おじキャン△   作:Shin-メン

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ゆっくり書いていきます。


おじさんと野クル

今日から新しい生活が始まる。

前職から離れて、山梨県の嘱託職員として同県の高校の学校用務員として働くことになった。

 

「よろしくおねがいします。」

 

用務員が詰める事務室に案内され、自分のデスクを教えられる。

初日から意欲的に働いた。

電気設備、放送室のトラブル対応、それに事務室パソコンのシステムを使いやすく再構築などなど……

 

一息着けたのは、昼過ぎだった。

椅子に座り、ふぅ……と息を吐く。

 

「お疲れ様です。野咲さん。」

 

先輩の校務員さんが、湯呑みにお茶を注いで自分のもとに置いてくれた。

 

「あ、申し訳ないです。」

 

「いえいえ。初日から忙しかったですね?」

 

「あ、梅コブ茶。美味しい……ちょっと時間が掛かり過ぎちゃいましたけどね。」

 

「そんな謙遜しなくても良いですよ。私も含めて助かりました。」

 

回りからも自分を称賛する声が……

嬉しいが正直気恥ずかしい。

 

「昔取った杵柄があるんで、困ったことがあったらドンドン言ってください。」

 

午後からも設備管理の仕事に精を出す。

放課後、学校敷地内を歩いていると教頭先生が、建物の窓を見ながら考え込んでいた。

 

「教頭先生、お疲れ様です。」

 

「お、野咲くん。聞いてますよ?初日から大活躍みたいですね?」

 

「そんなことないですよ。ところで教頭先生は何を考えていたんでしょうか?」

 

「いや〜外側の窓が汚れていたからね……キレイにしたいんだが…………」

 

教頭先生の言うとおり確かに窓が砂埃で汚れていた。

校内側は生徒たちの手で掃除できるが、外側は落下の可能性ある。

俺は少し考えて、教頭に提案した。

 

「窓掃除、自分がやりましょう。」

 

「いったい何をッ!!?そもそもどうやって……?」

 

「屋上から懸垂下降で降りれば……」

 

「危険すぎます。」

 

「この程度なら慣れてますし、道具さえあれば……あ、確か登山部がありましたよね?」

 

「え?ええ……」

 

「ならば善は急げと言うんで……では、失礼いたします。」

 

「あ、ちょっと!私はまだ…………!」

 

教頭先生に止められたが、俺は足早に職員室へと向かう。

職員室を見渡す。

いた……登山部顧問の大町先生だ。

 

「大町先生。どうも……」

 

「あ、野咲さん。お疲れ様ッス。どうしたんですか?」

 

「ちょっとお聞きしたいのですが、懸垂下降に使う道具一式とか登山部で所有していませんか?」

 

「懸垂下降で何をするんですか?」

 

「窓拭きです。」

 

ポカンとする大町先生……

 

「説明が足らなかっですね。先程教頭先生と会って窓の外側を掃除したいと仰っていたので……」

 

「いやいや、危険すぎますよッ!!?」

 

「そうでしょうか?」

 

「そうですよ〜!」

 

「教頭先生の希望にも応え上げたいんですが……一応、道具とかはあるんでしょ?」

 

「え、ええ……ですが、今は登山部でもそういったことはやらないので……ハーネスなどの道具も部室には無くて…………あ、あそこなら。」

 

「あそこ?……ですか?」

 

「部室棟の一番奥に別名秘境と呼ばれてる用具部屋……もとい、“野外活動サークル”の部室があるんですよ。もしかしたら………」

 

「分かりました。一度そこを探して見ます。」

 

「すみません。お力に添えなくて……」

 

「いえ、コチラこそ無理言ってすみません。じゃ……」

 

俺は大町先生に教えてもらったとおりに、部室棟の秘境へと足を踏み入れることになる。

 

「ここか………」

 

それは部室棟ニ階にあった。

用具部屋と書かれてあるはずの表札には、上から手書きの紙が貼られてある。

下の表札の文字が薄っすら“用具部屋”と見えた。

 

「野外活動サークル……ここか……」

 

確かにここは用具部屋から部室に変わっていた。

早速、中に入ろうと引き戸の取手に手を掛けようとしたときだった。

 

「あーーーッ!」

 

女の子の声がした。

声のした方を見ると、そこには知っている女の子がいた。

 

「か、各務原さん……ッ?」

 

