魔法科高校の劣等生・来訪者編クリアRTA   作:まみむ衛門

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おま〇けのコーナー!(幻聴)
走者がプレイをAIに委ねた、来訪者編クリア後の様子を短編でお届けします。

なお、中条家仲上々チャートで浄化されてると思いますが、今回はあの黒羽蘭が出ます。
リハビリも兼ねて、黒羽家苦労ばかりチャート編を見返すことをお勧めします(露骨なPV稼ぎ)


おま〇けのコーナー(黒羽蘭)

 吸血鬼・パラサイト・スターズとの激闘を終え、その中心として活躍した黒羽蘭は、だんだんと余裕のある生活を送るようになった。「憑き物が落ちたよう」と誰も言わないのは、本物の「憑き物(パラサイト)」と戦ったからシャレにならない、と思ったからだろう。

 

 例えば、今まで完全に無視していた部活動の勧誘をそれなりに快く受け、体験や助っ人として入部し、その実力をいかんなく発揮して暴れていた。

 

 例えば、今までさっさと一人で家に帰ることが多かったが、放課後には美月や幹比古を中心に友達とどこかに遊びに行くことが多くなった。

 

 例えば、今までだったら「えーめんどーくさーい」とか言って考えすらしなかったであろう、生まれつきの表情筋と声帯の手術を受けた。声は鈴が鳴るような可愛らしさとなり、表情豊かに屈託なく可憐に笑うようになった。彼女の汚い本性を知らない人間は即ノックアウトするだろう、とは、彼女をよく知る同校同級生でかつ親戚の少年Tの談だ。

 

 そうして色々と普通の(?)女子高生のような青春を楽しむようになった蘭は無事進級し親友がいる美術部に正式入部し、四葉の意向に逆らった可愛い弟・妹の文弥と亜夜子も第一高校に追いかけて入学してきて、楽しく過ごすようになった。親の気も知らないで、とは、激しい胃痛のせいで週に二度専門医に通院している表向き一般人の成人男性談である。

 

 

 そんなこんなで、新入生成績トップスリーの七宝琢磨と七草の双子によるトラブルも無事解決し、新年度のざわめきも落ち着いてきた5月中頃の第一高校食堂に――――

 

 

 

 

 

 

「やっほー、おっまたー!」

 

 

 

 

 

 

 

 ――――「数十年前の音声読み上げソフトのような機械ボイス」が、妙に目立って響き渡った。

 

『………………』

 

 声をかけられたメンバー全員――いつもの達也のお友達グループ――が能面のような無表情になる。

 

 そしてそんな凍り付いた雰囲気など知らぬとばかりに明るい笑顔を浮かべて、身長が小さめで体型も起伏に乏しくやせ細っているが艶やかな黒髪と人形のような可愛らしい顔立ちが目立つ少女が合流した。

 

「……あ、蘭ちゃん、ここいいよ」

 

「どもどーも」

 

 通路側に座っていた美月が彼女のために詰めて席を空ける。そして蘭は機械ボイスでお礼を言いながら、見た目に似合わずその軽薄な態度に似つかわしくドカリと下品に座る。深雪が思わず頭を抱えた。

 

「あー、蘭。どうしてもそれ、やめるつもりない?」

 

「もろちん!」

 

 深雪とおおむね同じ表情の幹比古がげんなりしながら問いかけるが、暖簾に腕押しとばかりに、蘭が無い胸を張って肯定する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――せっかく手術をして普通に喋れるようになったのに、蘭はわざわざ高性能変声機を使って、以前の機械ボイスのまましゃべり続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本人曰く「キャラづくり」。確かに今までずっと機械ボイスに誰よりも慣れ親しんできた本人だ。違和感があるのは仕方ない。しかしながら、蘭はそんなことを気にしないタイプだ。本人が「キャラづくり」という通り、単に愉快で面白いからやっているにすぎない。周囲がどう思おうが知ったこっちゃないのだろう。

 

 こんな具合に、蘭のゴーイングマイウェイっぷりは、変わることはない。

 

 吸血鬼事件を解決して生き急いで焦るような様子は減ったが、効率主義者であることは変わらず、また一方でこうしてふざけまくる日常も変わらない。一年生のほとんどは未だ彼女の本性を知らずこの見た目ミステリアス美少女に憧れのようなものを持っているが、二・三年生からすると「アホなほうの優等生」という評価は変わらない。「アホじゃないほうの優等生」こと深雪は、彼女と並べて語られるたびに優雅な笑みが凍りついているのは余談だ。

