魔法科高校の劣等生・来訪者編クリアRTA   作:まみむ衛門

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7ー4

「あっはっはっはっ、なにあれ!!! あっはっはっはっ!!!」

 

 観客席に、エリカに馬鹿笑いが木霊する。

 

 とはいえそれは目立つことはない。何せ彼女が指さして笑っているレオたちの姿が、少しばかり変わっていたからだ。

 

『作戦のために必要なんだ、我慢しろ』

 

 達也の鬼の一言で強制的に着用させられた、中学生なら好みそうな黒いマント。モノリス・コード統一基準となっている黒基調のバトルユニフォームと相まって、「人によってはとてもカッコイイ」姿が出来上がっていた。

 

「こういうのはとっくに卒業してんだよ!!!」

 

「魔法師は多かれ少なかれこういうの好きだけど!!!」

 

 そんな格好で衆人環視の前に晒されたレオと幹比古は、平原ステージの中、激高して叫ぶ。

 

 幹比古の言う通り、魔法師は、「こういうの」…………要は中二病チックなものが大好きだ。魔法・システム・組織・CADに神話やら民話やら哲学やらから引っ張ってきた単語を使うのみならず、漢字にカタカナまで当てたりする。感情的な部分が大きく作用する分野のため、「世界観」「トランス」が重要になってくる、という合理的な理由もある。

 

 だが二人はとっくにそういうセンスを一旦卒業し、反動でそういうのが酷く恥ずかしく感じる年ごろだ。これではただの羞恥プレイである。

 

「えー、かっこいいのにー」

 

「だったら君がこれをつけろ! 中学生みたいな見た目の君にはぴったりだろ!?」

 

「ボクがつけたら動きにくくて意味ないじゃん、サイズ合わないし」

 

 幹比古の言葉に、いつきと瓜二つなあずさがひっそりと傷つくはめになったのはさておき。

 

 いつきはというと、このマントをつけていない。そして一人だけ余裕の表情で、声援を送る観客に手を振っている。

 

「なんだありゃ?」

 

「ただのハッタリではなさそうだね。……背負うものが多すぎる」

 

 将輝の疑問に答えた真紅郎の言葉には、色々含むところがあった。

 

 動きにくくなるという特大のデメリット、羞恥心という超特大のデメリット。また、マントのつけ方としては確かに「背負う」と言えなくもないだろう。

 

 だが、どのようなものかは皆目見当がつかない。

 

「あの布がCADになってる、とか?」

 

 男子の実技三位である五十川の予想は間違いなく外れだ。あんな布切れがCADになるはずがない。

 

「なるほど、そういうことか」

 

 だが、当たらずとも遠からず。その予想を聞いて真紅郎が確信に近い仮説を立てる。

 

「多分、あのマントには、刻印魔法が施されてるんだ」

 

「はーん、そんなものまで用意してくるとはご苦労なことだな」

 

 将輝は、感心と呆れと警戒が混ざった複雑な声でそう言って、ため息を吐く。

 

 刻印魔法であることは予想できたが、その中身を予測できなければほぼ意味はない。

 

 何にせよ、あのマントを用意したのは――間違いなく、司波達也だ。

 

「とりあえず、厄介なのだけは確かだな」

 

「間違いないね」

 

 そんな総括が為される程度には、この九校戦を通して、達也の「悪知恵」は、知る人ぞ知る事実となってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人は退避して!」

 

「言われなくても!」

 

「くわばらくわばら!」

 

 決勝戦の火ぶたが切って落とされた。

 

 その直後、一高の三人に、雨霰のように魔法攻撃が襲い掛かってくる。

 

 三高陣営は平原ステージという有利を存分に活かし、一条家のお家芸でありそこの長男からノウハウを伝授された「中長距離からの先制飽和砲撃」で、一気に押しつぶしにかかったのだ。いつきはともかく、幹比古は速度に劣る古式魔法師で、レオの攻撃手段は『小通連』だけ。遠距離魔法での先制攻撃は確実に通る。

 

 一高サイドは、何か相手が変なことを考えてくれないかとも思ったが、そうはならなかった。最もあり得るパターンであり、そして最悪のパターンなのである。

 

 当然、一高も無策ではない。モノリスを守るゲームなのにレオと幹比古は即座にその後ろに身を隠す。モノリスを壊すのはルール違反なので、遠距離攻撃に対してはとりあえず安全地帯だ。

 

 レオはモノリスの裏から伸ばした『小通連』でたまにチクチク牽制、幹比古は設置した精霊と『視覚同調』して肉眼に頼らない魔法戦闘をする。

 

 そしていつきは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――その砲撃に敢然と立ち向かい、前進していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、嘘だろ!?」

 