「千代さん!どうしてここにッ!!?」

 

まさかの各務原さんとの出会いと、一昨日、しかも偶然に知り会ったばかりなのに、もう名前呼び………

 

「ちょっと、各務原さん。名前呼びは他の生徒たちに変な目で見られるから……!」

 

「きゃ……ッ!!?」

 

俺はとっさに、彼女の手を引いて用具部屋もとい野外活動サークルの部室へ入った。

 

「まさか、各務原さんがここの生徒だったとは……」

 

「私も驚きました!千代さんがここの先生だったなんて……」

 

「あ、各務原さん。自分は先生ではなくて校務員さん……先生や生徒さんが楽しく安全に学校生活を送るために頑張る、なんでも屋さんだ。」

 

「そうなんですね?カッコイイ!」

 

彼女はキラキラした目でコチラを見てくる。

なんだか眩しすぎる……

 

「それでここに何の用事があるんですか?」

 

彼女が唐突に聞いてきた。

 

「あ、えっと…………カクカクシカジカ」

 

俺は彼女に掻い摘んで分かりやすく話した。

 

「へぇ〜そんな仕事があるんですね~」

 

「それで、キミはどうしてこんな所に?」

 

「私は一昨日のことが忘れられなくて……」

 

「それでこの野外活動サークルに……?」

 

「はいっ♪」

 

野外活動サークル、確かに楽しそうなサークル名だ。

棚にはアウトドアに関する色々な著書やカタログが置いてある。

 

「でも、狭い部室だなぁ……うなぎのねどこみたい。」

 

「うなぎの、ねどこ………?」

 

各務原さんは棚にある道具を物色していた。

 

「ほぇ~アウトドアの本……それに薪だ〜!」

 

彼女は引出しまで勝手に開ける。

 

「ツナ缶………非常食かな?あ、松ぼっくり!」

 

\コンニチハ!/

 

「か、各務原さん、あんまり色々と漁るのはマズいと思いますよ……」

 

そんなことを彼女に言っていた時だった。

俺の背後にあった引き戸がガラガラと音を起てて開く。

 

その音に気づいて背後を見ると、女子生徒が二人……

一人は黒縁の大きめな眼鏡に、髪を腰の近くまで伸ばし、さらにツインテールにしている。

もう一人は、おっとりした雰囲気の女の子だ。

 

「あ、いや………」

 

思わず言葉に詰まる。

気まずい雰囲気、固まる四人……

無言で引き戸を閉められた。

 

部屋の外、廊下側からコソコソと会話する声が聞こえる。

しばらくして再び、引き戸が開いた。

 

「何かここに用ッスか?………」

 

ツインテールの眼鏡っ娘から問われる。

 

「自分はここの校務員で入り用で登山専用のロープなど探しに……」

 

「私は野外活動サークルに入部したくて!」

 

「ほう……?ならば、入部理由を聞かせて貰おうか?」

 

なでしこは眼鏡っ娘に入部理由を話し始めた。

 

「なるほど……一昨日、本栖湖で行き倒れたいたところをそこの千代さんと謎のキャンプ少女に助けられて、さらにカップ麺までごちそうになった……」

 

『この眼鏡っ娘、しれっと馴れ馴れしく名前で………』

 

さすがに驚いたよ。

今どきの女子校生は遠慮はないんだな。

まあ、良いか………

 

「あとね、夜のふじさんがすっごくキレイだったんだよ!」

 

「それでアウトドアに興味出て、ウチらのサークルに来てくれたんやね〜」

 

おっとりした女の子は関西弁で話した。

 

「でも、せっかく来てもらって悪いんだけど、ウチ部員募集してないんだよね……」

 

眼鏡っ娘が申し訳なさそうに断る。

『え?断るのか?』と思った。

 

「あ……そう、なんだ………」

 

各務原さんも残念そうにしている。

そんな彼女を尻目に、眼鏡っ娘とおっとり関西弁女子が、コソコソと話し合っていた。

 

「アキ〜なんで断るんよ?」

 

「だって部室、ちょー狭くなるじゃん。」

 

「何言ってんの。人が増えたら“部”に昇格して大きな部室もらえるでしょッ!!?」

 

「何人になったら昇格するんだっけ?」

 

「たしか、四人以上……」

 

