おじキャン△   作:Shin-メン

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ラストスパートです。


ただいま。 前編

和やかなムードにほっこりしながら、酒を嗜んでいるとスマホが鳴った。

 

「お、桜さんか……モシモーシ。」

 

『モシモシ。千代さん、そっちはどうですか?』

 

「今夜はなでしこさんとその友人のお誕生日会を兼ねて、みんなで楽しくやってますよ。」

 

『そうですか。引率もきちんと出来てるみたいで安心しました。』

 

「ハハ……ちゃんと出来てるかは、俺自身分からないんですけどね。」

 

彼女との電話しながら、生徒たちを眺める。

 

「俺って、半ば無理矢理に相談役って立場に任命されて正直面倒だなーって思ってたんです。プライベートも無くなるし……」

 

『分かります。千代さんの気持ちも……』

 

「でも今はこうやって彼女たちの成長を見ていると、何だか父親にでもなった感じがします。」

 

『フフ……♪』

 

「あ、桜さん、今笑いましたね?俺、けっこう真面目だったのに……」

 

『ご、ごめんなさい……でも大変なことはまだまだあると思うから、頑張ってくださいね?お父さん♪』

 

「むぅっ……桜さんはそうやってすぐに俺のことをからかうんだから……」

 

『だって千代さん、いつも反応が可愛いんだもん。』

 

35歳のおじさんが可愛いとな?

うーむ……今時の若者の感性は難しい。

 

『明日までですが、なでしこや他の子たちの引率よろしくお願いしますね。』

 

「了解です。」

 

桜さんからの電話が切れる。

 

「おやすみなさい……」

 

光るスマホの画面を見ながら、俺はそう呟いた。

 

「お知り合いからでしたか?」

 

鳥羽先生が聞いてくる。

 

「ええ、まあ……そんなもんです。鳥羽先生こそ今、電話中でしたよね?」

 

「私は妹からでした。」

 

生徒のキャンプ料理をアテに、鳥羽先生と互いに酒を酌み交わした。

 

「ねぇ?みんな 明日の朝、達磨山から日の出見てみない?」

 

△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△

 

最終日……

まだ夜も開けない中、俺たちは達磨山ヘ向かう。

生徒たちは鳥羽先生の車で俺はロクダボと西伊豆スカイラインを走った。

 

『ほぇー 千代さん、はやーい』

 

相棒と一つとなった俺は、一陣の風のように峠道を駆け巡る。

 

「あかり~?着いたでー」

 

目的地に着いた。

犬山さんは車の中で寝ている妹のあかりちゃんを起こそうとしている。

 

「んぅ~ やっぱりねてるー さむいからしめてぇ~」

 

あかりちゃんは早速リタイアしそうになっていた。

 

「あかりちゃん、一緒に登らない?」

 

自分も声をかけてみる。

 

「だってー お外さむいもん……」

 

だけど小学生らしい返答が返ってきた。

 

「自分がおんぶしてあげるよ?」

 

と、あかりちゃんに優しく聞いてみる。

 

「う~ん…… じゃあ、行くぅ。」

 

眠け眼のあかりちゃんは、俺が連れてってくれるならと一緒に行く気になったみたいだ。

 

「千代さん、大丈夫ですか? 私が見ときますよ?」

 

鳥羽先生が心配している。

 

「子供一人、大丈夫ですよ。自衛隊の装備に比べたらマシなもんです。」

 

「すみません。ウチの妹が迷惑をかけて……」

 

頭を下げる犬山さん。

 

「心配しなくて大丈夫だよ、犬山さん。」

 

俺たちは全員で達磨山を登り始める。

肌に突き刺すような寒さの中、息を吐いてみた。

白く濁った息が、暗く静かな薄闇に溶けていく。

 

歩きながら、たまに後ろを振り返った。

緩やかに……だけど確かな存在感を持ってうねる西伊豆の稜線。

 

果てしなく続く稜線を眺めていると、まるで自分が鯨の背の上にでも乗っているかと錯覚するそんな気分になった。

 

「えっほ、えっほ……」

 

そんな静かな世界で、一際元気な掛け声がこだます。

 

「だ、る、ま、や、ま〜♪」

 

各務原さんは楽しそうに変な歌を歌いながら、山を登っていた。

まだ日の出前だというのにすごい元気。

 

「暗いんだから、あんまりはしゃぐなよー」 

 

「はーい!やーまがあるから、のぼっるのだー♪かーわがあっても、きにしないー♪」

 

志摩さんの注意は本当は聞こえているのやら……

 

「ほんとーに分かってんのか?アイツ……」

 

