魔法科高校の劣等生・来訪者編クリアRTA   作:まみむ衛門

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 今日から新三年生となった生徒会長・七草真由美は、入学式の準備を頼れる同級生と後輩に放り投げて、校内をフラフラと歩いていた。

 

 目的は一つ。今すでに校内に来ているらしい、二人の新入生に会うため。

 

 一人は司波達也。新入生代表として早めに来ることになった妹・深雪についてきた二科生。だが筆記試験は歴代圧倒的最高スコアを叩き出してる。

 

 もう一人は、一番かわいがっている後輩・中条あずさの弟の、中条いつき。司波深雪という規格外と被ってしまって次席だが、彼もまた楽しみな逸材だ。ぜひ、早いうちに一目会っておきたい。

 

(どんな子なんだろうなー)

 

 独特の、それでいておしとやかで上品に見える、謎の歩き方でフラフラ散策しながら、真由美はぼんやりと考え事をする。きっと二人とも、すごく賢いのだろう。顔写真は見たものの、実際に見れば印象は違うのかもしれない。

 

 そんなことを考えているうちに――視線の先に、見慣れた人物が入ってきた。

 

 明るい栗色のふわふわの髪が、肩にかかるかかからないかぐらいまで伸びている。中学生にしか見えない低身長。間違いない。仕事を任せたはずのあずさだ。

 

「チョッとあーちゃん。何お仕事さぼってるのよ珍しい。トイレ?」

 

 後ろからソロリと近づいて、至近距離で声をかけてびっくりさせようとする。

 

 

 

 

 

「うわ…………えっと? あーちゃんって、あずさお姉ちゃんのことですか?」

 

 

 

 

 

 だが目の前の中条あずさだったはずの少女は、あずさと同じ声で、困惑した表情でそんなことを聞いてきた。

 

「ん? あー、なるほど、はいはい」

 

 そこで違和感に気づく。そういえば、着ているのが男子の制服ではないか。そもそも、あずさが仕事をさぼるとは考えられない。今頃、摩利や鈴音あたりの愚痴に晒されながら、人一倍働いてるだろう。

 

「あなたが、中条いつき君ね?」

 

 そう、目の前にいるのは、まさしく目的としていた少年だ。

 

 その姿は、証明写真で見るよりもはるかに、可愛い後輩にそっくりである。よく見たらわずかに顔立ちが少年っぽい気もするし、声もわずかに低い気もするが、かなり集中しなければ見わけも聞きわけもつかないだろう。

 

「初めまして。生徒会長の七草真由美です。あーちゃ……お姉さんには、いつも助けてもらっているわ」

 

 真由美は見る者すべてを魅了する天使の笑顔を浮かべる。世の中の男はこれで皆、初対面でこちらの術中にはまったのだ。異性を少しからかうには、これが最適だ。

 

「あー、あなたがあずさお姉ちゃんが言ってた七草先輩なんですね。初めまして、お姉ちゃんがいつもお世話になってます」

 

 だが、いつきはほんの少しも動揺しなかった。

 

 実に模範的な態度で、ピョコン、と可愛らしく頭を下げ、にっこりと笑う。その愛嬌ある姿に、むしろ真由美の方が動揺してしまった。

 

「それで、七草先輩はなんでこんなところに? 生徒会のお仕事があるのでは? 入学式とか」

 

「え、えーと……」

 

 そして追撃で、いきなり痛いところを突かれてしまった。なるほど、賢いというのは本当らしい。

 

 これではまるで、ダメな生徒会長みたいだ。真由美は数秒の間、灰色の脳細胞を巡らせて、言い訳を探す。

 

「少し、校内の様子を見ておこうかと思いまして。あなたのように、早めに来て困っている新入生もいるでしょうから」

 

「あー、なるほど」

 

 本心は分からないが、少なくとも表面上は納得してくれた。真由美は安心しながら、言葉を紡ぎだす。

 

「何か困ったことがあったら、あーちゃんでも、私にでも相談してくださいね? なんなら、私のことも二人目のお姉さんだと思ってくれていいわよ」

 

「お姉ちゃんは、あずさお姉ちゃん一人だけなんで」

 

「あ、はい」

 

