年も明けて一週間が経ちました。
私は野咲たきな…… 年末年始の休暇も終えて、各々の業務が始まったでしょう。
正月ボケしていた人も本調子を取り戻しつつある今日このごろ。玄関口に正月飾りを設けられて年始らしい装いを得た高下の青少年自然センター。
そこに私を含めた四人の勇猛たる戦士が舞い降りました!
「行くぞー! 年明け一発目! 平日戦隊ッ!」
「「「作業着レンジャー!」」」
私と共に作業する千明さん、なでしこさん、恵那さんが決めポーズを取っています。
「あの…… 毎回、それ、するんですか?」
私は引き気味に聞いてみます。
「アキちゃん!たきなちゃんが、また作業着レンジャーのポーズをやってません!」
「何をー!」
「恥ずかしいからやりませんよ。」
断固、拒否です。
「ダメだよ。私たちは仲間なんだから!」
何度目だろうか、レンジャーポーズの強要を三人に迫られました。
「うーー 平日戦隊、さ、作業着…… レンジャー!」
恥ずかしいー! 私、お嫁にいけない。
「オッケー!っと、 写真にも撮ったし、みんなに送信しとくねぇー♪」
「ちょ!なでしこさん!」
「送信っと!」
私の恥ずかしい写真をどこに送ったのか、問い詰めます。
「えっと…… 野クルのメンバーでしょ? 千代さんにお姉ちゃん、あと千束ちゃん!」
「千束まで…… ああ…… 私、終わったかも……」
「まあまあ、そんなに暗黒面に堕ちなくても良いじゃない。 切り換えていこう!」
「はい…… 」
恵那さんに嗜められました。
「それじゃ、今日も一日、安全第一で頑張っていきましょう!」
「「「おーー!」」」「お、おー」
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早々と重機を投入していた為、三段あるうちの二段目までは終わっています。
第5施設群への返却は今月末です。
それまでに三段目まで整地して、樹木粉砕機で細かくして防草材として再度撒いてしまう。
サイトや各種コンセプトを成すための整地に移るにはまだまだ作業が残っているので、気合いを入れねばなりません。
集中して作業してお昼休憩……
「そういえばオープンっていつになったの?」
なでしこさんが千明さんに聞いていました。
「おぉ! 良い質問だな! なでしこ隊員! オープンは今年の七月だ!」
彼女の素朴な問いに、しれっととんでもない応答を返す千明さん。
瞬間、恵那さんとなでしこさん、そして私の時が止まってしまいました。
………
…………
……………
「「エェーッ!!?」」
「あと半年しか無いですよッ!!?」
驚きました。半年という短期間で仕上げないといけないなんて……
「お、大人の事情ってヤツなんだよ~!これを呑んで何とか企画を通してもらったんだ……」
「あ、アキちゃん……」
千明さんって、リーダーシップはあるけど、変な所で抜けているですね。
我らがリーダーに恵那さんとなでしこさんも半ば呆れていました。
「うーーん!分かった!何とかするよ!」
「と言いますと?」
「たきなちゃん!あのユンボ、私でも使える?」
「あのサイズでしたら、講習を受けて貰えば…… お父さんに許可は取ります。」
「じゃあ、次回までに私、ユンボの講習を受けてくるよ!」
とりあえずその日は、細かい場所を鎌による草刈りと樹木の粉砕作業、そして管理棟の整理をすることにしました。
後にオープンの予定日を皆にメッセージで報告したことによって、今日休んでいるメンバーから再び千明さんがひんしゅくを買ったのは言うまでもないですね……
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そして翌週末…… たきなと変わり高下地区に来たのは彼女のパパである俺だ。
「平日戦隊、作業着レンジャー」
「はい。完璧ですよー」
記念の映像として、今回は斉藤さんにレンジャーポーズを撮影される。
「なんか、たきなの気持ちが分かったかも……」
作業開始と共に高下に響き渡る重機の轟音。
「おー なでしこちゃん、筋が良いじゃないか。」
その身体はOD色の鋼鉄。その足は無限軌道。
そして極めつけは重厚なボディから伸びゆく浪漫たる油圧シリンダーが眩しいアーム。
「おぉー! なでしこちゃんがショベルカーを操っとる!」
3tショベルカーを駆るなでしこちゃんに、この日担当する犬山さんと斉藤さんは感嘆の声を上げる。
まさかまさかの、有言実行であった。
「さぁ! どんどんいくよー!」
それを初心者とは思えないほどのテクニックで操るなでしこちゃん。
器用にレバーを操作し、アームの先端のツメで切り株を引っ掛けて抜きとり、それをバケットに掬い上げて取り除いていく。
