたいんです」

 

 いきなり話を向けられた美月は困惑する。自分にはあまり関係のない話だと思っていたからだ。

 

「待て、美月が参加するのは危険すぎる。戦闘能力はないはずだ」

 

 美月が何か返事をする前に、達也が横槍を入れる。

 

 あまり許容はできないが、別に今の参加メンバーだけなら、それぞれがかなり戦えるから問題ないし、それほどの力を持ったうえで挑むというなら、最終的には本人の責任だ。

 

 だが、美月は違う。彼女は確かに類まれかつ唯一無二の力を持っているが、実戦的なパワーはない。その参加の危険度からすると、到底見過ごせるものではなかった。

 

「……柴田さん、僕からも、お願いしたい」

 

「アタシたちも、美月護衛を中心に動くから、どうか信じて」

 

「二人まで……」

 

 止めてくれると信じていた幹比古とエリカすら、蘭に同調してしまった。蘭が言うならまだしも、この二人がこうなるのは、信じられない。

 

「ぱらさいとは……このままほうっておくと、にんげんのすべてが、くわれかねません。いまは、ぶんれつして、ちからがだせませんが、もとのおおきなひとつにもどれば、だれもていこう、できないでしょう」

 

「そういうことか」

 

 二人が蘭に同調した理由。それは、彼女の言うことを信じたからだ。

 

 分裂して全く本来の力が出ていない状態ですら、レオにほぼ一方的に勝てる。そんな存在が元の一つに集まって完全な力を取り戻せば……恐ろしいことが起こるのは、十分予想できる。

 

 相手は見えず、圧倒的な力を持っていて、そしてこちらのことを餌としか思っていない。

 

 蘭の言う大惨事は杞憂めいた悲観論ではなく、十分に検討するべき、ありえる未来だ。

 

 そんなパラサイトに対するジョーカーが、美月。彼女は、不可視のはずの敵が、間違いなくはっきり見えるだろう。それを元に、一体ずつ集団で確実に倒していけば、ある程度安全かつ効率的にパラサイトを排除することができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みづきちゃん…………どうか、おねがいします」

 

 

 

 

 

 

 

 そして蘭が、深々と頭を下げた。

 

「え、ええ!?」

 

 美月がまた驚きの声を上げる。彼女ほどではないが、達也たちもまた、目を丸くするほどに驚いた。

 

 あの蘭が、頭を下げた。

 

 こんな真摯に人に頼み込む姿は、初めて見た。否、彼女の人となりを知っていれば、こんなことをするなんて、微塵も考えないだろう。

 

 そこで全員が思い出したのが、昨夜蘭がやらかしたという、独断専行だ。

 

 それほどまでに蘭は、この件に、必死なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わかった。私、蘭ちゃんのために頑張る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その姿に、混乱しっぱなしだった美月が、決意を固めた。

 

「本当にいいのですか?」

 

「うん。放っておけないし、それに、蘭ちゃんの言ってる事、すごく分かるから」

 

 深雪が気づかわし気に確認する。それへの美月の返答は、先ほどまでうろたえていたとは思えないほどに、芯の通った声だった。

 

(誰もかれも、無茶をするやつばっかだな……)

 

 達也は呆れ果てる。

 

 だが、その口角は……ほんの少しだけ、上がっていた。

 

 4月に出会ってから、全員、技術以上に心が大きく成長してきている。

 

 それが、達也にとっても嬉しかったのだ。

 

(とはいえ……)

 

 危険なのには、変わりない。

 

 ならば、自分がするべきことは。

 

 

 

 

 

(俺と深雪も参加できるように、準備しておくか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 お友達グループの冒険に、自分たちも参加するほかないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして美月も加わり、裏では達也と深雪が加わろうとしている一行は、今夜もまた、夜に出歩いていた。

 

 いくら崇高な使命があろうと、高校一年生と中学三年生の実に6人の男女が夜中に出歩くとなれば、お遊び気分になるのは免れない。だが今日は、昨日と違って、牧歌的な雰囲気は全く流れていなかった。

 

 理由は一つ。蘭から聞いた、パラサイトの危険性だ。場合によっては、人類が滅びかねない脅威である。それでいて、警察も十師族も頼りにならず、一番成果を出しているのは蘭たち。とてもではないが、遊び気分になろうはずもない。

 

