魔法科高校の劣等生・来訪者編クリアRTA   作:まみむ衛門

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二話連続で投稿しているうちの二話目です
まずは前のお話をご確認ください


1ー2

 私には一人、弟がいる。

 

 名前は中条いつき。いつも私は「いっくん」とよんでいる。

 

「いっくん、早く帰ってこないかなあ」

 

 今日はいっくんの入学式の日だ。お父さんとお母さんと六年生は出席したけど、二年生の私は、お家でおるすばんだった。

 

 まず、お父さんとお母さんが帰ってきた。一年生のいっくんは、去年の私と同じように、クラスであつまって、かんたんなプリントをもらったり、自己しょうかいをしたりしなければいけない。

 

「……えへへ、楽しみだなあ」

 

 おべんきょうに使う机に両ひじをついて、ついつい笑ってしまう。

 

 かわいいいっくんと、明日から、学校にいっしょに行ける。

 

 辛いことや、つまらないことや、お友だちとけんかしたりすることもあるけど、とっても楽しい。いっくんも、きっと楽しんでくれると思う。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!」

 

 

 

 

 

 

「あっ!」

 

 いっくんが帰ってきた!

 

 一階のげんかんから、元気な声がきこえてくる。

 

 私はすぐに立ち上がって、かいだんを走って下りた。

 

 リビングにいたお父さんとお母さんが、先におでむかえをしていた。わたしはその後ろから顔を出して、いっくんにあいさつをする。

 

「おかえり!」

 

「お姉ちゃん、ただいま!」

 

 ランドセルに、学校に行くときにかぶる黄色いぼうし。一年生だから、どっちも、まだ小さないっくんには合っていない。そんないっくんも、とってもかわいかった。

 

 いっくんが、ニコッ、と笑ってあいさつを返してくれる。

 

 いっくんの顔は、すごく私にそっくりだ。いろんな人からよく言われるし、写真を見ると自分でもたまに見分けがつかない。私のほうがお姉ちゃんだから、ほんの少し大きい、ぐらいのちがいだと思う。

 

 いっくんはぼうしをぬいでげんかんにおくと、ランドセルを下ろして、すぐに手あらいうがいをした。そのあと、お父さん・お母さんと何かお話があるみたいなので、私はお部屋にもどった。このあと、いっくんから、学校はどうだったとか、いっぱいお話することがある。お父さんもお母さんも、そういうお話をしたいんだと思う。

 

 そうしてお部屋でぼんやりまっていると、いっくんがかいだんを上ってくる音がした。そしてとなりの、いっくんのお部屋にもどる。今日ははじめての学校でつかれたと思うので、少し一人にしてあげよう。

 

 そう思ってがまんしたけど、でもがまんできずに、一時間もしたら、いっくんのお部屋に遊びに行ってしまった。

 

「いっくん、入っていい?」

 

「うん、いいよー!」

 

 ノックをして声をかけると、すぐにお返事が返ってくる。

 

 うれしい気もちで中に入ると、いっくんは、まだサイズが合っていない机に向かって、えんぴつを動かしていた。

 

「何やってるの?」

 

 入学式の日に学校でもらえる、おべんきょう道具セットだ。うれしくて、さっそく使ってるのかもしれない。

 

「算数のお勉強だよ! ほら!」

 

 いっくんはおたん生日がおそくて、同い年の子についていけないことが多かったらしい。それでも、年長さんぐらいから、みんなよりもずっと、お利口になった。私もおべんきょうは学校で一番だから、いっしょで、すごくうれしい。

 

 もう一年生の足し算引き算はおぼえちゃったかな。

 

 そう思って、いっくんがわたしてくれた紙を見る。

 

 

 

 

 

 

(1)

3.72×9.13+4.2÷0.2

=33.9636+42÷2

=54.9636

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………え?」

 

 信じられなかった。

 

 何回見直しても、見まちがえではない。

 

 いっくんは、高学年のお兄さんお姉さんたちがやってもむずかしいようなもんだいを、何個も何個も正解している。

 

 私も、学校のおべんきょうはとっくに全部分かっていて、とくに算数は、もう高学年のものもおべんきょうしはじめた。私は、みんなからいっぱい「すごい」ってほめてもらえるけど、その反対に、みんなから、気もち悪がられているのも、なんとなく感じている。きっと私は、他の子とは、ぜんぜんちがうんだ。

 

 だけどいっくんは――一つ下なのに、もう私と同じことを、できるようになっている。

 

 私が小学校に入ったばっかの時はどうだったかな。

 

 時計はよめた。漢字も、かんたんなものなら書けた。算数は、九九を全部おぼえたぐらいだったかも。

 

 それなのに、いっくんはもう、ここまでできている。

 

 これは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごいよ、いっくん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――いっくんは、すごくお利口なんだ!

 

 私はうれしくなって、いっくんにだきつく。いっくんは少しびっくりした様子だったけど、すぐに「えへへ、ありがとー!」ってよろこんでくれた。

 

 いっくんに、いっぱいおべんきょうを教えてあげたかった気もちはあるし、それはすごくざんねんだけど。

 

 それよりも、おべんきょうのことで、いっぱい、いっくんとお話できそうなのが、すごくうれしかった。

 

「いいこいいこ~」

 

「あは、くすぐったいよ~!」

 

 だきしめて、ふわふわのかみの毛をいっぱいなでてあげる。

 

 これからいっぱい、いっくんとおべんきょうして、分からなかったことが、分かるようになりたい!

