伊豆の西側の空がだんだんとオレンジに染まりはじめ、世界がセピア色に変わっていく。
伊豆での一日がもうじき終わるのだ。
右へ左へ曲がるたびにアクセルオフって、クラッチ操作、シフトダウン……
身体の力を抜いて、上半身をコーナーの内側に合わせて投げ出す。
間近に迫るアスファルト、路面のスレスレにリーンイン。
コーナーを曲がり、体勢を建て直しながら、アクセルを開けた。
タイヤのトラクションを感じながらコーナーの出口へと頭を向け続ける。
耳元でエンジンの音が元気良く吠える。
ミラーをちらりと見ると右斜め後ろからリーンアウトで追従する志摩さん。
やるなぁ……これくらいなら楽勝ってところか。
『なんやあれ、ムッチャ速いやん!』
『千代さんは分かるけど、しまりんってあんなに運転うまかったんだな……』
犬山さんと大垣さんは感心した声を出す。
『かっこいいよ!二人とも!』
『だねー』
各務原さん褒め言葉に斉藤さんも賛同していた。
機動性は明らかにバイクが上。
いつの間にか大きく距離を離してしまっていた車組から聞こえてくる驚きなどの声にちょっとだけ恥ずかしくなる。
けどこれも全て温泉のためなのだ。
『千代さん、温泉まであとどれくらいですか?』
細野高原を後にした俺たちは一路温泉へと爆進する。
木々の立ち並ぶ峠道をフルスロットルで駆け抜けていった。
目指すはキャンプ場!
その前に温泉!
志摩さんの言葉にタイミング良くグルグルマップの音声案内が入る。
「聞こえた?あと10キロくらいだよ。」
『はい。急ぎますよ。千代さん……』
「安全運転の範疇でね。」
コーナーの終わりでアクセルを吹かしながら、シフトアップし加速していく車体。
昼間に比べるとずいぶんと冷たくなった風が、身体に当たっては後ろに流れていく。
「やっぱ峠って最高だねー!」
『調子乗ってハングオンとかしないでくださいね。』
「そういう志摩さんこそバンクさせすぎて車体擦ったりしないでよー」
ライダー同士、ヤイのヤイのしながら先を急いだ。
『あのー 私この車あんまり乗りなれてないんで、できればもう少しお手柔らかにしていただけると……』
ミニバンの鳥羽先生を忘れてた。
山も峠もなんのその……オレンジ色に染まった空の下、エンジンの音を鳴り響かせ駆け抜けていく。
温泉までもうすぐだ。
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「やっと着いた……」
志摩さんが呟く。
「だねー もう体がガチガチだよ……」
ロクダボにしがみつくように乗ってるから、体がめちゃくちゃ強ばるんだよな。
「お疲れさまでした。」
鳥羽先生とも労をねぎらう。
俺たち一行は温泉施設へ足を踏み入れた。
受付を済ませ、大浴場へと向かう。
「じゃあ、自分はこっちなんで……」
「はい。では後程……」
俺は男湯へと入った。
脱衣場で服を脱ぎ、裸一貫でいざ!吶喊!
中は清潔に保たれており、何より広かった。
ここの温泉は、夕日を眺めながら入る露天風呂が有名らしい。
体を洗ってから露天風呂へと向かった。
「これは……」
海に沈む夕日を心を奪われる。
「実家でも夕日を見ながら風呂に入れるが、ここはスケールが違う。何よりも気持ちいい……まるでお湯に溶けるようだ。」
大満足のひとときだった。
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俺はお風呂から上がり、休憩所でコーヒー牛乳を飲みながら他のみんなを待っている。
「俺が一番だったか……」
ボーッとしているとスマホが鳴った。
相手は桜さんからだった。
「もしもし?」
『こんばんは。今お話し、大丈夫ですか?』
「ええ。今温泉でお風呂入ってゆっくりしてるところです。」
『そうなんですね。なでしこから色々と写真送って貰って見ましたよ。楽しそうで何よりです。』
「ええ。みんな若いせいか、バイタリティーが凄くて疲れ知れずみたいで……ハハ。」
『何言ってるんですか?千代さんもまだ充分若いでしょ?』
「みんなからはおじさん扱いされてるけど……」
桜さんと色々話していると、みんなが戻って来た。
「あ、桜さん、みんなが戻って来たようです。」
『そうですか。じゃあ今日はこれぐらいで終わりましょうか……このあとも気をつけてくださいね。』
「ええ、じゃあ……」
後ろ髪引かる気持ちだったが、俺は桜さんとの電話を終わらせる。
「千代さん。早かったですねー」
「ムッチャ夕日きれいやったでー!」
「そっちからも夕日見えました?」
「見えたよ。いやー 凄かったよーって、鳥羽先生、顔赤くない?のぼせてる?」
「いえ、酔ってます……」
あー 風呂上がりのイッパイに飲まれたなこの人……
「おー 千代ぉー お前も飲めぇー!」
呂律が回っていない。
「自分はまだ運転が残っているので……」
「チ、ノリ悪りぃぞー!」
あ、コイツ、舌打ちしやがった……ッ!!?
