作者は元陸上自衛官です。
主人公、野咲千代の自衛官としての能力は天元突破しています。
お(ふ)じさんと女の子、そしてカレー麺
「冷えるな……」
ボソッと呟いた。
駐車スペース近くに置いてある自販機で、ホット缶コーヒーを購入し、手のひらで挟んでコロコロと転がしながら細やかな暖をとる。
プルタブを開けて一口……
「はぁ……美味い……」
ミルクとシュガーでほんのり甘く、暖かく優しい味が骨身に沁みる。
時刻は17:20……日が傾いていた。
「目的地までは……あと20分か……」
手にしたスマホの地図アプリで目的地までの時間を確かめる。
愛車の所まで戻り、ポケットにしまっていたスマホを取り出すとUSB電源から伸びるコードと接続してホルダーに落ちないように固定した。
愛車に跨がり、グローブを着用し、フルフェイスのヘルメットを被り、少し傾いたバイクを起こす。
そして、メーター下のイグニッションスイッチに鍵を差し込み右に捻ると、液晶のメーターが点灯し、ゲージが一気に振り切るような演出をする。
ギアがニュートラルになってるのを確認してスターターのスイッチを押した。
599ccの水冷4スト並列4気筒DOHCエンジンが始動し、一本出しのセンターアップマフラーから落ち着いたハスキーな排気音とエンジンは静かだが、力強く鼓動する。
「さてと、行くか……」
スタンドをもとの位置に戻し、クラッチを握ってギアを一速に上げた。
2回ほど空吹かしさせてアイドリングを安定させ、アクセルを吹かしながらクラッチを徐々に離していく。
進み出す車体に合わせてクラッチを完全に離した。
エンジンの回転がタイヤに伝わり、ゆっくりと車体を加速させていく。
駐車スペースは一速で進み公道出た。
一速は回転数がすぐに頭打ちになるため、早めに次の二速に上げさらに加速。
また頭打ち近くに来るとシフトチェンジして加速。
三速・四速を行ったり来たりしながら峠道を走る。
澄んだ空気に過ぎ去る景色、やはりとても気持ちが良い。
これから向かう場所と行う事の高揚感が合間って、逸りそうになる気持ちを我慢しながら、相棒のバイクを操る。
峠道の途中にあるトンネルを抜けると目的地が見えてきた。
「凄いな……」
それを見て小声だが思わず歓声を上げる。
茜色の空を反射している湖……汚れも無くて、澄み切っている。
湖の美しさには感動したが、顔を上げて少しだけ残念に思った。
「雲がかかって見えない……」
本来は目の前に、堂々とそびえ立っているだろう日本一の富士山が、今日は雲がかかって見えないのだ。
「まぁ、しかたないか……」
残念だが、天気の事はどうしようもないと言い聞かせて、目的地へと向かっていく。
目指していたのは山梨県にある“本栖湖”……
この湖は富士山が綺麗に見えることで有名らしい。
目的地に到着し、バイクから降りて受け付けで話しを聞く。
目的地はキャンプ場だ。
しかし本来の目的は、キャンプではなくツーリング。
受け付けの人に聞いたら、入場料の500円を払えば湖近くのサイトまで入っても可能だとか……
直ぐに入場料を支払い、説明されたようにバイクで移動する。
サイト入り口付近にあった公衆トイレ脇のベンチに一瞬目がいく。
「自転………車……?」
辺りは少々薄暗く、さらに一瞬だったので良くは分からない。
サイトに下る途中に小柄な女の子とすれ違う。
「中学生か……?」
あまり深いことは考えず、そのままサイトまでバイクを転がした。
本栖湖の湖畔に到着……
タールのように黒く暗い水面が、夜空に浮かぶ青白い月を蜃気楼のように映し出す。
「これで富士山が見えれば、言うことなしなんだろうが………」
まだ感傷に浸る年でもないが、綺麗な景色を見れば誰でも物思いに耽ってしまうだろう。
15分ほど景色を堪能た。