 五十川がパニックになる。三高の先輩たちですら、将輝と真紅郎を含む三人の手厚い遠距離攻撃を単独で突破できなかった。だがいつきは、バトル・ボードの時よりもさらに速く、そして複雑な動きで、的確にかいくぐってくる。

 

 回避のために大回りしたのもあってかなりの遠回りルートを取らざるを得なかった。だがそれでも、すでに彼我の距離は一気に半分に縮まっている。

 

「でも目で見えるなら!」

 

「やりようはある!」

 

 あの速度に遠距離魔法では照準が追い付かない。

 

 だが、目に捉えられて、一瞬でも照準が合うならば。魔法の性質上、直接干渉する魔法ならば絶対に当たる。

 

 真紅郎は『不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)』を、将輝は周辺の水分をまとわせる魔法を、それぞれ行使する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがその両方の魔法は、「エラー」を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「なんだって!?」」

 

 まるで虚空に照準を定めたようなエラー。確実にいつきを捉えていたはずなのに。

 

 その隙によって、三人はいつきに接近を許した。五十川は慌てて一歩前に出て、いつきに遠距離攻撃魔法を浴びせ進路妨害をする。それは有効だったようで、すんでのところで『鍵』圏内に入られるのを防いだ。

 

(よし、上手くいっているようだな)

 

 幹比古は、いつきの「不意打ち」が決まっている間に、手元でいくつもの古式魔法をじっくりと準備する。

 

 彼がすでに行使している魔法は二つだけ。一つは『視覚同調』。もう一つは……吉田家では『念仏體(ねんぶつたい)』と呼んでいる魔法だ。

 

 あえて現代魔法の理屈に合わせて説明するなら、自身のエイドスの座標情報を誤魔化す魔法である。

 

 これによって、魔法的な照準はダミーのエイドスを対象とし、魔法は「対象不明」としてエラーを起こし不発に終わる。

 

 これは本来この世のものならざるものの目を誤魔化すための魔法である。ただし、表向きはパラサイトを仮想敵としているが、残念ながら、古式魔法師同士の戦いで精霊魔法を避けることにしか過去実戦での使用例はない。

 

 名前の由来は、平家の死霊の目を誤魔化すために芳一の体に書かれた念仏だ。当然耳だけ書き忘れるような愚は犯さず、全身を対象としている。

 

 古式魔法を受け継ぐ家ならば、それぞれ名前と多少仕組みは違うが、それぞれの家で同じような魔法を受け継いでいることがある。例えば、第九研究所に協力した九島家などや、達也の師匠である九重家では、『纏衣の逃げ水』などと呼ばれている。

 

 

 

 

 

 

 そしてこの魔法は――――現代魔法師であるいつきもまた、自身に行使している。

 

 

 

 

 

 

 モノリス・コードに参加するなんて全く想像していなかったころ。もしパラサイトに遭遇したらとりあえず逃げられるように、と最初に教えたのが、この『念仏體』だったのだ。いつきもあずさも流石の才能で、長い長い修行を要するはずの古式魔法なのだが、一週間ほどで使えるようになった。まさかこんなところで活きるなんて。幹比古はつくづくそう思った。

 

 いつきの高速移動で攻撃魔法を回避して接近し、直接干渉する魔法はこの魔法が退ける。相手は完全に予想外に「全く攻撃が通じない相手」と相対することになり、間違いなく混乱する。

 

「そろそろ仕掛けるよ!」

 

「おう!」

 

 相手三人は、すっかりいつきに夢中だ。

 

 こちらの二人も、混ぜてもらおうではないか。

 

 幹比古は溜め込んでいた魔法を解放し、いつきが相手モノリスに最接近するのに合わせて、相手選手を妨害する。レオも本格的に身を乗り出して『小通連』を長大に伸ばし、遠距離からの一方的な直接打撃を繰り出した。

 

「くそっ、なんてやつらだ!」

 

 二人が動き出したのにいち早く気付いたのは将輝。『小通連』を回避し、自分の周辺で暴れる古式魔法をすべて『領域干渉』で押さえつける。だがその間にいつきが飛ばしてくる小石が四方八方から襲い掛かってきて、脛や膝を狙った攻撃だけは防御しきれず食らい、膝をついてしまう。

 

「させない!」

 

 真紅郎が行使したのは、いつきの足元の電気を放出させて麻痺させる魔法。岩場ステージならまだしも草に覆われているここでは難しい魔法のはずだが難なくこなしている。いつきもそれは回避してさらに魔法の手を止めざるを得ず、その一瞬の隙をついた将輝が立ち上がり、猛然と『偏倚解放』を放った。

 

「ガッ!」

 

 戦場となった平原に、レオの太い悲鳴が響く。 

 

