お試しキャンプを終えて数日が経った。
娘のたきなは日米合同軍事演習で、国内であっても遠く離れた離島へと行っている。
なでしこちゃんたち野クルのメンバーも普段どおりの日常に戻り、それぞれの業務に勤しんでいた。
「たきな…… しっかりとやっているだろうか。」
俺は俺で色々な書類を纏める傍ら、娘のことを思い外を眺める。午前の課業の終了を知らせる合図が鳴った所で、俺は腹を満たそうと一旦の業務を切り上げることにした。
隊員食堂に向かうために、一度外に出て、俺はふと空を見上げる。
「うーむ…… なんか、ひと雨来そうな空だな……」
見上げた空には、灰色がかった雲がどんよりと青空を隠しており、見る者の気持ちを憂鬱にさせるような嫌な天気だった。
そんな時、俺のスマホが着信を知らせるために鳴動する。
「ん?…… 大垣さんからだ。」
『珍しいこともあるもんだ。』と思いつつも、『今度は何やらかすんだ?』と勘ぐってしまう中、出ない訳にもいかず食堂に向かうがてら、俺は通話ボタンをスワイプした。
珍しい……「どうしたの? 大垣さん……」
『お久しぶりッス。千代さん…… あの、高下のキャンプ場のことでお話しすることがありまして、たきなちゃんに連絡するけど、繋がらなくて……』
「たきなは今、離島でサバイバルしてるよ。」
『サバイバル………ッスか?』
詳しいことは機密保持のために話せない。自衛隊の広報が一般開示するまでは。
「そう、サバイバル。」
『なんか、ストロングスタイルですね。』
声の感じで、電話の向こうでアンニュイな顔の大垣さんが想像できる。
「それで? 話したいことって?」
『あ、そうだった。いや〜 実はキャンプ場の敷地に調査が入ることになりまして……』
申し訳なさそうで…… そしてどこか真剣味を帯びた声色に、茶化す内容ではないと俺は悟った。
「調査? なんの?」
『この間、アタシら、高下のキャンプ場でキャンプしたじゃないですか?』
「娘も楽しかったって、言っていたよ。それが?」
『その時にですね? 恵那の飼ってるチクワもいたんッスけど、そのチクワがなんかの欠片を見つけて…… まあ、一応念の為に上司に報告したら、本物の土器の可能性が出てきたんッスよ。』
「土器? 土器って、あの縄文土器とかの土器?」
『そう、それッス。山梨って結構そこかしこで土器が見付かるんですよ。』
「そうなんだね。知らなかった」
『まあ、調べるって言っても、1~2週間の間らしいですけど……』
「じゃあ、それが終わったら再開できるってことで、良いのかな?」
『そういうことになります。かね………』
いつもの明るい彼女とは違い、なんとも歯切れの悪い感じの返事だ。
『ということは再開するまで、キャンプ場作りはお休みになるんだ。』
『そうッスね。とにかく詳細が分かり次第、すぐに連絡しますから、ちょっとの間だけ待ってください。』
「了解。 たきなにも帰ったら伝えとくよ。」
『よろしくお願いします!』
「大垣さんも、あんまり無理しないようにね?』
『千代さんの優しさが身に沁みます……!』
「ハハハっ…… まあ、今だけの休暇なんだし。何にせよ、みんな休みの日はほとんど高下に詰めっ放しだったんだ、つかの間の休みだと思いなさい。」
『ありがとうございます。』
そんな感じで、俺は大垣さんとの通話を終える。
丁度隊員食堂に辿り着いた所だった。
彼女からの話が無茶ぶりの話ではなかったことに一安心のため息を吐きながら食堂の扉を開ける。
こちらに気づいた隊員が、一斉に敬礼をしてきたので、俺も敬礼で応えて「休め。」というと隊員たちは各々座り昼食を楽しんでいた。
食堂を切り盛りしている係員の明るい声に俺は迎えられる。
「さて、今日のメニューは何かな……」
と今日のメニュー思案し、ウキウキしながら、俺も隊員たち列に並んだ。
とにかく今度の休みは、高下に行くつもりだったが、急遽休みとなり時間が空いた。
『何をしようか?』と俺は計画を練る。
大垣さんから連絡を受けた他のメンバーも同様だろう。まあ、それは彼女たち次第…… 俺がとやかく言うことではない。
だが、そんなちょっとした休暇の楽しみを期待するのとは反対に、空には未だ暗雲が立ち込めていた。
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週末になった。子供たちは学校が休みのために、まだ寝ている。