帰路に着こうと準備をし、バイクに跨がってイグニッションキーを回した時だった。
「ぎゃああああああああああああーッ!!!」
湖畔から離れた場所から叫び声が聞こえた。
何ごとかと思い、来た道をバイクで戻る。
辺りはすでに夜の帳が下り、真っ暗、LEDライトだけが明るく前方を照らす。
進行方向を警戒しながらバイクを進めていると、排気音に混じって声が聞こえた。
「待ってよーー!」
すると、先程すれ違った女の子とそれを追いかける別の女の子が、自分の横を通り過ぎて行く。
「ズベぇ…………!」
バイクのミラー越しに追いかける女の子が盛大コケてしまう。
「あ、コケた…………」
バイクを降り、スタンドを立てるとうつ伏せに倒れた女の子に駆け寄った。
「キミ、大丈夫かい……?」
「グスっ……だずげでぇ、ぐだざい………!」
コケた女の子は涙に鼻水ダラダラで助けを乞うてきた。
「逃げていた子も戻ってきた。」
ケガした子を気遣いながら、逃げていた女の子のテントまでやって来た。
キャンプ女子の起こした焚き火に当たりながら、普段から持ち歩いている簡易救急セットでケガした子を治療する。
「さあ、これで大丈夫だ。」
最後に絆創膏を膝にペタっと貼って上げた。
「ありがとうございます。グスっグスっ……」
涙目のゆるふわ系女子がペコリと頭を下げる。
「いえいえ……それで、どうしてこんなことに?」
絶叫を上げた女の子とケガしたゆるふわ系の女の子に、それぞれ理由を聞いてみた。
ゆるふわ系の女の子がしどろもどろに話すことを、絶叫した女の子が簡潔に纏めている。
「それで?自転車で富士山を見に来たんだけど……」
なぜに女の子が一人でここにいるかと言えば、富士山を見に来たのだと言う。
その華奢な体でこのような場所まで来るとは、そういえば絶叫した女の子のテントの近くにも自転車が1台止めてある。
二人とも若いとはいえ何たるバイタリティー。
自分も富士山を出来れば見たかったので、何となく同じようなシンパシーを感じた。
ああ、このゆるふわ女子も雲がかかってて落ち込んだだろうなと彼女の心中を察する。
さて、そうして富士山を見に来たけど……
「疲れて横になったら、そのまま寝過ごしてしまったと……?」
「へぅ………」
ゆるふわ女子が涙を流し、首を縦に振る。
そういうことらしい……
「帰るとしたら、ずっと下り道だし麓まですぐだと思うよ?」
絶叫したキャンプ女子が教える。
「そうだな。自分が伴走してやろう。それなら……」
「むりむりむりぃッ!、ちょーこわいッ!!?」
だろうな……いくら伴走があっても勇気と勢いではどうにもならない。
だが、何時までもここでとはいかないだろう。
自分はバイクだけど、ゆるふわ女子は見たところ自転車以外なにも持っていない。
行動力は凄いが詰めが甘々だ。
「じゃあ、迎えに来て貰ったらどうだろうか?」
ならばと至極真っ当なことを提案してみる。
「あ、その手がありましたね?」
キャンプ女子も頷いた。
「携帯とか持ってないの?」
キャンプ女子がそう聞くと、ハッとした表情でゆるふわ女子は顔を上げる。
「あ、そっか〜!スマホ、スマホ〜最近買ったスマホ、スマホ〜」
変な韻を踏みながら、ゆるふわ女子は、ゴソゴソと自身のポケットを探る。
「スマホ、ス……マホっ!スーーッ!」
そう言って、勢い良く取り出したのは………ただのトランプだった。
「「なんでそうなんだよ…………」」
自分とキャンプ女子は、初対面なのに息のあったツッコミを入れる。
「じゃあ、私の貸して上げるから……おウチの番号は?教えてくれる?」
「………電話番号わかりません!」
「じゃあ、自分の電話番号は?」
「同じく記憶にございません!」
何ということだ。この女の子はどうするつもりだ?