それに犬山さんと大垣さんの肩を借りて、鳥羽先生はなんとか立っている。
もちろん500mlの缶ビールは手離さない。
改めて思う、この人は筋金入りだ……
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施設から出た俺たちは、駐車場で代行運転業者を待っている。
「志摩さん。大丈夫?寒くない?」
「ま、まあ……千代さんこそ大丈夫ですか?」
「自分は平気だよ。」
「元自衛官だから、そういうの慣れてるんですね?うらやましい……」
「あ、違う違う。下にはスパッツ三枚重ねで履いた上でウォームパンツだし、上は電熱ジャケット、ハンドルはヒートグリップだから、けっこうポカポカなんだよ。なんならエンジンからの排熱もあるし……」
「そ、そんな……千代さんの裏切りものー!」
その後、キャンプ場までの道のり、志摩さんはずっと素っ気ない態度を取っていた。
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キャンプ場についた頃には、鳥羽先生も少し正気を取り戻していた。
「ありがとー ございましたー」
去っていく代行業者と野口さん三枚を涙目で見送る。
受付を済ませてキャンプサイトへ……
今日は俺たち以外二組しかいないようで、サイト内であれば自由に使って良いということだ。
もちろん、モラルときまりは守ろう。
「みんな、テント建てるの早いなー」
「アタシらも、伊達に野クルやってませんぜ!ダンナ……ッ!」
「せやなー」
「キャンパーとしては、千代さんよりもベテランなんだよー」
何とか俺もテントを建て終わる。
「ヨシ!出来た……!」
今回は前回からグレードアップして、アウトドアコットを用意した。
「スッゲ!」
俺のテントを覗いた大垣さんが声を上げる
「おーい!千代さんのテントん中、スッゴく快適そうだぞー!」
他の子によるテント探訪も終わり、晩御飯の準備を始めた。
今晩は各務原さんと犬山さんが担当する。
みんなでワイワイとしていだが、その中に志摩さんの姿がない。
周囲を探してみると、彼女はいつの間にかテントを建てて、その隣に用意したチェアーに座って怪人ブランケットと成り果ており、あげくの果てに寝息を立てている。
「夜中からバイクで走って、冷えた体を温泉であっためて……まあ、仕方ないか。」
と半ばそっとしておこうと思ったが、そうは問屋が卸さない。
「リンちゃん!もう寝ちゃうの?」
各務原さんが彼女を寝かすまいと、志摩さんに話しかける。
「うー 大丈夫……今はちょっと目を休ませてだけ……」
話しかけらた志摩さんは、かろうじて返事を返した。
「金目鯛のひもので美味しいキャンプご飯、作るんだよ?」
「分かってる、分かってる……慌てなさんな。」
「リンちゃーーん!」
二人のやり取りを見兼ねた俺は……
「まあ、各務原さん……今はそっとして、ご飯出来たら起こして上げよう。」
と彼女をなだめる。
「うー」と納得してないようだが、各務原さんは犬山さんと共に料理を作り始めた。
「俺は何しようかな……」
そんなことを思っていると、あかりちゃんが俺のもとに駆けよって来た。
「なぁ、ちよさーん?アタシにたきびのしかた、おしえてーなー?」
「え?ああ、いいよ。」
俺は二つ返事で了承し、手早く焚き火の準備をする。
「じゃあ、始めようか。」
「は~い。」
「まずは約束。焚き火などで火を扱う時は、きちんと消火用のお水の準備とお父さんやお母さんなど大人についていてもらうこと。いいね?」
「は~い!」
「では始めようー」
俺がマッチを擦ると火が灯る。
そして、あかりちゃんが手にした小枝に火を着けた。
「おお……着いたでー」
「やけどしないよう気をつけてね……」
彼女は手にした火の着いた小枝を、そっと焚き火台に置く。
「で、細い木から順番に太い木を置いて、少しずつ火を育てていくんだ。」
「オオォー!」
大興奮のあかりちゃん。
「ね?簡単に着いたでしょ?」
オレンジ色の火がメラメラと揺らめき、パチパチと爆ぜる音が幻想的な雰囲気を醸し出す。
「たきびって、もっと大変かと思っとったよー」
「あかりちゃんは焚き火するのは初めてかい?」
「ううん。クラスのみんなで落ち葉たきやったことあるでー」
「落ち葉たきかー 自分も小学生のときにしたことあるよ。」
落ち葉たき……懐かしいな。
「自分で着けたのは初めてやでぇ。」
「焼きいもとか美味しいよね?」
「なんや?千代さんは落ち葉たきで焼きいもとか焼くん?」
「自分が通っていた小学校にはさつまいも畑があってね、学校行事で全校生徒で協力して栽培するんだよ。あかりちゃんの学校にはそういう行事はないの?」
「ウチの学校にはないなー うらやましいで。」
焚き火を挟み俺とあかりちゃんは焼きいも談議に華を咲かせる。
「それにしても……はぁーー ポカポカするねぇ、千代さん……」
「そうだねー」
焚き火の火と薪の爆ぜる音、心を無にして見つめていると気が遠くなって……………Zzz……
「あおいちゃーーん!千代さんも逝ってもーたー!」
次回に続く。
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