では、続きです。
俺は東に向かってひた走る。
今は途中のサービスエリアで休憩していた。
大井川でキャンプを楽しんでいるなでしこさん達や、別動隊の大垣さん達から、俺宛にたくさんの写真と共にメッセージがLINEに届く。
「フフ♪みんな楽しそうじゃないか。」
特になでしこさんは、早川さんの操るバイクに備え付けられたサイドカーに乗ってご満悦のようだ。
「さてと…… 俺もそろそろ出発しようか。」
俺は愛車に乗り込み、エンジンをかける。
このサービスエリアを出ると、次は埼玉県だ。
「今日は天気も良いし、車も少ない…… 順調に流れてるな。」
俺は高速をしばらく走り、そして南部町を出て2時間ちょっと…… 埼玉県は飯能市へと入る。
「南部町と似た雰囲気だ。」
飯能銀座通り商店街の道を走っていると、一件の洋菓子店が目に入った。
「夢彩菓・すすき…… 今朝は桜さんのご両親にお世話になったし、お土産用に何か買って帰るか。」
そんなことを考えながら、さらに山の方に走っていると、道路脇の看板に『この先、天覧山→→』と案内がされている。
「天覧山か…… なんか標高も大したことないし、ちょっと登ってみよう。」
見えた。あれが天覧山……
麓には寺院だろうか?古い建物がある。
車を駐車場に止めて、車から降りた。
そしてスマホを使い、この建物のことを少し検索した。この寺院は能仁寺という。
ちょうどお坊さんが、門の前を掃除をしていたので、了承をもらった上で中を見学することにした。
「おぉ……」
厳かな雰囲気を感じていると、掃除を終えたお坊さんが声を掛けて来て、色々と説明してもらう。
ここのお寺は住職の交友関係から一流のスポーツ選手が伺うスポーツ寺となっているみたいだ。
能仁寺をあとにした俺は、そのまま徒歩で天覧山に向かう。
俺は山の登山道の入り口に立った。
「さあて…… 登りますかー!」
俺は天覧山に足を踏み入れる。
と言っても、頂上までは15分ほどの登山道だ。
陸自で鍛えた俺には、ほんのお散歩レベル。テンポ良く気兼ね無く登る。
春の木洩れ日に、そよ風でさざめく木々の葉が心地よい。思ったとおり、そう時間も掛からずに頂上に到着した。
「着いたー!」
ざっと見たところ、頂上には俺一人……
性懲りもなく、俺も子供っぽいな。
俺は整備された展望台に上がり、眼下に広がる飯能市と遠くに富士山を望む。
「ほぉー なかなかに良い眺めじゃないか。」
記念にスマホで一枚。
ベンチに座り、持参した缶コーヒーを飲んでまったり過ごしていると、背後から賑やかな声が聞こえる。
「あおいー!もう少しだよー!」
「分かってるってぇ……」
「頑張ってください♪あおいさん!」
声の聞こえた方に目をやると、そこには三人の女の子がいた。
背格好からして、高校生ぐらいだろうか?
快活そうなツインテールの女の子と目が合う。
「こんにちはー!」
「こ、こんちは……」
突然なことに気圧されてしまい、俺は慌てて挨拶を返した。
「おじさん一人なんですか?」
「え、まあ……」
「どこから来たんですか?」
「えっと、山梨から……」
「スッゴーい!あおい!ここなちゃん!おじさん、山梨から来たんだってー!」
ツインテールの娘がツレの二人を呼ぶ。
グイグイ来るなぁ……
本当にこの年代は娘たちは、コミュニケーションお化けだ。凄いの一言しかない。
「ちょっと、ヒナタ……!おじさんが困ってるよ。」
淡い栗色のセミロングの女の子が不安そうに、ツインテールの娘を戒める。
「おじさんって…… 自分、まだ35なんだけど……」
「あ、ご、ごめんなさい……」
セミロングの娘が謝った。
「あ、気にしないで?言われ慣れてるから。」
「慣れてる?あの…… 他にも私たちと近い年代の女の子と知り合いがいるんですか?」
とロングヘアの女の子が聞く。
「まあ…… 今の職場が山梨の高校だから。」
「え?先生なの?」
ツインテールの娘が食い気味にきた。
「ああ…… ちがうちがう。臨時の学校用務員。そういえば、自己紹介してなかったね。自分は野咲千代、よろしく……」
「私!倉上ひなた!」
「私は青羽ここなです。」
「ほら!あおいもきちんと挨拶しなきゃ!」
「分かってるよ。えっと…… 雪村あおいです。」