 

 そんな、このメンバーの中ではひょうきんな方であるレオとエリカですらついていけない存在である蘭はなんら気にすることなく、バッグからお弁当を取り出してテーブルに広げる。以前はうどんや丼物のような素早く食べて手軽にカロリーを取れる食事を好んでいたが、今は同居している亜夜子と文弥の説得で、こうして健康的な食事をとるようになった。ちなみにこのお弁当は、その可愛い妹・弟の手作りである。

 

 

 このように、蘭の生活は、大きく変わったこともあれば、さほど変わらなかったこともある。

 

 だが、どちらにしても――――その生活が以前に比べてはるかに平穏であることは、疑いようもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九校戦の季節を迎えようとしていた。

 

 生徒会長・あずさの仕事っぷりは、真由美ほどではないにしろ、その優秀さをいかんなく発揮している。毎年揉める九校戦の代表選定も、4月中頃から話を進めて正式連絡が運営から届く前に内々定を出しておく徹底ぶりだ。このやりすぎともいえる計画性は、全校からの評判が良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――だが今回ばかりは、それが仇となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きょうぎがへんこう、ですか」

 

 臨時生徒集会で発表されたのは、九校戦の競技変更だった。

 

 バトル・ボードとクラウド・ボールとスピード・シューティングが廃止になり、通常競技枠としてロアー・アンド・ガンナーとシールド・ダウン、そして特殊競技としてスティープルチェース・クロスカントリーが追加された。

 

 またアイス・ピラーズ・ブレイクとロアー・アンド・ガンナーとシールド・ダウンは男女ソロ部門は各校1エントリーまでで、男子ペアと女子ペアが新たな部門として加わる。一年生はこの三つの競技に関してはペア部門しかなく、競技特性上ソロのみのミラージ・バットとグループのみのモノリス・コードは変更がない。

 

 さらに、全体共通ルールとして、競技の掛け持ちが禁止される。代わりにスティープルチェース・クロスカントリーは本戦メンバーがほぼ全員参加だ。

 

 これだけルールが変更された。事前に決まっていた内々定のほとんどが白紙と言っても過言ではない。

 

「そうはいっても、ほのかと蘭は出る競技変わらないんじゃない」

 

「でしょうなあ」

 

「多分そうだよね」

 

 雫の言葉に、それを挟むように隣に座っている蘭とほのかが頷く。とはいえ、蘭は自信ありげで、ほのかは不安そう、という点で、二人の性格の違いが表れているが。

 

 二人ともとても優秀な魔法師で実績もあるため、去年同様、ミラージ・バットとバトル・ボードに内定が出ていた。だがこうなると、廃止されたバトル・ボードはなかったことになり、このままミラージ・バットに出ることになるだろう。強いて言えば、ロアー・アンド・ガンナーでペア部門の漕ぎ手に選ばれるぐらいか。

 

 生徒会役員であるほのかは大変だろうが、蘭にはほぼ影響がない。美味しい立ち位置だ。

 

「うますぎて馬になったわね」

 

 雫ですら一瞬見惚れるほどの可憐な笑みを浮かべ、やけに野太い声を作って、蘭がそんなダジャレを言う。変声機を使った機械ボイスではない、彼女の素の声。物まねやらなにやらをするときは、彼女は変声機を使わない。

 

 変な気を起こさず、普段の会話もこうだったら、と、二人は今年度に入ってから何度目かもわからない願望を、心の中に留める代わりに、ため息として表出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は? パラサイト? 野郎、ぶっ殺してやる!!!」

 

「落ち着いてくださいお姉さま!」

 

「どいてお兄ちゃん! そいつら殺せない!」

 

「僕は弟でしょ!!!」

 

 そんな平穏無事なはずの蘭は、九校戦会場のホテルの達也の部屋で暴れ狂い、妹と弟に止められていた。

 

(こうなるから嫌だったのに)

 

 顔を逸らした達也がこっそりとため息を吐く。

 

