おま〇けのコーナーのネタを思いついたので書きました。一発ネタです。
夏休みが終わってもうすぐ一か月が経とうかという頃。マイクロビキニとゲイビデオパンツを着用させられた司波兄妹の心に刻まれた深い傷は未だ癒えることはなかったが、ひとまずそれを上書きするような出来事を迎えた。
司波深雪の生徒会長就任である。
魔法師はマイノリティであり広いようで狭い社会だ。魔法科高校での人間関係は大人になっても大きな影響があり、その中でも「生徒会長をやっていた」というのは、たかが高校生の委員会活動だろうと、特に強いものである。将来四葉家の当主として日本魔法師たち、ひいては世界の魔法師たちを代表する立場にほぼ内定している深雪にとって、その立場を得ることは非常に重要であった。
そんな深雪をリーダーとする新生徒会が発足した月曜日。美術部で活動している蘭と美月の元に、お友達グループの中でも同性であるため特に親しいエリカが冷やかしに来ていた。
「あ、そうだ」
「うーん、嫌な予感がする」
「魔法師の勘ってすごいのよ?」
そんな中、小学校低学年の子が描いてたら「あらお上手ね」なんて褒めるぐらいの出来の絵に筆を加えていた蘭が、唐突に声を発する。それに対し、即座に美月とエリカが顔をしかめた。このほっそりとした小さなお人形のようなミステリアスな女の子は、見た目とに反して頭の中は印象派やシュルレアリスムもびっくりのぶっとび具合なのだ。
その証拠の一つが、たった今発した妙な棒読みだ。二人にはわからないが、おふざけしている時の彼女はこんな声を出す。達也は何やら知っているらしく時折深い深い溜息を吐いているが……。これがゲイビデオのミームだと二人が知らないのは、二人にとっても達也にとっても幸運なことだ。
「エリカちゃんに、一つ、とても大事なお願いがあるんです」
そんな蘭から発せられたのは、生まれつきの声帯障害を手術で治療して手に入れた、鈴の鳴るような可憐な声だ。先ほどのような何かの物まねや変声機を使った安物の読み上げ合成ボイスのようなものではない。
こういう時の蘭は、とても大事な話をする。自然と二人は耳を傾け、そして嫌な予感も増してきた。
「まあ一応聞いてあげるわ。内容次第では、アンタの可愛い顔がその絵みたいになると思いなさい?」
「え、エリカちゃん……こ、これはキュビズムっていうれっきとした芸術技法で……」
エリカが指さしたのは美月が描き進めている奇妙な絵だ。蘭のものと違って由緒正しい表現であると自負している美月は不満そうだが、気の強い女友達には大体黙殺される。ちなみにエリカはこう見えて「いいとこのお嬢様」なので当然キュビズムを知っているのは余談である。
「エリカちゃんに、剣を教わりたいんです」
瞬間、部室の空気が冷え込んだ。
美月の全身から冷や汗が噴き出す。やたらと命の危険に巻き込まれるスクールライフのせいで磨かれた生存本能が、「逃げろ」と警鐘を鳴らしていた。
今の一言で蘭は――虎の尾を踏み、逆鱗に触れた。
「アンタ、ふざけてんの?」
猛獣や怪物が牙を見せつけ唸るような声を出したのはエリカだ。その静かなトーンは、感情豊かでよく手が出るエリカが、本気で怒っている時のもの。
そう、エリカは「いいとこ」出身なのだが、それは――日本を代表する、魔法剣術道場だ。
千葉エリカ。魔法師の名家たる百家に名を連ねる、世界最高峰の魔法剣士たち「千葉家」。彼女はその一員であり、そしてその生まれから不遇を受けつつも、そんな千葉家最強の剣士になると期待されている。
つまりエリカの人生は、大雑把に言えば「剣に生きる」と言っても良い。
そんなエリカに対し、普段からおふざけだらけの蘭が、「剣を習いたい」と言った。
剣に興味を持ち、人口が増えてくれるなら嬉しいことだし、やりたいならば動機はともあれ勝手にすればよい。
だが――ふざけた心で、この「千葉エリカ」に習おうというのなら話は別だ。
それはつまり――エリカの人生への侮辱に他ならない。
エリカの放つ怒気は美術室を支配し、そして親友として彼女の覚悟を知っているうえでそれを至近距離で浴びているのだから、美月としてはたまったものではない。
「いいえ、これは真面目なお願いです」
そんなエリカに対し、空気を読むということを知らない女・黒羽蘭は、表情筋障害があったころを思わせる怜悧な表情で、真正面から見つめて言い返す。
にらみ合い。美術室に相応しくない、決闘のような鉄火場の空気が流れる。
