朝が来た。
カーテンの隙間から漏れる光が脳の覚醒を促す。
「んー朝か。」
少し背伸び、寝ぼけ眼でベッド周りを見るとバイク部のメンバーが寝ていた。
昨晩、彼女たちはお菓子とジュースにトランプを持ちより夜更かしババ抜き大会をやった。
「あーデジャブ。」
部屋も色んなモノが散乱している。
「チェックアウト前に片付けしないと……」
俺は寝ている彼女たちを起こすことにした。
「起床ォォーー!」
大きな声を出すと彼女たちはビクッとして、モゾモゾと目を覚まし上体を起こす。
「おはよー朝だよ。」
「あ……千代さん……おはよー」
「おはよーございます。」
「みんな、片付けるから手伝って。」
俺の部屋を手分けして片付けた。
「よし!きれいになった。」
「千代さんはこれからどうするの?」
「着替えてから朝ごはんだね。」
「じゃあ、私たちと一緒に食べましょー!」
ということで俺はバイク部のメンバーと食堂で朝食を取った。
バイク部は九州に入る前に山口県にあるライダーに人気のスポット『角島大橋』に立ち寄るそうだ。
彼女たちとはここでお別れになる。
「千代さーん!バイバーイ!」
俺はホテルを後にした。
もちろん、出発する前にはきちんと桜さんに一報を入れている。
山口県から再び高速道路の旅が始まる。
しばらく走り、下関の関門橋に差し掛かった。
「一度、サービスエリアに入るか……」
関門橋の手前には壇之浦SAがある。
駐車場に止めて車から降りた。
関門橋の見えるスポットへ向かい、本州と九州を繋ぐ巨大な橋をスマホで写真を一枚。
「本州、脱出なう……」
野クルのグループLINEに現状報告で送った。
送った側からピコン、ピコンと返信がくる。
さすが女子高生……返信スピード光よりも速い。
なでしこ:『ふぉーー!でっかーーい!』
あおい:『関門橋ですかー?』
鳥羽先生:『ってことは、今は壇之浦ですね?』
「そうですよ……っと。」
恵那:『さらば千代さん。しばしの別れだねー』
相変わらず、斉藤さんは面白いことを言う。
千明:『いいなーいいなー!私も休み欲しい!何だろう……この圧倒的な時間貧乏!』
「酒屋さんは稼ぎ時だから仕方ないよ。」
千明:『うがぁぁーーー!』
あ、発狂した。
リン:『頑張ってる千明のためにお土産買ってくるよ。食べ物で良かった?』
千明:『なん、だ……と。本当か?しまりん?』
リン:『本当だよ。』
なでしこ:『私、アキちゃんにうなぎのお菓子を買ってくるよー♪』
あおい:『私も何か買ってくるでー』
「自分も地元の銘菓とか色々買ってくるね。鳥羽先生のぶんも。」
鳥羽先生:『宜しいんでしょうか?』
「もちろんです。」
恵那:『私は~……』
リン:『斉藤も大垣を応援してやれ。』
千明:『みんなのおかげ私、生きる希望が出てきたぜェェェー!』
休憩とLINEもほどほどに、俺は愛車に乗り込んだ。
「さて、本州脱出からの九州突入だ。」
俺はサービスエリアを出て関門橋に入る。
関門海峡を結ぶ巨大な建造物にロマンを感じつつ橋を渡り、九州は福岡県に突入!そのまま九州自動車道を熊本・鹿児島方面に向かって南下する。
福岡県を抜け鳥栖ジャンクション、大牟田を過ぎると熊本県に入った。
「久しぶりだ……何年ぶりか?10年は戻ってないような気がする。」
もう記憶もあやふやだった。
自衛隊にいた時は転属やら昇進試験とかで、色々と犠牲にした。
愛車を運転しながら、外の流れる景色を見て、これまでのことを考える。
「ちぃちゃんは結婚して、三歳と一歳半になる息子もいるし……俺、おじさんか。」
熊本県最後のサービスエリアに立ち寄り、実家に連絡した。
時間を確認すると14時前。
だいたい予定通り……
「もう少し。最後の給油をしよう。」
給油後、さらに南下して日奈久でひとまず有料区間は終わる。
「だいぶ、掛かったな……」
表示された金額を見て、ちょっと苦笑い。
無料区間を走り、山ノ浦を過ぎた先が最寄りの芦方インター。
そして、俺の故郷『芦方町』だ。
「着いたーー!」
年甲斐もなく声が出してしまう。
愛車も良くぞここまで頑張ってくれた。
そして、実家に到着。
前日に聞いていたとおり、野咲家が昔から所有していた空き地の一角に車を駐車した。
下車し玄関に向かう。
「実家だと言うのに緊張するな。」
玄関の引き戸に手を掛けて引いた。
「ただいまー!帰ったよー!」
最初に顔を出したのは母だった。
「おかえり。見ない間に立派になったわね。」
