「じゃ、終わり次第すぐに行くから。」
「向こうでまってますね。お父さん……」
「いってらっしゃい、あなた……」
「いってきます。」
俺は桜さんと娘のたきなに、見送られて早朝から自身の勤める駐屯地へと向かう。
今日は来年の自衛隊創立記念の閲覧式に向けての会議があるのだ。
どうしても抜けることが出来ないので、先ずはそちらを済まさないといけない。
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たきなです。お父さんを見送った私はすぐにキャンプ場へ向かう準備を始めます。
今日は私を含めた色んな人たちが、汗水流し協力して作った『松ぼっくりキャンプ場』のグランドオープンの日です。
今日のオープンに際して、私の古巣でもある『喫茶 リコリコ』が出張出店します。
「では、お母さん、いってきます。」
「ええ。気をつけてね? たきなちゃん。」
「あー おねえちゃん、もう いくの?」
「そうよ。アコ…… オープンの準備とかありますから。 キャンプ場で待ってます。」
「うん。きをつけてね~」
私も荷物を載せた相棒のロクダボに股がり、みんなの待つキャンプ場へと出発しました。
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「おかしいなぁー 誰も来ないよ?」
13時を回り、管理棟でお客さんを待っていた私たちでしたが、未だ車の一台も現れません。
そのことに不安そうな声を挙げるなでしこさん。
「なぁ~? ホントに今日くるのか~?」
出張してきた『喫茶 リコリコ』キッチンカーから、看板娘?の一人で凄腕ハッカー、ウォール・ナットことクルミが気だるそうに聴いてきました。
「ほら!見てみなよ。ちゃんとオープンする日は今日って書いてあるじゃん。」
「たしかになぁ……」
千束にパンフレットを見せられて、クルミは納得しています。
なでしこさんもそうですが、どうやら彼女たちの中では、オープン時間になるとバーゲンセールのように予約した人たちが、ドッと押し寄せると想像しているみたいです。
とは言えど、グループが15組とソロが5人なので一気に雪崩込むように押し寄せる…… と言うのは流石に無理があるでしょうね。
「うーん…… キャンセルの連絡は来てないよ?」
「まぁー オープン時間ぴったりには来ぉへんのちゃうかな?」
「だよな〜 気長に待つしかねぇもん。」
喫茶リコリコ 山梨出張店の準備も終わり、のんびりと来場者が来るまで待とうか?と思い始めたその時、管理棟の固定電話が着信を知らせます。
すかさず近くにて待機していた恵那さんが受話器を取り、応対にのりだしました。
「はい、ふじ川松ぼっくりキャンプ場です…… え?場所がわからない?…… 目印ですか?確認してすぐに折り返し電話しますね?」
どうやら道に迷ったお客さんが、どうやったら辿り着けるのか分からずに一報を入れたらしいです。
このあたりは集落特有の入り組んだ道になっているので、案内板がないなら迷う事必至……だがそれには抜かり無いです。
「案内板て、結構用意したよな?」
「ええ、一緒に作りました。」
「うん、私も作ったからねぇー」
「だな…… ペンキまみれになりながら……」
「ねぇねぇ?」
制作した時のことに思いを馳せ始めた私たちを現実に戻すように、恵那さんが倉庫を開けてギョッとしてみんなを呼びました。
何だろう?とみんなが疑問符を浮かべる最中、なんとな〜く嫌な予感が脳裏をよぎり始めます。
「案内板……ってこれの事……?」
震える声で恵那さんが指差す先…… そこには矢印状に切った木を掘って『松ぼっくりキャンプ場』と文字を記した看板が、足場と共にものの見事に転がっていたのです。
「「「「「「「ぬわぁ~~ッ!」」」」」」」
「設置してなきゃ、意味ねぇじゃね〜か!」
「もしかして、お客さんたち迷って来れんのとちゃうッ!!?」
私が居ながら、最後の最後でツメが甘かったです。そんな中、アオイさんのスマホが振動します。
