調理師免許の試験やら、尿路結石にのたうち回ってました。
三人で釣りに没頭していると正午を伝える大音量の音楽がスピーカーで町中に流される。
「お昼か……」
「陽渚ぁ~今日はこの辺で止めとこうか?」
「そうだね。けっこう釣れたし……」
「陽渚ちゃんはキュウセンだけどねー♪」
「もー!それは言わないでください!」
二人の片付けを一緒になって片付けていると、ていぼう部の部長黒岩さんがやってきた。
「なんやー?鶴木と夏海は、もう仲良ぉーなっととかー?」
「あ、黒岩部長!」
「ユウ姉!オッス!」
「それで?なんか釣れたん?」
「けっこう釣れたよ。ほら!」
俺たち三人は今回の釣果を黒岩さんに見せてあげた。
「ガラカブ五匹、メバルが二匹……これはキュウセンか……」
「いや~久しぶりの釣り、楽しかったよ。」
「おおー凄かがね~それでぇ?鶴木が釣ったのは、このキュウセンだけやろ~?」
「ぬぁッ!!?どうして分かったんですか?」
ワイワイしながら、片付けが終わった。
「じゃあ、今日釣った魚ば、食おっか……」
「「おーー!」」
「食べるってどこで?」
「そりゃあ、ていぼう部の部室た~い!」
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俺たちはていぼう部の部室へと移動した。
俺は一度家に戻り、愛車に乗り換えた上で、陽渚ちゃんと夏海ちゃん……そして釣り道具を拾って向かう。
黒岩さんは一つ下の後輩である大野さんにも電話を掛けて呼び出したあと、自身の駆るバイクで大野さんを拾って一足先に部室へと向かった。
「ヒナと!」
「ま、まことの……ッ////」
「「お料理!がんばるぞい!」」
なんだ?唐突にお料理教室みたいなのが始まったぞ?
「まずは魚のヌメリをさっと洗い流して鱗を取りましょう。」
大野さんは包丁の背の部分を使い、手際良く魚の鱗をこ削ぎ取っていく。
「ガラカブは味噌汁、メバルは煮付けにするから、お頭付きでエラを取って……」
「大野さん、手際良いねー」
「大野は将来、よか嫁になるばーい。」
黒岩さんに言われて、彼女は恥ずかしいのか、うつ向いていた。
「え、えっと……腹を裂いて、内臓を出します。」
「うぅ……」
陽渚ちゃんは魚から出される内臓から目を反らそうとする。
「もしかして、陽渚ちゃんはこういうの苦手?」
「陽渚は昔からずっとだもんな?」
「そぎゃんたい。すーぐ騒ぐけんね……」
「私は二人とは違って、スッゴくデリケートなんだからね!」
「でも、鶴木もいい加減に魚くらいを捌けるようにならばねー」
「俺なんて自衛隊いた時、レンジャー教育受けた時はヘビにニワトリと捌いたよ……」
「はぁ~~……」
陽渚ちゃんの顔から血の気が引いていくというか、魂が抜けていく。
そんなことに気づくことなく、俺はさらに自衛隊で経験したことを話した。
「ニワトリには名前を付けて、ペットみたいに可愛いがったのちに捌いて食べたよ。」
「えっ?悲しくなかったの?」
「一ヶ月くらい飼ってからね。愛着もあったから、泣きながら捌いて食べたよ……でも生きるってそういうことだろ?」
「ちょっと、その話はそこまでにしようか……陽渚が逝っとるけん……」
「あ……」
ということで、机変わりのケーブルドラムの上には釣った魚で作られた料理が並べられた。
「これは凄いな……」
「大野先輩はアタシたちのお嫁さんなんです。」
「そ、そんな……たいそうなモノではないです。」
謙遜する大野さん。
「んじゃ、食べようかー」
俺たちは席に着いて昼食を取る。
「うまい……お金を出せるレベルだ。」
「大野は鮮魚店の看板娘やけんねー」
「なるほど……納得だ。」
楽しい昼食も終わり、俺はみんなで食器などを片付けていた。
「美味しかったねー♪」
「大野先輩、お嫁さんに欲しいです。」
微笑ましい様子にホッコリしていると、俺のスマホが鳴る。
「千代さん。スマホが鳴ってますよ。」
「そうだね……誰からだろう?」