先に起きていた桜さんと俺は、久しぶりに夫婦水入らずで朝食を摂り、俺はコーヒー、彼女は紅茶と優雅な時間を過ごしていた。
「はぁー 落ち着くわー」
「こうやって、二人でゆっくり過ごすのも久しぶりだからね。」
「そうですねー あの子たちが起きてくるまでの、ほんの少しの時間だけど……ね♪」
「それはそうと…… 桜さん? 最近、紅茶ばっかり嗜んでるようだけど?」
「ああーそのことですか? 私の上司の杉下さんが紅茶が好きで、この間、ご馳走してくれたんですよ。それが美味しくて……」
「あの警部さんか。でも、桜さん? さっきえらい高い位置から注いでたけど、熱くないの? 飛び散った紅茶が、おもいっきり手にかかってたよ?」
「慣れれば熱くありませんし、それにこの淹れ方をすると、不思議と紅茶が美味しく感じるんですよね! 飲んでみます?」
「へ、へぇ~」
彼女の熱弁に俺はちょっと引いてしまった。
時計をふと見ると、もうすぐ8時半になる。
「起きてくるわ。」
桜さんがそう呟くと、二階からドタドタと騒がしい音がした。そして、階段を走るように降りて来て、カスミとアコがヒョッコリとリビングに顔を出す。
「おとうさん、おかあさん、おはよー」
「おはよー」
二人は俺たちに挨拶するなり、ソファーに座り、テレビをつけた。
チャンネルを変えると、女児用のプリティーでキュアキュアなアニメが始まる。
「もう…… ふたりとも、あさからさわがしいぞ。」
「センリ、おはよう。」
「おとうさん、おかあさん。おはよー」
カスミとアコの二人は、アニメに集中し、センリは 桜さんが用意してくれた朝食を食べていた。
「おいしい?」
「うん。おかあさんのつくってくれる、ごはんはいつもおいしいよ♪」
「そう、良かった♪」
「二人もそれ見たら、早く食べなさいよ。」
「「はーい。」」
その時だった。桜さんのスマホが鳴る。
彼女は自身のスマホを手に取り、相手を確認した。
さっきまでの優しい母親だった表情は、瞬く間に険しいモノへと変わる。
「もしもし? 各務原です。」
桜さんが旧姓で電話に出るということは、仕事関係なんだろう。
「はい、はい…… 分かりました。すぐにそちらに向かいます。では、そこに迎えにいきます。」
桜さんは電話を終えた。
「仕事?」
「ええ…… 杉下さんからでした。アナタ?子供たちをお願いしても良いかしら?」
「もちろんだよ。」
「ぼくもついてるからねー」
「なら、安心ね。 センリ~ カッコいいわよ~♪」
桜さんは急いで準備する。
「じゃあ、いってきます。」
「いってらっしゃい。」
「おしごと、がんばってね。」
俺と息子のセンリに見送られて、桜さんは家から出ていった。9時になり、カスミとアコが見ていたアニメも終わる。
「あれー? ママはー?」
「おかあさーん?」
「おしごとにいったよ。 おねえちゃんたちがテレビをみてるあいだにね……」
「そうなんだ。」
「さあ、二人とも早く朝ごはんを食べなさい。 みんなで遊びに行くぞ。」
「「「おおー!」」」
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俺は子供たちを車に乗せて、首都高を走っていた。
「おとうさん、どこにいくの?」
俺のとなりに座るカスミが聴く。
桜さんやたきながいない時、助手席に座るのは決まってカスミだった。
「今は千束お姉さんの所に向かってる。」
「ちさとおねえちゃんって、たきなおねえちゃんのおともだちのひと?」
「そうそう。たきなの親友だ。」
「ちさとおねえさん、ぼくのこと、こどもあつかいするんだよね……」
「おにいちゃん、こどもじゃん。」
「うーん、そうだけどぉ~!」
「あ、もしかして、センリ…… ちさとおねえちゃんのことすきなの?」
「ちがうもん! ぼくは、なでしこおねえちゃんひとすじだもん!」
カスミとアコに茶化され、膨れっ面になるセンリ。
女の子から良く弄られる辺り、俺とセンリの血は争えないんだな。
車を走らせること一時間…… 俺たち一行は喫茶リコリコの近くまでやって来た。
近くの有料駐車場に車を停めて、そこからはみんなで歩いて向かう。
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喫茶リコリコに到着した俺たちは店の扉を開けた。
カラン♪カラン♪とベルの音と共に扉が開き……
「らっしゃーい!」