二人が話し合っている間、俺となでしこは蚊帳の外……関西弁女子の言葉に眼鏡っ娘は想像した。

広くなった部室で思いっきりラジオ体操をする自分の姿を……そして………

 

「実はキミのような逸材をまっていたのだよ!」

 

凄まじい手のひら返しだった。

懐からさらにクッキーを出す。

 

「入部祝いだ……クッキー、食うかい?」

 

「エヘヘへ………ありがとう。」

 

「私は犬山あおい。で、こっちが大垣千明……」

 

「よろしくな。」

 

「各務原なでしこです!よろしくね〜〜」

 

各務原さんは、陽だまりのようなかわいい笑顔で自己紹介していた。

三人がある程度の自己紹介を済ませると、コチラに向けて一斉に顔が向く。

 

「あ、えっ、と………なんでしょう?」

 

三人の視線に俺は底しれぬプレッシャーを感じた。

 

「アナタも自己紹介を……」

 

「え?どうして……?」

 

正直、困惑した。

 

「野咲千代……です。」

 

成り行きで自己紹介をする。

 

「良ォォォし!部員も二人増えたことだし、野クル本格始動だぜェェェィッ!」

 

大垣さんの嬉しそうな声に大盛り上がりをみせる野クルメンバー……

でも、ちょっと待てよ?増えたメンバーには俺も入っているのか?

 

「おい、ちょっと待てー?大垣さん?サークルのメンバーには、もしかして自分も入っているのか?」

 

「え?何言ってんッスか〜当たり前じゃないですか!」

 

大垣さんは当然のように語る。

 

「やったでアキ〜これでこの狭い部室ともおさらば

や〜!」

 

犬山さんも嬉しそうだ。

 

「おほーッ!」

 

各務原さんは変な喜び方をしている。

 

「ああ、そんなに騒ぐと……」

 

俺は忠告したが、遅かったようだ……

三人は狭い部屋で騒いだせいで、互いに体をぶけてしまった。

 

「ふんが……ッ!!?」

 

「ヴん……ッ!!?」

 

「ぐぇ……ッ!!?」

 

「はぁ……言わんこっちゃない。それに申し訳ないけど、自分は野クルには入らないよ。」

 

「え………」

 

大垣さんたちは一気に冷める。

 

「どうして………ですか……」

 

「いや、そうでしょ?自分はそもそも生徒じゃない……」

 

「じゃあ〜顧問はどうですぅ?」

 

「顧問は先生じゃないとさすがに許可は降りないよ。自分は校務員だし……すまない。」

 

申し訳なく思い、三人に軽く頭を下げた。

 

「しかたないよ。大垣さん、犬山さん……部員は改めて探そうよ。」

 

各務原さんは落ち込む二人を励ます。

 

「各務原さんの言うとおりだ。部室も狭いままだけど、キミたちのサークルの活動場所は結局“外”じゃないか?」

 

「「「はっ、確かに………ッ!」」」

 

何気ない言葉に目を覚ます三人。

 

「そのとおりだ!千代さん!ありがとうございます!野クル部長として感謝します!」

 

「あ、いえ……どういたしまして………」

 

なぜだか知らんが大垣さんからお礼を言われた。

そして、野クルメンバーは動き易い服装に着替えると外に移動する。

 

「なぜ自分まで?仕事が……」

 

「まあまあ、良いじゃないですか〜」

 

「それで大垣さん。いつもどんなことしてるの?」

 

「まあ、いつもは落ち葉焚きだな。校内の落ち葉とか小枝を集めて燃やして………」

 

「コーヒー飲んだりしとるんよ。」

 

「他には〜?」

 

「アウトドア雑誌読んだりぃ………」

 

各務原さんは、活動内容のギャップにシュンとしていた。

 

「おい、あからさまにガッカリしてるぞ。」

 

「でも〜それくらいしかやっとらんし……」

 

「あ、各務原ちゃん、ラーメンあるよ。」

 

犬山さんがどこからともなくカップ麺(しょうゆ味)を取り出す。

カップ麺を見た各務原さんの表情がパァっと明るくなった。

 

「でも〜落ち葉とか全然ないよぉ〜」

 

「まあ、先週の金曜日に焚き火したからな……」

 

そうか、校庭がこんなにもキレイだったのはこの娘が落ち葉焚きをしたからか……納得だ。

 

夕暮れに染まる秋空……何もすることがない。

野クルのメンバーと俺は再び移動……

部室まで戻って来た。

 

