大乱闘に乱入するRTA、はーじまーるよー!
前回は、
真由美「頼むから、思い出の中でじっとしててくれ」
いつき「思い出にはならんさ」
となったところまででしたね(脚色)
さて、では、前回名前だけ出した、『九校戦おかわり』について説明します。
出場するだけでバカうま味経験値、結果が出せればさらに大量ブーストでクソうまテイスト経験値。
九校戦は、参加しない理由がほぼ無い、最高のイベントです。
しかしながら、一人につき二競技までしか掛け持ちできません。
ですが、男子に限れば、このモノリス・コードの事故を知りながら見逃したうえで、数多くの実績を打ち立てておくことで――隠された三つ目の競技、モノリス・コードに代理として参戦できるのです!
だから、出場競技はモノリス・コードを回避して、積極的に実績も立てておく必要があったんですね。
ここのポイントですが、達也お兄様が来る前に先んじて交渉を済ませ、一番乗りになっておくことです。これで、達也兄やをどうしても参戦させたい克人・真由美先輩の意志をくじいて、代理選手の主導権を握りましょう。
そして事情も知らず呼び出されていた達也おにいたまに事情を説明して――彼には、急遽専属エンジニア兼作戦スタッフになってもらいます。これで、彼を参加させたい先輩たちもとりあえず満足しました。
さて、達也兄くんに作戦の全てをゆだねると約束しておきました。主導権を握られますが――問題ありません、彼が「エンジニア兼作戦スタッフ」になった時点で、全て計画通りです。
さて、それでは、CAD職人一人(お兄様)に聞きました。
急造で入れたい条件に最も近い二人のメンバーは誰?
選ばれたのは、幹比古君とレオ君でした。(例の和風BGM)
はい、というわけで、この三人で、頑張っていきます。
さて、ではなぜこうしたのか、説明いたしましょう。
まず、幹比古君は今後ずっと主力です。ここは彼が殻を破る一番重要なポイントであり、またそれを抜きにしても、このうま味ポイントで経験値を稼がせてあげたいんですね。
次にレオ君。彼は二次創作オリ主がこの代理モノリス・コードに参加する際はハブられがちですが、このゲームではそうはいきません。ここはレオ君にとっても重要な成長ポイントであり、ここから『薄羽蜻蛉』習得までは一つの流れです。これが無ければ、悪くて呂剛虎が止められずレオ君とエリカちゃんと摩利先輩と真由美先輩が死亡、普通でレオ君が呂との戦いで死亡、良くても吸血鬼との戦いで死亡、という形になります。
一方達也あにぃは、この競技において一番の戦力ですが、すでに経験値がカンストしているので、成長させる必要はありません。最強エンジニア兼最強作戦スタッフに彼を抜擢することで、二科生である幹比古君とレオ君を参加させる方向にも持っていってくれます。
これ理不尽な話なんですけど、どんだけプレイヤーキャラが実績積み重ねて先輩方の評価を高くしても、幹比古君とレオ君の参加を全然認めてくれないんですよ。達也お兄ちゃまが言うとすんなり許してくれるのに……。やっぱ原作主人公様なんやなって。
そういうわけで、このようにすれば、幹比古君とレオ君の経験値を原作通り稼ぎつつ「戦友」として好感度アップ、さらに自分も九校戦のうまうま経験値を、ルールの壁を乗り越えておかわりできます。
だから、達也にいさまに先んじて交渉して代理入りし、彼をエンジニア兼作戦スタッフにする必要があったんですね。
え? あとは日程消化だけだって前回言ってただろ、って?