 

 

 

 

 

 

 いっしょに学校に行って、いっしょにおべんきょうして、いっしょに遊んで。

 

 

 

 

 

 

 思っていたよりも、いっくんとの小学校は、すっごく楽しくなりそう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………でも、そんな気もちは、すぐに悲しい気もちに変わることになる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、いっくん、学校行きたくないの!?」

 

 入学式の二日後の朝。可愛い娘が、目を丸くしている。

 

「うん……学校のお勉強、つまらなくて」

 

 それと話す、今日が登校三日目の息子は、姉とそっくりな顔を暗くして、俯いていた。

 

 あずさといつきの母親――中条カナは、眉尻を下げ、その様子を困ったように見ていた。

 

 

 息子がいきなり学校に行きたくないと言い出したのは、昨日の夜のことだった。

 

 登校二日目で、ドリルやノートや教科書が配られたが、それはお名前を書くだけで終わって、学校探検で午前中だけの登校を終えた。学校から帰ってきたいつきがどこか元気がない様子だったが、慣れてないことだらけで色々疲れたのだろうと思って、軽めのお昼ご飯を食べさせて、部屋で休ませたのだ。

 

 その後の夜、あずさがお風呂に入っている間に、カナと、父親の学人(がくと)に、いつきがいきなり、「学校に行きたくない」と言い出した。

 

 そうして見せられたのが、いつきが入学式の後に、学校のお勉強がどういうものなのかとタブレット端末で調べて問題を探し、解いてみたプリント。小数第二位までの、四則演算混合の計算問題。整然と書かれた途中式と、立ち並ぶ正解は、計算プリントのお手本そのものだったが――だからこそ異常だった。

 

 まずそもそも、やっていることが、全部小学校高学年でやっと習うようなもの。

 

 四則演算混合の計算問題は、そのルールに戸惑う子も多い。

 

 小数の掛け算割り算も、計算が苦手な子はそのやり方を理解するのに時間がかかるだろう。

 

 そして、この問題は、小数第二位まである。

 

 つまり、高学年で習うような内容の中でも比較的躓きやすいもので、しかもやや発展形の問題を、全問正解したのだ。

 

 

 

 ――入学式を終えたばかりの小学一年生が、である。

 

 

 

 

 長女のあずさも、自分たちにはもったいないほどの天才だった。

 

 保育園生の段階で勝手に簡単な足し算引き算を覚え、入学式のころには勝手に九九を覚え、入学後も向こうから質問されたとき以外は何も教えていないのに、どんどん上の学年の内容を勉強していった。

 

 だが、いつきは、それよりもさらに天才だ。

 

 同じ学年・学校どころか、カナや学人の知り合いの子供まで探しても、あずさほどの天才はいなかった。そんな一つ歳が上のとびぬけた天才であるあずさと、すでに同じレベルにいるのである。

 

 

 

 

 

 

 ――二人の頭を悩ませた。

 

 

 

 

 

 

 あずさも、学校のお勉強のペースにはやや不満そうで、周囲からは浮きがちであると、面談で担任から申し訳なさそうに伝えられた。特別学級での、学年関係なく本人の能力に応じて勉強内容が決まる英才教育も視野に入れたが、集団生活による社会性をはぐくむことは重要だし、何よりもあずさ本人が、浮いていながらもお友達とそれなりに楽しく過ごせているので、それを引き離すようなことをするのもどうかと思って、普通クラスにした経緯がある。

 

 だが、いつきは――あずさよりも、さらに飛びぬけた天才であった。

 

 そして本人は、自らの能力に合わせた勉強をしたいという。

 

『一晩、パパとママにお時間ちょうだい?』

 

 昨夜はそう言って誤魔化し、夫婦で真剣に話し合った。

 

 その結論が、これだ。

 

「ねえ、いつき。学校はね、クラスのみんなとお勉強するだけじゃなくて、自分だけのために、先生が特別に色々お勉強させてくれるコースもあるのよ?」

 

 それは、あずさには選ばなかった、特別クラスコースだ。

 

 本人が天才なのは良いことである。だが、学校で、教員免許を持つ専門家から体系的な学びを得るのは大事なことだ。それならば、そのコースで、なんとか学校に行ってもらえるようにするのが、思いつく限りでは一番だった。

 

「……うん、分かった!」

 

「クラス替えのために、一週間ぐらい我慢することになるけど、いい?」

 

「うん! じゃあお姉ちゃん! 学校行こ!」

 

「………う、うん!」

 

 少し悩んだそぶりを見せたが、いつきは納得してくれた。ランドセルと帽子をすんなり準備して、姉に笑いかけながら、手を差し出す。ずっと不安そうにしていたあずさは、今も少し戸惑いが見えるが、嬉しそうにその手を取って、昨日と同じように、仲良く手を繋いで学校へと向かう。

 

 ほほえましい光景だ。

 

 あずさは、こうしていつきと学校に一緒に行くことを楽しみにしていた。親バカを差し引いても、二人ともとっても可愛らしくて、仲良くおててを繋いで歩いている様子は、まるで絵に描いたようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 願わくば、いつきが特別コースに満足して、これからもずっと小学校に行ってほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな両親とあずさの願いは、特別クラス移籍をここから一週間後にして、さらにその一週間あとに、崩れ去ることになる。




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