彼女のスマホには『アカリ』と発信者の名前が表示されていました。
彼女の妹さんも迷ってしまったことで、道を訪ねに来たのでしょう。
「アカリか?」
『あ、アオイちゃん。キャンプ場、どこにあるん? 私たち迷ってるんよ。』
「今、どの辺りなん?」
『う~ん、回り見渡す限りの山と田んぼで全然分からん……』
管理棟の固定電話を鳴りっぱなしです。
「と、とにかくなんとかするから、しばらく待っとうてぇなー」
『お願いねー』
困ったことになりました。
このままだとお客さん全員が迷って辿り着けない状況になりかねません。
オープン初日からこれでは今後に影響してしまう。
「リンさん。」
「…… たきなさん、私も同じこと考えてた」
「「二人で迎えに行ってくる!」来ます!」
私とリンさんは、グローブとヘルメットを装着しました。二輪車ならば小回りも効くし、狭い道でも旋回が容易です。
「出来ればリンさん近場のこの周辺。私が遠目の所が良さげですね。」
「そうだね。」
私はキッチンカーでくつろぐクルミを叩き起こし、状況を話し、協力を仰ぎます。
「しかたねぇなぁー」
「クルミ!上手く捌いてナビして下さいね。」
「なでしこ、斉藤。二人は電話で迷ってる人のところにナビで案内して!スマホのブルートゥースを飛ばしてインカムで受け答えするから!」
「うん! 分かったよ! リンちゃん!」
「気をつけてね! リン!」
いざ出発という所で、私たちはアオイさんから、キャンプ場のパンフレットが手渡されました。
地図があるとより案内もしやすいだろうという配慮のようです。
確かに口頭だけよりも、地図を見ながらのほうが説明もわかりやすいですね。
「では、行きましょう! リンさん! キャンプ場初日最初の業務はお客様のご案内です!」
「うむ……!」
互いの相棒に跨がり、その心臓に火を入れます。
股下から伝わる心地よい振動が気持ちを昂ぶらせてくれるのが実感できました。
「出撃です!」
「了解!気を付けてね、安全運転で!」
お互いに健闘を祈る。
「「出発!!」」
アクセルをひねると後輪が勢い良く回転し始め、駐車場の砂利を巻き上げながら私とリンさんのバイクは勢い良く駆け出していきました。
「そーれ!」
私たちの出発に続き、クルミのドローンが発進です。私たちの行動を高い位置から逐次監視して情報提供します。
「どれどれー?」
クルミが精密機械の詰まった特別なバイザーを装着します。
「なあなあ?クルミちゃん?」
「なんだ? 」
「初めて会った時から思っとったけど、クルミちゃんたちって、何者なん?」
「…………教えない。秘密だ。」
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時間は13時も半を差している。
俺は自身のバイクでキャンプ場近くまでやって来ていた。
たきなに相棒のロクダボを譲ってから、桜さんに頭を下げて新しく迎えたのだ。
「やけに車が止まっているな……」
狭い道の端に寄せて車がハザードを出して止まっているのちょくちょく見かける。
声を掛けてみるとキャンプ場を目指す人たちだった。丁度パンフレットを持っていたので、俺はそれを使い、それぞれの車へ説明をする。
迷った人たちをキャンプ場へと導きながら、走っていると前方にもいた。
「あれは…… なでしこちゃんの友達の……」
止まっていたバイクの横に俺も止める。
「土岐綾乃ちゃん?」
「おー 千代さん! 久しぶりー」
「久しぶり。 ところでこんな所でどうしたの?」
彼女から話を聞くと、やはり道に迷ったとのこと…… 確かにここまで来るまで、一度も案内板を見ていない。
「じゃあ、自分が案内するよ。一緒に行こう。」
「助かりますぅー」
二人でキャンプ場を目指す。
他にも止まっている車にも、我に続けと言わんばかりに案内した。
そして、道案内をするたきなと会う。
「お父さん!」
「たきな、道に迷ってた人を連れてきたぞ。」
「ありがとうございます!」
ちょっとしたトラブルもあったが、無事に着くことができた。
