魔法科高校の劣等生・来訪者編クリアRTA   作:まみむ衛門

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12ー3

 深夜まで働き、心身共に疲労困憊だったと言えど、留学生の身で2日連続「家の都合で」の欠席は不自然に思われるだろう。

 

 そういうわけで、リーナは、翌朝シルヴィアに厳しく叩き起こされて、通いなれつつある第一高校に登校していた。

 

「全く、シルヴィったら、あんなに強く起こさなくても……」

 

 欠伸を噛み殺し、目をこすりながら、口をとがらせて不満を独り言として漏らす。だが、その口ぶりとは対照的に、彼女の美しい顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。

 

 軍の上官である彼女を厳しく叩き起こすなど、規律としてはあってはならない。またリーナは昨夜の事件のせいで精神的に不安定になっている。二つの意味でも、配慮して満足いくまで眠らせてあげるものだ。

 

 だがそれでも、彼女は、「いつも通り」起こしてくれた。若干強すぎて「叩き起こした」と表現するべきレベルになっていたが、シルヴィは、「いつも通りの友人」として接してくれたのである。

 

 良い友達、良い部下を持ったな。

 

 そんな実感が、彼女に笑顔を浮かべさせていた。

 

「グッモーニン」

 

 教室のドアを開け、気合を入れなおす意味でも、元気に挨拶をする。すっかり慕われている彼女には、教室中から挨拶が返ってきた。そして男女問わず、集まってきて、リーナとのひと時を過ごそうとする。

 

「あら、リーナ、少しお疲れ気味ですね。昨日の家の用事のせいですか?」

 

「……ええ、そんなところよ」

 

 随分と時間がかかってから自分の席に着けば、そばの席の深雪が、穏やかな笑顔で声をかけてくる。目の下のクマとかは化粧で上手に誤魔化せている自覚はあるが、やはり鋭い。

 

 家の用事なんて嘘だし、疲れている理由はおよそ人様に話せるものではない。学業・魔法・生活態度のみならず、こんな鋭さまで優秀だとは、兄妹ともども、恐ろしい逸材だ。

 

 リーナの返事は若干ぎこちないものになったが、深雪はそれ以上突っ込んでこない。ただの善意にしろ、何か裏があるにしろ、素晴らしい引き際だ。潜入ミッションが上手くいかない身として羨ましい限りである。

 

「おはよー」

 

 そうして過ごしていると、いつきが教室に姿を現す。リーナと話しそびれた女子は、現金なもので、彼へと群がっていった。

 

「今日は遅かったね。何かあったの?」

 

 女子の一人が、とろんとした危ない表情をしながら、いつきに問いかける。

 

 そう、いつきが教室に現れるのは、いつもよりだいぶ遅かった。何せリーナが少し寝坊し、さらに教室に入った後に群がってくるクラスメイトの相手を一通りし終わったところで、彼が入ってきたのである。

 

「ちょっと幹比古君たちと相談事。学校にはいつも通りついてたんだけどねー」

 

 立ち止まって一人一人相手するリーナと違い、いつきは人当たりこそ良いが、歩いて自分の席に向かいながらであり、少し対応が雑だ。周囲は気づいていないが、ここに彼の性格が表れている。これも、とびきりの美人で話題沸騰中のリーナに自分から声をかけようともしないのも、周囲への関心が薄いということだろう。

 

 

 

 

 

 

『……大事に弔ってあげてね? 多分、この人も被害者だから』

 

 

 

 

 だが、心がないわけではない。

 

 吸血鬼とどのような経緯で戦ったのか分からないが、彼からすると、その正体は何であれ、「敵」でしかない。それでも、ああして、サリバンを大事に扱ってくれた。

 

 そう、そうだ。

 

 このクラスメイトは、あの場にいた。しかも、グループのリーダーのような立ち位置だった。

 

 そして――フレディが、サリバンが、仲間たちが、なぜ吸血鬼として暴れているのかを、知っているという。

 

(知りたい)

 

 自然と、いつきを目で追いかけてしまう。こちらの気も知らずに、席に着いた彼は、何やらリズムを崩した鼻歌――なぜか偶然にもアメリカ民謡の『10人のインディアン』――を歌いながら、呑気に授業の準備をしている。

 

 どうするべきか。

 

 本当なら今すぐ聞き出したいが、そうはいかない。少しでもその話題を出せば、あっという間に怪しまれるだろう。

 

(イツキ……貴方は、本当に、ワタシたちを、導いてくれるの?)