「…………なるほど、本気みたいね」
そんな永遠にも感じる数秒の末、先に剣を収めたのはエリカだった。いつの間にか握っていた特殊警棒――物騒すぎる――から手を離し、少し浮かせていた腰を戻して座り直し、張り詰めていたため息を漏らす。
「すみません、エリカちゃんにも都合があるかと思いますが……」
蘭が眉を下げ、申し訳なさそうな表情を浮かべる。こんな殊勝な態度を取るのを見るのは、あの真冬のパラサイトとの戦い以来だ。つまりこの件は、それだけ蘭にとっても大事なことなのだろう。
「まあそうね。アンタの立場で剣を習うってんならアタシよね。……一応聞いておくけど、目的は?」
蘭ならばふざけた理由はいくらでもあり得る。カッコイイから、なんとなくやってみたいから、アニメやゲームの影響などだ。しかしその表情は、そうした浮ついた動機には見えない。
「…………すみません、それも言えません」
「ふうん」
チラリ、と蘭が美術室のカレンダーを見る。もう9月も終わりで、10月が見えている。そのある日に派手な印がついて、美術部らしい装飾のついた文字で「論文コンペ本番!」と書かれているのを、エリカは見逃さなかった。
「…………ら、蘭ちゃん、そ、その……聞かれてるよ?」
美月は蘭の耳元に顔を寄せ、咎めるように囁く。
今の蘭の言葉は、あまりにも「不穏」だ。
魔法師は事情が事情なだけに複雑な家庭が多いし、なまぐさい通り越して血なまぐさいバックボーンも珍しくはない。
その中でも蘭は、とくに謎が多いのだ。
自身はもちろん、妹の亜夜子と弟の文弥もとびぬけて優れた魔法師である。そして何かと属性が多すぎる「あの」司波達也・深雪兄妹と親戚だという。十師族クラスの諜報部が調べてもお綺麗な経歴しか出てこないが、あれほどとびぬけて優れた能力を持つ高校生を輩出する家系が「まとも」なわけがない。「まとも」と言えるのは、この魔法科高校でも、かろうじて中条あずさぐらいだ。
そうした蘭のプロフィールは、「裏に何かある」と暗に主張しているようなものだった。
そんな彼女が、エリカを怒らせてまで、「千葉エリカ」に剣を習いたいと真面目にお願いしている。
去年横浜が地獄と化した記憶が新しい論文コンペを控えている中で、だ。
「ふん、分かった。いいわ、アタシの弟子にしてあげる」
エリカもそれを察した。だからこそ、蘭のお願いを受け入れた。
もともと千葉家は優秀な剣士の卵はウェルカムである。蘭はこの見た目と体に反してとてつもない運動神経を持ち、それを活かした高速戦闘を得意とする武闘派。前々から剣士としての才能を感じてはいたのだ。
「ありがとうございます」
蘭も頭を下げる。ここまで徹頭徹尾地声だ。彼女にとっても、やはりこれはおふざけではない。
「……エリカちゃん、本当にいいの?」
二人の話だから口出しするつもりはないが……美月はまだいぶかし気だ。蘭は大好きな親友だが、あいにくながら人徳方面で信頼があるかというと、はっきり言って欠片もない。
「いいのよ、どうやらマジみたいだしね」
エリカは口角を吊り上げる獰猛な笑みを浮かべて頷く。
蘭のこの態度は、間違いなく本気だ。
そしてもう一つ、大きな判断基準がある。
これをエリカは墓場まで持って帰るつもりだ。
(ふざけてる時の蘭なら、絶対に「真剣ですよ。剣だけに」って言うだろうからね)
こんな判断が一瞬で出来るなんて知られたら、蘭と同レベルだとか思われかねない。
☆
翌日放課後、名前のわりに千葉県ではなく神奈川県にある千葉家兼道場にお呼ばれして、エリカに剣を教わることになった。
「で、これで何回目かの確認だけど……本気?」
「ええ、ほんきですよ」
エリカは実用性とデザイン性を兼ね備えた、蘭は上下真っ黒で飾り気のない、運動しやすい格好に着替えながら、更衣室で話し合う。
剣術と言っても「流派」なんて言葉があるぐらいだから、その種類は星の数ほどある。蘭の目指す剣はどこか。まずそこを聞かないと始まらない。
それはここに来るまでの道中で聞いたのだが、しかし何度聞いてもエリカは信じられない。
「二刀流って……そんなの異端よ?」
そう、蘭が望んでいるのは、漫画やアニメの世界でこそメジャーだが、現実には少数派も少数派である二刀流だった。
そもそも日本刀は両手で扱うのが基本中の基本だ。なにせ鉄の塊であり、しかも長いので、非常に取り回しにくい。比べて圧倒的に軽い竹刀ですら、常人ならば片手で扱うことは出来まい。だが蘭はそれを片手で、しかも両方の手で振るいたいという。