 あのブラコン姉にして、このシスコン弟だ。

 

 真由美は呆れ果てながら当たり障りのない別れの挨拶をして――いつきが視界から外れると同時に、達也を探すべく、またさぼりを続行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入試の時ほどではないにしろ、こうして入学初日を迎えても、幹比古の心はささくれ立ったままだった。

 

 さっさと履修登録を終え、自分が悪目立ちする可能性すら全く考えず、幹比古は教室を離れ、暗い気分で校内をうろうろと歩いていた。

 

 何もせず座っているよりかは、こうして歩いている方がまだ気がまぎれる。

 

 慣れない制服に、物理的なもの以上の重さを感じる。

 

「はあ……」

 

 この溜息も何度目だろうか。

 

「まさか、エリカと同じクラスだったなんてなあ」

 

 そうして新たな生活で連想が及んだのが、家同士の付き合いが深い幼馴染のエリカが、まさかのクラスメイトだったこと。4分の1の偶然が、よくもまあ当たるものだ。

 

 実際、この未来のことを考えたらもっととんでもない偶然でE組に導かれし者とでもいうべき逸材が集まっているのだが、当然この時の彼は知る由もない。

 

 クラス替えシステムはなかったはず。三年間、からかわれ続けるのだろう。

 

「頼むから、高校進学を境に『ミキ』も卒業してくれよ……」

 

 我ながら叶いそうにない願いを呟きながら、トイレに入る。用を足したら、校内にあるカフェで時間でも潰そうか。

 

 そうして用を足していると、トイレに後から誰かが入ってくる気配がした。

 

(いったい誰だ? 僕以外にもさっさと済ませて出歩くせっかちがいるんだな……)

 

 まあ、別に誰でもいいか。

 

 そう思って、ズボンのチャックを閉めた時――

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 幹比古君?」

 

 

 

 

 

「えふっ!

 

 ――――驚きで幹比古の喉も締まった。

 

 チャックに色々挟むような失態こそしなかったが、変な声が口から洩れる。

 

 そして息を整えて声がしたほうを振り返ると――

 

 

 

「やっぱ幹比古君だ! 久しぶり!」

 

 

 

 ――そこには、女の子が立っていた。

 

 いや、なんで男子トイレに女の子が、などという驚きを、今更感じたりはしない。

 

 なにせ、この小さな女の子……にみせかけた男の子のことは、よく覚えているのだから。

 

「い、いつき!? ここに入学してたんだ」

 

 中学一年生の時以来全く会っていないライバル、中条いつきである。

 

「そう。お家も大体この辺だからね」

 

 想像よりもはるかに近くに住んでいた。同じ関東圏だったとは。

 

 突然の再会に幹比古は驚きと動揺ですっかり頭が回らなくなるが――すぐに気まずくなって、目を逸らし、細い声で、なんとか言葉を続ける。

 

「そうか……」

 

 さきほど視界に入ったのは、花を模した一科生のエンブレム。やはりいつきは、しっかり一科生として入学していたのだ。一方自分はと言うと、そのエンブレムはない。入試でも無様をさらして、かろうじて二科生だ。

 

「そうだ、せっかく会ったんだし、ちょっとカフェとかで色々話そうよ! 履修登録終わるまで暇だしさ!」

 

 いつきはあの時と変わらない天真爛漫な笑顔で誘ってくれる。

 

 だが、今の自分はもう、いつきから目を向けられるような存在ではない。

 

 いつきは気づいていないようだから、ここでいっそ、もう縁を切ってしまおう。

 

 幹比古は、心臓を絞られたような痛みを覚えながら、震えた声を絞り出す。

 

「…………御覧の通り、僕は二科生だよ?」

 

 これでいつきは、もう自分なんかに構うことはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、知ってるよ。それが?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 両者の頭に、クエスチョンマークが浮かんでいる。

 

 いつきは可愛らしく小首をコテンと傾げ、幹比古はそんないつきの顔を見て固まったまま。

 

「エンブレムついてないのはまあ、びっくりしたけど。当日体調でも悪かったのかな? まあそれはそれとして、二科生だとこの後なんか予定でもある感じ?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど」

 