あぁ……キャンプ女子が凄く面倒臭そうな顔をしてる。
『ぐうぅぅぅ~』
ゆるふわ女子から盛大に腹の虫が聞こえた。
「はぁ~お腹すいた………」
そう言って彼女は、元気なく頭を垂れる。
そんなゆるふわ女子を見かねて、キャンプ女子は自身が持ってきたカレー味のカップラーメンを彼女に差し出した。
「カップラーメン……食べる?」
「えッ!くれるのッ!!?」
キャンプ女子の突然の申し出にゆるふわ女子は、ぱぁっと明るくなった。
「だけど1500円だよ。」
キャンプ女子は真面目な顔で驚くことを平然と伝える。
「おお、鬼畜だなッ!!?」
思考が追いつかん。
「……………じゅっ、じゅうごかいばらいで………おねがいしま、su…………」
「なんてね……嘘だよ。」
キャンプ女子の迫真の演技……
危うく騙されるところだった。
「カップ麺、恵んでくれるのはありがたいけど……」
ゆるふわ女子は申し訳なさそうに自分の方を見た。
「あの、カップ麺って三人分ある?」
「ごめん、今日は二つしかもってきてない……」
キャンプ女子も申し訳なさそうに謝る。
謝るも何も彼女は何も悪くない。
突然のことでもゆるふわ女子に付き合って、さらにカップ麺までも恵んで上げた。
うん、心優しい娘だ。
「あ、自分は途中で食べたから大丈夫だよ。」
実際には、昼に軽く昼食を取ってからまだ缶コーヒーしか飲んでいない。
でも、自分なんかよりこの娘のほうがよっぽど不安だろう……ここはご飯でも食べて一息ついたほうがいい。
それに忍耐力なら昔鍛えた……
「そうですか……じゃあ、ありがたくいただきます!」
キャンプ女子がSOTOのシングルバーナーでお湯を沸かし始めた。
ほぉ……この娘なかなかに良い道具使ってるな……
感心する。
「ねえねえ?不思議に思ったけど……あっちの焚き火では沸かさないの?」
ゆるふわ女子がキャンプ女子に聞いた。
「焚き火だと温度低くて時間かかるんだよ。それにススで真っ黒になるからね……」
「スゴーい!なんだかプロみたいだね!」
確かに今のやり取りを考えると彼女はいかにも場慣れしていると感じだった。
昔からこうして一人でキャンプをしているのだろう。
そうこうしていると、コッヘルで沸かしていた水がブクブクと沸騰し始め、キャンプ女子がカップ麺の蓋を開けて中にお湯を注いだ。
あとは3分待つだけだ。
焚き火を囲い談笑をするおじさん?と女の子二人。
以外と盛り上がるんだな……
焚き火から上がる炎に煙の匂いに紛れて、カレーのいい匂いが鼻をくすぐった。
そろそろ3分たったか。
「じゃあ、二人とも俺はあっちに行っとくから……」
「あ、はい。」
焚き火から離れ一人湖岸に向かった。
あの二人なら仲良くやれるだろう。
自分はお役ごめんだ。
美味しい、美味しいという声をバックに一人富士山を眺める。
今日は一人の予定だった。
こうして一人でいるほうが似合っている。
一端の大人だが、厨二ムーブをかましてみた。
「やっぱり曇って、全然見えないな。」
ちょうど山の頂上付近を覆うように雲が被っていて肝心の富士山は下半分しか見えない。
「今度ツーリングするときは、思い切って5合目まで走ってみようか……」
そんなことを考えていると……
「うーん、やっぱり曇ってて見えないですね?富士山…………」
「おっと……!」
いつの間にか俺の横にいたゆるふわ女子に驚く。
「あれ?どうしたんだい?も、もう食べ終わったかい?」
「あ、いえ……これを……!」
その声と一緒に差し出されたのは、半分ほどになったカップ麺だった。
たまたまあったのか、割り箸も添えてある。
「これは……?」
「やっぱり、おじさんだけ仲間外れはイヤだから……」
お、おじさん………まだ34なのに。
まだ若いと思っていただけに、ちょっとショック……
「どうかしました?」
「いや、何でもない。」
「そうですか……あ、ちゃんとお箸つける前に分けたから大丈夫ですよ。だから一緒に食べましょう!」
そう言って、ゆるふわ女子は俺の手を引っ張っる。
カレーラーメンの入ったカップを落とさないようにと持ちながら、前を歩く彼女の背中を見る。
そのあと、ワイワイと3人で食べたカレー麺は今まで食べたラーメンの中でも文句なしに一番美味しかった。
その後、俺は二人に自己紹介することになる。
「自分は野咲千代……」
「野咲千代さん……なんか女の子みたい……」
「あ、そこはツッコまないでくれ……母親の趣味なんだ。」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「大丈夫だ。気にしないでくれ……」
「私は各務原なでしこです!」
「私は志摩りん………」
「それで、なでしこはどこからきたの?」
三人でカップ麺を平らげひと息つく。
日が沈み切った本栖湖はさらに寒さを増してきたが、志摩さんが気を利かして焚き火の勢いを強くしてくれたので特に問題はなかった。
焚き火ってこんなに暖かいんだな。
こんな気持ちになった久しぶりだ。
「ここからずっと下にある南部町って所だよ〜♪」
各務原さんが答える。
南部町……
奇しくも俺が住んでるアパートも南部町にある。
「あ、奇遇だね。自分も南部町なんだよ。つい最近に越してきたんだ。」
「そうなのッ!!?やったー!一緒ですね!私も静岡の浜松から来たんです。」
これでいつでも遊びに行けると俺の手を取ってまるで自分のことのように喜ぶ。
え、もうそこまで考えてるのか?