 いつの間にかモノリスを挟む形で離れていたレオと幹比古、なおも周囲で動き回ってモノリスを開けようとするいつき。全くばらばらの位置にいる三人に対して同時に、将輝による複数の『偏倚解放』。真由美ですら舌を巻く超絶技巧だが、その威力も馬鹿にならない。

 

 いつきと幹比古はすべて回避しきったが、レオはマントで自身を覆って硬化魔法で守ることを選択。だがその鉄壁の防御を貫いた衝撃が、彼をよろめかせた。

 

「今だ!」

 

 そこを狙って、真紅郎の『不可視の弾丸』が炸裂する。『念仏體』が使えるわけではないレオにならばこの魔法は通じる。だが将輝の『偏倚解放』ほどの威力がないからかそれはマントの鎧に阻まれた。それならと即座に加重系魔法で、よろめくレオをそのまま転倒させ、地面に押さえつけた。

 

 その衝撃でレオは魔法のコントロールを手放した。猛然と飛び交っていた『小通連』の先端は力を失って落下したのち、魔法が切れた場合は自動で戻るようになっているセンサーが作動して主の下にもどろうとする。

 

「いただき!」

 

 だが五十川はそれを移動魔法で引き寄せて強引に奪おうとする。これでレオの攻撃手段が失われれば、実質一人リタイアだ。

 

「させるか!」

 

 だがその移動魔法はエラーを起こす。相手の作戦を察知した幹比古が、同時にこちら側に引き寄せる移動魔法を発動。干渉力の勝負に勝ち、敵に奪われるのを防いだ。

 

 またそれと同時にいつきの攻撃が真紅郎にも襲い掛かり、それへの対処のせいでレオが解放される。

 

「ほら、落とし物だよ!」

 

「サンキュ!」

 

 正確にレオに投げて渡し、二人はまた戦線復帰。だが相変わらず将輝の『偏倚解放』は襲い掛かってくるし、真紅郎と五十川の攻撃も激しい。

 

 最初は飽和攻撃で三高が有利に。だがすぐに不意打ちで一高が有利に。そしてその不意のアドバンテージを乗り越えられた今、総合的な地力で勝る三高が、また有利に立っていた。

 

「相変わらず化け物だなあ」

 

 いつきの言葉が全てだ。真紅郎と五十川もかなりの実力者だが、将輝がとにかく強すぎる。一人だけで、全体の攻撃と防御の半分以上を担っているのだ。そのせいか、いつきの声は珍しく苛立っている。幹比古もあまり聞いたことがないぐらいだ。

 

『幹比古君、しばらくボクとレオ君でなんとか隙を作るから、周辺の地面をボコボコにしてもらっていい?』

 

「「了解!」」

 

 相手に聞こえないよう小声でのインカムでの指示。二人は即座にその意図を読み取り、動き出す。

 

 レオは一旦モノリス裏に隠れていたが、また身を乗り出して『小通連』を走り回りながら振り回す。一方幹比古はモノリスの裏に入れ替わるように退避して、大規模な魔法を準備する。

 

 そして、一番変化したのはいつき。さらにスピードのギアを上げて三高陣営に最接近して、走っている間に何とかかき集めた草に隠れて見えにくくなっていた小石すべてを三人に降り注がせた。

 

「ぐっ!」

 

「くそ、いってえな!」

 

 将輝は『減速領域』と組み合わせてかろうじて防御できたが、二人は対物障壁で守ろうとしたゆえに干渉力で敗北してもろに食らってしまう。

 

「ジョージ、五十川! あいつは移動・加速系の名人だ! 干渉力で勝負するな!」

 

「将輝が言うならそうなんだろうね!」

 

 回避した先に待ち構えるように振るわれた『小通連』を間一髪で回避しながら将輝が叫ぶ。

 

 真紅郎視点では将輝の干渉力は圧倒的だ。そんな彼が対物障壁でなくわざわざ『減速領域』と回避を組み合わせるなんて手間なことをしたのは、この系統に関しては干渉力で負けているという自覚があるからに他ならない。

 

「よし、完成!」

 

 そしてこの攻撃は奏功し、幹比古は魔法式を練り上げ、地面を殴る。

 

 それを通じて十数体の精霊が地面に送り込まれ、地脈を通じて平原ステージ内に散らばり――その身に携えた情報を解放する。

 

 

 

 

 

 直後、草原中のそこかしこが急激に盛り上がり、大量の土が飛び出した。

 

 

 

 

 その様はまるで、水面から大量の魚が飛び上がったがごとくだ。一面草に覆われていたはずなのに、今やそこら中がでこぼこだらけとなっている。

 

「よし、武器が増えた!」

 

 いつきは笑みを浮かべながらそれらに魔法を行使する。掘り起こされて「地面」という概念から離れさせられたそれら土の塊は別個のものとなり、魔法で動かすのに労力が格段に減る。ステージの特性上周囲の「武器」が数少ない小石しかなかったいつきは、それらの土の塊を大量に操り、将輝たちに殺到させた。