 そして今日も今日とて、幹比古の棒占いから探索は始まる。この一見子供の遊びめいた魔法は、実際の所、中々の精度を誇っている。古式魔法師たちが、いかに「化け物」の類を相手にすることを想定していたかが分かるだろう。

 

「……見つけた」

 

 先頭を歩いていた幹比古が、右手を横に広げて、後ろをついてくるメンバーを制止する。

 

 彼の目線の先には、まだ何もない。だが、幹比古が使役した精霊が、この曲がり角を先にいて、その景色を届けてくれる。『視覚同調』だ。

 

「何人?」

 

「…………二人、って言っていいんだと思うんだけど……」

 

「なによはっきりしないわね」

 

「いや、これがびっくりなことにさ……その二人が、戦闘になってるんだ」

 

 その説明で、緊張が走る。

 

「赤毛で目つきが悪い…………男か女かは分からない」

 

「吸血鬼VS鬼、ってところね」

 

 赤髪、という証言に聞き覚えがある。

 

 この探索のきっかけとなった、犠牲になったレオの証言。吸血鬼と戦闘になって殺されそうになったが、赤髪の恐ろしい誰かが横槍を入れたことで戦場が移り、助かったという。

 

「どの勢力でしょうか」

 

「警察、十文字か七草、もしくは……」

 

「あめりかじん、ですかね」

 

 亜夜子、文弥、蘭、と可能性を列挙していく。あの赤髪は、果たして味方か敵か、それとも第三勢力か。

 

 そうやって慎重に歩みを進めていくうちに、その戦いが目視できる位置まで来た。蘭はデータ収集のためにと持ってきていたカメラを起動する。エリカと幹比古と美月はこれを紹介されたとき、腰を抜かした代物だ。とんでもなく遠くまで鮮明に見えて、しかもキルリアンフィルターによるサイオンカメラまで付いている。超重要機密を守るどこぞか、軍や国からかなりのバックアップを受けている九校戦のカメラぐらいしか、これほどの性能はないだろうし、お値段もかなりのものである。彼らはどこで手に入れたかを疑問に思うが、口には出せなかった。ちなみに、その答えは、当然四葉である。

 

「十師族にも警察にも、あんなのがいるって聞いたことはないわよ」

 

「隠し玉、って可能性はあると思うけど……」

 

 エリカは訝し気だ。警察については兄からいろいろ情報が入ってくるし、十師族にしたってあの見た目でなおかつ単独行動を任されるほどの能力がある魔法師がいるとすればかなり目立つに決まっている。だが、どちらからも、噂すら聞いたことない。

 

 昨日の吸血鬼に憑りつかれた人間の身元は、蘭の「ツテ」によると、USNA人、それも軍の魔法師部隊の隊員だったという。

 

 これらを統合すると――あの赤髪の鬼は、USNA軍の手先である可能性が高い。

 

 眼鏡をはずして戦闘を凝視する美月の呟きは、そうしたことを考慮した、本人が思ってもいない可能性の話だった。

 

 そうこうしている間に、赤髪の鬼が吸血鬼を追い詰める。

 

 そして吸血鬼は、蘭にやられた時とは違って自爆する暇すらなく――その人体が崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ! 見えました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いくら静かな夜とはいえ、この距離ではあちらに到底聞こえるはずのない声。それでも、幹比古から借りた、悪意ある魔法的波動をシャットアウトする布越しにあちらを見つめる美月の声は、先ほどまでに比べて、わずかばかり大きい。

 

 直後――赤髪が、こちらを振り向く。

 

「マズ! 美月下がって!」

 

 エリカが前のめりになって何やら立ち尽くしている美月を引っ張って後ろに下がらせ、全員が戦闘態勢を取る。外国まで来てこっそり魔法戦闘するような相手だ。間違いなく「プロ」だろう。この人数でも、束になって勝てるかどうか。

 

「――――っ!」

 

 だが赤髪はこちらを睨みつけると、しばし迷ったのち――死体を担いで、高速で去っていった。

 

「……なんとかなった、てところかしら?」

 

「スクープえいぞうは、ばっちりですぜ、だんな」

 

「誰が旦那だ誰が……とりあえず、映像解析は達也にお願いすればオールオーケーだと思うけど」

 

 全員が未だ周囲を気にしつつも、肩の力を一旦抜いている。

 

 そんな中……美月は未だ、赤髪の鬼が去っていった方向の中空を、ぼんやりと眺めていた。




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