おじキャン△   作:Shin-メン

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鈍足で書きます。


特別な晩ごはん。すきパー

犬山さんが早速調理をし始めた。

 

「温めた土鍋に牛脂を広げて、牛肉に軽く火をとおすで~」

 

A5ランクの牛肉がジュ~っと音をたてる。

俺を含めたギャラリーから「おーーー!」と歓声が上がった。

 

「次に割下作るで~」

 

お肉を土鍋の端に寄せると、砂糖、料理酒、濃口醤油の順で投入する。

醤油と砂糖が焼けて放つ香ばしい香りが、皆の鼻腔をくすぐった。

 

「あ~いい香りだぁ……」

 

「その他の具材を入れてぇー……」

 

「何だか、王道のすきやきってレシピだね。犬山さん。」

 

「関西風やー♪あとは蓋して少し煮込む……」

 

「楽しみですね?鳥羽先生。」

 

「ええ、まさかキャンプですきやきとは思いましたけど……これで一杯飲むのが楽しみです♪」

 

さすが酒飲み……意気込みが違う。

まあ、俺自身も実際には楽しみだ!ビールも持参したしな!

 

「あ、そうやった!なあ、アキぃ?スキレットでこのタマネギを炒めといてくれへん?」

 

「うん、分かった……」

 

犬山さんが大垣さんにタマネギの入ったジッパー付きの保存袋を渡す。

 

「ニンニクチューブとオリーブ油はそこのバッグに入っとるから~」

 

「なあ、イヌ子~?もう一品作んのか?」

 

「まあ、そんなトコや……」

 

「それにしても、めちゃめちゃ冷え込んで来たな……」

 

「ま、高原やしな……」

 

「今、気温0度だって……」

 

「これから、もっと下がるぞ。」

 

「まあ、"心頭滅却すれば火もまた涼し"の逆バージョンだと思えば、どうってことないよ。」

 

「それは元陸上自衛隊のレンジャーとして鍛えた千代さんだから言えるんです。」

 

志摩さんに軽くツッコまれた。

 

「詳しいね。」

 

「千代さんのことちょっと気になったし、前に調べたことあります。」

 

「ほう?リンもそんなことするんだぁ?隅におけませんなぁ~?」

 

斉藤さんがすかさず茶化しに入った。

 

「ば、バカ……ッ////」

 

久しぶりに見たぞ!からかい上手の斉藤さん!

 

「それに、私のおじいちゃんも似たようこと言ってたし……」

 

うん?ちょっと待て?"私のおじいちゃんも似たようことを言ってた"という言葉に含み感じる。

まさか、彼女のおじいさんも自衛隊関係者なのか……?

 

「じゃあ、こうするとヌクいですぞ~♪フヒヒヒ……」

 

ブランケットにくるまった各務原さんが、ニヤニヤしながらみんなを誘う。

 

「お?久しぶり出たな?怪人ブランケット……!」

 

なんじゃそりゃ?そのゆるい怪人……

だけど、本当に暖かいんだろう。みんなが彼女の真似をする。

 

勢力を拡大する"秘密結社ブランケット"組織のトップの座(鳥羽先生の膝の上)には斉藤さんの愛犬、幕僚長チクワが就いた。

 

すきやきが出来るまでの間、しばしの雑談……

話しを聞くに年末はアルバイト漬けのようだった。

 

「そろそろ頃合いやな……」

 

「アキぃ~みんなに卵配ってぇなー」

 

「了解ぜよ。」

 

犬山さんが土鍋の蓋に手をかける。

緊張の瞬間、みんな固唾を飲んで見守った。

 

「蓋!オーープーン!」

 

開けた同時に大量の湯気が立ち上る。

そしてその先に目的の物が……ッ!

 

「晩ごはん!出来たでーー!大成功やーー!」

 

「「「「「「おーーーーーッ!」」」」」」

 

それぞれ貰った卵を器に割り入れ、溶き卵を作った。

 

「それではみんなさん、手を合わせて!せーの!」

 

「「「「「「いただきまーす!」」」」」」

 

俺のために犬山さんが鍋の具材を取り皿によそう。

 

「千代さん、どうぞ。」

 

「ありがとう、犬山さん。」

 

じゃあ、まずはエノキとネギ……

卵に潜らせてから口に運ぶ。

 

うん……肉の旨味をネギ吸ってより甘く感じる。うまい。エノキもシャキシャキの歯ごたえだ。

 

次は焼き豆腐……コイツもなかなかの食べごたえ。

やはりすきやきには、焼き豆腐は欠かせない。

 

そして、いよいよ来ました。メインの肉!春菊と一緒に……いざ!実食!

