買い出しに行っていたなでしこさんたちが、キャンプ場へと帰ってきました。
「ただいまー」
買い出しに行った三人を私たちは出迎えます。
「お帰りなさい。 」
「おー おつかれー!」
「アオイちゃん、何か目星い食材はあった?」
「もちろんやで、恵那ちゃん!なあー?」
「おうよ!」
「凄いのを見つけちゃったんだよねー 」
「「「ふ・ふ・ふ ー♪」」」
不敵な笑みを浮かべながら、三人はクーラーボックスの中からパック詰めされた商品を取り出しました。しかも、かなりの大きさです!
「これは……!」
「サーモンか!」
「ただのサーモンじゃないよ、リンちゃん! "キング"サーモンなんだよー!」
「キング…… サーモン……!」
「しかも、まるごと一匹買って来たからなー♪」
「サーモン祭りだぜぇ!」
「サーモン祭りだって! チクワぁー!」
「わふぅ。」
私たちは大興奮です。
そういえば、私は出発前にお父さんからとある物を預かっていたのを思い出しました。
「あのー 私、お父さんからみんなのために差し入れを預かっていたんですよ。」
「差し入れッ!!? 何かな? ワクワク♪」
「落ち着けぇー なでしこー」
私は持参した荷物の中から保冷バックを取り出します。結構かさ張っていたので、持って来るのに少々苦労しました。
「これです。 」
保冷バックの中に入っていたのは、真空パックにされたエビのようなモノでした。
茹でられているためか、きれいな赤色です。
「エビ……か?」
「エビじゃない?」
「でも、ハサミがあるで?」
「アレじゃない? ロブスター!」
みんな、それぞれ思った感想を口に出しています。
「でも、ちょっと小さくない? 私のイメージだとまだ大きいヤツだと思ってたんだけど……」
「もしかして、ザリガニじゃー なかろうか?」
「「「「「まっさかー!」」」」」
千束のザリガニ発言にみんなが否定します。でも、私、分かってしまいました。コイツの正体が…… っていうか、この間、妹たちがお父さんと一緒に食べてたのを見た覚えが……
「千束、ザリガニで合ってます。 コイツ、外来種の"ウチダザリガニ"ですよ。」
「ウチダ…… ザリガニ……」
「ザリガニって、何てモノを差し入れしてくれてんのッ!!? 千代さん!」
「でも、千代さんならやりかねないぞ……」
「どういうことですか?」
私、お父さんのやったことに興味が出てきました。
「高校の時にみんなでお花見キャンプをしたことあってなぁー? その時に千代さんが色んなお肉を私たちに振る舞ってくれたんや……」
「あー なんか、昔のトラウマが甦ってきたぞ……」
「ちょっと、皆さんはお父さんから、どんなお肉を食べさせられたんですか?」
「私と妹のあかりは、カエルやったなー」
「私はガラガラヘビ……」
「私はニシキヘビだったよ…… うぅー 味は良かっただけに、なんか悔しいんだよね!」
「私と顧問の先生、それにアキちゃんは………」
「確かヌートリアだったけ?」
「そうそう! ヌートリア!」
「ヌートリア?」
「水棲のげっ歯類…… つまりネズミの仲間ってことですね。千束……」
私はスマホで検索したヌートリアのことを千束に教えてあげました。
「千代さん、マジでくさなんだけどww」
千束は思わず大爆笑。
「今回は千束も一緒に食べますよ。死なば諸とも精神です!」
「何なのッ!!? その怖い精神。 わたしゃ、持ってないよッ!」
「恵那も言ってたけど、美味いだけに、こう…… なんだ? もの凄く悔しくなって来るんだよな。」
「でしょー?」
「そうか! この間、ウチのキッチンでお父さんがしていたのはこれだったのか…… 」
「これ食べても大丈夫なの?」
「ウチダザリガニ…… あ、コイツ、肺吸虫って寄生虫がおるで!」
「何ぃーっ!!?」
「ホントーに大丈夫なのか?」
「あ!待ってください。お父さんのメモがあります。えっと、何々……? 『ちゃんと加熱はしてあるから大丈夫だよ』ってメモには書いてあります。お父さんが大丈夫って言ってるし平気ですよ。うん、絶対……!」
「たきなが千代さんへよせる厚すぎる信頼、私、好きだわ~♪」
「何言ってんですか、千束…… さあ、皆さん暗くなる前に夕食を作りましょう!」
『お、おー』と歯切れの悪い気合いと共に調理が始まります。
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はい!と言うことで、出来ました! 本日のキャンプ飯です!
豪華なサーモン料理と、大皿に綺麗に盛り付けられたウチダザリガニ (ボイル) 。
「なんか、凄い絵面ズラ……」
「迫力だけなら、サーモンに負けてないよね。アキちゃん……」
「リン…… エビだと思えば食べれそうだよね。このザリガニ。」
「斉藤…… もう、ザリガニって言ってるじゃん。」
「にゃははは…… 恵那ちゃんも面白いこと言うじゃん。」
「 でも、千代さんのご好意は無下にはできへん!