 

「舐めるな!」

 

「たかが土だ! 小石と違って再利用不能だろ!」

 

 真紅郎はそれらを加重系魔法で落とし、将輝は先ほどと同じように減速させたうえで今度は殴って落とす。土の塊と言えど、一度激しい衝撃が加われば崩れてしまい、およそ攻撃力の持たないただの土となる。

 

「それはどうかな?」

 

 そうして撃ち落とされて砕かれた土が、再び勢いよく二人の顔面へと飛び掛かる。

 

「汚ねえな!」

 

「うぷっ!」

 

 将輝はそれを身体をひねることで回避したが、真紅郎は間に合わずに思い切り顔面に土をかぶる。しっかり水分を含んでいるからか、吸い込むようなことはないものの、顔面にまとわりついて不愉快極まりない。目に入らなかったのは不幸中の幸いだ。

 

「オレを忘れて貰っちゃ困るぜ!」

 

 そしていつきと幹比古のコンビネーションが決まっている間に、レオがしっかりと狙いを定めて『小通連』を振るう。両校のモノリスはそれなりに離れているため、その半径に見合うだけの速度が剣に乗せられ――真紅郎の横っ面をついに捉えた。

 

「――――っ!」

 

「吉祥寺!?」

 

 悲鳴もなく吹き飛ばされる真紅郎に、五十川が焦って思わず目を向ける。

 

「古式魔法師から目を切るのは良くないな!」

 

 その隙をついて、百家の息子である彼を一人で引きつけていた幹比古が、渾身の攻撃を仕掛ける。

 

 草を動かして相手の脚を絡めとる『草結び』、風の塊を大槌として振り回す『荒風法師』、そして得意の『雷童子』だ。

 

 相手の一歩前に『草結び』を仕掛け、背後から風の塊を押し当てるように『荒風法師』をぶつけてよろめかせて固く結ばれた草に引っ掛けさせて転倒させる。本来はレオの『小通連』に負けないほどに吹き飛ばす力に優れた魔法なのだが、競技用に制限されたCADと、今の一瞬ではこれで精いっぱい。

 

 だが、これで十分だ。

 

 相手は転倒と言う大きな隙をさらした。こうなったら――得意の『雷童子』が決まる。

 

「させるか!」

 

 将輝が咆える。返す刀で振るわれたレオの『小通連』を移動魔法の干渉力で強引に奪い、幹比古に『偏倚解放』なんて手間なことはせず『圧縮解放』で攻撃。レギュレーション違反すれすれの威力で放たれたそれは、幹比古を大きく吹き飛ばした。

 

 だが、レオの攻撃を防ぐ一瞬の手間によって、幹比古の魔法が間に合う。雷はしっかりと五十川を捉えて、大きくその身を跳ねあがらせた後に、意識を刈り取った。

 

「「今だ!」」

 

 いつきと将輝の声が被る。

 

 だが二人が同じように仕掛けたのは、その掛け声とは裏腹の安全策。

 

 いつきは倒れた真紅郎と五十川のヘルメットを、将輝は幹比古のヘルメットを、それぞれ移動魔法で外し、完全失格にさせるつもりだ。

 

「させねえよ!」

 

 レオが幹比古の体とヘルメットの相対距離を硬化魔法で固定させ、外されるのを防ぐ。それと同時に幹比古に駆け寄り、その横っ腹を、仲間だというのに思い切り蹴飛ばした。

 

「おねんねには早いぜ!」

 

「げぼっ!!!」

 

 幹比古は胃液を吐き出すスレスレだったが、そのショックで目覚めた。ダメージを受けた直後にさらなる追撃を受けたので酷くコンディションが悪くて起き上がれないが、意識は戻ったのだ。この状態なら、ヘルメットを外させるのは逆に反則である。

 

 幹比古は何か文句を言おうとする。

 

 なんとか頭を起こしてレオに視線を向けて睨むと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そこではレオが、圧縮から解放された空気に派手に吹き飛ばされ、白目をむいて地面に背中から落ちているところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まさか!)

 

 幹比古は驚愕する。

 

 自分を起こすだけではない。

 

 レオは激しく蹴飛ばすことで――将輝の追撃から自分を圏外へ逃がしてくれたのだ。

 

 その代償に、自分は二人分の攻撃を受けてまで。

 

 いくら頑丈な彼と言えど、しっかりとした硬化魔法の効果なしでは、これは耐えきれない。幹比古以上のダメージを受けて、完全にノックダウンした。そしてご丁寧に、それと同時に魔法でヘルメットを外される。

 

『幹比古君大丈夫!?』

 

 いつきが幹比古の方を見ないで猛然と将輝に襲い掛かりながら確認してくる。今の間に、相手二人のヘルメットを外すだけでなく、いつの間にかモノリスまで割っていた。さすが仕事が速い。

 

 いつきは、将輝に接近戦を仕掛けた。

 

 しかも、直接攻撃を禁止とする競技だというのに、その小さく可愛らしい手をギュッと握って、思い切りアッパーを繰り出した。

 

 だが、彼の短いリーチでは、将輝に届かない。寸止め、またはシャドーボクシングの形にしかならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――だというのに、その直線状にいた将輝の顎が、まるで本当に殴られたかのようにカチ上げられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(決まった!)