「おぉ!なでしこちゃん凄くカッコいいよ!」
「バッチリ講習受けてきたから任せて!」
何とも頼もしいサムズアップに、これ以上なく、なでしこちゃんが男前に見えたような気がした犬山さんと斉藤さん。
まあ、頼もしさの影に彼女の可愛いらしさが、見え隠れはしているんだが……
「よし、こっちもやるぞ!」
大垣さんがエンジン式の草刈り機を始動させた。
彼女が持つ草刈り機は以前柚子の差し入れをしてくれた近所のおじさんから借り受け、彼の元で直接の使用方法を学んだようだ。
手作業では考えられないスピードと効率で草を刈り払っていく。
「こっちも負けてられないか……」
俺も颯爽と掩体壕掘削機に乗り込み、残りの三段目に突入した。
俺の機体は掘る、掴む、伐採の三拍子揃ったスペシャルなアタッチメントを装備している。
「これなら予定どおり、七月のオープンに間に合いそうだ。」
そこからの作業は案の定驚くほどスムーズに進んだ。整地や草刈りを終えたことで、次の工程たる管理棟の改修や階段などの整備へ移ることが出来た。
作業間の休憩も適度に挟みつつ……
スケージュールの管理やアクティビティの検討。水回りの修繕にもあっという間に移り…… まさに快進撃!といった具合だった。
その作業状態をしばらく来れてない志摩さんに動画として送れば……
リン:『私のやる分、残しとけよー』
と、何とも気の抜けた返信が返ってきた。
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その後、月末に重機の返却期限も来て、俺とたきなが立ち会いの元、第5施設群所属の隊員が持って来た時と同様にセミトレーラー等に載せて回収する。
「協力、感謝する。 もろもろの費用は東部方面隊の所から出るから……」
「了解しました。司令。」
俺が輸送隊の隊長とやり取りをしている間、野クルの子たちは、他の隊員と会話を楽しんでいた。
「じゃあ、たきな。しっかりな。」
「任せて下さい。お父さん……」
娘のたきなは凛々しく敬礼し、俺と第5施設群の車輌を見送っていた。
「いやー! たきな隊員たち自衛隊の装備があってホントーに助かったズラ。」
「おかげで7月のオープンに間に合いそうやなー」
私も少しホッとしていたと思いました。
しかし、順調に推移していた工程にも、トラブルは付き物です。
とある土曜日の昼休憩に入る前でした。
今日はなんと千束も来てくれています。
「あ、アキちゃん! みんなー!」
「大変やでぇー!」
恵那さんとアオイさんが、作業中の私たちを大きな声で呼びました。
「んぉ?」
「どしたの? ゴキブリでも出た?」
「いや、それは出てへんし、そもそも出て欲しくもないけど…… 取り敢えず、ちょっと来て!」
何やらただならぬ事態のようで、区画整備をしていた私たちは、恵那さんたちの呼ぶ方…… 管理棟へと足を運びます。
「私たちのお弁当が!」
「ゴミ置き場が!!」
「んなッ!!? なんじゃこりゃぁーーッ!!?」
「こりゃー 派手に荒らされましたなぁー」
そこに広がるのは、各々のお弁当、廃棄物のゴミ袋がことごとく荒らされ、見るも無残な姿へ変わり果てていました。
「近くに住んでる動物かなぁ……?」
恵那さんが不安そうにしています。
「十中八九そうでしょうね。」
「でもよー この辺りの山には、イノシシにサル、シカだって普通にいるぞッ!!?」
「下手すりゃ、クマさんも出るで……」
「対策を立てようにも、荒らした犯人を突き止めないといけないか……」
みんなで頭を捻りました。
「ヨシ!千明ちゃん。お前さんに任せた!」
「いやいや!普通にあぶねーって、千束さんよ!」
「そうだよ!イノシシとかだったら、流石のアキちゃんも危ないんじゃ……」
「いやいや! 恵那さんよ! アタシを見張らせること前提に話しを進めるないでくれー!」
「でも、何もせぇへん訳にもいかへんしなぁ……」
確かに相手の正体が分からぬ以上、下手に見回りをしようものなら、クマなどの危険生物が出てきたら、彼女たちの命の危険すらあります。
かと言って手をこまねいてるわけにもいかず、どうしたものかと悩んでいると……
「あ、居るぞ!適任者が!」
何やら良いアイデアが、千明さんの頭に浮かんだらしいです。
彼女が「適任者を連れてくる!」急ぎ高下地区を後にし、今夜に泊まり込みで襲撃者に備える事となったのです。
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同日深夜、月の明かりもなく、真っ暗なキャンプ場予定地を、何とも気の抜けた駆動音を発しながら突き進む純白の物体があります。
目からは煌々と照らすサーチライト。