「まあ、ね……」
久しぶりの再開に涙を流す母……なんて言ったら良いか分からない。
互いに言葉に詰まる。
そんな時だった。感動の再開の雰囲気をブチ壊す存在が現れた。
一番下ニートの妹あかりだ……
「お兄ぃー!おかえりやったね!お土産は?」
「せっかくの雰囲気がお前のせいでブチ壊しだよ。お土産は車に乗ってる……降ろすの手伝ってくれ。」
「えー!」
「アンタはやることなくて暇なんだから、手伝いな!」
あかりは母に言われてしぶしぶ、俺の手伝いをする羽目になった。
「そういえば、ちぃちゃんとみのりの姿が見えないけど……?」
車の荷物を降ろしながら、あかりに聞いた。
「ちぃちゃんは夜に旦那と息子を連れてくるって。みのり姉は勤務先の高校のサークルで外出中だよ。」
「みのりは……高校の先生なのか?」
「違う違う。事務員さん……」
「なんで事務員がサークル活動してんだ?」
「なんか、サークルの部長に絡まれてそのままズブズブと……って感じ?知らんけど。」
「何じゃ?そりゃ……」
「お兄ぃは、今も自衛隊?」
「ああーお前は知らんのか……自衛隊は今年で退職したっとよ。今は山梨県の臨時職員として県内の高校で用務員ばしとる。」
「へぇーみのり姉と似てるね……もしかして、何かサークルとかやってるの?」
「ま、まあ……野外活動サークルっていうのに巻き込まれた。」
「なになに?それー?」
「みんなで楽しくキャンプする活動。あとで写真とか見せてやるよ。」
荷物を持って家に入り、昔からの自室に行く途中の台所を見ると父が手際よく魚を捌いていた。
母と祖母は正月料理の準備をしている。
「父さん、ばあちゃん、ただいま。」
「お、帰ったか……待っとたぞ。」
「千代ちゃんもお国のためによう尽くしてくれたね……お疲れ様でした。」
父は地元の漁協で長年参事のとして勤めている。
ばあちゃんは94歳だけど全く衰えてない。
日中・太平洋戦争という怒涛の時代を生き抜いた凄い人なのだ。
俺が自衛隊に入ると言った時は困惑していた。
「荷物置いたら、仏壇に線香ば上げてこい。おっの親父が待っとるけぇー」
「ああ、分かってる。」
部屋の扉を開ける。
俺の部屋は自衛隊の入隊するために、家を出た日のまま時間が止まった様だった。
「懐かしい。あの日ままだ……母さん、きれいにしてくれてたんだ。」
荷物を置いたあと、和室の仏壇に手を合わせる。
「じいちゃん。じいちゃんが死んだ時は葬式出られるずにゴメンな……」
じいちゃんが亡くなった時は、演習中で一週間ほど連絡が取れない状態だった。
演習後、戻って来て訃報を聞いた日は一人泣いていたな。
再び、台所に行く。
「ちょっと、そこら辺歩いてくるよ。」
「ああ……だったら、みのりの様子を見てきてくれ。」
「あかり、案内してやりな。」
「分かったー」
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俺は暇人で末っ子のあかりと、次女のみのりがいる場所に散歩がてら徒歩で向かう。
「みのりのサークルは学校ではやらないのか?」
「うん。魚釣りのサークルだから、部室はあそこの堤防のそばの掘っ立て小屋なんだよ。」
「釣り……まさか、ていぼう部か?」
思い出したぞ。
俺の母校、海野高等学校にある学校創立時から存在する伝統的な部活(サークル)だ。
代々変人・奇人が多いという。
「そうそう。今は女の子しかいないんだって。」
歩くこと10分……目的の場所に着いた。
「お姉ちゃん。お兄ぃが帰ってきたよー」
あかりが呼ぶと小屋の中から二番目の妹みのりが顔を出した。
「あ、兄さん……おかえり。」
「ただいま。」
あかりとは真逆でコイツは相変わらず素っ気ない。
「何してんだ?」
「年末の大掃除……見たら分かるでしょ。」
まあ確かにそうだが……
久しぶりなんだから、もっと反応してくれよ。
「あれ?あかりさんじゃん!みのりさん、この男の人だれ?」
快活な女の子がやってきた。
「あー私の兄だよ。」
「えーー!」
「もう、どうしたの?夏海ー?」
さらに別の女の子が現れる。
「陽渚!みのりさんのお兄さんだって!」
「こ、こんにちは……鶴木陽渚です。」
陽渚ちゃんがあせあせと頭を下げた。
「こんにちは。野咲千代です。」
「私、帆高夏海!」
「おーい。なんばしよっか?手ば動かさんば、大掃除は終わらんぞー?」
さらに一人……このサークルの部長か?