 四葉の情報筋で、スティープルチェース・クロスカントリーに絡んだ陰謀を掴んだ。どうやらパラサイトを憑りつかせた人型ロボットを妨害役魔法師の代わりに配置するらしいとのこと。そこで、九校戦会場に忍び込むどころか正式に入場できる達也と亜夜子と文弥がその調査をすることになった。

 

 

 ――それは当然、蘭にも話が及ぶことを意味する。

 

 

 蘭は参加命令が出ていないが、情報共有はするべきだ。だが達也たち三人は渋った。こうなることが予測できるからだ。

 

「その様子だと思ったより余裕があるようで何よりだな」

 

「「どこがですか!!!」」

 

 達也の言葉に、暴れる蘭を必死で押さえつける黒羽の双子が声を荒らげて反論する。蘭は身長が小さくやせ細っていて、一つ年下な上に年齢からみて小柄な方の文弥や亜夜子よりもさらに小さく幼く見える。だというのに、その二人から抑えられてもなお、しっかり暴れることが出来ていた。学校に行かずひたすら訓練に打ち込んで鍛え上げた肉体のなせる業だ。そのくせ筋肉が全然ないのが不思議で仕方ないが。

 

(しまった)

 

 二人の反論に、達也は内心で焦る。達也は、あまりにも不本意なことに、蘭の使う70年以上前のネットミームを、メジャーなものから汚いものまで網羅「させられた」、立派な知識人(インターネットオタク)になってしまっている。当然、蘭が怒り狂っているように見えてミームを使う程度に余裕があることもわかる。

 

 だが勉強させられた達也以外はそうでもない。自分が立派な「有識者」になってしまったというのは人生の汚点だ。誰にも知られないようにしてきた。たとえ、声帯を手術して「迫真」の演技ができるようになった蘭が地獄のような上手さで汚い語録を口走り、その「ほんへ」が脳内再生されて吐き気を催そうとも耐えてきたのだ。こんなところでバレるわけにはいかない。

 

「まあそれは冗談としても、兄君さま、パラサイトは放っておくわけにはいきませんよ」

 

「うわ、急になんですか」

 

 変声機を使わず普通に喋る蘭はまだ興奮した様子だが、抑え込んでいた文弥からすると急に落ち着いたようにしか見えない。相変わらず振り回されている。

 

 そう、蘭は、パラサイトを人類の敵と言わんばかりに警戒している。事実そうであり、先日日本で起きた吸血鬼事件は多くの犠牲者を出したし、レオや蘭もその一人になりかけた。だが、蘭はそれにしたって、吸血鬼事件が判明してすぐに動き出し無茶をして早期解決を実行する程に、パラサイトの存在を敵視している。彼女が黒羽家の闇の研究の末にその一端を見た「精神の独立情報体」は、それだけ彼女にとって恐ろしいものなのだ。

 

 だからこそ、今回の件は、彼女の逆鱗ともいうべき部分に触れたのだろう。

 

 ゆえに、こうなることが分かっていたから、蘭にこの件を知られるのが嫌だったのだ。

 

「そもそも変な話です。吸血鬼事件は東京でしか起こっていなかった。あの場に集まった吸血鬼も全員だったでしょう。それをまとめて殺したんだから、パラサイトがまだ現世に残ってるなんてありえません」

 

「その声で普通に話しているのが久しぶりだから何も頭に入らんが?」

 

 蘭はいたって真面目だが、達也からすると変声機も物まねも語録もなしに彼女が普通に話しているのは違和感が強い。普段との落差に、脳が理解を拒絶している。

 

「おそらくだが、今回の首謀者は、USNAのパラサイトを捕まえていたんだろうな」

 

 吸血鬼事件はUSNAでも起きていた。日本国内のものは蘭たちが全て討伐したが、あちらはそうでもない。恐らく日本での激闘の後、謎の黒幕は、パラサイトの性質に着目してUSNAまで頑張って取りに行ったのだろう。涙ぐましい努力だ。

 

 なおここにいる五人――何もしゃべっておらず置物になっているが深雪もここにいる――は誰も知らないが、今回の件の黒幕である九島家だけでなく、四葉家もちゃっかり当主の意向でパラサイト採取ツアーに向かって無事回収に成功しているのは余談である。

 