「じゃあ行こうよ!」

 

 そう言って、いつきが幹比古の手を取ろうと、小さな可愛らしい手を伸ばしてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、その手から、幹比古は逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二科生になった自分をも受け入れてくれたことは、とても嬉しい。

 

 今にも泣いてしまいそうなほどに。

 

 だがそれでも、その手は拒絶しなければならない。

 

 なぜなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ手を洗ってないから、触らないほうがいいよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分は用を足した直後なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして再会した幹比古といつきは、クラスどころか一科生・二科生の違いがあるというのに、主に昼休みや放課後に、一緒に過ごすことが多くなった。

 

「あなたがいっくんが言ってた吉田幹比古君ですかあ。初めまして、姉のあずさです」

 

 4月中頃の昼休み。いつきのお弁当を届けに来たあずさも加えて、三人で食事をすることになった。

 

「は、初めまして。いつきにはお世話になってます」

 

 いつきと違って、あずさはこんな見た目でも年上の美少女だ。エリカ以外の、いや、ある意味エリカの影響で異性に弱い幹比古は、緊張しながら頭を下げる。

 

「ある意味、いっくんの初めてのお友達だね」

 

 とてもナチュラルに幹比古の対面に座るいつきの隣に向かい、二人とも小さいからソファもそれなりにスペースがあるというのに、恐ろしく近い距離に座る。年頃の男女のはずだが、姉弟ともなると気にしないのだろうか。弟子に女性は多いが血筋は男所帯の幹比古は、そんな感じで納得しながら、お冷で口を湿らせる。

 

 入学してからの数日の間に、いつきのことをだいぶ知ることができた。

 

 連絡先、住んでいるところ、家族構成。

 

 そして身の上話。

 

 いつきは、あまりにも天才過ぎた故、小学校一年生の4月からずっと不登校だった。当然友達ができるはずもなく、遊び相手はもっぱら家族。そうなると幹比古は確かに、彼にとっての初めての友達と言えよう。

 

 二人はおそろいのお弁当を広げる。二人の見た目通り、幹比古からすればお箸の先で突けばすぐに食べ終わるような子供向けサイズだ。中身はいろどり華やかで、その見た目だけでなく、栄養面も味も、きっと優れたものだろうというのが容易に想像がつく。少なくとも、自分が食べようとしているうどん大盛・天かす多めよりかは。

 

 今日のお弁当はあずさが作ってくれて、こうして後から持ってくるとは聞いていた。いつもは母親が作ってくれて、一回幹比古と一緒に食べなかった日はいつきが作ってあずさと一緒に食べていたらしい。そういえば、クラスメイトのどこか剣呑な雰囲気がある司波達也とかいう男子も、あの新入生代表の綺麗な子の兄で、お弁当を作ってもらってるとかなんとか言っていたような気がしないでもない。

 

(男女きょうだいって、こんなもんなのかな)

 

 幼馴染のエリカが一番身近な例だが、幹比古視点では、あれはほぼ男兄弟でありノーカウント。そのせいで、幹比古に、男女きょうだいの誤った認識が植え付けられつつあった。

 

「吉田君は、もう高校には慣れましたか?」

 

「えっと、はい、おかげさまで……」

 

「部活動とか、委員会とかは入りますか?」

 

「それも考えてないですね……」

 

 部活動勧誘期間はすさまじいものだった。

 

 幹比古は魔法師男子の中では見た目は華奢な方だが、実際はよく鍛えられた肉体を持っている。それを見抜いた非魔法系運動部から、熱烈な勧誘を受けたのだ。

 

 一緒に行動していたいつきも、一年生次席という噂がプライバシーも何もなく広まっていて、あらゆる部活から勧誘を受けていた。一番熱心だったのが魔法が関係ない演劇部だったのは、納得いかないように見えて、この見た目で男の子と言うことも考えると、むしろ一番納得いく組み合わせだったというのは余談だ。

 

 そして幹比古もいつきも、部活動に入ることは全く考えていなかった。いつきは興味なさげだし、幹比古もそんな気分ではない。結果、二人はどこの部活にも属さず、放課後は実技棟の隅っこを借りて魔法の練習をしているか、一緒に帰るか、たまに寄り道してそこらへんでフラフラと遊ぶか、という程度だった。