俺も家族たちと合流する。ちょうどテントの設置が終わったところだ。
「パパー!」
カスミが俺に駆けてきて抱きつく。
「お待たせ。お義父さん、お義母さん、お久しぶりです。中々顔を見せれずにすみません……」
「何言ってるの、今日は楽しくしましょう。」
「今日のキャンプ飯は私が振る舞ってやるからな! 楽しみしていなさい!」
「ありがとうございます。」
「アナタ、お疲れ様でした。」
「桜さんも。」
俺は子供と一緒にキッズスペースに向かう。
他にもたくさんの子供たちがいた。
「ぼくたちもまぜてーー!」
本当に賑わっている。
遺跡関連の場所も充実しているようだ。
ある程度、遊んだあと俺は初心者向けのコーナーに向かった。
そこではなでしこちゃんが自然にある物を利用して、火起こしのレクチャーを教えていた。
「薪に火を付けるのに、皆さんホームセンターで売られている着火剤が必要と思うでしょう」
「そりゃそうじゃない。じゃなきゃ中々火が……」
「ところがどっこい、意外にも着火剤は現地調達が可能なのです!」
首をかしげる一行を促し、近くの山林へと足を踏み入れていくなでしこちゃん…… 地面に目を向けてキョロキョロとある程度見渡せば、季節柄それはすんなりと見つかった。
「コレが現地調達出来る着火剤です」
「「「「「松ぼっくり……?」」」」」
\コンニチハ!/
「松ぼっくりに着火し、火種にして……」
\アツイ!/
\ギャァァァー!/
松ぼっくりの断末魔が聞こえる。
「ナタで細くした薪や枝から燃やして、火が着いたら太めの薪を焚べて……」
などと焚き火台を用いて説明していると、あっという間に立派な焚き火となった。テキパキとこなすその姿に、初心者の面々は『おぉ……!』と感嘆の息を漏らす。
「と、まあー こんな感じです」
「いやぁ、見事なもんだ!勉強になったよ。」
「これならバーベキューをするときなどにも応用できるな……」
「お役に立てたなら光栄です。何かわからないことがあれば、俺だけでなく、他のスタッフにもお声がけください。みなキャンプ経験豊富ですので。 次はこちらの方に緊急時のサバイバルの方法を聞きましょう。」
おおー いきなりだな。
「こちらの方は現役の陸上自衛官です。」
「「「「「おおー!」」」」」
歓声があがる。俺はレンジャー教育などで習った生存自活の仕方を教えた。
火起こし、泥水のろ過と煮沸、そしてヘビとカエルを捌いてみせる。
みんな、ドン引きしていたが、有事の際のサバイバルでは関係ないのだ。
俺は真面目にレクチャーした。
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日も傾き、キャンプ場に夜の帳が降り始めました。
お客のキャンパーさんも各々、明かりを灯し、夕飯の準備に取り掛かり出します。
薪などの提供もひと通り終えて、一段落のために眺めの良い一番上の段で休憩を取っていました。
「お疲れ様……」
声をかけられ、そちらに視線を向けるとお父さんが立っていました。
「いえ…… お父さんも朝から大変だったでしょ?」
「たきなたちに会いたかったから、頑張ったよ。」
「あ、私、お父さんの生存自活のレクチャー、遠目からでしたけど見てましたよ?」
「どうだった?」
「みんな、唖然としてました。」
二人と見つめ合っていると、互いに笑いが込み上げてきました。
「色々あったけど、良く頑張ったね。」
「ええ。頑張りました。」
私とお父さんは拳を合わせます。
「仲が良さそうじゃないか……」
そこにいたのは、リンさんと老齢な男性。
お父さんは男性の顔を見た瞬間、表情が緊張したモノへと変わりました。
「お、お久しぶりです! 新城一佐!」
お父さんが敬礼をしています。
「お父さん? この方は誰なんですか?」
「たきな、この方はお父さんの上司だ。」
「で、私のおじいちゃん。」
「失礼しました。」
私も急いで敬礼します。
お父さんから以前聞いた、お父さんを育て、戦略部初代部長でもある伝説の自衛官!