「どうしても、それじゃなきゃダメなんです」
「はぁ~厄介な弟子を持ったわね……」
エリカは頭を抱える。
まず普通にいけば、千葉家でも採用している王道の両手持ちだ。剣術にせよ剣道にせよ、それ以外はまず実用的とは言えないので選択肢になりにくい。
仮に片手で扱うとするならば、主に警察や軍隊といった「実用」に人気があるナイフ術である。そしてエリカは当初、これを蘭が望んでいるであろうと予想していた。何せ蘭の戦闘スタイルは、移動・加速系を活かした高速機動だ。ここに蘭の体術と豊富な攻撃手段を併用し、相手を一方的に叩きのめす。つまり蘭の複雑かつ高速な移動を邪魔せず体術攻撃の威力を上げられる短いナイフは、彼女にぴったりの武器だ。同じ二刀流でも、ナイフ両手持ちならばまだ現実的である。
しかし蘭は、あくまでも、日本刀での二刀流を望んでいた。
「さすがにそれは
荒れている世界情勢の中で進化した千葉家の剣術は「実戦」を想定している。言ってしまえば「殺しの技術」であり、「自分が生き残るための技術」である。実用性のなさそうなものはどうしてもそぎ落とされてきた。
とはいえそれでは『剣の魔法師』の名が廃る。二刀流はある意味ではメジャーと言えばメジャーであり、「全くできません」というわけにはいかず、ちゃんとそのあたりの修行もしている。エリカだって――そうなることは万に一つもあり得ないが――やろうと思えば、実際の戦場で、二刀流で戦い抜くこともできる程度には修練を積んできた自覚がある。なにせ結局は「刀剣」だ。扱えないわけがないのだ。
「期限はいつ頃だったかしら?」
「10月の末までには」
やはり論文コンペだ。エリカは自然と口元を強く引き結ぶ。
司波・黒羽の同級生・後輩と一年以上関わってきたから分かる。論文コンペを巡って「何か」が起こると情報を掴み、これはその準備、というわけだ。余計に二刀流の意味が分からないが、こんな見えなさすぎるバックボーンを持つ蘭のことだ、考えがあるに違いない。
まったく、なんてスクールライフだ。
論文コンペに参加しないつもりはない。また今年も何かしらの波乱に巻き込まれるのだろう。
「よし、じゃあやるわよ! ここではアタシのことを師匠と呼びなさい」
「はい、ししょう!」
そんな戦いの予感に湧き上がる熱を、エリカはこの弟子にぶつけることにした。
☆
「そういえばこの前試しに蘭と実戦形式の刀稽古したんだけどさー」
は? 何それ、滅茶苦茶見たい。
達也が論文コンペメンバーのヘルプを頼まれた翌日。最愛の妹さえ絡まなければいつも冷静――何せ四葉に感情を奪われている――な達也の内心は、珍しく妹に関わりないところで当社比大きく動いていた。
「どういうことだ?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「ああ、そういやそうかもな」
「言われてみれば……」
一科生の授業が長引いたので二科・魔法工学科メンバーだけで囲む昼食の席。ふとしたなんてことない話のつもりが、達也が強く食いついた。ここで初めて、エリカとレオと美月は、目を丸くして三人で頷き合う。
「なんだ、俺だけ仲間外れか?」
「そんなつもりじゃないわよ。達也君にイジワルしたら深雪が怖いもの」
エリカは冗談めかしているが、レオと美月は割と本気で深雪を怖がっているのはさておき。
「それでさっきの話だけどね。蘭が剣を習いたいって、ちょっと前からウチに弟子入りしてるのよ」
「知らなかったな……」
達也は目を丸くする。蘭の異常行動には――それに動揺しないかはさておき――慣れているつもりだが、これまた随分突飛なことになっているようだ。
「エリカちゃんが美術部に遊びに来た時に、蘭ちゃんがお願いして弟子入りしたんだよ」
「オレは道場で出くわして知った。まあビックリだよなあ」
レオの真の意味での「必殺技」ともいえる『薄羽蜻蛉』は、エリカから仕込まれたものだ。レオもまた千葉家の門下生とも言える立ち位置であり、その腕を磨くべくたまに通っている。そうした中で蘭と道場で遭遇し、このことを知ったのだった。実情はさておき、頭が痛くなるため蘭の事情を意識的にシャットアウトしている達也だけが、これを知らなかった、というわけだ。
「しかももっと驚きよ! なんてったって、二刀流だからね、二刀流!」