ハイハイと濡れた手を拭き、スマホの着信相手を確認すると各務原さんからだった。
「モシモシ?各務原さん?どうしたの?」
『モシモシ、ちょっと千代さんの声が聞きたくなって……』
「しばらく会ってないからね。それでバイトはどうだい?順調?」
『はい。配達とか大変だけど、恵那ちゃんと二人三脚で頑張ってますよ!今、私たちも遅めの昼食で……』
『やっほー!千代さん、お久しぶりでーす。』
相手が代わった。
斉藤さんも元気そうだ。
「斉藤さんもお疲れ様だね。キミも配達とかを担当してるの?」
『私は郵便局で年賀状とにらめっこしてます♪』
宛先ごとに仕分けするのか……
これはこれで、大変な仕事だな。
『私たちのバイトは明日で終わりなんですよー』
「そっか、大詰めだ。」
二人と通話してると陽渚ちゃんが声をかけて来た。
「千代さーん。いったい誰と電話してるんですか?」
「ああ、自分が勤めている高校の生徒さん。」
そう言って、電話の相手を陽渚ちゃんに説明する。
そして、各務原さんと斉藤さんはビデオ通話を通してていぼう部と知り合うことになった。
「あん子たちが野外活動サークルに所属しととっかー可愛かがねー」
「他にもいるんですか?」
「あと三人って良いのかな?いるよ。」
ていぼう部とのご飯会はこれでお開きとなる。
「それじゃ~千代さん、三人ばよろしくお願いしま~す。」
「ああ。」
部長の黒岩さんは、バイクで颯爽と帰っていく。
現地解散した俺は陽渚ちゃんと夏海ちゃん、新たに大野さんを愛車に乗せた。
「うわー千代さんの車、後ろセメーぇ。」
「うん。二人になった瞬間、イッキに狭くなった……」
「し、仕方ないよ……この車はWRCで公道とかダートコースを高速で走る用のスポーツカー……空力を考えて設計してある。それにカーボン製のルーフとかフロント、カッコいい……」
なんと、大野さんが俺のGRヤリスを二人に分かりやすく説明してくれた。
「マニュアル、赤いブレーキキャリパー……RZハイパフォーマンスのハイグレード。」
そこまでッ!!?なんか感動……!
「分かるのッ?大野さん!」
「は、はいぃ……ッ!!?」
「嬉しいなーこの車が分かってくれる人がいるなんて!」
テンション上げて三人を送る。
もちろん安全運転で!
最初に大野さんを次に夏海ちゃんを降ろして、最後に陽渚ちゃん……
彼女は後部座席から助手席へと移動していた。
「なるほど、陽渚ちゃんは裁縫が趣味なんだ。」
「はい。ステッチとかぬいぐるみ……色々作ってます。」
「へぇー女の子してるね。」
「えへへ……////」
「でも、それがどうしてていぼう部に?」
陽渚ちゃんが遠い目をして、経緯を俺に話してくれた。
「私、今年の春に引っ越して来て、その日に散歩がてら海に行ったら黒岩部長と会って……その時部長に誘われて初めて釣りをしたんです。」
「それで何を釣ったの?」
「タコです。」
「タコ……なんかいきなりレベルの高いのに挑戦したね?」
「私自身、何も知らずに挑戦して……釣れたんです!タコが!」
「凄いじゃん。ビギナーズラックだね。それで釣りにハマったと……?」
「違います。私、ホントは生き物全般が怖くて……釣れたタコが足に絡み付いてきて、もう、気持ち悪くて、気持ち悪くて……」
「あーあれは確かに気持ち悪いか……ヌルヌルしてるし……」
「それで黒岩部長に取って貰おうとしたら、急にニヤニヤしだして、『ていぼう部に入ってくれたら、取ってやる。』って言われて……」
「ハハ……強引だ。」
「あの時、部長にはキツネの耳としっぽみたいのが見えた気がしました。」
あーなんとなく分かる気がする。
黒岩さん、絶対腹黒そうだもん。
そうこうしているうちに、陽渚ちゃんの自宅へ到着した。
といってもウチの二軒隣のご近所さんだった。
「陽渚ちゃん、ご近所さんなんだ。」
「そうですよ。知らなかったんですか?」
「あ、うん。妹たちも教えてくれなかったし……」
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俺は彼女とその釣り道具をおろして帰宅する。