俺のちょっと後ろを歩く志摩さんが、先頭を行く各務原さんにボヤく。

しかし、そんな風にボヤく彼女の顔は薄闇の中でもはっきりと分かるくらいに綻んでいた。

 

「それにしても、千代さんは凄いですね?」

 

志摩さんが感嘆とした声で話しかける。

 

「なにが?」

 

「だって、あかりちゃんをおんぶして登山してるのに、息ひとつ上がってないんですよ?」

 

「まあ、自衛隊にいた時は40キロ近い荷物背負って、かなり距離歩いていたし……」

 

「それでも凄いですよ。」

 

「志摩さんのおじいちゃんも、このくらいいけるんじゃないかな?」

 

「うーん…… おじいちゃんなら歳より若く見えるし、意外とイケそうかも……」

 

「それに昔あった災害の時に、あかりちゃんくらいの女の子を救助して避難所まで背負って行ったこともあるんだ。」

 

「そうなんですか。」

 

「あれから何年たっただろう? あの娘は元気にしてるんだろうか? 元気にしてると志摩さんと近い年頃だと思うんだけど……」

 

もうすぐ山頂だ。

 

「五時半回ったか……」

 

腕時計で時間を確認する。

日の出時間は6時10分……問題はないだろう。

 

俺たちは達磨山の頂で最後の旅の始まりを迎えようとしていた。

 

「リンちゃーん!千代さーん!こっちこっちー!」

 

いつの間にか遠くまで行っていた各務原さんが、俺たちに向けて元気良く手を振る。

どうやらあそこが達磨山の頂上みたいだ。

 

「志摩さん、自分たちも早く行こか。」

 

そう言って俺は振り返りながら、志摩さんに手を差し出した。

 

そんな俺に志摩さんはビックリした顔をしていたが、気恥ずかしそうにゆっくりと手を握り返してくれた。

志摩さんの冷え切った手が、差し出した俺の手をしっかりと握る。

 

「じゃ、しゅっぱーつ!」

 

「……しゅっぱーつ」

 

△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△

 

頂上に着いた。俺はあかりちゃんを降ろす。

 

「うー さむーい……」

 

お団子のように、あかりちゃんはうずくまった。

 

「はい、できたよー」

 

そこへ各務原さんがマグカップを渡す。

 

「お、さんきゅー」

 

「ありがとね、各務原さん。」

 

中には熱々の味噌汁の入っていた。

俺はマグカップを各務原さんから受け取り、先にあかりちゃんに回す。

 

「あかりちゃん、あったまるよ。」

 

「千代さん、ありがとーなー」

 

「熱いから気をつけてね。」

 

カップに注がれた熱々の味噌汁から立ち上った湯気が、伊勢海老の濃厚な香りが鼻をくすぐる。

あかりちゃんは火傷しないように気をつけながら、味噌汁をひと口すすった。

 

「……あ、うまい。」

 

「はふぅ~ うまー」

 

口に含んだ瞬間、濃厚な海老の風味が口いっぱいに広がり、息を吐くと白い湯気とともにさっと鼻腔を通り抜けていく。 

 

「……海老の香りすごいね。これ昨日の伊勢海老の殻使ってるんだよね?」

 

「うん……ていうか出汁とるの2回目なのにちゃんと味出るんだな?凄いな……」

 

「でしょー?前にお母さんに教えてもらったんだー」

 

「ずず……うまい……」

 

「そうじゃろー? うまいじゃろー?」

 

褒められた彼女は得気に笑う。

俺も自炊してるし、料理はかなり得意な方だけど、こういう応用はやっぱり敵わない。

 

俺もまだまだ修行が足りないってことかな。

帰ったら、改めて料理の勉強でもしてみるか?

四人で味噌汁をすすりながら、眼下に広がる伊豆の広大な大地を眺める。

 

薄闇の中にぼんやりと浮かぶ黒いシルエットを眺めると、俺たちがいかにちっぽけな存在なのか、改めて良く分かった。

 

「伊豆ってほんと広いよねえ。二人とも走ってみてどうだった?」

 

「めっちゃ楽しかった……!」

 

笑いながら、志摩さんが応える。

思えば彼女も会ったばかりの時に比べてみれば、ずいぶんと柔くなった。

 

「……そっかー♪ ねえ、リンちゃん!」

 

「なに?なでしこ……」

 

「また行こうね!キャンプ!」

 

「……だな。」

 

志摩さんは照れたように笑う。

 

「千代さんは?」

 

各務原さんと志摩さん、二人の瞳がじぃーっと俺を見つめている。

俺がどう思っているかなんて、そんなの今までの態度を見ればわかりきっていることだろうに。

 