「あおいは人見知りが激しいんだよねー」
「もう!余計なこと言わないで!」
「ゴメンって、あおい♪私とあおいは高校一年で同じクラスなの。」
「私はお二人の一つ下で中3です。」
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三人から話しを聞いてみるに、彼女たちは登山を趣味にしているようだ。
「へぇー キミたち、富士山にも登ったことあるんだ?凄いじゃないか。」
「あ、私は八合目くらいでリタイアしちゃったけど…… 高山病で……」
あおいちゃんはうつむいてしまう。
高山病は高地で酸素が欠乏すると起きる病気だ。
症状としては、頭痛、吐き気、疲労から来る食欲不振など多岐にわたる。
「悔しかった…… ヒナタとここなちゃんは頂上まで行って、引率してくれた先輩がいたんだけど、私に付きっきりで看病してくれて……」
「そうなんだね。」
「先輩には迷惑もかけて…… それに、私も頂上に登りたかった……!」
あおいちゃんは涙声で語った。
相当、悔しかったようだ。
「まあ、富士山もだけど山は逃げないし、その時味わった悔しさも経験だと思って、次に活かせば良いじゃないかな?」
「千代さんの言い方、なんだか登山を経験した人みたいですね。」
「そういえば言ってなかったね?自分、今の仕事に就く前は陸上自衛官いて、その時の同期が登山が趣味のヤツで、何度か一緒に登ったことあるんだ。」
「千代さんって、自衛隊の人だったんですかッ!!?」
「もと、だけどね……?」
「でも凄いです。」
三人はあんぐりとしている。
「初めて登った時はあおいちゃん…… キミと同じで自分も高山病になったよ。だからキミの気持ちは理解できる。」
「ありがとうございます。」
「ほら!逆に考えてみてよ!次は色々と対策が組めるし、絶対に上手くいくから!ね?」
「そうですよね!あおいさん!千代さんが言うとおり、次は頑張りましょう!」
「うん!ここなちゃん!私がんばってみる!」
あおいちゃんはバッとベンチから立つと、天覧山から遠くに望む富士山に「待ってろよー!」と啖呵を切っていた。
マイ自撮り棒を使い、記念にスマホで写真を撮る。
「千代さんはこれからどうするんですか?」
「どうしよう?どこかオススメはあるかな?」
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天覧山から下山した俺は、山の頂上で知り合った三人を愛車に乗せていた。
「大丈夫?後ろ、狭くない?」
「大丈夫でーす。」
「私も、大丈夫……です。」
「それでヒナタちゃん、どこに案内してくれるの?」
助手席に座るヒナタちゃんに聞いてみる。
「観音寺です。」
「観音寺には大きな象さんがいるんですよ♪」
「象さん?え?ちょっと待って?ここなちゃん、そのお寺は象を飼ってるの?」
「フフ……♪それは着いてからのお楽しみです♪ねぇー?あおいさん!」
「ねぇー♪」
ルームミラーで後ろを見ると、楽しそうにあおいちゃんとここなちゃんが話していた。
彼女たちを乗せてしばらく走らせると、目的地である観音寺に到着する。
石畳に紅葉樹と、これまた厳かな雰囲気だ。
「千代さん。コッチだよー」
ヒナタちゃん達に手を引かれ、寺院敷地内のとある場所に案内される。
「こ、これは……?」
鐘楼だろうか?木造、瓦屋根の建物の中には真っ白なが象の像が設置されていた。
「ここなちゃんの言ってた象って、このことだったんだね?」
「はいです♪」
笑顔のここなちゃん、マジでかわええ……
「でも、どうして象なの?この建物は鐘楼でしょ?釣り鐘がないよ?」
俺は三人に至極真っ当なことを聞く。
しかし、三人は俺の質問に答えることが出来ず、首を傾げるだけだ。
「なんでだろ?」
「私が小さい頃からずっとここにあるんで、当たり前だと思ってました。」
「そうだよねー 街に馴染んでたし、考えたこともなかったよね。」
四人して象の像を眺めていると、背後から老齢の声が聞こえた。
「ホッホッホー なにやら賑やかだと思ったら……」
振り向くと、そこには法衣に袈裟姿、立派な白ひげを蓄えた老齢なお坊さんが立っていた。
「こんにちはー」
