地下鉄から地上まで上がって来た。
外の安全確保して、街に出る。
「あの…… 何をしているんですか?」
桜さんがマイクに聞いた。
彼は空を見上げ、左手で1 右手で5 を出している。
「大統領の動きは、アメリカの軍事衛星や無人偵察機が絶えず追っている。」
「通信が出来ない今、大統領の無事と次の行き先を伝えるための暗号みたいなモノだよ。向こうにいる人たちが察してくれるんだ。」
「なるほど。勉強になります。」
「さあ、行こう。」
俺たちは隠れ家へと移動した。
移動中、ロンドン市内全体に響き渡る勢いの大音量でサイレン音が鳴る。
「次は何なんですかッ!!?」
桜さんは正直なところ、一杯一杯であった。
不安感を増幅させる様な嫌な音……
「空襲警報か……」
「おそらく、わざと鳴らしたんだろう。そうすれば、ロンドン市民や警察などは全員建物に籠る。」
「市内に残るのは、テロリストと俺たちだけになるってことか。」
△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△
着いた場所は高い建物に囲まれたアパート…… 入り口は裏路の奥にあるという。
隠れ家としては、最高の立地といえよう。
マイクがインターホンを押し、応答があって何度かやり取りをしたらロックが外れた。
中に入るとMI6の女性エージェントが出迎る。
「ようこそ、大統領。 ハンサムなボディーガードさんも…… 」
「世話になる。」
「あら? そちらはアジア…… いえ、日本人かしら?」
「彼らは、ハネムーンでイギリスに来て、この騒動に巻き込まれたんだ。」
「それは災難だったわね。 ジャクリーンよ。」
「ノザキ チヨだ。彼女は妻のサクラ。」
「キレイな人ね。 アナタみたいな人はジャパニーズ・ヤマトナデシコって いうのよね?」
「桜さんのこと、大和撫子だって言ってるよ。」
「あ、ありがとう……」
「さあ、奥に入ってちょうだい。」
ここなら敵はこない。ひとまず安心だ。
それにしても、エージェントのジャクリーンは相当の猛者だと思う。マイクも「おっかないぞ。」と冗談っぽく言っていた。
「来て早速だけど、ここに通信が入ってきてるわ。聞いて……」
彼女がパソコンを扱うと、音声が流れる。
『マイク、32キロの大サワラを釣り上げる醍醐味がわかるかね?』
「トランブル副大統領からです。」
『データ解析が終了した。直ちに特殊部隊デルタ・フォースの救援隊が向わせる。合流後は移動、装甲車でエアフォース・ワンまで送る手筈だ。』
「やりました。大統領。迎えが来ます。」
「そうか……」
「それで? この騒動を起こした黒幕は誰だなんだ? もう分かっているんだろう?」
俺は思いきって聴いてみた。
「黒幕はコイツよ。」
ジャクリーンによって画面に映されたのは、アラブ系の老人…… 名前は『アーミル・バルカウィ』。
救援隊が来るまでの間、俺たちは休憩することに…… やっと落ち着けた桜さんは、俺に体を預け、スースーと寝息を発てて眠っていた。
マイクが冷えた水の入ったグラスを大統領と俺にも渡してくれる。
「彼女も疲れたみたいだな。」
「ええ、平和な日本とは、真逆の世界ですからね…… 今の内に休ませてあげたい。」
「それにしても、チヨは何者なんだ?」
「俺も気になるな。教えてくれ……」
「自分は陸上自衛隊 特務部隊の出です。そちらの陸軍精鋭とも演習したことありますよ。」
「オオー あのニンジャ部隊か。それならあれだけ強いのも納得だ。」
彼らが言っているのは、特殊作戦群のことだろう。
俺の所属しているのは、戦略部という超法規的な部隊なんだ。
戦略部は普段、色んな部隊に紛れるように、水面下で活動している。国の利益に反することを内々に処理するのだ。
彼らと話していると、MI6のジャクリーンがやって来た。どうやら迎えが来たようだ。
俺は眠っている桜さんを優しく起こす。
「桜さん…… 桜さん…… 起きて。」
「う、うーーん…… あ、私、寝てました?」
「疲れたから、仕方ないよ。 特殊部隊の迎えが来たみたいだよ。」
「じゃあ……」
「ああ、脱出できるよ。」
桜さんの顔に元気が戻った。
俺たちは監視カメラの映像を見るためにリビングへと向かう。
「デルタか…… 助かったな。マイク……」
大統領も安堵の表情を見せていた。
しかし、マイクの顔は険しい。
「どうした、マイク? 助けが来たんじゃないのかか?」
俺は彼に問う。
「ジャクリーン、 副大統領の通信からコイツらが来るまで、どのくらい掛かった?」
「えっと…… 20分掛かってないわ。」
「フル装備で駆けつけて、汗一つ掻いていない。」
「それに攻撃するためのフォーメーションだ。数は10人か……」
「千代さん。もしかして……」
「冗談だと言ってくれ。マイク……!」
「残念だけど、敵だ。」
「そんな……!」
「ジャクリーン!武器庫に案内してくれ。」
「了解よ。」
「マイク一人じゃ、骨が折れるだろう。 自分も手伝おう。」
「それは心強い。」
俺とマイクは、ジャクリーンの案内で武器庫へ足を運び、自分に合った装備を選び整えた。
「私は先に出てスコットランドヤードに向かう。手引きした裏切り者を暴いてやるわ!」