える、しっているか。 ほもは うそつき
では作戦会議の様子をいつもよりゆっくり早送り(矛盾)しながら、この後について説明しましょうかね。
モノリス・コードの予選は、まず九校全員が同じリーグになりますが、五校としか戦わない変則リーグ制となっています。この上位三校が、決勝リーグで優勝を争うわけですね。
対戦の組み合わせは事前に確認済み。予選で強敵・三高と当たることはありません。プレイヤーキャラがエントリーしなかったこともあって、原作通りですね。
原作の流れをご存知の方は察しているかと思いますが、これで予選抜け、つまりある程度の結果を出すことはほぼ確定です。主力の達也兄君さまの代わりにいつき君になっているのが不安ですが、いつき君も強いので(自慢)。そういうわけで、掟破りの三競技目だというのに、結果ボーナスのバカうま経験値が保証されているんですね。
あとは、強敵・三高との戦いで勝って優勝するか、負けて準優勝になるか、ですが……それではここで、前々回に発表しなかった、モノリス・コードの難度を見てみましょう。
ほぼ勝てない
三高
結構強い
八高(森林限定)
これだけです。三高にはチートキャラである将輝君と、雫ちゃん・ほのかちゃんクラスの実力者であるジョージィがいますが、モブ君が少し足を引っ張るのと、原作で負けた分チームにマイナス補正がかかっているのとで、「絶対勝てない」とまではいきません。とはいえ、達也兄君さま参戦ボーナスが無い分こちらも弱体化しているため、「ほぼ勝てない」ですけどね。
一応優勝は目指しますが、三競技目にエントリーして準優勝ボーナスをもらえるだけでも美味すぎてうまぴょい伝説なので、これで問題ありません。そもそもここで勝ったこと、私は一度もありませんし、過去の走者でも、勝ったのは世界一位姉貴ただ一人です。いや、この人何者なんでしょうね。リアル司波達也ですよ。
それ以外との戦いは、主に幹比古君が強すぎるので、ほぼ問題ありません。八高が少し難しいですが、いつき君はクソザコ運動神経とはいえ、二競技優勝でとんでもない魔法力になっていますので、まあ大丈夫でしょう。
では、九校戦八日目、新人戦最終日、やっていきましょう。
といっても、原作で達也おにいたまがやっていたことをいつき君がやるだけなので、本当、先ほど言った通り楽勝です。ホモは嘘つかない(手のひらドリル)
適当に幹比古君の援護を受けながらいつき君が森林高速機動で大暴れして、相手を攪乱したところでノックダウン。あとはいつき君は念のためダッシュで一人粘っているレオ君の援護に行っている間に、幹比古君にゆったりコード入力してもらって、尾張、平定!(信長)
あ、今のが八高です。達也お兄ちゃんによって感覚のずれが治りスランプから脱した幹比古君が強すぎて、強敵のはずなのに全然手応えありませんでしたね。いやまあ、RTA走者は幾度の
あー、乱数ブレて、原作と違うステージにならないかなー。具体的には三高戦で森林ステージにならないかなー。
とか言ってたら最悪の渓谷・市街地を引きかねないのでやめましょう。渓谷ステージは幹比古君も最強ですが、さすがに将輝君の得意フィールドはキツすぎるッピ!
さーて次は、これも原作と同じ、二高との市街地フィールドでの戦いですね。
原作では達也兄やが、魔法を使わず身体能力だけで飛び移って接近し天井を這いまわるなんてことやってましたが、そんなこと、クソザコいつき君がやったら落下するだけなので、違う作戦を取る必要があります。
まずはレオ君に陣地を任せて、いつき君と幹比古君で周囲を警戒しながら相手を探知、モノリスの場所を割り出しましょう。
そうしたら、幹比古君を本陣周辺に置いて守備寄りの遊撃をしてもらいながら、いつき君単身で突撃します。
突入方法は――モノリスがある階の別の部屋に、バレるのを覚悟で窓から魔法で飛び込みましょう!
そこから、探知魔法で壁の近くに相手選手がいないことを確認してから、壁をぶち破って突入! 交渉は決裂した!
ぶち破った壁の破片をぶつけて相手ディフェンスを撃破! 『鍵』を打ち込んでモノリスを開けて、『視覚同調』用の精霊を喚起して置いておいて、相手遊撃に気を付けながら、隙を見てディフェンスに加勢します。
そして幹比古君は、計画通り主戦場である一高本陣からさりげなく離れながら、リモートワークでコードを入力! ゆっくり焦らずでええんやで。こっちも二人がかりで守れるから。
あ、はい、勝ちました。
原作よりも危なげない勝ちでしたね。やはり移動・加速系魔法は大正義です。
さて次は渓谷ステージですが……幹比古君が最強すぎて何もすることがありません。レオ君と一緒に雑談でもしながらぶらぶら霧の中でお散歩でもしてましょう。そうすれば全部幹比古君がなんとかしてくれます。当然見所がないので早送り。ははは楽勝だぜ!