 

 幹比古は痛む身体に鞭を打ち、魔法演算する元気もないので、モノリスの裏へとゆっくりゆっくり、芋虫のように情けなく這って進む。

 

 あれは風紀委員の二年生の中でも特に高い実力を持つ沢木の『マッハパンチ』、その一種だ。

 

 沢木のものは加速した拳による強い衝撃波で攻撃するものだが、いつきは普通のパンチで生じた弱い衝撃を加速させて強い衝撃波にしている。見た目も結果も系統も同じだが、プロセスがやや違う。

 

 また「自分の拳の周囲の発生した空気の流れ」を対象とするとあらかじめプログラムしておくことで座標演算のステップを省く、近接魔法戦闘の基本技術も使われている。

 

 その急な衝撃は、常人どころか訓練された人間でも激しい脳震盪を起こす。だが将輝もまたレオほどではないにしろ頑丈で意志も強く、後ろに倒れこみながらも、お返しとばかりにそのまま蹴り上げで起こした空気を加速させていつきの小さな体を吹き飛ばす。

 

 加速系魔法の練度ではいつきの方が上。

 

 発生させた強化前の元々の衝撃は将輝の方が上。

 

 結果、お互いに加わった衝撃は同じ程度であり、その両方が必殺のダメージだ。

 

 

 

「「いったたたたた!」」

 

 

 

 だが二人とも即座に起き上がる。あえて転がることで体へかかる衝撃を緩和し、さらにその勢いを起きあがる力に利用したのだ。将輝はその頑丈さと機転から、いつきは辛うじて魔法でのダメージ減退と受け身が間に合ったから、それぞれ酷く痛がりながらも、まだ戦闘を続行できる。

 

 だが今のを見ると、運動能力で優れる将輝の方に分があり、大きく劣るいつきは不利だ。いつも通り、得意の超高速機動での遠距離攻撃をするべきである。

 

 だがそれでもいつきは再接近して、同じ魔法を連打する。二度同じ攻撃は食らわないと将輝は歯をむき出しにして目を見開いて睨み、その猛攻をしのぎながら反撃を加える。その反撃を何とか回避し続けてはいるが、一発あたればあっという間にそのまま決着になるような危うさだ。

 

 なぜ、いつきはそんなことをしているのか。

 

 

 

 

 

 ――情けなく這ってゆっくりとしか進んでいない、幹比古のためだ。

 

 

 

 

 

 将輝に隙を許せば、絶対に幹比古に止めを刺しに来る。そうなればいつき一人では絶対に勝ち目がない。だから、ここで分が悪い賭けに出てまでも、引きつけ続けなければならないのだ。

 

 あの、興味ないことは全部排除して自分の関心があることに突き進み、効率的に日々を過ごし、小さな体でそこら中を駆けまわる、「生き急いでる」ような姿。

 

 そんな親友(いつき)は、スランプで這いつくばって沈んでいた自分を見捨てなかった。彼の足を止めてまでも、待ってくれたどころか、隣で、または一歩前で、引っ張ってくれた。

 

 結果としてスランプ脱却に一番貢献したのは、達也である。いつきの貢献は皆無に等しい。

 

 だけど、それでも。

 

 

 

 

 

 

 

 ――そのことが、ただただ、幹比古は嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 そしてそれと同時に、情けなくもあった。

 

 今は、こうしてスランプを脱却したどころか、エリカの言う通り、以前よりも調子が良い。いつきに追いつけはしなくても、モノリス・コードで、確かに肩を並べて戦えるようにもなった。

 

 だが、今はどうだろうか。

 

 自分はこうしてゆっくりと這って進むことしかできないし、その先も戦場ではなく、モノリスの裏というただの安全地帯。そのためにいつきは、あまりにも強大な相手に、自分の犠牲も覚悟で、小さな体で孤軍奮闘している。

 

 ずっと待っててくれた。ずっと引っ張ってくれた。ようやく並べた。

 

 

 

 

 

 

 

 ――でも今、また二人の間に、埋めがたい距離があるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――――待たせるわけにはいかない!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待ってろよ、なんて言葉すら、使ってはいけない。

 

 これ以上、親友を待たせるわけにはいかないのだ。

 

