朝が来た。
早めに起きて身だしなみを整えてから、ちょっとコーヒーブレイク。
「さて行くか……」
あらかじめ準備をしていた荷物たちを両手に持ち、自宅を出る。
「戸締まり良し!忘れ物もない。行ってきます。」
俺を待つ愛車の元へ向かった。
後部座席を倒して広げたラゲッジに、実家用に買った山梨土産などの荷物を入れていく。
「こんなモノか……」
車に乗り込む前に隣に止めてあるロクダボくんに目を向けた。
「行ってくるよ。」
バイクの燃料タンクを優しく撫でる。
\キヲツケロヨー!/
ロクダボくんからそんな声が聞こえたような気がした。
GRヤリスに乗り込み、エンジンを始動させる。
「まずは桜さんと待ち合わせしているコンビニに行こうかな……」
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車を走らせること数分でコンビニに着いた。
駐車場に止めて車から降りる。
「ちょっと、早かったか?」
駐車場には俺の車しか止まっていないと思ったが……
「あの原付は……」
コンビニの明かりに照らされた見覚えの原付バイクが止めてある。
水色のYAMAHAビーノ……志摩さんのだった。
コンビニの中に入るとちょうど志摩さんが会計中であり、入店音に反応した彼女がコチラに目をやる。
「あ、千代さん……」
「志摩さん、おはよう。」
「おはようございます。」
先に店の外に出た志摩さん。
俺もキンキン冷えた紙パックのカフェオレ(お気に入り)を購入、外にいる志摩さんの元へ向かった。
「寒くないんですか?」
キンキンのカフェオレをストローで啜る俺を、志摩さんは若干引き気味の表情で見る。
「寒いよ。」
「じゃあ、どうして……」
「昔からこうなんだよね。途中でお腹がグルグルしてくるけど、自分に取っての長旅のお供なのさ!」
堂々と胸を張って熱弁した。
「へ、へぇ~」
志摩さんは引き攣った笑みを浮かべる。
「………………あの千代さん。」
「ん?どうしたの?」
「えっと……千代さんって、なでしこのお姉さんとデ、デートの約束したのは本当なんですかッ!!?」
彼女の問いに口に含んでいたカフェオレを吹き出してしまった。
「はぁッ!!?え?ど、どうして、そのことを知っているのッ!!?」
「なでしこから聞きました。」
かぁーー!各務原さん、余計なことを……ッ!
昨日のことを思い出してしまう。
「千代さん顔が真っ赤ですよ。なでしこの言ったとおり、本当の話なんですね?」
なぜか寂しそうな志摩さん。
あれ?もしかしてだけど焼きもち妬いてる?
「確かに桜さんとデートの約束はしたよ。」
「やっぱりか……」
「じゃあさ、もう少し温かくなったらツーリング行こうよ?ライダー同士でさ。」
その言葉に志摩さんはパァーっと表情を明るくした。
「約束ですよ。」
彼女と指切りをする。
その後、ちょっと遅れて桜さんと妹のなでしこさんが合流した。
「ごめんなさい。遅れてしまい……」
「えへへ、私が寝坊しちゃった。」
「朝っぱらから、お姉さんに迷惑かけるなよ~」
志摩さんはなでしこさんと楽しく話している。
「千代さんコレ、どうぞ……」
桜さんからお弁当を渡される。
「え?お弁当……?」
「途中、小腹が空いた時にでも食べて下さい。」