「気持ちは分からないでもないが、蘭、今回に関しては、お前は何もしないで、競技に集中していてほしい。パラサイトを使って何かをするのは、スティープルチェース・クロスカントリーだけだろう。それに参加しない俺たち三人でなんとかするから、お前と深雪は何も考えず、ポイントを持って帰ってこい。ああ、もちろん、幹比古もだ。あいつには絶対言うなよ?」

 

「えー」

 

 蘭は頬を膨らませて不満顔だ。美人でありながら可愛い系の小さな女の子がそんな表情をするものだから、アニメから飛び出してきたのではないかというほどに可愛いが、そこは四葉関係者しかいないこの場だ。動揺する者などいるはずがない――文弥と亜夜子がなんか見惚れているように見えるが絶対に気のせい――のである。

 

 結局、達也の熱心な説得と、まるで盗聴でもしてるのではないかというほどにぴったりなタイミングで届いた四葉からの命令により、蘭と深雪は気にせず競技に頑張ることになった。

 

 

 

 ――蘭の独断専行のせいでUSNAまでパラサイトを捕まえに行く羽目になった四葉の「頼むから余計なことせんといてくれ」という願いは、見事に通じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃじゃーん!」

 

 九校戦は世間からの注目が高く、地上波で全国放送されるなど、エンタメ化も進んでいる。

 

 ミラージ・バット本戦決勝の直前。そのカメラに向かって、本格的なゴシックロリータに身を包んだ小さな美少女三人が、おのおのの決めポーズを魅せていた。

 

 三人の真ん中は黒羽蘭。去年以上に装飾が増えた黒のゴシックロリータに身を包んでいる。その姿は、一流職人が時間をかけて作ったお人形のようである。とはいえその口から発せられた軽薄な効果音とまさかの満面の笑みダブルピースという似つかわしくないポーズによっていまいち台無しになっているが。それでも、カメラの向こうの観客を、一瞬で虜にした。

 

「お、お姉さま、もっとこう、おしとやかにですね……」

 

 一方その左隣、おそろいのゴシックロリータを着こなし優雅に決めているのは黒羽亜夜子だ。蘭同様、美月を中心としたチームに頼んで同じデザインの衣装を作ってもらった。彼女はすでに行われた新人戦ミラージ・バットにてこの衣装でダントツ優勝を決めており、今注目の一人である。なお姉のせいで優雅に決めきれてないのはご愛敬である。

 

「う、うう、恥ずかしいよう……」

 

 そして蘭の右隣は、同じデザインのゴシックロリータであることは変わりないが、また別の魅力を醸し出している。蘭や亜夜子ほどではないにしろ低身長で、顔つきや今時時代錯誤の分厚い眼鏡で、魅了ではなく自然と見惚れさせるような癒し系の魅力を放っている。それでいて装飾が多く露出の少ない衣装越しでもわかる程に胸が大きく、蘭や亜夜子に比べて性的な魅力も強い。それでいて恥じらってモジモジしているものだから、もう画面の向こうの男性陣は興奮冷めやらないだろう。

 

 彼女は、競技に出るわけでもないのに、蘭の提案でおそろいの衣装を着せられた、この三着を作った美月である。蘭の大親友兼衣装作成者として、エンジニアでも選手でもないのに特別にこの選手向け待機所にお呼ばれして、蘭によって無理やりスリーショットを全国中継に映すことになった。

 

「どーう? かわいいでしょ?」

 

「あーはいはい、カワイイカワイイ」

 

 機械ボイスで問いかけられたエンジニアの達也は適当に返事をする。実際に可愛いと思っているし、亜夜子と美月に関してはもっとしっかり褒めるのも紳士としてやぶさかではないが、蘭を真面目に褒めるのは癪なので死んでもするつもりはない。

 

「ほっ、目立たなくて良かったあ」

 

「君は君でそれでいいのかい?」

 

 蘭たちが注目を集めるおかげで、同じく優秀かつ飛びっきりの美少女ということで注目されるはずなのにカメラに映されないほのかは安心し、同じ立場の里美スバルはそんなほのかに呆れている。ほのかの衣装は美月のゴスロリと違ってより大きな胸のふくらみが目立つので、画面の向こうの男子諸君は貴重な映像を逃すことになった。

 

「このいしょうたちは、このみづきちゃんが、ぜんぶつくってくれましたー!」

 

「も、もう、蘭ちゃんったら!」

 