☆
『っ!?』
「ええ、いっくんが!?」
いつきが、予想外のことを言いだした。すでに結論が共有されていた幹部たちと、あずさが、それぞれ違う反応で驚きを示す。
「多分、女の子や先輩はダメなんですよね? この会場に来ていて、一年生の男子で、急にモノリス・コードで戦える。ここで代理できるのは、ボクしかいませんよ」
いつきの言うことは理路整然としている。
そう、何も間違っていないどころか、すべて正しい。
実技学年二位で男子一位。身体能力に不安はあるが、戦闘能力はピカイチ。テロリストに突っ込み、ここでも堂々と立候補する度胸もある。実績も、昨日までの二競技で十分。
一番のエースを三競技に出す、という点では比喩表現でなく反則そのものだが、このトラブルでは仕方ないと許されるだろう。一競技しかエントリーしていない一年男子もいるが、モノリス・コードに出すにはあまりにも実力に不安がありすぎる。
いつき以上の適任は、ここに存在しない。
「「お疲れ様です」」
そしてこんなタイミングで、司波兄妹が、声を揃えて礼儀正しく入ってきた。そして二人そろって、異様なメンバーに眉を顰める。
「あ、司波君こんばんは。ミラージ・バットすごかったね」
「二人が頑張ってくれたおかげだ。それで、この状況は?」
達也と深雪からすれば、この状況は異常だ。幹部クラスが勢ぞろいしていて、それと桐原、五十里、花音、いつきもいる。そして一番浮いているいつきに、全員が驚いて注目していた。
達也の返事はいつきに向けたものだが、質問はこの場にいる全員に向けたものだ。だが、誰も即答はしない。
「今モノリス・コードの代理誰にしようって話しててさ、ボクが立候補したんだ」
「ほう、あれだけ嫌がっていたのにか?」
事前に達也で既定路線だったなんて知らない当人は、いつきが候補として出ることに微塵も疑問は抱かなかったが、立候補には疑問を抱いた。何せ、自分があれだけしつこく競技変更をお願いしても、頑として首を縦に振らなかったからだ。
「そりゃまあ、バトル・ボードとクラウド・ボールが好きだから二つにこだわったわけで、モノリスが嫌いってわけじゃないし。こんな状況なら、ボクが出るしかないでしょ?」
「確かにそうだな」
達也の断言により、当人が知らないうちにかけられていた梯子を外してしまった形になった。
達也に絶大な信頼を置く真由美、ここで彼の人となりを見極めたい克人、コイツが出たら面白いだろうと思っていた摩利。三人の思惑が、何も知らない達也当人の言葉で、すっかり言い出せなくなってしまった。
(どうすんのよこの流れ!?)
(知るか! お前に任せる! がんばれ会長!)
(十文字く~ん! 助けてえ~!)
「…………?」
(ダメだ、十文字君がこんな器用なことできるわけなかった!)
真由美と摩利のアイコンタクトで敗北した真由美は克人を頼るが、彼は向けられた視線の意味が分からず、わずかに首を傾げた。無駄に可愛らしい仕草である。彼はこの場で急に細かなアイコンタクトを取れるような人間ではなかった。
「それで、他の二人はどうするんですか?」
だが、当の達也から、また本人の知らぬ間に、助け舟が出される。そうだ、枠は三人。学年男子一位のいつきが最初に参加決定の流れになったことで達也をリーダーとするチームにはならなさそうだが、彼を参加させることはできる。この緊急場面で頼れる一年生男子は、達也以外あり得ない。
「それはね、実は――」
「それは司波君に決めてもらおうと思ってさ」
真由美はウキウキしながら口を開くが、いつきが遮るように一気に言い切った。しかも、また訳の分からないことを。
「……どういうことだ?」
「ていうのもね――代理選手として、ボクは、司波君に、代理エンジニア兼参謀をやってもらいたいんだ」
『っ!?』
本日二度目の首脳陣の反応。深雪とあずさはすっかり蚊帳の外である。
「…………俺には荷が重いな」
「それ、本気で言ってる? あずさお姉ちゃんを越える技術と作戦能力持ってるんだから、謙遜されると困っちゃうな」
達也の言葉は本気だった。二科生で一年生の自分には荷が重い。
だが、いつきはそれを真正面から叩き斬る。