喫茶店らしからぬ、活気溢れる元気な声で、千束ちゃんが俺たちを出迎えてくれた。
「って、千代さん!……とちびっこたちじゃん!」
「「「こんにちはー」」」
「お、挨拶できてえらいぞー!」
「マスターもご無沙汰してます。」
「珍しいじゃないか。 子連れなんて……」
「妻が仕事で呼び出されて、ちょっと……」
「千代さんの奥さん、警察官だっけ? 事件のたびに呼び出されるって、大変だよねー?」
「仕事だから仕方ないよ。」
俺はマスターの淹れたコーヒーを飲む。
「やっぱり、マスターの淹れてくれるコーヒーは格別だ。」
「そうかい。ありがとう。」
「そういえば、たきなは今日いないの?」
千束ちゃんは子供たちとボードゲームで遊んでくれていた。
「たきなは米軍との合同軍事演習に行ってる。」
「ひぇー 大変だねー!」
「たきなも仕事だからね…… 他に自衛隊の広報誌のモデルとかもやってるから、てんやわんやだよ。」
「何? たきな、モデルしてるの? うけるんですけどー♪」
「たきなおねえちゃん、めっちゃかわいんだよ♪」
「私より?」
「うん。ちさとおねえちゃんにまけてないよー」
「やるなー たきな。」
「生真面目だけど、少し不器用だったたきながそんなことするなんて…… 成長したんだな。久しぶりにたきなの顔もみたいモノだ。」
「次はたきなも連れてきますよ。」
その後、俺は千束ちゃんに高下のキャンプ場の現状を話した。
「チクワもえらいモン見つけたんだね。」
「今、鑑定中だから、しばらくキャンプ場作りはお休みみたいだよ。」
「そうなんだ。 りょーかーい。」
リコリコで小一時間ほど過ごしたあと、俺と子供たちは東京スカイツリーのお膝元にある『すみだ水族館』へとやって来た。
「スカイツリー たけぇー」
子供たちはそびえ立つタワーを見上げて、唖然としている。
「千束ちゃん、お店は良いの?」
なぜか、俺のとなりには千束ちゃんが立っていた。
「ちっちゃいことは気にすんな。それにこれからはフキたちも来るし、大丈夫だよー♪」
「それなら、良いんだけど……」
「よーし、皆の者!突撃じゃー!」
「「「わぁーー!」」」
「走ると危ないぞー!」
俺たちは水族館の中を巡る。大水槽にペンギンなどなど…… チンアナゴのブースでは、千束ちゃんが、くねくねと変な動きをしていた。
「おねえちゃん……? なにしてるの?」
「うーん? チンアナゴの気持ちになってんのー」
「わたしもやるー!」
アコもマネしている。
「わたしは…… さかなー!」
「おぉー? さかなかー チンアナゴー!」
三人で多いに目立っている。
なんか、和むな…… 俺はスマホで動画を撮った。
「センリも一緒にやって来て良いんだぞ?」
「ぼくは、はずかしいから、いい!」
男の子って、こういうところで足踏みするんだよな。センリは三人とは無関係なスタンスをとる。
水族館も大いに楽しんだ。時間を見ると15時を回っていた。そろそろ帰る時間…… 千束ちゃんを喫茶リコリコまで送って、俺と子供たちは帰宅する。
「パパ、たのしかったね!」
「お父さんも、久しぶりにみんなとお出かけできて、楽しかったよ。」
「ぼくもー!」
「わたしもー!」
「ママもかえってきてるかな?」
「うーん、どうだろうねぇ?帰ってきてるかなー」
この日は本当に楽しい時間を過ごせた。
しかし、後日、大垣さんから再度連絡がくる。
チクワの見つけた欠片は、日本最古と言っても過言ではない程の古い土器だった。
もしかしてだが、この発見で日本の歴史が変わるかもしれない。これからは一帯の遺跡発掘が始まる。
キャンプ場の案から、遺跡関連の施設を建設する案になるそうだ。
千束ちゃんには、すでに連絡を終えている。
その時に聞こえた彼女の声は、落胆しているのが充分に伝わった。
そして、未だ演習から帰って来ないたきな。
責任感の強い彼女が、この事を知った時に受けるショックは計り知れないだろう。
俺はたきなの父として、彼女を立ち直させることが使命となる。
「千代、ここからだぞ!」
外はどしゃ降りだが、そんな天気には負けん!と俺は俺自身に気合いを入れた。
次回に続く。
次回、たきなと野クルが困難にぶつかってしまいます。
ご感想、お待ちしております。
しまりんに普通自動二輪の免許を取らせたい。
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反対。