 蘭は美月に抱き着いてその顔に頬ずりしながら、満面の笑みで親友を自慢する。美月は照れ臭いのか、顔を赤らめながらも、嬉しそうに微笑む。その様子もまた、美しくも麗しい友情として、実に映像映えしていた。

 

 ちなみに蘭が人の頬に頬ずりする様子がテレビに映し出されるのはこれが三度目である。一度目は文弥のモノリス・コード優勝インタビューに蘭が乱入した時、二度目は亜夜子のミラージ・バット優勝インタビューに乱入した時である。なお、このあと四度目としてモノリス・コード本戦優勝インタビューで幹比古も同じことをされて男たちの嫉妬を買うのは余談だ。

 

 そんなこんなで始まる前からギャラリーのテンションが最高潮のミラージ・バット本戦。そちらはつつがなく行われ、蘭が圧倒的得点で優勝し、ほのかとスバルも二位・三位で一高が表彰台を独占、および蘭と亜夜子の姉妹優勝を決めるに至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか、絶対にこっちのことは気にするなよ。絶対だぞ!」

 

「ダチョウくらぶ?」

 

「フリじゃない!!!」

 

 スティープルチェース・クロスカントリー女子部門直前。パラサイトの事なので何か出しゃばらないか心配な達也が、蘭を呼び出して念押しする。そして見事に逆効果になりそうだったので、それも阻止した。

 

 ここで思い出してほしい。本来の歴史だったら、一高にあったロボットに憑りついたパラサイトが、パラサイドールたちを探すことになっていた。

 

 だがこの世界ではパラサイトがロボットに憑りつく事件が起きる前にすべてが解決されている。では達也たちは蘭も幹比古も深雪もなしにどうやって探知するつもりなのかというと、実行メンバーの文弥と亜夜子によるプシオン探知だ。パラサイトとの実戦経験が、黒羽姉弟の実力を押し上げているのである。

 

 それはさておき、先日の暴れっぷりが嘘みたいに、蘭は落ち着いている。それだけ弟と妹と達也を信頼しているのだろう。

 

「このてで、しまつできないのは、ざんねんですが――たよりにしてますよ、おにいちゃん?」

 

 声は変声機のせいで相変わらず。

 

 だが、その顔に浮かぶのは以前のような、本能が拒否するような生首饅頭の笑顔ではなく、見るものを魅了する可愛らしい屈託のない明るい笑み。パラサイトについても最終的に自分で動くことなく達也たちに任せるなど、蘭は、やはり確かに以前から変わっている。そしてそれは多分、良い変化なのだろう。

 

「……ああ、任せろ」

 

 なんか蘭に好感を抱きそうになった自覚が湧いた達也はそれを振り払う。なんやかんや最終的に悪い奴ではないし仲間だしそれなりに大切な友達で親戚扱いしても良いには良いが、こんなやつに好感を抱くつもりはさらさらない。せめてホモビデオ由来の語録は封印してもらわなければ話にならない。

 

「正直、お前と深雪のツートップは確定だと思っている。あとは去年お預けになった勝負だな」

 

 話題を逸らすべく、達也は競技の話に移る。

 

 去年は達也の失策によって不戦敗めいた結果になったが、今年はこの最後の競技で深雪と蘭の真っ向勝負が実現した。競技内容は蘭に有利だが、総合的な魔法力は深雪が圧倒的に勝っている。しかも大人げないことに、深雪と達也にかけられた「封印」「枷」をこっそり外して完全本気モードだ。

 

 そしてその勝敗には、去年と違って対等な「賭け」が成立している。

 

 負けた方は勝った方の言うことを、「無理のない範囲ならば」実行する。「なんでもする」とは言ってない。

 

 達也と深雪の要求はもう内心で決めてある。下品な語録の封印だ。

 

 このために、深雪は選手として、達也はエンジニアとして、今までにないほど努力を積み重ねた。これ以上ないほどに蘭が得意な競技だが、勝てる見込みはある。

 

「んっふっふー、たのしみですなあ」

 

 わざわざねっとりとさせた機械ボイス。達也は、普通に可愛らしく笑う蘭の顔に、あの生首饅頭の笑顔を幻視してしまう。

 

 

 

(っ!? いや、大丈夫、大丈夫、勝てるぞ)