やはり冬場は日の入りが早い。
実家の二階にある自室のベランダから八代海に沈む夕陽をスマホに押さえた。
「今年もこれで終わりか………さぶ。」
夕陽の写真をLINEを使い、野クルのグループと桜さんにそれぞれ送る。
その日の夜、夕食を取ってお風呂に入り、自室でゆっくりしているとスマホが鳴った。
「志摩さんからか……モシモシ?」
『あ、千代さんですか?』
「こんばんは。久しぶりだね。」
『お……お久しぶりです。夕陽の写真見ました。綺麗でした。』
「自分も良く撮れたと思うよ。それで、そっちはどうだい?キャンプ、楽しんでる?」
『こっちは山梨よりも気温が高いし、過ごしやすいと思います。』
「そっか……ツーリングはどうだった?」
『やっぱり、海沿いは風凄いですね。』
「確かに。昔走ったことあるけど、あそこは風防ないとキツいよね。それで晩御飯は食べた?」
『はい……そばを作って食べました。』
「そっか……大晦日だし、ちょうどいいね。」
『それもあるけど……クリスマスに食べすぎちゃって……』
「花の女子高生、難しいお年頃なんだね。じゃあ風邪引かないように気を付けて休むだよ。」
『あ、はい。お休みなさい……』
志摩さんと話し終えた俺は電話を切った。
「今日も色々と良い経験ができた。」
そう思いながらも今日は疲れたので寝ることにしたが、その後は桜さんから電話があったり、大垣さんからのLINEラッシュが止まらなかったりと気づいたら年を越していた。
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「お兄ぃ、起きて!」
まだ日の明けない早朝……
末っ子の明里が俺を揺すって起こす。
「うーーん……」
「起きてってばーー!」
だが、以前として俺は起きない。
「こうなったら!」
ラッパの音が鳴る。
やってくれた……明里は起床ラッパの音源をスマホを通して流してくれた。
「………………うわッ!!?」
「やっと起きた!お兄ぃ!初日の出、見に行くよ!」
ということで、俺は末っ子のわがままに付き合わされて車を出す。要はアッシーくんだ。
俺の隣には大野さんが座っており、また後ろの席には末っ子の明里と陽渚ちゃんが乗っている。
そして、ていぼう部の顧問で後輩のさやかちゃんが運転する車には、みのりと黒岩さん、夏海ちゃんの三人が乗っていた。
「ったく……正月早々、目覚め最悪だ。」
俺は明里に悪態をつく。
「ごめんなさい。私たちのために車を出してもらって……」
「大丈夫だよ。陽渚ちゃん。」
「そうそう♪お兄ぃは、かわいい妹たちの言うことは断われないんだよ。」
「何を馬鹿なことを……あ~あ、陽渚ちゃんが妹ならどれだけ良かったことか……」
「えッ!!?そ、それって……////」
ルームミラーを使い、チラッと陽渚ちゃんを見ると彼女はあたふたしていた。
「あー陽渚ちゃん、かわいいー♪」
明里は陽渚ちゃんのほっぺたを突っつき回す。
「も、もう!止めてくださいよー!明里さん!」
「それで、大野さん。改めてこの車の乗り味はどうだい?」
「さ、最高です……!低速時はエンジン音は静かだけど、アクセルを踏んで加速すると一気に吠える。それに加速が重たい……中身の詰まったような感で。」
俺の愛車は峠道をぐんぐんと登っていき、目的地である山腹の駐車スペースに車を止めた。
到着した時には、東の空が白み始めている。
「あと少しで日の出の時間だ。」
スマホの画面を見て、時間を確認した。
そして、今年最初の日の出を迎える。
山の木々、芦方町、八代海と徐々に照らし出した。
「凄いな……」
あまりの美しさに俺も語彙力が下がってしまう。
妹やていぼう部もその絶景に魅入っていた。
「千代さん、明けましておめでとうございます。」
陽渚ちゃんが声をかける。
「ああ、おめでとう……今年も良い年になりそうだ。」
次回に続く。
次回から『放課後ていぼう日誌』→『ゆるキャン△』になります。