 

「こ、これは……!きめ細やかで、しっとりした牛肉と十分につゆを吸った春菊のほどよい苦味をまろやかな卵がまとめあげて……」

 

すかさず、ビールを煽る。

 

「うまい!犬山さん、お見事!」

 

作った犬山さんに最大の賛辞を送った。

 

「ありがとうございますぅ♪千代さんこそ、食レポ完ぺきですわ~」

 

それにしても、美味しいモノを食べるとそれぞれで味わい方が変わるんだな

 

全身で表現する、大垣さんと各務原さん。

黙々と味わう、志摩さんと斉藤さん。

それを見て幸せそうにしている、犬山さん。

 

鳥羽先生に至っては泣きながら食べていた。

 

「だ、大丈夫ですか?鳥羽先生ッ!!?」

 

「すきやきに合う日本酒……忘れちゃったーー!」

 

あ、そうですか。

ったく……俺の心配を返してください。

 

「なあ、イヌ子~どうして晩飯をすきやきにしようと思ったんだ?」

 

「うん、それはウチのお婆ちゃんが『特別なお肉を特別な日に食べる時はすきやきにしぃ。』って教えてくれたならな~」

 

「それって、イヌ子のばあちゃんに言いくるめられてないか?」

 

「でもこんな風にお鍋囲んでワイワイするの、日本の年末って感じがして、すごく良いと思う!」

 

「そうだ!忘れてた!」

 

斉藤さんが思い出したように持ってきたバッグに手を伸ばす。

 

「私、クリスマスっぽい物を持って来たよ!」

 

みんな着替えた。

俺も含めて、サンタクロースのコスプレに……

 

『年末戦士サンタレンジャー』ちなみ全員レッド

 

「俺のサイズもピッタリだ。」

 

「私の得意技のひとつです♪」

 

得意技?まあ、良いだろう。

 

「でも、なんかこういう風に集まると仕事終わりのサンタが打ち上げしているみてーだな。」

 

あーーー大垣さん、その表現は良い得て妙だ。

 

「ねえ?そろそろ具材を追加しない?」

 

「そういや、肉しかねぇな。」

 

「いや、こっちの王道はもうおしまいや。」

 

「でも、あおいちゃん?お肉はまだたくさんあるよ?」

 

「フッフッフ……こっからはコイツで勝負やで!」

 

犬山さんは得意気に大ぶりの完熟トマトを見せつけた。

 

「アキがあらかじめ炒めておいたタマネギにトマトとバジルを加えて再度火にかける!」

 

スキレットで炒めた野菜たちが、オリーブ油とニンニクと相まって、これまた良い香りを放つ。

 

「炒めたトマトたちをすきやきの鍋に投入!少し蒸らせばぁ~…………トマトすきやきの完成やーー!」

 

先ほどまでの日本食の様相からガラリと変わり、次はイタリアンな感じになった。

 

「「「「トマトすきやきッ!!?」」」」

 

「ほお、面白いじゃないか……」

 

みんなには大好評のようだ。

ならば、俺も一口…………

 

「これはッ!!?食欲をそそるトマトの酸味と牛肉の脂の甘味がイタリアンにリメイクされた割り下とマッチして………アッパレ!」

 

「千代さんもしっかりと酔ってますね~♪」

 

「「「「「アハハハーー!」」」」」

 

途中ガス切れで志摩さんが買い出しに行ったり、泥酔した鳥羽先生が悪絡みしたりと色々あったが、食事会は大盛況の内に終わった。

 

△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△

 

その後片付けを終え、斉藤さんの愛犬は彼女の家族が引き取りに来たりと色々とあった。

そして大垣さん、犬山さん、斉藤さんはキャンプ場に併設された温泉へと行っている。

 

俺と各務原さん、志摩さんは焚き火の番をすることになった。鳥羽先生は酔いを醒ますのために、さらに酒を呷っている。

鳥羽先生に関してはもう意味が分からん。

 

「あの……先生?今日私たちに付き添ってくれて良かったんですか?」

 

焚き火を弄りながら、志摩さんが聞いた。

 

「え?どういう………?」

 

「クリスマスだし、彼氏さんは良いのかな…と」

 

「あ~ 火起こしのお兄さん。」

 

二人が言うに鳥羽先生には、お付き合いしている相手がいるみたいだ。

 

「えーと……私、誰ともお付き合いしてませんよ?火起こしの……お兄さん?」

 

お互いの見解が食い違う。

 

「ほら、四尾連湖で一緒にキャンプしていたじゃないですか?」

 

「あーー……あれは私の妹です。」

 

「「えっ?妹ッ!!?」」

 

二人は驚いていた。

 

「あんな感じなので、よく間違われるんですよ。」

 

「火起こしのお姉さんだったのか………」

 

その後戻って来た三人と入れ替わりで、各務原さんたちが温泉へ向かった。

俺は一番最後だ。

今は焚き火に当たりながら、トマトすきやきのシメに作ったチーズパスタを酒の肴に缶ビールを引っ掻けている。

 

「あの?千代さん……」

 

斉藤さんが犬山さんの髪を弄りながら、俺に声を掛けた。

 

「ん?どうしたの?」

 

「千代さんって、どうして自衛隊に入ったんですか?」

 

