俺たちは吊り橋巡りをしている。
最終目的地は畑薙湖だが、行く途中に見かけた吊り橋は、漏れなく全て渡るそうだ。
『それで?しまりんはどこのメーカーにするんだ?』
『うーん…… まだ、分からないよー』
志摩さんの次のバイクをどこのメーカーにするかで話が盛り上がっている。
『しまりんビーノと一緒のYAMAHAが良いだろ?オシャレだし!』
『やっぱり、HONDAだよね!聴いてよ。この音!スーフォアのVTECだよー』
「分かるよ。佐倉さん!ンヴァァァァーッ!って音が良いんだよね。」
『うんうん!ンヴァァァァーッ♪』
『でも最近はKawasakiのラインナップも増えたよねー? ひと昔前は大排気量のバイクしかなかったのに……』
アヤちゃんの言葉に、俺の横で走る来夢先輩が「そうだそうだ!」言わんばかりに頷いている。
『やはり!ココはワタクシのパニガーレを……!』
『だから聖ぃ~ 女子高生にはドゥカティはレベルが高すぎるんだって!整備にどれだけの手間とお金が掛かるんだよ!』
『えっと…… 私、最終的には大型まで取る予定だよ、バイクはおじいちゃんのトライアンフを譲ってもらうんだ。』
『へぇー リンちゃんのおじいちゃんはトライアンフに乗ってるだ。オシャレじゃない。』
『ありがとう凜さん……』
『それで、トライアンフの何に乗ってんだ?』
『えっと…… スクラ……す、す……』
「スクラストンR1200だね。」
『そうだ。それだ……』
『リンちゃんはさ、私と同じ真のバイク乗りだと思うの。だから私と一緒のSUZUKIのバイクが良いわね。250カタナとか最高よ!』
「うわ~ 同じ車種でありながらさりげなく小さい排気量を勧めている…… カタナ乗りの排気量コンプレックスって怖いなぁ。」
『千代さん。何か言いました?』
鈴乃木さん声に怒気がこもる。
「い、いやッ! 別に何も言ってないよッ!!? カタナ乗りの排気量コンプレックスだとか、SUZUKI乗りが変態だとか、これっぽっちも思ってないからッ!!?」
あ…… 余計なことを口走ってしまった。
ミラーで後方をチラリと見ると、400カタナに乗る鈴乃木さんから凄まじくドス黒い気配を感じる。
「へぇー 千代さんは、私のことをそんな風に見ていたのね?私のカタナが千代さんの血を吸いたがっているわ。フフフ……」
なんかヤバいぞ。いろんな意味で……
『あーあ、SUZUKI乗り…… いや、りんの地雷踏んじゃったかー アヤちゃん、道開けてやってー』
『アイアイサー♪』
『千代さん、千代さん!』
佐倉さんが俺の名前を呼んだ。
『R.I.Pだよ。』
「ど、どういうこと……?」
『ご愁傷さまと云う意味ですわ。佐倉さん?ワタクシたちも道を開けますわよ。』
『オッケーだよ♪聖ちゃん。しまりんも後ろに下がろっか。』
『りょ、了解です。』
エッ!!?チョ、まってッ!!?聖さんたちまでッ!!?
俺の前を走ってた娘たちが一斉に減速し、俺が先頭、鈴乃木さんがその後ろにと順番が変わる。
『SUZUKI乗りを…… 私を変態扱いするなァァァーーッ!』
「ギョエエエーーーーッ!」
やっぱりSUZUKI乗りは変態じゃないかぁぁー!
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鈴乃木さんの地雷を踏んで散々だったけど、再び先頭となったアヤちゃんが手信号?を出して、バイク部の天野さんから通信が入る。
『次の吊り橋見つけたよー』
路肩に停車した。
『恩沙ちゃんとアヤちゃん、もう見つけたのー?』
『うん。ほら、あそこあそこー』
第一発見者のアヤちゃんが指を差す。
『あー 確かに…… あんなのよく見つけたね。』
目を凝らすと確かにワイヤーのような物が見えた。
あれが見えるとは…… 感心するよ。
その吊り橋を目指して出発。
『こんな短い間隔である架かってるなんて、さすが吊り橋の名所だねー』
とそんなことを思ってました。
到着して分かった。吊り橋と思っていたのは、巨大な送電線だった……
俺もだが、みんなスーンとしていた。
気持ち新たにさらに奥へとバイクを進める。
そして着いたのが、小山の吊橋。
「着いたぁー!」
俺と同時にイチバン乗りの鈴乃木さんは、バイクから降りて背伸びをしている。
「つ、疲れた……」
「SUZUKI乗りをイジるから、そうなるんですよ。」
「はい。誠にごめんなさい……」
「分かればよろしい。」
俺たちに遅れること10分、志摩さんたち他の娘も到着した。
「さっきの両国吊橋より生活道路っぽいですよね。」
俺の前を……先頭を歩く志摩さん。
「みたいだね。」
まだ冷たい空気で澄んでいるのか、遠い山まで綺麗に見える。
「良い景色だ……」
「ホントですね。紅葉のシーズンだったら、もっと良かったかも……」
「ねぇ恩沙ちゃん。」
「ん?どうした?羽音。」
「今度はさ、秋に来てみようよ。」