 

 

 

 思い出すのは去年の閉会式でのやり取り。最終的に蘭の命を救うことで――なんとあの自傷行為も事前に立てた作戦の内だったというから驚きだ――清算できたが、あのやり取りは未だにトラウマである。

 

 だからこそ、今年は勝って、それを払拭しなければならない。

 

(あとは頼んだぞ、深雪)

 

 パラサイドールにいまいち気が入らない。

 

 そんなそわそわした、彼にしては浮ついた気持ちで、それぞれ競技とミッションの時間を迎えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九校戦の全てがつつがなく終了した。裏ではパラサイドールなどの陰謀があったが、それは達也と亜夜子と文弥の尽力で事前に阻止された。

 

 スティープルチェース・クロスカントリー男子の結果は衝撃的だ。圧倒的魔法力を持ち、森林や山岳での訓練経験もある将輝一位が固かったが、なんと幹比古が食らいつき、同着一位。一位と二位の点数合計を折半することになった。

 

 幹比古曰く、「蘭と散々鍛えたから」。移動・加速系のエキスパートで障害物競走の訓練を誰よりも家で狂ったように積んだ蘭との練習は、幹比古を大幅にレベルアップさせていたのだ。

 

 では、女子の結果は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 6位、北山雫

 

 5位、光井ほのか

 

 4位、一色愛梨

 

 3位、千代田花音

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 準優勝、司波深雪

 

 優勝、黒羽蘭

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬふふふふふふふ」

 

「「…………」」

 

 残酷な処刑人と、無実の罪の死刑囚。

 

 後夜祭の片隅で繰り広げられた光景は、二人の死刑囚――達也と深雪からすれば、気持ち的にはこんな感じだ。

 

 残酷な処刑人こと蘭は心底嬉しそうに不気味に笑い、達也と深雪はお互いに抱き合いながら蘭を睨む。

 

 賭けに負けた達也と深雪は、蘭の言うことを聞く羽目になった。

 

 去年と違って「なんでも」ではないが、果たして何を言われるのか。

 

 事前の約束で「保留」は無しとなっている。生殺しではなく、どうせならこの場で殺してほしい。

 

「さあ、司波兄妹解体ショーの始まりや」

 

「お姉さま、どうかお手柔らかに」

 

「あまり無茶なお願いはしないであげてくださいね……」

 

「達也も司波さんも、なんて無茶な賭けを……」

 

「もしかしてギャンブルで身を亡ぼすタイプでは?」

 

 笑いがこらえられない蘭に亜夜子と文弥が心底心配そうに「手加減」をお願いし、経緯を聞いた幹比古と美月が司波兄妹に呆れた目線を向ける。特に美月の言葉は心を抉った。事実ではないが、そう言われても仕方ない立場である。

 

「いやあ、ことしのなつは、あつくなりそうですなあ。まなつのよるでも、『いいんゆめ』をみれそうですぞお」

 

 達也の心に殺意が湧いてくる。わざわざ「いい夢」をさりげなく「いいん夢」なんて発音するな。字面が「淫夢」に見えるだろう。そんなツッコミをグッとこらえる。達也が「有識者」なのは深雪にすら知られてはいけない。

 

 

 

「さーて、きょねんはさんかできませんでしたが、ことしはさんかできるいべんとが、ありますねえ!」

 

 

 

 

「ありますねえ!」だけ素の声だけど変なイントネーションで発音する器用な語録織り交ぜをする蘭。

 

 今年も達也たちは、雫の家での海水浴にお呼ばれしている。そして今年は、去年不参加の蘭も参加できることになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさかそこで、親友たちの前でとんでもないことをやらせるつもりか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也と深雪は震えあがる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして悲しいことに、優れた魔法師らしく、その「予感」は当たった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深雪は白マイクロビキニを、達也は日本一有名な野獣と同じビキニパンツを、それぞれ着用して海水浴に参加する羽目になったのであった。

 

 

 

 なおそれを見て一番喜んだのは蘭ではなく、抱腹絶倒して酸欠になりかけたエリカと、達也のセクシーな姿を拝んで終始顔が真っ赤だったほのかであったことは、全くの余談である。




ちなみに蘭はスク水を着て参加しようとして美月に止められ、黒のシンプルなワンピースタイプの水着を着ました

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