 

「そうですか……部活動の入部は途中からも認められていますので、いつでも歓迎してくれると思いますよ。いっくんも、ね?」

 

「部活動かあ……オカルト研究会とかあればなあ」

 

「いつきの言うオカルト研究って、随分本格的なやつだろ?」

 

 幹比古は苦笑する。

 

 いつきは、なぜだか知らないが、古式魔法師の世界では存在するとされている、妖魔の類についてやたらと熱心だ。しかも現代魔法師の身でかなり深いところまで知っているので、そんな人間がオカルト研究会なんていうどう考えても不真面目な連中――幹比古の偏見である――に入ったら、逆に浮いてしまうかもしれない。

 

「あ、そうだ。……吉田君は、古式魔法師、なんですよね」

 

「はあ、一応」

 

 今はそれを名乗るのすらおこがましいが、否定する材料があるわけでもないので、曖昧な返事をする。

 

「いっくんが、吉田君から、精霊とかお化けの話とか、いっぱい聞いたって言っていました。よろしければ、私にも聞かせてもらえませんか?」

 

 目を爛々と輝かせて、その一方でどこか深刻そうに、ズイ、と身を乗り出してくる。少し話しただけでも大人しい性格だと勘づいていた幹比古は、意外なその行動に、たじろいでしまう。

 

「中条先輩も、魔性の類に興味がおありで?」

 

「はい。いっくんと一緒に、中学生のころから研究しています。といっても、趣味の範疇ですけど……」

 

「いつき、さてはあの交流会に参加してた目的って」

 

「ビンゴ。精霊について古式魔法師に聞こうと思ったからだよ」

 

「フットワークが軽すぎやしないか?」

 

 部活動や小中学校など興味ないことにはてんで関わろうとしないのに、興味がある事にはあんなところにまで参加する。そんな対称性は、幹比古のその感想が実に的を射ていた。同じことはあずさも思っていたようで、乗り出していた身を退きながら、苦笑していた。

 

「えっと……まずどこまで知っていますか?」

 

「そういう存在がいて、人を食べたりする、とだけ」

 

 自前で色々仮説を立ててはいるが、それはここではまだ話さなくて良いだろう。21世紀頭までの大学に相当する機能の一部が移された高校で一年間しっかり学んだ彼女は、研究者としてそれなりの態度を弁えつつあった。

 

「確かに、僕もそこまでしか話していませんね」

 

 察するに、この二人の情報源は、幹比古だけなのだろう。なんだか責任重大だ。

 

「えーっと……まず、化け物の類は、確実に存在する、と言うことになっています。僕ら古式魔法師は、そうした不意に現れる魔性の存在と、戦う術もある程度身に着けることになりますね」

 

「無駄な練習をするわけないから、ある程度確信をもってそういうことをやっている、ということですね」

 

「はい。それで、そうした化け物は、当然各文化・人種・地域・宗教で様々な呼ばれ方や分類をされています。例えば日本だったら、八百万神、妖怪、お化け、鬼、『たま』、みたいな」

 

「海外だったら、悪魔とか、神様とか、ドラゴンとか?」

 

「そんなところ。で、古式魔法師は秘密主義的なところもあるけど、一方で横のつながりも世界的に強かったりするから、そういう分類を世界レベルで統一しよう、って話になったんです」

 

 幹比古はタブレット端末にタッチペンで綺麗に線を引いて、分類の表を書いていく。

 

「人間に憑りついて他の人間を襲う『パラノーマル・パラサイト』。これは大体の化け物の類が当てはまる、と言われています。仕組みはよくわかりませんが、人間の肉や血を摂取することで、そこに含まれる『精気』……サイオンやエイドスとは違う、生命力みたいなものを奪って糧としている、という話が有力ですね」

 

「へえ、寄生するからパラサイト、っていうことですか?」

 

「そうなります。異形の人型の鬼、吸血鬼、動物型の妖怪……これらは全部、パラサイトに乗っ取られた生物が、都合よく作り替えられたもの、ということですね」

 

「だってさ、あずさお姉ちゃん。枯れ尾花じゃなかったみたいだね」

 