「そうか、分かった。気を付けてな。」
「アナタこそ…… そっちのジャパニーズもしっかりね!」
ジャクリーンは秘密の非常口を使い、隠れ家から脱出する。それを俺たちを見送った。
「桜さん、これを……!」
その後、俺は彼女にも扱い易いだろう、第四世代のグロック26…… 拳銃を手渡す。
「え?これはいったい……?」
「俺とマイクは、敵を迎え打たなければならない。これは護身だ。」
「む、無理ですよ! 私、千代さんみたいに強くありません!」
俺は嫌がる彼女の頬に手を置いて、真剣な目で見つめる。
「桜さん!良く聞いて! 今は非常時だ。君は覚悟決めなくちゃいけない!」
「…………分かりました。」
「その調子だ。」
俺は彼女に銃の使い方を教えた。
「なーに、直ぐにカタを付けて戻って来るよ。心配しなくていい。」
「行くぞ! チヨ!」
「了解……!」
「マイク、頼んだぞ!」
「千代さんも気を付けて……!」
俺とマイクは敵を迎え撃つ。
マイクが危険な前衛、俺が後衛を守るフォーメーションだ。
敵によるセーフティ用の頑丈なドアを破壊する音が、隠れ家内へと響く。突入してきたみたいだ。
俺たちは各々部屋へと隠れて敵を待ち伏せる。
暗闇の中、やって来たのは二人……
向こうも訓練を詰んでいるらしく、足音も発てずにクリアリングをしてくる。
敵の一人が銃を構えながら、俺が潜む部屋と入って来た。俺は音もなく、敵の目にナイフを突き立て、一瞬で息の根を止める。
そのまま別の部屋に移動し、もう一人も体術で敵を絞め倒して、殺意を込めて胸にナイフを3回突き刺して殺した。
マイクは派手に銃撃戦を繰り広げている。
「ホント、アメリカ人は派手好きだな。」
おそらく敵のほとんどはマイクの方へと行ったみたいだ。俺はリビングまで来た。
その時、真上のガラスを破って敵が襲い掛かる。
「クソッ!」
虚を突かれた感じだ。
敵はナイフで俺に白兵戦を挑む。
刺突や凪払いを駆使して俺を殺そうとするが、その様な単調な動きではいくら時間があっても、俺を捉えることはできない。
「白兵戦ってモンを教えてやる。」
俺は敵の刺突を紙一重で躱し、ナイフ突き出し、伸びきった腕を掴んで肘の関節を逆に折った。
流れるように、膝も折って体勢を崩し、とどめに敵の頸動脈をかっ切る。
血が噴水のように吹き出し、敵は死んだ。
「陸上自衛隊、上級格闘官を舐めるなよ……」
俺は倒れる敵に、そう吐き捨てる。
マイクの方も静かになったようだし、カタはついたと思った。
しかし、俺の前に生き残っていた敵が現れる。
互いに目が合い、時間がゆっくりと流れる感覚がした。敵は俺に銃口を向けて引き金を引こうとする。
絶体絶命だった。
だけど、それよりも早く、1発の乾いた発砲音が響き、それと同時に敵は倒れる。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
そこにいたのは、なんと桜さん。
俺を助けるために、その引き金を引いたのだ。
敵は頭部に着弾、そして絶命しており、撃った彼女自身も放心状態で壁に寄り掛かり「ごめんなさい。」と何度も呟き涙を流していた。
「桜ぁッ!」
俺は彼女に駆け寄り、力いっぱい抱きしめた。
「千代さんを撃たせたくなかったの……」
俺の胸の中で彼女は、声を上げて泣いている。
「ありがとう。ありがとう。おかげで助かったよ…… 君は悪くない! さあ、落ち着いて…… 深呼吸しよう。」
他の敵を片付けたマイクと大統領は、その様子を黙って見ていた。
特殊部隊に化けたテロリストを退けた俺たちは、隠れ家を後にする。
みんなで話し合って、隠れ家から一番近いアメリカ大使館を目指すことになった。
ジャクリーンは車を用意してくれていた。
一応は防弾だが、政治家仕様ではないらしい。
「私が運転します!」
急に桜さんが、そう言い出した。
「それはダメだ! 自分が運転する。」
「いいえ…… 大統領は死んじゃいけないし、千代さんとマイクさんは、これからの戦いに集中しないといけないわ。」
「だけど……!」
「私の運転テクニック、千代さんなら知ってるでしょ? だから…… 私を守ってね!」
桜さんの決意に俺は「頼んだ。」と車のキーを彼女に投げ渡す。
「お、おい! 大丈夫なのか? チヨ!」
「彼女もプロだ。任せて良い。」
運転席に桜さん、助手席に俺、後ろにマイクと大統領が乗り込んだ。
彼女が車のエンジンを始動させる。
暗闇を車のライトが照らした。
「みんな、シートベルトはOKかしら?」
「大丈夫だよ。」
「マイクさん、ナビゲーションをお願いします。」
「任せてくれ。」
桜さんはギアをドライブに入れて、サイドブレーキを解除、少しずつアクセルを踏み込む。
車がゆっくりと動きだした。
ここまで来たんだ!意地でも脱出してやる!
次回に続く。
桜さん、千代さんを守るためとは言え、銃の引き金を引いてテロリストを倒してしまいましたね。
彼女も覚悟を決めたみたいで、車の運転をかって出ました。クライマックスももうすぐです。
ご感想、お待ちしております。
しまりんに普通自動二輪の免許を取らせたい。
-
賛成。
-
反対。