「こんにちは。」
お坊さんがヒナタちゃんに挨拶を返す。
俺たちもヒナタちゃんに続く。
「ほぉー 山梨県からワザワザ……」
お坊さんが手を合わせて俺に一礼をした。
いえいえと俺もペコペコ頭を下げる。
「あの一つお聞きしたいんですが……」
「なんですかな?」
「ここのお寺の鐘楼にはなぜ鐘がないのでしょう?」
「あー それはー 太平洋戦争の開戦が迫るなか、1941年8月に公布された金属類回収令があってな。鉄資源を補うために供出したんじゃよ……」
「なるほど……」
「その…… 供出された鐘はどうなったんですか?」
あおいちゃんが和尚さんに質問した。
「溶かして飛行機や戦車などの車両、銃……」
「それに弾丸とありとあらゆるモノに使われたんだね…… 自分の祖父も戦時中、戦闘機のパイロットをしていたそうで……」
「もしかしたら、千代さんのおじいさんが乗った飛行機にも、ここの鐘が使われていたかもしれないですね?」
「かもしれない。出撃しても被弾もせず、戦争からも無傷で無事に帰ってきたし、守って貰ったのかな?そう思うと感謝しないと……」
俺はそこにあったであろう釣り鐘と、それに代わる白い象に手を合わせる。
「この白い象は張り子でな…… 1965年に檀家さんたちが、納めてくれたんじゃ。」
「なるほど。」
「仏教において象は神聖かつ縁起の良い動物とされておってな?特に白い象はお釈迦さまの生母の夢に現れてから、お釈迦さまの誕生を予言したという伝説もあるんじゃよ。」
「へぇー」
「だから、白いんだー」
「勉強になるなー」
その後、俺とヒナタちゃんたち三人は、和尚さんのご好意に甘えてお茶までご馳走になった。
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観音寺をあとにした俺たちは、飯能銀座通り商店街へと向かっていた。
「千代さん、次はどこ行きますぅ?」
ヒナタちゃんの問に車内の時計を見ると15時を指すところだった。
「もう、15時か…… 時間も時間だし、そうだなぁー 何かお土産でも買って、それで今日は帰ることにするよ……」
「そっかー さみしいなぁー」
「せっかく仲良しになれたのに……」
「ハハ…… 仕方ないよ。」
ここなちゃんはシュンとしている。
「そういえば、この商店街に夢彩菓・すすきって、洋菓子のお店があったよね?」
俺の発したその言葉に、車内の三人が反応した。
「そこは……!」
あおいちゃんが口を開くよりも、ヒナタちゃんが教えてくれた。
「お目が高いですなぁー そこは大人気のお店で……」
「あおいさんがアルバイトしてるんですよー♪」
「ここなちゃんッ!!? うわぁー!」
あおいちゃんは顔を真っ赤にしている。
「別にそんなに恥ずかしがらないでも良いのに……♪」
「千代さんも、からかわないで下さい!」
ワイワイしながら、最後の目的地である、洋菓子店 夢彩菓・すすきに到着した。
「こんにちはー」
俺を先頭に店内入る。
「いらっしゃいませー」
笑顔の似合う女性店員が出迎えてくれた。
「あれ?あおいちゃーん♪」
「お、お疲れ様です。」
「え?それにヒナタちゃんにここなちゃん、どうしたの?それにこの男の人は?もしかして……」
「あー ち、違います!アナタが考えてる関係ではないですからッ!!?」
「ひかりさん。この人は天覧山で会って、近所を紹介してたんですよ。」
「うーーむ……」
この人、けっこう疑い深いな……
俺はあおいちゃんの先輩に事細かに説明する。
「分かりました。信じます。」
ちょっと心もとないが、信じてくれたと思いたい。
その後、俺は各務原家へのお土産とは別に、野クルのみんなにもお土産を購入した。
「ありがとーございました。」
「じゃあ、私たちはここで……」
駐車に戻って来たところで、あおいちゃんがそう俺に告げる。
「そっか…… 今日はありがとね。」
「いえ!私たちも楽しかったです!」
「今度は一緒に登山しましょうね。」
また一つ思い出が増えたな……
三人と別れた俺は、そんなことを想い帰路についた。
次回に続く。
ということで、今回はヤマノススメとクロスオーバーしてみました。
ここなちゃん、マジ天使。
ご感想お待ちしております。