さあ!みんな、気合いをいれるんや!」
「皆さん?手を合わせて…… いただきます。」
「「「「「「いただきます。」」」」」」
まずはお父さんが差し入れてくれた、ボイルされたウチダザリガニへと手を付けます。
ちょっと手間ですが、頭と体を分け、エビの殻を剥くように処理します。
「剥くと随分、小さくなったな……」
ごもっともなことを言う、リンさん…… 私たちは、剥いたザリガニの身を恐る恐る口へと運びました。
はむ…… 「う~ん…… あ、普通に美味い。 ビールにも合うぜよ。」
「ホンマや。 泥臭いかもって覚悟しとったけど、全然臭くないし…… プリっとして、エビみたいな食感や。」
「でも、味はカニに近い感じ?」
「あー なんか、頭がバグる……」
「お父さん、意外と料理上手なんですね……」
「あの時も材料がアレなだけで、千代さんって、基本的に料理上手なんだねぃ。」
「でも、頭にザリガニという現実がチラつくんだよなー」
「リン、それを言っちゃダメだよー」
「リンちゃんの言うとおり、カニとエビの中間みたいな味わいで美味しい……! なのに、ザリガニってだけに、妙に腹が立ってくるんだけどッ!」
星の煌めく夜空のムコウに、優しい笑顔で『アハハハ』と、手を振るお父さんが見えました。
「千束ちゃんも私たちの気持ちが分かって貰えて嬉しい♪ ね?チクワ♪」
「わん。」
「そこは分からなくて良かった……」
ウチダザリガニは、ビックリするくらいに美味しいと認識したところで、メインディッシュのサーモン料理です。奮発してまるごと一匹買って来たので、凄まじい量でした。
カルパッチョ風サラダに焼きハラス、石狩鍋まであります。
「うまー!」
「焼きハラスには、日本酒だ! キタコレ!」
私も含めて、みんな大絶讚です。
恵那さんのチクワも専用に用意された料理に大満足してます。
千明さんもかなり酔いが回っているようで、上機嫌になっていました。
みんなでザリガニと、豪華なサーモン料理を堪能し、自分達で作ったキャンプ場…… しかも貸し切りで贅沢を味わい尽くします。
満腹の余韻に浸る間もなく、二代目グビ姉と変身した千明さんは、湯呑に残った日本酒を一気に飲み干しました。
「よぉ~し! 折角のテストキャンプだ! 今夜は飲み明かすぞぉ~!」
「いやいや、それは流石にやりすぎやて……」
「やっぱり厄介な酔い方をするようになったよな? 千明のやつ……」
「全くです。」
アオイさんの制止やリンさんのボヤキもどこ吹く風で、持ってきた日本酒…… ラベルには『池池』と書いてあります。
それをドポドポと注いでいく二代目グビ姉を襲名した大垣千明さん。
「まあ、飲み明かすかどうかは置いといて、みんなもいっぱいだけでもやろないか? みんなで作ったキャンプ場を祝して…… さ?」
「まだ出来てへんけどな。」
「まぁ~ 少しだけなら良いんじゃない?」
「だな。たまには、千明に付き合ってやるのも一興か…… 日本酒は初めてだけど。」
「私もだよ、リンちゃん。たまに同僚たちと飲みに行った時に酎ハイを飲むくらいだからねぇ……」
「へぇー なでしこちゃんもお酒を飲むようになったんだねぇー♪」
「私は申し訳ないけど、遠慮しときます。有事の際は出動しないといけないので……」
「そうなのか? なんか残念だな。」
「仕方ないで、アキ。」
「飲めないたきなの代わりに、お姉さんである私が飲んでやるってモンよ!」
「おー! さすが、千束せんぱいズラ~!」
私以外の五人は、なんだかんだ言いながらも千明さんの酒に付き合う事になりました。
池池の注がれたカップを手に持ち、みんなが突き合うように掲げます。なお私だけはウーロン茶です。
焚き火に照らされた日本酒…… その水面がゆらりと揺れ動きます。
「じゃ! 永遠の不滅の野クルにカンパイ!」
「え? そこはキャンプ場に…… では、ないんですかッ!!?」
「アキちゃんらしいねぇぃ♪」
「ホントやね~」
「しかも私と斉藤は野クルじゃないし……」
「まあまあ…… 私たちもみんなとたくさん思い出作ったじゃん。実質、それは野クルだよ。」
「うーむ。 もうそれで良いッか……」
「カンパーイ!」
元部長である千明さんの謎の方向転換に思わず、私やリンさんのツッコミを入れますが、まぁいつものことだと言うことで、みんなはカップに入れられたその日本酒を一口含みました。
「おお…… 口に広がる純米のお酒ならではの辛味と旨味のバランスが良いな。」
「その中にまろやかさがあって、けっこう飲み安いよね。」
「そして鼻を抜ける香りが何とも心地エエなぁ。」
「池池、初めて飲んだけど…… こんな感じだったんだね?」
「割と飲みやすいし、ミズキにプレゼントしたら、喜びそうだよ。たきな……♪」
「フフ♪ それは良かったです。」