「ユウ姉ー!この人!みのりさんのお兄さんだって!」
お辞儀をすると向こうもペコっと反応した。
「そうだ。兄さんも手伝って。あかり、アンタもよ。」
みのりからハタキ棒を渡される。
ていぼう部には関係ない自分だが、その場のノリで部室の掃除を手伝うことになった。
とは言っても部室は知れた広さだ、大掃除はすぐに終わる。
「千代さんだったけ?手伝ってくれたから、掃除もすぐに終わったばい。」
「ですねー助かりました。」
「いやいや……気にしないでくれ。」
「それにしても、大野先輩たち遅いね。」
「連絡したら、もうすぐ帰ってくるって……」
一斗缶を利用した即席の焚き火台で焚いた火に当たっていると一台のピックアップトラックが部室小屋に横に止まった。
降りて来たのは、長身の女子校生と白衣を着た女性だった。
「さやかちゃん、掃除終わったばい。みのりちゃんのお兄さんたちに手伝って貰った。」
「……みのりのお兄さん?」
「さやか、ちゃん…………?」
切れ長の糸目に左目の泣きボクロ……
「「あーー!」」
「ちぃ兄ちゃん!」
「もしかして、小谷さやかちゃんか!」
「なんかー二人とも知り合いかー?」
「まあ、小学校が一緒だったんだ。彼女が一年生の時、俺が五年生だったけ?」
「登校班とか一緒だったの。」
「懐かしいな。俺たち兄妹や他の子たちと遊んだよね?」
「そうそう。アナタが高校卒業してからは全くだったけど……今まで何をしていたの?」
「卒業後は陸上自衛隊に入って、今年の夏に退職して今は山梨県の高校で用務員になってる。」
「じゃあ、改めて紹介するわね。ていぼう部部長の黒岩悠希。」
「んーよろしく~」
ていぼう部部長は気だるそうに手を上げる。
「二年生の大野真さん」
「よ、よろしくお願いします……////」
「こっちの二人はさっき名前を教えて貰ったよ。夏海ちゃんのお家って、もしかしてあそこの喫茶店の……」
「そうだよー『洋食・喫茶ほだか』だよ。」
お礼として貰ったペットボトルのお茶を飲みながら、ていぼう部のメンバーと談笑する。
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俺は一人、堤防の先で海に沈む太陽を見ていた。
妹や他の子たちはそれぞれ帰宅している。
「この景色も久しぶりだ。」
スマホで数枚の写真を撮った。
着信が入る。相手は桜さん。
『もしもし?千代さん?実家には着きました?』
「もしもし。ええ着きましたよ。今は夕日を眺めてます。写真撮ったので送りますね?」
スマホをいじって、桜さんに夕日の写真を送った。
『………綺麗ですね。』
「冬で空気が澄んでいるから、いっそう綺麗に見えますね。」
『私もアナタの隣で一緒に見たいです。』
「俺もです。約束ですよ?」
『フフ♪約束です。』
寂しいが桜さんとの電話も終わった。
「さてと日も暮れる。家に帰ろう。」
と踵を返すとそこにいたのは、みのり一緒に帰ったはずの末っ子あかりがいた。
俺を見てニヤニヤしている。
「はッ!!?お前、いつから居たと……ッ!!?」
「お兄ぃが黄昏ながら電話してた時から……ねえ?桜さんって誰よ……?」
次回に続く。
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