 それが――幹比古に課せられた、この瞬間の役割なのだから。

 

「がっ、ぐ!」

 

 痛む体ともうろうとする意識に鞭を打って幹比古は震える脚で立ち上がり。だが、身体は支えきれず、また倒れこんでしまう。

 

 ――それで問題ない。

 

 その前に倒れる勢いを利用して根性で脚を動かし、モノリスの裏へと倒れ込んだ。

 

 さあ、安全地帯に逃げ帰れた。

 

 いや、これでまだ仕事は終わりではない。

 

 幹比古は精霊を操り、音を頼りに配置する。相手モノリスから斜め上に離れた空中。いつきが開いてくれた活路が512のランダム英数字として羅列されている。

 

(『視覚同調』!)

 

 最後の気合を振り絞って、難しい魔法を使った。瞬間、まるで脳に直接送り込まれるように、鮮明な映像が流れ込んでくる。先ほどまでの霞んでぼやけていた視界とは対照的だ。

 

 そして震える手で、そこに書かれたコードを打ち込み始める。昨日から少しだけ練習をしたし、今日行われた三試合すべてが彼によるノーミスの入力勝ちだ。だが、今でもこれは慣れないし、ましてやこのコンディションでは指も体も働かない。その入力は、あまりやる気がなかった先ほどの渓谷ステージでの試合以上に緩慢だった。

 

(これは――まずい!)

 

 いつきによる接近戦に引きつけられ過ぎた。視界の端で幹比古がモノリスの裏に隠れたのを捉えた将輝は、それが意味するところを理解して焦り始める。

 

 このままいつきと戦えば勝てるだろう。魔法力と体力、両方で勝っているからだ。

 

 いつきがここまで食らいつけているのは、ここが正念場と見て全力を出していること、移動・加速系魔法が今の状況に相性が良いこと、彼の立ち回りが良いこと、この三つによるものだ。

 

 だがそれは、一旦将輝の側に傾けば、あっという間に崩れ去る。「頭」のスペックは残念ながら負けているが、「体」のスペックでは圧倒的なのだから。

 

 だが、それでもどれだけ時間がかかるか分からない。今こうしていつきに構っている間にも、幹比古は今までの試合と同じようにコードを入力しているだろう。あの体調ではこれまでの速度には届かないだろうが、果たしてどれほどで入力し終わるのかは分からない。

 

(一旦こいつを無視するか?)

 

 至近距離でいつきを睨む。その可愛らしい顔には、もう笑顔は欠片もない。目を見開いて将輝の一挙手一投足を見逃すまいと睨みながら、拳を振るって衝撃波を飛ばしつつ、さらに追加で、周囲の土を操ってさらなる攻撃まで加え始めた。ここまでされては、振り切ることができない。元々速度ではこちらが劣るのだから当然だ。

 

「だったらこっちも!」

 

 将輝は『領域干渉』で衝撃波と土のコントロールを失わせる。慣性で動くそれらは将輝をよろめかせるが、さほどのダメージにはならない。さらにいつきの横に『偏倚解放』を展開して射出するが、ギリギリのタイミングで高速離脱されて回避される。

 

「君の相手はボクだ!」

 

 そして離脱から即座に距離を詰めてきて、また激しい攻撃が豪雨のように降り注いでくる。可愛らしい声だというのに、レオや将輝にも劣らない、男らしい「吼えるような」叫び。

 

 いつきの攻撃のテンポが変わる。突然拳の乱打を止めたかと思うと、魔法を起動してから拍手。その可愛らしい音は将輝に向かってのみ襲い掛かり、しかも増幅される。

 

「ぐっ!」

 

 遮音障壁は間に合わない。防音障壁で軽減するのが精いっぱいだ。それでもその大音量は耳と脳を揺るがし、意識を遠のかせる。だがそれを歯を食いしばって耐え抜き、お返しとばかりに空気中の水蒸気を発散系魔法で水にしていつきの顔面にぶつけ、急ぎ故に小規模ながらも放出系魔法で電気ショックを浴びせようとする。

 

 だが水の段階でいつきも気づいたのか、電気ショック魔法が完成する前に離脱し、自身の顔を濡らす水を強引に袖で拭った。だがそれが狙い。発散系魔法で水を蒸発させるなら急激な体温低下が、拭うならば無駄な動作と遮られる視界が、将輝に有利に働く。

 

 そう、この隙に――モノリスの裏にいる幹比古を狙えるのだ。

 

 将輝は視界にとらえられない位置を対象とする上級テクニックで、『偏倚解放』を行使。モノリスの裏に間違いなくいるであろう幹比古を狙う。いつきがこちらの作戦に気づいてまた攻撃をし始めたせいで一発しか打てなかったが、あの満身創痍の幹比古を間違いなくとらえただろう。

 

(いや、手ごたえがない!)