 

 USNA軍は、今や五里霧中である。訳も分からない中、とりあえず緊急の仕事をさせられている状態だ。

 

 その「原因」を、彼が知っている。

 

 

 

 

 

 

「り、リーナ?」

 

 

 

 

 

 

「は!? え、あ、何かしら?」

 

 そうして思考の沼にはまっている中、突然、深雪の声をかけられ、意識が戻ってくる。注目を浴びる二人ということもあって、驚いて出した奇妙な声は、妙に目立っていた。

 

「なんだか、考え事をしているようだったから。中条君をじっと見つめて」

 

 途端、教室中の空気が凍る。

 

 さしものリーナも、ここまで来れば、自分がどう思われてるのか分かった。

 

 将来日本を背負って立つ才能あふれる魔法師たちと言えど、高校生は高校生。色恋沙汰には、たとえ「それっぽい」程度でしかなくとも敏感であり、「それ」と断定され、既成事実化する。

 

「ちょ、勘違いしないでほしいわ! えーっと、その……ステイツの民謡を歌ってたから、ちょっと気になっただけで……」

 

「えーと……ホームシック、ですか?」

 

 自分の事でもないくせにリーナよりもよっぽど顔を赤らめてるほのか――そんなになるならわざわざ参加するなと内心でツッコミを入れた――が、気づかわし気に問いかけてくる。

 

「…………まあ、多分、そんな感じよ」

 

 クニが恋しいと思われるのもそれはそれで癪だが、いつきに恋愛感情を抱いているなんて思われるよりか100倍マシだ。実際別にアメリカの民謡にさほど思い入れがあるわけでもないが、そういうことにしておいた方が丸く収まるだろう。

 

 ……なんだかトラブルは発生したが、誤魔化しには成功した。なるほど、我ながら、潜入ミッションも様になってきているではないか。

 

 現実逃避のようにリーナは自分を慰め、始業チャイムに助けられ、雑談はここで終わる。

 

 ――本人が自分に言い聞かせていることと違い、周囲は未だに「勘違い」しているままなのは、この際放っておこう。

 

 そうしてリーナと周囲が大変なことになっている中、いつきは全く気にした様子もなく、授業の準備を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。今日も今日とて、いつき達の活動は続いた。

 

「パラサイトが同時に複数体、か……一体何が起きてるんだか」

 

 モチベーションは十分とは言え、真冬の真夜中の寒さは、心身の元気を厳しく削り取ってくる。

 

 昨夜はなんとか吸血鬼を成敗し、パラサイトを捕えた。これで終わりかと思いきや、今朝のニュースで、「遭遇した場所から離れたところで」新たな被害者が見つかったと報道されたのである。「猟奇殺人が相次いだ」と最初のニュースが出た時点でうすうす思っていたが、どうやら、吸血鬼は複数犯の様だ。

 

 つまり、パラサイトは、複数こちらの世界に現れたのである。

 

「最後に確認されたのが、何十年も前。時代が下るごとに件数はどんどん減ってる。それなのに、ここに来て複数ってなんなの?」

 

 幹比古はぶつくさ文句を言いながら、道占いをスムーズに進めていく。

 

「不思議だよねー。もしかして、パラサイトを呼び寄せた黒幕みたいなのがいちゃったり?」

 

「ちょ、ちょっといっくん、怖いこと言わないでよ……」

 

「そんなのがいるんだったら、司波さんの前に放り出して急速冷凍してもらいたいね。僕らがこうして寒さを感じている分はせめてさ」

 

 あずさは怯え、幹比古はかなりささくれ立っているようでずいぶん乱暴な皮肉を吐き出す。そうは言いつつも冷静みたいで、パラサイト探査の儀式は滞りなく成功している。

 