達也の目から見ても、あずさの作戦を立てる力は優れているし、エンジニアとしての腕は高校生離れしている。
そんな、いつきの中で最高であったはずの大好きな姉・あずさを、「達也は越えている」と断言して見せた。
シスコンの彼が、ここまで言っている。そして客観的に見直してみると、自分はあずさの上に、実際いるのだろう。
「ここの急場で参謀を任せられるのは、ボクの知る限りだと、司波君しかいないんだ。だから、エンジニアになってほしい。司波君の決めたことに、ボクは全部従うよ。残り二人も司波君が決めてもいいし、なんならボクを外して三人選んでもいいから」
「そうか……」
こうまで言われてしまっては、もはや「面倒くさい」以外の理由はない。
「自分で構いませんか?」
「え、ああ、うん……」
ついにはあずさと深雪以外も蚊帳の外になっていたせいで、いきなり最終決定者として話を向けられた真由美は、ぼーっとしていたために、適当に頷いてしまった。
当然、直後に慌てて「やっぱり待って」と言おうとするが、そこで立ち止まる。
達也がエンジニアで、全てを決める作戦参謀。もしかしなくてもこれは――ベストな形なのではないだろうか。
しかも、選手としていつきが参加する。願ってもいない状況だ。学年次席で男子一位、戦闘経験もありその能力は実証済み、競技能力もこの九校戦で散々見せつけられた。
そう、これほどベストなことはあるまい。いつきも、何がきっかけかは定かではないが、一科二科の枠を超えて、達也を信頼して、エンジニアと作戦の全てを任せようとしている。
(やったわ、なんか知らないけどいい感じになったわよ!)
(司波が戦わないのは残念だが、仕方あるまい!)
(やったわね十文字君!)
「……?」
やっぱりアイコンタクトは通じなかったが、真由美は今度こそウキウキとした気分で、達也にこの後のことを尋ねた。
「それで、達也君。他の二人はどうするの?」
「そうですね……」
すでに状況を受け入れた達也は、しばし口元に手を当てて考え込み――十数秒かけて、結論を出した。
「一年E組の吉田幹比古、西城レオンハルトでお願いします」
その結論に周囲が驚く中、いつきが嬉しそうに笑っていたのを、あずさだけが見逃さなかった。
☆
「ええ、マジっすか?」
「十文字先輩、冗談言うタイプだったんですね」
克人直々の呼び出しに対して、全く信じなかった二人の反応はこんな感じだった。直後にこれが冗談ではないと分かり、「あの克人」に無礼を働いてしまったと、まさしく「冗談ではない」気持ちになったのは余談である。
そういうわけで二人は正式に打診され、訳が分からないまま承諾させられ、今は達也の部屋に集まっている。
作戦参謀兼エンジニアの達也、代理選手に選ばれたいつきと幹比古とレオ、お手伝いのあずさ、モノリス・コードのファンゆえに参考人として呼ばれた雫、それに賑やかしのお友達集団であるエリカと美月とほのか。これだけのメンバーが集まると、機材用の広い部屋とはいえ、さすがに手狭に感じる。
レオの悩みは単純。自分は殴る蹴るしかできないから、ルールに従えないこと。それは達也がたまたま用意していたおもちゃがそのまま転用できるということで、問題はあまりないことになった。この後は練習場にて、エリカといつき相手に模擬戦形式の練習をすることになろう。
そして幹比古は、逆に根深かった。なにせ、抜け出せる気配があまりないスランプで、すっかり自信を喪失しているからだ。
「お前のスランプの原因は、お前自身にはない。起動式が原因だ」
達也のこの断言は、幹比古だけでなく、他のメンバーにとっても衝撃だった。
曰く、龍神を降ろした時の干渉により、幹比古の魔法的感覚は大幅に加速した。だが古式魔法をそのままCADに入れるなんてことをしたせいで、古式魔法の遅さを残した状態で現代魔法の速度を出すための道具を使うことになっている。それが感覚のずれの原因だというのだ。
「古式魔法は、まだ魔法が洗練されていなくて速度が出せなかった時代の名残を今も受け継いでいる。例えば、改変内容や式が相手に悟られないように、いくつものダミーを手順として仕込んでいたりな。だが現代の魔法技術は、速度が進化して、もはやそのダミーは全く必要ないんだ」