 

 将輝は驚愕する。大観衆の声援が響き渡る中だというのに、極限まで増した集中力は、この平原フィールドの音を敏感に聞き取っている。空気が弾ける音がしたが、そこからはモノリスに当たった音しかしなかった。人に当たった鈍い音や、幹比古の悲鳴や倒れ伏す音は聞こえない。

 

(まさか、回避されたのか!?)

 

 幹比古の根性に驚嘆する。これでまた振り出し、いや、入力が進んでいる分、こちらがより不利だ。

 

 そう、幹比古はモノリスに寄り掛かるようにして、言うことを聞かない身体を動かして入力していたのだが、魔法の気配を察知し、即座に寝転んで回避したのだ。空気が激しく動く衝撃波がもろに顔面に襲い掛かって入力が乱れたが、まだダウンはしていない。

 

「もっとボクを構ってよ!」

 

「十分構っただろうが!」

 

 いつきが再び立ちはだかる。なんとしてもここで粘って、幹比古を守り切る必要があるのだ。そのためには、常に引きつけなければならない。

 

 お互いに、手を変え、品を変え、動きやリズムを変えて、目まぐるしい攻防が続く。

 

 もういくつの魔法を行使したのか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 ――お互いに、とくにいつきは、限界を迎えつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猛然と攻め立てる王者・将輝と、それに食らいつく小さな少年・いつき。その戦いは終始将輝が押しているが、いつきの立ち回りが、将輝の流れになるのを許さない。

 

 目まぐるしい攻防があった。お互いの主軸となる武器を振るいつつ、手を変え、品を変え、お互いを傷つける。誇りを、仲間を、勝利を、守るために。

 

 そんな戦いが行きつくところまで行きついた今。

 

 将輝といつきの争いは、加速・移動系魔法と、『圧縮解放』のぶつけ合いへと回帰していた。

 

 どちらもやっていることは単純な魔法だ。九校戦でミラージ・バットと人気を成す、得点配分が高いゆえに各学校のトップが集まるモノリス・コード、その頂点を決める最終決戦にふさわしいとは言えない。

 

 だが、誰もが、それに魅了された。

 

 単純な魔法だ。だがその一つ一つに詰め込まれた実力と技術と知恵は今や出し惜しみされず、岡目八目の観客たちですらすべてを把握しきれない。二人の対照的な美少年が、その全力を尽くして対峙する。

 

「いつき……」

 

 沓子は試合の途中でいてもたってもいられず、生で見られる観客席の、しかも一番よく見える特等席に飛び込んでいた。眼前で、原始的な、それでいて、彼女を以てしても理解しきれない、高度な戦いが繰り広げられている。

 

 愛梨に説得され、将輝たちを応援していた。その気持ちは今も変わらない。だがそれと同時に、いつきを応援したい気持ちも、どんどん強まってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――会場は、静まり返っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 圧倒的な魔法の応酬に大盛り上がりしていたはずだった。

 

 だがいつの間にか、全員がその戦いに見惚れ、無言で引き込まれていた。

 

(がんばれっ!)

 

 仲間の将輝を、気持ちが惹かれて仕方ないいつきを。どちらも、応援する。

 

「頑張れっ……」

 

 声が漏れる。喉の奥から弱い息が漏れるような、か細い声。呼吸すらも忘れて、見入っていたのだ。

 

「頑張れっ……!」

 

 声が出るが、かすれている。口が、喉が、見ている側だというのに、緊張で渇いていた。

 

 全身が熱い。喉も口もカラカラだというのに、汗が吹き出し、涙で視界が滲んでくる。

 

 邪魔だ。今この戦いを、ほんの少しも見逃したくはない。

 

「水の申し子」である彼女は今、自分の体からあふれる涙すら、コントロールできていなかった。

 

 ただそれでも、乱暴に涙をぬぐい、大きな目を見開いて、身を乗り出して、二人の戦いを見つめる。

 

「頑張れっ!」

 

 どこか悲鳴のような、悲痛な叫びが口から洩れる。

 

 将輝が、いつきが、苦しみながら、それでも戦っている。

 

 ハンサムな顔に闘志をみなぎらせ、咆えながら魔法を乱打する将輝。

 

 可愛らしい顔にはいつもの笑顔は全く浮かんでおらず、見開いた目は血走り、歯茎をむき出しになっている、いつき。そこにいるのは悪魔でも天使でも少年でも少女でもない。いつきという「獣」だ。

 

(頑張れ! 頑張れ!! 頑張れ!!!)