「あーーきっかけっていうのかな?幼い頃に母さんが話してくれた民話だったね。」

 

「民話……?」

 

「母の出身地に伝わる昔話……その主人公が千代さんって言う女の子なんだ。」

 

俺は斉藤さん達に民話"孝女千代"を話した。

 

「感動やー」

 

「泣かせるじゃねぇーか!」

 

「とっても心が暖まりました。」

 

「俺もこの話を聞いていつか人の役に立ちたいと思ったんだ。」

 

「でも人の役に立つ仕事はたくさんあるのに……」

 

「その時に母方の親戚のおじさんが陸自の第1空挺団に所属していた過去があってね。その話が面白いし、カッコ良くて……高校卒業して志願したってとこかな?」

 

「へぇー入ってどんなことするんですか?」

 

「まずは新隊員教育だね。」

 

「何なんッスか?それ?」

 

「新人研修みたいなもんだよ。受付して制服を採寸と受領したあとは色々と教官が付き添って身だしなみや整頓の仕方を教えてくれる。」

 

「その後は?」

 

「だいたい一週間ぐらいたった時かな?入隊式があってそこから本格的に訓練が始まるよ。まずは体力検定だね。」

 

「体力検定?」

 

「君たちも学校でやったことあるでしょ?ほとんど変わらないよ。」

 

「へぇー持久走とか?」

 

「そうそう、射撃訓練もこの時に初めてやったね。」

 

「やっぱり緊張しました?」

 

「武器だからね。あの時の感触は忘れられない……あのガスライフルも本物に近い動作するし、重さだって。」

 

「あとは?」

 

「行進もしたよ。10キロ~25キロくらい歩いたかな?」

 

「わ~エグいですね。」

 

「最初は吐きそうになったよ。今だと遠足レベルだけど………」

 

「やっぱり千代さんって、超人ですね。」

 

「いやいや俺なんて普通だよ。俺やおじさんが所属していた第1空挺団は化け物揃いだし、最近できた特殊作戦群なんて化け物を煮詰めたようなエリートだらけさ……あと日本の自衛隊には忍者がいるって、噂があるよ。」

 

「忍者って、アハハ……」

 

俺の新隊員時代の話をしていると、各務原さんたち三人がお風呂から戻って来た。

 

「ただいまー」

 

「おかえりー」

 

「はあーさっぱりした。ね?リンちゃん!」

 

「うん、さっぱりした………」

 

さっぱりした志摩さん。

略して"さっぱリンちゃん"……フフ。

そんな事を考えると、少しおかしくなる。

 

「千代さん、何ニヤニヤしてるんですか?」

 

「えっ?な、何でもないよッ!!?」

 

ヤバ!顔に出てたか?

 

「あ!みんなリンちゃんみたーい。」

 

確かに斉藤さんの手によって、大垣さんと犬山さんの頭にはお団子が乗っていた。

 

「いーなー!いーなー!」

 

各務原さんもみんなとお揃いにしたいらしい。

 

「なでしこちゃんも"しまりん団子"やる?」

 

「やるーーッ!」

 

「なんだよ。その変なネーミング。」

 

しまりん団子……どこぞのお土産みたいだ。

ササッと各務原さんの髪を変える。

それはもう、お手のものだった。

しかし、各務原さんの髪型はしまりん団子ではなく、サボテンのようになっている。

 

それをドヤ顔で自慢している各務原さんが、面白くて面白くて……我慢するのが大変だった。

 

 

「じゃあ、俺もひとっ風呂、浴びて来ようかな?」

 

△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△

 

俺は大浴場の湯船に浸かりながら、物思いに耽った。

 

「それにしても、今年は色々と内容が濃い一年だったな。各務原さんと出会いがきっかけで、たくさんの知り合いができたし、キャンプまですることになるのは、想定外だったが……」

 

その後俺は風呂から上がり、外気で冷めない内に服を着替えてみんなの元へと戻る。

途中、俺のスマホが鳴った。

 

「ん?誰だろう……」

 

相手は……桜さんだった。

 

「もしもし。」

 

『もしもし、桜です。こんばんは……』

 

「こんばんは。どうかしました?」

 

『いえ、また今日も妹が迷惑かけたみたいで……』

 

「あぁ~そんな事ですか?大丈夫ですよ。向かう場所は一緒だったんだし……」

 

『ですが………』

 

「実を言うと、自分にも妹がいるもんで振り回されるのには慣れっこです。」

 

『そうなんですか?妹さんがおられるんですね?』

 

「ええ、三人……」

 

『三人ッ!!?スゴいです。』

 

「もう、全員成人してますけど……年末年始は久しぶりに里帰りでもしてみようかなと思ってます。」

 

『へぇー私たちも年明けは浜松の祖父母の所に遊びに行くんですよ。』

 

桜さんとの会話を数回繰り返して電話は終わった。

 

「………実家に連絡しとくか。」

 

俺は8年振りに実家の電話番号をダイヤルした。

 

次回に続く。




次回、最終回………の予定です。
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