「俺のために作ってくれたんですか?」
「ええ、お口合うか分かりませんが……」
「早い時間から大変だったろうに……ありがとうございます。ありがたく頂かせて貰います。」
「良いんですよ。私が好きで作ったんですから……」
互いに見つめ合っていると、なでしこさんと志摩さんが話しかけてきた。
「千代さん、行きましょうか。」
「あ、ああ………」
「お姉ちゃん、私たちも帰ろう?」
「え?しょうがないわね~」
「じゃあ、千代さんも気をつけて下さいね。」
「行ってきます。」
「リンちゃんも気をつけてね?」
「分かってるって、なでしこも斉藤と一緒にバイト頑張れよ。」
俺は熊本の実家、志摩さんは伊豆半島、桜さんとなでしこさんは自宅へとそれぞれ別れる。
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俺は最寄りのインターチェンジから高速に乗った。
合流のために方向指示器を点灯、後方確認してからアクセルを強めに踏と、1.6L 272馬力のターボエンジンが唸りを上げて加速する。
「キタキターー!」
シートにこのぐぅーッ!と押し付けられる感じがなんとも言えない。
シフトチェンジをして本線に乗った。
「やはり年末……けっこうな量が走ってるな。」
長距離トラックを始め、多種多様な車がいる。
中部横断自動車道を走り、新清水JCTから新東名高速に入って静岡・愛知方面へと向かった。
「ああ~クルーズコントロール、便利だなー」
時速120kmで走れる区間やら高速を走り続けてると、お腹が急にグルグルしてくる。
「お?この感じ……来やがったなッ!!?」
長旅、俺に取っての緊急イベントが発生。
ブツの処理をしなければ……
次のサービスエリアは5キロ先にある浜名湖か。
クルーズコントロールのシステムを切って、自身の裁量でアクセルを踏む。
「早く着け~♪早く着け~♪」
変な歌まで歌い出す始末。
浜名湖のサービスエリアへの入り口が見えた。
「ヨッシャ!もう少しだ!頑張れ!」
と限界に近い自分を鼓舞する。
駐車場に車を止めて、お手洗いへとダッシュで駆け込んだのだった。
「ふぃ~」
スッキリして上機嫌の俺……
ふと時間を見ると朝の8時を回っている。
「お腹すいたな……桜さんのお弁当を食べよう。」
一度車に戻り、お弁当を持参して店内のフードコートへと向かった。
しかしフードコート内は帰省中の家族連れなんかでごった返している。
「これじゃあ、ゆっくり食えたもんじゃないな……しょうがない、外に行ってみるか。」
俺は場所変えて外に出た。
ついでにお茶を自販機から購入する。
「お、テラス席が空いてんじゃん。」
外は寒いので人気がないのだ。
しかも、俺の車を眺められる。
元自衛官の俺に取って、このくらい寒さはへっちゃらへっちゃら♪
すぐさま空いてる席へと座り、桜さん手作りのお弁当のフタを開ける。
「おぉ……美味そうだ。」
彩りも良く栄養バランスも考えられており、桜さんの女子力の高さが伺えた。
「いただきます。」
根菜の煮物に箸を付け、一口……
「優しい味だ……」
上品な味付けだ。
次に唐揚げを一口……
「おお!スゴいパンチ力!ニンニクの香りがガツンとくるぞ。」
これは米が進む!