つまり、起動式に含まれる不要なダミーのせいで魔法そのものが無駄に遅れ、その感覚のずれのせいで、ずっとスランプだったということなのだ。
「…………なんだか、馬鹿みたいだな」
幹比古は自嘲する。
あれだけ悩んで、あれだけ荒れて、こんなに続いたスランプは、こんなことが原因だったのだ。
達也の話は、古式魔法について勉強中のエンジニア・あずさにとっても目からうろこだった。心の中で、ますますトーラス・シルバーの確信を深めていく。
そういうわけで、各々の心配事は、モノリス・コードという競技への経験値の低さと、ぶっつけ本番で連携らしい連携が取れない、という、個人の元々の能力とは関係ない、代理の誰しもが背負うハンデと同じものとなった。
つまり、実力的には、さほど心配はない。
実際そうとも言い切れないのだが、この事実は、二人を安心させるのに事足りた。
「さて、じゃあ話も決まったところで、CADを調整しましょう。中条先輩」
「ひゃ、ひゃい!?」
自分の出る幕がなさそうだと、いつきにくっついてぼんやりしていたあずさは、いきなり声をかけられ、驚いて裏返った声で返事をする。
「自分は幹比古とレオのCADを調整しますので、中条先輩は、弟の調整をしてください」
「は、はい、わかりました!」
これではどちらが先輩かいよいよ分からない。達也の先輩を敬っていながらも堂々とした態度と、あずさのおどおどした態度。見た目だけでなく、その様子すら、どちらが年上なのか分からなくしていた。
「ん? 司波君はボクのも弄らなくていいの?」
「いつも中条先輩にやってもらっているんだろ? 中条先輩の腕は確かだし、それなら慣れている人がやった方がいい。あと、俺はレオと幹比古ので時間的に手いっぱいだ。やるとしても、直前の最終チェックぐらいだな」
「ん、おっけー。それのほうがボクも助かるよ。いつも使ってるのそのまま持ってきちゃってるからね」
何気ないいつきの言葉に、一瞬だけ室内の空気が張り詰める。
そう、誰しもが、自分の魔法を隠したがる。特に、自分だけのアドバンテージになるような魔法は。いつきの言葉は、自分にもそれがある、と自ら告白してるようなものだった。
「……いっくん、そういうのは、あまりみんなの前で言っちゃだめだよ?」
「あ、そっか、忘れてた」
あずさが、幼い子供を諭すようなトーンで、いつきを諫める。いつきの反応もまた、小さな子供のようだ。
(いったい何を見せられてるのでしょうか……)
兄が活躍するので大喜びする一方で、とんでもないシスコン・ブラコンを見せつけられた。
自分がどう思われているかの自覚は一切なく、深雪はこっそりとため息をついた。
☆
作戦立案は、達也を中心として、モノリス・コードの練習を手伝っていたいつき、この競技のファンで毎年追っかけているがゆえに未経験ながら詳しい雫、この三人で行われた。とはいえ、二人は少しだけ口を出したに過ぎない。それほどに、達也の作戦は、現状のベストを尽くしていた。
そして迎えた初戦。
一般の観客は、あの大アクシデントにもめげずに立ち上がった一高の三人を、判官贔屓めいた気持ちで応援している。
一方で一高陣営からの声援は、色々な思惑が入り混じっていた。
「さあ、三人ともがんばってー!」
「司波君の調整に報いるのよー!」
例えば、このような、一年生一科生女子の応援。この九校戦の間にすっかり達也信者と化しており、三人を媒介として達也を応援するようなありさまだ。
「頑張れ中条ー!」
「お前は俺たちの希望だー!」
そしてこれは一年生一科生男子。
いつき以外の結果は散々で、かろうじて、いつきがさほど積極的に関わろうとしないため一科生男子の中心的存在となった駿がスピード・シューティングで準優勝した程度だ。その駿と、校内屈指の実力者である五十嵐と清田が、大アクシデントで潰されてしまったのだ。
ゆえに、代理として出場する、実力的なトップに君臨するいつきは、一年生一科生男子の、最後の希望だった。達也ばかりが注目され、他二人の代理も二科生。ここでいつきが活躍しなければ、彼らの立場はズタボロなのである。