おじさんのアパートだぞ?……って違う!
そうじゃない!俺は決心して先ほどと同じことを各務原さんに聞いてみた。
「各務原さん、今一度聴くけど……親御さんたちも心配しているし、いっしょに帰ろう。」
「でも……!」
彼女が自転車で帰れない最大の理由は何か。
それは暗すぎることだ。
だが、俺のバイクの燈火類は全てLED……
ハロゲンの昔バイクより、かなり明るいのだ。
急なカーブに突然横切る動物、峠道は見通しのよさが安全に直結する。
逆に言えば、見通しさえよければ交通量の少ない峠はそこまで危なくないのだ。
「自分が責任を持って麓まで伴走するから、自転車で帰らないかい?」
だから、その問題さえ解決してしまえばあとは走るだけだ。
そして、その問題の解決手段は駐車場で主の俺を待っている。
「うぅ~ん………でも………ッ!」
各務原さんが後ろを振り返る。
そこにあるのは一面の闇……
まぁ、人が着いていたとしても怖いものは怖いか。
「大丈夫だよ。自分が着いてるから。きちんとゆっくり行くし、バイクのヘッドライトなら全然暗くないから……」
連絡手段がない以上、これ以上の最善策はない。
いずれにしろいつかは帰らないといけないのだから、もうこうするしかない。
「わたしもそれがいいと思う。野咲さん、お願いしてもらっても良いでしょうか。」
「もちろんだ。約束する……」
「り、りんちゃんまで……そ、そうだよね?行くしかないよね?トホホ……」
ちょっとかわいそうだけど、こればっかりは本当にしかたがない。
各務原さんには悪いけど、今回だけは勇気を奮って貰うしかない。
「富士山は曇ってて見えないし、寝過ごして真っ暗になっちゃうし、もう災難だよぉ……」
各務原さんは自身の不運に嘆くが、彼女の背中に優しい光が差した。
周囲に木々や草花が銀色に輝きだす。
「……なでしこ?ほら後ろ。」
「うん?」
志摩さんが俺たちの後ろを指さす。
それに従い振り返ると……
「おお……」
「キレイ………」
そこには月に彩られ銀色に輝く富士山があった。
澄んだ冬の星々、粉砂糖のような雪化粧、その横で輝く銀色の月……全てが完璧で全てが美しい。
各務原さん共々、思わず息を呑む。
その時だった。
「ぬわぁ!」
各務原さんが変な声をあげる。
そして一時間程後……
「このおバカぁぁッ!」
「グヘッ!!?」
やって来たのは彼女の姉らしい女性。
どうやら彼女は、家の電話番号と自分の番号は覚えていなかったが、姉の電話番号は知ってたようで、その姉が乗ってきた車から降りてくるなり、各務原さん(妹)の頭に怒涛のゲンコツをお見舞いしていた。
「……私のバカ妹が、ほんっとーーーに!お世話になりましたっ!」
「あ、いや……」
「別に大した事は……」
「アンタねぇッ!持ち歩かなきゃ携帯電話とは言わないのよッ!!?」
「あぅ~!ごべんなざいぃーーッ!」
「おらぁッ!さっさと乗れブタ野郎!!」
「いででで!蹴らないで~!やめれ~!せっかくのカレー麺と幸せが口から出るぅーッ!」
志摩さんと並んで何だか凄い光景を見ている気持ちになる。
何はともあれ無事に迎えが来て本当によかった。
バイクの先導だって絶対に安全というわけでもないし、車で帰れるのなら車を使うにこしたことはない。
「あの、これお詫びです。二人でわけてください。」
「あ、はい」
「どうも……」
ボクと志摩さんにそれぞれビニール袋を手渡す。中を見るとキウイが山のように入っていた。
さっきから聞こえるアグレッシブな罵声をBGMにキウイを持ち帰る算段を立てる。
良し!これならギリギリ持って帰れそうだ。
「あの?野咲さんで良かったかしら?」
そんなことを考えていと、各務原さん(妹)を車に積み終えた彼女のお姉さんが自分に話しかけてきた。
「え?ええ……」
いや〜良く見るとすごい美人な方だ。
スラっとした体型に長い黒髪、黒縁の眼鏡がよく似合っている。
「あの……今、バカ妹が話してくれたんですが、アナタも南部町に住んでいるんですか?もしかして、今から帰るところですか?」