「その、中条先輩は……大丈夫なんスか?」

 

 そして、ホッカイロ――随分と技術が進歩し温度・継続時間・軽量性などが大幅アップしている――をありがたくこすりながらそのやり取りを聞いていたレオが、あずさを心配する。

 

 正直彼とあずさに接点はないが、少し接しただけで、彼女が鉄火場に向いていないのがわかる。第一高校随一の魔法師であることは確かだが、根っからの研究・技術分野の人間だろう。横浜で海岸まで共闘したし、分かれた後も不意の激戦で活躍したらしいが、その性格は心優しく穏やかなのは変わりない。一年生で二科生の自分が気にするのもなんだが、という意識はあるが、彼女の気弱さは、いざと言う時の不安の種だ。

 

「大丈夫大丈夫。あずさお姉ちゃんは世界一凄いんだから。昨日だってしっかり主力だったし」

 

 いつきは胸を張り、あずさとつないでいる手を掲げる。二人とも手袋をつけているが、繋いでいる側の手は素手のままだ。

 

「へーへー、そうでございますかい」

 

 司波兄妹と言い、随分仲がよろしいことで。

 

 レオは呆れ果てながらも、確かに昨夜の活躍は見事だったと思い出して、一見頼りなさそうな小さな先輩を認める。いつきたちのように前線に出られるタイプではないが、隠れて離れた場所からだというのに素晴らしいサポートをよどみなく行っていた。得意は戦闘向きではないが、だからといって弱いわけではない、ということだろう。

 

「で、再確認だけど……その警報装置、発信機とかついてないよね?」

 

 そうして話題は、今回から加わることになったレオへと移る。

 

「達也に確認してもらったんだ、さすがに折り紙付きだろ」

 

 いつきが指さすのは、レオがぶら下げている、アクセサリーに偽装した警報機だ。昨夜のことを、いつきたちから許可のある範囲で話したところ、危険すぎるからと、今日エリカ伝手に渡されたのである。お使いさせられた揚げ句蚊帳の外な彼女は不満そうであった。

 

 この警報機は、力強く数秒押すと、けたたましい音と警告が鳴り響き、さらに警察に位置情報が届くようになっている。

 

 だが、その位置情報が、警戒の種だ。スイッチを押すまでは完全に機能停止していると説明を受けたが、実は常に作動していて、尾行されている可能性もあるのである。そうなれば、唯一根本的な対策手段を持つはずのいつき達は警察に捕捉され、「補導」なりなんなり公権力によって押さえつけられかねない。

 

「信頼できる人だと思うぜ。情報提供と引き換えに何も口出ししないって約束したんだ。守ってくれるだろ。そりゃまあきな臭い所もあるけどよ……文句は全部エリカに言えば、何十倍も誇張して伝えてくれるさ」

 

「あーありそう」

 

 昨夜の戦いは厳しかった。それが今から待ち受けている。

 

 そんな中だというのに、いつきとレオの会話は楽し気だ。あずさとしては相変わらずそんな気分ではないが、少しだけ、緊張がほぐれている。儀式をしながら、幹比古はレオの気づかいに感心していた。

 

「――――近いね」

 

 だが、そんな、夜遊びめいた雰囲気は、幹比古の鋭い声で霧散する。

 

 彼の目は、目の前を見ていない。精霊を通じて――数百メートル先を捉えている。

 

「ビンゴ、か。やっこさん、俺たちの事舐め腐ってるみてえだな」

 

 レオが前歯をむき出しにする好戦的な表情で、唸るように呟く。

 

 ここは今朝被害が確認された犯行現場と、さほど離れていない。昨日と言い、吸血鬼はずいぶん不用心らしい。居場所がわかりやすいのはありがたい限りだが、パトロールも格段に多いので、困りものと言えば困りものだ。

 

 手順は昨日と同じ。ただ、パラサイトが何かしらのテレパシー的な能力がある可能性を考慮して、相手が対策を立てているかもしれない前提で動く。

 

「――――吸血鬼に、昨日の赤髪が接触した!」

 