 

 気持ちが高ぶってくる。見ているだけなのに過呼吸になる。それでも沓子は、そのまま倒れてしまいそうなほどに身を乗り出し、二人に少しでも近づいて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頑張れええええええええええええええ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ただ心のままに、叫んだ。

 

 全ての観客たちが黙り込んで見入っている。激闘の音だけが鳴り響く戦場。

 

 そこに、沓子の魂の叫びが、響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおお頑張れ!」

 

「いけ、勝て!」

 

「どっちも頑張って!」

 

「負けないで!」

 

「ファイト!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後、バトル・ボード決勝が比べ物にならないほどの声援が、大爆発を起こした。

 

 観衆が、ただ純粋な気持ちで、心からあふれる感動と尊敬に従って、二人を応援する。

 

 

 

 

「頑張れ、いっくん!」

 

「いけ、いつき!」

 

「もうすぐよ! 粘りなさい!」

 

「負けるな!」

 

「勝てるぞ、中条!」

 

 第一高校テントでは、全員がモニターにかじりついて、小さな小さな少年に、想いのすべてを託していた。

 

 

 

 

「たのむぞ、いつき!」

 

「中条君、もうすぐです!」

 

「「頑張れ!」」

 

 エンジニアとして傍で見ている達也が、観客席の一角にいる深雪たちが、学校を代表する男の子の背中を押す。

 

 

 

 

「十師族の、第一研究所の根性を見せなさい!」

 

「頑張れ、一条君!」

 

「第三高校を背負ってるのよ! 負けちゃダメ!」

 

 第三高校のテントでは、一年生にして多くを背負うプリンスに、なりふり構わず声援を送る。

 

 

 

 

「中条、負けるな!」

 

「中条君、頑張れ!」

 

「一条がなんぼのもんだ! 一高の力を見せてやれ!」

 

 絶対安静の病室では、本来ここで戦うはずだった三人が、身体の痛みを無視して、腕を振り回して叫びながら応援する。

 

 

 

「いつき! オレの分まで頑張れ! 一条をぶったおせ!」

 

「将輝、頑張れ! 頑張れ!」

 

「お前は俺たちの光なんだ! 負けるんじゃねーぞ!」

 

 平原ステージの端。ヘルメットが外されて失格になった後に目覚め避難させられたレオと真紅郎と五十川が、自分たちの全てを、仲間に預ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれらの声援が渦巻き、空気を、大地を、揺るがす中。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつきも将輝も、体中から血を流し、軍用であるはずの服も所々がぼろぼろになっていた。その姿を、誰もが無様とは思わない。

 

 そして二人は、まるで示しを合わせたように同時に、全力の魔法を解放した。

 

 

 

 

 いつきは周囲の小石や土やヘルメットなど、周囲にあるものすべてを乱雑に集め、将輝を全方位から囲んで攻撃する。

 

 将輝は攻防の中で使った水分をいつの間にか集め、いくつかの塊にしていつきにけしかける。

 

 

 

 

 その攻撃の威力も厚みも、将輝の方が圧倒的に劣る。

 

 そして二人は攻撃を放つと同時に激しく動き回り、互いの攻撃を回避しようとする。

 

 将輝に襲い掛かる数々の攻撃が回避され地面に突き刺さる。時折掠めてダメージを与えることもあるが直撃はない。何せそのような魔法は、全て魔法で撃ち落とすか、腕でしっかりガードしているのだから。

 

 いつきに襲い掛かる高速の水の玉は複雑な軌道を描いていつきの移動先に待ち伏せするように偏差射撃される。それを移動系魔法で撃ち落とすが、弾けた水は再び集まって玉になり、いつきをしつこく追いかけ回し――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の勝ちだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――将輝の咆哮と同時、いつきの傍で「爆発」した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水が一瞬で水蒸気になり急激に体積が増える、水蒸気爆発。その衝撃がいつきの周囲で同時に起こり、小さな体をこれでもかと痛めつけ――――ついにその意識を刈り取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(だけど僕たちの勝ちだ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コードは残り二十文字!

 

 幹比古は次なる攻撃に備えてマントで全身を覆ったうえでそこに付着した精霊を喚起しあらゆる防御魔法を重ねていた。こうして甲羅に閉じこもった亀のようになっても、『視覚同調』でコードは見える。

 

 いつきがやられた。だが、十分時間を稼いでくれた。

 

 この防壁が破られる前に、確実にコードを入力しきれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが突然幹比古の視界は急に闇に覆われ、コードが見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なん、で!?)

 

 あと少しなのに! 何かトラブルが!?

 

 幹比古はパニックになる。だがとにもかくにも、コードを入力しなければならない。

 

 記憶を頼りに、残りの十五文字を入力する。この長いようで短いようでよく分からない決戦の間、ずっと視界にとらえていたコードだ。覚えているに決まっている。

 

 だが、見ながらの入力に比べて、それはさらに目に見えて速度が落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マントを貫く将輝の包囲攻撃に晒された幹比古は、残り一文字と言うところで、意識を手放した。




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