うん、自然と笑顔になる。
桜さんの手作りお弁当を味わっていたら、誰かに声を掛けられた。
「ちーよさん!」
顔を上げるとそこにいたのは、以前に出会った女子高生ライダーの佐倉羽音さん。
彼女とは鈴鹿サーキットでのイベントに参加するための道中で出会い、一緒に走った仲だ。
「キミは佐倉さん……で良かったよね?」
「わぁー!覚えててくれたんですねー!」
彼女は満面の笑みを浮かべている。
「ねぇー!恩紗ちゃーん!みんなー!千代さんがいたよーー!」
野生動物を見つけたと言わんばかりの勢いで、他の仲間たちを呼んだ。
「お久しぶりです。」
くせっ毛の女の子、天野恩紗さんが一礼。
「こんなところで会うなんて……今回はどちらまでいかれるんですか?」
ピンクのつなぎを着た金髪ツインテールの"鈴乃木凜"さん尋ねられた。
「熊本の実家に帰ろうかなって……」
「千代さんも熊本に行くんですか?」
「千代さんもって……キミたちも熊本に行くのかい?」
「そうだよー!お正月に………えーっと、どこを走るんだっけ?」
「大観峰ですわよ。」
「そうそう!大観峰!みんなで走るんだよー♪」
「寒いのに元気だね?けっこうなことだ。」
「何言ってんッスか~千代さん、おじいちゃんみたい!」
天野さんがニシシッとはにかむ。
おじいちゃん……
なんか、おじさんから一気にステップアップしたよ。
「千代さんは……今回、バイクじゃないんですね?」
鈴乃木さんが問いかける。
「まあ、今回は実家へのお土産とかたくさんあるからね。あ、車はそこに止めてあるよ。」
指を差した方をバイク部が見るとそこには愛車のGRヤリスが止まっていた。
「あれが千代さんの車……」
「おほー!カッコいいー!」
佐倉さんは目を輝かせている。
今まで後輩たちのやり取りを見守っていた来夢先輩が、どこからともなくボードを取り出した。
彼女はボードにサラサラサラっと字を書いて俺に見せる。
「えっと?なになに……千代さんの愛車を近くで見ても良いですか?」
来夢先輩はバイクだけじゃなく、車にも興味があるのかな?二つ返事でOKを出した。
佐倉さんと天野さんを連れて車を見に行く。
「アンタたちー!あんまりベタベタ触るんじゃないわよー!」
「なんか鈴乃木さんって、みんなのお姉さんみたいだよね?」
「はいッ!!?そ、そんなことないですよ!」
顔を赤くして謙遜する鈴乃木さん。
「分かりますわ。千代さんの仰いたいこともね♪」
談笑をしながら弁当を食べ終わり、再び出発しようと席を立つ。
「出発しますの?」
「そうだね。今日中には山口県まで行こうと思ってるから。」
「奇遇ですね。私たちも今日は山口県にあるホテルに止まるんですよ。」
「ワタクシのお父様が経営するホテルを予約してますの。」
「へ、へぇ~」
言葉もない。
バイク部が先が出発した。
俺も愛車に乗り込み、エンジンをスタートさせてギアを一速に入れてゆっくり駐車場から出る。
そして減ったガソリンを補充するためにサービスエリア内に併設されているスタンドに一度寄った。
彼女たちはけっこう先を走っているかな?
そんなことを考えながら、満タンになるまで待った。
「さてと、行くか……」
俺はサービスエリアをあとにして、先を走るバイク部のメンバーたちを追いかけた。
「まだ、早い時間だからな……帰省ラッシュの渋滞に捕まるまでに出来るだけ進みたい。」
GRヤリスも順調そのものだ。
軽快に高速を走る。
「やっぱりバイクは機動力が違うな……全然追い付かないや。」
たいしたタイムラグは無かったような気はしたが、彼女たちに追い付くことは無かった。
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休憩や給油などを挟みつつ、その日の夜に山口県のホテルへと到着した。
「はあ~やっと着いた……」
思わず声が漏れる。
ホテルのドアマンの人が愛車の運転席に側に回った。
パワーウィンドウを降ろすとドアマンが、運転席に座る俺に声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ。お疲れ様でした。」
「どうも、今日予約してます。野咲千代です。」
「野咲様ですね。お車はコチラで預かります。」