 だが、遠回りしてゆっくり近づいているうちに、あちら側に動きがあったらしい。幹比古が抑え目ながらも焦ったような声で、報告する。

 

「吸血鬼の動きはどう?」

 

「ええと……昨日に比べたら積極的じゃない。分が悪いと見て逃げるつもりかな」

 

「じゃあ決まりだね。急ごう」

 

 幹比古の答えを聞いていつきが即断すると、全員が駆けだす。

 

 吸血鬼に逃げられては元も子もない。また、あの赤髪が圧倒的な力で討伐に成功した場合、あの赤髪が乗っ取られることになりかねない。そうなれば、あの強力な魔法師が敵に回るということであり、完全にお手上げだ。

 

 そうして目視できるまで近づいたころには、赤髪も頑張っていたが、ついに吸血鬼が隙をついて逃げ出す瞬間だった。

 

「させません!」

 

 あずさが叫びながら魔法を使う。吸血鬼の衣服を固めて動きを奪う魔法だ。咄嗟だというのにその効果は高く、激しく転倒し、コンクリートの上を滑る。

 

「加勢するよ!」

 

 いつきが赤髪にそう叫びながら、持ち歩いていた一掴み分のパチンコ玉を吸血鬼の頭部にピストル並みの速度で射出する。頭部がハチの巣になる程の威力のはずだが、帽子が防弾仕様なのか、はたまた魔法によるものか、衝撃以上の効果は見いだせない。

 

 だが、これで起き上がりが少し遅れれば十分だ。

 

「これで終わりだ!」

 

 昨日の反省を生かし、レオが今日持ち込んだのは、『薄羽蜻蛉』だ。世界で最も薄く、世界で最も切れ味の良い刃が、吸血鬼に止めを刺した。

 

「探知します!」

 

 そしてあずさが即座にプシオンの波動を放つ。ちょうど吸血鬼の体から遊離しはじめたパラサイトの位置が、あぶり出された。

 

「おっと、後は任せたぜ」

 

 傍にいるほど憑りつかれやすい。プシオンの波動による探知を訓練していないレオはどこにパラサイトがいるか分からないが、走って離脱した。

 

「上々だよ」

 

 昨日と違い、幹比古は自分だけで使える、パラサイトの封印魔法を使った。そして、そのトドメとして、いつきが箱を被せる。これで一仕事完了だ。

 

「ふー、お疲れ様」

 

 箱をヒモでぐるぐる巻きにして、幹比古に投げて渡しながら、いつきは天使の笑みを浮かべ、仲間をねぎらった。

 

 そして――

 

 

「えーっと、赤髪の人も、お疲れ様」

 

 

 

 ――自分の銃口を向けている、赤髪の鬼にも。

 

 幹比古たちは、固唾をのんで見守る。いつでも、あの赤髪と交戦できるように、各々が臨戦態勢のままだ。そんな中、銃口を向けられてるいつきは、まるで迷うことなく両手を上げ――穏やかに笑った。

 

「それで、昨日言ったこと、考えてくれたかな?」

 

「――っ」

 

 わずかに、赤髪が動揺した。幹比古たちにも見て取れる、初めての人間性。

 

「…………命が惜しければ、知ってることをすべて教えろ」

 

「あー、どこまで知ってるんだろう……」

 

 禍々しさを感じるガサガサの合成音声で、高圧的に要求する。数で圧倒的に不利でも、自分が優位であることをしっかり理解しているようだ。それに対し、いつきは困ったような苦笑を浮かべる。

 

「昨日と今日で、少し違うけど、吸血鬼を倒した後、ボクたち、変なことをしてたよね?」

 

「傍から見りゃ確かに珍妙極まりなかったな」

 

 緊張感に耐えかねたレオが、一呼吸置くためにも、茶々を入れる。だが赤髪はレオには目もくれず、目線も銃口もいつきからそらさず、黙っているだけ。

 

 無言は肯定、ということだろう。

 

「あれは……お化け、妖怪、幽霊、デーモン……そんなふうに呼ばれてるこの世のものじゃない化け物を、封印したんだ。吸血鬼はとりつか――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるな!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤髪が急に激高する。