なんと、リンさんのおじいさまだったとは……
「直れ。 それに今は貴様の方が階級は上だ。敬礼をしないといけないのは、コチラの方だ。」
新城さんはお父さんに改めて敬礼しています。
「私もやっとこう。」
リンさんも真似して敬礼してますが、ぶっちゃけ可愛いの一言しかありません。
「本当に良いキャンプ場だ……」
「……っ、ありがとう。おじいちゃん。」
「その言葉だけで、作った甲斐があったな? たきな……」
「ええ……」
外観だけではありません。
家族に友人、子供、ペット連れ、ソロ、初心者、そして歴史マニア。全てを網羅した夢のキャンプ場。
色んな楽しみ方を味わう為に遥々やってきた人々が笑顔を浮かべる場所で、リンさんのおじいさまの言う『良いキャンプ場』と言うのは、そういう意味なのでしょう。
「おじいちゃん、ここをキャンプ場しようと始めに言ったのは、たきなさんなんだよ?」
「そうなのか?」
「色々と困難にぶつかったりもしたけど……」
「それも含めて楽しかった。ね?たきなさん。」
「はい。大切な思い出です。」
私が千明さんとリンさんと会ったことになって始まったこの計画……長い年月をかけて整地して、途中でキャンプ場作りが頓挫もました。
ですが、みんなでアイデアを持ち出し、再開も出来ました。
その最中は、仲間達と夢に向かってひたすらに頑張ったことが何よりの思い出です。
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夜も更け、各テントからは食卓を囲む賑やかな声が聞こえる。
「千代さーん!」
なでしこさんたちがコチラにやって来た。
「お父さん、一人で何してたの?」
「みんなが完成させたキャンプ場を眺めてた。」
「ねぇ!みんな!楽しかったよね?キャンプ場作り!」
「うむ。」
「改めて、見るとなんか嬉しくなってくるわぁ……!」
「やって、良かったよな……」
「千代さんや千束さんも、ご協力ありがとうございました。」
「「「「「「ありがとうございました」」」」」」
小学生かな?まあ、良い……
みんなで管理棟前からサイトを見下ろす。
各々のグループ、キャンプをたのしんでいた。
キャンプ場作りの集大成が確かにここにあるのだ。
「ホント、たきなちゃんの言い出しっぺからとんでもね〜ことを成し遂げたよな~!」
「だな、たきなちゃんの言い出しっぺ様々だよ。」
「言い出しっぺは余計です!」
たきなは小動物のように頬を膨らます。
あまりの可愛いさに、千束ちゃんと思わず突っついてしまった。
「千束、止めてくださいって……お父さんまで……ッ////」
「……でもさ、夢、叶ったね!」
なでしこちゃんの一言にみんなが頷く。そして何かをやり遂げたからこそ、次は何をしようか?という思いも芽生えてくるわけで……
「ねぇ!年末ここで年越しキャンプしない!?」
「いいねぇ!年明けのダイヤモンド富士狙っちゃうかッ!!?」
「いいねー」
「次はリンちゃんも一緒だよ。」
「って、言われてるよ?」
「……………ああ、絶対にやろう!」
「次はお父さんも一緒にやりましょう。」
「え?良いのかい?」
「もちろんだよー♪」
「じゃあ、その時は特定外来生物『キョン』のお肉を用意しておくよ。」
「「「「「「「えぇぇ……」」」」」」」
何?その冷ややかな目…… キョン、めっちゃ美味しいのに……
劇場版編、終わり。
エンディングの『ミモザ』何回聴いても泣けます。
しまりんも揃った年越しキャンプ、特定外来生物のキョン肉提供決定です。
ジビエの中でも美味しいらしい。
次はどうしよう?短編書こうかな?
ご意見、ご感想、お待ちしております。
しまりんに普通自動二輪の免許を取らせたい。
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賛成。
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反対。