「も、もう! 真面目なお話してるんだから御ふざけはなし! メッ!」

 

 あずさが顔を赤らめていつきを窘める。多分、こうした話の中で、いつきが「怪談」をしてあずさをからかったのだろう。いかにも怖い話が苦手そうである。

 

「あとは、プシオンを核とした、独立情報体である『精霊』、という分類がありますね。これは実際に精霊魔法として使っているので、存在が確認されています。一応吉田家では、自然界の巨大な情報を司る精霊に関しては、『神』と分類していますね。そういうわけで、上手いこと纏めて『神霊』と分類することもあります」

 

「精霊と神様を同じようなものとして扱う、ということですか?」

 

「一神教じゃそうはいきませんが、八百万神の観念がある神道系ですからね」

 

 幹比古は苦笑する。分類決めの国際会議では、一神教文化圏と多神教文化圏で大層もめたらしい。開催国のイギリスは一神教文化圏だが、どちらに肩入れするわけにもいかず、さぞ大変な思いをしただろう。

 

「それと、これは魔法によって人為的に生み出した、化け物のような何かですね。式神だとか、使い魔だとか。知性ある生物のように振舞いますが、実際に化け物を生み出しているのではなく、術者によって動きがプログラミングされた存在、ということになります。その中でも、物体を介さずに出現するのを、化成体、と呼んだりもしますね」

 

「お化けにも色々あるんだねえ」

 

「ちなみに、こうした化け物の類を操作して行使する魔法を、『SB(スピリチュアル・ビーイング)魔法』と言ったりするよ。まあ、パラサイトはそもそも現れたって話を近年は全然聞かないし、仮にいてもコントロールできないから、実質、神霊と式神だけだけどね」

 

 色々と秘密にかかわる話をした気がするが、幹比古は考えないでおく。

 

 高校生活が始まって二週間。いつきが彼を受け入れたおかげで、思ったよりも楽しく過ごせている。

 

 これは、その恩への、ささやかなお礼なのだ。

 

「はー、なるほど、こんなに詳しく分類されてたんですね」

 

 書き込まれたタブレットを手に持って、あずさはまじまじと眺める。現代魔法師界隈は古式魔法師たちを「時代遅れ」「今の時代の敗北者」などと馬鹿にする不届きものもいるが、現代魔法の世界では全く未知の存在であるどころか存在すら疑われている「化け物」を、こうまで詳しく分類できるのだ。改めて、古いものも新しいものも、大事であることがよくわかる。

 

「で、実はここが肝心なんだけど……コントロールできないお化け、パラサイトは、人間を害するんだよね?」

 

 いつきが声を一段低くして、浮かべていた朗らかで可愛らしい笑みを消し、確認する。間抜けな声で感心していたあずさも、口元を引き結んでいる。

 

「…………そういうこと。僕たち古式魔法師は、それが使命と言えるかもね」

 

「それって、ボクらも、戦えたりするの?」

 

「難しいと思うよ。憑りつかれて妖怪になったやつは、物質的に破壊すれば可能だろうけど、憑りついた本体は観測もできないし倒せないだろうね」

 

「それはなんでですか?」

 

「物質的な存在ではないからです。だから、系統魔法は無理でしょう。サイオンによる攻撃もありますが、かなりの修行を要しますね。対抗するには――それこそ、同じような存在を扱う、SB魔法しかないと思います」

 

「そっかあ」

 

 いつきとあずさは納得した雰囲気だ。

 

 しかしながら、自分たちが戦えない、と知った、安心感や失望のようなものは感じない。

 

 むしろ――心の中で、別の手段があると、ある程度確信しているような雰囲気。

 

 

 

 

 

 気になる。

 

 

 

 

 僕がこんなに話したんだから、そっちが話してくれてもいいじゃないか。

 

 

 

 

 そんな感情が湧き上がってきて、口に出そうとするが――喉元まで出かかった言葉を、飲み込む。

 

 今話したのは、あくまでもいつきへのお礼だ。何かその代償を求めるものではない。

 

 それになんだか――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――二人はきっと、いつか話してくれる気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう幹比古は、なんとなく「予感」した。




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