でも大事なのはそういうことではないのだ。

楽しかったら楽しかったと、嬉しかったら嬉しかったと言葉にする。それは思いを伝えるということ……

 

キャラじゃないとか、柄じゃないとか、そんなのどうでもいい…… もちろん35歳の落ち着いたおじさん設定とかいうのも関係ない。

 

「すっごく楽しかったよ。あの時、二人に出会えてことに感謝してる。ありがとう……」

 

二人の顔がパァっと笑顔に包まれた。

 

「ひぃ、ひぃ……や、やっと着いたぁー!」

 

「思ったよりきつかったねぇ……」

 

「せやなぁ~」

 

俺たちに遅れて15分ほどして、息も絶え絶えな大垣さんたち御一行が到着した。

 

「千代さん、チビイヌ子を背負ってるのに、なんでそんなに速いんだよー!」

 

「そうですよ。私たちの方が身軽なのに。」

 

「こんなんでヒィヒィ言ってたらダメだぞ。やっぱり帰ったら、しばらく体力づくりだね。まずは軽く10キロのランニングからかなぁー」

 

俺は勝手に納得して、うんうんと頷く。

 

「「「「「それだけは勘弁してください。」」」」」

 

みんなに懇願された。

 

「それにしても、さみぃ〜」

 

「アキちゃん、お味噌汁あるよ?飲む?」

 

寒さに震える大垣さんたちに各務原さんが味噌汁をふるまい、八人で東の空の果てをのんびりと見守る。

 

「今日で終わりかぁ……なんか寂しくなるよねー?」

 

斉藤さんは遠くを見ながら、しみじみとした感想をこぼした。

 

「なんちゅうか、あっちゅうまやったなー」

 

「それなぁ〜」

 

大垣さんがこれまでの旅路を振り返るように言う。

東の空が燃え盛るように赤く染まり始めた。

星の丸みをなぞるように、太陽が照らし出す東の空。

日が昇る……そう。また一日が始まったのだ。

 

「楽しかったよねー」

 

「うん……」

 

「みんな!旅はまだ終わりじゃないよ!」

 

寂しがるみんなを鼓舞するように、各務原さんが立ち上がって元気よく言った。

 

「各務原さんの言うとおり!旅は終わってないよ!

自分たちにはまだやることが残っているから!」

 

俺も各務原さんに賛同する。

 

「そうでしたね。飯田さんにお礼しに行って……」

 

「チョコちゃんモフモフからのー」

 

「カピバラちゃんを見にいくんやー!」

 

「どうやらあかりちゃんも、調子が出てきたみたいですね。」

 

「そうみたいですね。」

 

「千代さん、下りもヨロシクなぁー」

 

「あかり、調子に乗らんの……!」

 

「「「「「アハハハ……」」」」」

 

眩い日差しを一身に浴び、みんなで顔を見合わせて笑い合った。

 

△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△

 

達磨山のキャンプ場をあとにした俺たちは一路東伊豆にある飯田酒店を目指した。

場所が場所だけに志摩さんの原付はキャンプ場に置かせてもらい、鳥羽先生の車に乗っている。

俺もキャンプ道具だけを預けて来た。

車体も軽くなってバイクの操縦が楽に感じる。

 

『千代さん、こちら斉藤恵那。現在地オクレ!』

 

「あー コチラ千代。現在地!東伊豆市に入った!オクレ!」

 

『恵那……何だよそれ。』

 

『昨日、千代さんとYouTubeで見てたんだー♪』

 

『なるほど!こちら、大垣千明!目的地にまもなく到着する!オクレ!』

 

大垣さんも乗ってきた。

 

「雑音、多し!再送せよ!」

 

ちょっと大垣さんだけをからかう。

 

『再送します。大室山が見えてきましたよー』

 

「おおー!」

 

進行方向、目と鼻の先にドッシリとした大室山が、堂々と構えている。

 

『あの、まっくろいのがそうなんかー?』

 

あかりちゃんの言うとおり、目の前の大室山は真っ黒に焼けていた。

 

『本当はススキで覆われた緑の山なんだけど、ちょうど二月に山焼きがあったみたいだよ。』

 

斉藤さんがあかりちゃんに丁寧に説明していた。

そして、目的地に到着……みんなが車から降りてくる。

 

「「「「「こんにちはーー!」」」」」

 

「いらっしゃい!山梨からよー来たねぇー」

 

次回に続く。




次回、伊豆キャン全行程が終了、山梨に帰ります。
ご感想お待ちしております。
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