「あの……大垣さん。ここに登山部が使っていた登山専用のロープとかなかったかな?」

 

ここの部長なら何か分かるかも……

 

「私とイヌ子がここの部屋を使い始めたのは、四月からで千代さんが探している物があるかどうかは……」

 

「そうか……まあ、一応探させてくれ。」

 

「どうぞ……」

 

俺はうなぎのねどこのような細長く狭い部室の奥を探してみる。

 

「そうだ。各務原ちゃん、キャンプ道具の本があるけど見るか~テント特集回やで。」

 

「見るぅッ!」

 

なでしこはキラキラとした眼差しで雑誌を見始めた。

 

「イヌ子、各務原のテンション上がったぞ!」

 

「アキ、ぐれいとやで!」

 

二人も嬉しそうだ。

 

「ヘェ~テントにも色々な種類があるんだね〜」

 

「テントの種類は主に4つ……ロッジ型、ロッジドーム型、ドーム型、Aフレーム型……」

 

三人の話しを聞いていた俺は捜し物をしながら、各務原さんの感想に応える。

 

「あと、自立式や非自立式とかも……」

 

自身の持っている知識を披露してみた。

 

「千代さんって、アウトドアの知識が豊富なんッスね……」

 

「アウトドアの経験があるんですか〜?」

 

「まあね、前の職場がだいたい“外”だったからね。アウトドアが仕事みたいなモノだったかな?」

 

「って、ことは千代さんはアウトドア専門のブロガーさんなんですね。」

 

各務原さんが寄ってきた。

 

「まあ………そうなのか………?」

 

捜し物始めて、十数分……

ようやくお目当ての物を見つけることができた。

 

「あった……ザイルにハーネス、安全環付きのカラビナ……それに皮手袋にヘルメット。ホコリは被っているけど大丈夫そうだな。」

 

「千代さん、それで何をするんですか?」

 

「懸垂下降ってヤツだよ。」

 

俺はスマホを操作して“懸垂下降”の画像を各務原さんたちに見せた。

 

「この技術を使って窓拭きをしようかと……」

 

「あ、危なくないの?」

 

各務原さんが心配している。

 

「大丈夫……懸垂下降なら嫌ってほどやったからね。」

 

そう言って俺は、心配する彼女の頭をポンポンと優しく撫でた。

照れた様子の各務原さん……

 

「じゃあ、自分はこれで……」

 

俺は道具の入ったダンボールを抱えて事務室に戻ろうとした。

 

「あ、ちょっと千代さん!このテントを今から建ててみようかと思うんで、監修してくださいませんか?」

 

部長の大垣さんからお願いされる。

 

「まあ、少しくらいなら……」

 

「ヨッシャぁぁーー!お前ら!今からこの980円(税込み)のテント建てるぞォォォ!」

 

四人は三度移動し、学校の中庭に向かった。

 

「でも、大垣さん。そのテント、ちょー安いよね?」

 

「おいおい、各務原……さっきのテント特集の雑誌の内容、思い出してみ?」

 

「値段とかな〜」

 

「えーと………」

 

各務原さんは思い返した。

 

「あ…………」

 

ぼんやりとだが、雑誌に乗っていたテントの値段を思い出してくる。

 

「うーー思い出しただけで、目がチカチカしてくるぅぅぅ………!」

 

フラフラとする各務原さんを見ていると、ああ心もとない………

 

「だろ?値段はどうあれ、これも一端のテントだ……!」

 

と言うことで学校の中庭へ来た四人は、実際にテントを建ててみた。

 

①平らでペグが刺さる軟かい地面をさがします。

②場所を決めたら、テント本体を広げます。

③畳んであるポールを伸ばします。

 

野クルメンバーがテントを建てる様子を、暖かい図書室から見物する人が……

 

「アイツ、ここの生徒だったのか……それに野咲さんまで…………」

 

「リン〜?あの子たちが気になるの?」

 

サラサラの長髪をイジりながら別の女子生徒が聞く。

 

「いや、別に……」

 

「リン、ああいうの得意じゃん………と、出来た♪クマヘアー♪」

 

本を読む彼女の髪は見事なクマの形をしていた。

 

「おい、やめろ。」

 

場所は変わり、中庭の野クルメンバーは伸ばしたポールをテント上部のスリーブに通している……④

 

⑤ポールの端をテントの四隅にある穴に固定し、

 