「きゃー、いつき君かっこいいー!」
「ちょっと待って、あのハーフ風の人も素敵よ!」
「あの細身の子もすごいしなやかね!」
そしてこちらは、よこしまな、色んな陣営の女子・女性たち。圧倒的ハンサムな将輝目当てだったが、ここに来て「デビリック・エンジェル」「コートと水上の天使」「トウキョウテイオー」などのあだ名がついた人気者・いつきが再び姿を現した。そしてその他二人であるはずのレオと幹比古もそれぞれ優秀な魔法師らしく容姿が優れている。思わぬ収穫、というやつであろう。
「おい、普通の応援はないのか?」
「こんなことってある?」
そんな地獄みたいな声援に囲まれているため、競技開始前からすでに二人はげんなりとしている。
「まあ目立つもんは仕方ないよ」
「君は慣れてるからいいよねえ」
適当に励ましてくるいつきに、幹比古は死んだ魚のような眼を向ける。いつきは堂々と観客に手を振ってファンサービスをして、さらに声援を呼び込んでいる。縮こまっている幹比古とレオには、理解できないことであった。
☆
「あははは、こんなことってあるかい! つくづく面白い奴じゃ!」
時を同じくして第三高校陣営。
あの司波達也が緊急でエンジニアを務め、いつきが代理として出場し、他二人はもともと登録されていなかったうえに二科生。とんでもない情報のそろい踏みで混乱している中、難しい思考とは無縁の沓子は、単純に、楽しんで笑っていた。
「まさか、モノリス・コードでもいつきを見られるなんてな!」
沓子の声には、単純な喜びだけではなく、本人が気づかない熱がこもっている。それに気づいている愛梨は、ため息をつきながら、
「沓子、喜ぶものではありませんわ。訳の分からない脅威が突然現れた上に、そもそも、あの大事故が元々の原因。不謹慎よ」
と諫めるのが精いっぱいだ。愛梨とて年頃の女の子、突っ込んだ話はしたいが、この子供っぽいように見えて大人びた達観した面も持っていて、それでもやっぱり子供っぽい親友に、「それ」に気づかせて良いものかを悩んでしまっていた。ちなみに栞も同じである。
「それに、見ろ! あれは吉田家の神童じゃ! 何やら魔法事故で不振になったと聞き及んでおったが、ここに出るということは、まさか抜け出せたのか?」
そしてそんな沓子の何気ない言葉が、三高陣営にさらなる衝撃をもたらす。
「ちょっと四十九院さん、吉田選手のこと知ってるの!?」
将輝と額を突き合わせて色々と情報を精査し合っていた真紅郎が突然立ち上がり、沓子に詰め寄る。いつきはともかく、他二人はノーデータ。あの達也がエンジニア、つまり参謀をしているということはただものではないことは確かだが、それ以外の話がてんで入ってこなかった。
「おー、古式魔法のわしらの年代では有名人じゃぞ。精霊魔法の名門・吉田家の次男坊で、『神童』と呼ばれてもてはやされておったのじゃ」
「どんな人なのかは知ってる!?」
「いーや。わしは話したことも会ったこともないぞ。ただ、去年の今頃に家の儀式で事故を起こして、それ以来すらんぷになってしまったそうじゃな」
スランプの発音に若干の違和感を覚えながら、真紅郎は言われたことを全部メモする。
「じゃあ、吉田選手は古式魔法師なんだね。それも神童なんて呼ばれるぐらいの」
「じゃろうなあ。雨ごいをしている拝み屋の一族で、水に関して詳しいから、わしらんところとも昔は多少交流もあったとかなんとか。詳しくは知らんがな」
「そういうことは早く言いなさい!」
「むにににににに!!!」
知ってて何も言わなかった沓子を、愛梨はその柔らかいほっぺたを引っ張って説教をする。たった一人のせいで、すっかり張り詰めた雰囲気が霧散してしまった。
「敵としては、スランプのままの方がありがたいんだが、果たしてどうだろうな」
「もう一人の西城選手も気になるね。中条選手と神童と並んで出てきたということは、やっぱり、ただものじゃなさそうだけど……」
将輝と真紅郎は、射貫くようにモニターを見つめる。
そんな話をしているうちに――代理選手三人の初陣が始まった。
☆
八高のディフェンス担当・松井は、未だに困惑していた。