「二刀流?」
達也が眉を顰める。妹絡み以外でここまで彼が感情的な姿はそうそう見ない、と三人は思った。蘭の異常性は、達也の鉄面皮をも容易く崩す。
「それ絶対おふざけだろ。最近買ったゲームで双剣でも選んだか? それともフルダイブVRでデスゲームでもするってのか? 巨人の駆逐か? それか野球部にでも移籍するつもりか?」
「達也さん、結構詳しいよね……」
そりゃあ
「それがどうにもマジっぽいのよ。おちゃらけたうつけ者もウチで何人も見てきたから分かるわ。あれは『本気』よ」
「エリカが言うんならそうなんだろうけど……」
達也の動きの少ない心からはなおも疑念の霧が晴れない。あの蘭が、実用性のない二刀流を習っている。絶対ふざけた理由だ。賭け事にしたら1.1倍すら返ってこないどころか、当たっても半額しか返ってこない、そんなレベルの話である。
しかし、こと剣の話ならば、エリカは誰よりも信頼できる。
そうなってくると――話を聞いた第一印象が、急に達也の中で蘇ってきた。
「そうか、蘭が剣術を……」
不本意ながら、脳内に蘭が戦っている様が思い浮かんでくる。まず真っ先に生首饅頭みたいな笑顔を浮かべてこちらに向かってズボンを下ろそうとする幼い蘭の姿が思い出されたのを必死に振り払い、九校戦練習期間に見たモノリス・コード訓練を手伝っていた蘭の戦いを思い出す。
確かにあの戦い方に、近接戦闘における殺傷力を増す刃物が加われば、さらに蘭は強くなるだろう。元々黒羽家として「殺し」にも慣れているから、手に伝わる感触に動揺することもあるまい。一応四葉家としてナイフ術はかなりハイレベルに仕込まれてはいるが、そこに刀という選択肢を加えようというわけだ。二刀流の理由は謎だが。
正直言ってしまえば、とても見たい。
蘭の移動・加速系の腕は世界最高の魔法師と信じて疑わない最愛の妹・深雪を凌ぐ。幼いころからそれに特化して訓練を積んできた蘭のその戦いは、誰にもまねできない、ある種の最高峰だ。
また、達也はエリカのことも「強い魔法師」と認識している。国防軍にも籍を置き、四葉として数多くの優れた魔法師を見てきた達也から見ても、エリカは「最速の魔法師」の一人であり、最強の魔法剣士の一人だ。そして蘭は、エリカと並ぶ、達也の中での「最速の魔法師」である。
直線的な移動と一撃の火力はエリカが。
複雑かつ小回りの利く立体的な戦いは蘭が。
達也から見て、間違いなく「最速」である。
そんな二人の、魔法剣術の実戦形式の稽古など――見たくなるに決まっている。
「そうか、そんなことになってたなんてな。それで、次はいつなんだ?」
達也は何だか浮ついた心を必死で抑えながら、若干前のめりに質問する。
「ここ最近は二日に一回は最低でもやってるわね」
「見学はできるか?」
「達也さん、ちょっと早口じゃない?」
「言ってやるな美月、達也もオトコノコだ」
美月とレオがひそひそ何やら話しているが無視だ。今は蘭の稽古が気になる。
「んー、いくら達也君でもチョッとねえ……達也君一人ならまだしも、それ認めちゃうと、他にも大勢来ちゃって修行の邪魔になるだろうし……」
「だよな……」
自然と浮いていた腰を戻し、達也は引き下がる。やはりだめだったようだ。
「そんな大げさなことやってないわよ。二刀流なんて
そんな達也を慰めるべく、エリカが実情を話す。
「10月の末までになんとかしたいんだってさ」
一か月やそこらで剣術が身につくわけがない。エリカに出来るのは、基本中の基本となる型をいくつか教えるぐらいだ。だが蘭ならば、きっとそれだけで、有効活用して見せるだろう。何せ「型稽古だけで良い」と、蘭は平たい胸を張って言っていた。
「それって……」
まだ浮足立っていた頭がスッと冷え、達也の目が鋭くなる。彼もまた、エリカと同じ結論にたどり着いた。
「シー、ここは食堂よ」
「そうだったな」
エリカは口元に立てた人差し指を当て、悪戯っぽく笑いながら達也を止める。
そんな達也の目には、鋭い光をたたえた、笑っていないエリカの瞳が、印象的に映っていた。
蘭のデッサンや写実画は、入部当初は他の美術部員が描くシュルレアリスムの方が写実的だった。美月の献身的な指導で、小学生レベルぐらいにはなった。
なんと一発ネタなのに前後編になりました(半ギレ)
ご感想、誤字報告等、お気軽にどうぞ(久しぶりなので色々ガバがあったらごめんなさい)