「お前らも気に入ってくれて嬉しい限りぜよ!あ、池池は通販も取り扱っとるで、いつでも注文してくれても良いでな!」
「何だよそれ」
「懐かしいなぁ~飯田さんのモノマネやんか。それ……」
「お!流石イヌコ、良く分かったな〜」
「飯田さんか〜 懐かしいね〜」
野クルのみんなが話すには、伊豆半島の伊東市で酒店を娘と二人で切り盛りしている飯田さん。
千明さん、アオイさん、恵那さん…… そしてここにいないですが、顧問の先生と当時は野クルの相談役でもあった私のお父さんも山中湖キャンプの際には、とてもお世話になったそうです。
「そういや通販ばっかであんまり会えてねぇな……元気にされてるのかな……」
「あー それなら、この前、キャンプ場の取材で伊豆半島に行った時の帰りに寄ってきたぞ。二人共元気だった…… もちろん看板犬のチョコちゃんもな。まぁ、前ほどじゃないけど……」
「チョコちゃん!」
「チョコちゃんって犬が、そこの酒屋さんにいるんですか?」
「そうなんだよ。チョコはチョコでも、お猪口のチョコ♪ コーギー犬で、チクワと同じで老犬になってるんじゃないかな?」
「へぇー 会いに行ってみたいなー♪」
もはやチョコちゃんの虜になっていたことを思い出していた野クルのメンバーは、あの愛くるしい姿を思い浮かべて顔が蕩けてきています。酒が入っているというのも多少あるのでしょうが……
「そういえば、恵那さん? 先ほどからチクワが見当たりませんが……?」
「あ、ホントだ。おーい、チクワぁー!」
盛り上がる彼女らを余所に、ややあって近くを散歩していたであろうチクワが飼い主の呼び掛けに戻って来ました。
しかも、口には何か咥えています。
「もう、どこに行ってたのー?」
「くぅ~ん」
「恵那さん? チクワ、何かを咥えていますよ?」
「あ、ホントだぁー」
陶器のような文様が刻まれたその破片…… もしかしたら値打ち物かもしれない。
そんな冗談を言い合っていました。
それがまさか…… チクワが見つけたたった一つの小さな欠片がキャンプ場作りに大きな波紋をもたらすとは、その時はまだ誰も気付かないでいました。
次回に続く。
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キャンプから帰宅したら、 自宅には家族が揃ってました。
「ただいま戻りました。」
「おかえり、たきなちゃん。」
「「「おかえりー おねえちゃん!」」」
「お土産の武田信玄餅ですよー」
「「「わーい!」」」
「あら、ありがと。 お茶でも煎れて来ますね。」
「ああ。 頼むよ、桜さん。」
お母さんが席を立ち、キッチンへと向かいます。
「お父さん。」
「どうだった? お試しキャンプは?」
「スッゴく楽しかったです。」
「そうか…… 良かったな。」
「それとは別に、お父さんの差し入れてくれたザリガニも食べました。」
「うまかったろー? カスミたちにも大好評だったんだぞ?」
「はい。美味しかったです。千束は『美味しいけど、なんか腹立つ』って言ってました。」
「どんな感想? それ……」
「アレでしょ? お父さんの料理、味付けはピカイチだけど材料が二癖くらいあるから、頭の中がパニックになるのよ。」
リビングへと戻ってきたお母さんがそう告げます。
「私も経験あるわよ?」
「何食べされられたんですか? お母さん!」
「えっーと…… 最初はシカとイノシシの合挽き肉で作った煮込みハンバーグだったかしら。」
その後もお母さんからは、キャンプの思い出と共に色んな種類のお肉が出てきます。ミシシッピアカミミガメも食べたことあるそうです。
なんともハード過ぎるって……
お母さんとお父さんのは、キャンプっていうか、ほぼサバイバルでした。
「たきなたちのキャンプ場が出来たら、みんなで行こうな。」
「うん! ぜったい、いくぅ!」
「たのしみー!」
「がんばってね! おねえちゃん!」
「もちろんです!」
「キャンプじゃ、お父さんがヘビとカエルの捌き方を教えてやるからな。」
「「「おぉー!」」」
「楽しみですねー」
ウチのキャンプ、本当に大丈夫なんでしょうか?
サバイバルではないんですよ? レンジャー教育かな?お父さん…… 今から心配です。
お父さん、みんなにウチダザリガニを振る舞いました。
ウチダザリガニは特定外来生物なので、ちゃんと捕まえたその場で締めているので安心してください。
ちなみに野咲家のキャンプは8割方、生存自活訓練です。
ご感想、お待ちしてます。
しまりんに普通自動二輪の免許を取らせたい。
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賛成。
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反対。