「ええ。あのバイクで帰ります。」
俺はそう言って、お姉さんの車の隣に停めているバイクを指さした。
そんな俺の言葉にお姉さんの表情が、申し訳なく少しだけ曇る。
「バカ妹のせいで……なんと言っていいのやら。」
「大丈夫ですよ。夜のツーリングも乙なモノです。」
笑顔で答える。
「この道、街灯もほとんどなくて真っ暗だし、良かったら私の車と一緒に帰りませんか?」
「野咲さん、私もそれがいいと思います。野咲さんは慣れてるみたいに言いますけど、やっぱり危ないと思います。」
志摩さんも心配していた。
「うんうん!一緒に帰りましょ〜!」
志摩さんといつの間にか車外に出てた各務原さん(妹)にまで一緒に帰ることを勧められてしまった。
先に行くまで待つ理由もないし、ここは素直に好意に甘えせてもらおう。
「わかりました。よろしくお願いします。」
「やった〜!じゃあ家まで一緒ですね〜!」
「だから、アンタはなんで車から出てんのよ!とっとと乗りなさい!いい加減に帰るわよ!」
「あー!お姉ちゃん待ってぇぇー!引っ張らないでぇぇー!」
お姉さんの制止を振り切った各務原さん(妹)が何か紙切れのような物をバイクに乗ろうとしている俺と志摩さんに手渡した。
「はい、コレわたしの電話番号!さっき電話したときにお姉ちゃんに聞いたんだ!」
「あ、うん……」
あ然とする志摩さん。
俺にまで……?
「リンちゃん!カレー麺ありがとー!野咲さん送ってくれるって言ってありがと!今度はちゃんと三人でキャンプやろうね!」
最初のころの泣きじゃくっていた姿はどこへやら、すっかり元気を取り戻し、手を振りながら車に戻っていく各務原さん(妹)。
なぜかは分からないが、自然と三人でキャンプやる流れになっていたけど………
車のエンジンがブルンと音を立ててかかる。
さてと俺も続くか……
ヘルメットを被り、グローブを付け、イグニッションキーを右に撚る。
スタータースイッチを押すと、エンジンが始動して軽快に排気音が吹け上がった。
「じゃあ、志摩さん、俺もこれで帰ります。さっきはカレー麺ありがとうございました。」
「い、いえ……こっちも一人だったらパニックになってたかもしれないし、助かりました。」
バイクのギアを一速に入れ、排気音を吹かせてエンジンの回転数を合わせる。
「ごめんなさーい?もう出発しても、大丈夫かしらー?」
運転席の窓から顔を出したお姉さんに手を振って応えた。
SUVのウィンカーが発進の合図を示し車体がゆっくりと進み出す。
それに合わせて、俺もスロットルを回す。
リーンアウトで限界まで車体を倒し最小限の旋回半径でUターンをして、彼女が運転する車を追いかけた。
ミラーには、手を振る志摩さん。
彼女に向かって俺も左手を上げて応えた。
これで一件落着か……本当に疲れた。
お姉さんのSUVに先導され約1時間……
ついに南部町までたどり着いた。
そろそろのアパート付近の交差点にたどり着く。
赤信号で止まったSUVに横付けすると、運転席の窓が開き、お姉さんが顔を出した。
「あの……自分、こっち右折なんで、ここまでありがとうございました。」
「じゃあ、ここでお別れですね。車にはお気をつけて。」
「おやすみー!野咲さん!また三人でキャンプしよーねー!」
二人に手を振って答える。
青になる信号……バイク特有のシグナルダッシュでSUVより先に前進する。
今日は本当にいろいろなことがあった。
ムダにコミュ力の高い変わった女の子、プロキャンパーの娘……二人とも中学生か?
夜の富士山、そしてカレー麺。
バックミラーをチラ見。
死角に入った車はもう見えなくなっていたけれど、きっとあの娘はこっちを見ているんだろうなと、根拠もなくそんな確信を抱いた。
早く家に帰ろう。
腹も減った……やはりカレー麺半分だけじゃ足りない。
次回に続く。
主人公の使う車両などは、作者の私が実際に乗っています。
キャンプの経験ないですが、サバイバルは前職で日常茶飯事でした。(作者談)