優勝候補の一高はあの大事件により棄権するはずだった。九校戦規約でもそうなっている。
だが、特例が認められて、代理選手を立ててきた。しかもそれが、この九校戦を沸かせている掟破りの三競技目のいつきと、逆に全く登録されてない二科生二人。
(まあいい、代理と言うことはもとの三人より弱いし、それにここは森だ)
第八高校は、第七高校とは対照的に、森林・山林での活動を得意とする。「森の八高」と呼ばれるゆえんだ。本来不戦勝だったとはいえ、この戦いは、代理相手に有利なフィールドである。状況は奇妙だが、勝てるのには変わりないだろう。
『こちら有吉、今のところ異常なし』
「こちら松井、了解」
軍用ヘルメットにつけられたインカムで守備寄り遊撃の有吉と連絡を取り合う。森に慣れているだけあって、こんな中でも周囲の警戒はできている。
「落ち着いて行けよ。相手は何してくるか分からないからな」
『ああ。まあ、開始数分で接敵はしないだろうけど――うわっ!』
「おいどうした!?」
落ち着いた会話が一転、不穏な雰囲気が漂う。
『くそっ、なんだ一体――うわあああああ!!!』
「何があったんだ、おい!?」
松井は必死で呼びかけるが、向こうから聞こえてくるのは、まだここからさほど離れていない地点にいるはずの有吉の必死な息遣いのみ。
自分の声が聞こえてないはずがない。返事する余裕がないほどに、危ない状況と言うわけだ。
「有吉が変だ、浅田、援護に!」
『了解!』
オフェンスを援護に向かわせる。幸い、試合開始直後だからそう離れてはいない。何が起きたかは分からないが、良くないことが起きているのは確かだ。
松井自身も、二人が去っていった方向を睨みながら身構える。だが彼の周りでは何も起こらず、ただ耳に入ってくる情報が、不安をあおるだけだ。
『なんで、なんでここに!?』
『ああくそ、うざったい!』
必死に戦闘している様子の有吉、何やら妨害を受けている様子の浅田。状況が分からず、悲鳴のような叫び声と、苛立った声が流れてくるのみだった。
『うわあああああ!』
『「有吉!?」』
ブツッ!
不吉な音とともに、悲鳴だけ残して、有吉との通信が途絶される。
いったい何が。
余りの出来事に混乱して立ち尽くすと――
――突然木々の影から、高速で木の枝が飛来してきた。
「っ!?」
とっさに『減速領域』を展開する。対物障壁に比べて即効性は低いが、防御に干渉力がさほど必要ない点で優れている魔法だ。その判断は正解と言えよう。なにせ、その木の枝は枯れていて脆いが、この速度で当たれば、怪我は免れない。
さらなる混乱に襲われた。だが、状況は考える猶予を与えてくれない。
「なんなんだ一体!?」
次から次へと、四方八方の木々の奥から、木の枝や石ころが高速で飛来してくる。当然その全ては、松井に向けられている。それも頭だけではなく、全身の急所を余すところなく狙って。
何が起きているのか、訳が分からない。
だがとにかく、信じられないが、確かなことは一つ。
「こちら松井、敵襲を受けた!」
『なんだって!?』
森林に慣れている彼らですら想像もできない速度で、一高選手が、この森を駆け抜けてきたということだ。
☆
「いつきは流石だな」
腕を組んでモニターを眺めながら、範蔵は思ったことをそのまま口にする。
「山林の中は、いっくんの家みたいなものだもんね」
一応サブエンジニアだが、達也にほぼ全ての仕事を取られて暇をしているあずさも、この一高天幕で観戦している。
いつきは幼いころから、木々の生える山林で自己加速魔法をひたすら練習し続けていた。つまりこんな悪条件には慣れているということである。
その腕が見込まれて、練習場の都合でオフの日は、森林ステージを想定したモノリス・コードの練習相手までしていたのだ。
あずさといつきが与えた情報を元に達也が立てた作戦はシンプル。
まずいつきがその圧倒的アドバンテージを活かして、超高速で相手陣地に接近。相手方はこんな速度を出せるわけがないと思うに違いないので、混乱させた状態で戦いに持ち込める。こうなれば、一対一でいつきが負けることは絶対にない。
そうして森の中で一人仕留めたら、そのまま間髪入れずにモノリスへ攻め込む。