前もって調べてはいたが、ここのホテルはバレットサービスがある。
俺は貴重品と一部荷物を車から降ろして、車のキーをドアマンに預けた。
「載っている荷物はそのままで、大丈夫ですので……」
「かしこまりました。」
俺はホテルのフロントに向かう。
チェックインの手続きをして、先程とは別のドアマンに案内された。
「ほぉーいい部屋だ。」
「ありがとうございます。」
その後、夕飯やらお風呂を済ませるとすでに21時に差し掛かろうとしていた。
「もう、こんな時間か。そうだ。明日の到着時間を実家に連絡しとかないとな……」
ちょっと遅いかと思いつつも、実家に電話を掛ける。
数コールしたあとに向こうの受話器を取られた。
「もしもし?俺だけど……」
『あ、お兄ィ?久しぶりじゃん。』
電話に出たのは一番下の妹……
名前は野咲あかりと言う。
「あかりか?久しぶり……」
『明日は何時に帰ってくるん?』
「予定は……ヒトヨンマルマル。」
『もー!その自衛隊式の言い方、やめてよね!』
「あーゴメン。14時到着予定だ。」
『りょーかーい!お母さんに伝えとくよ。』
「ああ、頼んだよ。ところであかりは就職したのか?」
と聞いたら電話をガチャ切りされた。
「あ、切りやがった……ッ!!?」
コイツは東京の大学にわざわざ通って卒業したのに、就職をせずに絶賛ニートを満喫している。
兄としては心配になるんだが……本当に。
気分転換にホテルを見て回ろう。
「本当に広いな。」
売店はだけではなく、子供が退屈しないようにアミューズメントエリアなど充実した施設となっていた。
年甲斐もなく、キョロキョロとしてしまう。
そんな時だった。
「千代さーーん!」
俺の名を呼ぶ声と共に後ろから強い衝撃を感じる。
「ごふゥッ……!!?」
不意のタックル、俺は対応出来ずにそのまま前のめりに倒れてしまった。
何事かと思ったよ。なんと佐倉さんが俺の腰に抱き付いていたのだ。
「さ、佐倉さんッ!!?」
「ちょ、ちょっと羽音!何やってんのよ!」
一緒にいた鈴乃木さんが佐倉さんを慌てて引き離す。
「いてて……」
「大丈夫ですか?」
「ま、まあ……」
「ったく……羽音、謝んなさい。」
「エヘヘ、ごめんなさい。」
「ケガとかしてないし、大丈夫だよ。」
俺は鈴乃木さん、佐倉さんと少し話したあとに自分の部屋に戻った。
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部屋に戻るとスマホに着信が来てるのに気づいた。
「誰からだろう。」
着信履歴を確認すると相手は桜さんだった。
「そういえば、お弁当のお礼もしてなかった。」
電話をかけてみる。
数回コールのあと相手が出た。
『もしもし。』
「もしもし?桜さんですか?千代です。」
『やっと、千代さんの声が聞けましたね。』
「すいません。電話に出れなくて……そもそもお弁当のお礼も兼ねてコチラから電話をしないといけないのに……」
『良いんですよ。それよりお弁当、どうでした?お口に合いましたか?』
「ええ、とっても美味しかったです。」
『良かった……』
電話の向こうで桜さんのホッとする様子が伺える。
「あの、桜さん。」
『何でしょう?』
「自分の家族にも桜さんこと紹介したいのですが、よろしいでしょうか?」
『ええ。もちろん……私たち付き合ってますもの。』
「ありがとうございます。」
『近いうちに千代さんの実家にも挨拶に伺わないといけませんね?』
「その時は是非ともよろしくお願いします。」
『コチラこそ。じゃあ、明日も気をつけてくださいね。』
「はい。到着したらまた電話します。おやすみなさい。」
『おやすみなさい。』
桜さんとの通話を終了した。
明日もまだまだ続く道中、今日の疲れを残さないように寝ようとした時だった。
コンコンと部屋のドアをノックする音が……
「まさかとは思うが……」
ドアスコープから覗くとそこには、バイク部の彼女たちが立っていた。
このパターンはもしかして……
以前の三重でのことが脳裏によぎる。
ドアを開けると佐倉さんが笑顔でトランプを出した。
「千代さん!今夜はババ抜きで勝負だーー!」
やっぱり……そうなるのね。
次回に続く。
再び、ばくおん!!のバイク部登場です。
ご感想をお待ちしてます。