 

 いつきの説明を遮り、一瞬で彼に近づき、その胸倉をつかんで持ち上げ、眉間に銃口を突きつける。真冬で冷えきった鉄の口は酷く冷たいだろうが、いつきの表情は揺るがない。

 

「こっちは三人だぞ! いつでも殺せる!」

 

 幹比古が即座に警告し、臨戦態勢ではなく、明確に鉄扇を開く。あずさも不安そうな顔でCADを向け、レオも薄羽蜻蛉をいつでも振るえる構えを取った。

 

「そんなもの、あるわけないだろう!? そんなことで、フレディたちはっ……!」

 

 だが、赤髪はなにも構うことはない。持ち上げたいつきに顔を寄せ、激しく睨みつけながら、口角泡を飛ばしながら叫ぶ。

 

「――やっぱり、大切な人たちだったんだ」

 

「――――っ!」

 

「いっくん!?」

 

 だが、揺るがないいつきの一言にさらに激高し、赤髪は彼を地面に投げ捨てると、仰向けのようになった彼に馬乗りになり、後頭部を冷たいコンクリートに押し付け、また眉間に銃口を突きつける。先ほどまでと違い、指先は引き金までしっかりと伸び、あと数センチ動かせば、風穴を開けられるほどになっていた。

 

「……分かる、なんて言わないよ。言葉では表現できないぐらいだと思う。でも落ち着いて。…………君の大切な人があんな風になったのは、本人の意志じゃない。デーモン……ボクらはパラサイトと呼んでいる存在が、人間に憑りついて、吸血鬼になったんだ」

 

 グリッ、と、銃口を押し付ける力が強くなる。眉間にも後頭部にも痛みと冷たさがさらに走っているはずだが、いつきの表情は動かない。

 

「彼らは……フレディたちは、自分の意志ではない……?」

 

「そう。記憶とか潜在意識とかは影響しているけど、結局はパラサイトの仕業だよ」

 

 いつの間にか、赤髪が銃を握る手が、酷く震え始めた。その震えはやがて、全身に伝わる。

 

「ボクらはちょっとした事情で、パラサイトにだいぶ詳しい。今日はそっちのほうが速かったけど、昨日はボクたちが先だったことからわかる通り、探知もそこそこいけてると思うんだ」

 

 身体を押さえつけられ、馬乗りにされ、いつでも殺される状況。

 

 だというのに、いつきは真っすぐ赤髪を見つめて怯えた様子もなく語り、逆に赤髪はいつきの一言一句に反応し、動揺をどんどん露にする。

 

「ボクたちはパラサイトを許すわけにはいかないし、その原因を潰す力もある。君も、吸血鬼を殺す任務があるし……大切な人たちの体がこれ以上罪を重ねないようにしなきゃいけないはずだ」

 

 赤髪はうなだれる。いつの間にか全身から力が抜け、銃口がいつきから外れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから――――ボクたちで、協力しようよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして押さえつけられていたが解放されたいつきの両手は――――涙が通る赤髪の頬を、優しく包む。

 

「ワタシ、は……」

 

 直後、深紅の鬼の仮装が剥がれ、金色の天使が姿を現す。

 

「シールズさん!?」

 

「まさか、そんな……」

 

「おい、まじかよ」

 

 三人が驚きの声を上げる。

 

 あの恐ろしい強大な魔法師が、アメリカからの留学生だった。

 

 まるでアニメのような出来事に、頭がついていかない。

 

 だがその変身を、お互いの呼吸がわかる程の距離で見ていたいつきは、驚きを表に出さず、穏やかな笑みを浮かべたままだ。リーナには、彼が、救いの天使のように見えた。

 

 二人の天使が、重なり合って、今和解した。

 

 その絵画のような美しいさまを見られた幸運なはずの三人は、しかし驚きが勝り、それに感動することはなかった。




いつき(走者)が歌ってた鼻歌の正体は、以下URL動画の24分14秒からです

https://www.nicovideo.jp/watch/sm20877565

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