こうして混乱しているうちに、電撃戦に持ち込むという寸法だ。
「相手のディフェンスも中々粘るわね」
「清田よりも上だな」
姿を見せず、木々の影を駆けまわって四方八方から雨霰のように遠距離攻撃を仕掛けるいつきに対し、松井はなんとか食らいつけていた。魔法の腕は清田が上だが、なんとか反応出来ている時点で、松井の方が上だろう。何せ清田は、駿が仲間にいたにもかかわらず、練習では全く歯が立たなかったのだから。
だが、その攻防も長く続かない。
突然、松井の背後にサイオンの輝きが閃き、爆音が迸る。
いきなりの衝撃に集中力を奪われた松井は、そのままギアを上げたいつきの攻撃に対処できず、倒されてしまった。
『じゃあ幹比古君、ボクは一応レオ君の援護に行ってくるね』
『ん、任せて』
松井が起き上がらないのをしばらく待って確認してから、いつきと幹比古が、陰からのんびり歩いて、開けたモノリスの周りへ姿を現す。松井のヘルメットを脱がして完全に失格にすると、『鍵』を打ち込んでモノリスを開き、幹比古はそこに留まってのんびりとコード入力をはじめ、いつきはまた木々の中へと戻る。
一人残された相手オフェンスの浅田は、もう破れかぶれになって、まっすぐ一高陣地へと向かっている。先ほどまで掛けられていた幹比古の『木霊迷路』さえなければ、探知も素早いし、悪条件である森を駆け抜ける速さも中々で、優秀な選手だ。
だが、彼が一高のモノリスを目にする前に、コードの入力が終わる。
こうして初陣は、第一高校代理チームの圧勝に終わった。
☆
「あっはっはっは、まるで天狗じゃな!」
試合を見た沓子は、愉快痛快とばかりに大笑いする。
地上だけでなく、木々の上も駆使した、立体的な超高速移動。いつきのそれは、カメラですら追いかけることができない。これでは、どちらが「森」を得意とする高校なのか分からないほどだ。
まさか、水上だけでなく、森林の中も得意だなんて。
いつきの新たな実力を目の前にして、沓子は大喜びし、それ以外の三高生徒は戦慄する。
「なんなんだ、あの高速移動は」
「あり得ねえ、親父でもできるかどうか怪しいぞ」
真紅郎は頭を抱え、将輝も口の端をゆがめる。
一条家は特に軍事的要素の強い十師族だ。その性質上、海上防衛が主な任務だが、地上戦も、もちろんその中の山岳戦も、当然のようにハイレベルにこなす。
将輝の言う「親父」とは、その一条家当主その人だ。圧倒的な実力者の一人であり、国防軍や政府からの信頼も厚い。その長男が、ここまで言うほど。いつきの森林移動は、それほどのレベルだった。
「吉田選手もかなりの仕事だったわね」
「ええ、地味な仕事だけど、あれはすごい」
愛梨と栞は、いつきだけでなく、幹比古にも着目した。
いつきにはついていけてなかったが、作戦のタイミングに遅れるほど致命的ではなかった。彼もまた、山林に慣れているのだろう。
また障害物と影が多い悪条件。姿をしのばせることができるここにおいて、幹比古は古式魔法の強みを徹底的に活かしていた。
栞の言う通り、道に迷わせるのと、不意打ちの陽動といった、地味な仕事しかしていない。だが、その魔法は最低限の手間で最大限の効果を発揮した。彼がスランプだなんて、そんな希望的観測は持てない。
「古式魔法は、速さは現代魔法に及ばぬが、効果の強さと隠密性は大体勝っておるからの。あの状況なら、一条でも難しいのではないか?」
あり得ない速度でいきなり接敵してきて、それでいて姿を現さず、木々の中を高速で駆けまわりながら四方八方から高速攻撃を加えるいつき。それと戦いながら、視界の悪い山林で、古式魔法師が隠れながら援護射撃してくる。
そんなことをされて、果たして自分は、戦えるだろうか。
水を向けられた将輝は、じっくり考え、結論を下す。
「…………四十九院、大吉出るまでおみくじ引かせてくれないか?」
「将輝、弱気になっちゃダメ!」
戦うことになったら、森林ステージだけは引きませんように。
幹比古君とレオ君を綾鷹扱いするな
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