「そうだなー 絶対に最高だろうな。」
「でもねー ここはシーズンになるとめっちゃ込むんだよね~」
「そうなの?なんか残念だわ。」
「どうにか出来ないかしら……」
「仕方ないよ、紅葉のシーズンにならない限りは……」
「大丈夫だよー 紅葉はね?気を高めて…… いざ!集中!想像力で補正をかければぁ……!」
アヤちゃんが目をカッと開き、絶景に目を向けた。
「見える!見えるぞー! おおー!スゲェー!」
「ハハ……なんたるご都合主義な目なんだ。」
ちょっと、呆れてしまった。
ふと別の視線を感じ、視線をさげると二匹の野生のタヌキがいた。
「あ、タヌキさんだー」
「ここら辺はまだ寒いからか、冬毛でまん丸じゃないか…… この間抜けな顔が可愛いんだよな。」
天野さんがタヌキを触ろうと、しゃがみ込んで手を出そうとする。
「触るなぁッ!」
俺は慌てて彼女を制止した。
俺の声にビックリしたのか、タヌキたちはトテトテと山の茂みの中に走り去って行く。
「あ~ 行っちゃった~」
「どうして大きな声出すんッスかぁ…… タヌキたち逃げちゃったッスよ~?」
「ごめん…… 野生の動物はいろんな病原菌とか寄生虫を飼ってたりするから、触ったりするのは危険なんだ……」
「病原菌?」
「寄生虫?」
「エキノコックスとかだね。」
エキノコックス……
その言葉に鈴乃木さんがピクリと反応する。
「そうよ!あーいうヤツらは、可愛い顔で愛想と一緒にエキノコックス振りまいていくのよ!もう私たちの前に現れるんじゃないわよーッ!」
鈴乃木さんは逃げていったタヌキに向かって叫ぶ。
「鈴乃木さん?どうしたの?なんか気が立ってるみたいだけど……」
「いえ、昔に苦い思い出があっただけです。さあ、次の吊橋に行きますよ!」
彼女はさっさと歩いて、バイクのもとへ戻った。
俺たちも戸惑いながら付いて行く。
出発の準備をしてると、アヤちゃんがみんなで記念写真を撮ろうと提案してきた。
「お、いいねー 例の友達に送ってみようぜ!」
「なでしこちゃんですわね。」
「でも、どうやって撮ろうかしら?」
「そだねー 自撮り棒とかあれば良いんだけど……?」
「確かに……」
「ふ、ふ、ふー♪キミたちがご所望のモノはこれですかな?」
俺は自撮り棒を取り出し、みんなに見せつける。
「「「「「おおーー!」」」」」
彼女らが歓声を上げた。
「千代さん、ヤルー!」
「備えあれば憂いなしってことさ。」
俺を中心にみんなが集まる。
カメラのフレームに入れるためか、みんなで肩を寄せ会いぎゅうぎゅうになった。
「じゃー 撮るよー」
アヤちゃんがシャッターを切るみたいだ。
「いち + いち は~?」
「「「「「「「にぃーーーッ!」」」」」」」
笑顔で一枚。
続いてもう一枚と写真を撮る。
「うん。バッチリバッチリ。それじゃあ、なでしこに送っとくよー」
「うむ、任された。」
そして俺たちは次の吊り橋へと向かった。
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接岨湖……
ナビのアヤちゃんと志摩さんが言うには、そこには大物の吊り橋があるらしい。
接岨湖公園の駐車場にみんなで入っていく。
『駐車場…… スゲー広いな。』
志摩さんが思ったことを口にしていた。
「ねぇー なでしこから返事来てたー」
「あ、ホントだ。」
俺やバイク部のメンバーも横からスマホを見せてもらうと、なでしこさんの羨ましそうなメッセージが書かれている。
「ヨシ決めた!」
「どうしたの?千代さん?大きな声を出して……」
驚かせてしまったのだろう、ビクッと天野さんが震えていた。
「ここからは別行動をしよう。」
「エェッ!!?いきなり?どうしてぇー?」
淋しそうな佐倉さんは俺の手を掴んで放さない。
「みんなはこのまま吊り橋巡りを楽しんで。自分は各務原さんを迎えに行って二人で回って来るから。LINEを使って互いに連絡を取り合おうよ。」
「へぇー 良いんじゃない?」
「でもよー 彼女を迎えにいくとしてもヘルメットとかないじゃん。」
「備えあれば憂いなし。」
俺は予備のヘルメットを見せる。
「ホント、どこから出て来るんだ?」
「今回はちゃんとヒジやヒザを守る防具もあるからね。髪を束ねるための輪ゴムと……」
「わ、分かりました。私とアヤちゃんは夕方にはキャンプ場に来ますんで……」
「了解。各務原さんには伝えとくよ。」
「お願いします。」
志摩さんたちは接岨湖の吊り橋へと向かった。
俺はそんな彼女たちの背中を見送る。
スマホを取り出し、各務原さんに電話かけた。
「あ、モシモシ?各務原さん……?」
次回に続く。
千代さんは鈴乃木凜さんに対して、変な偏見はありません。あらかじめご了承ください。
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