「ん?あれ?………」

 

四隅の穴に固定……

 

「ハマらんぞ……ッ!!?」

 

こ、固定…………

 

「これ、長さ合ってんのかーッ!」

 

大垣さんがチカラ任せに固定しようとした。

 

「あ、大垣さんちょっとまっt……」

 

彼女を止めようとしたが、時すでに遅し………

“ボキッ!”ポールが折れた。

 

「「「ギャアァァァーーッ!」」」

 

発狂する三人。

頭を抱える俺………

 

「どうしよう!千代さん!」

 

「テント、壊れっちまったぞッ!!?」

 

「メーカーに送って修理してもらわんとなー」

 

三人が困っていると、助け舟が入った。

一人の女子生徒が応急処置の道具を持ってきたのだ。

折れてしまったポールを手早く接合する。

 

そして、再度挑戦……

 

一時はどうなるかと思ったが、980円のテントは何とか完成した。

 

「980円のテントでもちゃんとしてるんだねー」

 

「だろ?各務原。まあ、材質はそれなりだけどな……」

 

各務原さんと大垣さんはテントの中でワイワイ、一方で助け舟に入った娘は、犬山さんと話している。

 

「斉藤さん、ありがとね〜でも、良くあんな事をよ〜知っとったね〜?もしかして、ベテランキャンパーさんか?」

 

「あ、ちがうちがう……あそこにいる娘にきいたんだよー」

 

助け舟に入った娘こと斉藤さんは、室内にいた一人の生徒を指さした。

 

「あーーー!」

 

そこにいたのは、本栖湖のキャンプ場で出会ったベテランキャンパーの志摩さん……俺自身もだが、各務原さんも驚いている。

 

初日からドタバタしたが、大きな問題もなく無事に終わって安心した。

愛車のバイク、CBR600RR通称『ロクダボ』が止めてある駐輪場に向かう。

夕日に照らされたグランプリレッドの車体が、これまたカッコイイんだよな。

 

フルフェイスのヘルメットを被ろうとした時だった。

 

「あ、あの……野咲さん。」

 

不意に呼び掛けられ、声の方に振り返ってみると志摩さんが立っている。

 

「あ、志摩さん……今、帰り?」

 

「はい。私、図書委員なんで……」

 

「そうか。お疲れ様。」

 

「お、お疲れ様です……////」

 

志摩さんがペコリと頭を下げた。

 

「でも、驚いたよ。キミもここの生徒だったとは……」

 

「私もです。」

 

志摩さんは自転車、俺はヘルメットを被り、グローブを付けてから、ロクダボを押して校門まで向かう。

学校の決まりで校内では、二輪車は押して動かさないといけない。

約194Kgもある車体を校門まで押して動かすのは、少々骨が折れる。

 

「ふぅ……疲れた。」

 

「野咲さんのバイクって、カッコイイですよね。なんて車種ですか?」

 

彼女の言葉に、ちょっとテンションが上がった。

 

「志摩さん、バイク好きなの?」

 

ちょっと食い気味に聞く。

 

「好きというか、近々原付きの免許を取ろうかなって……」

 

「そうなんだ。このバイクはHONDAの“CBR600RR”通称“ロクダボ”っていうスポーツレプリカだよ。ネコ科のような流れる流線ボディーにガソリンタンクが艷やかで………」

 

饒舌に語る俺に、志摩さんがちょっと引いている。

 

「は、はぁ……それで速いんですか?」

 

「まあ、丁度いい速さかな?エンジンカチ回せるから楽しいよ。」

 

バイクに跨がり、イグニッションキーをオンにしてギアがニュートラルに入っているのを確認してから、右グリップについているセルスイッチを押した。

するとセルモーターがピストンを回してエンジンに火が入り、エンジンが力強く唸る。

 

スロットルを回せば、排気音が軽快に吹け上がった。

 

「じゃあ、志摩さんまた!気をつけてね!」

 

ちょっと、声を張る。

エンジン音やらフルフェイスやらで声がなかなか通らないのだ。

 

クラッチを切り、ギアを一速に入れる。

スロットルを吹かし、ゆっくりとギアを繋げるとバイクが前進し始めた。

 

サイドミラー越しに手を振る志摩さん……

一昨日のあの時と似ている。

さあ、安全運転でゆっくり帰ろう………

 

次回に続く。




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