その手には、犯人を誘き寄せるためのリンゴ。
その人ならざる者の正体は……
「これがジンジャー君のカメラ映像?」
「うん、そうだよー」
管理棟で恵那さんからの無線コントロールを受けるジンジャー君だった。
色々あって永き眠りについていた彼?が今回の任務の適任者だと言うことで、作戦本部から千明さんが引っ張り出してきたのです。
これならば生身の人間が危険を犯して探索する必要がないので、まさにジンジャー君こそこの任務を任されました。
「ところで、たきなちゃんと千束さんは、何をしとるんですか?」
「万が一のために準備は必要ですからね。」
私はいつ有事になっても対応できるように、自分の車にはいくつか銃火器を載せています。
その内の一つ『ベネリM4 ショットガン』に弾丸を装填しています。
千束には『20式5.56mm 小銃 たきなカスタム』を貸しました。
「それって、本物なん?」
アオイさんが聞いてきました。
「もちろんです。12ゲージ、非殺傷弾……」
「こっちは5.56mm 非殺傷弾だよ。当たっても死ぬことはないけど、死ぬほど痛いのが特徴♪」
千束は特殊な弾をみんなに説明しています。
「これならクマやイノシシなどの危険生物が出てきても大丈夫ですよ。」
装備を整えた私と千束は、ニッと笑いました。
「じゃあ…… 安心やな……」
探索を始めること30分ほど。
少し開けた場所に出たので、ジンジャーくんを停止させ、視点を周囲に向けて異常がないかを調べてています。
すると案の定、目の前の茂みの奥に何かいるのか、ガサガサと揺れ動くじゃないですか。
「あ!何かいるよ!」
恵那さんの操縦で、そちらの方へジンジャーくんを向け、ゆっくりと前進させていきます。
さて何が飛び出すでしょうか?
イノシシ? シカさん? はたまたサル?
もしかして…… クマ?
飛び出してくるであろう、動物に固唾を呑みこんだ恵那さんの操縦で、ゆっくり、ゆっくりと茂みへと近付きます。
『ジャンケンシマショー!』
センサーが反応したのか、そんな緊張感をブチ壊すかのようにジャンケンを始めようとするジンジャーくん。
『ジャン、ケン、ポ……』
その瞬間、茂みから飛び出してきた何かによってジンジャーくんは押し倒され、横倒しにされたその視点には、手に持っていたリンゴがコロコロ転がる虚しい映像が広がります。
「「「「ジンジャーーくーーん!」」」」
思わぬ事態に私と千束はそれぞれの銃火器を持ち、さらに暗視ゴーグルを装着して、脱兎の如く素早さで管理棟を飛び出します。
その後を追うように、懐中電灯片手に飛び出す恵那さんと千明さん。
「二人とも足速すぎだよー!」
「マジでなんなんだッ!!? あの二人!」
「もうー! みんなー! 危ないでー!」
何に襲われたのか分からない現状で飛び出す四人のことを案じながらも、居ても立ってもいられず、同じようにアオイさんも飛び出しました。
とり急ぎ、ジンジャーくん襲撃現場へ向かい、現状を確認します。
ジンジャーくんが横たわるその先。
転がったリンゴ…… それをモグモグと咀嚼する存在がありました。
「た、たぬき……?」
「たぬきだー!」
私と千束の暗視ゴーグル越しに見えたのは、三匹のたぬきでした。
身体の大きいのが一匹と、小さいのが二匹…… 恐らくは親子でしょう。
「めっちゃ、可愛いよ! たきな!」
「触っちゃダメですよ。千束…… 寄生虫を貰ったりしますからね。」
夢中でリンゴを食べていた三匹は、後から来た三人の懐中電灯に驚き、いそいそと茂みへと姿を消してしまいました。
「「「ハァァァ……!」」」
どんな猛獣が出てくるのかとヒヤヒヤしていた三人でしたが、よもやたぬきという現実に拍子抜けしています。
「なんだ、タヌキかよ……」
「でも、イノシシとかクマやのぅて、ホンマに良かったわぁ……」
「うん…… これはゴミや食料の徹底した管理をしてもらうための注意書きをしなきゃ、だね~」
「どちらにせよ、猛獣じゃなくて良かったよ……」
「ですね……」
『ボクノマケデーース!』
肩の力が抜けて座り込む三人をよそに、ジンジャーくんの負け宣言が虚しく響き渡ったとある土曜の夜でありました。
「でも、たきなちゃんと千束さん、その格好はマジでおっかねぇよ!」
次回に続く。
ジンジャーくんと千束が再登場です。
予定よりも早いペースで整地作業は終了しました。
ご感想お待ちしています。
しまりんに普通自動二輪の免許を取らせたい。
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賛成。
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反対。